NOVEL REVIEW
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12/09 『パラサイトムーンIV 甲院夜話』 著者:渡瀬草一郎/電撃文庫
12/08 『パラサイトムーンIII 百年画廊』 著者:渡瀬草一郎/電撃文庫
12/07 『パラサイトムーンII 鼠達の饗宴』 著者:渡瀬草一郎/電撃文庫
12/06 『A君(17)の戦争4 かがやけるまぼろし』 著者:豪屋大介/富士見ファンタジア文庫
12/05 『ハーモナイザー・エリオン 借金だらけの魔法使い』 著者:吉村夜/富士見ファンタジア文庫
12/04 『バレッツ&バンディッツ 楽園の棺』 著者:秋口ぎぐる/富士見ファンタジア文庫
12/03 『ホーリィの手記3 黄金の太陽と銀の月』 著者:加藤ヒロノリ/富士見ファンタジア文庫
12/02 『ギャラクシーエンジェル1』 著者:水野良/富士見ファンタジア文庫


2002/12/09(月)パラサイトムーンIV 甲院夜話

(刊行年月 H14.08)★★★★ [著者:渡瀬草一郎/イラスト:はぎやまさかげ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  主要キャラ大幅入れ替えの新展開。迷宮神群という言葉も存在も知らない少年少女が深 く関わってしまう“巻き込まれ型”だったのがこれまで。かつて幼い頃に神群を人の中に 取り入れる為の実験材料にされてきた少年少女が物語を背負う事で、今まで手探りだった 神群の存在ってのがぐぐっと近くなり始めたのがここから。  これまでどうものらりくらりでスッキリしない籤方刀至の『中身』が知れただけで、極 端に言うならこの巻はもう満足だったかも。もっとも全部が全部解決したわけではなくて、 むしろ知りたい事は増えてしまったような感じで、特に今後鍵となるであろう甲院薫は大 きく惹きつけられる存在。甲院派が存続してた頃、多くの子供を犠牲にしてまで神群の研 究で人体実験を強行した張本人である彼女はどのようにして滅ぼされたのか? そして今、 復活した彼女が何を目的にアラクナの聖典を得ようとしたのか? 多分この辺は次巻で少 なからず描かれるのではないかと思いますが、如何にも『詳しくは続きを待て』な引き際 は読み手にとってなかなかの仕打ちだなと(誉め言葉ですよ一応(笑))。  レブルバハトの話題が出てたので時間的に2巻もしくは3巻の終章手前から続いてる事 になるのかな。心弥と弓に関しては前巻終章で時間の経過が描かれてたから、もう登場は ないのかと思うとちと寂しいかなぁ。しかしその代わりと言ってはあれだけど、かつて幼 少時代に甲院派の実験室で過ごした真砂を始めとする子供達の関わりが、新たに物語の面 白さを提供する役割となってくれてます。  フローラはともかく霧塚雅や根黒圭などは正直これだけキャラが多いから名前だけの端 役で終わるんだろうなと思ってた所、一気に芽が出た感じでつい『ほほぉ〜』と漏れて今 後が楽しみな存在となってくれたり。実験室で真砂と共に過ごした中には、まだ名前だけ しか出てないキャラも居るけれど登場はあるのかなぁ。幼少時代を共有した信頼関係の絆 がどう物語に影響してゆくのかというのも楽しみです。  既刊感想:IIIII 2002/12/08(日)パラサイトムーンIII 百年画廊
(刊行年月 H13.11)★★★★ [著者:渡瀬草一郎/イラスト:はぎやまさかげ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  主人公が1巻の心弥に戻って時間的には2巻ラストの直後から。心弥と弓の関係が深ま ってく過程で神群の影響を受け、同時に2巻の冬華の様子も引き続き描かれている。言っ てみれば前2巻の総まとめ的な位置付け。どっちの後日談も偏りなくフォローして、双方 をうまく絡めながらしっかりケリをつけてくれてます。少なくとも主役を張った心弥と冬 華にとっては、散々辛い思いをした分だけ見合った結末が得られたんじゃないかと思うの で、救われた気分でホッとして良かったとなりました。心弥の話はとりあえずここで一旦 終わりのようで。本当はもっとそのラストの後とか見たいんだよ〜てのもあったけど、異 能力を有するが故に弓とは中学生レベルの接し方しか出来なかった心弥も、きっと数段マ シな付き合いが出来るようになってるでしょうね。弓を救いたい強い願いが、彼女を想う 心弥の心に徐々に変化をもたらしてゆく、この過程が凄くいいなーと思いました。  