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12/10 『食べごろ 斬魔行 砂龍の城』 著者:池端亮/角川スニーカー文庫
12/09 『涼宮ハルヒの溜息』 著者:谷川流/角川スニーカー文庫
12/06 『涼宮ハルヒの憂鬱』 著者:谷川流/角川スニーカー文庫
12/05 『シャンク!! ザ・レイトストーリー VOL.1』 著者:秋田禎信/角川スニーカー文庫
12/03 『ネオクーロンA』 著者:鷹見一幸/角川スニーカー文庫
12/02 『デモンズ・クラッシュ! 終劇は我輩が決める』 著者:あおしまたかし/角川スニーカー文庫
12/01 『ディバイデッド・フロント I.隔離戦区の空の下』 著者:高瀬彼方/角川スニーカー文庫
2003/12/10(水)食べごろ 斬魔行 砂龍の城
(刊行年月 H15.07)★★★☆
[著者:池端亮/イラスト:鈴見敦/角川書店 角川スニーカー文庫]→【bk1】
シリーズ第2巻。妖怪食材の料理しか食べられない体質に妖怪退治を生業とする『猟士』
の称号を持つ不死身男と、妖怪に食料にされそうな所をその不死身妖怪料理人猟士に救わ
れ押し掛け弟子入りしてちょこちょこくっ付いて回る女の子の二人旅……だったような気
がする。キャラクターに関しては、冒頭に紹介もあったし少なくとも不死身のユキと弟子
のリュネは覚えているので多分間違いない。けれども期間開き過ぎで前巻がどんなストー
リー展開だったか自分の感想読んでもサッパリ覚えてなくて。えーと、妖怪を食材にした
料理については今回あまり出番無し。そうでなくて妖怪――というのか龍に食事を作って
何とかして食べさせてあげなければならないのが目的の一つとして描かれてます。
主な舞台は何百年も前から大人しい龍が住み着いている砂漠の小国。それに危機感を抱
き続けていた朝廷軍の侵攻が引き金となり、百年に一度起こる龍の脱皮イベントを交えて
ドンパチ騒動。相変わらずユキの危機管理低調な雰囲気に惑わされがちですが、全体的に
アクションシーンの掛かっている割合は想像以上に大きく、またその描写も派手で激しく
(主にリュネの)危機的状況満載。戦闘技能や術関係で小難しい理論を並べ立てている辺
りはもう少しお手柔らかにと思ったりもしましたが、そういうのを差し引いてもユキの戦
いを筆頭にリュネやエリシャの奮闘など戦闘シーンにおいてはなかなかの好感触。
あとは実に活き活き描かれて凄くいいなと感じられたのがリュネとエリシャの関係。こ
の女の子達2人、至る所でいがみ合い肉弾戦を繰り広げ生傷こさえながら、肝心な局面に
なるとピタリと呼吸を合わせ心を通わせてみせてくれる。ユキ&リュネの師弟関係とはま
た違った迷コンビぶりの発揮に思わずにんまりとさせられてしまう。
ユキの事は、夜叉姫アープとの関係で過去に何があって現在こうなったのか詳細までは
描かれていないので、まだ不明瞭な部分も結構あったり。とりあえずはユキとリュネの目
的自体があんまり明確でないので、この物語がどういった方向へ進むのか分からない。ユ
キの不死身の体質やアープに絡んでゆくのか、それともユキを狙う朝廷軍と戦いを繰る広
げてゆくのか。これで終わって欲しくはないので、ともかく続きが出てくれないと……。
既刊感想:雷龍のヴァルキリー
2003/12/09(火)涼宮ハルヒの溜息
(刊行年月 H15.10)★★★★
[著者:谷川流/イラスト:いとうのいぢ/角川書店 角川スニーカー文庫]→【bk1】
シリーズ第2巻。何はともあれ単純に涼宮ハルヒってキャラクターの立て方が前巻より
うまいなと感じたので。中心に居ながら何も知らないハルヒはその傍若無人ぶりな様子が
キョンの視点から隠れてやっている部分も結構あって蚊帳の外、で脇を固める異星人未来
人超能力者その他諸々が語り手のキョンと一緒になってイカれた設定を表面に出張って盛
り上げてゆく――これが前巻の印象。ハルヒの普通じゃない数々の言動はありながら、じ
ゃあそれによって彼女がどんなとんでもない事をやらかそうとしているのか? 弱いと思
ったのは途中からキョン+異星人未来人超能力者の語りに何となく飲まれているようで、
それをハルヒ抜きでやっていたせいでハルヒの印象が薄まったような気がしたから。
その点で言えば、今回は大抵ストーリーの何処を切っても自主制作映画の超監督として
ハルヒの存在が中心に立っている。ハルヒの表立った言動によって影響を受ける世界の変
