NOVEL REVIEW
<2003年03月[中盤]>
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03/20 『撃墜魔女ヒミカ』 著者:荻野目悠樹/電撃文庫
03/18 『月と貴女に花束を remainsI』 著者:志村一矢/電撃文庫
03/16 『天国に涙はいらない7  魔女爺合戦』 著者:佐藤ケイ/電撃文庫
03/15 『毛布おばけと金曜日の階段』 著者:橋本紡/電撃文庫
03/14 『ユーフォリオン』 著者:高瀬美恵/電撃文庫


2003/03/20(木)撃墜魔女ヒミカ

(刊行年月 H15.01)★★★☆ [著者:荻野目悠樹/イラスト:近衛乙嗣/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  空軍基地が背景にあってキャラクター達が戦闘機を駈る航空士でありながら、想像して た敵国との派手な空中戦が繰り広げられるというものとは一味違った物語。  あくまで中心に据えて描こうとしてるのは魔女と謳われるヒミカの異質な存在感そのも ので、随所に航空士として敵を迎え撃つシーンはあっても、それは彼女の性質を際立たせ る為の手段に過ぎなかったのではないかなと。  実際ヒミカが何かしらに大きく関わりを見せて動く時は、空中で航空士としての姿では なく地上で魔女としての姿の方が多い。だから魔女であるヒミカの『撃墜』の対象は、空 を舞う誇り高い戦士達にではなく、地上に這いつくばる愚者共に向けられているような気 もします。ただヒミカの存在・思考・感情に至るまでが全く読めないので、それが意図的 かそうでないかは本人のみぞ知る所なわけですが。  こう迂闊に内面を覗き見ようとしても窺い知る事が出来ないばかりか手痛い返り討ちを 受けてしまいそうな雰囲気や、その行動の一切から感情を読み取る事は適わない謎に包ま れた部分など、ヒミカの他とは一線を画した存在感がうまく描かれていると思いました。  第四航空隊の他の隊員達――ハルミ、アカギ、シナノも、それぞれ1話ずつ見せ場を持 たせる事でキャラの特徴はしっかり立てているので、あとは更にヒミカと絡んで物語が展 開してゆけば自然とキャラクターの深い部分も見えて来るかと思うのですが……さて。  何にしても、ヒミカに関しては終章で宝石を集める行為に重要な意味があるというのが 分かったくらいで、その他はほとんど彼女存在自体が謎だらけのようなものだし。とにか くこのまま終わって欲しくはないので続編希望といった所。 2003/03/18(火)月と貴女に花束を remainsI
(刊行年月 H14.12)★★★★ [著者:志村一矢/イラスト:椎名優/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  本編で生き残った者達(一部例外あり)が中心となって語られている、外伝的な後日談 で続編という位置付け。何が嬉しいかって言えば、本編でヤラレキャラっぽい扱いだった ので何かと贔屓目で見ていた鷹秋が目立ってる事(とは言っても登場して初っ端から燐に 助けられてしまうヤラレっぷりは健在だったけど)。しかも燐と出逢ってからの関係がな かなかに良い感じだし。いきなり外伝になって台頭を表して出世したようで、こんなにう まく行き過ぎると後で色々難儀するのではと心配だったりします。  でも燐に惚れた時点で既に鷹秋は苦難の道を選択した事になるのかな? 由花のエピソ ードから、鷹秋や燐が戦っている『桜の妖魔』は院が追い始めてから5年経ってもまだ殲 滅出来ていないのが分かるので、本当の意味で燐の中に平穏が訪れるまで鷹秋はかなり長 いこと待たなければならない。もっともその内に何度も戦いを共にする機会はあるだろう し、何となくこの二人は戦いの中で最も通じ合える所があるような気もします。  燐に関しては本編と比べて随分雰囲気が変わった……とは言っても多くは桜の傀儡と成 り果ててた時のイメージなので、本来の彼女に戻ったと言った方が正しいのか。戦う相手 に対しての厳しさや研ぎ澄まされた鋭さなどは一緒だけど、全く逆に表情を和らげた時の 優しさを含んだ微笑みなんかは凄く新鮮で印象的でした。  