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07/08 『まぶらほ 〜ノー・ガール・ノー・クライ〜』 著者:築地俊彦/富士見ファンタジア文庫
07/07 『オッド・アイ1 時果てる都のエピローグ』 著者:星野亮/富士見ファンタジア文庫
07/06 『スプラッシュ!2 白の記録官、弾く!』 著者:三田誠/富士見ファンタジア文庫
07/05 『とりあえず伝説の勇者の伝説2 無気力のクロスカウンター』 著者:鏡貴也/富士見ファンタジア文庫
07/04 『虹竜娘子 月亮の天使』 著者:松下寿治/富士見ファンタジア文庫
07/03 『グランダイバーズ 不死者は、遠き故郷より』 著者:青田竜幸/富士見ファンタジア文庫
07/02 『A君(17)の戦争5 すすむべきみち』 著者:豪屋大介/富士見ファンタジア文庫
2003/07/08(火)まぶらほ 〜ノー・ガール・ノー・クライ〜
(刊行年月 H13.10)★★★☆
[著者:築地俊彦/イラスト:駒都え〜じ/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】
第3回『龍皇杯』の優勝作品で、ドラゴンマガジンでの連載版とは別の長編書き下ろし
シリーズの第1巻目。主人公のへなちょこ男に複数の女の子が好意を寄せるという、飽き
飽きするようなパターンがウリの内容ではありますが、読んでみて連載版と比べてかなり
方向性に違いが伺えるのにはちと興味を覚えました。
初期の頃だから夕菜、玖里子、凛の3人が和樹にべったりで過激な争奪戦を繰り広げる
までには至ってないのかも知れないけれど、連載版でメインに置かれている和樹の奪い
合い”が長編版ではメインとして置かれていないから、むしろベタなお約束的ラブコメ色
は随分と薄いです。玖里子がちょっかい出して夕菜の嫉妬心を煽るシーンも確かにあるに
はありますが、そこから火種が点いてしまうわけでもなし。あくまで和樹争奪戦はおまけ
というのか、二次的なものに留まっているのが連載とは決定的に違っている点。
長編の方は何となく最初から和樹と夕菜の結び付きが他の2人より強いような関係。夕
菜の中に眠る強大な魔力が鍵となっていて、それを狙う賢人会議”なる組織の刺客に追
われ襲われ、果てに傷つきながら守る者の為に必死で抵抗しようとする姿が描かれている
……サスペンス+アクション? 魔法での応酬や飛行機駆っての追撃戦、殺人に拉致監禁
にレイプ直前までの危機的状況まで様々。最初はもろにラブコメ風味なノリだけど、途中
からおかしくなってゆくのでラブコメ期待してると激しく肩透かし喰らいます。
が、その肩透かしが妙に心地良かったのは、連載版と全く別ものの雰囲気を新鮮に感じ
られたせいなのかどうか。案外良かったんじゃないかなぁと思えてしまいました。
それでも難点はちらほら目に付きましたが。一応最初の文庫化なんだから、たとえ長編
の内容とはあまり絡まないにしても(実際全く絡んでないんだけど)、せめてどういう経
緯で3人の少女達が和樹に付きまとうようになったかくらいは端折らずに掘り下げて描い
て欲しかった。夕菜だけはそれなりに描かれてるけど玖里子と凛は足りてないと思う。
あとは謎が多いわりに全然解かれず伏せられっ放しなので、隠し過ぎなのが不満で気に
なって仕方なかった事でしょうか。まあこの辺は黙って次巻を待てとなるのかな。
一つ、和樹を見直した点。命が掛かってるのに安易に魔法使ってた連載版とは違い、絶
体絶命でも魔法を使おうとしなかった所。本当は使うか使わないかの瀬戸際での葛藤をも
っと描いてくれたら良かったのですが。自力の一生懸命さは予想外で格好良いもの。
2003/07/07(月)オッド・アイ1 時果てる都のエピローグ
(刊行年月 H15.06)★★★☆
[著者:星野亮/イラスト:藤田香/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】
