NOVEL REVIEW
<2003年09月[後半]>
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09/30 『バイトでウィザード 流れよ光、と彼女は言った』 著者:椎野美由貴/角川スニーカー文庫
09/29 『天になき星々の群れ フリーダの世界』 著者:長谷敏司/角川スニーカー文庫
09/28 『なかないでストレイシープ 午後の紅茶と迷子の羊』 著者:竹岡葉月/コバルト文庫
09/27 『帝都浪漫活劇 ビューティフル・ドリーマー』 著者:久藤冬貴/コバルト文庫
09/25 『VS−ヴァーサス− file2 狩人の条件』 著者:麻生俊平/富士見ファンタジア文庫
09/24 『天華無敵!』 著者:ひびき遊/富士見ファンタジア文庫
09/23 『マテリアルナイト 少女は巨人と踊る』 著者:雨木シュウスケ/富士見ファンタジア文庫
09/22 『仙・龍・演・義 開演!仙娘とネコのプレリュード』 著者:秋穂有輝/富士見ファンタジア文庫
09/21 『ISON ―イソン―』 著者:一乃勢まや/富士見ファンタジア文庫


2003/09/30(火)バイトでウィザード 流れよ光、と彼女は言った

(刊行年月 H14.12)★★★ [著者:椎野美由貴/イラスト:原田たけひと/角川書店 角川スニーカー文庫]→【
bk1】  第6回角川学園小説大賞『大賞』受賞作。  良いと悪いのどちらにも傾けない。面白くないかと言えばそんなわけでもなく、じゃあ 面白かったか? と聞かれるとそれ程でもなかったような印象。光流脈の設定を筆頭に楽 しませようと工夫すべきポイントはキチンと押さて描かれていたし、話のテンポも軽快か つ理解し易い内容で起承転結もしっかりしていたと思う。ただ、これが公募の受賞作―― しかも大賞となると、期待感と現実の落差から首を捻らずにはいられなかったわけです。  それなら何がそんなにイマイチだったのか? 浮かんだ答えはキャラクター描写。個々 の使い方や動かし方、誰かとの絡みで浮かび上がってくる様々な感情表現など、どこかも う一つ物足りなくて盛り上がる要素もあまり感じられない。それは京介がそうだし憲也と 君香も長谷と塩原もジェニファーもそう(例外は唯一キャラが立っていると思えた豊花)。 満足し切れない所で結局はどっちつかずで平均的な感想に繋がってしまったのかなと。  例えば京介。雰囲気が盛り下がる一方の無気力無感動無反応な性格は、もう影響を与え てるのも仕方無しと割り切るしかないですが、それでも彼の根底に常に根付いていたのは 失ってしまった恋人の礼子の筈なのに、その部分の描写がハッキリと弱い。だからいくら 京介が礼子をどうこう想い考えようと読んでいる方は何の感慨も抱けない。  例えば憲也と君香(ともう一人)。こちら側も作中での扱いを考えるとかなり重要な位 置付けなのに、一体どんな関係で過去に何が起こったかの詳細は憲也の口から僅かに語ら れただけ。確かに大雑把には掴めたけど、もうちょっと丁寧に掘り下げて欲しかった。  例えば長谷と塩原のオトボケコンビ。外れた所で見て笑えても実際には重要所で全く絡 まないので必要性が薄い。例えばジェニファー。双子兄妹と深い関わりはあれど、今回の 事件では唐突に表れた部外者的存在でオトボケコンビと同様。まだ試行錯誤の段階で、誰 をどう配置したらいいのか使い道に迷っているような感じがしました。  しかし、実は最も唖然としてしまったのは豊花。以下ネタバレで、おまえ仮に生き返る 可能性があるにしても、死亡状態の兄貴を前にしてこの緊張感の無さは何なんだと。普通 給料減棒の事なんか考えるか? 「そういう性格だから」では済まないだろこれは。こん なんじゃ上辺だけ号泣して取り繕っても全く響いて来ないですよ。まあ基本的に暗く重く 沈み込むような性質でもないけれど、この辺はどうにかならなかったのかなぁ……。  やたらと目立った惜しい所は、うまく手入れを加えれば面白くなり得るかなと思える要 素も多かったので勿体無い。次のステージでは是非巻き返しを図って欲しい。 2003/09/29(月)天になき星々の群れ フリーダの世界
