NOVEL REVIEW
<2004年02月[前半]>
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02/10 『先輩とぼく』 著者:沖田雅/電撃文庫
02/09 『我が家のお稲荷さま。』 著者:柴村仁/電撃文庫
02/08 『塩の街 wish on my precious』 著者:有川浩/電撃文庫
02/07 『王国神話 空から降る天使の夢』 著者:明日香々一/富士見ファンタジア文庫
02/06 『パラダイス・メーカー オラが村ぁ平和』 著者:八街歩/富士見ファンタジア文庫
02/03 『ウィザーズ・ブレインIV 世界樹の街<下>』 著者:三枝零一/電撃文庫
02/02 『ウィザーズ・ブレインIV 世界樹の街<上>』 著者:三枝零一/電撃文庫
02/01 『七姫物語 第二章 世界のかたち』 著者:高野和/電撃文庫


2004/02/10(火)先輩とぼく

(刊行年月 H16.02)★★★★☆ [著者:沖田雅/イラスト:日柳こより/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  第10回電撃ゲーム小説大賞『銀賞』受賞作。  あらゆる意味で逝っちゃってます。それはもうスタート直後から凄まじく。その辺りは 表紙裏のあらすじ読めば分かるけれど詳細は伏せとくとして、この物語の中の超常現象だ とか非日常的な風景だとか、そういうのに対して疑問をぶつけてみたり解説求めてみたり しちゃいけないんだなと思いました。だってそもそも理屈が通用しないのでそんな行為は 疲れるだけで全く無駄だから。ページの何処を捲っても突っ込み所があり過ぎて逆に突っ 込む隙を窺えなかったのは素直に恐れ入りました。まあその代わりにはじめ君が多大な気 苦労という犠牲を払って、つばさの所業の数々へ突っ込む役に徹しているわけですが。  話の中身でお馬鹿な部分は読んでて頭痛くなりそうだったしキャラクター達はことごと く逝っちゃている奴らばかりなのに、でも独断と偏見でやらせてもらうならそういうの全 部ひっくるめて非常に面白かったです。さらりと断言してしまって「いいんだろうか?」 と心の中で抵抗さえしてしまう程ですが、それでも「良かったんだ!」と強調したいのは、 つばさが心底好きだと一人称視点で包み隠さず曝け出しているはじめと、そんなはじめを 優しい眼差しで受け応えるつばさの想いが深く染み入る描写。これに尽きます。  普段から思考や動向が変なつばさの感情は掴み難くて、それ故に心が入れ替わった挙句 益々弄られまくっているはじめの苦労もよく伝わって来るのだけれど、そんな性質だから こそかはじめを見る目が優しいものへ変化する瞬間が凄く良く分かるのかなと。  以下ネタバレで、興味本位で突拍子もない無意味な思いつきに見えるなつばさの発案の 数々に、実はちゃんとした意図が込められていると知った時は見事と唸らされました。意 味が無ければ「あの戦隊もどきとかは一体なんだったんだ?」なってしまうので拙いんだ けど、何かつばさに含むような仕種はあっても実際巻き起こす騒動に関しては大した意味 ないだろうと思ってたので、余計にこれまでの事件に意味を持たせた終盤の収束具合が心 地良く感じられたのかも。余計な事をあまり言えず素直に拍手でした。  思えばこれはシンプルなタイトルを忠実に描いた物語。読む前に浮かんだ些細な事で、 何故『ぼくと先輩』じゃなくて『先輩とぼく』なのか。“ぼくが立つ場所で考えて行動し て想う先には常に先輩の姿があるから”でしょうかね? 個人的な解釈ですが。   最後もうまく締められているので1巻完結で終わってしまってもいいんじゃないかなと 思いながらも、この個性豊な逝ってしまってるキャラクター達を使った物語でもっと笑わ せてくれるなら続編は是非読んでみたい。この先どうなるのだろうかと期待しつつ。 2004/02/09(月)我が家のお稲荷さま。
