NOVEL REVIEW
<2003年10月[前半]>
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10/10 『消閑の挑戦者2 永遠と変化の小箱』 著者:岩井恭平/角川スニーカー文庫
10/10 『消閑の挑戦者 パーフェクト・キング』 著者:岩井恭平/角川スニーカー文庫
10/07 『斬魔大聖デモンベイン 無垢なる刃』 原作:鋼屋ジン/著者:涼風涼/角川スニーカー文庫
10/05 『バイトでウィザード 蘇れ骸、と巫女は叫んだ』 著者:椎野美由貴/角川スニーカー文庫
10/04 『バイトでウィザード 滅びよ魂、と獅子はほえた』 著者:椎野美由貴/角川スニーカー文庫


2003/10/10(金)消閑の挑戦者2 永遠と変化の小箱

(刊行年月 H15.08)★★★★ [著者:岩井恭平/イラスト:四季童子/角川書店 角川スニーカー文庫]→【
bk1】  今回もまた擦れ違い。しかも同じ舞台にいながら途中まで気付かないという見事なまで の擦れ違いっぷり。前巻から通して作中で一緒に行動してるのなんてごく僅かだし、視点 を頻繁に切り替えてる事から意図的に出会わせないように物語を組み立てているのも明確 に表れている。なのに端から見てこれほどまでお互いが相手を理解出来ていて、目を見張 らんばかりの連携プレイを繰り広げる事の出来る関係って一体何なんでしょうね? と疑 問を抱いてしまう自体に苦笑が漏れるくらい奇妙な関係だと思います小槙と祥って。  おそらく“相手の事を無意識の内に理解出来ている”事を“全く理解出来ていない”の は当人達だけではなかろうかと。祥は遥か先を悠々と歩いている小槙に何が何でも負い付 いてやるぞと意識しているのに対して、まるで追っ駆けてくる祥に怯んでいるかのような 苦手意識を持つ小槙の態度が何だか滑稽で面白く見えてしまう。それは超飛躍での天才的 な頭脳を発揮する姿などではなく、紛れもなく年相応の少女らしい姿であって、祥だけに しか曝け出さない所が紛れもなく特別な存在という事実を示しているのだと思います。  完成の域に達した人から度々『未完成』と言われている小槙には、一体あと何が足りな くて何があればいいのか……それを自らの力で探し得て『完成』となる事が、即ちこのシ リーズのポイントとなっているような気もします。そうでなければ、必要な『何か』を得 る過程で徐々に変化を生じさせてゆく小槙の姿を描き続ける事か。今回だけでも感情の揺 れという形ではっきりと違いが見て取れたので、祥との関係で現状では全然望めない感情 が果たして彼女の中に浮かび上がってくるのかどうか気になる所(まあ普通これ程理解し 合えていてそうならないのは小槙の性格が足枷となってるんでしょうけど)。  肝心のストーリーの方はゲーム性が消えた分だけアクションシーン増量。頭使う所はや っぱり噛み砕かないと多少分かり辛かったりもしたけれど、適度に裕杜の事を絡め、伏線 張りつつそれぞれが掲げる目的の為に体力または知力で激しい戦いを繰り広げる混戦模様 が面白かったです。特にあかりが兄と呼んでいた存在に最後に投げ掛けた言葉が非常に印 象に残りました。意味を理解して納得して「そういう事だったのか……」と頷きながら。  既刊感想: 2003/10/10(金)消閑の挑戦者 パーフェクト・キング
(刊行年月 H14.12)★★★★ [著者:岩井恭平/イラスト:四季童子/角川書店 角川スニーカー文庫]→【
bk1】  第6回角川学園小説大賞『優秀賞』受賞作。  “一つの街をまるごと舞台にして繰り広げられるゲーム”という設定とか小槙のキャラ クター性などで、ふとあれやそれやと別の作品が頭に浮かんだりもしましたが、随所でこ の作品独自の特色がしっかり出ていて良かったです。  基本的には非常に分かり易い単純明快さで、各ステージをクリアして最終的に主催者を 倒すのが目的というもの。ただし、ステージ毎に選ばれたプレイヤーが決定する色々なル ールの付加によって複雑さと難解さが増す。更にゲームクリアするのに重要な多種多様の プログラムを所有する敵『防御人』を倒す為、2人1組による連携プレイが要求される事 で難易度も増してゆく。これらのゲームシステムをあの手この手で利用し駆使ながらのプ レイヤー同士あるいは防御人との命を賭けた真剣勝負、小槙と祥の即席コンビで腕力で捻 じ伏せまたは頭脳で打ち勝ち這い上がってゆく過程が実にうまく描かれている。  手持ちのプログラムをいつ、どのタイミングで繰り出せば最大の効果が得られるのか?  こういう頭脳戦が体力勝負の格闘戦の真っ只中でも必要に迫られる――格闘と知略を掛け 合わせて更に奥深く仕上げてる辺りはなかなか面白い要素だなという印象でした(主に祥 に当てはまる事で、小槙の場合は体力からっきしだから完全に頭脳派戦略なんだけど)。  