NOVEL REVIEW
<2002年12月[後半]>
] [戻る] [
12/31 『頭蓋骨のホーリーグレイルII』 著者:杉原智則/電撃文庫
12/30 『大唐風雲記3 The Last Emperor of 漢』 著者:田村登正/電撃文庫
12/29 『LAST KISS』 著者:佐藤ケイ/電撃文庫
12/27 『キノの旅VI −the Beautiful World−』 著者:時雨沢恵一/電撃文庫
12/26 『バギーラギーで出かけよう!』 著者:葛西伸哉/電撃文庫
12/25 『僕にお月様を見せないで9 唐子とオオカミの夜』 著者:阿智太郎/電撃文庫
12/24 『僕にお月様を見せないで8 楓とオオカミの一日』 著者:阿智太郎/電撃文庫
12/24 『ヴァルキュリアの機甲III 〜黄昏の花嫁〜』 著者:ゆうきりん/電撃文庫
12/23 『ヴァルキュリアの機甲II 〜恋愛操作〜』 著者:ゆうきりん/電撃文庫
12/22 『インフィニティ・ゼロ3 夏〜white moon』 著者:有沢まみず/電撃文庫
12/21 『パラサイトムーンV 水中庭園の魚』 著者:渡瀬草一郎/電撃文庫


2002/12/31(火)頭蓋骨のホーリーグレイルII

(刊行年月 H14.09)★★★ [著者:杉原智則/イラスト:瑚澄遊智/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  明らかに主人公側よりも敵側の方ばかりが印象的というのはどうだろう? 特にそこが ダメだったから面白くないって訳ではなくて、敵対する教団の陽馬や辰馬と3人の騎士達 なんかは、それぞれ都合や思惑・野望などを趣くまま剥き出しにしてる様が実に魅力的に 描かれるなと思いました。が、主人公サイド側はちょっと萎み過ぎで物足らない感じ。遼 馬はあくまでも受身の態勢で彼自らが信念を持って何者かに立ち向かう事もあまりなく、 咲夜は遼馬パパにくっついてるか真似事なだけで彼女自身何を目的として闘おうとするの か見えてこないし(パパの為ってのが動機としては最も大きいだろうけどそれでも弱いん だよなぁ……)。弘人は一番教団に対しての闘いに意義を見出してるようなので、キャラ クターと行動心理には時折ハッとするように興味を惹かれたりします。ただ教団の騎士レ ベルと闘うには粋がる割にまだまだ弱っちいので(笑)。  遼馬の元へ押し掛け弟子となった弘人にとって、彼は厄介で苛立つ目の上のたんこぶ的 存在であると同時に、その強さに憧れと羨望を抱かずにはいられない存在でもあると。こ の心情がイライラの元凶と思うと、なんか弘人の事が面白くて苦笑してしまい、憎めない 奴だなとなってしまう。彼が徐々に強さの成長を見せ印象度を上げてくれれば、もっと面 白くなりそうな手応えは確かにあったので次巻以降のそういう所に期待です。  既刊感想: 2002/12/30(月)大唐風雲記3 The Last Emperor of 漢
(刊行年月 H14.09)★★★ [著者:田村登正/イラスト:洞祇ミノル/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  今回は三国志ネタで、有名だけどこれも私は殆ど予備知識なし。しかしわずかばかりの 人物名しか分からなくても、それだけでも前の2巻までと比べて取っ付き易かったかもし れないです。頭の中では劉玄徳が中心で曹操は思いっきり悪役イメージだったけれど、ち ょっとそれとは印象が違ってた。というより話によっては冷徹な悪役然とした描き方もあ れば、逆に好感持てる人物に仕上がってる場合もあったりで様々なのかな。  3巻まで進んでキャラがこなれてきたというのか物語に定着し始めたというのか、今回 は性格とか行動とか役割分担とかが大分くっきり明確に見えてたような気がします。  相変わらず則天皇帝は行き当たりばったりな思い付きで有無を言わせず皆を引き込む主 人公気質、で履児は地味っぽくて敵の罠にも掛かってトホホな役所。