NOVEL REVIEW
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04/09 『ダーク・フロンティア・ブルース2』 著者:市川丈夫/富士見ファンタジア文庫
04/08 『ダーク・フロンティア・ブルース』 著者:市川丈夫/富士見ファンタジア文庫
04/07 『夕なぎの街 十八番街の迷い猫』 著者:渡辺まさき/富士見ファンタジア文庫
04/06 『電詩都市DT <上>』 著者:川上稔/電撃文庫
04/04 『Missing4 首くくりの物語・完結編』 著者:甲田学人/電撃文庫
04/03 『Missing3 首くくりの物語』 著者:甲田学人/電撃文庫
04/01 『アリソン』 著者:時雨沢恵一/電撃文庫


2002/04/09(火)ダーク・フロンティア・ブルース2

(刊行年月 H13.08)★★★ [著者:市川丈夫/イラスト:ぽぽるちゃ/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]  前巻読んで今回に期待を寄せてたのは、あまりジャスティスとライオットの内情とか抱 えてるものなどが描かれなかったので、キャラクターの抱いてる気持ちや心理面などの描 写。で、そこから二人がどう考えて動くか、それに沿ってストーリーを展開させて欲しか ったのですが……どうしても用意された話にジャスティスとライオットをただ宛がってい るだけという印象は今回も拭い切れませんでした。  他の登場人物達――ロエルやハヤテやパウザーやレイズなど、作中で二人が関わってい る陥落寸前の地下鉱山都市ワイマールの人達との触れ合いや共闘シーンなどはとてもうま いと思うんですが、前巻同様ジャスティスとライオット自身についての事が控え目なので、 主人公達の深い所が見えてこなくてキャラクターの掘り下げがちと足らないかな〜と感じ てしまいます。特に二人がどこで出会ってどうして旅を共に続けてるかってのは凄く知り たい事で、2巻目だし少しはそういうエピソードもあって欲しかったんですけど……。  邪神群との戦闘シーンはこれでもかって程盛り込まれてましたが、その辺の描写はまあ まあなのでダレる事はなかったし、前述の通り敵に包囲網が敷かれた滅亡寸前の都市を、 それでも希望を持って死守しようとする人達とジャスティスとライオットの触れ合いはよ く描けていたなと思いました。ライオットの過去の事は前回思わせ振りに断片的な描写し てたわりに今回全く語られなかったのが不満ではあったけど、ジャスティスの邪宗紋につ いて少しずつ見え始めてきたのは良かったかな? その街や村などの事件に関わり出会い と別れを繰り返し続ける巡礼の旅なので、固定キャラは今の所ジャスティスとライオット だけのようですが、それだけに二人のもっと深い部分を見せる事が必要なんではないかな という気がします。その辺はまた次巻に期待したい。  既刊感想:
2002/04/08(月)ダーク・フロンティア・ブルース
(刊行年月 H12.12)★★★☆ [著者:市川丈夫/イラスト:ぽぽるちゃ/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]  かつて八つの大陸から成り立っていた創世神アイオロスの造りし惑星は、創世神が誤っ て産み落とした原罪者、邪神帝ルシフェルの手により大激突が引き起こされ巨大な一つの 惑星に融合する。創世神は邪神帝と数億の邪神群らに暗黒の彼方へと放逐され、世界は太 陽の力を失い邪神が闊歩する絶望と暗黒の時代を迎えた。それが《古代災厄》と呼ばれる 終末。そうして一つになった《新大陸》――フロンティアと呼ばれる世界。  そんな絶望が支配する世界で巡礼の旅を続ける、邪神群を駆逐する役割を担い人々から 信頼と敬意の念で敬われている存在である『聖戦官』の少年ジャスティスと、脳以外の全 身に武器を内蔵させ人工化された身体を持つ『戦鎧鬼』と呼ばれる人造人間の少女ライオ ットの物語。  正統派ファンタジーという言葉が頭に浮かんだのですが、まず世界設定ありきな部分に 強く惹かれる物語。そこに根強く抵抗しながら生きる人達、つまりキャラクターをはめ込 んでゆく構築でしょうかね。突飛な事や目新しい事をやってるわけじゃないんだけど、と にかく読んでいて異世界ファンタジーという世界観にどっぷり浸れました。  