NOVEL REVIEW
<2003年10月[中盤]>
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10/20 『半分の月がのぼる空 looking up at the half-moon』 著者:橋本紡/電撃文庫
10/19 『AHEADシリーズ 終わりのクロニクル2<上>』 著者:川上稔/電撃文庫
10/18 『Missing9 座敷童の物語』 著者:甲田学人/電撃文庫
10/17 『学校を出よう!3 The Laughing Bootleg』 著者:谷川流/電撃文庫
10/16 『ダーク・バイオレッツ5 針の小箱』 著者:三上延/電撃文庫
10/15 『撲殺天使ドクロちゃん2』 著者:おかゆまさき/電撃文庫
10/14 『ワーズ・ワースの放課後II』 著者:杉原智則/電撃文庫
10/13 『しにがみのバラッド。2』 著者:ハセガワケイスケ/電撃文庫
10/12 『正しい怪異の祓い方 結びの七つ穴の紐』 著者:スズキヒサシ/電撃文庫
10/11 『いつもどこでも忍ニンジャ3 日本の夏、血桜の夏』 著者:阿智太郎/電撃文庫


2003/10/20(月)半分の月がのぼる空 looking up at the half-moon

(刊行年月 H15.10)★★★★ [著者:橋本紡/イラスト:山本ケイジ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  非日常(この物語の場合は病院内か)に放り込まれた中に存在するありふれた日常風景、 それに乗せて少年と少女の出逢いから触れ合いを経て深い絆を結んでゆくボーイミーツガ ールストーリー。このスタイルはもう『リバーズ・エンド』や『毛布お化けと金曜日の階 段』などで実証済みな橋本氏の真骨頂で、持ち味を最大限に活かし切っている作品と言え るのではないかなと思いました。本当に良い意味でありふれたちょっといい話。  ふっと軽く息吹き掛けただけでもあっさり崩れ去ってしまいそうな脆さと儚さと切なさ とを抱えた雰囲気で、濃淡で言えば限りなく淡に偏っているような印象。この物語に絶妙 に合っていて、何気ない日常描写へ自然に溶け込むような感触が堪らない。  やっている事は実に単純明快。病院の患者である少年と少女の触れ合いを描く……ただ それだけ。しかしたったそれだけと思うなかれ。逆に蓋を開ければたったそれだけの中身 を200頁に渡って描き続ける事は、ある意味奇抜なアイディアや複雑な伏線を敷いて挑 むよりも、余程踏み込むのに覚悟の必要な領域じゃないだろうかという気がするんですよ ね。当り前過ぎて分かり易過ぎて却って誰もがあまり進んで挑まなさそうな物語は、分か り易いだけに背景描写やキャラクター描写などの上手い下手が作中で一目瞭然に表れてし まう。ストレート勝負を仕掛けている為に下手な小細工も通用しない。そんな部分で紛れ もない上手さを感じられる辺りは、やっぱり凄いなと唸らされてしまう。  まあ捉え方によっては見るべき点が「それだけ」なのも確かなので、淡白加減が退屈と なりそうな微妙さなどは、好みの合う合わないによって違ってくるものなのかも。  基本的に裕一が香里に尻に敷かれてる関係は微笑ましくていいな〜と和むのですが、主 に裕一を引き立てている亜希子さん、多田さん、司の脇役達も非常に魅力的で良い味を発 揮していて好きですね。裕一と香里の続きを見たいかどうかと問われたら、私は迷わず首 を縦に振ります。綺麗に纏まってはいるけれど、仮にこれで終わりと言われた所で全然納 得なんか出来ません。『覚悟』の意味を死から生へ変化させた香里の行く末も、変化を与 えた裕一がどんな想いで彼女と向き合うのかも、最後まできっちり描いて欲しいです。 2003/10/19(日)AHEADシリーズ 終わりのクロニクル2<上>
