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11/20 『真・女神転生 廃墟の中のジン』 著者:吉村夜/富士見ミステリー文庫
11/19 『クロスカディア3 風ワタル地ノ放浪者タチ』 著者:神坂一/富士見ファンタジア文庫
11/18 『六王国の戦火 アーヴィン英雄伝』 著者:北沢慶/富士見ファンタジア文庫
11/17 『パートタイムプリンセス』 著者:神代創/MF文庫J
11/16 『超重神グラヴィオン1』 著者:志茂文彦/MF文庫J
11/15 『アニレオン!2 ご主人さまは改造人間』 著者:葛西伸哉/ファミ通文庫
11/14 『風姫 地を護る者』 著者:七尾あきら/ファミ通文庫
11/13 『魔王、始めました ――覇を唱えればサドンデス』 著者:浅沼広太/スーパーダッシュ文庫
11/12 『愚者のエンドロール』 著者:米澤穂信/角川スニーカー文庫
11/11 『氷菓』 著者:米澤穂信/角川スニーカー文庫
2002/11/20(水)真・女神転生 廃墟の中のジン
(刊行年月 H13.08)★★★★
[著者:吉村夜/イラスト:金子一馬&金田榮路/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】
真・女神転生の世界観を用いた小説オリジナルのストーリー。メガテンって言ったら私
がまともにプレイしたのってファミコン時代のT、IIとPSのペルソナくらい。『真』は
全く手付かずで、だからどのくらいゲームの世界観をなぞってるかってのは正直よく分か
らないのですが、懐かしい言葉の数々の助けを借りて雰囲気に浸って読めました。
ロウ、カオス、メシア教、ガイア教、オルトロス、魔貨、マグネタイト、邪教の館、悪
魔合体、仲魔……などの辺りから。メガテンにはお馴染みであろうものが多いのかなと思
い返しつつ、逆に懐かしさから新鮮味みたいなものもあったという印象。あとがきに「メ
ガテン知らない人にはプレイしたいと思って欲しい」と書かれてる著者の意図、少なくと
も『真』のシリーズを知らない私には効果があったようです。
小説の物語として最初に想像してたのは、ゲームはこれがメインだからどうしてもダン
ジョン探索時のイベントや悪魔との交渉もしくは仲魔になってからの関わりをメインに描
いてゆくんだろうなと。でもそれらもあったけれど本質は違っていて、舞台は主に荒廃し
た地上世界で蔓延る悪魔どもの恐怖に晒されながら、それでも強くなって生き抜きたいと
願う少年少女達の物語。結構人間と悪魔との割り切った関係ってイメージがあったせいか、
ここまで辛く苦しい人間達の生き様が描かれてるとは思ってなかったです。
主人公・ジンがリーダーとして『ク・リトル・リトル』という戦災孤児だけの組織を率
いて成長してゆく姿を軸に、組織内での友情、信頼、恋愛などの関係や時には意見対立で
衝突しつつ着実に絆を深めてゆく辺りなどは本当によく描けてるなと感じました。徐々に
徐々に自らの未来を削りつつのジンの行動や心情も痛々しかったけどうまいなと。
悪魔について交渉の様子や仲魔になってから召喚して戦わせるシーンがもっと見たかっ
たとか、ラストバトルがあっさりだったのでもうちょい盛り上げて欲しかったとか、逆に
もの足りなかったのはこんな所。ただそれを差し引いても充分楽しんで読めた作品。ラス
トシーンが『転生』を意味してるなら……関連性のありそうな次巻のIIも楽しみです。
2002/11/19(火)クロスカディア3 風ワタル地ノ放浪者タチ
(刊行年月 H14.10)★★★★
[著者:神坂一/イラスト:谷口ヨシタカ/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】
視界が外の世界に広がりを見せてきたので、ようやく物語が動き始めたかなーという印
