NOVEL REVIEW
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02/20 『灼眼のシャナVI』 著者:高橋弥七郎/電撃文庫
02/18 『灼眼のシャナV』 著者:高橋弥七郎/電撃文庫
02/18 『空ノ鐘の響く惑星で2』 著者:渡瀬草一郎/電撃文庫
02/16 『空ノ鐘の響く惑星で』 著者:渡瀬草一郎/電撃文庫
02/15 『バッカーノ! 2001 The Children Of Bottle』 著者:成田良悟/電撃文庫
02/14 『いぬかみっ!4』 著者:有沢まみず/電撃文庫
02/13 『キーリIV 長い夜は深淵のほとりで』 著者:壁井ユカコ/電撃文庫
02/12 『半分の月がのぼる空2 waiting for the half-moon』 著者:橋本紡/電撃文庫
02/11 『麒麟は一途に恋をする』 著者:志村一矢/電撃文庫
02/11 『プロット・ディレクター』 著者:中里融司/電撃文庫


2004/02/20(金)灼眼のシャナVI

(刊行年月 H16.02)★★★★ [著者:高橋弥七郎/イラスト:いとうのいぢ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  その予兆があるだけでアクション全開のバトルは一切無し。主に悠二の心を巡るシャナ 対吉田さんの恋のバトルが描かれています。しかしながら直接的に接し向き合ってバチバ チ火花散らすシーンなんてのは全く無しで、どちらも相手に最大の脅威を抱きつつ出方を 窺ったままで自分から先手を打って出れないと言った状況。そんな中での不安とか焦燥と か、踏み出したくても躊躇してしまう弱さと踏み込んだら途端に均衡が崩れてしまいそう な脆さだとか、2人の極めて不安定な危うい心の揺れ方が凄く良かったです。  確かに吉田さん度増強。ただし、にまにまユルイ顔してのほほ〜んと眺めていられるよ うなものじゃなくて。この物語は本来呑気にラブコメやってなんかいられない程、切迫し た状況にあるという事を改めて突きつけられ思い知らされました。そもそも悠二の身体か らしてあれだし、彼らが住む御崎市は普通の人間には見えない裏側に異常を抱え込んでい るし。前巻が過去に遡っていたせいかちょっと現状を失念してたなという気分。  やっぱり前巻同様、途中いかにも“ここで伏線敷いてます”な思わせ振り発言(特に幕 間の教授&ドミノ、吉田さんに向けてのカムシン&ベヘモットの会話)が目立つ為、前半 なかなかストーリーの流れに乗れない上にしっかり掴めなくて少々てこずってましたが、 徐々に把握出来るように仕掛けられているので中盤以降の手応えは充分。今回で言えばシ ャナと吉田さんの感情が強烈に後押ししてくれているから、把握し難いような部分も些細 な引っ掛かりであんまり気にはならない。と言うよりも今回だけでは諸々の決着がついて おらず、一つのエピソードとしても全然終わってないので不明瞭な点が多いのも納得。  以下ネタバレ反転。勇気を振り絞った僅差の先手で一応軍配は吉田さん。シャナには全 てが最悪のタイミングで降り掛かってしまい痛々しい事この上なし。でも実際には、権利 を得た吉田さんの方により一層の残酷な現実が突きつけられてしまう驚愕の落とし穴。彼 女が人間とトーチを判別出来るモノクルを手にした時点で、悠二の本質を知る事になるだ ろうとは大方予想がついてましたが、本当にそれをやられてしまうとかなりキツい……。  しかしまあ読了して強く思ったのは「やりやがったな!」と。シリーズ中最も(良い意 味で)凶悪な幕引きしてくれたのにはかなり参りました。もしまだ未読ならば、我慢して 耐えてでも次巻と合わせて読むのが良いような気も……お願いします早く続きを!  既刊感想:IIIIIIV 2004/02/18(水)灼眼のシャナV