もういい加減慣れて しまったせいかこの関係はしょうがないのかと苦笑しつつも、女性上位の中で「もっと頑 張れ男の子!」と履児の活躍を期待してみたくもなるのです。  しかし前巻同様またしても“振り出しに戻る”なのかよ〜(笑)。長安の危機という未 来を知りながらも緊張感を無くしてるのは、たとえ絶体絶命に陥っても龍導盤があればタ イムトリップして何とかなるだろうっていう切り札そのもののせいなんだろうなぁ。  まだ余裕あって半ば遠足気分の時間旅行をメインしてる内は楽しみながら読める部分も あるんだけれど、そろそろ本腰入れて叛乱軍問題に向き合ってくれないと……。  既刊感想: 2002/12/29(日)LAST KISS
(刊行年月 H14.08)★★★★★ [著者:佐藤ケイ/イラスト:高梨ひつじ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  実際に泣いたかどうかって言えば涙は流れなかったけど心で泣きました。でも大きなポ イントは泣かされたかどうかではなくて、キャラ・ストーリー展開・結末とほぼ全てにお いて、おそらく著者が意図的にここまでお約束で分かり易い描写を読み手に対してさらけ 出しているんだろうなと理解していながら、それでもなお抗えず惹かれずにはいられなか った点。手の内を包み隠さず見せた上で「見事に泣かせてやろうじゃないか」っていう読 者へ向けての著者の挑戦みたいな感じだったかな。まあそういう意識で書かれたわけじゃ ないんだろうけど、もしそんな風に考えるんだとしたら私の場合は完全敗北。もう惹き込 まれ方が半端じゃなかったです。  智弘が由香に接する時の心情の変化ってのがダイレクトに伝わって来るのは、一人称な らではの利点が最大限に発揮されてるからではないかなと。読み進めるほどに智弘の気持 ちがどんどん流れてくるから、彼が由香に近付くに連れて彼女の中で抱いてる想いが徐々 に見えてしまう過程が堪らない。  大部分が智弘の心情、それ以外は全てコミュニケーションを取る手段である会話によっ て描かれているとか、主要キャラは智弘・由香・香奈子の3人だけであるとか、最初から 結末が予想出来てしまうとか……内容としては常にシンプル。しかしだからこそ心の動き が一層映えているのだろうかと思います。特に3人が互いに抱く『好き』の違いを描いて ゆく辺りはホントに良くて。ここらで一気にぐいっと引っ張られたのですが、最後に由香 から委ねられた鍵で日記が開かれるという構成はもう凶悪過ぎ(誉め言葉)。結局由香の 日記の奔流で溺れ沈んでしまったというのが一番ダメージ大きかったです。    以下ネタバレで、由香の死という事実から智弘が立ち直れたのは、どうしても報われな かった結末の中で救いだと思えた部分。だけどそれは由香が智弘に向けていた『好き』と 同じものが、智弘にとっては由香ではなく香奈子に向けられていたから……もしも義理の 妹であっても一線を越えた感情を抱いていたとしたら、ずっと智弘の立ち直りは遅かった んじゃないかなと。どこかで智弘と由香が互いに同じ性質の『好き』を抱いて2人の想い が成就して欲しいって気持ちがあったかもしれないけど、そうなると今度は香奈子が身を 引いて泣く事になるだろうし……。でも由香は最初から自分に残された時間を知っていた から兄妹では結ばれないというのも分かっていて、だから大好きなかんネェに大好きなお 兄ちゃんを託す意味で書いた冒頭の日記に込めたんじゃないかって気がしました。  由香にとって、自らが残して託したこの結末が本望であって欲しいと願いたい。  でも、やっぱり切ないよなぁ……。 2002/12/27(金)キノの旅VI −the Beautiful World−