(刊行年月 H16.02)★★★☆ [著者:柴村仁/イラスト:放電映像/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  第10回電撃ゲーム小説大賞『金賞』受賞作。  大霊狐・天狐空幻が、とある一家(の内の兄弟の弟君)を守護する名目で人間界に降り 立ってはしゃぎまくる陰陽五行の要素含みのコメディ。最初に興味深いなと引っ張られた のは、水気の司祭として大きな霊力を引き継いできた三槌家断絶の瀬戸際を救う展開こそ この物語のメインだろうと想像してたのが、序盤の第一章であっさり覆されてしまった事。 ああそういうのを語る内容じゃないんだなと納得するのと同時に、じゃあ一体何を話の中 心に持って来てるのか? と先急いで行方を追いたくなるような感じで。  ただ、ひとつひとつ描かれている内容をすくい上げて行くと、割とどこかで見たもの触 れたものが多かったかも知れず。妖怪と人間をひっくるめ陰陽五行を行使した戦いとか、 人間に変化する妖怪狐が慣れない人間界ですっとぼけなズレた感性を発揮してる様子もそ うだし(この資質は護り女のコウちゃんのほうが色濃かったけど)、非常識なキャラクタ ー達に常識人の主人公が手を焼いてドタバタな騒動に巻き込まれたりってのも。  そういうのは既存の感触を抱いたとしても、結局は何処かで面白さを見出せたなら“読 んで楽しめたもの勝ち”と強引にでも多少の躓きは捻じ伏せたり出来るわけですが、この 物語はそうなり難かった所がちと微妙。全体的な感覚としては広く浅く。どれも万遍なく 語られているけれど、逆に言うならどれも浅い部分だけで深い所まで突き詰めてはいない ように感じられてしまう。だから読了して思い返してみても、実は強烈な印象を頭の中に 叩き込まれたシーンってあんまり思い浮かばないんですよね……。  対してキャラクターの印象は非常に覚えが良いです。意外と人間界の常識を知っていた クー(空幻)も、予想外もいいとこでに常識知らなさ過ぎなコウちゃんも、呆れるほどに 金銭面において計算高い土地神恵比寿も、かなり変人染みていてでも面白い。逆に昇と透 の主人公兄弟や佐倉美咲の存在感が弱く変人達の前に霞んでしまっているのは難点か。  この巻に限って言えば、第四章をメインに据えて重点的に描いてくれたらなという思い が強かったです。特に途中でちらつかせ続けていた美夜子と透の絡みがあれだけってのは ちょっと寂しい。それなら途中の段階でもっと色々クーとの接点や美夜子自身ついて眺め てみたかったし、エピローグとしてもう一押し後日談のようなものがあればなぁと。  今回に限らなければやっぱりコメディ色強調がいい。主にクーとコウちゃんと恵比寿が やたら出張っていたので、高上兄弟や美咲の巻き返しに期待したい所(まあ透はマイペー スだけど、昇と美咲は巻き込まれタイプだから気苦労背負い続けるだろうなきっと)。 2004/02/08(日)塩の街 wish on my precious
(刊行年月 H16.02)★★★☆ [著者:有川浩/イラスト:昭次/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  第10回電撃ゲーム小説大賞『大賞』受賞作。  まずこれ私だけだろうか? と思ったのが、読んでいて前回大賞受賞作『キーリ』の影 がやけに頭にちらついた事。当然ながら描かれているストーリーは全く別モノですが…… 幾つか大きくダブって映るんですよね。荒廃した世界を背景に少女と外見は少女より少し 歳の離れた男の関係、ただそれだけでなく少女の心に傷を負いながらの成長を描いている 部分とか、男がぶっきらぼうながら少女を優しい眼差しで受け留めている部分など。  あとはストーリー構成、どことなく近いものを感じてしまう。最初口絵を眺めて「似て るかも?」と思ったのですが、つまり1話ずつの短編が合わさって1つの長編を形作って いる――本編の場合は途中(入江が登場した辺り)から一本道になっているので短編で分 けられているとは言えないけれど、1話2話は連作短編の流れになっていたりとか。  決してストーリーが詰まらないとか文章表現力が劣っているとかの印象を抱いたわけじ ゃなくて、しっかり読み手を惹きつけてくれるものを含んだ描写と思いました。なので上 記のような比較なんかせず純粋に本作のみを見た場合、魅力的な要素を幾つも持ち合わせ た面白さや手応えを充分に得られるんじゃないかなと(この辺、序盤の段階で比較要素と かいう余計な引っ掛かりを覚えてしまった私は純粋に見れなかったわけですが)。  でも甘くなれなかったのはそれだけでなく内容に対しても。何はともあれ塩害の原因。 入江の口からもっともらしく語られていたけれど、決定的な裏付け描写はなくて随分曖昧 だったような……。更にその原因が一応解明されたとしても“何故それが地球上に降って 来たのか?”という大元が全く謎なまま終わっているのはどうか。もう続編ありげな匂い 漂いまくりですが、あるならあるで是非とも不明瞭な点を納得させて欲しい。  真奈の様々な状況下で秋庭を想う気持ち、どうあっても弱い立場に屈する自分を卑下す る気持ち、たったひとりの好きな人を失うくらいなら塩害の世界など変わらないままでい いと叫ぶ気持ち、などなど彼女の感情描写は堪らなく良かったです。だからこそか、特に 終盤でもっと秋庭との触れ合いを重点的に見たかったし、エピローグでの真奈と秋庭にも う少し余韻を持たせて欲しかった。最後に物足りなさを感じてしまったのは惜しい所。 2004/02/07(土)王国神話 空から降る天使の夢