象。わりと分かり易い展開でさらっと流し読めるんだけど中身が単調って事はなくて、ち
ょっとしたものから核心に触れていそうなものまで次に繋ぐ為の伏線を読み手に意識させ
るよう組み立てられている。その中でキャラ同士のお馬鹿な掛け合いも面白おかしく描く
辺りから、やっぱり手馴れてるよな〜ってうまさを感じさせられました。
今回は少なくとも「メイって一体何なんだよ?」というシンドレッド君の苛立ちと不満
の声はあまり聞こえなかったかな? メイの秘密が剥がれてゆくのが当面の盛り上がり要
素だから、まだまだ全然スッキリしないながら片鱗だけでも見せてくれた事で前巻より大
分前進したと思う。そうすると今度は、ディーヴァとの戦闘で役に立たない自分と向き合
って「俺って何で今ここに居るんだ?」となってしまうシンドレッド君。確かに言われて
みりゃそうだよなぁと、答えを探してみて結局メイの脅迫によって無理矢理付き合わされ
たって事になる?(笑) でもそれだけじゃないってのは多分シン自身も何となく気付い
ていて、そこを明確にさせようとする過程が彼の成長に繋がる……かもしれないというの
は勝手な予測ですが。これからシンのそういう部分を見てみたいって希望でしょうか。
ヒューム、ドラグノ、ディーヴァの種族や勢力関係なんてのも徐々に明確になって、と
りわけ今回はディーヴァ側――色んな思惑が見え隠れしたり、彼らがシン達と相対する際
の行動や心情をくっきりはっきりしっかり描いていた所などが良かったです。
こちらに正体不明者(当然メイの事)抱えてたり、名前出なかったけどディーヴァ側で
も助力してくれるというよりメイを助ける存在があったり、ドラグノはどんな出方を見せ
るのか分からないし……って所からキャラクターあるいは種族の相関関係がどう変化して
ゆくのかというのも楽しみだったりします。個人的には現在シン達にとって敵であるディ
ーヴァって種族が気になるし気に入ってるので、痛手を負いながらも健在であるセゼノー
ルやソルディマなど、彼らの存在を魅力的に描いて欲しい。
……あとはまあ毎度の事ですが、この人のあとがきのセンスは抜群だと思いました(笑)。
既刊感想:1、2
2002/11/18(月)六王国の戦火 アーヴィン英雄伝
(刊行年月 H14.10)★★★★☆
[著者:北沢慶(原案:安田均)/イラスト:堤利一郎/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】
モンスター・コレクション・トレーディング・カードゲーム(モンコレTCG)の中の
カードセット『六王国の戦火』を題材とした物語。同じモンコレが元になってる『ホーリ
ィの手記』と同様、フレーバー・テキスト(カードの隙間を埋める短いエピソード)のキ
ャラクター達がこの物語に登場しています(と言っても自分で実際カードを買ってみた事
がないので、どんな風に描かれてるのかは分からないのですが)。
語り継がれる六王国時代の救世主・アーヴィンの英雄伝……というのは実は120%美
談であって、本当は詐欺同然に全く違う裏側にある真のアーヴィンの姿を描いた物語。い
や目覚しい成長を見せる終盤だったらいざ知らず、冒頭の頃のアーヴィンの本質が語られ
たら誰もが「英雄なんて詐欺じゃねーかバカヤロウ!」となって、純真無垢な子供達の夢
や憧れが木っ端微塵に打ち砕かれる事請け合いでしょう(笑)。
でも己の武器はハッタリと逃げ足と強運というどうしようもなく逃げの一手なアーヴィ
ンが、オークの奴隷・フィーアを助けた事を切っ掛けに、背負うものの重圧と責任を実感
しながら少しずつ少しずつ変わりゆく姿を描いた内容が非常に良かったです。
剣や召喚術を扱う技能を持ちながら、常に“如何に相手と戦わずして状況を打破するか”