しかし今回はシリーズ第1巻て事で顔見せ的意味合いがあるのかどうか、二人が一緒に 組んで行動してる関係とか巡礼の旅の目的とか、それからライオットの過去や聖戦官であ りながら駆逐すべき存在である邪宗紋を抱くジャスティスの事……などなど知りたい事が 殆ど伏せられていたので、ジャスティスとライオットをただ単に事件に絡ませただけとい う印象で終わってしまったのは惜しかったかなと。もっとも、この辺は次巻以降で徐々に 明かされてゆくと思いますが。さり気なく見せるジャスティスとライオットの互いが互い を気遣う気持ちが絆の強さを示している描写はとても良かったです。だからこそ二人の出 会いの切っ掛けとかが結構気になったりしてるのですが(^^;)。
2002/04/07(日)夕なぎの街 十八番街の迷い猫
(刊行年月 H14.03)★★★ [著者:渡辺まさき/イラスト:山田秀樹/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]  第十三回ファンタジア長編小説大賞最終選考作品。  明治時代の東京を参考にしながら時代背景に中世ヨーロッパの流れを汲んでいる、和洋 織り交ざった不思議でどこか懐かしさを感じさせる世界観。イメージとしては下町の路地 裏――穴場的位置に存在する居酒屋『夕凪』で働く錬金術師を目指す少年コウが、ある日 店前に行き倒れていた少女マイカと出会う所から物語は始まります。  何と言っても昔懐かしの街並みに人情味溢れる路地裏の小さな居酒屋、これらのまった りとした雰囲気が作中のあちこちで効いていて良い味出してます。ただ、だからこそ居酒 屋での客との関わりから発展するエピソードなどがメインになるのかなと期待してたので すが、それとは違う方向へ行ってしまったのは少々不満というか拍子抜けというか……。  キャラクターにしても、目的に対して衝き動かすような確固たる信念があまり感じられ ないので、大幅に手直しされたとはいえまだまだ描写が弱いという印象。  伏線が張ってあっても、財務卿と兵部卿の対立をメインに立てるには背後関係の描写と マナの出番が不足気味だし、マイカの秘密をメインに持ってこようとしても、やはり途中 に挿入して盛り上げるべき関連するエピソードが全然足りないような気がしました。  逆に余分に感じたのが召喚術の儀式とか港湾地区でのドンパチ騒ぎとか。両方とも伏線 として終盤の展開には必要な描写でしたが、特に港湾地区の方は一章まるまる使うほどだ ったかなぁと考えると少々首を傾げてしまったりも。  それでも終盤のマイカの秘密が明かされた辺りからは俄然盛り上がりを見せて面白さも 感じられたし、自動人形であるサヨリに関しては充分なインパクトがあって良かったと思 います。雰囲気はもの凄くいいだけに、細かい所でイマイチさが目立って相殺されてしま っているのが勿体無く感じました。もし続編出るとしたら、居酒屋風景をもっと見せてそ こからエピソードを導き出すような展開を期待したい所。
2002/04/06(土)電詩都市DT <上>
(刊行年月 H14.03)★★☆ [著者:川上稔/イラスト:さとやす/メディアワークス 電撃文庫]  前々から興味あって初めて手に取って読んでみた都市シリーズですが、各所の書評・感 想を読んで感じていた通り、かなーり独特で難解で癖のある世界設定と文章形式。どうも DTはこれまでのシリーズと比べても特殊な文章形式が顕著に表れていたようで、なんか 読了しても理解し切れなかった部分があって、まるで強敵と相対して見事に返り討ちに合 ってしまったような気分でした。普段仕事ある日で400頁の小説を読んでも余裕で1日 で読了出来ると言うに、これは2日掛かりになってしまったしなぁ(笑)。  ストーリーのベースはあっても、それを読むよりDT(デトロイド)という都市の世界 観を読み解きながら楽しむ方がこの作品にはあっているのかも。まず世界観を頭に叩き込 んで読み進め、再読する際にストーリーを一緒に楽しむ……てな具合かな?  DTとは全ての物質が電詩情報として変換され再構築された都市だそうな。これだと私 なんかは何の事やらとなってしまったのですが、ネットの世界でとりわけオンラインゲー ムがそれに近いだろうかと感じました。