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09/07 『てくてくとぼく 旅立ちの歌』 著者:枯野瑛/富士見ファンタジア文庫
09/06 『伝説の勇者の伝説6 シオン暗殺計画』 著者:鏡貴也/富士見ファンタジア文庫
09/06 『伝説の勇者の伝説5 出来心の後始末』 著者:鏡貴也/富士見ファンタジア文庫
09/04 『風の聖痕 Ignition1 綾乃ちゃんの災難』 著者:山門敬弘/富士見ファンタジア文庫
09/04 『風の聖痕5 ―緋色の誓約―』 著者:山門敬弘/富士見ファンタジア文庫
09/04 『名犬ミケは左きき』 著者:阪本良太/スーパーダッシュ文庫
09/04 『殿がくる!』 著者:福田政雄/スーパーダッシュ文庫
09/04 『Bad! Daddy4 やっぱり! とっても! パパが好き!』 著者:野村美月/ファミ通文庫
09/02 『吉永さん家のガーゴイル4』 著者:田口仙年堂/ファミ通文庫
09/01 『吉永さん家のガーゴイル3』 著者:田口仙年堂/ファミ通文庫
2004/09/07(火)てくてくとぼく 旅立ちの歌
(刊行年月 H16.08)★★★☆
[著者:枯野瑛/イラスト:GOW/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】
この物語は単巻完結ではなく最初からシリーズ展開を前提として組み立てられているよ
うなので、まだ明らかにされていない部分ってのが結構あります。世界全体の成り立ちか
ら、塔の存在、機械仕掛けの罪人の存在まで。塔や罪人は既に在るものとして設定されて
いるから、今度はどうして在るようになったのか? そこら辺が詳しく知りたい所。
個人的にはキャラクターやストーリーよりも世界観に惹かれる部分が大きかった。特に
物語のシンボルとも言えそうな塔の存在感、それから外側にある雄大な砂海など。世界に
広がる美しい光景に思わず魅せられてしまう描写が印象的で。実際には風景を映すシーン
なんてそれ程ないんだけど、こう頭にすーっと浮かぶ情景が凄く魅力的に映るのです。
今の所塔が抱える謎は謎のままでも、明かされるまでは想像を巡らせて楽しめるだろう
し、砂海に覆われた外の世界の旅は今後存分に描いてみせてくれる筈。元々旅人種族のセ
イと“罪人”てくてくとの再冒険、先の見えない旅程がどんなものになるのか楽しみ。
今回のストーリーについて。主軸は“罪人”という鍵を介してリーゼと関わってゆく部
分、それからてくてくと過去に沈んでゆく部分。どうも二本立になっていたせいか、結局
はどちらも掘り下げが弱くて物足りない手応えだったので、出来ればどっちかに絞ってく
れたら良かったんだけど(やっぱり『てくてくとぼく』だから後者の方希望で)。
そういう気持ちだからか、正直先に持って来たリーゼ関連――罪人修理の部分はあまり
必要性が感じられなくて。これが塔に潜入する切っ掛けにはなってるんだけど、それより
かはセイとシズクとてくてくとの関係の方にもっと描写を割いて欲しかったなと(何故塔
の中にシズクそっくりな罪人が安置されていたのか全く説明が無かったような……)。
何にしても、セイと生まれ変わったてくてくとの旅はまだ始まったばかりだから、あま
り見れなった過去のシズクの姿やてくてくとの繋がりなどは次でじっくり描いて欲しい。
2004/09/06(月)伝説の勇者の伝説6 シオン暗殺計画
(刊行年月 H16.08)★★★☆
[著者:鏡貴也/イラスト:とよた瑣織/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】
やけに頁が薄いなと思ったらどうやら次巻と合わせて前後編構成らしい。サブタイトル
の『暗殺計画』って一体誰が企てるのだろうか? と読んでたら……こいつか! しかも
ローランドに戻った早々で、この二人がこんなにアッサリ再会を果たすとは想像すらして
ませんでした。それぞれの理想を求める為に、もっと別行動を続けてゆくだろうと思って