(刊行年月 H16.01)★★★★ [著者:明日香々一/イラスト:かわく/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  第15回ファンタジア長編小説大賞最終選考作。  おそらく僅差で賞を逃したであろう選外復帰作。ええとですね、率直な感想を言うなら これまで読んできた第15回受賞作のどれよりもこの物語の方が面白かったです。私の感覚 がおかしいのか選考基準がおかしいのか、それとも刊行までの改稿作業に差が出ているの かよく分かりませんが、帯に『問題作』とあったのを眺めてふと「この作品が選外になっ てる事こそ一番問題なのではないのだろか?」とさえ思ってしまいました。  そもそも作中のどこら辺を指しながら『問題作』と触れているのか、もし刊行する際に 修正したのならどんな部分がそうだったのか、てっきりお得意の巻末解説で説明してくれ るものだと思ってたのにそれも無い。例えば確かに聞いてぶったまげだったオルフィナの 大胆な解決案だとしても(と言うよりそこ以外で問題提起するような要素に思い当たらな い)、直接的な描写があるわけでもなし、問題作として括るにはどうだろうかと唸ってし まう。帯は目を引くだけに不利に働いているとしか思えない所は勿体無いと思う。    前振りつらつら長々やってしまいましたが、これだけ異論を抱いたので多分私は贔屓目 に見てるのだろうなと。何が良かったのかと言えば、とにかくこの1冊に書きたい事全て が込められていて非常にうまく綺麗に纏まっていると感じさせられた点。到底1冊で消化 出来ないような面倒臭い伏線の張り巡らしとか小難しい設定とかの余計な重荷や、逆に描 写が弱く充実感を得られない物足りなさなどもあまり見当たらず、無理なく無駄なく結末 まで導いてくれる物語の組み立て方などはなかなか見事。  あとはもうキャラクター達の魅力がほぼ全てと言い切ってしまってもいい程。何時何処 で誰に触れてみても常にストレートで分かり易い感情表現を示してくれる。中でも特にひ とつの世界とひとりの大切な人を秤に掛けなければならない葛藤を抱くオルフィナと、自 分の感情を押し殺して彼女の世界の為に選択しようとするディオンと、この2人の触れ合 いの数々は素晴らしく良いものばかりでした。他にも可愛いよりは凛々しいが似合いそう なイリシアとカムタの関係や、常にオルフィナと彼女の世界を思い続けていたクロノスの 想いなど、キャラクターの感情が心に響いて印象に残る描写は実に多かったです。  エピローグ後のエピソードは外伝として読んでみたい気もしますが、本編の続きという 形でのディオンとオルフィナがメインの続編はあまり望まない。これだけ綺麗な結末を迎 えたならば、下手に弄り回さずにこのままそっとしておいてもいいんじゃないかなと。 2004/02/06(金)パラダイス・メーカー オラが村ぁ平和
(刊行年月 H16.01)★★★☆ [著者:八街歩/イラスト:Cuvie/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  第15回ファンタジア長編小説大賞『努力賞』受賞作。  惜しい! と言いたくなったのが色々と。感じたのは、前半から中盤に掛けてのウェス トリー村に馴染んだクリトフの日々にしても、後半がらりと雰囲気が変化してゆくSF含 みな流れにしても、この世界背景を舞台とした設定ならばもっともっと深く詳細に掘り広 げる事が可能だったのではないかなと。“感じた”というよりかは“そうであって欲しか った”の方が気持ちとしては強かったかも知れないですが(特に読了時点で)。  ただ、どちらか或いは両方の要素が中途半端だったかと思い返すと、そんなにダメだっ た印象でも無いんですよね。デビュー作にしてこれだけ厚く(400頁ちょい)熱のこも ったモノを差し出されては、読み手としては心躍らぬ筈もありませんでしたが……しかし こういうの受賞作に求めるってのもどうかと思うんですが、この作品は「上下巻に分冊し て更にじっくり描いて欲しかった」のが正直な所で。  特にそう思わされたのが、世界滅亡の危機にまで追い詰めた過去の<災異>に関係する、 あの長ったらしい名称のシステムについて。