NOVEL REVIEW
<2002年11月[後半]>
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11/30 『ダーク・フロンティア・ブルース4』 著者:市川丈夫/富士見ファンタジア文庫
11/29 『西域剣士列伝 天山疾風記』 著者:松下寿治/富士見ファンタジア文庫
11/28 『機甲兵団J−PHOENIX“PFリップス隊” 恋する乙女の電撃作戦』 著者:唯野条太郎/富士見ファンタジア文庫
11/27 『ワイルドアームズ アドヴァンスドサード3』 著者:細江ひろみ/ファミ通文庫
11/26 『パーティーのその前に』 著者:久藤冬貴/コバルト文庫
11/25 『流血女神伝 砂の覇王9』 著者:須賀しのぶ/コバルト文庫
11/24 『Mr.サイレント2 自律世界の愛しい未来』 著者:早見裕司/富士見ミステリー文庫
11/23 『ルーク&レイリア 金の瞳の女神』 著者:葉山透/富士見ミステリー文庫
11/22 『真・女神転生if... 魔界のジン』 著者:吉村夜/富士見ミステリー文庫
11/21 『真・女神転生II 復活のジン』 著者:吉村夜/富士見ミステリー文庫


2002/11/30(土)ダーク・フロンティア・ブルース4

(刊行年月 H14.11)★★★☆ [著者:市川丈夫/イラスト:ぽぽるちゃ/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  ジャスティスとライオットが何かの切っ掛けで街もしくは村に立ち寄る→邪神群を滅す る聖戦官として歓迎される→街や村の人々と交流を深めたのにジャスティスの邪宗紋がバ レて追い出される→狙ったように襲い掛かってくる邪神群と死闘→遣り切れない想いを残 して旅は続く……毎度同じような展開のこのパターンはもういいって言ってるのに(笑)。  ただ今までかなり出し惜しみっぽい感じがしてた謎の明かし方は、ここに来てようやく 加速が掛かってきたようで。十二教皇の存在が表れ始めた事や、ジャスティスを狙おうと する邪神群にも意図があり執拗さも更に増してきた事。そして何よりジャスティスの目的 と一人の血盟者の存在が明確になりつつあると同時に、手探りのように漠然としていた距 離が急激に近付いた事は、これまで見られなかった物語の核心に迫る展開だったのでパタ ーンが一緒でも読み応えあって面白かった。この流れを待ってたんだよーという感じで。  今回はライオットの恋愛編。この物語の過去を振り返ってみると、邪神群との戦いは次 から次へと出てきても恋愛話ってのはそういや全然無かったなぁと新鮮な感じがしました。  ライオットがジャスティスに気遣いを見せるシーンは至る所にあるけれど、彼女が女と してのささやかな、でも決して自分には掴めない幸せを意識して異性を意識して……とい う心情は滅多に見せなかっただけに何となくいいな〜と。  個人的にはレギオスとの恋愛話よりも、ジャスティスがライオットに抱いてる気持ちの 方が印象に残りましたが。ストレートに好きってのとはちょっと違っていて、お互いの事 情を深く知り合ってるから想いも複雑といった所かな? 気持ちをハッキリ表に出すジャ スティスは多分初めて。そこから二人の強い絆を感じられたのが良かったです。  最後にひとつ気になった事……ライオットって徐々に役立たず戦力外キャラになってな いかと。今回は特にレギオスの強さが際立ってただけ、余計にライオットの力が及ばない 部分が目に付いてしまったので。次巻では奮起して強い姿を見せて欲しいなぁ。  既刊感想: 2002/11/29(金)西域剣士列伝 天山疾風記