近未来の荒廃した街並に退廃した人々を当てはめ、行く末に夢や希望を抱く事さえ拒絶
させる陰鬱とした世界観を徹底して描き込み、それを読み手に見せて伝えて感じさせる事
に重視した物語。キャラクター描写やストーリー展開は二の次に、何はともあれ舞台背景
を深く濃く緻密に掘り下げる描写に全力を注いでると言っても大袈裟じゃない程。
物語の端々で「この世界観に浸らせ酔わせてみせる」なんて言う気概が感じられ、実際
に引き込まれ酔い知らされるような圧倒的な存在感で強く印象に残りました。
読んでいて文章に装飾過多な所がちょっと気になったのでもう少しスリムな方が良かっ
たりとか、雰囲気を重ねに重ね塗りして表現してるような所にくどさを感じられたりもし
ましたが。これは好みの問題で合う合わないってのも影響してくるような気もするし、濃
密な世界を強烈に印象付ける為の過剰表現はこの物語の持ち味だろうとも思います。
もっとも、世界観に魅了されたから物語が面白かったかと言えば、この作品の場合はち
ょっと違うのが微妙な所。これは仕方ないとは思いつつも言ってしまえば、主人公オッド
アイに感情移入し難かったのが大きかったのですよね。生き様に魅力はあるし存在感もあ
る、けれども無感情・機械的、感情を持つ事が死を意味する事自体が惹かれるには足枷と
なっているので仕方なし。話が進めば彼に対する印象も変化してゆくのかなぁ。
逆に感情を曝け出し剥き出しにしてるレイラ・ヴィータ、シャーリィの女性2人は非常
に好きです。ぐいぐい惹かれました。そのせいか終盤、特にシャーリィに関する事で「う
ーむ」と唸ってしまう。決して悪くはないんですけど……やっぱり「うーむ」。レイラ・
ヴィータはまあ今後も多分オッド・アイに深く関わってくるでしょうね。
レイラ・ヴィータにもシャーリィにもオッド・アイに感情を灯そうとする行為があって、
しかしその意図は全く異なって描かれていた所に興味深さを覚えたり。ハッキリしないの
はクレアの存在と、彼女とオッドアイとの関係。この辺は今後描かれる事に期待。
2003/07/06(日)スプラッシュ!2 白の記録官、弾く!
(刊行年月 H15.06)★★★★
[著者:三田誠/イラスト:PEACH-PIT/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】
今回はタイトル通り、運び屋としてエリシャとコンビ組んでるヴァイツハイトの記録官
・ドクター(本名 ロキ・ツァルクダイフ)についてあれやこれやとピックアップしつつ
展開されています。前巻だけではまだドクターの存在自体にかなり含む所があり、エリシ
ャの味方ではあっても謎を抱えた胡散臭い奴という印象が強かったけれども、彼の過去が
それなりに明らかになってゆくに連れて親近感が増して来たのは決して気のせいでは無い
筈。エリシャのドクターに対する感情表現が、それを最も証明してるものと思います。
普段キャンデーなめなめでのほほーんな雰囲気は一応最低限世間に適応する為のカモフ
ラージュ。パシパエの抱いた恐怖感がドクターの本当の印象を一番的確に表現していたの
かも。そんな彼を恐れる事なんてありえないだろうと思ってるエリシャと、逆に愛し続け
る姉と雰囲気の似た彼女に確かに惹かれているドクターと、お互いに相手を想う気持ちが
実にうまく描かれてるなと感じました。どちらかと言えばエリシャの感情の方が目立って
出てたかな?(ドクターの姉ヒルダの事を知った後ずっと続いてたもやもや感とか)
今後の展開で何を目的とし何処へ進むのか……という物語の方向性がしっかり手応えと
して掴めるような内容も好感触でした。こういうのをちゃんと見せてくれると、次巻以降
の盛り上がりや面白さを期待できるというもの。具体的にはヴァイツハイト国の『七選帝
候』なるものが、黄金郷と呼ばれる<モールドレ>を狙う事からエリシャ達が否応なしに巻
き込まれてゆくものと思われますが……さて?
