NOVEL REVIEW
<2003年02月[前半]>
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02/09 『Missing6 合わせ鏡の物語』 著者:甲田学人/電撃文庫
02/07 『海洋叙事詩 メルヴェイユ』 著者:中村浩二郎/電撃文庫
02/06 『攻撃天使1 〜スーサイドホワイト〜』 著者:高瀬ユウヤ/富士見ファンタジア文庫
02/04 『ラキスにおまかせ すべては勅命のままに』 著者:桑田淳/富士見ファンタジア文庫


2003/02/09(日)Missing6 合わせ鏡の物語

(刊行年月 H14.10)★★★★☆ [著者:甲田学人/イラスト:翠川しん/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  日常の中において大部分の人間には知られる事のない異常性――これが学院の水面下で 息を潜めつつ徐々に染みが広がるように波及しているような、そういうひたひたと忍び寄 る見えない恐怖感を描いて読み手に与えるというのが本当にうまいです。  しかも今回は現実のどこにでもごく身近にある鏡が怪異のテーマとして扱われてるから、 あくまで物語の中での出来事と言い聞かせてみても、実際にあり得るんじゃないかと思わ せられるリアル感が堪らない。例えば小さい頃ドラえもんの鏡の中の世界に入り込む事の 出来るひみつどうぐを見て“本当にその向こう側へ行ってみたい”と思ったり、例えば小 さい頃家にあった鏡台を凝視してこちら側と向こう側で何処か違う箇所が無いかと一生懸 命探してみたり……他にも幼少の頃のものが多いけど、そういう記憶が自分の内側からせ り上がる様に甦ってしまいました。  そして読了した後に残ったのがまさに鏡に興味を示すその感覚。何もないとは分かって いるのにちょっと直視し難く、でも気になって気になって仕方がなくて何かに引き摺り込 まれるようにダメだと警告を発していても鏡から目を逸らさずには居られなくなってしま う……ってのは作中のもので現実に持ち込むには少々オーバーかもしれないですが、この 物語から現実に戻った時、近くに鏡があって自分を映す機会があるなら少なからず意識し てしまうんじゃないかなと。そう意識を向けさせる見せ方に脱帽です。  次回と合わせての前後編作、今回は異常な事件の発端から本当の意味での幕開けまで。 詠子辺りは次巻で出てくるだろうと予想してますが……さて? ちなみに俊也が危機に陥 るだろうという予想はハズレで、前巻からの武巳が引き続き持ち越し。実は今回だけでは 何一つ事態が明確に見えていないので、どれだけの恐怖感を伴って武巳や他のメンバーに 『異界』が迫るのか? 詠子はどう関わってくるのか? 後編が非常に楽しみです。  既刊感想: 2003/02/07(金)海洋叙事詩 メルヴェイユ
(刊行年月 H14.10)★★★☆ [著者:中村浩二郎/カバーイラスト:moo/口絵・本文イラスト:UTCHIE BLOODMORE  /メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  7つの艦隊にそれぞれ1人ずつのメインキャラクターが7人、それからメインキャラに 深く関わるサブキャラが6人と13人組と1匹で、主要キャラは13人と13人組と1匹 の大所帯。面白いのは固定された主人公キャラってのが居ない事で、それに当てはまると すればメインキャラである7人全員。誰もが主役を張れる個性と存在感と魅力を持ってい て、冒頭のキャラ紹介やイラストの助力はあれど、これだけ大人数が作中でひしめき合い ながらしっかりキャラの書き分けが出来ている所はうまいと思います。  7人の思惑はそれぞれ色々だけど、目的は共通して『メルヴェイユ』なるものを目指す 事。それはある者にとっては希望の楽園だったり別の誰かにとっては貴重な財宝だったり と解釈は様々。で、それを示す鍵と言われてる『波のかけら』を求めて7人が競い合う= 7つの艦隊戦が繰り広げられるわけですが、“敵艦は傷付けても人間を傷付けるの禁止” みたいな約束事があって、その上で海上のドンパチが成り立ってるから緊張感のカケラも ありゃしないです。  ……とは言っても作中の雰囲気が終始ほんわかまったりなので、逆に激しさ極まりない 戦闘描写は似合わないのかな、と思うとこれはこれでいいのだろうと許容出来てしまえた りも。本来同じモノを奪い合う敵同士であるはずなのに至る所で仲良く行動してる辺り、 緊張感やシリアス風味を求める自体が、この物語の楽しみの妨げとなる“余計な事”かも 知れないです。敵=好敵手であり目的を共にする仲間意識、艦隊戦=スポーツ競技……な んて感じで解釈すれば、多少強引なれど納得ゆくのではないかなと。  元々Web上で展開された読者参加型ノベルで、その連動企画として刊行されたものだ ったそうな。となると単発限りで続きは出ないのかな? これだけ人数多ければまだまだ 様々なエピソードが描けそうだし、キャラクターの素材が良いだけに何か1冊で終わらせ るには勿体無いような気もするんだけどなぁ……。 2003/02/06(木)攻撃天使1 〜スーサイドホワイト〜