(刊行年月 H14.12)★★★★ [著者:長谷敏司/イラスト:CHOCO/角川書店 角川スニーカー文庫]→【
bk1】  暗殺者フリーダと一見してただの天然入った女学生アリスの出会いから始まり、小惑星 レジャイナの一都市エグバードで突如宇宙海賊の侵略に巻き込まれてゆくというもの。細 かい所で幾つか躓きもあったけれど、読み終わって面白かったと言えた内容に満足。避難 した地下空洞からの住民達の不安定な気持ちや、元々仲の悪かった東と西との意見の食い 違いから幾度となく繰り返されるいがみ合いなど、徐々に追い詰められての生々しくも素 直で醜くも正直に曝け出されている感情の数々。複雑にもつれて絡んで反発しながら誰の 心にも傷痕を残してしまうような鋭い痛みを伴う描写に惹き込まれました。  アリスの主張する“正しさ”は、この集団の中にあって明らかに異様で異質。難なく笑 顔で貫き通す強さを持つ彼女に、気が動転していたとは言え自分とは相容れないと激しく 感情をぶつけたナオミ。この辺は特にいいなと印象に残ったシーンでしたが、この状況に 置かれてどちらに傾いたかと言えばおそらくナオミの方。正しさよりも、それを正しいと 確信を持ち続けるアリス自身にこそ異質さが感じられたのは、現状で取るべき手段にそぐ わない、そして集団の中で相容れない主張だったから。明日もどうなるか分からないのに、 何の根拠も力もない小娘の戯言なんぞ聞いていられない……が大半で固められた感情だっ たから。多数決を持ち出されてはどうにもならず追放されるのもやむなし。  でも、後々で見事に一変してしまう状況から、実は誰もがアリスが持つ強さを羨み妬み、 そして想いには大小あれど賛同したい気持ちを抱いていたのがよく分かる。多数に流され 彼女と一緒になって弾かれる事を恐れる弱さと、それによって一層引き立つアリスの正し さを信じ続ける強さの対比が上手く描かれていたと思います。  アリスの正しさを曲げない気持ちに刺激を受けたのはフリーダも同様。徐々に自分の世 界を侵食され、惑い乱されてしまう感情の揺れなども良い感じ。最初から平穏な触れ合い で済まされるとは思ってなかったけれど、命を賭けてまでの駆け引きのシーンは予想外で (特にアリスが応戦した事が)、こんな所からも外見からは想像も出来ないくらいアリス の大きさと存在感を見せ付けられたりしました。ちょっと鳥肌が立ってしまう程に。  躓いたものとしては、女学生の深い交流を育む物語にしても良かったのに……ってこれ は願望ですが。読んでいて引っ掛かりを覚えたのは、多数の端役まで丁寧に名前付けして くれてたせいか、名前が覚え難くキャライメージがなかなか噛み合わなかった事。要する に雑然としててスムーズに進まなかったのです。相関関係や背景描写、物語の展開なども 整理付いてない箇所があったかなと。もっと分かり易くアリスとフリーダの触れ合いに焦 点を絞ってくれていたら違った手応えが得られていたかも知れない。 2003/09/28(日)なかないでストレイシープ 午後の紅茶と迷子の羊
(刊行年月 H15.09)★★★☆ [著者:竹岡葉月/イラスト:菊池久美子/集英社 コバルト文庫]→【
bk1】  母の死で孤児となったアメリカはニューヨークの下町で育った少女が、一転して突然明 らかにされた見ず知らずな祖父の存在から、莫大な遺産付きで英国貴族の仲間入りを果た してしまってさあ大変……なお話。周囲の環境がいくら変われど、その中にぽーんと放り 込まれた元下町育ちでニューヨークヤンキース好きな少女の本質がそう簡単に変われるわ けもない。それを象徴しているかのような、お行儀良くお嬢様の形枠にはまるどころか逆 にはみ出しまくりなセリアの行動ひとつひとつが活き活きと描かれている。  第一次世界大戦後の風景がどんなものかってのは、あまり詳しく知らないので物語の中 から探って拾うしかないですが、英国貴族の優雅な日常……とは程遠いですよね普段のセ リアとお屋敷に仕える人達の様子を見る限りだと。気苦労を重ねる程にセリアの行動が際 立って面白いと感じられる所がロドニーにとっては皮肉な話か(まあこの程度は軽くあし らってしまうんでしょうけど)。