グンナルが口にした“あのお方”=度々出てくる“あの女”=七選帝候の頂点『グルジ
エフ』の権力者、とは今回までに考えられる想像で全くの当てずっぽう。この辺はまだま
だ作中でも見えてこないので何とも言えない所がもどかしい。
新キャラ。パシパエ(巨乳あたふた少女)、ハインツ(七選帝候『ザルハイム』の嫡男、
意外といい奴)共に個性が出ていて良かったと思います。パシパエはドクターに深入りし
てるし、ハインツは結局の所ラストであれだし、なのでこれからも活躍の場を与えて欲し
い。お気に入りキャラのモニカも今回出番無しでがっくしだったので次こそは。
既刊感想:1
2003/07/05(土)とりあえず伝説の勇者の伝説2 無気力のクロスカウンター
(刊行年月 H15.06)★★★☆
[著者:鏡貴也/イラスト:とよた瑣織/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】
とりあえず勇者伝説の遺産でもさがしてみるかぁ〜でも毎回かったりぃよなぁ〜、とラ
イナの愚痴っぽい呟きがぽろぽろ聞こえて来そうで、逆に読んでるこっちも毎回かったる
いわいと返したくなるような内容。とりあえず形だけは勇者伝説の足跡をなぞる振りして、
実はライナとフェリスとで諸国巡りの観光を楽しんでいるとしか思えない短編集第2巻。
長編と同じような道筋を辿っているようで、単純に旅の進み具合を比較してみるとこっ
ちの方が随分リードしている。短編ばかりがずんずか先に進んでしまった場合、二つの進
行でどう折り合いつけてくのだろう? とは思うのですが、ある意味長編の内容無視して
何でもいい加減に無茶苦茶やれてしまえる所が「とりあえず」の魅力であり楽しさでもあ
るので、それ程足枷にはならないかな。それよりも今どの辺を旅していているのかハッキ
リ道程が描かれているのは、旅の進み具合が感じられず単にライナとフェリスのボケツッ
コミ&ミルク追撃の繰り返しを延々と見せられるよりは余程良いかと思います。
気軽に読めると割り切ればそれなりに楽しめる……かどうかは微妙なとこですが、珍し
くミルクが登場せず新キャラのエステラが割り込んで来たり(フェリスが船酔いになって
……する話)と、多少なりともパターン脱却の気配が感じられたのは良かったかなと。
最も印象に残って面白かったのが書き下ろしだったというのも前巻同様。何かやる気な
さげに適当に遊びながらまったり旅してる雰囲気を引き締めるように、窓を開けて新鮮な
空気が送り込まれたように思わせてくれる内容。過去に遡り、十歳のライナと少し年上の
暗殺者の少女との触れ合いを描いたエピソード。二人の中で妙に場違いな暖かい空気が流
れたのも束の間、待っていたのはどうしようもない悲しさとやるせなさと。それらがぐち
ゃぐちゃに混ざったライナの憤りがよく伝わってきました。今後の書き下ろしでもこんな
風に、まだ知られてない一味違った話を見せて欲しい(例えば次はフェリスの事とか)。
既刊感想:伝説の勇者の伝説 1、2、3
とりあえず伝説の勇者の伝説 1
2003/07/04(金)虹竜娘子 月亮の天使
(刊行年月 H15.06)★★★☆
[著者:松下寿治/イラスト:騎崎サブゼロ/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】
天界での叛乱から幕が上がり、天廷軍と叛乱軍との熾烈な争いが中心に据えられ、お互
いの立場から様々な思想・信念・感情と絡み合う人間関係などが描かれてゆく物語……と
最初思ってました。ところがそれは早とちりの思い違い、実は天廷軍と叛乱軍の争いが終
わった後で、そこから生まれた新たな問題や残された火種こそがメインとなって物語に影
響を及ぼすような展開で描かれてます。本来なら終盤のクライマックスシーンで挿入され
てもおかしくない両軍の壮絶な死闘を、いきなり初っ端に持ってくるような見せ方はなか
なか意表を突いたもので印象に残りました。
主人公の半人前仙女・緑雨の出番はその戦いの余り重要でない所から。一方で過激な戦
いを描いてるせいか、他方で勘違いから思いっきり行動思考が空回ってる緑雨の様子が何
だか余計滑稽に移ってしまって面白い。相棒の虹や飛鼠との掛け合いも楽しく、しかし笑
えるだけではない緑雨との深い絆も随所で感じられる関係が実にいいなと思います(飛鼠
は苦労が耐えずストレス溜まりまくりのようで、稀にキレかけな呟きがちょっと恐い)。
最初からシリーズ作として続編を想定されたような作りになっていたので、至る所で伏
線が敷かれ、あらゆる謎が残されたまま終わってしまったのには少々欲求不満を感じてし
まったりも。まあ端々で何となく理解出来る部分もあったし、大人しく続きを待てばいい
だけの事ではありますが。せめて緑雨がこういう道を辿る前に、九天玄女と炎帝の関係だ
けでも深い部分まで詳しく見せて欲しかったかも。このラストも続きを非常に気にさせる
締め方だったし、緑雨自身の出生についてもかなり気になるし、玉女と金童、緑雨に付き
まとってた二人組の行方も。色々気になる所が多いので続きが楽しみです。