を念頭に置いた行動こそアーヴィンらしさの象徴とも言えるのかも。彼は武力にモノを言
わせるんじゃなくて巧妙に立ち回って避ける事で好機を得る……これこそがこの作品の醍
醐味であって展開や描写もうまく面白いと感じられた部分ではないかなと。
アーヴィンとフィーアの触れ合いなんかも凄くいいなーって呟きが思わず漏れてしまっ
たんだけれど、大体の未来の姿はエピローグで描かれてるんですよね。ニナの「どこがい
いんだか、こんなホラ話」って気持ちも良く分かる(笑)。ただ、語られた英雄伝はまだ
始まったばかりって感じだったので、今後どう展開してゆくのか期待したいです。
2002/11/17(日)パートタイムプリンセス
(刊行年月 2002.09)★★★★
[著者:神代創/イラスト:山田秋太郎/メディアファクトリー MF文庫J]→【bk1】
わりと類型的になりがちな現実世界からの異世界転移を題材とした中で、これだけ独自
の発想を持ち込んで展開させる作品ってのは久々に読んだ気がしました。いわゆる“他に
例を見ない”というやつで、異世界転移というジャンルで括るにはちょっと変則的なんだ
けれど、現実世界の主人公・拓也と異世界の王女・リアンの精神が時空を超えて入れ替わ
ってしまうというもの。だから異世界に飛ばされたと言ってもリアンの身体で拓也の精神
であって(逆もまた然り)、異世界転移と精神転換を結び付けてしまう辺りに非常に惹か
れるものがあって面白かったです。
違う世界で入れ替わってるわけだから交わる機会も存在せず、唯一意思疎通を図る手段
というのが交換日記にも似た筆談のやり取り。お互い相手の姿を想像するしかないのに、
筆談を重ねる度に確実に心を許し合う存在となってゆく過程が実によく描けているなぁと。
その上で乗っかってる“主人公とヒロインはたった一度さえも出会わない”事実を強く印
象に焼き付けるうまさが感じられました。
ただ、いい部分が際立ってる反面で惜しいなって部分もあったわけですが、極端に言う
なら上記以外の全て……とまではいかないけど、拓也とリアンの精神転換や心の通い合い
を描く事に重きを置いている為、入れ替わった二人の行動からそれぞれの世界の様子や他
の人達との交流などがもっと欲しかった所など(まあリアンの世界側が予断を許さない状
況だったので仕方ないんだけど)。
例えば何故こうなってしまったかの原因――ゴルアの禁呪についてもっと深く突っ込ん
で欲しかったとか、リアン(の中の拓也)側の展開が少々急ぎ過ぎな気がしたので途中で
終わってもいいから続きにしてじっくり見せて欲しかったとか、リアンが拓也の身体で現
実世界にいる時の様子をもっと見たかったとか。個人的にこの結末なら下手に続かない方
がいいかなと思う。けど足りなかったものを見たいという気持ちもあるので微妙だなぁ。
2002/11/16(土)超重神グラヴィオン1
(刊行年月 2002.10)★★★
[著者:志茂文彦/原作:大張正己・赤松和光・GONZO/カバーイラスト:大張正己・うのまこと
/口絵イラスト:うのまこと・わたなべくにとし・鈴木寿枝/本文イラスト:みうらたけひろ
/メディアファクトリー MF文庫J]→【bk1】
同名アニメの小説版。アニメの場合、グラヴィオンの登場も謎のエイリアン・ゼラバイ
アの存在もサンドマンの素性もレイヴンの仮面もグラヴィオンに搭乗するグランナイツの
面々も古城で奉仕する1000人だか2000人だかのメイドさん達も、まず設定などは
ほとんど出るだけ出して印象付けてはくれるんだけど何の説明もしてくれない。グラヴィ
オンってそもそも何? いつどこで誰がどのようにして開発したの? という根本的な部
分から登場キャラの素性に至るまで結構疑問符だらけだったもんで、求む回答がもしかし
たら得られるかもしれない小説版に手を出してみたという具合です。が、結局アニメの忠