どうやらメインは『桜の妖魔』と戦う部分になりそうですが、本編で詰め込めなかった ものを描いて補完するという点で実においしいエピソードが多いなと思いました。特に睦 美はこれまで単に“鷹秋の妹”という括りだったのに、この外伝では非常にキャラが立っ ていて、それは顕著に感じられた『いつか、あの背中に』も良かったです。  由花は“著者のお気に入りなので出してみました”感があったかも。どちらかと言えば 直純の方が主役という印象で、由花は直純の性格や心情を際立たせる為の脇役。なので由 花のエピソードを見せたかったのではなく、由花の成長した姿を見せるのが目的だったの かなと。年相応に成長した可愛らしさや性格などはイラストを含めて存分に見れたので良 い感じでしたが、今度は由花がメインの話も読んでみたい。『桜の妖魔』を追って鷹秋や 燐や睦美などと絡んでくれると更に嬉しいのですが……どうなるでしょうね。  それから鷹秋や燐とは反対に真矢は出番の少なさからあまりに不遇過ぎたり、縁は『雪 の眠り』で主役を張ってたけど幸せとは遠い場所を歩んでいたりしてるので、この二人に は是非とも活躍出来る舞台を与えて欲しい所。  静馬のエピソードは外伝の中での番外編。本編以前の話になるので当然鷹秋や燐や『桜 の妖魔』とは一切関わりないですが、こんなにも長所にも短所にもなり得る彼の優しさを 今見せられてしまうとやるせない気持ちになってしまう……。  既刊感想: 2003/03/16(日)天国に涙はいらない7  魔女爺合戦
(刊行年月 H14.12)★★★ [著者:佐藤ケイ/イラスト:さがのあおい/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  作中での存在感からして主役がたま&律子、準主役が真央、ゲスト出演が萌えキャラ魔 法少女サラとセバスティエンヌ、で脇役が賀茂&アブデルと言った具合。  今回は活動拠点が教会跡の中だけという限定的で狭いからって理由だけではないだろう けど、何だか全体的に小さくまとまってしまったような感じ。主人公の癖に賀茂の存在感 は相変わらず弱っちいですが、今回はアブデルのツッコミ役としてもあまり機能してなか ったみたいで、その上ゲスト萌えキャラが賀茂に全然絡まない。  となると盛り上がりを見せるにはもうアブデルの萌えキャラへの妄想と暴走に頼るしか ないというに、それさえもサラと出逢ったのが中盤くらいだったせいか、余計なウンチク はいつも通り喋ってたくせに萌えに対しての熱き想いが不完全燃焼だったような……。  折角の魔女っ子も、魔法が苦手な落ちこぼれ王女さまでは見せ場になりそうな魔法シー ンをわざわざ潰してるようなもんで、設定としては勿体無いんじゃないかなと。もっとも そこら辺は、後半たまとの契約で魔法使うシーンが幾つか存在したので巻き返しの見せ場 もありましたが。セバスティエンヌにも見せ場をもうちょい与えて欲しかったのと、サラ の印象が何となく弱かったので、もっと派手に突っ走ってくれた方が良かったかな?  逆に律子はとってもおいしいキャラで紛れもなく名脇役。ちょっとしか出なかったけど おいしいシーンを持って行ったみきも同様。多分サラってキャラが弱かったのは、存在感 を律子に食われちゃってる影響もあるだろうと思います。    このシリーズは一応主人公である賀茂の存在感を引き上げるか、賀茂とたまとのラブコ メ展開にもつれ込ませるか、アブデルを個性的な萌えキャラに対して思いっきり暴走させ るかしないとイマイチ盛り上がらない。今回はそのどれもが控え目だったかなという印象。  しかし毎回萌えキャラがヒロインのように登場するので、そのキャラが賀茂に絡まない 限りたまとのラブコメ話にはなり難いのかも知れない。  既刊感想: 2003/03/15(土)毛布おばけと金曜日の階段