2003/07/03(木)グランダイバーズ 不死者は、遠き故郷より
(刊行年月 H15.06)★★★
[著者:青田竜幸/イラスト:蓮見桃衣/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】
シリーズ第2巻。主人公3人の野郎どもを1巻ずつ主役に据えてゆくそうで、前巻は潜
り屋で『銃拳』の使い手ブロウ、今回は不死身の呪いを持つ賞金稼ぎのシェルが主役。
不死身の呪いを背負う事になった理由、それを解く為に強制的に遠い過去から引き連れ
させられている目的など、シェルと同郷で彼を良く知るエルマとの出会いを絡めて描かれ
てます。正直前巻から随分間が開いてしまってたので、読みながらようやく「こんな感じ
だったかなぁ」と思い返すくらいの手探り状態だったのですが、そういえば前巻でブロウ
以外のキャラの深い部分までには触れられていなかったかも。
当然シェルに関しても不死身である理由や過去の生い立ちとかの描写は皆無だった気が
するので、1つの長編で1人のキャラを掘り下げ、進むに連れて徐々に全貌が見えてくる
ような見せ方は面白いと思います(ちなみに次巻ではアンリが主役の予定。一番問題なの
は続きがちゃんと刊行されてくれるかどうかって事になりますが……)。
しかし今回……ブロウ、シェル、アンリの3人がかもし出す男臭い競演や、猛毒が充満
する荒廃した大地に多数の亜人種が存在する世界観の魅力と雰囲気、それから派手なパフ
ォーマンスで銃や拳を扱うアクションシーン、と前巻でいいなとか面白いなとか思った部
分の全てがパワーダウンで物足りないという印象でした。
単に頁が少ない=物足りないではないような気もする。ブロウが作中で散々愚痴ってた
けれど彼とアンリの扱いが脇役以下で、連鎖して派手に動き回り敵をぶっ飛ばす爽快感が
余り得られなかったせいなのか。それともシェルとエルマが抱いていた過去に関する出来
事の描写がやや弱いと感じられたからなのか。深入りするまでには至らないアッサリ感が
多かったから、どれもあともうちょい突っ込んでくれたら良かったのかな? 笑える所も
あれば回想に染み入る所も結構あったので余計に惜しい気持ちが強かったです。
既刊感想:三匹、荒砂に舞う
2003/07/02(水)A君(17)の戦争5 すすむべきみち
(刊行年月 H15.05)★★★★
[著者:豪屋大介/口絵・本文イラスト:伊東岳彦・北野玲&モーニングスター
/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】
直接的には3巻からの続きって事になるのでしょうか。それまでの流れをズッパリと寸
断して、全く別次元の展開で描いてみせた4巻の内容には思わず拍手でしたが、余りに突
拍子無さ過ぎて開いた口が塞がらなかったのもまた事実感じたもの。
本筋から脱線してまで描いた事に何の意味があって、そしてこれからの展開にどう影響
を及ぼすのか? この辺り、本編での戦争と剛士の動向以上に気になりつつ楽しみな要素
で、今回何か関連する手掛かりは描かれてないものかと読み進めていたのですが……はい、
最後の最後にありました。しかも最初に抱いた感想が4巻と全く同質のもので、端的には
「なんじゃこりゃ?」な内容。それが何を意味するかは未だにさっぱり掴めないけれど、
ほのかの名前が出され彼女の口から剛士の名が紡がれた事は、無視出来ない関連性を示し
てると取れるのかも知れない。時々ふと考えるのは、剛士が飛ばされてしまった世界は結
局の所彼にとって何なのかという事。異世界の現実? 願望から構築された夢の世界?
それとも単なる妄想の産物? 何らかの世界に影響を及ぼしているようなほのかが、剛士
が体感してる世界の真実を紐解く存在もような気もします。この物語に関しては、何の意
味も無い異世界は決して描かないだろうと思っているですが……さて。
まあ今回で上記に関連するのは僅かな一部だけで、大部分はこんなのじゃないです。
事ある度に立ち止まりクドいくらいに深くねちねちと掘り下げて描く様は、さながら剛
士の思考回路の如く。今回は政治政策や戦略立てなど頭をこねなきゃならない局面が多か
ったせいかどうか、それが顕著に表れていたかなと感じました。立ち止まる時間が長いか
らこれだけの厚さでも一冊で収まらないんでしょうよ、と毎度の事ながら突っ込みたくな
りましたが、ねっとり濃くなってしまう描写は好きなのでむしろ望む所。
新キャラ・フィラの介入で隣国の動きなどもちらほらと見え始め、今後は魔王領対ラン
バルトだけに留まらない広がりを見せてくれそう。剛士も戦争をやってるんだとハッキリ
自覚した事で、いよいよ戦いに臨む本気の覚悟が感じられたりと、これからの盛り上がり
を予感させる見所が色々あって面白かったです。ただスフィアが徐々に精神不安定になっ
ているのが妙に嫌な感じで気になる。もし張り詰めた糸がキレたらどうなるやら……。
既刊感想:1、2、3、4
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