主に後半部分におけるこの最重要事項を、ほ ぼ全て誰かに説明させるだけで済ませているのは如何なものか。なかなか魅力的な設定と 映っただけに、あれよあれよと説明台詞で理解させるように流されたのが凄く勿体無いと 思ってしまいました。もっとも仮にそこを満足出来るまで丁寧にやってもらったとして、 逆にウェストリー村の雰囲気やクリトフが馴染んでゆく様子などがおざなりになったりす ると、牧歌的なイメージをウリとしてる物語としてはやっぱり拙いわけですが。  結局の所、どちらの要素に対しても物足りなさと急ぎ過ぎな感触を抱いた部分で満足感 にはあと数歩届かず。それでも惹き込まれた描写はウェストリー村の方面で、突っ張りな がらも徐々にウェストリーの雰囲気に魅了されてゆくクリトフ、外の世界の彼に惹かれる のを恐れて突っ撥ねながらも惹かれずにはいられなかったアリスとの触れ合い、そして村 人達との交流など。あとは登場キャラをもう少し増やしてくれてたら良かったかな? 2004/02/03(火)ウィザーズ・ブレインIV 世界樹の街<下>
(刊行年月 H16.01)★★★★ [著者:三枝零一/イラスト:純珪一/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  これまでちょっと見落としていたか見失っていたか、とにかく4巻目でようやく思い出 したのは『この物語はどういう展開を経て結末を迎えるのか?』あるいは『主要キャラク ター達は何を目的として何を求めて何を心に抱きながら結末までの道を歩むのだろうか?』 という事。3巻目まではそれぞれ違うキャラクター達でストーリーも別々の舞台で描かれ ており、しかも多少の謎は残されていたにしても基本的に1巻完結のエピソードだったか ら、そこまで考えが及ばなかったか、そんなに先まで予想を立てるにはまだ早過ぎると思 っていたからか。でも、そろそろ先へと思いを馳せてもいい頃合ですよね?  キャラクター達の歩みに関しては、このシリーズの場合は特に皆違う形で強い信念を持 っているから誰もが同じ方向を見ながらって事はまず有り得ないでしょうけど、それでも 今回の登場キャラクター達――錬、フィア、ファンメイ、ヘイズ、エドの今後歩むべき道 が大分明確に示されていたのを見れた点については大きな収穫。  とりわけヘイズが見付けて追う事を決意したあれは、この物語の核心に触れるもののよ うな気がして非常に興味を引かれてしまう(彼は単独別行動に入ってしまったから、次巻 での登場は望み薄そうですが)。それからこれまで度々引っ掛かっていて今回も謎な存在 だった賢人会議、こちらはどうやら次巻で明らかになりそうなので楽しみな所。  下巻の内容はエドワード・ザインの存在と世界樹との戦いがメイン。錬とフィアとファ ンメイとの触れ合いによってエドの心に変化が見られ、僅かずつながら成長してゆく様は 分かり易い描写ながらも実に良いものでした。4人のアットホームな雰囲気も、出会いは 敵同士だった錬とヘイズ&フィアとファンメイの戦いの中での絡みも、絶望的な世界樹に 対するI−ブレインを駆使した死闘も充分に堪能出来たのでお腹一杯の満足感。  しかし毎度毎度“誰が生き残るか”なんて読んでいて気にしなければならない危うさに は、気持ち良くない負担が掛かってしまう(そういう気持ちを抱かせる描き方がうまいと なるわけだけれど)。今回で言えばファンメイとかエドとか、もうどうなるやらと思い続 けてましたが……うん、まあ、詳しくは触れないけど、これまでとは少々違ってたかな。  あとがきによると次巻は別の場所のもう一つの物語で、キャラは3巻のディーとセラ、 それから祐一と真昼&月夜の双子姉弟。これに錬とフィアも関わってくるらしく。今回は 1エピソード完結のような感じでは無かったから余計に続きが待ち遠しいです。  既刊感想:IIIIIIV<上> 2004/02/02(月)ウィザーズ・ブレインIV 世界樹の街<上>