(刊行年月 H14.11)★★★★ [著者:松下寿治/イラスト:杉浦た美/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  第十三回ファンタジア長編小説大賞<佳作>受賞作。  本編の主人公・陳湯は一言で言えば『食えない奴』。ただ飄々として掴み所がないんだ けれど、良い意味でも悪い意味でも気にせずにはいられない存在とも言えるのかな。  陳湯の言葉や行動には至る所で強く惹き付けられてしまって目が離せない。絶体絶命の 状態でも普段通りの軽口を叩けてしまう図太い神経から『ああこんな場面でもこいつは大 丈夫だろうな、しぶとく生き残るんだろうな』と確信めいたものを感じさせてくれる…… 凄く好きですねこういう奴。  こんな風に出逢った直後から急速に惹かれてくってのは、どこか星星(烏孫公主)が陳 湯を想う気持ちと通ずる部分があるのかなという気がします。最初に助けられたのも影響 してるだろうけど、大きな切っ掛けはおそらく捕われてから生死を賭けて陳湯と共に行動 するシーン。そんな星星の中で加速するようにその存在が大きくなってゆく過程と、陳湯 を想う気持ちなどはよく伝わってきたのでうまく描けてるなと思いました。  単于(しつ支の事だけど“しつ”が漢字で出ないので)は最初陳湯と剣を交えた時は比 類なき強さを誇っていたけれど、最後はその迫力・脅威が幾分劣っていたかという印象。 実はこの単于の強さの変化も星星が大きく関係しているのでは? ……というのは本当に 単なる個人的見解でしかないのですが。単于は星星を欲していて、それは好意というより 敬意を表するに値する存在という意味で側に置いておきたかった。その存在が手中にあっ た最初と二度目は陳湯を全く相手にしなかったけど、自らの手を離れてしまった状態での 最後は僅かに遅れを取った。それくらい単于にとっても星星は大きな存在だったのでは? だから最後の戦いの場にあそこを選び、そして陳湯にあんな戯れ言を投げ掛けたのでは? ……ってやっぱりちと考え過ぎで無理もあるか。まあ引っくり返せば単于と対峙した陳湯 の事となるわけで、彼にとっては紛れもなく星星が“勝利の女神”だったでしょうね。  あとは個人的に最初典型的なやられ役と思ってた伊奴毒が結構気に入ってしまった事か な。容姿は端麗と言い難いというよりその対極に位置してるけど(酷)、生き様ってのが 凄く格好いいなと感じさせられたから。思わぬ拾いものというやつです(酷酷)。 2002/11/28(木)機甲兵団J−PHOENIX“PFリップス隊” 恋する乙女の電撃作戦
(刊行年月 H14.11)★★★☆ [著者:唯野条太郎/原作:タカラ/原案:J.C.STAFF  キャラクター原案:石野聡/イラスト:いずみべる/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  PS2ゲーム『機甲兵団J−PHOENIX コバルト小隊篇』のメディアミックス展 開の一環で、本作はゲーム同梱OVA『PFリップス隊』の小説版となってます。  世界背景は共和国と帝国との戦争状態真っ只中という分かりやすいもので、お互い二足 歩行の人型兵器の開発と軍事投入を期に更なる戦争激化が進んでしまう。  そんな予断を許さぬ緊張感ありまくりな情勢だというのに、この中でやってる内容は緊 張感のカケラもありゃしません。人型兵器パンツァー・フレーム(PF)に搭乗する少女 4人のチーム『リップス隊』の面々が、みんなして憧れの英雄の追っ掛けやってるのがメ インだから緊張感求める方が無理ってもんかも知れませんが(笑)。  しかしながら大国同士の戦争を描くでもなければPF同士のぶつかり合いを描くでもな く、とにかくリップス隊の少女達の日常を描く事がハッキリとメインに置かれている作り は結構良いと思いました。下手に欲張ってあれこれ手を付けるよりは、テーマが“女の子 達が憧れの人を追っ掛ける”を描く事に絞られてる分だけ面白さが立ってます。  裏を返せば戦争やPFの事なんて雰囲気作りに取って付けたもいいところな描写でしか なかったわけだけれど、キャラクターに大きく比重が置かれている為そこら辺は設定にこ だわり持つ人じゃなければあまり気にはならないかなと。  リップス隊4人の過去から、どういう経緯で憧れの英雄<グレンリーダー>を追っ掛ける 事になったのか……というのを偏りなく均等に描いて現在の状況に挿入させてる所もなか なかうまい。ただ結局<グレンリーダー>ってどんな奴なんだ? って疑問だけは残ってし まったけど、これって続くのかどうかとなると微妙だなぁ。 2002/11/27(水)ワイルドアームズ アドヴァンスドサード3