その性格故か実はロドニーがセリアを持て余しつつ苦労 しているのが淡々としか伝わって来なかったので、もう一つ感情が読めない掴めないキャ ラだなぁとか思ってました。でも、あまり表立って本心を見せずにいた“溜め”みたいな ものを、エピローグ直前でセリアへ向けて一遍に曝け出すシーンは凄く良かったです。  あとがきには「大屋敷を舞台にしたホームドラマ」とありましたが……確かにそれに該 当する前半は読んでいて楽しかった。けれども中盤以降から軸となっていたのは、どうも セリアが貴族としての自覚と意志を抱いて上流階級に立ち向かう辺りのような感じだった ので、お屋敷での日常生活風景の描写はちょっと食し足りなかったという印象。  中身の密度から言えば、長編並みの頁数でも感覚としては中編くらいの手応え。全体的 にはもうちょっと肉付けが欲しかったかも。特にお屋敷関係の方、キャラクターの素材は 良いものが揃ってると思うので、何て事ない穏やかな日常の様子を眺めながらもっと和ん でみたい。今回でもそういう描写はあったけど少しあっさりと流されていたので、その辺 りは予定があるらしい続編でじっくり描いてくれたらなと。 2003/09/27(土)帝都浪漫活劇 ビューティフル・ドリーマー
(刊行年月 H15.09)★★★☆ [著者:久藤冬貴/イラスト:ひぐらしこおり/集英社 コバルト文庫]→【
bk1】  1巻目のタイトルが別モノっぽいのでややこしいですが今回がシリーズ第3巻。大正時 代の商家のはねっかえりお嬢様芙美が、毎度の如くドタバタして他人の色恋沙汰に首突っ 込んでややこしい騒動に巻き込まれてしまう型通りなお話。さすがに三度似たような展開 が続くと、ややマンネリ加減が頭をもたげて来てしまうのも正直感じられますが、そこは 活発で面白可笑しい芙美というキャラクター性でまだまだ充分補えると思います。  色恋沙汰が『他人事』なのは普段と違っていて、今回は芙美の妹・秋江の見合い話でつ まりは最も距離の近い身内。ただでさえ自分が駆け落ちの果て(とは周囲の勘違い)に婚 約した為、見合い話が妹へ回されてしまった事への負い目を感じている上、お相手の子爵 様が活動写真に熱意を注ぐ外見タヌキ親父の道楽者……と聞いてしまったからには黙って 見過ごせないのが芙美の性格。特に大事な妹が絡んでいるから破談にしようと意気込み具 合も半端でなく、しかし気合を入れれば入れるほど見事に空回って喜劇にしかならない辺 りは一種の才能というのか特技というのか、シリアスあり危機的状況ありでも基本的には 読んでいてあははと気軽に笑い飛ばせる面白さがこの物語の良い持ち味。  芙美の相変わらずな惚れっぽさには婚約者の風見さんもいつも以上の反抗モード。まあ この二人で芙美の理想の恋愛模様になり難いのは一緒に居るのが当り前な自然体だからで あって、端からはお似合い過ぎて他者が介入する余地なしにしか見えない関係がまた微笑 ましい。特にそれを強く感じさせてくれたラストシーンの描き方はうまいなと。  もし完結するとしたら既に日取りが決まっている芙美の結婚式がその時でしょうか。た だ、今でも表面上での風見さんに対しての想いはちょっと微妙だから、間に確実に起こり そうな波乱と騒動で運命のその日が来るまで楽しませて欲しい。  既刊感想:ブルーローズ・ブルース       帝都浪漫活劇 お嬢様を探せ! 2003/09/25(木)VS−ヴァーサス− file2 狩人の条件
(刊行年月 H15.09)★★★★ [著者:麻生俊平/イラスト:硝音あや/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  流出技術の理論でちょっと頭をぐにぐに掻き回されたような気分でしたが。読解力不足 のせいかどうか、じっくり噛み砕いて理解するまで多少の時間が必要だったり。それでも 設定なんかは細部に至るまで徹底的に書き込んでたりするので、嘘っぽさを感じさせない 説得力には流石と唸ってしまう程のうまさと持ち味が感じられたりもするのです。  プロローグのみで終わっていた、超科学特殊捜査班・通称VS<ヴァーサス>の技術を得 て瀕死の状態から復活した少年・鷹匠次郎が、VSに所属して普通の力では解決出来ない 超科学技術犯罪に立ち向かう物語の続き。