キャラバンの存在と多岐に渡る神群の種類・影響は今回もまだまだ明確じゃない。確実 に徐々に明かされてはいるのですが。夢路はもうかなりの部分が剥がれてきてるけど本質 は不明瞭な点が多い。エスハに関しては重要なシーンばかりに登場するわりに片鱗さえサ ッパリ掴ませてくれない。関係者からかなり嫌がられてるか苦手意識を持たれてるっての は何となくだけど分かる事。キャラバンの誰にとっても無視出来ない名の知れた存在は、 いつになったら本質が垣間見れるのでしょうかね(当分先になりそう……)  そしてもう一人、今回心弥と大きく関わった満月のフェルディナン。絵の向こうの異空 間に封じだれた神群・オルタフを解放しようとする執着心そのものは、長い歳月を経て方 策を巡らせ続けた事からもよく伝わってきました。ただ何故フェルディナンがそこまでオ ルタフにこだわりを持つのか? その“理由”が見えてこなくて弱かったかなとも。  あとは心弥から離れて脇道逸れる事になるだろうけど、若き頃のグランレイスとリセル の話をもっと見てみたかったりとか。それなら頁数の危険領域突破するくらいの厚さでも 全然構わなかったというよりむしろ大歓迎だったのに(笑)。  既刊感想:II 2002/12/07(土)パラサイトムーンII 鼠達の饗宴
(刊行年月 H13.08)★★★★ [著者:渡瀬草一郎/イラスト:はぎやまさかげ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  かなりの期間ほったらかしにしてたので1巻から再読しました。前巻主役だった心弥と ヒロインの弓は1回お休み(とは言ってもちらっとだけ顔見せしてるのは何となく嬉しい 演出)。今回は肉親が迷宮神群に大きく関わっていても本人は全く無関係だった少女が主 人公で、姉の死を境に徐々に関わりを持ち巻き込まれてゆくというもの。  死を遂げた姉・美春の“冬華に危害を加えようとするものから守る”という意思が宿る 迷宮神群の一体『レブルバハト』を巡って、神群の謎とキャラバンという組織の勢力関係 の一端を垣間見せながら流れる展開。主要登場人物も増えてきて、神群の名前だけなら今 回幾つか挙げられてたけど、まだまだ全体像はハッキリ見えてこない。それでも謎となっ てる部分に興味を抱かせつつ、先へ先へと読み進めさせてくれる文章力には惹きつけられ るものがあってうまいなと思わされます(毎度渡瀬作品には同じような事書いてるけど)。  今回冬華が中心となってはいたけれど、合わせてキャラバンの内情を前回より更に詳し く見せるような感じで、こちらも神群同様に規模と底が知れない所から今後どんな人物が どのような形で神群と関わるのか……この辺に興味を持たせてくれたのも良かった。  しかし紳士の扱いはちと予想外だったかなぁ。冬華といい雰囲気になりかけてたし、つ まりそうはならないと思ってたわけですが……このラストシーンに思いっきり納得させら れてしまったのが何か悔しいというのか惜しいというのか。読了後は色々感情混じって複 雑だったけど“二人にとって”はこれが幸せであったのかなという感じでした。  既刊感想: 2002/12/06(金)A君(17)の戦争4 かがやけるまぼろし
(刊行年月 H14.11)★★★★ [著者:豪屋大介/口絵イラスト:伊東岳彦/本文イラスト:北野玲&モーニングスター                     /富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  もしもこのまま立ち止まらず振り返らずに突っ走っていたら、そう遠くない未来で心が 潰されてしまうんじゃないか……剛士にはそういう危惧を抱かせるものが徐々に大きくな りつつ感じられていたので、変則的な流れの挿入は冒険だよなぁとか思い切ったことした なぁとか言いたくもなったけれど、安堵感が一番前に立っていたかな。  例えば剛士がブラントラントに飛ばされてきたばかりの状態で妄想の中に飛び込んでい としたら、おそらく半分もページがいかない内に溺れ沈んでただろうなと。しかしその段 階ではまだ妄想が生まれる事はない、もしくは必要なかったという気もします。  魔王軍総帥として持ち上げられ、頂点に立って多くのものを抱え様々な経験を経て常に 戦争の重圧の中を潜り抜けてきた今だからこそ描かれるべきもの……ほのかが幾度も軌道 修正を強いられた長い長い妄想が生まれ、その中で剛士自身が次へ進む為の明確な心構え を探し気持ちの整理整頓をつける事が必要だったのではと思いました。    