《言定議状態》とは会話と思考の文字しか表示さ れない状態で視覚では他人の姿も周りの景色も見えず、対して《言解議状態》とは現実世 界と同じく人も景色も状況も全てが視覚で理解できる状態の事。DTではこの二つの状態 を切り替えながら日々の生活を送っている。前者を『チャットをしている状態』、後者を 『オンラインゲームの世界を見ている状態』に置き換えると分かり易いんではないかなと。  主人公・青江正造は、師匠殺しの重犯罪者アルゴを追って電詩都市DTに潜入し、以前 DTを崩壊させた神の降臨・神触実験を三度引き起こそうとする行為を阻止すべく、かつ ての後輩・優緒と共に立ち向かうという展開。とは言っても「もう一度読まなきゃ分から ん」ってのが正直な所ですが(^^;)、多分下巻を読めばもう少し評価も上方修正される かと思います。かなり難解ながら他には絶対真似の出来ない、圧倒的で緻密かつ大胆な世 界設定に関してはもう見事としか言い様がないです。
2002/04/04(木)Missing4 首くくりの物語・完結編
(刊行年月 H14.03)★★★★ [著者:甲田学人/イラスト:翠川しん/メディアワークス 電撃文庫]  次々と首吊り自殺を誘う昔話『奈良梨取考』に隠された真の意味が、空目達によって解 き明かれる首くくりの物語完結編。今回は死者蘇生の魔術儀式が絡んでいて、『奈良梨取 考』の著者・大迫栄一郎自らが、自らの為に実に二十年も前から仕掛けていたもの。  “異存在”事やそれが怪談や昔話から感染して憑かれてしまうという事などを踏まえて いないと、真相の語りが難解に感じたり訳が分からなかったりするかも知れないけど、こ の物語の文章表現が私の嗜好にしっかりハマっているのか、毎度の事ながら空目が真実を 語る部分にぐいぐい引き込まれてしまいました(そんなにホラーやオカルト方面が好きな わけでも興味あるわけでもないんだけど……)。3巻で描かれた『奈良梨取考』と首吊り 死体を繋ぐ伏線もなるほどなと納得の行く解かれ方で良かったです。  また前後編と長丁場だけあって文芸部メンバーの性格も、よりしっかり表れていて段々 こなれてきたかなという印象でした。視点が終始あちこちに移動してるのがやや散漫で構 成的に難ありなのは毎回感じる事であっても、それ以上にキャラクターの動作や心理が丁 寧に万遍なく書けているなと思わせてくれる方向に作用している所が、不満点を補って余 りある良さなのではないかなと。特に今回はごく普通の女の子に見えていた稜子の追い詰 められた時にみせた心の本質とか、彼女と武巳のぎくしゃくした関係とかがよく書けてた と思います(それだけに稜子の告白にリセットがかかってしまったのは惜しいなぁ。武巳 の方が覚えていて稜子に対してどぎまぎしてるのは見てて楽しいけど(笑))。  空目、亜紀、稜子と毎回誰かが異存在に飲み込まれそうな恐怖と危機に晒されている事 から、おそらく残る俊也と武巳も次巻以降で巻き込まれる可能性ありかなと予想してます が……どうだろうか? また詠子も今回ラストの行動で更に空目達と大きく関わるような 感じがしたので、未だ不明瞭な彼女と神野の言動を含め続きが楽しみです(しかしいつも この二人の語りは抽象的過ぎて理解し辛いってのがネックなんだよなぁ(^^;))。  既刊感想:
2002/04/03(水)Missing3 首くくりの物語
(刊行年月 H14.01)★★★★ [著者:甲田学人/イラスト:翠川しん/メディアワークス 電撃文庫]  いや「山梨とり」とは懐かしい。病気の母親の頼みで三人兄弟が長男から順に山梨を取 りにいくという昔話。長男は途中で会った老婆の忠告を無視したばかりに山梨のなる沼の 主に食べられ、帰らない長男を追って続く次男も同じように言う事を聴かず沼の主に食べ られてしまう。しかし最後に向かった利口な三男だけは老婆の言う事を聞いて山梨を取り、 うっかり呼び込んでしまった沼の主を老婆から受け取っていた短刀で切り裂いてその腹の 中から食べられた長男と次男を助ける。三人揃って母親の元に戻り山梨を食べさせ、みる みる元気になった母親と息子達はそれから楽しく暮しましたとさ……というお話。知って る人は笹の葉が鳴らす「行けっちゃがさがさ」「行くなっちゃがさがさ」という言葉から 「ああ、あれの事か」ピンとくるかな。