NOVEL REVIEW
<2003年07月[後半]>
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07/31 『マリア様がみてる 涼風さつさつ』 著者:今野緒雪/コバルト文庫
07/30 『VS−ヴァーサス− file1 始動!超科学特殊捜査班』 著者:麻生俊平/富士見ファンタジア文庫
07/29 『カオス レギオン01 聖双去来篇』 著者:冲方丁/富士見ファンタジア文庫
07/28 『トワ・ミカミ・テイルズIII 蒼き破壊の陽、東の地より昇る』 著者:日下弘文/富士見ファンタジア文庫
07/27 『ワイルドキティ1 あたしの自由を自由にさせて!』 著者:神代創/富士見ファンタジア文庫
07/26 『ギャラクシーエンジェルEX』 著者:水野良・柘植めぐみ/富士見ファンタジア文庫
07/25 『キノの旅VII −the Beautiful World−』 著者:時雨沢恵一/電撃文庫
07/24 『AHEADシリーズ 終わりのクロニクル1<下>』 著者:川上稔/電撃文庫
07/22 『AHEADシリーズ 終わりのクロニクル1<上>』 著者:川上稔/電撃文庫


2003/07/31(木)マリア様がみてる 涼風さつさつ

(刊行年月 H15.07)★★★★ [著者:今野緒雪/イラスト:ひびき玲音/集英社 コバルト文庫]→【
bk1】  シリーズ第14巻は、前巻から交流と準備段階が続いていた花寺の学園祭本番。この時期 だけかも知れないれど、登場キャラに男の割合が多くなっていて、しかも今回男子校の学 園祭がメインとなってるせいか、男性諸氏(登場キャラにしても実際の読み手にしても) にとっては物語に入り込む敷居が随分低くなってたんじゃないかなという印象でした。  踏み込む事の許されない乙女の園を遠くからひっそり眺めてるだけだったのが、幾度か 彼女達と交流する機会を得た事で、近寄り難い存在だったのがずっと接しやすく身近に感 じられるようになった……と花寺生徒会の男どもが思ったかどうか。少なくとも今回は女 同士あるいは姉と妹の振れ合いを描くよりも、男子生徒と薔薇さま方――とりわけ男が苦 手な祥子との交流を描く事を意図していたような展開だったかも。  花寺もリリアンも普段は異性の介入しない生活圏で過ごしているものだから、仕切り直 しで事前の交流会でも本番の花寺学園祭でも、お互い見慣れない相手に対する反応の珍妙 さが可笑しくて面白かったです。特に祥子は表面上で平然としてても、内心の焦りっぷり は普段の毅然とした態度からかけ離れた反応で、祐巳が普段以上に気に掛けてた珍しいほ どの頼りなさには可愛らしいとさえ思えてしまいました。しかしそんな状態だったのにラ ストシーンではしっかり面目躍如で、これぞ祐巳のお姉さまと言わしめる行為を見せ付け てくれて、幸せな祐巳の気持ちに感化されて思わずにんまり。  花寺の男達は益々作中で幅を利かせる独特の個性を発揮しつつ、それでもさすが生徒会 メンバーと言うべきか、真剣な場では真摯な態度で臨む姿がなかなか好ましい。薔薇さま 達に嫌悪感を抱かれなくて良かったね、と言った具合。しかし祐麒が“あの”役職とは驚 いた。いや、言われて納得な所が大きかったんだけれど、学園祭では役職負けしないだけ の数々の見事な立ち回りは好感度アップに繋がる格好良さでした。  それから花寺学園祭の間に事件がひとつ。祐巳を信者のように神聖視する、行き過ぎた 思想を持った下級生の女生徒の登場。祐巳も狙われる?立場になったんだなぁと妙に感じ 入る所はありましたが、肝心の相手である可南子は今後のサブメインになるのかと思いき や、登場も退場も何となく唐突な気がして、挿絵が存在しないのも含めてちょっと勿体無 かったかなと。祐巳と由乃に妹作りを意識させようとするのを見せる為に、今回限り登場 させたキャラなのかは分かりませんが、これならこれで今回の花寺とは別に独立させて見 せて欲しかったかなという思いでした。それにしても祐巳の妹話がちらほら囁かれてる辺 り、近い内に現実味を帯びた何らかの動きがあるのかどうかも非常に気になる所。  