都合良い妄想の長さと深さ=剛士の葛藤の大きさでいんだろか? 妄想がいつどんな状 況から始まったのかとか誰によってもたらされたのか(剛士自身か、それとも他の誰かに よってなのか)とか、意味も拾って想像出来る要素は幾つもあったけど最後にもうちょっ と追加してまとめが欲しかったかも。なんて言うか明らかに色んな意味で問題作でしたが、 妄想の過程で想像を巡らしたり考えさせられる機会が実に多くて、個人的には時間を忘れ て貪り読んでたくらいだから、如何に充実していたかを思い知らされた気分。この割り込 ませた妄想が必要だったと確信させてくれる今後の展開に期待したいです。  既刊感想: 2002/12/05(木)ハーモナイザー・エリオン 借金だらけの魔法使い
(刊行年月 H14.11)★★★★ [著者:吉村夜/イラスト:ことぶきつかさ/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  前を見ても後ろを見ても右を向いても左を向いてもページを戻っても進んでもとにかく 金、全編に渡って至る所にこれでもかってばかりに金。ハッキリ言って比喩無しに印象に 残ったのはほとんど金。それだけこの物語では金の存在感と影響力というのが物凄く強力 かつ絶大なものとして描かれている。異世界ファンタジーな設定で金欠貧困に喘ぐキャラ クターってのはわりとよく見掛けるものだけど、知る限りでは短編のネタか長編でもメイ ンイベントの付加要素って形なのが多く、金無くて貧乏でもどこか何とか生きてやってい けるお気楽さというのか安心感というのか、そういうのを抱けるんですよね。  その点で言ってこの物語、金の話題が異様なまでにシビアで現実的。異世界が舞台でこ こまで金銭で明日の命さえ危うい逼迫した絶望感を与えてくれる内容ってのも珍しいかと 思います……ちと怖いくらいに。そんな新鮮さが印象的で良かったです。  主人公のエリオン君は貧乏であるが故に、しつこく値切って出費をケチるというのが基 本的な行動パターンとなってますが、金にねちっこく執着する所から架空の物語でありな がら遮二無二足掻いて“生きようとする意志”ってのが強く伝わってくるので面白い。  もっともエリオンの場合は、資金繰りに喘いで火の車になってるのも99%が自業自得 の自分で蒔いた種だから、ほとんど同調の余地無しですが(笑)。  ただし1%だけエリオンのしょーもない言い分の通る要素があるとするなら、それは最 悪なまでの金運の無さ。もし宮廷魔法使いに採用されていたら、もしルダの村が報酬をち ゃんと払っていたら……いくら大金食いのランドラを抱えてたとしても、金回りは随分違 ってただろうなぁと思います。この1%分があるからエリオンの言い分も辛うじて受け入 れられるといった感じです。しかし常にみっともなく値切ろうとする割には、メイベルが 奢ると言ったジュースを受け取ろうとしない神経がサッバリ分からんのですが。結局金と の付き合い方がまだまだヘタって事なんだろうな、この調和術師エリオン君は(笑)。 2002/12/04(水)バレッツ&バンディッツ 楽園の棺
(刊行年月 H14.11)★★★★ [著者:秋口ぎぐる/イラスト:エナミカツミ/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  秋口作品の特徴と言えば句点多用のぶつ切り文体。これによりどんな効果があるかって のは、全体的に淡々とした展開運びになってる事。でも銃撃戦や肉弾戦などのアクション シーンも結構多く、淡々とした雰囲気であって派手な大立ち回りを見せる描写……このア ンバランスさが不思議とうまく噛み合っていて印象に残りました。  前にショットガン刑事の感想にも書いたような気もするけれど、私はかなり好みなこの 文体は癖があると言えるので結構好き嫌いは出るんじゃないかなと。ただ読み進めてうま くテンポに乗れば、ぐいぐい惹き込まれる魅力ってのも多分に持っていると思います。  本作はシャツのボタンを掛け違えたような、あと一歩の差ですれ違いまくる追いかけっ こという感じの展開。勿論子供の遊びじゃなくて(ターゲットのような人物は女の子だけ ど)泥棒二人組と犯罪組織と獣人族の、命を狙い狙われの大追撃戦ですが。  どこを切っても「あ〜数瞬前には追ってる奴がこの場所に居たのに……」ってシーンば っかしなんだけど、すれ違いの連続が複雑に絡まっていて、でもちゃんとそれぞれ追撃し てる位置関係も理解出来る描写がうまくて面白いなーという感じでした。  あと惹かれた要素としてはバレッツのキャラクター性。悪ぶって振舞ってるわりに、何 となく気が付けばミゲルやステラなど周囲のやつらに振り回されてる如何にも苦労人って 所が好感触。決して殺さずの信念でギリギリまで追い込まれながらも、見事に危険人物ウ ーゾを退けるシーンなんかも良かったです。まあ些細な不満があるとすれば、重要ブツな 棺は結局おまけみたいなもんだったのでバレッツ同様がっかりしたりとか(笑)。いや、 これは単にもっと大きな意味をもって絡んで欲しかったかなって事で。 2002/12/03(火)ホーリィの手記3 黄金の太陽と銀の月