(刊行年月 H15.12)★★★★ [著者:三枝零一/イラスト:純珪一/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  今回大きな鍵を握るエドを間に挟み、1巻の錬とフィア、2巻のファンメイとヘイズの コンビが敵同士という形で邂逅を果たす新展開。こんな風に各巻で独立していたエピソー ド内のキャラ達が関わってゆくのを見ながら、ようやく語るべき序章は終わりで今回から 本編突入かと思ってしまいました(ついでにストーリーと掛かった月日を考えてえらく長 い序章だったな……とも)。読む前にあらすじを眺めた段階から、別々の物語を描いてみ せてくれた彼ら彼女らが一体どんな状況で出逢い、そして出逢った先にそれぞれが心の中 で何を想うのか……その辺りに触れるのが非常に楽しみで楽しみで。  とりあえず上巻だけ読了した時点で言ってしまえば、双方が置かている立場や状況など の描写が主で、関係の広がりが見れるかどうかの点では少しだけ物足りなさを感じたりも しましたが、まあ話は中途なのでそれは下巻にこそ期待すべき事なのかなと。それに絡み の少ない物足りなさは、久し振りに錬、フィア、ファンメイ、ヘイズの変わらない姿を見 れただけで充分に埋め合わせ出来のであんまり気にはなりませんでした。  印象に残るのはこれまでと同様で、やっぱりキャラクター同士が触れ合うシーンが多く 心惹かれる要素もとりわけ大きい。個人的にはファンメイって女の子が大好きで、だから 空元気に振舞っているようで実は本心では未だ深い傷を抱え、『黒の水』の影響で人間と しての外見が保てなくなりつつある彼女が余計に痛々しくてしょうがない。どうにもファ ンメイには下手に希望を抱けなくて辛いんですけど何とか持ち堪えて欲しい。  一方で錬とフィアとエドを見るに『貴方達はどこぞの新婚家族ですか?』と突っ込みを 入れたくなったりしましたが。これって普通に養子(エド)を預かり受けた若夫婦(錬& フィア)の構図に見えてしまう。しかし退廃が進む世界に一時のアットホームな雰囲気も なかなか良いものです(あまり長く続かなさそうなのがまた悲しいとこですが)。  終盤で錬とヘイズが戦い、ラストでフィアはファンメイを助けようとする。そんな挨拶 程度の出会いを済ませた今後、単純な敵同士の関係がどう複雑に変化してゆくのか? エ ドと世界樹の役割はどんな形で誰が望む方向に進むのか? 特に気になるのはこの辺り。  既刊感想:IIIII 2004/02/01(日)七姫物語 第二章 世界のかたち
(刊行年月 H16.01)★★★★☆ [著者:高野和/イラスト:尾谷おさむ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  続編を1年待ったこの作品の中で、一人称文章の理想形を見れたような気がしました。  どこまで行っても素朴で穏やかなカラカラの視界に広がる風景は前巻と同様。むしろ戦 乱の幕間という今回の方が激しく目まぐるしい動きを控えてある分だけ、深々と降り続く 雪景色の模様が実によく映えていて深くじんわりと心に染み入る。このカラカラの視点を 片時たりとも外さずに見た事訊いた事話した事考えた事思った事など全てありのままに綴 られた描写はもう見事と言う他になくて、終始魅せられっ放しの惹かれっ放しでした。  東和七都の国家統一を巡る物語としての進展具合は前巻にも増して牛歩の如く、でもそ れは無理をせず背伸びをしないカラカラの歩幅に沿った速度である為に全くこれっぽっち も気にならない。カラカラに目線を合わせて七宮カセンの風景をぼんやり眺めていると、 進展なんかせずにこのまま穏やかな流れがずっと続いてくれたらとさえ望んでしまう。  テンとトエの共犯者として、七宮空澄姫の姿として歩き始めてしまった今となってはそ うも行かないのだろうけど、今後遭遇する荒事の一切はそれを負担する担当の2人に任せ ておいて、カラカラの視点だけはいつまでも侵される事なく穏やかでありますようにと。  極めて個人的な願望でもの言うと、この物語に関してはこれから四宮以外の他都市との 争う状況を差し込むとしても詳細な描写はいらない、だから緻密な戦術や戦略を駆使した 戦いなんてのもいらない……と思ってます。まあそんな訳には行かないので全く無しとい うのは極端過ぎるけれど、テンとトエが動く姿や他都市との戦いそのものを直接的に描く のではなく、あくまでそれを目の当たりにするカラカラの視界中心に語り続けて欲しい。  もっとも、2巻を読んだ所でカラカラ視点で描く物語に揺らぎも隙も殆ど見当たらない ので簡単に崩れてしまうような心配はしてませんが、どこかの都市と激突する事になると カラカラの目を通して見た世界の雰囲気がどう変化するか期待と不安が入り混じり。  前巻では少しも見えなかった七姫の素性と心の内、それから東和におけるカセン以外の 七都の情勢も少しずつだけど掴めてきた所で、絶縁状態の三宮との開戦となってしまうの かどうか。次もまたカラカラの世界に映る様々な風景が見れる事を楽しみにしています。  既刊感想:


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