既刊感想:マリア様がみてる           黄薔薇革命       いばらの森              ロサ・カニーナ       ウァレンティーヌスの贈り物(前編)  ウァレンティーヌスの贈り物(後編)       いとしき歳月(前編)         いとしき歳月(後編)       チェリーブロッサム          レイニーブルー       パラソルをさして           子羊たちの休暇                  真夏の一ページ 2003/07/30(水)VS−ヴァーサス− file1 始動!超科学特殊捜査班
(刊行年月 H15.07)★★★☆ [著者:麻生俊平/イラスト:硝音あや/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  テロ事件で理不尽な死を遂げた兄と、兄が関わっていたプロジェクトの秘密を狙い一家 抹殺の危機に晒され心と身体に重傷を負わされた両親と妹の仇を討つべく、鷹匠次郎が戦 いに身を投じる変身ヒーローアクションストーリー……のプロローグ的な内容。  兄・勝也が背負う筈だったものを受け継ぐ形で、戦う力を得る為(最終的な選択として は生き延びる為)に次郎のバックアップ&サポートで味方となるのが超科学特殊捜査班、 通称《ヴァーサス》。敵は外界へ漏れてしまった超科学技術《流出技術》と呼ばれるもの を利用して、破壊の限りを尽くすテロ組織。両者の対立関係は明白ですが、実はハッキリ してるのはその1点だけ。味方のヴァーサスはまだ見えない所で内部での人間関係が色々 複雑そうだし、敵に至っては組織の存在や規模や目的からしてなんら詳しい事が描かれて いない。実際に噛み砕いて理解できるのは一握り程度でしょうか。  ただ、様々な事柄が明確でないだけに断片を掴みながらの想像・予想は非常に大きく膨 らみます。例えば要と蒼の間に浅からぬ繋がりがありそうで、更にそれを敵でありながら 詳しく知っている風な水島苑子ともまた何らかの因縁が絡んでいるような気も……という 感じで。人間関係にしても変身に関する科学技術の設定などにしても、散りばめられたヒ ントを手繰り寄せつつ、先の展開を予想して想像にふけりながら読み進めてみるのもまた 一興。何せこれ1冊掛けてが序章なだけに、まだ本当の面白さを見出せてはおらず、隠さ れてる要素も多いので、ついつい想像による期待感だけが先走ってしまうのですよね。  変身については、そうする為に必要な科学技術が体内に注入されて出来上がったもの、 と解釈していいものかどうか……この辺もまだ理解に追いついてない部分があるかも。  今回は次郎に能力を得る為の措置、《V1》ユニットを移植する所までしか描かれてな かったので、彼には状況を何とか把握しようとするのが精一杯。だから戦いの中で燃える よな興奮を感じられるにはまだまだ及ばず。真相が見えてからの次郎と蒼のコミュニケー ションも極端に少なかったので、その辺も合わせて次巻以降でじっくり描いて欲しい。 2003/07/29(火)カオス レギオン01 聖双去来篇
(刊行年月 H15.07)★★★★ [著者:冲方丁/イラスト:結賀さとる/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  ドラゴンマガジン連載分をまとめた中編『在りし日の凱歌』と、書き下ろし中編……と 作者さんは言ってるけど実質長編に値する分量の『シャイオンの怪物』の2本立て。両方 共に現在を歩み未来を見据えながら、主にジークに関する事で過去を振り返るシーンが描 かれていますが、どちらも現在と過去の交錯する展開が絶妙に良い感じでした。 ・在りし日の凱歌  前巻『招魔六陣篇』ラストから直結する内容で、表向きは<見守る者>の能力に開眼した ノヴィアが、<銀の乙女>として正式に称号を得る為の審査に臨むというエピソード。その 実、真に軸として描かれているのは、彼女がジークの従士として共に歩む為に示さなけれ ばならない回答を、迷い悩み考え抜きながら懸命に自力で得ようとしている事。  