(刊行年月 H14.08)★★★☆ [著者:時雨沢恵一/イラスト:黒星紅白/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  旅人キノと、相棒で喋ってボケて時には突っ込むモトラド(二輪車、空を飛ばないもの を指す)エルメスの諸国放浪短編集。とりあえず巻末特別問題は端っから投げました。こ んな試験出題する株式会社メディヲワークスになんか入りたくないです(笑)。なんて言 うかここまで徹底してまともじゃないあとがきを続けてくれると、たまにはノーマルなや つを見てみたいとこですが(アリソンは普通だったか?)。今回のカバー裏折り返しの著 者近影写真にも大爆笑。そのわりに刊行ペースはゆったりじゃないか超特急なのは〆切直 前だけなのかとか言ってみたくもなったり。本編の内容に全く触れないでこれだけ感想を 埋められるってのもこの作品と言うより著者の持ち味なのかな。  で、本編です。今の所まだ飽きてません。国の中の話だけに捉われない構成が何となく 目立っているのはマンネリ化を抑止する工夫……と言えるかどうか。ただ間に「彼女の旅」 とか「旅の途中」みたいな話を挿入してくれた方が、国を巡る途中途中の寄り道みたいな 感じで単調さが抜けて読める、というもの。  今回の一番は一巻第五話「大人の国」へと通じてる、エピローグからプロローグに繋が る「誓い」。花の名×××××、あれこれ考えてるんだけど未だに分かんないんですよね 実は。それはさておき思い出して読み返してじわりときました(時間的に今回の方が過去 なんだけど)。ああそれで“十二年経った時”なのかとか。  国の話では第五話「安全な国」。こんな禁止だらけの国なんて誰が住みたいか、と思う 一方で“安全”に関してだけはまさに完璧なので一概には存在を否定出来ないかとも思え て奇妙な感じ。キノの去り際の返答はキノなりの心遣いだったのか、他人に手を差し伸べ るとかそういうの見せるのは珍しい気がする。別にそういうのじゃなくて訊かれたから単 に答えたって方が有力かもしれないけど。  シズ様と師匠の話は、話の中で性格がもろに出て印象に残るのでそれ読めるだけで無条 件に降伏。シズ様方面はそろそろ終わりが近いんだろか? 口絵の「中立な話」は、キノ も含めてまさに三者三様そういう性格が表れていて面白いなぁ。  既刊感想:IIIIIIV 2002/12/26(木)バギーラギーで出かけよう!
(刊行年月 H14.08)★★★☆ [著者:葛西伸哉/イラスト:りょうもとけん/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  少女は幼馴染みの気になる男に彼の趣味である宝捜し話を持ちかける。しかし夢とかロ マンとかを追い求める野郎ってーのはどうしてこうも身近な存在に対して鈍感なのか、当 然一緒に宝捜しがしたいという彼女の思惑なんぞ気付きやしない。おまけに現実主義で宝 捜しに否定的な彼の妹が常時小言を引っ下げて割入ってくるなどの障害にも阻まれ、ああ 少女の淡い恋は障害多し……ってな所を読み手に一番見せたかったのかどうかは分かりま せんが。ベッツィの気持ちが当人のアーレイ以外にはバレバレって所が微笑ましくて、宝 捜しそのものよりも彼女の気持ちの描写がより印象に残ったかな。  アーレイにしても鈍いのはまあしょうがないとして、プロの仕事として財宝探索依頼を 請け負うディクサーへのライバル意識で、じゃあ趣味で宝捜しやってる自分は一体それに 何を求めているのかと模索してゆく辺りも面白い。今回は協力態勢だったけど、最後まで ライバル同士として宝を奪い合う関係での展開ってのも見たかったかも。  あとは妹キャラで現実主義のシンシア。お嬢様な容姿に反してさらっと冷やかな突っ込 み入れる性格がなかなか良い感じです。あからさまなブラコンではないのでベッツィ、ア ーレイとの微妙な三角関係とまでは至ってないけれど、実はそんな兆しがあるような気も する。口煩くても何かと兄を気遣ってるので潜在的にはやっぱりブラコンか?  主要キャラ達は好みで良くて話の内容もそれなりに。その中で惜しいのがあったとすれ ば、この物語に無くてはならない存在――肝心のバギーラギーに関する描写がちょっと分 かり難かったという点。大体こんな感じだろうかまでは想像出来るけれど、せめてバギー ラギーの全体像が口絵か挿絵で欲しかったなぁ。 2002/12/25(水)僕にお月様を見せないで9 唐子とオオカミの夜