(刊行年月 H15.11)★★★★ [著者:高橋弥七郎/イラスト:いとうのいぢ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  今回はシャナが“天壌の劫火”アラストールと契約を交わし、フレイムヘイズ“炎髪灼 眼の討ち手”となるまでの過去回想、もしくはシャナがメロンパンを大好きな理由が明ら かになるお話。ふと、何故このタイミングでこのエピソードが挿入されたのかと考えが頭 を過ぎったりもしました。別段狙いは無いのかも知れないし、もしかしたら何か意図があ ったのかも知れないし、単純に書きたかったから書いたのかも知れないし。  この辺の事は多分あまり気に留めて立ち止まるような箇所ではないのでしょうけど、素 朴な疑問というやつで。シャナのキャラクターとして不明瞭な点を更に掘り下げる意味合 いが強かったのかな? とは個人的な解釈。シャナの過去は興味深く分からない部分でも ありだから知りたい欲求に駆られるもので、これまでは割と現在から未来へと突き進む展 開が主だったから余計に過去を振り返る回想エピソードは新鮮で効果的に映りました。  序盤から中盤に掛けて――特に幕間の会話は誰が誰の事を指してるのかとか、結構把握 し辛い描写があったせいかちょっとエンジンの掛かりが遅くて乗り切れない印象を抱いて ましたが、中盤以降(ウィネが天道宮を襲撃する辺り)から遅れを取り戻すかの如く急激 な加速で一気に最後まで突っ走ってくれたので、結局は読了時点で充実感一杯でした。  以下ネタバレで、何が一番驚いたかと言えば「シャナって元は人間だったの?」という 事なんだけれど……今までそうと語られてはいなかった……ですよね?(自信無し) 少 なくともフレイムヘイズというのは“元から人間と一線を画した存在”と思ってたので、 こんな感じで人間から育成されたりする事やシャナが元々日本生まれだった事などを含め てショッキングな事実でした。まだ全て明かされてはいないけれど、こういうシャナの過 去の姿をじっくりたっぷり堪能出来る所に今回の本当の面白味が隠されているのかも。  あとはひたすら強敵達と繰り広げられるバトル重視の燃える展開。いやこの人の描く戦 いは本当に読んでいて面白い。かなり変化球的な癖のある描写好みなので、上手いかと言 うとそれとはまた少し違う手応えなんだけど。天目一個やメリヒムとの戦いは背筋がぞく ぞくする程に魅せられてしまい、高揚感溢れる描写は素晴らしく良かったです。  既刊感想:IIIIIIV 2004/02/18(水)空ノ鐘の響く惑星で2
(刊行年月 H16.02)★★★★ [著者:渡瀬草一郎/イラスト:岩崎美奈子/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  最初にフェリオがリセリナと出逢い関わって異世界の事を知り、そして彼女の命を狙っ ているらしい“来訪者”達と対峙する。と、前巻でここまで見せられた時点で、アルセイ フの権力抗争を横目で追いつつも、より一層気になってたのはやっぱり来訪者関連の方で した。それが今回リセリナと来訪者達と異世界の謎については進展ゼロに近い放置状態で、 ほとんど全てアルセイフ王位争奪戦寄りに行ってしまっているものだから「なかなか大胆 かつ思い切った展開を仕掛けてくれるなぁ」という印象が強かったです。  それでも、内乱から隣国タートムとの抗争に発展する気配濃厚な、王亡き後にドロドロ と思惑欲望陰謀渦巻くアルセイフ王権争いの内容が非常に良かったので何の文句を言う事 も出来ません。一時的な放置で離れてしまったリセリナ関連が確かに気になって仕方ない のに、逆にもう片方の持つ面白さにうまく捻じ伏せられてしまったような感じで。  その中でも下手な描き方だと絶対惹かれなさそうな年配キャラがまた良い持ち味を発揮 してくれている。真っ向対立で主張をぶつけ合うダスティア、ガードルードや、中立的立 場で冷静に戦局を見据えるラシアンなどはなかなかシブい活躍が光っていて好きですね。  