(刊行年月 2002.11)★★★☆ [著者:細江ひろみ/カバーイラスト:大峡和歌子          /本文イラスト:笛吹りな/エンターブレイン ファミ通文庫]→【
bk1】  シリーズ完結。今回のエピソードは結局ゲームプレイせずに読んでの感想となりますが、 全3巻でまとめ上げるにはどうしても要所要所を簡潔にしないと収まらない……そういう ゲーム小説スタイルでシリーズ中一番割を食ってるのは、この最終巻だったんじゃないか なという気がしました。預言者達と復活したジークフリードとの最終決戦は悲しいくらい アッサリしてたし、ベアトリーチェとの絡みもそこまでの持っていき方や盛り上げ方は悪 くはないんだけど、簡単に倒され過ぎてるっていうのかなぁ。  これはシリーズ通して極力無駄な戦闘描写を抑えた結果だと思うんだけれど、ザコ〜中 ボス程度の前巻までならこれは非常に効果的だったのが物語の終局に入ると、逆に盛り上 がりとしてやや物足りなかったかも。まあ5〜6巻くらいでやってたら構成も変わってた だろうなと思うと、これはダメって言うより仕方ないかって気持ちの方が強いかな?   最初からのこの物語の語り手であり、全ての過程を結末まで導こうとした張本人でもあ るベアトリーチェの存在を描いた辺りは良かった。1巻では「誰?」とか「何言ってんだ ろ?」となってたけど、最後まで読んでもう一度最初から読み返すと「あ、なるほどな」 と思わせてくれる所が全部通しての大きな仕掛け(ただゲーム終わってる人は最初から語 り手がベアトリーチェと分かってしまうような気もするけど(^^;))。ベアトリーチェ の語りでありながら、彼女が彼女の夢を現実とする為に見下ろすように事象を操っている 様子などはなかなか面白い描き方で印象に残りました。  ファルガイア世界の過去を理想として、荒廃した現在の姿を変えようと己が犯した過ち を顧みず欲望の未来を掴もうとした預言者達。それを阻止しようと旅を続けながら自らの 想い出を追い求める渡り鳥達。そして夢を現実に変える事で想い出を生み出そうとした、 誰からもその存在を認識されない少女……全部ひっくるめて描きたかったのは、何度も耳 にした『いつか想い出となる物語』だろうかと。やはりヴァージニアの想い出に対する気 持ちってのが最も強く感じられたと思います。  既刊感想: 2002/11/26(火)パーティーのその前に
(刊行年月 2002.11)★★★☆ [著者:久藤冬貴/イラスト:唯月一/集英社 コバルト文庫]→【
bk1】  2002年度ロマン大賞佳作受賞『シラトリ』の改題作。今まで人様の情報頼りだった コバルトの自力開拓は多分これが初めて。書店でカバー折り返しのあらすじ見た→ちょっ と面白そうかも→新人作家さんへの期待も込みで→あとは全て直感任せ→で買いました。  学園青春ものとか学園恋愛ものとか学園ミステリーものとか学園コメディものとか、そ れらの要素をちょっとずつ集めて構築されているという印象。もしどれか一つに偏ってく れたら深く濃いものになっただろうなというのもあったけれど、本作の色んな要素を浅く 持ってきて広く見せるってのが中途半端で物足りなかったというわけでもない。個性的な キャラクターを動かして、多彩な要素を軽快なテンポで面白可笑しく描いてみせる……そ ういう所がうまいなーと思わせてくれて好感触でした。  著者の言葉では『学園パニック小説』って枠括りになってますが、確かに主人公の七実 有紀(ナナミ)は面白いほどころころと表情変えてはパニクりまくってる。最初ナナミの “ボーイズラブ漫画描き好きの同人オタ少女”って性質が知れた時はどうしようかと思っ たけれど(笑)、多少妄想癖があれど元気でよく動き喜怒哀楽がストレートに表れてしま う性格なんかは結構いいなーって感じでした。まあナナミ以外の他のメンバーは『生徒会 役員=デキる人達=美男美女揃い』って典型的パターンを辿っているけど、一癖も二癖も あって一筋縄じゃいかない奴らばかりなので、ただの日常の一コマであっても彼ら彼女ら のやり取りは面白い。何より著者が自らのキャラクター達を好きで楽しく書いてるよー、 ってのが作品を通してよく伝わって来た事……これが一番の良さではないかなと。 2002/11/25(月)流血女神伝 砂の覇王9