(刊行年月 H15.01)★★☆ [著者:高瀬ユウヤ/イラスト:森田柚花/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  第14回ファンタジア長編小説大賞『準入選』受賞作。  う〜ん……とりあえず単に個人的嗜好ですが、奈生は“女の子っぽい男”じゃなくて普 通に女の子な設定が良かったなぁ。何て言うか、芹也や終盤の緒原との絡みがどうにも狙 ったように○○○臭くて引いてしまったので。この描写で意図的じゃないとは言えないよ うな気も……もっともこの辺は好みに左右されるので、あまり読んで感じた作品内容の良 し悪しとは関係してないけれども。  問題なのは世界観にしても背景描写にしてもキャラクター描写にしても、とにかく文章 表現力が圧倒的に不足してるんじゃないだろか? と思わずにはいられなかった事。これ は一部分的にではなくあらゆるシーンにおいて。その上であっちこっちにころころと目ま ぐるしく視点が移り変わるもんだから落ち着きがないだけの文章と感じてしまって、ただ でさえ掘り下げが弱いキャラクターに感情移入するどころじゃなかったです。  せめてもう少し百川メインで彼の視点から感情表現をぐぐっと押し出して、過去の回想 やら彩との関係やら中嶋との因縁やらを重視して見せてくれていたらならば、きっと惹か れる要素は少なくなかったはず……と思うのですが。  結局は物語の核心である彩を利用してどうこうするとかの“コードW”でさえ、やろう とする事は分かっても肉付けが足らないので全然噛み応えがなく味気ないという印象しか 残らなくなってしまう。これは過去に起こった事の描写についても同様。やたらと説明過 多なのもどうかと思うけど、知りたい事が読んでいて伝わって来ないのはそれ以上にどう かと思う。少なくともこの作品内容から巻末解説で言ってる、「キャラが立ってる」とは とてもじゃないけど思えなかったです。どうやら続編も予定されてるようですが、それと 合わせたら上方修正されるのだろうか……という微かな期待はやっぱり受賞作なので。 2003/02/04(火)ラキスにおまかせ すべては勅命のままに
(刊行年月 H15.01)★★★☆ [著者:桑田淳/イラスト:秕帷苓/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  第14回ファンタジア長編小説大賞『佳作』受賞作。  ううむ……なにはともあれ思ったのは、前半部分と後半部分の見せ方が両極端でバラン スがちょいと良くなかったかもという事。前半は帝国の舞台背景やら内部情勢やら役職の 勢力関係やら、ずらずらっと設定を説明調に並べ立てて書く事に重点を置いているので、 物語がちっとも進まなくてテンポが悪くてタルい感じ。そういうのはストーリーを進行さ せる上で自然に溶け込ませように挿入してくれると流れが良くなると思うんだけど、序盤 で設定を理解させる形で詰め込み過ぎてるから読んでいてちょっと疲れたかな。  逆に後半はテンポがいいを通り越して少々急ぎ過ぎ。最初のコメディな雰囲気と中盤以 降の重苦しい雰囲気の落差が気になる所でもあったのですが、駆け足で走り抜けてしまっ てるから、ラキスの心情が前向きから落ち込み悩むに移行する過程が唐突だったかなとい う印象。三神聖教の野心や官僚勢力との対立にラキス達が否応無く巻き込まれてゆくのを もっとじっくり描いてくれてたら……何となく惜しいなという気持ちでした。  ただ全体バランスの問題でタルいとは言えど、個人的に前半の説明調な描写は決して嫌 いという訳ではなくて、それはひとえに帝国に関する設定の奥深さの賜物。この作品は世 界観や舞台背景が実に練り込まれていて、半端じゃない奥行きを感じさせてくれる……確 かに見せ方には引っ掛かったけれど、そこに一番唸らされたのも間違いじゃないです。  キャラクターに関してはラキスは好感持てたし印象強くて良かったけど、他は仲間も敵 も立て方が弱かったかな? これも急ぎ過ぎなのが原因のひとつだとも思うのですが、個 人的には全編コメディ色の方が良かった。前半がそういう雰囲気だったから、少なくとも ラキス側はもっと活きてたんではないかなと。まあキャラの好感度はそこそこなので、陛 下の勅命でも何でもラキス達の別のエピソードってのも読んでみたい。


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