か弱く一途で純真な優しさに溢れている……なんてのが、一見してノヴィアのイメージ として形になり易い大体の要素でしょうか。しかし“か弱い”だけは大きな間違い。かつ ての盲目による制約や恐怖感などの経験が影響しているのか、この娘はちょっとやそっと の難関に当たった所で全く折れません。むしろ今回はノヴィアの何処にこれだけの心の強 さが存在するんだろう、と驚くばかりでした。特にそう感じたのはジークと向き合い自ら の答えを行動で示して見せたシーンで、男女問わず生半可な決意と覚悟じゃこんな事出来 やしないだろうと思わされたから。こういう強さをまざまざと見せつけられてしまうと、 「頑張れ、ノヴィアちゃんっ!」→「はいっ、頑張りますっ!」でお馴染み“自分で自分 を激励”の言葉も、苦笑に似た微笑ましさだったのが物凄く頼もしく思えてしまう。 ・シャイオンの怪物  ジークにとって過去の因縁が深く絡んだ聖地シャイオンでの一幕。こちらはメインキャ スト(主にノヴィア)の掘り下げも終わって、ドラクロワを追う為の旅が本格化してきた かなという印象。不気味なまでに強調された平和が目立ち、確かに何かありそうなんだけ ど中盤までは何事も無いような所が妙に歯痒く、やけに先が気になるなと思わせながらぐ ぐっと引き込んでくれました。平和に至るまでの過去の惨劇にジーク、ドラクロワ、シー ラの関わりを絡めつつ、現在でのロムルス、レオニス親子の確執から歪んだ感情の行き違 いが実に面白く描かれていて良かったです。レオニスとノヴィアの関係は微妙な所で「結 局どうなんだ?」と明確な答えは出ないままでしたが、ここまで思わせ振りに幕引きして くれたからには、おそらくレオニスは再登場してくれる事でしょう。そうなって欲しいし、 その時にはまた新たな真相が描かれるものと信じて続きを待ちたいです。  既刊感想:聖戦魔軍篇       0 招魔六陣編 2003/07/28(月)トワ・ミカミ・テイルズIII 蒼き破壊の陽、東の地より昇る
(刊行年月 H15.07)★★★☆ [著者:日下弘文/イラスト:宮城/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  辺境の都市ガズラウェルの皇となり蜂起したリュカの第一歩。前巻からの続きで、帝国 の襲撃と内乱によって陥落させられた近隣国ローレンシア奪還戦の決着までが描かれてま す。気になっていた所で“大きく広げ放った物語”は果たして破綻無く展開してゆくのか どうか……。今回の印象で言えば確実に見せ方が上手くなっているように感じられました。  元より世界観や背景描写は丁寧に作り込まれているし、ストーリーも先を見越してしっ かり練られているようなので不安感も大分萎み、リュカの遥かなる指標もおぼろげながら 形を成し始めたようで、今後の盛り上がりに期待感も大いに膨らみます。  ……しかし今回はいきなり冒頭から出鼻を挫かれたような感じで、前巻感想のネタバレ 部分で思わず想像して書いてしまった事が冒頭で完全に覆されてしまいました。  以下ネタバレで、だって毒矢を喰らってゼネスに剣でざくざくざくざく刺されたフェー ネのあの状況じゃ、どう考えてもゼネスに殺されてしまったとしか思えないじゃないです か。それなのに今回思いっきり生きていたのを見て「全然大丈夫じゃねーかよ」と半ば唖 然としてしまいましたとさ。まあその分無事でホッとして良かったよ〜という思いの方が ずっと強かったけれど。最初これに納得いかなかったのも、ラストでゼネスの真意を聞い た時に「なるほどそういう事だったのか」と。この辺は説得力のある締めで満足でした。  今回は特に世界創世に関わる女神アルテマと破壊神シーヴァの伝説が、現世の争いにも 深く影響を与えていると描かれていたのが興味深く、また今後の焦点の1つとなるであろ う女神とヴァルナの過去との関係や、敵方のアル・ダークの動きも大いに気になる所。  既刊感想:II 2003/07/27(日)ワイルドキティ1 あたしの自由を自由にさせて!