証拠は上がってないけどはぼ確定的な第二王子レージクのキれた陰謀にクラウスのどす 黒く煮えたぎる復讐心、嵌められた形のウィスタルとダスティアと正妃マリーベル、それ ら全てを一端振り切る決断に踏み切ったフェリオと彼に付き従うウルクにラシアン、と誰 もが目まぐるしく変化する状況の中に置かれている。そして他にもシルヴァーナの素性や リカルドの動向、更にリセリナと彼女が救った人物や他の来訪者達まで絡んで来ると、今 後どうなるのかと気になる箇所があまりに多くて嬉しくもぐるぐる目が回ったり。  もっともこれだけ混戦模様を呈しながら、どのシーンの状況もどのキャラクターの感情 や動向も見失わずにいられる描写のうまさにはやはり唸らされる。今回描かれなかった来 訪者&異世界の側と果たしてどんな風に絡み合ってゆくのか、次巻を期待しています。  しかし事ある毎にフェリオと密着しまくりなウルクには、相変わらずニヤニヤさせられ っ放して堪らない。笑顔で脅したり咄嗟に演技したりと、どこら辺までが本心なのか境界 線が曖昧ながら幼少の頃からフェリオを一途に想う所に益々惹かれてしまう。ま、この辺 はサブイベントみたいなものでしょうけど。今後リセリナと再開する時が楽しみだ。  既刊感想: 2004/02/16(月)空ノ鐘の響く惑星で
(刊行年月 H15.12)★★★★ [著者:渡瀬草一郎/イラスト:岩崎美奈子/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  読む側に作家贔屓なるものがあるならば、私にとって渡瀬さんはそれに当たる作家さん のひとりでしょうか。何であってもとにかく著者名だけでつい手に取ってしまうというの か。ここしばらく音沙汰無かったもんで新刊が非常に待ち遠しかったです(と言った所で 1巻を2ヶ月間積みっ放しにしてたのは何にも言い訳出来ませんが……)。  新シリーズは異世界ファンタジーとの事で、読む前はどんなものを描くのかこれまでの シリーズを踏まえても全然想像出来ませんでしたが、読んでみてああなるほど幼馴染みへ の思い入れが並々ならぬものが感じられて非常によろしい事ですね。って言いたいのはそ ればかりじゃないんだけど幼馴染みキャラとか大好きなので、フェリオの意表を見事に突 いて彼をポカーンとさせたウルクの仕掛けにはニヤニヤさせてもらいました。  現世界のアルセイフ王国第四王子フェリオが、フォルナム神殿の御柱(ピラー)から突 如出現した異世界からの来訪者の少女リセリナと出逢うボーイミーツガールが最初にあっ て、そこから異世界と深く関わってゆくんだろうか? と思ってたら、終盤のちょっと驚 きな事態から必ずしもそればかりではないようで。第四王子だからその要素は薄そうだな、 と油断してたドロドロの王族利権争いに望まずとも巻き込まれて行きそうな予感も。  まずは1巻目という事で丁寧な世界背景の描写と今後への伏線張りとキャラクターの顔 見せだけに留まってますが、これだけ先の先まで綿密に練られていそうな手応えで、壮大 さを匂わせる物語に唐突なスタートダッシュはなかなか仕掛けられないでしょうね。  初っ端から気になる要素があまりに多過ぎなせいか今後への期待感が膨らみまくりで困 ってしまいましたが、展開が急ぎ過ぎずにゆったりペースなのは大いに結構。これから徐 々に様々な出来事やキャラクター達の思惑が交わり重なり絡み縺れ合いながら、じわりと 盛り上がりを見せてくれたらいいんじゃないかなと思います。  最初に結構色々と謎含みな伏線を仕込ませながら把握し辛くて混乱を来すような所は見 受けられず、主要キャラから脇役端役までしっかり印象に残るような描き分けが為されて いる辺りの手堅い描写力はさすがと感じました。次巻も安心して楽しめそうです。 2004/02/15(日)バッカーノ! 2001 The Children Of Bottle