(刊行年月 H15.10)★★★★ [著者:川上稔/イラスト:さとやす/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  変態だ……変態がいる……変態の名はいわずもがなの佐山御言。真顔で「脱いでくれた まえ」とか言いながら、前の新庄(弟)へ及ぼした行為と全く同じ事を新庄(姉)の対し てやってる辺りどうしようもねーなーこの男は。他に目を向けるべき重要な要素は幾つも あるってのに、こんな男同士の背徳行為が異性への痴漢行為に取って替わっただけのしょ うもない変化ばかり強烈に印象に残ってしまうのは果たしてどうなんだろう。  しかし確かに新庄姉弟の『嘘』に対する佐山の疑問や疑念も、そこからストレートに変 態じみた行為に及んだのもよく分かる。現行ではまだ新庄が佐山に明かす段階ではなくそ れ故に隠し続けているわけだから、自分で読んでいても一体どういった類の『嘘』だろう かと考えてしまい、佐山が抱いていたのと同質の可能性も頭の中を泳いでいました実は。  だから彼が気持ちを代弁して行為を起こしてくれたものと思えば、納得出来なくもない ような気もします。まあ本当に心から嫌悪するなら激しく突っぱねるだろうし、そうでも ないのはやっぱり新庄もまんざらじゃないって事なんだろうなぁ(実際ハッキリ声に出し て「佐山君はすっごく大切な人」みたいには言ってたし)。結局の所、佐山の早とちりな だけで新庄がついてる『嘘』の真相については分からないまま。『嘘』の重要性と物語の スケールとを照らし合わせてみた感じで、解かれるのはまだまだ先の話になりそう。  今回は名を付ける事で力を得るという概念を有する<2nd−G>との全竜交渉、その2 nd−Gの代表との事前交渉前まで。本番前の準備段階と言った様子で、佐山達が2nd −Gの過去と現在の立場を徐々に頭に取り入れて理解しながら、彼らとどう接してゆくか の作戦を練る辺りがメインとして描かれてます。この巻だけで言えば、名が力を持つ概念 についての小難しい描写は前回と比べて薄く、1で性質とかルールとかはそれなりに掴め ていたので身構えていたよりもすんなり物語に入り込めました。  位置付けが不明なキャラ(命刻、詞乃、アブラムなど)も一部存在してますが、1話だ けでも長いのにそれを多分10th−Gまでやろうとしてるから、早々には明かされない だろうなぁという感じで気長に待つしかない。とりあえず当面は2nd−Gの事。  既に現状で<Low−G>の中に組み込まれているので戦う理由がない。だからと言って 簡単に交渉が済むかと思えばそうはいかず、逆に波風立てれば両者の間に要らぬ刺激を与 えてしまう。前回と全く異なる点で、単に力押しでは解決しない繊細さを含んでいるのが 実に面白い。佐山がどう交渉を進めてゆくのかは気になるけれど、2nd−Gの鹿島が選 択しなければならない道の中でどの方向に進んでゆくのかも興味深い所。  既刊感想:1<上><下> 2003/10/18(土)Missing9 座敷童の物語
(刊行年月 H15.10)★★★☆ [著者:甲田学人/イラスト:翠川しん/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  やけに頁数が少ないなと思ってたら案の定続きものでした。しかも間章やなかがきにあ えて番号振ってる辺りから考えてみると、これまでのように次で簡単に完結編とはいかな いような予感も。ただ今回の場合はまだ初っ端もいいとこだったので、次が出てみないと 何とも言えずな手応え。序章のあれについて本題の『座敷童』と何の関係があるのかは、 占いの事がさらりと表面に出ただけで今の所関連性には大して触れられていない。  水面での儀式から生み出される怪異についても、“座敷童に似ている”という類話が空 目によって提示されただけで未だ正体不明の恐怖に翻弄されるがまま。結局の所は「まだ よくわかんねー」と既に気持ちは次巻へ飛ぶばかり。同じ分かんないもので十叶詠子の感 情は言うに及ばず、彼女の使徒達も不気味さを醸し出しつつ何を考えているのやら。  