(刊行年月 H15.07)★★★☆ [著者:神代創/イラスト:フミオ/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  思春期反抗期少女・キットが両親(特に母親)に対する不満ぶちまけて、他の星へと家 出を決め込んで旅立つまでを描いたお話。キットにとっては胸ときめかせ自由を得る為の 大いなる船出になるはずが、いきなり出鼻を挫かれてしまうかのようにハイジャック犯に 巻き込まれてしまう、というもの。非常事態の最中で犯人どもと船内&船外で大立ち回り を演じるキットの行動が、作中で一番大きな見せ場となっているでしょうか。  専用の携帯端末《ワイルドキティ》を随所で駆使しながら、あっちに走ってはこっちに 潜んでそっちで敵さんとドンパチやってはまたあっちへ走って……と、キットがとにかく 目まぐるしく動き回り引っ掻き回してくれる。性格的なもののせいか、本当に絶体絶命に 陥るまではやや緊張感に欠ける所があるけれど、そんなのもポジティブ思考の個性であり キットの持ち味としてしっかり存在感が描かれていて良いなと思いました。  キットの行動姿勢などもちょっと捻くれていて、純粋に人質を助ける方向へ進んでいる のではなく、あくまで両親にバレたくないが為さっさと面倒事を片付けてしまおうと一生 懸命になってる辺りが面白い。何せハイジャック犯から父親のギネスンを人質に要求され てる事を知っても、「父ちゃん大丈夫かな……」と心配するより「いかん、このままじゃ 父ちゃんに家出がバレてしまう」と焦ってしまう娘なので。どれだけキットが見てた家庭 環境が歪んでいたか知れようというもの。ただお互い本気で嫌悪してるとかギスギスして るってのとはまた違い、キットが母親の仕打ちに拗ねてるという方が近いのかも。  しかしキットのキャラ立ては実に良い感じなのですが、どうも他の設定や展開で既存の 作品と被るような所があちこちにあるような気がしたせいか、イマイチ魅力を感じられず 乗り切れませんでした。言い換えて、これぞと思わせてくれるようなこの物語ならではの 持ち味が物足りず弱い。無難で不満は少ないんですが、手放しで凄く面白いと言える所も また少なかったのですね。魔法が使える事で都合良く危機を脱してしまい過ぎなのはもう ちょい何とかして欲しいですが……。まだ旅立ったばかりなので次巻の内容次第かな。 2003/07/26(土)ギャラクシーエンジェルEX
(刊行年月 H15.07)★★★☆ [著者:水野良・柘植めぐみ/原作:ブロッコリー/イラスト:重戦車工房              /富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  著者が二人ですが、中身はと言えば柘植めぐみさん執筆のドラゴンマガジン掲載分短編 集分収録が大部分で、水野さんのは最後に短編が一本だけ(それもPCゲームのブックレ ットに掲載されたもので書き下ろしじゃないし)。2ではなくEXとなっているのも、解 説でご自身が『正史』と言われている水野版GAではなく、それに対して『外伝』のよう な位置付けの柘植版GAだからって事なのでしょうか。どうやら2巻も出版する意気込み はあるらしいのですが、果たしていつになるのやらで気の長い話になりそう。  同じ設定同じキャラクターで、執筆者が違えばまた作品の雰囲気も随分違ってくるもの だなと感じたのが大きな所。好みによってもあるでしょうが、今回の柘植版GAの方が断 然好きです。とは言っても、一番馴染みあるアニメがどうしても比較する基準になってし まい、そうなるとやっぱり小説版はキャラクターのパンチ力が弱いかなと思ってしまう。  アニメの場合キャラにもシナリオにも並々ならぬおかしさと壊れ具合が存在するので、 普通のギャルゲー小説っぽい雰囲気を突き破って、それくらい馬鹿みたいにドタバタやっ て欲しいのですが……基準がゲームとなってるようなので型破りにはなり難いのかも。  しかし柘植版は、第6話以外1つの短編に1キャラずつピックアップされているような 内容で、キャラクターの特性をうまく活かして描いてるなぁと感じられる部分が結構あっ て、お馬鹿な行動やノリも効いていてなかなか面白かったです。中で一番好きだったのは、 酔っ払ってヘッドギア無くして探し回って何故か結婚話に巻き込まれるヴァニラがメイン の第4話。記憶すっ飛ばし冷静にボケてる姿がヴァニラらしくて良い感じで。  対して水野版GA小説はどうも肌に合わないと言うしかないのか、何かキャラが硬いよ うな気がするのがイマイチと感じられてしまうのか。真面目に任務をこなすエンジェル隊 なんてエンジェル隊じゃないとか言いたくなったり。定着してしまったイメージと違う部 分が多いのかな? その分他より世界観や設定に凝ってる要素はあるんだけど。  既刊感想: 2003/07/25(金)キノの旅VII −the Beautiful World−