(刊行年月 2002.11)★★★★☆ [著者:須賀しのぶ/イラスト:船戸明里/集英社 コバルト文庫]→【
bk1】  長らく続いたエティカヤ編もこれにて終幕。砂の覇王となるのはバルアンか? それと もシャイハンか? エティカヤ編完結に相応しいこれまでの集大成といった感じの内容が 凄く良かったです。今回に関してはもう特定して誰が主役ってのはなかったですね。逆に 言えばスポットライトはカリエだけを照らしてたわけではなく、誰もが主役になり得る存 在感を持っていた。それを多数登場するキャラクター達に万遍なく与えている描き方とい うのが非常にうまい……ってのは毎回思って書いてる事かもしれないけれど、一人二人じ ゃなくて全ての人達が深く強く印象に残る。そういう描き方ってのがやっぱりうまいなぁ と唸らされてしまいます。  内容は特に今回どこを取ってもネタバレになりそなのでここから反転。  主役を立てるならば、エティカヤの歴史に刻まれしマヤライ・ヤガを巡る最後の攻防を 描いた事実そのものだったんじゃないかなと。登場人物達は主役である戦いを引き立てる 小道具のようなものだとかね(ちと言い方があれだけど)。  最後の戦いは武力戦よりも知略戦という感覚の方が強かったかな? しかし何と言って もやはりバルアン、最近あまり目立ってないなと思ってたこの男は最後に想像以上の実力 を見せ付けてやってくれましたよ。絶対不利な態勢を怒涛の如く引っくり返し続けて止む 事のない追い風を得る、という展開の見せ方がもう震えがくるほど堪らなかったです。  しかもこれは一見逆転劇に見えて実は先の先の先の先……ずーっと遡った過去から自ら が覇王を手中に収める結末だけを確信して見据えていた、バルアンの緻密で大胆な計略が 予定通り遂行されただけに過ぎない。そこが個人的には一番魅せられた所でした。  バルアンがシャイハンに勝つと分かり切っていても、カリエのどちらも失いたくないと いう悲痛な気持ちの訴えから、最後までどんな結末を迎えるのか分からなかった。個人的 にシャイハンにも生きて欲しいという思いがあったのは、おそらくカリエ同様想像してた 人物像と随分違ってたからかもしれない。カリエがシャイハンに抱いてきた気持ちの変化 ってのが凄く伝わってきました。確かに彼の生きる時代がもし違ってたら……というやる せなさあるけれど、それもまた物語の味であるのかなと。  で、最後はよもやカリエがバルアンとエドのどっちを選ぶかという流れになるとは思っ てもみませんでしたが。まあここんとこ不遇な扱いだったから思わず「エドを選んで〜」 とか、絶対そうはならない事を呟いたりもしましたよ(笑)。最後に“長子を出産”なん てのがあったから近未来は僅かに知れたわけだけれど、常に運命流転のカリエにとって平 穏って言葉は今後もまだまだ遠いんだろうなぁ……。    てな具合で堪能いたしました。次の『ザカール編』までの間に外伝が二つほど刊行され る予定だそうですが、あとがきでさらっと触れた内容を見た感じでは本編再開の繋ぎとし て充分楽しめそうなので期待したいです(雑誌連載でやってるトルハーンとギアスの海軍 ものは結構興味あるんだよなぁ)。  既刊感想:帝国の娘 前編後編       砂の覇王  2002/11/24(日)Mr.サイレント2 自律世界の愛しい未来
(刊行年月 H14.10)★★★★ [著者:早見裕司/イラスト:唯月一/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【