実な文章移植だったのでサンドマン様は何一つ教えちゃくれませんでした(笑)。
同時期開始のアニメを追って文章で見せる事を意識した構成か、1章から4章がそのま
まアニメの1話から4話までのエピソードとなってます。横道逸れた外伝的なシーンもほ
とんどなくて、内容は悪くないんだけどやっぱりアニメを先に見てると楽しめる要素が少
なくなってしまうかなぁという印象。大きな相違点は3章でアニメではあったゼラバイア
との戦闘が省略されてた事くらい。ただこれは、頻繁にグラヴィオンのアクションシーン
を入れられるよりは省く事でスッキリ引き締まった感じでしたが。あとはエイジが古城に
潜入する前のプロローグシーンだけは、アニメになかったものだったので良かったかな。
見せ場であるグラヴィオンの合体や戦闘シーンなどは、どうしても伝わってくる迫力っ
てのが文章だと映像に及ばない部分もあるけれど、その分はキャラクターの行動心理の細
かな描写を見せてくれる事でカバーして欲しい所。今回はその辺ももうちょっとかなーと
いう感じだったので。あとはもっと『燃え』が欲しい。『萌え』ばかりじゃなくて(笑)。
2002/11/15(金)アニレオン!2 ご主人さまは改造人間
(刊行年月 2002.10)★★★★
[著者:葛西伸哉/イラスト:オダワラハコネ/エンターブレイン ファミ通文庫]→【bk1】
もうバカバカしいまでのバカ小説……ってのがまあこのシリーズに対しての最大限の賛
辞ですよ、いやホントに。前巻を読了した感じだといかにも一発芸っぽくて続刊はないか
な〜と思ってたのですが、百合帝国の残党約2名がちゃっかり再登場してる辺りで「続き
を意識してやってるんだなー」と。あとがきから3巻も決定してるようだし。
何故かどうしてか何の脈絡もなく海からメイドさんが出てくるんだよ? ってのも含め
て色々激しく突っ込みたくなる箇所が多かったけど。でもこの作品に至っては、んな事言
っちゃいけないし言っても無駄だし意味ないし、それはちょっとどうかと突っ込んでみて
も滅茶苦茶な内容に跳ね返されるか無視されるのがオチというもの。登場キャラ達のやっ
てる事に読み手の意見介入が通用しないとも取れるだろうか、それもまた凄いよなーと思
いつつ結局言いたいのは頭カラッポにして読むのが最良なのかもしれないと。いちいち突
っ込みなんぞ入れてたら全然ページが進まなくなってしまう事請け合いです(笑)。
もっとも、そこからハマってバカみたいに笑えるか、それとも100歩程引いてしまう
かはまた別問題なのですが。そこら辺極端に好き嫌いが出るかなって気もします。
今回はメインが百合隊からメイド隊に変わったせいか、ノーマルな恋愛要素が多少は回
復? 回復しなくても(むしろしない方が)面白いので別に構わないんだけれど、圭一と
メイド泉美の密室シーンは意外な組み合わせで、ちょっと惜しかったなーと思わず舌打ち
してしまいました。あとがきで「次はメガネっ娘かな?」とか言ってるので、流れ易い圭
一と泉美ってのもあるのかも。特撮オタクの極みである裕衣は、圭一がいくら気持ち向け
ても本人捻じ曲げて解釈しまくりなので正直どーでもいいですが(笑)。
一番報われないのは公彦だろうなぁ。それでも好きな人(圭一)に幸せになって欲しい
と思う所が他の女どもより余程健気で同情心を掻き立てられてしまう。報われないと言え
ば案外舞美もそうなのかな? お兄ちゃん萌えで自己中突っ走りしてる内はいいけど、圭
一には微塵もそんな気ないわけだし、もしも舞美が冷静に受け留めたら……と思うとまた
修羅場が待っていそうで。現状ではそんな展開になりそうもないけど、次が楽しみです。
既刊感想:1
2002/11/14(木)風姫 地を護る者
(刊行年月 2002.11)★★★☆
[著者:七尾あきら/イラスト:川島旅順/エンターブレイン ファミ通文庫]→【bk1】