タイトルは「山梨とり」に限らず色々似たような ものがあるようです(私が昔読んだのは確か平仮名で“やまなし”だったし)。  その山梨取りの本――作中では『奈良梨取考』とありますが、聖創学院大学図書館で文 芸部メンバー日下部稜子が借りた本の中に、知らず知らずの内に“禁帯出Wであるそれが 紛れ込んでいた事から始まり、読んでしまった人達が揃って首吊り自殺してしまったとい う一致から、昔話と首吊り自殺が“異存在”を呼び起こすものとして何らかの繋がりがあ るとして、“機関”の芳賀から半ば脅迫的に依頼を受けた空目達が原因解明の為に動き出 す……という展開なのですが、今回上下巻に分かれている前半部分で謎の提示と奔走する 文芸部メンバー、そして迫る首吊りの幻影の恐怖などがメインとして描かれてます。  前回と違うのは空目1人が知識のひけらかしで存在感ある訳じゃなく、文芸部メンバー が様々な心境や思惑ながら空目をサポートする形で「協力して物事に取り組んでる」とい うのがよく表れていた事。ちょっと空目の印象が変わったかなと思ったのは、常に無表情 ・無反応ながらよく見ると微妙な変化は顕著に出ていたり、案外仲間達の事を考えてるな と感じさせられるシーンが結構あったから。前巻までもそういうのは描かれてたんだけど、 空目の異質な知識量からの語りが圧倒していて印象薄かったかなという気がします。  『奈良梨取考』が何故首吊り自殺を誘発するのかについてや『末子成功譚』の関わりな どの謎は、まだ解かれぬまま下巻に持ち越しなので早急に読みたい。毎回書かれてる序文 の著者・大迫栄一郎が大きく関わっている所も見物であり、傍観者あるいは助言者と化し て影で全てを知ってる風な神野と詠子がどう関わるかなども楽しみな所。  それから余談ですが、芳賀が空目に語ってた「読書は一種の催眠的効果を持っていて、 文字を追うという行為が時間を忘れて没入させ催眠誘導を引き起こす」という部分は妙に 共感を覚えて納得(笑)。没頭して時間を忘れるというのはよくあるからなぁ。  既刊感想:
2002/04/01(月)アリソン
(刊行年月 H14.03)★★★☆ [著者:時雨沢恵一/イラスト:黒星紅白/メディアワークス 電撃文庫]  大陸の真中に流れるルトニ大河を挟んで、争いを続ける東のロクシアーヌク連邦(ロク シェ)と西のべゼル・イルトア連合(スー・ベー・イル)の二国間を舞台に、空軍飛行士 アリソンと学生ヴィルの幼なじみが繰り広げるひと夏の冒険活劇ストーリー。  『キノの旅』の毒を抜いたらこんな感じに仕上がるのかなぁ、と内容は想像巡らしてた 通りの印象。穏やかで静かで淡い描写は著者の作風がよく出ていて、サイドカーでの追撃 や飛行機での空中戦とか動きのあるシーンでは少々物足りなさを感じてしまうものの、2 人でサイドカーに乗って穏やかな風景を眺めたり飛行機から広大な景色を望んだり……と 自然を相手にした描写はその淡白な表現から雰囲気がとてもよく出てるなと感じました。  会話シーンもお手のもので結構淡々と進んでるにもかかわらず飽きがこなくて、アリソ ンとヴィルとの会話にしても2人と老人との会話にしても、読んでる内にいつの間にか会 話の内容に引き込まれてしまっていたり。  アリソン側から見ればヴィルとの関係がしっかり文章に表れていて、彼女が彼をとても 大事に思ってるのがよく伝わってくる。感覚的には恋人ってのとはちょっと違うかな? やっぱり『幼なじみ』という言葉がこの2人の関係に一番合ってるような気がします。   ヴィル側からだと鈍感なわけじゃないんだろうけど、アリソンの気持ちが分かっていて しっかり受け留めていてもあまり物言わない性格だから、そういう感情はほとんど表立っ ては出ていない。その分彼は行動で示していて、アリソンに振り回されてばかりでもちゃ んといつでもんと彼女に付き合って共に歩いている。後ろから危なっかしい姿を見守るよ うな感じでよく彼女の気持ちを把握して彼女が見えてるなと思いました。    世界観からこの物語はまだ広がりを見せる事も出来そうで、ラディアに借りた軍服を返 しに行く事やルトニ河に橋が架かって二国間の新たな交流を背景にした2人の近未来の様 子や逆に過去の幼少時代の話など、あまり語られてなかった部分を読んでみたいかなと。


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