裕杜の意図に対しては素直に「まどろっこしいやり方だなぁ」でした。言葉にすれば簡 単な事なのに、それが出来ないからかそれとも向ける相手にそれでは効かなかったのか。 まあ相手の性格考えると、まどろっこしくゲームという形にしなければ到底通用しなさそ うなのも頷ける。ただ裕杜と明葉についての解釈はちょっと掴み切れなかった……。  ゲームスタート時から連絡取り合う手段さえ封じられて、ずっと離れ離れなままだった 小槙と祥。これに関しては「直接再会するのはいつ頃?」のただ一点がもうずっと気にな っていて、ずっと待ちながらずっと進め続けてエピローグまで辿り終わって「まんまとし てやられた」となりました。実際には離れていてもあまり離れてると感じないのは、多少 都合いい部分もあれど連携プレイの数々があまりに見事だったからか。お互いが常に側に 存在しているように思わせ続けた事は、ラストシーンに余韻を残す形で大きく影響を与え てくれたように思えました。きっとまた小槙は祥に頬っぺたを引っぱられたんだろうなと。 2003/10/07(火)斬魔大聖デモンベイン 無垢なる刃
(刊行年月 H15.10)★★★☆ [原作:鋼屋ジン/著者:涼風涼/カバー・口絵イラスト:Ni^θ         /本文イラスト:洒乃渉/角川書店 角川スニーカー文庫]→【
bk1】  同タイトルPCゲームの小説版。元の18禁らしい展開になりそうなシーンは無難に流 して、一般向けな仕上がりを見せているのが本作。クトゥルー神話と巨大ロボット大戦風 味を掛け合わせたものがベースとなってますが、どちらの要素も深く詳しく触れた事があ るならより一層の面白さが得られそうで、逆に全く知らなくても物語自体は充分楽しめる かなという感触でしょうか。後者で挑んだ私はその辺別段気になりませんでした。  最初に抱いていた予想から最も外れていたのは1巻完結じゃなかった点。これによって 良かったのとそうでないのとが両方目立って出てきた為、全体的に見ると上昇する勢いが 相殺されてしまった感じでもう一歩及ばすな手応えでした。大きく分けると、もし無理に 1巻で終わらせようとしてたら相当ぎゅうぎゅう詰めで駆け足描写になってたような気が するので、続刊を設けてストーリーをじっくり追うように描いているのが良かった方。次 巻へ続くになってしまい、未だ解かれず伏せられている謎が結構残ってしまったのがそう でない方。もっとも、消化してない分に関しては次巻で描かれるだろうと想像がつくので 不満というわけじゃなくて、ちょっとスッキリしない程度(ちらほら浅からぬ関係が窺え るメタトロン、サンダルフォン、ライカ、ナイア、エンネア辺りの素性だとか、アンチク ロスの連中は結局何を起こそうとしてるのかなど)。  不満と言えば、この作品の要を担っているデモンベインと敵鬼械神との戦闘シーンが随 分あんまりな具合にカットされていた事。特にクラウディウス&カリグラ戦で見せた起死 回生の一撃を放った後、この戦闘シーンの端折り方には首捻りで「ちょっと待て」と言い たくなったりも……。あとがぎを読むと確かになるほどなぁと納得出来たりもするのだけ れど、それでも文章ならではの表現でもっと戦闘シーンを描いて欲しかったです。    ちなみに、それらしく取り繕ってますがゲームは全くプレイしてません。小説版が“初 デモンベイン”というわけで、あえて先にゲームやった人の方が手に取りやすいゲームノ ベライズに手を出してみました(前々から興味抱いてたのもあるけど)。ゲームをプレイ してから読んでみたら当然感想も今と違うものになるだろうと思いますが、ゲーム未プレ イの小説版だけ読んでどうかと言えば、予備知識なしでも充分楽しめるよう工夫が凝らさ れていて良かったです。今回の終わり方があれなので早く続きが読みたい。 2003/10/05(日)バイトでウィザード 蘇れ骸、と巫女は叫んだ
(刊行年月 H15.08)★★★☆ [著者:椎野美由貴/イラスト:原田たけひと/角川書店 角川スニーカー文庫]→【