(刊行年月 H14.10)★★★☆ [著者:阿智太郎/イラスト:宮須弥/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  銀之介に好意を寄せる少女達が舞台を降りて感じられた、シリーズの締めに入ったんだ ろうなという雰囲気と手応え。まあシリーズ完結前の今回、あえて退場させる事に果たし て意味があったのかと考えると結構疑問が残ったりもしたんだけれど、その答えは最終巻 で見せてくれるでしょう……多分(笑)。  しかし最終巻の内容予想のアテがひとつ外れた、ってのは狩谷先生の復讐劇。こんなに あっさり流していいのかよってくらい盛り上がらなさ過ぎで全然物足りなくてがっくし。  でもこの船上旅行の中編作の内容そのものは相変わらずで面白かったし、身を引くと分 かっててもやっぱりエピローグで楓が抱えてた叶わぬ想いを見せるシーンも良かったので すよ。ただ一点、誤解が誤解を呼んで狩谷先生が銀之介を死の淵まで追い詰めてそこで楓 が乱入して「もう止めて! 兄さん!」となって唐子も絡んで修羅場となる……こういう 熱い展開を期待してたのに、呆気なく終わってしまったのが消化不良で残念だったなぁ。  こうなるともう銀之介の正体がみんなにバレてしまってさあ大変、な展開しか思い浮か ばないんだけど。お定まりのように収まっても銀之介と唐子の関係はいいなと思える所で、 それがどう完結へ向かって発展するのかしないのか。長期シリーズなので読んできた分だ け気になるとこは色々様々、何だかんだいって最終巻が楽しみです。  既刊感想: 2002/12/24(火)僕にお月様を見せないで8 楓とオオカミの一日
(刊行年月 H14.08)★★★☆ [著者:阿智太郎/イラスト:宮須弥/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  本編読了してあとがきを読んでみて、思わず納得してしまったのがそりゃあこれだけ変 な、いやお馬鹿な、もとい個性的なキャラクターが揃ってたら、たった一つのキーワード を放り込んだだけでも阿智さんならば短編は続々と量産出来ちゃうだろうなーと。  で、それだったら別にマンネリでも何でも僕月で電撃文庫レーベルの水戸黄門やサザエ さんを目差してもいいんじゃないかい? と感じてしまうようになりまして。前巻までと 言ってる事が違うぞってのは自覚してるからいいんです(笑)。毎回バカバカしい面白さ を提供してくれるというのは確かだし、前巻感想で倉地センセとかプチ三石ちゃんとか最 近全然出てないなーとか書いたら狙ったように今回登場しまくってるのが侮れない。キャ ラクターを使って幾らでも小話を楽しめる所がこのシリーズの魅力なのかなと。だからい ざ最終回に向かうのを明確に聞かされると、ちょっと残念なような寂しいような。  一番印象に残ってるのはやっぱり楓の銀之介に対する心情の変化かな。微妙だけど確実 に惹かれてるけど兄の敵かもしれないからと理由付けて認めようとしなけど意識してしま うのは止められなくて複雑。でも唐子とは、銀之介を奪い合うような直接的な女の闘いっ てのが全然ないのは面白くない(笑)。まあ明らかに銀之介×唐子が本命で、楓は性格的 に身を引いちゃうタイプっぽいから仕方ないのかも。さて、こっからどう最終回へと話を 繋げてゆくのだろうかなぁ。  既刊感想: 2002/12/24(火)ヴァルキュリアの機甲III 〜黄昏の花嫁〜