(刊行年月 H16.02)★★★★ [著者:成田良悟/イラスト:エナミカツミ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  シリーズ第5巻。これだけ不死者が増えて来ると、本編前にでも『不死者ファイル』な んて言うようなキャラクター紹介なぞを付けて欲しかったり。ついでに相関関係とかも。  計算された構成に沿ってキャラクターを走らせていたのが前巻まで、キャラクターの行 動心理に沿ってストーリーを展開させているのが今回。巧みな構成の妙や、目まぐるしく 変化するシーンの数々とスピード感溢れる展開に魅了されるような内容ではないですが、 それだけがバッカーノ!の面白さの全てじゃないと見事に証明してくれた会心作。  面白さの手応えもかなり違ったもので、最初の方ではついつい大掛かりな仕掛けを楽し みにしながら読んでましたが、閉鎖的な村の秘密やフィルの秘密などはよく考えられてい てもこれまでの衝撃と比較するとごく普通な仕上がり。それでも確固たる良さが得られる 理由は、逆にこれまでとは比較にならないくらい不死者達自身の内面に迫る描き方をして いるからと思いました。不死者達の誰がどんな風に自身の中の不死に向き合い考え付き合 い続けて来たのか、思い返すとこの辺にあまり深く触れる機会は無かったかなと。  素直に純粋に心の底から、何時でもどんな時でも幸せであって欲しい……そう他人に求 めるミスターハッピーエンドことエルマー。このどこかアイザック&ミリアに通ずるポジ ティブシンキング野郎の思考は、一見容易く共感出来るようでいて実は随分酷なものを求 めている部分が普通の神経を持っていたらかなり共感し難い。何故なら“何時でもどんな 時でも”幸せになろうとするのは不可能に近い困難を極めるものだから。  なので個人的にはそういうエルマーの性質を時に疎ましく思っているチェスに最も共感 を抱いてました。鬱陶しいなと感じている裏側の奥底で、ポジティブな生き方が容易く出 来てしまえるエルマーに嫉妬と羨望の眼差しを無意識に向けている姿も全て含めて。  でもエルマーとかアイザック&ミリアみたいな奴がいてこそ、一歩道を外すと血で血を 洗うような殺伐したイメージにしかならないこの物語も、賛辞の声として笑い飛ばせる馬 鹿騒ぎに成り得てると思うんですよね。エルマーを中心に据えた不死者同士の触れ合いを いつも以上に密に描いた今回の騒動、充実感一杯で堪能させてもらいました。  最後にあえて言おう。ナイルのこの台詞は激しく癖になりそうだ、と。  既刊感想:The Rolling Bootlegs       1931 鈍行編 The Grand Punk Railroad       1931 特急編 The Grand Punk Railroad       1932 Drug & The Dominos 2004/02/14(土)いぬかみっ!4
(刊行年月 H16.02)★★★★ [著者:有沢まみず/イラスト:若月神無/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  表紙の娘って誰ですか? まず最初にそれがきた。薫の犬神のひとり(数え方としては 一匹か?)なんだろうなってのは何となく予想してたけど。それは前巻まではまだキャラ の描き分けにそれ程力が入ってなかったのと何よりイラストで把握出来なかったのとで、 なでしことともはねとせんだん以外はかなり曖昧だったせいか。ともあれ表紙は“たゆね” ボーイッシュな喧嘩娘と確かに覚えた。前巻のともはねと同じパターンで表紙飾ってる割 に際立って活躍してるシーンは微量なんだけれど、そんなたゆねの扱いに対する彼女から の報復は裏表紙折り返しの著者近影を見よ(手酷い仕打ちに笑かしてもらいました)。  それにしても今回はと言うより今回もと言うべきか……おい啓太! お前ってヤツはほ んっとうにいい性格してるな〜。