(刊行年月 H15.06)★★★★ [著者:時雨沢恵一/イラスト:黒星紅白/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  旅人キノと、相棒でマイペースに喋ってボケるモトラド(二輪車、空を飛ばないものを 指す)エルメスの諸国放浪短編集。ここまで巻が進み、しかもこれだけ国や道の途中のエ ピソードが出ていると、どれも良質ではあれど毎回1つか2つは「嗜好に合わない」もし くは「物足りない」と思うものに当たってもそれは仕方のない事かも知れない。  と、いうのが前巻までは必ずどれかの話にあったのですが、今回特にイマイチとか面白 くないとかで落胆するようなマイナスポイントにはほとんど当たらなかったです。無理矢 理挙げるとするなら、シズ様のバギーの話(第三話:川原にて)でしょうか。ただこれは 中身が面白くないとかじゃなくて、「シズ様の出番てこれだけなの? 話もこれだけ?  なんか物足りないぞ〜もっと見せてくれよ〜」な類の不満。シズ様エピソードは毎回入っ ているので消えてしまうよりはマシなんでしょうけど、今回は見開きの目次でやけに目立 ってたから余計楽しみだったのです。シズ様も随分諸国を放浪してそうなので、この作者 さんならいずれ外伝『シズの旅』刊行をやってくれるのではと期待させられてしまう。  一杯良かったと思えたのは、おそらくこれまでより話の中で師匠の絡む比率が高かった から。こっちは逆に「こんなに出しちゃっていいの?」と思ってしまった程。彼女に関し ても見たい・聞きたい・知りたい欲求は常に大きいので今回の出番の多さは嬉しかったで す。描かれているのはいつもの様に若かりし頃の放浪記と、これまでキノの口からのみで 実際にはあまり触れられてなかった、過去のキノと師匠の日常生活エピソード。  特に後者は見所様々。師匠の豪胆さとキノに対する目一杯の優しさ思い遣り、それから キノが銃の腕もエルメスの乗車も半人前で「キノ」という名に定着する前の少女から転換 期を迎る事件など、望んでも見れなかった重要シーンやイベントは非常に良いものでした。  師匠話が結構あった分だけ、普段のキノの旅の方はちょっと削られ気味だったかなとい う感じではありましたが、まあたまにはこんな構成なのも面白い。その他で個人的にイイ 話と思えたのは第六話「嘘つき達の国」、色んな意味で印象に残ったのは第五話「森の中 のお茶会の話」。淡々としながらもエグいです、かなり。  あとがき&著者近影は期待通り、いや期待以上か。もはや何も言うまい……。  既刊感想:IIIIIIVVI 2003/07/24(木)AHEADシリーズ 終わりのクロニクル1<下>
(刊行年月 H15.07)★★★☆ [著者:川上稔/イラスト:さとやす/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  滅びに向かう現実世界<Low−G>を救う為には、かつて滅んだ10個の異世界から残 存する概念を開放しなければならない……と、1つ1つエリアを踏破しながら先へ進む道 を開き、完全攻略=Low−Gの状態を滅びの道から救う事を目指す行程はゲームのよう な感覚。交渉が主だけど、今回に限って言えば最終的に佐山は戦いの中から回答を導き出 しているので、ジャンルはアクション感覚+シミュレーション要素となるのでしょうか。  佐山が全竜交渉を継承するまでひたすら石橋を叩いて渡るを繰り返しているのは、それ だけ『佐山の姓は悪役を任ずる』の言葉を継ぐ事に、喩えようのない重さが存在している 表れだと思いました。おそらく本当の意味さえも早期に理解していて、受け入れたらどう なるかも予想出来ていて、だからこそ全竜交渉の行使に納得するまで時間(頁数)がこれ だけ長く必要だったのだろうなと。