(刊行年月 H14.12)★★★★☆ [著者:ゆうきりん/イラスト:宮村和生/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  残ってるのはGOってそもそも何なの? というのと、あとはライアーの存在。この二 つが密接に関わってるのはまず間違いないので、どちらかの謎が解かれれば残る片方も自 然解凍となるのかな。この辺が解かれず最終巻へ持ち越しとなって特に気になる所。  それにしても……このラストはショックでかいなぁ。GOに惹かれていってしまった方 も残された方(特に真珠)も。このまま最終巻の次巻へ続くとなってしまったのはかなり きっついんだけど、ガツンと脳天に忘れられない強烈な一撃を刻み込まれた気分。  ただ、衝撃を喰らって鬱に沈み込んだまま倒れ伏してしまうのか、それとも逆に衝撃が 奇妙な快感を招き夢見心地のまま倒れ伏してしまうのか……ここが感想の分かれ道。要す るに嫌悪感抱くかそれとも好感持つかって事で、こういう展開であんまり後者の人ってい ないかなって気もするんだけど、私は後者寄りだったので評点も高いのですね。  痛い、きつい、辛い、悲しい、こういう描写ばかりですハッキリ言って今回は。特に最 後のアレはあまりに生々しい描写でちょっと目を背けたくもなったけれど、逃げずに避け ずに曖昧にせずに容赦なく描いてくれた事が好感抱けた要素だろうなと。もしかして痛い 描写が好きなのか? と思わず自問してみたりもしましたが、どうやらキッパリと否定は 出来なかったようです(笑)。  しかし今回は個人的お気に入りのヘルガも依然痛々しい状態だし、頼みの綱の竜一郎は ほぼ拘束状態だしでホント救いが薄い。中でも一番最後の真珠と初めてうまく作れたケー キに添えられた挿絵は反則過ぎて……。こうなってしまっては皆してのハッピーエンドは かなり微妙になってきたけれど、それでも望みたくなるのは本編の後に外伝で竜一郎とヴ ァルキュリア達の日常風景が再び描けるような結末、でしょうかね。  既刊感想:II 2002/12/23(月)ヴァルキュリアの機甲II 〜恋愛操作〜
(刊行年月 H14.08)★★★★ [著者:ゆうきりん/イラスト:宮村和生/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  主人公の男一人に対して女の子が多数で隊長と部下の関係。普通と違うのは彼女達が人 間サイズの10倍を誇る巨人って部分。それから上官が12歳の少女だったり。こう何か 狙ったようなシチュエーションを見せられてしまうと「ああどうせ類型的な日常ラブコメ に流れんだろーなー」なんて一歩引いた気持ちになるのもしょうがないじゃないかと思っ てた所、実際にはそうならなかったのが良い意味で肩透かしを喰らっちまった気分。  人間とジャイアント・オーガニック(GO)と呼ばれる巨大生物との戦闘を描く事が主 軸であって、竜一郎と巨人の女の子達とのコミュニケーションはあくまでその中のワンシ ーンとして描かれるに留まってます。確かにさり気ない日常シーンでの触れ合いをもっと 見せて欲しいってのもあったんだけど、GOとの戦いをメインに据えながら彼女達の気持 ちの変化や揺れ動く様を見せてゆく事が、類型的な殻を脱却するこの作品ならではと言え る持ち味。そういう手応えを感じられた事が一番良かったかもです。  ヴァルキュリア達はまさに操作されるように、恋を知って恋に目覚めて恋に破れて人間 と巨人族との違いを思い知って竜一郎とすれ違い溝を深めてゆく……戦闘を背景にして流 れるように次々と見せる展開はうまいなーと思いました。しかし今回のラストは怒涛の如 く立て続けにとんでもない事が起こってるので非常に続きが気になる所。  既刊感想: 2002/12/22(日)インフィニティ・ゼロ3 夏〜white moon