過去に晒した痴態の数々を省みるどころか、全く懲りず に本能に忠実に従って更なる暴挙を繰り返してる辺り、その信念だけは本気で尊敬して見 習いたくなってしまったじゃないかよ! という具合で相変わらず女の子好きな度が過ぎ 自滅しながら笑いを提供し続けてくれている啓太クンですが、「この姿こそ川平啓太なん だ文句あるか!?」と如何なく性質を曝け出してくれると妙に嬉しさとか安心感が沸いて 出てしまう。やっぱり愛されて描かれてるなと強く感じられるのが凄く良いです。  しかしずっと同じペースの同じコメディタッチな展開を続けられると、もしかしてマン ネリ感を抱いてしまうだろうか? と多少の不安もあったのですが、今回を読んだ印象で はこれって凄く安定感抜群なシリーズになりつつあるんじゃないでしょうか。  ちょっと情けなくなりそな過剰な下ネタへ暴走する要素が控え目で、薫の犬神達のキャ ラ描き分けがイラスト含みで明確になったのが大きいのかな。嫌われ者の啓太と関わる賑 やかな彼女達のエピソードは非常に良かったです。オチもいつもの如く効いていて。  コメディでぷっと吹き出し笑える楽しさも時々のシリアス描写も総じて面白い。ただ、 一点だけ気になっているのは1巻から既にちらちらと見え隠れしている、おそらくようこ 関連の何かについて。結末までの構想はそれなりにありそうなので、あんまり鼻につくま で勿体振り過ぎな素振りは見せずにそこに至るまでの道を描いて欲しいです。  既刊感想: 2004/02/13(金)キーリIV 長い夜は深淵のほとりで
(刊行年月 H16.02)★★★★ [著者:壁井ユカコ/イラスト:田上俊介/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  ストーリーの構成が連作短編っぽい流れから徐々に長編へと変化しつつあるかなと思っ ていた前巻から一転して、今回はどちらかと言えばまた連作短編寄りな内容。序盤を短編 で固めて中盤以降から一本に繋がるような組み立てで、列車に乗る旅の描写があったせい か雰囲気はかなり1巻目に近いものがあって、妙な懐かしさを感じてしまいました。  キーリの面倒を見る“不死人”の保護者的役割がハーヴェイからベアトリクスにバトン タッチされた事以外では、キーリと兵長とベアトリクスの旅で幽霊と出会って余計な首突 っ込んでる辺りも1、2巻のエピソードを彷彿とさせるもの。もっとも途中からキーリの 目的に変化が生じるので、そこからは進む方向も違ったものになって行きますが。  前巻から1年半後、髪が伸びたキーリには少女から大人への微量の成長が覗え、ハーヴ ェイは不死人なのに死にそうなくらいボロボロ……。前半ではあくまで軽めに語られてい るキーリの出生の謎が主軸ですが、それ以降からは今回のメインと言うべき素直じゃない 少女と不死人の再会までが描かれてます。正直な所どうあっても最も見たかったのは、そ の1年半の間に“お互い何をやっていたのか?”になってしまうのですが、キーリはとも かくハーヴェイの方は結局何でああなっていたのか後で詳細を補足してくれたらなと。  元々好みなこの世界の雰囲気も、信頼を寄せている背景描写のうまさも今回もバッチリ 期待通りの手応えで良かったです。ただ、不満とまではいかないんだけど、キーリとハー ヴェイの再会はもうちょい劇的な展開であって欲しかったかも。まあこのさり気なくあっ さりと地味に回りくどいやり方は非常にこの2人らしいのですが、もっと重要度を上昇さ せるくらいこのネタで引っ張ってくれても――それこそ次巻に持ち越すとかで読者を思い っきり泣かせるような事をしでかしても構わなかったのになぁという気持ちでした。  でもそのシーンではぐっときた。泣きそうになった。心では泣いてた。どうしようもな くキーリとハーヴェイだけの独特の空間、やっぱり堪らなく良いものですね(上記のはこ こを更に印象深く感慨深いものにして欲しかったという注文というのかな)。久方ぶりに 元鞘に戻った1人と1不死人と1ラジオの空間にもにんまりとさせられました。  いい具合に纏まった所でこの物語は今後どうなるんだろ? 不死人の実態に深く関わっ てくのか、それともまだ明確でないキーリの出生の秘密を追う事になるのかどうか。  既刊感想:IIIII 2004/02/12(木)半分の月がのぼる空2 waiting for the half-moon