シリーズ第2巻。今回も読み手に確かな手応えとして伝わってくる、ちはやの心理描写
のうまさというのがしっかりと感じられました。やっぱり彼女自身が物語の大きな支えと
して際立ってるなと。ただ前巻での遠野絵美の死が原因で気持ちがどん底まで落ち込む事
になる為、苦悩と葛藤と迷走がひしめき合ってかなーり重く息詰まる状態なのですが。ど
うも純粋な強さと悩んでも持ち前の明るさ元気さで吹っ切ってしまえるだろうって印象が
深かったせいか、ここまで尾を引くとは正直意外だったかなぁ。
ちはやが苦悩して落ち込んで迷い続けて、ようやく立ち直り復帰を遂げるのが全体を通
しての一つの見所。そしてその過程で見せる桜子の心境の移ろいなんかも同じく見所の一
つ。桜子がちはやの気持ちに触れて感化されて、ちはやの為とは認めてないんだけど無意
識の内に人間を殺める事を躊躇ってしまうのは、その瞬間にどうしようもなくちはやを身
近に感じてしまうから。今回終盤まで二人が交わる事はほとんど無かったけど、だからな
のか最後に見せ付けられた深い絆にも似た関係が凄くいいなーと思わされました。
……しかしこれでもうお終いなのか〜?(^^;) 確かに綺麗にまとまったと言えばそ
うなんだけど、今回で完結って雰囲気じゃ全然ないんだよなぁ。むしろちはやと一樹が秘
密にしてた力とか桜子の正体など、日奈や望にバレても彼女たちは受け留めて受け入れて
くれて、本当の意味で皆が深く知り合えた所でさあこれからって感じだったのに……残念
だけど、きっちりケリをつけて終わらせてくれたので良かったと思うべきなのかな。
既刊感想:天を継ぐ者
2002/11/13(水)魔王、始めました ――覇を唱えればサドンデス
(刊行年月 2002.10)★★★
[著者:浅沼広太/イラスト:なごやこーちん/集英社 スーパーダッシュ文庫]→【bk1】
魔王候補な主人公のファンタジーRPG風味な内容で、お供の女の子達も必然の如く主
人公に好意を抱きアブナイ妄想を巡らせ、属性もメイドにお姉さまに獣娘にクールな娘に
……と揃ってます(病弱と眼鏡っ娘と妹系辺りは居ないので読む人によってはマイナスポ
イントかもしれないけれど)。所々に挿入されてる紛らわしいエロ描写も、こういう美少
女キャラと主人公との絡みの流れから必要なものではあるのかなと妙な説得力を感じてし
まいました。あとは単純に著者の趣味だろか?(笑)
こんなしょーもない動機抱えてるへなちょこ主人公じゃ、一生費やしても魔王争奪レー
スの本戦舞台にすら上がれやしないだろうなぁ。と思わせといて、へっぽこ野郎が危機に
陥ると秘めたる力を見せつけるって展開も「ああ、やっぱりそうきたか」とお約束過ぎな
展開には逆に感心してしまいましたが(←誉め言葉のつもり)。ただ、ソーマが能力を隠
している所にちゃんと納得のゆく意味を持たせてるのには素直にうまいなと。普段ぼけぼ
けな奴からは想像し難いけど、この事柄から仲間というか部下というか従者というか……
な関係の女の子達を本当に大事に思ってるのがよく分かったので。
しかしこの作品はシリーズものって想定にあるのか、その辺りが微妙かも。まず次のス
テップに進む為の1000ポイント貯める事からして既に絶望的に無理っぽいし(笑)。
ありがちだけどキャラは結構好きだし描写も悪くないと思うので、続くとしたら上って
ゆくより躓いてコケた方が雰囲気としては合いそうかな? それにソーマの秘められた力
の謎を絡めて描いてくれたら面白くなってゆくのかもしれない。
2002/11/12(火)愚者のエンドロール
(刊行年月 H14.08)★★★★☆
[著者:米澤穂信/イラスト:高野音彦/角川書店 角川スニーカー文庫・スニーカーミステリ倶楽部]→【bk1】
タイトルに関連性がないのとイラスト変更とで分かりにくいけど、舞台と登場キャラク