化がしっかりと描かれているから、キョンのぼやきや異星人未来人超能力者達のインパク
トにも負けていないし手応え充分で印象にも残る。自分本位な強引さがエスカレートして
やり過ぎと映っても、これくらい苛烈にやってくれた方がハルヒらしさが満足に発揮され
ていて良いと思う。まあこの辺はみくるも一般人じゃないから容認出来る事なのかも。
しかし一体内容はどうなるんだろうか? と、終始ハルヒの頭の中身から構想の拝見し
たい気持ちで読んでいたのは自主制作映画の事。あーこれは映画撮影の作業自体がハルヒ
の本質を際立たせる為の小道具に過ぎなかったわけで。つまりこの映画はどんな内容であ
っても、完成作品が誰にボロクソに貶されても或いは何かの間違いで賞賛されたとしても、
それは瑣末な問題でしかない。重要なのは“ハルヒの思い込みが容易く世界を変革させて
しまう”この現状を、映画制作を下敷きにして印象深く植え付ける事、なのかな(ハルヒ
がどんな物語を撮りたかったのか……その詳細は未だに考えても謎ですが)。
オチについてはそうきたか。確かにハルヒに虚構を虚構だと思い込ませるにはこれ以上
に無い魔法の言葉。肩の力抜けたけど納得は納得。ただ、結局の所「涼宮ハルヒとは一体
何者なのか?」という根本的な疑問は何ら解消されてないんだけれど。いきなり冒頭でキ
ョンがネタバラししてもハルヒは全く信じようとしないので、彼女自身が気付かない限り
は今後もこんな騒動が堂々巡りになりそうな不安要素もあるにはあります。
既刊感想:涼宮ハルヒの憂鬱
2003/12/06(土)涼宮ハルヒの憂鬱
(刊行年月 H15.06)★★★☆
[著者:谷川流/イラスト:いとうのいぢ/角川書店 角川スニーカー文庫]→【bk1】
第8回スニーカー大賞『大賞』受賞作。
変な話に変なキャラクター達。面白いかダメかどちらかを取るなら、迷わず『面白かっ
た』の旗を振り上げていい内容。でも何となく読む前から涼宮ハルヒってキャラクターに
過剰な期待を寄せていたせいかどうか、想像してたよりも彼女にぐいぐいっと惹かれるよ
うな手応えが物語の中で満足出来る程には得られなかったかも知れない。
序盤ではハルヒの自己紹介辺りの掴みが凄く良い感触だったけれども、段々とキョンに
対して「お前のぼやきはもういいから黙ってハルヒの奇行を追ってくれ」と思わず言いた
くなりそうになった所から物語の印象が微妙になってしまったのかなと。そこが面白い要
素だろうと返されたらもうどうにもならないですが、要は読み進めてみても序盤のインパ
クト以上にハルヒに惹かれるようなテンションが上昇しなかったというわけで。
これはキョンの一人称視点による『涼宮ハルヒ観察記録』でいいんだろか。そりゃ彼の
やる気無しな脱力感情が終始流れ込んで来るのは当り前だし、そのテンポに引き摺られな
がら『おもしろーい』と素直に浸れたシーンだって幾つもあったし。ただ、どうもキョン
の語りやぼやきや愚痴なんかがバランス的に少々キツイというのかクドイというのか、そ
れによってハルヒの存在感が薄まっているようにも感じられたんですよね。
ハルヒの傍若無人ぶりに唸った。突き抜けた言動の数々を受けて凄い奴だとも思った。
無気力に巻き込まれるキョンの気持ちに同調出来る所もそれなりにあった。けれどもキャ
ラクターとして深く印象に残っているのは、むしろみくるや有希や古泉の方だったりしま
す。結局は「ハルヒとキョンをもっと接近させて絡ませてくれ!」が願望なのかな。
キャラクターがちょっとおかしい学園ストーリーな雰囲気を、途中で粉々に打ち砕いて
激変させてくれた展開には素直に驚嘆。正直色々な意味で置いてけぼり喰らいそうな付い
ていけなさ気分を味わったりもしましたが、これは度肝を抜かれた時点で参りました。し
かしまあここまでやっておいてこの締め方はどうよ? って微妙さもありましたけど。
2003/12/05(金)シャンク!! ザ・レイトストーリー VOL.1
(刊行年月 H15.12)★★★☆
[著者:秋田禎信/イラスト:依澄れい/角川書店 角川スニーカー文庫]→【bk1】
最初は割とシリアス寄りで進むかと思ってたら、あれ? あれあれ? という間にずん
ずかコメディタッチな展開へと流れる流れる。思いっきりハメ外した騒がしさやかましさ
が楽しくて良い感じ。中で何はともあれ見るべき所はどむーんの存在感でしょうか。
まずこのネーミングだけで他キャラの誰よりも立っていると思う。だって『スプレッド
・ムーン』が“どむーん”ですよ“どむーん”、慣れるまでこの名前が通過する度につい