この散々思考の深みにはまり続けた『蓄積』みたいな ものが、終盤で決起の咆哮を上げるシーンで一気に弾けるような感じで見事に効いてます。 佐山の意思に他のUCATメンバーが呼応する所なんかも凄く印象的でした。  1つの背景として語られていたのは今回の交渉相手で滅ぶ前の1st−Gの世界、それか ら現在なお確執の残るブレンヒルトとジークフリートの微妙な繋がり。佐山の影に少々隠 れるような感はありますが、この辺りの過去回想で深みを効かせたエピソードもなかなか 印象に残る面白さでした。ジークフリートを復讐の対象として見ながら、過去の想いを捨 て切れず心の奥深くでは慕わずにはいられない……ブレンヒルトの感情の揺れ方が堪らな く良かったです。最初冷たい感じのブレンヒルトが徐々に「あ、何か可愛いな」と思える ようになってきたのはこういう所から。いいなと感じられた大きな要因でしょうね。  概念についてと戦闘描写はやっぱり何度も噛まないと染み込んで来ない。それでも10 個のGに全く異なる10の概念が存在し、今後それらがどのようなものでどんな風にして 描かれるのか? と考えるとわくわくするような妙な期待感に駆られてしまいます。  概念に応じて交渉や戦い方などもまた今回と違ったものが見られるだろうし、多分別の Gには別の新キャラも登場してくるだろうし、新庄姉弟にはまだ何か明かされてないもの もありそうだし。佐山の変態ぶりは益々エスカレートするのか新庄(両方とも)はその毒 牙にかかってしまうのかとか、大小様々気になる事は山盛りです。  既刊感想:1<上> 2003/07/22(火)AHEADシリーズ 終わりのクロニクル1<上>
(刊行年月 H15.06)★★★☆ [著者:川上稔/イラスト:さとやす/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  何も知らないで中身もロクに確認せず、うっかり表紙買いしてしまった日には中身でえ らい目に合ってしまうような、かなり突き抜けた個性的な文章表現。  前々から都市シリーズを読んでいればこれが普通で当り前とあっさり受け入れられるに しても、やっぱり激しく好き嫌いが出そうな所はあるかなと。ただ、前の『視覚』『感覚』 のモードチェンジが頻繁に行われていた電詩都市DTの文章形式と比べると、今回の方が 遥かに読み易かったという印象。もっとも、非常な特殊性が存在するのは一緒ですが。  今回のシリーズのキーワードは『概念』。これの意味を理解しないと勝てません、と言 うより一応理解したつもりで読んだけれど全然勝った気しないです。辞書を引きつつこの 物語にとって概念って何だろ何だろと終始首捻りで、またくそ面倒臭いものを設定に引っ 張り込んでくれたな〜と思考回路がオーバーヒート寸前で困ったもんです。  これが分からないとまともな感想の書きようもないですが、一つの世界の中で“そうい うものだから”と捉えられ設定されているものがつまりは概念……かな?(と作中にしっ かり説明されてるけれど) 例えば今回の交渉相手1st−Gは“文字・文章が力となる” 概念で出来ていた異世界。その中では紙に『鉄』と書けば金属の鉄になるし『爆弾』と書 けば爆発する凶器となる。既に滅んだ10の異世界1st−G〜10th−Gまで、それぞれ の世界で全く異なる概念が存在し、残された10個全ての概念核を開放しないと現在世界 が滅んでしまうのでさあ大変、というのが物語の発端となります。  屈服させられてしまう程設定を練り込み、それを更に深く掘り下げての描写は本当に大 したものだと思います。しかもこのシリーズ、10の異世界の概念が必要と示す通り相当 な長丁場になりそうで、先を見越した伏線も張られているようで興味を抱かせてくれます。  大抵のキャラクターは癖があってどっかおかしくて、彼ら彼女らの掛け合いは誰の何処 を取ってもハズレが少なくて楽しく面白いです。この辺はすんなり読めるのですが、概念 の解説や戦闘描写が入る部分はじっくり噛み締めていかないとちと厳しい。  しかし読み続けていけば、世界観にも設定にも文章表現にも慣れるだろうとは思ってい るので、まずは1st−Gの概念を取り巻くエピソード、続きの下巻に期待。


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