たんだけど。これじゃ再会の喜びも感動も何もあったもんじゃないですが、唐突ながらも
長らく離れていたのを感じさせないくらい自然な振る舞いなのはこの二人らしいです。
あとはライナの『複写眼』の秘密。他の複写眼持ちの人間の能力とは明らかに一線を画
しているその理由。一体何故? それが示す意味は? 物語の核心の一部にに触れるもの
のようなので、今の所は話が進むに連れて明かされるのを待つしかない。ライナに“お前
は異質な存在”と突き付けたルシルの感情も、無の空間に閉ざされて全く見えないし。
そういや前巻で派手にぶちかましたガスターク国の姿は、今回影も形も見当たらなかっ
たけど、その辺は次巻でフォローされるのかなぁ? もっとも、まだガスタークがローラ
ンドと接触する機会は少なさそうですが。フロワードに手傷を負わされた、ガスタークに
属するスイとクゥがどんな形で再登場を果たすかも見物か。回想ばかりで意外と現在にお
いての見せ場が控え目だった、キファの動向も洩らさず追ってくれたらいいなと。
で、気になる動きを見せてくれて目が離せないのはやはりフロワード。ライナへの“楔”
を取り除くとか言ってたから、ミルクとの接触はもの凄く嫌な予感がする。フロワードの
狙いがハッキリ形となって表面化するまでは大丈夫そうな気もするけど。何と言っても障
害を躊躇いなく排除してみせるような危険人物だし。ううむ、どうなるだろうか……。
既刊感想:伝説の勇者の伝説 1、2、3、4、5
とりあえず伝説の勇者の伝説 1、2
2004/09/06(月)伝説の勇者の伝説5 出来心の後始末
(刊行年月 H16.04)★★★☆
[著者:鏡貴也/イラスト:とよた瑣織/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】
魔法であっさり撃退出来るんなら、四十二時間耐久レースなんぞやっとらんでさっさと
片付けろよ! とか、いきなり最初の方で突っ込み入れたくなりましたが。きっとライナ
だったらやろうと思えば簡単にぶちのめせるだろうけど、これも彼をオモチャとして楽し
んでいるフェリスの強制なんだろうな〜。そんな二人の夫婦漫才も相変わらずで。
ただ今回の場合、ライナとフェリスがおちゃらけているのはその前半部分のみ。あとは
理想と現実の間で更に心の葛藤を抱えるシオンサイドと合わせて、これまで以上に重苦し
い空気を纏った展開が続きます。ライナ&フェリスの方はあまり余裕を持てず何かと忙し
ない状況で、逆にシオンは機が熟すのを待っているようでいて、エスタブール侵攻以来な
かなか次の段階に進めず足踏みしているので、大して目立った動きが見られない。
実際にはローランドとエスタブールに限らず、国同士の駆け引きによる描写が少ない物
語なのだけど、本当はもっと他国同士の関係ってのも描いて欲しい所。でないといつまで
経ってもローランド以外は大雑把な情勢しか見えない。今後そういう事情が複雑な国同士
のやり取りを楽な描写で済ませようとすると、多分物語は萎んでしまうような気がする。
複数国の絡みとそれぞれの国に属するキャラクターの動向や目的も大分明確になって来
たので、やっぱり大風呂敷を広げに広げてしまった分は、急がず焦らず一つ一つ丁寧に畳
んで行かないと。『読み易い』『分かり易い』『把握し易い』を利点と捉える事も確かに
出来るんだけど、逆にそれが物足りなくスカスカな印象も結構あったりするので。
個人的には暗躍するフロワードの姿を追っている時が一番面白い。彼が出来ない事をシ
オンがやっている代わりに、シオンが出来ない事を彼が請け負う。口では常に完璧な忠誠
を誓っていながら、腹の中では何を目論んでいるのか全く読めない辺りにも、フロワード
を追う楽しさみたいなのがあるのかも。今回ラストの呟きとかも非常に気になる。
既刊感想:伝説の勇者の伝説 1、2、3、4
とりあえず伝説の勇者の伝説 1、2
2004/09/04(土)風の聖痕 Ignition1 綾乃ちゃんの災難
(刊行年月 H16.08)★★★