つい笑わされたり脱力させられたり。しかもこれがまた電波系不思議魔力結晶体のあっぱ
らぱ〜外見少女の性質にピタリと合ってしまっている。ほっぽっておくと何仕出かすか予
測不能だから片時も目が離せない。どむーんを追って読んでいると何となくそんな気持ち
になるのは、多分シャンクが抱える気苦労とうまく同調出来ているから。「ねこー」「ひ
げー」「しゃーんく」の言葉と共に騒動巻き起こす様子を追うのが実に楽しい。
ただ、あんたら寄り道し過ぎだ! と言いたくなってしまう程に脱線しまくりで。いや、
決してシャンクは脇道に逸れようと考えてるわけじゃないと思うんだけど、彼は余計な負
担を背負い込んでしまうタイプってのかな? 貧乏くじを引いて呆けて虚しい空笑い、な
状況を何遍繰り返して次こそはと意気込んでも、また同じ事をやらかしてしまう状況から
はこの先ずーっと抜け出せないような。だからシャンクの描き方はきっとこれが正しい。
それでも、物語の進行上でコメディの塗り重ねばかりをやられても延々と笑っていられ
るわけではなくて。シャンクもブリアンも笑って済ませてばかりはいられないだろうし、
笑って素通りでは済ませられない方向へ傾くような展開にも期待してみたいし。
まあ今回はキャラの顔見せが主な目的の助走段階みたいな手応えだったから、大抵の興
味は次巻以降に持ち越し。設定は随分作り込んでいそうに感じられたけれど、シャンクに
してもブリアンにしてもどむーんにしても気になる深い部分はほとんど明かされてないの
で、その辺を色々表面に出してくれると面白くなって行きそうな気はします。
2003/12/03(水)ネオクーロンA
(刊行年月 H15.12)★★★☆
[著者:鷹見一幸/イラスト:PEACH-PIT/角川書店 角川スニーカー文庫]→【bk1】
おーい夏木てめーこのやろうあの“ぱんつ作戦”は趣味だろそうだろ絶対そうに違いな
い弁解は認めねーぞ。だって何か目立つもん探せば他になんかあったんじゃないのかー、
というより恵美もいくら非常事態に惹かれた奴の懇願だからってもうちょっと抵抗すると
かなんとかさーそんなにアッサリ従い許しちゃってそんなんで本当にいいのかよ?
……と、こんなんじゃなくて他に押さえたいポイントは幾つもあったのですが、とにか
くこれがおかしいくらいなインパクトで、笑わされたというよりかは緊張感続きなテンポ
が微妙にズレた為に見事にコケさせられて深く印象に残ってしまいましたと。いや、好き
ですけどこういうのも。夏木がそうしようとしてる素振りがあったので意表を突かれたん
じゃなくて、期待通りに動いてくれるだろうと分かっていながらカクッとやられてしまっ
た感じで。非常時だと言うのにどっきどきではちきれそうな恵美の感情も良いです。
旅行先のクーデターに巻き込まれ、日本人避難民抱えてあの手この手で追撃を振り切ろ
うと奮闘する女子高生と、現地大使館滞在の警察官を中心に描いた逃走劇。これはフィク
ションながら現実にあっても違和感が無さそうな設定でしょうかね。政治的な背景がスッ
と頭に入って来るような描写や、多数のキャラクター配置を混乱させずにきちっとまとめ
て描いて見せている辺りは良かったです。上総領事や身勝手な一部避難民のエゴで読み手
の気持ちを煽ってくれるのは、常套手段ながら挿入の仕方がうまいなと思う。
ただ、エピローグまで辿り着いた所で幾つか投げっ放しのまま終わってしまっているの
がちょっと不満。主にアラシア王国の建て直しは? 恐怖政治を敷こうとしたサムールの
行方は? それに関連してシルフィー殿下はどうなった? の辺り。肝心の恵美と夏木の
関係からして最後があんな風だったから、せめて少しだけでも後日談として差し込んでく
れたら良かったのですが。この辺は次への引きなのかどうか、十年後の『B』もしくはそ
の先の『C』に掛かってゆくらしく。とりあえず連載読んでない身としては非常に気にな
る終わり方だったので、不満解消してくれますようにと続きに期待。
2003/12/02(火)デモンズ・クラッシュ! 終劇は我輩が決める
(刊行年月 H15.12)★★★★
[著者:あおしまたかし/イラスト:TOMA/角川書店 角川スニーカー文庫]→【bk1】
シリーズ第2巻。と言うよりも、裏表紙のあらすじにそれらしい事がなんにも書かれて
なかったので、あとがきまで至ってようやく「あれ、そうなの?」と実感が湧いた一応閉
幕な完結巻。確かに作中の雰囲気が激変し始めた中盤以降で、「まとめ上げよう締めに入