bk1】  プロローグからエピローグまで1つの流れとして繋がってるけど、本編は今回も独立し た中編作が3本。幼い頃の事故で声を失った晋一郎が推理役、彼の幼馴染みで合コン大好 き少女の真理香が通訳兼仲介兼パシリの捜査役というのも、二人が開設してるホームペー ジを知った人からメールで依頼を受けるというスタイルでインターネットの用語や知識が 密接に関わっているのも前巻同様。  ただ微妙に違っていて変化を見せたのが晋一郎と真理香の関係。晋一郎の人間嫌いと真 理香の合コン執着のせいか、お互い常に側に居ながら全くと言っていいほど相手に異性と しての関心を持ってなかったのが、微妙に意識し始めてるなというのが良い感じ。正直こ れだけで晋一郎に抱いてた嫌いな部分が結構払拭されて評価もぐぐっと上向き加減に(笑)。  実際真理香に振り回されて依頼を受けるハメになりながら、晋一郎の対人関係は僅かず つ広がってるようだし、真理香を意識する事で人間嫌いも多少軽減され始めてる。真理香 の方もそんなに今回は合コンに執着してる風ではなくて、むしろ彼女の方がより晋一郎を 意識してるようなシーンが多かったかも。  主に日常での何気ない事件の依頼――とりわけ親友、家族、恋人などの深い人間関係の 中で誤解と思い違いから生まれたものがほとんどで、大掛かりな仕掛けや謎というのは無 いけれど、それを晋一郎が持ち前の洞察力で直接だったり真理香を代理に立てたりして正 しい方向へ導こうと手を差し延べている。見た目だけの間違ったものを表とするならば、 その裏側に隠れて見えない正しい答えを探り出し、晋一郎自身が直接手は下すのではなく あくまで最後は依頼人や関係者に決定権を委ねるという展開が面白い。決して派手さはな いんだけど“いい話”とでも言えるのかな。解決した後にじわっと込み上げてきます。  ただ一つだけ……事件解決の切っ掛けに金にモノを言わせてるのは気に入らなかったで すが。ったくこれだから金持ちのぼんぼんってのはよ〜って感じで(笑)。  既刊感想: 2002/11/23(土)ルーク&レイリア 金の瞳の女神
(刊行年月 H14.10)★★★☆ [著者:葉山透/イラスト:睦月れい/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【
bk1】  第1回ヤングミステリー大賞最終選考作。  比較的現実世界を舞台とした作品の多い富士見ミステリーの中で、異世界を舞台として いるのは珍しく、更にその中で方向性を“ミステリー”へと定めた作りでちゃんとジャン ルの枠に括れる物語も珍しい。ファンタジーの世界観ってのも皆無なわけじゃないけれど ミステリーの枠外な作品が多いんですよね(笑)。  西洋風の街並みや建造物が頭に浮かぶ辺りからも雰囲気はよく出ていて、目を引き印象 に残るのはそういった部分に密室殺人未遂&トリックと謎解きがプラスされている所。富 士見ファンタジア文庫から派生したレーベルと考えると、ファンタジー+ミステリっての は案外ありそでなくて一番しっくりはまる形なんじゃないかなって気もしました。  注目すべき点は、巻末の解説の言葉を借りると異世界ファンタジーな内容ながら魔法を 始め超常現象トリックに一切頼ってない事。ルークとレイリアの身体的能力の高さで常人 離れした行動を取ってるシーンは幾つかありますが、トリックに関しては充分現実的に可 能で異世界と組み合わさってる所が不思議な感覚でなかなか面白いなと。  ミステリに関してはそんなに目立って拙いという箇所はなかったかな?(そんな偉そに 語れるほどミステリ読書を積み重ねてるわけじゃないですが) ルークとレイリアのキャ ラも個性的で際立ってたし、合わせて単純に解決を見せない密室殺人未遂の推理と謎解き も結構うまく描けてたと思います。ただ、真相を知ってから「もっと容疑者が被害者対し てドロドロの怨恨にまみれてたら面白かったのに」とか言いたくなったけど(笑)。これ って結果的に事件ではなくて事故という扱いだったからなぁ。 2002/11/22(金)真・女神転生if... 魔界のジン
(刊行年月 H14.10)★★★ [著者:吉村夜/イラスト:金田榮路/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【