(刊行年月 H14.08)★★★ [著者:有沢まみず/イラスト:にのみやはじめ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  前巻の過去編から1巻のエピローグ前に戻って、ゼロ=麗の心が壊れてしまった所から の続き。またリアの一人称文章となってます。しかし1巻読んで「これは完結してるよな」 って印象だったので、どうしてもシリーズ化の為に取って付けました感が拭えず。こうい う流れにするんだったら1巻のエピローグ部分は省いた方が良かったんじゃないかな、と 今更ながらに思ってしまいました。  2巻の過去編は「ヤマ」という実態を明確にさせる事で1巻と3巻を繋ぐ準備段階的な 位置付けだったのかなと。過去の話は今回のリアがヤマと関わる際にしっかり生きている し、納得のゆく繋げ方ではありました。ただ、それでもヤマの存在はもっと深く掘り下げ て描いて欲しかったです。というのも結局はまだ描写が全然不足してるなと感じてしまっ たせいで、例えば麗が意識を取り戻してまた消えてしまった理由とか長夜の言ってる事と かやろうとしてる事だとか、そこら辺がイマイチ分かり難くてはっきりしっかり伝わって 来なかったんですよね。夢のシーンとか、明確にしない文章表現は意図的に手法として使 ってるような感じなのですが、どうもうまくいってない気がするなぁ……。  個人的には過去に済んでしまった事より今のヤマの状況と、それに合わせて関係する人 達の様子の方を大きく扱って持ってきてくれたらなという気持ちでした。1巻で登場した ノグチさんやサカイさんやカワタさんとかね。まあ雰囲気が徐々にどん底に沈み込んでゆ くのは嫌いじゃないので望む所です(笑)。でも最後は幸せな結末を用意して欲しい。  既刊感想: 2002/12/21(土)パラサイトムーンV 水中庭園の魚
(刊行年月 H14.11)★★★★ [著者:渡瀬草一郎/イラスト:はぎやまさかげ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  実験室の子供達+榊糾、山之内派、甲院派(甲院薫)の三つ巴戦で、今後カーマイン派 その他入り乱れになりそな感じ。ただ目的はそれぞれ違っているので同じものを目差し求 めてるわけではなく、各勢力の思惑が複雑に絡みながら達成成就までの過程を見せてゆく というのが面白い。今回は特に真砂達と甲院薫の扱いが大きかったせいか、山之内派方面 はちと舞台から押し出され気味で印象弱かったですが、次巻で名前と噂しか出てこない御 大も登場するらしいので、それを楽しみに待ってればいいかなという具合。  とりあえずは何と言っても甲院薫。前巻から期待寄せてたけど、想像以上に彼女のキャ ラクターと複雑な内情に引き寄せられてしまいました。過去にやらかした事を考えると、 もっとこう冷酷冷徹かたまりで目的遂行の為には手段を選ばず容赦のない存在と思ってた のが、由姫の意識とのせめぎ合いのせいか随分と心に変化が生じてるようで。彼女が葛藤 するよう唆してんのはエスハだけど、これも未だによく分かんない存在。正体目的その他 色々……やっぱりわざと意識的に疎まれるような言動を放ってるのを今回ハッキリ知れた のがひとつ。で、もうひとつが心理面では絶対的な強さを誇る事。要するに誰もがエスハ より優位には立てないだろうと思い知らされた気分。エスハが誰かにやりこめられて狼狽 する姿なんて全く想像つかないもんなぁ。  そんな存在に、心に葛藤や動揺を植え付けられた甲院薫の“自分は何に向かって進んで いるのか?”に明確な答えを出せずにいる姿が何だか凄く良かったです。過去の亡霊に縛 られるかそれを断つべくの死を望むのか……どうケリをつけるのでしょうね。  もう一方『実験室の子供達』の存在。こっちも思ってた以上に取り除けない過去の傷痕 というのが、しっかり根底部分まで描かれていて、真砂が背負う重い痛みと、相対するよ うな立ち向かうような仲間達との絆がいいな〜と感じられました。個人的には最後に由姫 が真砂の元へ……というのが一番望むべく結末ではありますが、そうなると甲院薫や山之 内派の思惑はどう流れるのかが気になる所。あまり望まないけどそうはならない可能性も あるし、決着がつくであろう次巻が待ち遠しいです。    既刊感想:IIIIIIV


戻る