(刊行年月 H14.12)★★★★☆ [著者:橋本紡/イラスト:ヤスダスズヒト/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  『リバーズ・エンド』にあるような勿体つけた伏線やら謎やらの全てを取っ払って、素 直に少年少女の心情を描けばこういう感じになるのかなという印象。元々ティーンエージ ャーの微妙な心の揺れ動きを描く部分が非常にうまい方と思っていたのですが、今回はそ の辺りが未明と和人を通じて実によく表れてます。  特別に目を引くような設定や仕掛けがあるでもなく、基本的には本当にごく普通に日常 風景が流れる中で、未明や和人がちょっとした恋の悩みに引っ掛かり深みにはまってしま い迷い葛藤するというもの。ただそのありふれた雰囲気が温かく心地良く、至る所で二人 の心情がじっくり丁寧に描かれているので、読んでいて様々な気持ちの変化をしっかり手 応えとして掴む事が出来る。  すぐに自分の心に線を引いて諦めてしまう癖のある未明が同性のクラスメイトに恋して 思い悩み土壇場で諦め癖を投げ捨てて告白するシーンや、和人が年上の彼女(未明の姉の さくら)に視点を合わせようと背伸びしてしまうシーンなど、妙にくすぐったかったり微 笑ましかったりでいいなーという感じ。二人の一人称文体も良い感じで効いてました。  それから日常から切り離された空間を描いているのがこの物語のもうひとつの顔。未明 と、和人と、金曜日に両親が死んでしまった影響で金曜日だけ心が壊れて毛布おばけと化 してしまうさくらと、毎週金曜日に階段の踊り場で催される3人だけのお茶会。  この最も日常からかけ離れた場所でこそ、最も身近に『家族』という言葉の存在を感じ る事の出来る未明が最も好きな場所なんだというのがよく分かる。だから姉に元に戻って 欲しいと思う反面、もし戻ってしまったらこの空間に二度と入り込めなくなるのが嫌、と いう姉に対して負い目を感じてしまう気持ちを抱かずにはいられないのかも。未明と和人 がこの場所でさくらの事を想う気持ちの大きさも感じられて良かったです。  あとがきにこの話はこれで終わりとあったけど、続き書いて欲しいなぁ……。 2003/03/14(金)ユーフォリオン
(刊行年月 H14.12)★★★☆ [著者:高瀬美恵/イラスト:みきさと/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  一度死んで数時間後に生き返るという臨死状態を体験出来る薬『ユーフォリオン』を軸 に展開してゆく物語。まず何はともあれこの薬の発想や見せ方使い方が面白い。  学校に行けば苛められっ子で家族ともうまく付き合えてない……そんな空音が死に対す る興味からユーフォリオンに出会い、それが切っ掛けとなって心を変化させてゆく過程が よく描けてるなと思います。半ばキレたように捲くし立てて苛めっ子をボロクソに貶すシ ーンは、痛快であると同時にドロドロと渦巻く空音の心の闇が垣間見れたりも。  最初から存在していて服用すれば年齢制限あれど100%臨死状態になって生き返る事 が可能、という設定なのでこれ言ってもしょうがないんだけれど、読んでいて『一体どう いう方法で生み出され製造されているのか?』と思わず四条や鷺沼に問い詰めたくなって しまいました(架空のものなので明確な答えがないのは当り前ですが)。  でも架空とは言えもしも現実にこういう薬が存在するなら……と、ついつい考えさせら れてしまう所が興味深くて、何となく読み手をそういう思考の深みにはめるような著者の 意図が見え隠れしているような気も。ちなみに飲みたいか飲みたくないかと問われれば、 今の心情では薬での臨死体験で何が見れるのか興味はあっても、恐いもの見たさで飲みた いとまでは思わないかな?(それ以前に年齢制限で引っ掛かるけど)     話の内容としては、もっと見たかったとか描いて欲しかったなどのエピソードが結構あ って、ちょっと食べ足りないという感じ。それは空音と汀の交流だったり、汀が保護され てからの四条と鷺沼との様子だったり、湊と汀の過去の生活だったり色々。続きがあれば 描かれなかった所を読みたいんだけど、ラストの意味深な描写に何かあるのかなと勘繰っ てみても結局ハッキリとは分からずじまいで……刊行されるかは微妙かも。


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