ちらほらと今後に繋がる手掛かり的な伏線は敷 かれているようですが、基本的に前巻の流れとは別モノ。ハッキリ言ってしまえばかなり の部分がほったらかしになってます。対峙した水島苑子はどうなった? 高エネルギー人 間達の動向は? の辺りですね(一時脇に置いておくの方が表現としては的確か)。  ただ、気になる事へ向けて先走りしたくなる感情をぐぐっと堪えて、前巻の事柄をばっ さり切り離してまで、進む為に回り道してても“やっておかなければならない事”を描い ているのが今回。すなわちそれは、VSのシステム・能力・役割・携わるメンバーについ てと《V1》に関する全てを次郎の中=読み手に叩き込む事。確かに欲求が前へ前へと進 みたくなる気持ちは少なからず持ってしまうけれど、今回の要素が間に有ると無いとでは 今後の手応えが大きく違って来るだろうなと思いました。目に見えて表れるのはおそらく 準備万端か準備不足かの違い。効果に納得出来るかどうかは次巻の内容次第。  プロローグから準備段階に進んだ為、随分VS内での役割や相関関係などが表面化して 来て前巻よりずっと面白さと盛り上がりを感じました。中でもキレ者というのかクセ者と いうのか、表面上はのらりくらりで奥底にある裸の本心を見せようとしないコマンダーこ と竜胆寺は非常に印象的かつ魅力的、格好良過ぎて惚れてしまいそうです(次郎なんかは 苦虫噛み潰したような顔しそうだけど)。あとは当然ながら蒼と次郎の絡みも大幅増量で 期待以上。次郎の方は意識してるの見え見えなので、これからの触れ合いの中で蒼が次郎 に対してどんな気持ちで応えてゆくのかも楽しみです。    既刊感想: 2003/09/24(水)天華無敵!
(刊行年月 H15.09)★★★★ [著者:ひびき遊/イラスト:桐原いづみ/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  第15回ファンタジア長編小説大賞『準入選』受賞作。  父の背中を追い『遺跡探求者』となった天華(姉)が、双子の精霊巫女白華(妹)との 携帯メールによる情報交換の助力を得ながら、相棒と協力したり幼馴染みを利用したりで 最高難度の遺跡攻略に挑む物語。んーとりあえずは文章が読み辛かった事。癖があると言 い換えられるかも知れないけれど、句点の打ち方が何か変だし読点もやたらと頻繁に打た れているのでスムーズに読み進められないというのか、終始テンポを阻害されてる感覚が 付き纏ってしまう。この文章表現は最後まで変わらずなので、おそらく意図的に狙っての 手法でしょうが、途中からは慣れた為あまり気にならなくなったとしても、ちょっとこの 文章にはうまく乗り切れなかったかなという感じでした。  話の中身に関して気になった点については、あれやこれやと影響受けているのが窺えた 辺りでしょうか。まあ似たような要素を取り入れた時、それが有名所だとパッと頭に浮か んでしまうのはある程度仕方ないと思います。大事なのは既存にプラスした発想をどれだ け乗せられるかで、この作品の場合は例えば舞翼にしても浮遊都市にしても精機龍にして も、充分独自の持ち味が発揮されていて良かったかなと。  ストーリーラインを追うよりキャラクター描写に惹かれる部分が非常に大きく、とにか く明るく可愛く元気で前向きな天華の魅力を最大限に引き出そうとしている描写の数々を 目の当たりにして、文章の難儀さは帳消でもいいとさえ思ってしまいました。天華を軸に したそれぞれのキャラ同士の絡みが本当に絶妙。シリアスになるシーンも多少はあれど基 本的には面白可笑しく、誰もが活き活きとした姿を見せてくれて実に楽しかった。特に天 華に秘めた想いを寄せる剣聖アルバルド君は良いキャラですね。応援してあげたい。  この作品のウリにしている携帯メールの要素は、想像してたよりも地味な扱いだったの でもう一つな印象。ただ、このアイディアは普及してる現在ならではの発想で興味深さを 覚えたし、離れた天華と白華を繋ぐ唯一の手段で精機龍攻略に欠かせなかったものとして の重要性も確かにあるんですよね。作中での絡み具合が少々弱かったのが惜しい所。  評価はやや甘いなと思いつつも今後の期待値込みで。携帯メールの扱いもそうでしたが 白華の存在感もちと弱い気がしたので、あとがきより既に決定してるらしい続刊にて物足 りなかった辺りを描いてくれますようにと。 2003/09/23(火)マテリアルナイト 少女は巨人と踊る