(刊行年月 H14.11)★★★☆ [著者:加藤ヒロノリ(原案:安田均)/イラスト:桜瀬琥姫/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  前から幾度かボルカノの口から出ていた、水の都《銀水晶の巫女》であるエコーが今回 より登場。彼女も控え目ながら強くボルカノに好意を寄せているので、当然対抗するよう にホーリィのボルカノ好き〜も嫉妬の炎もメラメラと3割増し(推定)で絶好調。  何か最初のエコーに対するホーリィの突っ掛かり方を見て「無茶言ってんなぁ」とか思 ってましたが、いがみ合う恋敵から徐々にお互い分かり合って好敵手となり心を許し合う 親友同士のような関係へと転じる過程がなかなか良い感じ。まあボルカノが絡むとライバ ル意識剥き出しになる(主にホーリィが)所はあまり変わらないですが。  ボルカノは大抵離れた会話でもちゃんとキャッチしてるから、二人の想いに気付いてな いわけでもなければ鈍感なわけでもない。分かっていながらあえてひらりとかわしたり深 く踏み込んで触れようとはしなかったり、あのホーリィの押しにもほとんどたじろぐ事が ないのは達観した大人の余裕というやつなのかも。過去に大きく関わりがありそうな分だ け、ホーリィには何か特別で複雑な感情を抱いているようではあるけれど。  これまでの旅はホーリィの“ボルカノ追っかけ”な気持ちが色濃く出てたけど、今回は 彼女自身の秘密とボルカノの過去との関係について大きく伏線が敷かれたような展開。  今後どうなるか強く興味を惹かれたという意味では、やや隠れていて分かり難い部分も あったけど面白かったです。ただ人魚の抗争と海賊&娼館の話は、両方とも内容の深さと 盛り上がりの点でちと足らない気がしたので、どっちか片方に絞ってくれた方が良かった かなと。あとはホーリィの一人称ながら召喚獣の目を通して別の視点を見せるという部分 は、場面転換し難い弱点を補う上手さが感じられて良かったです。  この巻で一気に謎が膨らんで来たので次巻以降の展開に期待したい所。  既刊感想: 2002/12/02(月)ギャラクシーエンジェル1
(刊行年月 H14.11)★★★ [著者:水野良/原作:ブロッコリー/イラスト:重戦車工房/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  この小説版はPCゲームがベースになってるそうで、主にアニメから得たものしか知ら ない私には随分と雰囲気違うなぁという印象でした。単に好みの問題でどっちが良いか悪 いかってのも無かったけれど、読んでみて「ああ、小説版にはちゃんとまともな設定とス トーリーの流れってもんが存在してるよ」とかしみじみ思ってしまいましたが(笑)。  アニメが“超バカギャグコメディ”とするなら小説は“ほのぼのお気楽SF”となるの かな。キャラの位置付けも前者はミルフィーユもしくはエンジェル隊5人が主役なのに対 して、後者は若き司令官・タクトが主人公という感じで微妙に違ってます。  エンジェル隊のキャラクター性を出したかったのか、それとも紋章機の対艦隊戦闘を描 きたかったのか、トランスバール皇国とシヴァ皇子を巡っての相関関係と様々に行き交う 思惑を見せたかったのか……結局どっち付かずでどれも中途半端に物足りなかった。  仲良くしたいを名目に、無意識の内に手当たり次第女の子達にちょっかい出して落そう と頑張るタクト君はどうかと思いますが(笑)、彼のマイペースな行動と性格はそんなに 嫌いじゃないです。逆にエンジェル隊の5人は個性的なれど羽目を外さすお行儀も結構良 くて、飛ばしまくりなアニメキャラから見ると大人しい気がしたので、もっと周囲を唖然 とさせるくらいハジケ飛んで欲しかったかも。


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