疑問、不安、恐怖、陰鬱、嫌悪、後悔、困惑……考えて挙げようとしたらきりがない程、 負の雰囲気にすっぽりと飲み込まれているこの現状。相変わらず空目以外のメンバーが不 安定に揺らぎっ放しで見ていて相当に危うい。極限状態に近付きつつある崩れそうな精神 と、ひたひたと這いずるように迫り来る見えない存在とを合わせて描かれている恐怖感に は、毎度の事ながらうまさが感じられて良いですね。視覚で認識出来ないのに確かにそこ に存在すると分かってしまった時の表現、鳥肌総立ちで恐怖に駆られる感覚が堪らない。  今回は特に亜紀。これまでの物語の積み重ねから彼女の本質は非常に弱いと掴めている ので、やばいなやばいなと思ってはいましたが……。ここまであからさまに露呈してしま うのを見ると、まるで鋭利な刃物をぐさりと胸に突き立てられるような痛々しさばかりが 残って非常に辛い。なんか最後も恨めしくなるような引き方してたし、これは気にならな いって方が嘘で期待せずにはいられない。明らかに終局に向けて形作られ始めた流れが、 首まで突っ込んた亜紀にどう影響するのか? もし知ったら空目の反応は? 状況を楽し んでいる風な詠子はどう出る? 使徒達の動きは? まだまだ色々と山積みです。   既刊感想: 2003/10/17(金)学校を出よう!3 The Laughing Bootleg
(刊行年月 H15.10)★★★★ [著者:谷川流/イラスト:蒼魚真青/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  今回は1巻の『正式な』続編という位置付け。少し間が開いただけなのにやけに懐かし い感じがしたのは愛着あるせいか、キャラクター的にはこいつらの方がしっくりと物語に 馴染んでるなという印象。何にしてもこの物語、相変わらずまどろっこしくややこしく堅 苦しく難儀な性癖の持ち主ばっかりだな本当に。既存のキャラも新キャラも含めて、真相 に辿り着くまでこれだけ遠まわしに脱線しながらやりあってくれると、却って壮観な眺め を見せられているようで「よくここまでやれるもんだ」と感心してしまいます。  1巻での佳由季視点が外れて三人称形式になった為、彼の思考のややこしさは随分と薄 まったようで、ついでに彼が最も常識人に見えてしまうという恩恵まで付加されてました (あくまで彼を含む奇人変人達の中で)。視界があちこちへ広がった替わりに佳由季の主 人公的立場は弱まってますが、この物語で誰が主人公かと言うとやっぱり高崎佳由季以外 には有り得ない気がする。春奈の事はもう吹っ切れて気にしてない振りしてみても、実は まだ抜け切れてないのをさり気なく見せているのが良いですね。終章前の辺りの呟きとか。  で、今回の主役は誰が見ても間違いなく茉衣子。プライドの高さと冷静さで自信に満ち 溢れている……と見られる様に意識して装っているから、一旦ペースを掻き乱されると途 端に崩壊してしまう。そんな姿を見事に極端に素を曝け出しているのが実に良い感じで、 驚いたり慌てふためいたりな姿は普段よりずっと可愛いらしい。宮野の前では良くも悪く も特に意識しまくってるのが見え見えなのも、一見して何も考えなしのようで常に本質を 突いて来る若菜との触れ合いも、茉衣子自身を引き立てていて凄くいいですね。  ストーリーは類が持ち込んだ事件が続くかと思っていたら二段構えな内容。最初の流れ を含んで次の流れへ発展している所がうまい具合に効いていて、ハッキリとは描かれてな くてもハッキリと分かる滋の結末も読後に余韻が残るもので良かったです。  しかし一体『なぜ』起こったか? これ結局大元は解かれないままで終わったような気 がするのですが……。他にも屋上の不穏な会話も正体が掴めなかったし(後からの二人は 直ぐに分かったけど)、話でだけしか出てこなかった妖撃部部長(女子生徒らしい)も何 か一癖ありそうな雰囲気だったし。さて、果たしてこれらが一体どう影響するのか。    既刊感想: 2003/10/16(木)ダーク・バイオレッツ5 針の小箱