(刊行年月 H15.09)★★★☆ [著者:雨木シュウスケ/イラスト:椋本夏夜/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  第15回ファンタジア長編小説大賞『佳作』受賞作。  紋様を符に込め様々な能力を発動させる符道士と呼ばれる一人の少女が、過去の遺産で ある発掘巨兵の力を巡っての陰謀欲望や、それを奪取するのに投入された人型強化兵器の 戦いに巻き込まれてゆくお話。まず最初の導入部分から前半にかけて、これまでの他の同 受賞作と比べてみても少々取っ付き難かった事。何でだろうかと振り返ってみて、表面上 だけでは色々な事が次から次へと軽快なテンポで出て来るのに、そのどれもが明確に示さ れないので、「それって何?」「これはどういう事?」なんて具合に出れば出た分だけ考 え込んでしまってなかなか物語の中へ潜り込めなかったというわけです。  例えば……「旅に出よう」とレアナを駆り立てた原因。過去にレアナとイェンとの間で 交わされた誓約。どう見てもただの執事では有り得ないイェン。過去に何らかの実験対象 にされていたらしいテリードとシィナの関係と、二人が巨人石に触れようとする目的。遺 産巨人石マシン・ドライブ。強化戦士ドラグ・ヘッド。記録が抹消されてしまったレスフ ォール時代。この辺が前半でぽんぽん投入されてますが、断片的だったり謎含みなのが大 半な為、ひとつを理解しようとする前に次々と来るので追っ付かなくなってしまう。  しかし、それとは対照的だったのが後半の展開。前半部分での入り込み難さの鬱憤を晴 らしてくれるかのように、大よその不明瞭な部分を徐々に確実に紐解いてゆく内容は非常 に好感触でした。上記のように張り巡らせた謎や伏線の回収漏れがほとんど見られなかっ たのは見事。ちゃんと収拾付くのかなと多分に不安を抱いてたのですが、大抵どの要素も キッチリ納得のゆく描写で応えてくれていて、ラストのホッと安心するような和やかでス ッキリした仕上がりにも満足。あまり見られなかった普段日常でのレアナとイェンの力関 係がよく表れているじゃれ合いとか、レアナとシィナの触れ合いなんかも良かったです。  後にしこりを残さない締め方だったので続編は切望する程ではないけれど、唯一気掛か りなレスフォール時代とレスフォール本人の謎は残されたままなので、レアナの活躍を通 して何らかの解答を示してくれるなら、またこの物語に触れてみたいです。 2003/09/22(月)仙・龍・演・義 開演!仙娘とネコのプレリュード
(刊行年月 H15.09)★★★ [著者:秋穂有輝/イラスト:Tacet/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  第15回ファンタジア長編小説大賞『佳作』受賞作。  タイトルと主人公の少女と使用する武器の設定から中華風、でも舞台となる都市の街並 は西洋風で、宗教制度が根深く敷かれていて異端狩りと称した大量虐殺が日常茶飯事で起 こっている。そこに蒸気機関車のような移動手段があるかと思えば現代の自動車みたいな のが走ってたり近未来風のエアバイクなんて乗り物もあったり……何か色々まぜこぜごっ た煮で不思議、と言うよりかはちょっと――いやかなり変な世界観。  斬新って意味ではこれもありかだろうかと首捻りながら、少なくとも目の引き具合が良 い方向には傾かずで。その混ぜ方が物語の展開上で不可欠ならば何の問題もないのですが、 あんまりそうする必要性を感じられなくて、とりあえず『様々な要素を詰めるだけ詰めて みたけど整理が付かなくて散漫になってしまった』ような印象でした。  良くない意味で唸ってしまったのは内容に関しても同様。簡潔に言ってしまえば“前半 まあまあ後半ぐだぐだ”、読み進めるに連れてテンションがどんどんヤバイ方向へ傾いて しまうのには正直参りました。疑問に感じたのはキャラクターの扱いについて。