bk1】  シリーズ第3巻。2巻目で全精力を注ぎ込んでたせいか、無駄に騒がしかった風紀委員 長こと長谷の出番は全く無し。引き摺られて腰巾着の塩原も覇気無し。居たら居たでいち いち難癖つけてちょっかい出して来るのも鬱陶しい連中ですが、それが見慣れた日常風景 になってしまうと妙に味気なく感じてしまったりで複雑な気分。まあ京介と豊花にとって は願ってもない事だろうし、今回予想外にハードでシリアスな展開を突き進んでる為、風 紀委員どもがいらん騒動を起こしてたら雰囲気めちゃくちゃになっていたような気もする けれど、不在だと案外口寂しいので戻って来たらまた迷惑振りまいてくれたらなと。  今回は組織自体が謎々だらけな『本家』の中でも、光主とか家長とか頂点付近に深く首 を突っ込んだお話(実際に突っ込んでいるのが誰かは言わずもがな)。先にも書いたよう に結構重苦しさが圧し掛かってくるような内容で、その割に京介や豊花の危機的状況も矯 正術による破壊的な力も大量の血が流れる凄惨さもあっさりと描かれている。これまでの 中で、常にあと少し盛り上がりを得られず面白いと言えそうで言えない微妙さを抱えてし まうのは、多分この辺りのアンバランスさがあるからという気がしてます。強引に見方を 変えると“奇妙だけどそこがこの作品の持ち味”と取れない事もない……かな?  ただ、キャラとストーリーの噛み合い具合が徐々に良くなっているなと手応えを感じら れるのも確か。やる気無いながらも自分自身についてあれこれ考えを巡らせていた京介と、 多少は重傷の身の兄貴に気遣いを見せていた豊花と、今までよりはずっと入り込める隙が 大きかったので、それ程引っ掛かりを覚えずに感情移入出来たかなと思います。  華奈に関してはもう少し大きく取り上げてくれても良かったんじゃないか、と心残りが ありました。このまま終わるとは思えないんだけど、最後まで読んで何となく「これで終 わりなの?」と言いたくなりそうな雰囲気もあったので、それならば今回のメインを張っ てるだけに華奈と光主との確執をもっと表面化して描いて欲しかったのですよ。光主の存 在は更にイマイチで「結局は一体何だったんだ……」と思わざるを得ない扱いなのはちょ っと残念(こっちは本当に終わりっぽいので)。  あとは治癒術に免疫が出来ていずれ全く効かなくなってどうのこうの、と言ってた部分 が微妙に気になる。感情表現が限りなくゼロに近いので平気そうに見えていても、実は京 介ってどんどんヤバイ方へ流されてるのでは? 豊花が京介にぎゃんぎゃん喚いてる間は 比較的安心して見てられそうですが……次は明るいノリの展開だといいなぁ。  既刊感想:流れよ光、と彼女は言った       滅びよ魂、と獅子はほえた 2003/10/04(土)バイトでウィザード 滅びよ魂、と獅子はほえた
(刊行年月 H15.03)★★★☆ [著者:椎野美由貴/イラスト:原田たけひと/角川書店 角川スニーカー文庫]→【
bk1】  シリーズ第2巻。無気力無感動の京介が、中学時代いかにして今は亡き礼子と付き合っ ていたのか……前巻で到底物足りなかった要素は今回どうかと楽しみにしてたのですが、 描写の具合は前巻より更に少なくてしょんぼり気分。現行の流れの中ではもう過ぎた事で あっても京介の中では重要な位置を占めているだろうし、唯一まともな感情を露わに出来 る存在が彼女について考えている時だと思うので、もうちょっと何とか取り上げて描いて くれたらというのが希望なのですが(過去の話は番外編でもなければ厳しいのかどうか)。  それより何より2巻目読んでても、やっぱりどうしても豊花の京介に対する態度が部分 的に相容れなくてダメな感じです。京介の方は自分にも他人にも冷めた視線で見てるから、 怪我を負った所で痛いとも痒いとも何とも反応を表に出さないのは性格的によく分かる。 けれども豊花の場合、仮にも双子の兄貴が重傷負わされているのに妙にあっけらかんとし てる所で少々違和感が付き纏う。最初だけは相当うろたえていたので「お、豊花がまとも な感情見せてる」と納得顔で頷いてたのに、結局は京介の心配そっちのけで助けてあげた んだから今日の夕食どうのこうの言ってるのには唖然となってしまいました。  これが“京介は殺しても死なないような奴”なんて具合に、双子の兄だからこそ心配無 用と分かり切ってるが故に気にしない方向に傾いてると思えば納得も出来るのですが……。  長谷と塩原の風紀委員コンビは吐き気がする程(一応誉め言葉)悪役に徹していて、予 想以上に物語を引っ掻き回してくれたので良い感じでした。しかし最後に事が済んで長谷 と京介がああなってしまったのは正直言ってやや不満。長谷と塩原には京介&豊花を脅か す存在として、今回みたくどんどんヤバイ方へと手を染めて悪役の道を突っ走って欲しか ったのに。こうなると多分それはしばらく望めそうも無いので残念。  おそらく今後の伏線となっている本家側での不穏な動きが、これから京介や豊花とどん な風に絡んでゆくのか? 僅かに接触した家長の存在や、華奈の異常性がどういう形で表 に出て来るのか? など、次巻以降で楽しみとしているのはその辺り。  既刊感想:流れよ光、と彼女は言った


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