(刊行年月 H15.10)★★★☆ [著者:三上延/イラスト:GASHIN/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  電撃hp誌上で掲載された5編と、書き下ろしの表題作『針の小箱』を含んだ計6編の 短編集。ただしこれは外伝でも番外編でもなく、神岡町と『常世』の尋常ならざる関係を 長編の流れの合間に起こった幾つかの事件として描いているので、むしろ長編ストーリー と非常に密接な繋がりを持っているような内容。だから長編を最初から追い続けて来た身 としては、割と色々な箇所においしい要素や嬉しい配慮や思わずニヤリとさせられる演出 などが散りばめられていたかなという印象でした(もっとも、読んでみた感じで長編より この短編集から先に入ってしまっても雰囲気を掴むのに別段不都合はないかなと)。  容易に長編との時間を比較する事が出来る、巻末の『神岡町に於ける事件の推移』など の掲載も実に嬉しい配慮。その大きな流れを把握しながら、気が付けば明良と柊美が距離 を縮め絆を深めてゆく過程も自然と頭の中に入ってしまう寸法。  最初は『常世』とはまた別な外伝的なものと想像していたので、これだけ短編一つ一つ のエピソードが長編ストーリーの時間軸に密接に複雑に絡んでいたのには、なかなか予想 外に大きな手応えが得られて面白かったです。例えば長編の大きな事件に対してうっかり すると記憶から零れてしまいそうな語られる事の無かった過去の些細な出来事とか、例え ばそんな過去の零れ話の中に未来を予感させる伏線がさり気なく含まれていたりとか。そ こにはちょっとした箸休めなんかじゃ済まされない充実感が存在してました。  どのエピソードもあんまり救いのあるものではなく後味良いとも言えないですが、そう いう雰囲気が作品の持ち味としてうまく描かれている。ダントツで印象に残ったのは第五 話『影の館』でしょうかね。『良かった』と対極に位置するような結末には、うあ……と 絶句しながら鳥肌総立ちで背筋が凍りそうな気持ち。後味悪過ぎて遣り切れない堪らない、 なのはこういうのに耐性無いせいなのかな? 相当にきっついダメージ喰らいました。   逆にもうひとつだったのが第六話『針の小箱』。これは短編で留まらせたのが勿体無い と思ったからで、中編〜長編くらいの分量で膨らませて書いて欲しかったかも(せめて最 後に千紗だけじゃなく明良や柊美にも触れて欲しかったなぁ)。他に気になる所で“もう 一つの神岡町”なる言葉が出て来た第二話『あの道』と第四話『チェンジリング』。今後 の長編に関わる事のような気もするんですが、意味を持つ要素かそうでないか詳しい所は まださっぱり分からないので、来月早々に刊行される長編作の次巻待ち。  それにしても今後の展開や雰囲気などが何となく想像出来てしまえる状況で、この3人 並んで微笑を浮かべている表紙は切ないです。もう滅多な事じゃ見られないだろうなぁ。  既刊感想: 2003/10/15(水)撲殺天使ドクロちゃん2
(刊行年月 H15.10)★★★★ [著者:おかゆまさき/イラスト:とりしも/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  ストーリーとして最も面白かったのは『撲殺天使ドクロちゃん』のどのエピソードでも なく、実は巻末既刊案内の『びんかんサラリーマン』だったというとんでもねーオチが用 意されてやがりました。なかなかやってくれやがるぜおかゆまさき(というより良い意味 で編集部の悪ノリの方が目立って仕方ないのは気のせいか)。  巻末のやつをおかゆ氏が書いたかどうかというのは、あとがきでも全く触れられてない ので分からなかったわけですが、下手すると悪ノリと勢いが昂じて何の違和感もなく本気 で第2のシリーズになってしまいそうな所が恐ろしいです。