ろうとしてるのかなこの展開は?」とハッキリ感じられたけれど、前半の相変わらずのお
馬鹿なテンションで笑ってた時は今回で終わりとは微塵も思ってなかったです。
単純でアホな思考に本能全壊のキバとか、惚れてしまったが運の尽きで過激な仕打ちを
受けまくる不遇なレイニィとか、無邪気なぷに属性ティアにぷに萌え変態剣士トウマに地
上最強お母さんルフィカさんとか。とにかく前巻から妙にキャラクター達に愛着を抱いて
しまった分だけ、気が抜けたような寂しい気持ちが大きく残ってしまいました。
これに関しては、ほとんどかもしかしたら“全て”と断言しても行き過ぎじゃないくら
いキャラクターに傾いてます。たとえストーリーはどうな風でも……となってしまうのは
ちょっとどうかと思いつつも。前の感想でも似たような事書いてるみたいですが、たとえ
類型的だとしてもキャラクターの特性を充分に引き出したり、それぞれを活き活きと絡ま
せて物語に組み込むような描き方が絶妙だと思う。特に馬鹿笑いを誘われるシーンが読ん
でいて凄く楽しい。これはどうあっても好きなもんで仕方ないってとこです。
ストーリーは前半のギャグテイストと中盤以降のシリアスハードな展開の落差がかなり
激しい仕上がり。伏線の明かし方も結末への持って行き方も、なるほど納得な感じで良い
具合にまとまってたかなと。ただ、思わせ振りな代理人が呆気無さ過ぎだったのと、終盤
の展開が何とか今回で終わらせようと急ぎ足に感じられたのが惜しい。この辺はやっぱり
だら〜っとぽけぽけな流れでももう少しだけじっくりと描きながら続けで欲しかった。
特に印象に残ったのは途中本当に泣きそうになったルフィカさんアレと、キバの世界征
服の真意に驚いた事。前者はあ〜も〜言葉にならなくて……。後者はそれを見せられると
確かにキバにとってはごく当り前な感情。知った時は何か凄く嬉しい気持ちでした。
既刊感想:魔王と勇者とメロンパン
2003/12/01(月)ディバイデッド・フロント I.隔離戦区の空の下
(刊行年月 H15.06)★★★★
[著者:高瀬彼方/イラスト:山田秀樹/角川書店 角川スニーカー文庫]→【bk1】
一人称視点の担当が誰になるかで感情の浮き沈みに結構激しい差があって、でも現在に
も未来にも殆ど希望を抱けない隔離区域の戦場が舞台なので、基本的には誰の見た視点で
あっても曝け出された偽らざるストレートな感情表現ってのが痛いくらいにぐさっぐさっ
と突き刺さります。何でもない時にここまでやられたら多分ちょっとくどいかも知れない
と思ってしまった感情描写も、肉体的にも精神的にもあと僅かで糸がぷつりと切れてしま
いそうな極限状態っだからこそ見事に効果的に映えていると言えるのかな。
もしも英次が切り札的な特殊能力持ちなんかだったらきっと興醒めだろうな、という常
に抱いていた心配も杞憂に終わってホッと一息(共生憑魔という設定にあっさりと危機を
覆す切り札となりそうな予感があったので)。それどころか威勢はいいけど至る所に弱さ
を置き去りにしてますよね彼は。そんな戦い慣れしてない故に露呈してしまうあらゆる脆
さの方がしっかり描かれているので、これ以上無い程ぎりぎりの戦況下での緊張感も得ら
れたし、付き纏う絶望感を振り払い誰かの為に必死で活路を切り開こうとする英次のがむ
しゃらな気持ちも充分に響いて来る。主にイチルの言葉に対して反抗的に自身を卑下して
みたり、随所で失敗を省みたまま深みにはまってしまいそうな弱さを持ち合わせていても、
それを克服してゆく成長を終盤で大きな手応えとして感じられたのが一番の収穫。
上記の感情表現については香奈に向けて。この状況でこの過剰さは非常に成功してるな
と思う。ただ、如何せん彼女の精神状態が半端でなく堪えて相当にダメージ喰らってしま
ったのでもう痛くて辛くて(そう思わせてくれた事が何よりも上手さの証明となっている
わけだけれども)。憑魔に襲われた時よりも、英次にむけて感情を吐露したシーンが特に
堪りませんでした。この香奈の精神や感情がまともであっても、この隔離戦区では“まと
も”なものが大して通用しないから、逆に際立って異彩を放っているように見えてしまう
のが更に切ない。英次を好きな気持ちだけが唯一の救いってのはあまりに悲し過ぎる現実
ですが……今は絶望しかなくても何とかなって欲しいと願わずにはいられないです。
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