bk1】  明記してないけど、前巻までの主要キャラたちが“もしも現実世界の高校生だったなら ば”というシチュエーションらしい。一応漢字の氏名に変換されていて、ジン、アヤメ、 ジャック、カラス、レツ、サツキの6人と脇キャラでツモリ、キバ、メイなども引き続き 登場してます。が、性格が以前とほぼ同じなので関連性はあるんだろうけど、物語の雰囲 気が変わるにも程があるだろうってくらい余りに前二作とは違い過ぎていて、ちょっとイ マイチだったかなーという印象。  荒廃した世界で常にギリギリの状況から生きる為に命を賭けて戦う……という前の内容 に対して、今回はどうしても『高校生の魔界見学ツアー』と付けたくなるような軽い感じ がしてしまって……。突然魔界に落とされても警戒はあっても誰一人として怯えや狼狽が ないのは不自然で、脱出する条件として二百万魔貨が必要としても手段に“ねずみ講で悪 魔を騙して儲ける”ってのはいくら何でも強引過ぎるよなと。  中でも不満だったのが、他のキャラは同じなのにジンの性格だけ激変してた事。弱さを 見せながらもわりと硬派なイメージがあったのに、今回アヤメの尻を追っ掛けるカッコつ けの軟派野郎って感じだったから。常にリーダーシップを発揮する所だけは引き継いでた けど、それもアヤメにいいとこ見せようとしての行為だもんなぁ。  それでも内容がしっかりしてれば文句も少なかったろうと思うのですが。そもそもジン 達を魔界に落としたボス的存在とは最後まで戦わずして、結局どうなったかうやむやのま ま終わっているのはどうだろうかと。魔界って異世界に迷い込んだわけだから、もっと危 機感あっても良かったかも。もっと好意的な悪魔を従えて凶暴な悪魔と戦ったりというシ ーンなども欲しかったし……やっぱりこの全体的に蔓延してるどうしようもない緊張感の 無さが一番の問題なのか(笑)。いっそ夢オチで締めた方が良かったような気も。  既刊感想:真・女神転生 廃墟の中のジン       真・女神転生II 復活のジン 2002/11/21(木)真・女神転生II 復活のジン
(刊行年月 H13.12)★★★★ [著者:吉村夜/イラスト:金子一馬&金田榮路/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【
bk1】  前巻ではジンが子供だけの組織を率いて仲間達と共に戦い、最後はたった独りで決着を つける展開に対して、今回は全く逆のパターンを辿ってるのが興味深い所。  転生して前世のジンの記憶は宿しているけれど、現世のジンは偽りの平和に塗られた地 上世界『TOKYOミレニアム』で育った脆弱な少年。彼が自らの弱さに独り(正確には アヤメと二人)で立ち向かい『死』という恐怖を克服してゆく過程があって、最後にかつ ての仲間達や地下世界ノアの人々と一丸となって戦い決着をつけるというもの。  あらすじ辿った限りでは、ジンが転生するだけで他は独立した物語なのかなと思ってた のですが、想像以上に前巻との結び付きが強かったです。これは続きといってもいいのか な? 『ク・リトル・リトル』の子供達――ジャックやレツやサツキにカラスにナミ、冷 凍睡眠に入っていたアヤメを除く主だったメンバーは、前巻から過ぎ去った年月と共に歳 を重ねて登場していたので、私はすぐに続けて読んだにもかかわらず思い入れが強い分だ け嬉しさと懐かしさとを感じてしまいました。多分今回の転生して前世の記憶を持ったジ ンもそうだったんじゃないかなと。  すぐ逃げに走る脆さばかりが目に付くジンは、当然ながら期待してた仲間達やノアの住 民達から失望からくる憤りの罵声を浴びるわけですが、そこから復活までを描いた部分が やっぱり一番の見所であり印象に残った所。ただ強さを取り戻して鮮やかにではなくて、 自分の弱き心を受け入れて“弱さ故の強さ”を理解しながら必死に這い上がってゆく展開 が面白い。それと合わせて前世からずーっとジンを支え続けるアヤメの存在が大きく、よ り一層二人の絆を感じられるシーンの数々も良かったです。  既刊感想:真・女神転生 廃墟の中のジン


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