(刊行年月 H16.02)★★★★ [著者:橋本紡/イラスト:山本ケイジ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  やはり素晴らしく著者の本領が冴える普通の少年と少女のごく普通の物語。  今回の役割は繋ぎと伏線の展開。裕一と里香の間により一層の強い絆が出来上がるまで の過程を破局の修復という形で存分に描き切った所で、一気に奈落の底へ突き落とす。  これは一人称の『僕』である裕一に向けられているもので、里香の病状はしっかり心の 中で掴んでいたつもりでいながら眼前の幸福の前にあっさり霞んでしまい、誰かに張り倒 され重い事実を突きつけられるまで見失っていた事に対する自分自身の不甲斐なさ。途中 まで舞台が病院だという事さえ忘れるくらいの軽いバカノリ騒動が描かれていただけに、 終盤で裕一同様がつんと横殴りの拳を喰らわされたような衝撃は酷く堪えました。  それにしても裕一の奇行の数々を目の当たりにすると、数えるのも面倒臭くなるくらい 「お前ホントに病人かよ?」と幾度も確認したくなってしまう。まるでわざと体調崩すよ うな無茶やって、少しでも長く里香と同じ場所に自身を繋ぎ止めようとしているかのよう にも見えたり……まあそんな感じではないようだけど。これで裕一の方が病状悪化したら それこそ洒落にも笑い話にもなりゃしませんが、一応病人扱いなんだからもうちょっと自 分を労われよと言っても里香が絡むと無駄なお節介でしかないんだろうなぁ。  好きな女の子の為ならそれ以外の事はどうでもいい程の気持ちでがむしゃらに一生懸命 に身体張ってる姿――裕一の場合スマートにいかないので格好悪く不器用に映るけれども 凄く素敵です。これが日常と違う場所での行為だという現実を思い知らされるとまた切な さがぐぐっと込み上げてくる。知ってしまったからには今後単純に笑って里香と接する事 は出来なくなる辛い展開が待っていそうで、でもその部分こそ強く期待を寄せてみたい。  医師として失格の烙印を押したい夏目先生の本質、今回だけではまだよく分からんとい う印象。過去の自分の何かを裕一に投影して悶々としてるような感じ? どちらかと言う なら裕一への仕打ちが原因で良くない印象が付き纏ってますが、過剰な暴力は彼の目を覚 まさせると言う意味で印象深い効果が残せていて良かったかなと思います。彼が何か伏せ ているような素振りはいずれ解かれるだろうから、その辺にも注目するのを忘れずに。  既刊感想: 2004/02/11(水)麒麟は一途に恋をする
(刊行年月 H16.02)★★★☆ [著者:志村一矢/イラスト:椎名優/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  新シリーズ、なんだけどもろに前作『月花』を引き摺ってます。最初から月花から11 年後とあるので何らかの繋がりがあるってのは把握してましたが……あれは既に幕を閉じ て終わった話じゃなかったのか〜! と突っ込みたくなったのが正直な所。  しかしまあそんな擦り切れてしまうまでいつまでも引っ張らなくてもいいのに、と思う 反面前作キャラとのクロスオーバーをついつい楽しみにしてる辺り、初っ端からまんまと 思惑に嵌められてしまってるな〜という気分もそんなに悪くないのがまた何とも。  今回は電撃hp連載の本編3話プラス書き下ろしの月花外伝後日エピソード。