特に異議 を唱えたいのはクラースの事で、あれだけ苦味と葛藤を滲ませながら異端審問官として虐 殺に加担してるのは、てっきり弱味でも握られていて仕方なくやってるんだろうと想像し てたのに結局は何となく? その理由は何にも無しですか? ヴァイスに諭されてあっさ り心変わりしてしまったのには「はぁ?」としか言い様がなかったです。  他にもまあ色々と。何故クラースの手に聖剣があるのか、どこでどうやって手にする事 となったのか一切描写が無い。ノワールは魔王魔王と言ってるだけで過去の事やその実態 はよく分からず終い。セルフィスって一体この物語でどういう存在? 彼女とノワールと の関係は? などなど、さすがに目に余る程消化し切れてない事柄が多過ぎですよ。続き を想定してるのは分からんでもないけど、それ以前に1作目で納得させてくれるようにキ ッチリまとめ上げる方が大切で重要なんじゃないかなぁ……。  面白かった良かったと思えたのはリィファのキャラクター性と鍼使いの設定、それから (主に前半部分での)彼女とノワールのやり取りくらい。それでも多分次があれば付き合 うでしょうが、印象に残った所でこれだけしか挙げられないのはちょっと残念な出来。 2003/09/21(日)ISON ―イソン―
(刊行年月 H15.09)★★★☆ [著者:一乃勢まや/イラスト:宮沢波宏/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  第15回ファンタジア長編小説大賞『佳作』受賞作。  かつて地球を旅立った人類が発見し移住する事となった、環境が限りなく地球に酷似し た惑星『ネオ・アース』を舞台に、凶悪犯罪で高額が掛かった賞金首の始末を生業とする 『掃除屋』スイーパー達の物語。過去にワケありな特殊能力を持ったキャラ達とガンアク ションがメインな内容で、割とあちこちで近いものを見掛けている印象があったせいか、 目新しさや新鮮さはあまり感じられなかった。だからと言って短絡的にダメと結び付ける 事は出来ませんが、どうしても受賞作には、たとえ多くの欠点があってもそれを覆すだけ の唯一点の強烈な個性を求めてしまうもので。そこを突いて考えてみると、どの要素を振 り返ってもややパンチ力が足りなかったような気もしました。  けれどもいいなと感じられた部分ってのも当然あって、まず触れてみた感覚として印象 的だったのは読み易く抵抗無くすんなりと物語に入り込めた事。これは重荷になりそうな 描写を極力削ぎ落としてスッキリと仕上げているという感じで、好みや捉え方によっては あっさり加減が少々物足りないとなるかも知れないけれど、取っ付き易さが面白さに直結 している所は好感触でなかなか良い持ち味ではないかと思います。  キャラクターの見せ場は、幼い頃から気心知れたトーヤとティファの掃除屋コンビの掛 け合いが最たるもの。お互い自分に対してこうだとか相手に対してどうだとか、特に過去 絡みで色々考えたり言い放ったりする時の感情表現がうまく描けているなと。  扱い方で損をしてるかあるいは勿体無いと感じてしまったのはジョウの存在。こちら側 に付く理由もイマイチ説得力が弱くて、実はそうなった所でメリットは何も無かったんじ ゃないだろか? おそらくガンアクションがそれ程盛り上がってくれないのは、読み易さ 故の描写の軽さと魅力的な敵役不在などが理由だと思うのですが。トーヤとティファの敵 として相手になった賞金首があんまりな使い捨て振りだったので、ジョウはむしろ二人を 脅かす強力な敵キャラの方が役割としては合っていたんじゃないかなぁ。  マリアに関しては過去の傷痕からの掘り下げが効果的で、終盤でのトーヤとの触れ合い もいい感じで描かれてました。ただ、そのせいで中盤以降の展開からティファの出番が削 がれてトーヤとのコンビプレイが全然見られなくなってしまったのはちょっと残念。  あとはほぼ使い走りだけのアディアにもうちょい見せ場を与えてくれたら良かったので すが、それはまた次の機会に期待。今回はかなり意欲的に続きを意識した幕引きだったの で、その意気込みが次のステップに繋がって欲しいものです。


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