でも何かこう思うと敗北した ような悔しさが込み上げて来るのだけれど、冗談抜きで楽しかったんですよね敏感一郎が。 こんな風に書くと実現して欲しいように取られてしまうかも知れないですが、実際その通 りなので本当にやってくれるなら望む所ですよ。  内容の面白さで勝負する以前に、それ以外の部分で他じゃ出来ない馬鹿馬鹿しくて脱力 してしまえる程の遊び心を取り入れられるような作品って、ある意味凄く貴重な存在にも 思えてしまう。今回の場合は『びんかん』だったり帯のアレだったり。勿論そんなとこば っかり楽しくするだけでなく中身もちゃんと楽しくしてくれなきゃダメなんだけど。同じ ノリではいずれ飽きてしまうかもなリスクを背負いつつも、今の所は外と内とのくだらな さ加減が相乗効果を生み出していて、良い感じで良い方向へ流れてるんじゃないかなと。  中身についてはハッキリ言ってあんまり詳しく触れるまでもないかなぁ。シチュエーシ ョンの変化はあれど、やってることは前巻となんら変わってない(ドクロちゃん暴走→桜 くんが歯止め→撲殺→ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ〜)ので、やっぱりインパクトと新鮮さの 点では及ばない。もっとも、シチュエーションは基本とお約束をきっちり押さえていたし、 思わずプッと吹き出してしまうようなツボはむしろ前巻より多かったような気も。個人的 には特に静希ちゃんの言い間違い(P88)が何故か絶妙にツボにハマってしまって、思 い出す度に笑い転げてました。まあどうしようもない問題作なのは分かり切っていても、 あれやこれやとずらずら並び立てても、結局は“好きなんだからしょうがない”に落ち着 いてしまうんですよね。今後も行けるとこまでハジけて行っちゃって下さい。  既刊感想: 2003/10/14(火)ワーズ・ワースの放課後II
(刊行年月 H15.10)★★★★ [著者:杉原智則/イラスト:瑚澄遊智/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  この物語は分割せずに2冊まとめて一気に読み切った方が絶対楽しめるものと確信。そ して今回のあとがきは一番最初かIIに入る前か、とにかく後回しではなく先に目を通して おいた方が物語をより楽しめるのではないかと思いました(どうもあとがきの締めの部分 から、先に読む事を想定して書かれているような気もしたし)。  そんなわけで後編で真相編で完結編。現実世界と夢世界のキャラクターリンクに関して、 前編での感想はあながち見当違いでもなかったらしく。でもそりゃ後編の為にあれだけ伏 線敷きまくってたら気付けないだろ……と言いたくなったのが本音。ただ、そこら辺の構 成もちゃんと意図的に仕組まれているのが作中でうまさとなって表れているから面白い。  しかしまあこの物語、後編に入っても相当に引っ張ってくれたこと。現実と夢の間を行 ったり来たりの誠視点から、「一体何がどうなっているんだろう?」と首を傾げていた多 くの事柄がなかなか解かれなくて、おまけに随時ヒントを出して擽ってくれるもんだから、 前巻からの蓄積もあってか途中まで随分と鬱憤が溜まってしまいました。  ストレスを発散させてくれるのは200頁以降から。まるでそこまでは何とか我慢して 持ち堪えてくれと誠に言われているような展開は、終盤の真相語りを実に効果的に際立た せている。色々な謎をばら撒いて、それを解く為のヒントや手掛かりを徐々に徐々に提示 してゆくという丁寧な下地があるからこそ、解き明かされた真実が強く印象に残るのだと 思います。数々の疑問を一気にスカッと吹き飛ばすようなこの演出は見事。  現実と夢世界の真相について。誠とマコト王子の関係は大体予想通りな所で収まってた けれど、母親と神谷と智子の扱いはやっぱり途中まで掴み切れてなくて、「あ〜そういう 事だったのか〜」と“なるほど”を繰り返しながら頷き納得してました。  この物語で重要な“無”や“言葉”と世界の関係は、終盤に入っても度々立ち止まって 理解するまで考えさせられてしまったので、もうちょっと噛み砕いて描いて欲しかったか なというのもありましたが、ぐいぐい惹き込まれた多くの要素に対しては些細な事。一抹 の寂寥感と共に一杯の心地良さを用意してくれたエピローグは実に良いものでした。  既刊感想: 2003/10/13(月)しにがみのバラッド。2