こういう 付加要素も引き摺る気満々だなーと強く意識させる要因なのですが、後日談に関して言う なら悪くはないのだけれど、いかにもな後付け感覚がどうしても付き纏う。  もしかして直純と由花と安曇とで三角関係に発展しそう? 大いに結構ですよ大好きな 展開ですよ。でもこういうのは月花がシリーズ展開してる時にやっておいてくれよという 気持ちも強くて。ううむ、今後も『麒麟』に『月花』の後日談的なものを添えてゆくのか なぁ? それならいっその事remainsIIIで独立させて刊行するとかにした方がいいような 気がする。それより何よりもう既に一部キャラが登場を果たしてる事だし、私は11年後 の本作にクロスオーバーしてくれる事を最も望んでるのですが……どうなるだろうか。  『麒麟』の本編はまだ掴みの段階なので、色々気になるキーワードは提示されていなが らも今後の展開次第な印象。美夜のエピソードはキャラを残すなら挿入にも納得してる所 だけど、柊弥のキャラクター性の強調の為だけにあんな扱いするのなら別に要らなかった ような気もします。それなりにキャラが固まっていただけに、あまりに不遇と言うか勿体 無いと言うか……こういう使い方はちょっと抵抗あって好きじゃないなと。  戦闘描写が多量なのにさっぱりその要素で盛り上がりを得られないのも相変わらずでし たが、主人公・遙とヒロイン・麻由のキャラクターは前作の冬馬と深雪とあまり被ってい なくて良い感じ。麻由にいきなり全てを受け入れてもらおうとしてもそりゃ無理な話です が、彼女は割と下向き後向きで内に篭って抱え込む傾向にあるようで、深雪とはまた一味 違ったヒロイン像が見られそうな所は、今後の遙との関わりも含めて興味ありです。 2004/02/11(水)プロット・ディレクター
(刊行年月 H16.02)★★★☆ [著者:中里融司/イラスト:日向悠二/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  目には目を歯には歯を、そして陰謀には陰謀でもって制する――日常の真裏で世界征服 というより世界制御の実権を握る為に暗躍する多数の秘密結社と、そんな思惑を潰すべく 昔から地球人を観察してきた地球外“爬虫人類”の少年少女達との陰謀対決なお話。  とりあえず情報整理がおっつかなかったのはまだ1巻目だからなのかどうか。そういや この人達は何をしようとしてるんだっけな? と、読んで辿った道を時々振り返りながら じゃないと見失ってしまいそうになったりも。今回だけで見ると日本から世界征服を成就 させようと目論む秘密結社と学校の部活動のような陰謀少年少女達とのせめぎ合いに、何 も知らなかった主人公とヒロインが巻き込まれてくような内容。  しかし爬虫人類の騎士達に課せられた使命ってのが“アンドロメダ銀河の時粒子異変を 回避する”なんて理解難で目を剥くようなスケールのでかさで、問題はそれに何故卓也の “各分野の達人能力を行使する特技”が必要なのか? という事。これはほとんど隠され たままなので、今の所黙って続き待つしかない最も気になる部分。  歴史の裏で世界を掌握しようと企む秘密結社も、対立する陽光学苑の《カスタムキュー ・カルテット》もかなり大真面目にやってるのに、真面目にやればやるほど滑稽に映って しまうのは何故だろう。あまりに妄想肥大加減が度を越えてるからかなぁ? 凄く風呂敷 広げまくりな印象で、今後うまく畳めるのかいきなり心配する気持ちが強いのですが、各 種設定の作り込みなかなか深くて面白味を感じたので楽しみな所も大きいです。  一番大切な沙羅の為に男を見せようとする卓也の戦い、とりわけ終盤は逆転劇が熱い手 応えを呼ぶもので良かったなと思います。こうやって秘密結社の思惑をひとつずつ潰しな がら、謎や伏線を解きつつより大きな目的へ向かって行ってくれる展開に期待。


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