ターは一緒って事で紛れもなく『氷菓』の続編に当たる作品。あとがきに『毒入りチョコ
レート事件』と『探偵映画』という作品が、この『愚者のエンドロール』を組み立てる大
元になってると触れられてますが、私はどちらも未読なのでその辺は意識も比較も何も出
来なかったのですよね。前者からは一つの事柄に対して幾通りもの推理が展開されるとい
う点、後者からは未完のミステリ映画の結末を解くという点を参考にして組み込まれてる
らしい。ただ、そういうの知らないで取っ払って読んでみても、相手の推理に対して奉太
郎達が検討を重ねて突き詰めて真実へ近付いてゆく展開ってのは凄く面白かったです(逆
に比較対象を知らなかったから深く考えずに済んだのかもしれないけれど……)。
印象に残ったというのかしてやられたというのか、終盤に奉太郎が一度辿り着いた結末
を完膚なきまでに崩壊させた所からエピローグまでが特に。崩されてから逆転の一歩を踏
み込む奉太郎や、意図的に奉太郎を仕向けた入須先輩の真意が明かされる部分とか、溜め
込んだものほぼ全て納得のゆく決着をつけているのには本当にうまいな〜と唸らされまし
た。本郷真由の脚本の真意だけは曖昧だったけど想像はつくかな? 千反田は何となく分
かってるような気もするけど、奉太郎には多分……気付き難い類のものかも。
このシリーズ(と言って語弊はないと思う)のキャラクター、主に古典部の4人はそれ
ぞれ個性が際立っていて好きですね。今回省エネ奉太郎が省エネぶりをあまり見せずに、
結構労費しまくって自分自身の内面と向き合うシーンなども良かった。今後もこのメンバ
ーで続いて、ミステリの部分以上にキャラ同士の関係や心理面を見せて欲しいなぁ。
既刊感想:氷菓
2002/11/11(月)氷菓
(刊行年月 H13.11)★★★★
[著者:米澤穂信/イラスト:上杉久代/角川書店 角川スニーカー文庫・スニーカーミステリ倶楽部]→【bk1】
主人公であり物語の語り手でもある奉太郎を指して“省エネ気質”ってのはなかなかい
い表現だなぁ。もろに一人称の文体に表れてる雰囲気が凄く好きです。つまりそれは「や
らなくていいなら、やらない。やらなきゃならないなら、手短に」という精神。地味で淡
々とした語り口調なんだけど、じわりと胸に染みて効いてくるというのかな。高校の文化
祭が絡んでるから懐かしさという感覚があったかもしれないけど、やけに勿体振った言い
回しとか複雑に巡らしてく思考とかに強く引き込まれてしまいました。省エネ動作で蓄え
られたエネルギーは思考回路に流れてゆくんだろうなぁ奉太郎の場合。
自分にとって“無駄なく効率良く”を、最善の行為で示した結果で出来上がったのが省
エネなのだろうけど、でも消極的や無関心なのとはまたちょっと違うような気もする。少
なくとも古典部の過去を千反田達と追っている中ででは、流され気味ながら思考エネルギ
ーを消費しているようだし。自分の本質を認めたうえで他人の燃焼体質も認めつつ、無駄
な事はしないつもりでも、多分無意識の内に積極的に事を起こそうとしてる人達を気にし
てしまう。それは奉太郎に無いものだから興味が沸いてしまうのかどうか。彼の心理描写
って特にうまく描けていて面白いなと思いました。
学校生活――とりわけ部活動関連での些細な出来事が謎を含んで立ち塞がってるわけで
すが、最初は一章ずつ起こる小さな謎からメインの大きな謎へ発展させる構成も、例えば
「模擬店は禁止されてる」とか「格闘場の古さ」とか、さらりと流してしまいそうなさり
気ない描写が意外な場所の伏線となってるのもうまい。何より古典部の文集と作品のタイ
トルにもなってる『氷菓』……この物語の全てがこの言葉に集約されてると言っても過言
じゃない説得力のある真意にはただただ脱帽。
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