(刊行年月 H15.10)★★★☆ [著者:ハセガワケイスケ/イラスト:七草/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  今回も連作短編形式、章ごとで『死』の側に立たされている誰かと誰か――大抵は様々 な形の男女関係の絡みから膨らんでいる物語の数々、やはり基本的に主役として目立つの ではなく傍観者的位置付けで物語の象徴として存在している白い死神モモ……などなど構 成や話の運び方などは同じ道をそのままそっくりなぞっていたような印象でした。  ただ、それがダメかと言えば全然そんな事はなくて、まだ2巻目だからというのもある かも知れないけれど、何かこう一巻目から通して割と似たよう雰囲気を持ったエピソード が並んでいるのに不思議と飽きたりダルいと感じたりしないのは、描きたい事を素直に描 いているのがストレートに伝わって来る、という良さを持ち合わせているからだと思う。  いわゆる文字より白い部分が目立つ中身で、描写に凝っているとか意外性を含んだ仕掛 けとかがあるわけではなく、非常に淡白であっさりしていて軽く流して読める内容ながら、 心に深く響き染み入ってしまい何故か強く惹かれずにはいられない。余計なものを取っ払 った分かり易い仕上げの効果が確実に良い方向で影響していて、これがこの作品の持ち味 なんだとしっかりアピールしながら確立させている所が好感触(ちなみに、甲乙つけ難い けれど最も印象に残ったのは「スノウリバース」でした)。  しかしながら前巻と同じ部分を外さずに辿っているのは不満な要素も全く変わらずで、 それはモモの存在に関しての様々な事が今回もさっぱり掴めなかった点。最後の短編エピ ソードで彼女が文字通りの主役を張るのは、多分2巻とも同じだったので今後もそのスタ イルで通すのではないかなと。でもやっぱりモモのエピソードは明らかに一線を画してい て核心に触れるような感じで描かれているから、他のエピソード群とは明確な線引きで区 別して欲しいとも思うのです(例えばプロローグとエピローグだけで毎巻少しずつモモに ついてを紐解いてゆくとか、逆に1巻分丸ごとモモを主役に立てるとか)。  何となく随分勿体振ったように伏線敷いて隠している気がしてならないのですが、今後 どうやってモモを絡めて見せてゆくのか気になる所。多少進展あっても余りに歩みが遅い と消化不良は解消されそうもないので、確かな手応えが得られる事に期待したいです。  既刊感想: 2003/10/12(日)正しい怪異の祓い方 結びの七つ穴の紐
(刊行年月 H15.10)★★★☆ [著者:スズキヒサシ/イラスト:壱/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  読んでみた感じとしては、実は怪異に関係する事よりもキャラクター同士の様々な掛け 合い触れ合い絡み合いの方が強く印象に残ってたりします。作中の使い方でちょっと興味 深さを覚えた所が大きかったかな? 最初は一人称視点である綾が主人公っぽいけど、活 躍している点で主役に見えるのは明らかに絹糸(表紙も彼と其人だし)、でもエピローグ には綾が本当の意味での主役であって主人公と示されている。これらの立場の変化をキャ ラ同士の関わりの中でしっかり見せている辺りにうまさが感じられました。  性格とかもそれぞれ個性や特徴が強烈に表れていて良い感じ。特に綾と絹糸でしょうか ねやっぱり。まあ綾は歳相応のガキっぽさが持ち味として随所に出ているけど時々そこが 鼻についたし、絹糸は絹糸で他人を不快にさせる才能を如何なく発揮しているので、正直 どっちにもあんまり好感抱けませんでしたが。ただ、この2人の掛け合いには随所で妙に 心惹かれる面白さがあったのですよね。もっと細かく言えば其人を含めての3人となるけ れど、最初は成り行き任せだったのに何時の間にやらなかなか面白味のある関係に発展し ていたり。綾に対して稀に見せる絹糸の優しさというのか気遣いというのか、普段がああ だから余計に際立ってしまうのも何となくいいなと思える数少ない要素。  何故か野郎どもに魅力を感じてしまっているのに、鼎や倫子などの女性陣にそこまで抱 けなかったのが何だか複雑な気分。倫子の方であまり綾について触れてないせいか、どう も綾の想いは一方通行のまま終わってしまったような気がしました。鼎にしても綾ともう ちょっと何かあるかと思ってたんだけど別にメル友以上は何にもなくて、それ以前に鼎の 描写自体が不足気味で活かし切れてないようで少々勿体無い扱いだったのが惜しい。  それからこの物語の文章形式はハッキリと三人称文章が良かったと思いました。一人称 なのに視点変換過多なのが気になった点。加えて序盤から伏せている事柄がやけに多いの で、「これは一体どういう意味なのか?」「何の事を言っているのか?」という入り込み 難さが尾を引いてしまいました。しかし最も引っ掛かったのは、基本的に綾視点なのに彼 は“霊的不感症で怪異が殆ど認識出来ない”というもの。後で其人に話を聞いたとかでフ ォローはあっても、この設定で一人称文章だと無理にハンデを背負ってる事になるんじゃ ないかなぁと。少々首捻りなのは三人称文章の方が素直に書けそうな気がしたので。 2003/10/11(土)いつもどこでも忍ニンジャ3 日本の夏、血桜の夏
(刊行年月 H15.10)★★★ [著者:阿智太郎/イラスト:宮須弥/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  なんともなりませんでした。全く期待に応えてくれない予想通りな仕上がり。まだ3巻 目だってのに、マンネリ感全開なだら〜っとしたこの手応えはどうしたものか。  いや、こういう風になるだろうという予感は1巻目で何となくあったにしても、意外と マンネリパターンにはまるのが早かったので(5巻くらいまでは持ち堪えるかなと思って たんですけどね)。プール、キャンプ、スイカ割り、合宿、きもだめし、と夏のイベント をあれやこれやと取り揃えて話を立てている点は統一感が出ていて良かったけれども、や ってる内容がこうも似たり寄ったり(マコトがもてまくるか血桜忍群の連中がボケっぷり を晒しまくるか)だと、あとはもう“気軽に手頃に読める”事しか残らない。  まあ確かに連作短編はネタさえ捻り出せば勢いだけで長編より数を打てるような気もし ますが、飽きが早い出来栄えを見たら「そんなんでいいのか?」とも言いたくなってしま う。今回のあとがきを読んで長編を持って来ようとしない理由もよく分かりましたが、基 本的にはキャラクターもコメディのテイストも嫌いじゃないだけに、半ばパターン化して しまってる中身を打破するような一手をついつい期待してしまうのですよ。  今回は無駄に新キャラを出し過ぎていないのと(血桜忍群は変な脇キャラが大量放出だ ったけど)、ちょっとだけ涼葉がマコトを意識するようになって一歩前進な辺りが素直に 良かったと思えました。しかしマコトがクソ鈍感なのと恋愛話になる以前にギャグで倒れ るせいで、今の所はいつまで経っても涼葉と桃香との三角関係になる気配が微塵もありゃ しません。明らかにそんな話は立ち難い性質のシリーズですが、ゆっくりでも涼葉の気持 ちが傾いてくれれば今後の見所にはなるかも知れない。その他……う〜ん、この調子で完 結の時どう締めるのかと今から予想を巡らせて楽しむとか。  既刊感想:


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