[著者:山門敬弘/イラスト:納都花丸/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】
ドラゴンマガジン連載分五編に書き下ろし一編を加えた短編集。富士見ファンタジア文
庫の他シリーズでよく見掛ける、『書き下ろしの長編』と『連載分収録の短編集』に分割
刊行パターンと一緒。シリアス寄り=長編、コメディ寄り=短編、なのも全く同様。
長編の合間に起こっている設定で、大した事ない悪霊退治依頼を登場キャラクター達が
面白可笑しく遂行してゆくというもの。……ううむ、正直言ってこのパターンは他シリー
ズで読み飽きてしまっているので、余程面白いネタで攻めてくれないとサッパリ楽しめな
いんですけど。毎度似たような展開の悪霊退治話に乗せて、綾乃が和麻を巻き込みながら
逆に彼にちょっかい出されてどぎまぎするようなシーンを見せられてもな〜。だってそれ
ってそもそも長編ストーリーの方で日常茶飯事的に描かれまくっている事柄だし。
ただ、長編と決定的に異なっているのは、どのエピソードも中心に立っているのが和麻
ではなく常に綾乃だという点。これは長編版と差別化を図る意味でなかなか面白い仕掛け
だと思う。和麻とじゃれ合うのは長編とあまり変わり映えがしないながらも、その感情は
綾乃側にあるので、和麻に対する心の揺れ動きがより明確に表れていて良いですね。
今後もあんまり内容に変化がないと一気に冷めてしまいそうなので、短編はストーリー
に頼るよりもキャラクターの個性(特に長編で描かれ難い脇役達)に頼った方が面白くな
りそう。由香里に七瀬に霧香、それから花音に芹沢など個性は充分揃っている事だし。
和麻にからかわれて、怒って焦って接近して紅潮してどぎまぎして……という綾乃の分
かり易い表情を眺めるのは基本的に好きなんだけど、時にはちょっとした変化を求めたい
と言えば求めたい(例えば二話目冒頭の現実的には絶対あり得ない夢のように)。
既刊感想:1、2、3、4、5
2004/09/04(土)風の聖痕5 ―緋色の誓約―
(刊行年月 H16.03)★★★☆
[著者:山門敬弘/イラスト:納都花丸/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】
前巻の続きで、これまでずっと伏せられていた和麻の過去――かつての恋人・翠鈴を失
った悲劇の真相に迫るエピソード。なんだけど、二巻分で描いた割にはどうも肝心の部分
がスッキリしなくて微妙な手応えだった。それはおそらく和麻にとって心を揺さぶられる
存在である、翠鈴にそっくりな少女・ラピスとの事が、今回だけで完全決着とは行かなか
ったせいかも知れない(それはそれで今後の楽しみが継続されるからいいんだけど)。
でもスッキリしないのはそっちのせいではなくて、むしろ和麻の過去が明確に語られな
かった事が中途半端感の原因のように思う。この和麻の過去回想、展開の途中途中で挿入
するタイミングは悪くなかったし、起こった事実と辿った結果だけならしっかり描かれて
いたんです。問題なのは過程の部分があまり語られておらず実に曖昧だという事。
二人が仕事のパートナーとして行動を共にしながら惹かれ合って行ったのは分かる。翠
鈴が何らかの生贄によって命を落としたのも分かる。彼女を救おうとした和麻が絶望の淵
で潜在能力を覚醒したのも分かる。じゃあ“何故和麻と翠鈴がその結末に到ったか?”と
いうのを考えてみると、実際にそれは今回でも大した事が描かれていないんですよね。
楽しめなかった訳でもないんだけど、和麻と翠鈴の関係が描かれる事を期待していただ
けに肩透かし具合も大きいもので。結局本当に知りたい大切な事実は、またしてもお預け
で先延ばしになってしまった。まあそれでも今後明らかにしてくれるなら今足踏みしてい
ても構わない。ただ、やるからには丁寧に大事に充分な分量で描いて欲しいなと。
今回は実質綾乃が物語を引っ張りつつ、完全に敵対者の和麻と対峙する展開。なので和
麻が正気に戻った時点で既にかなり気が抜けてしまい、終盤のラピス&ヴェルンハルトと
の絡みではあまり盛り上がれなかった(幾ら身体の一部しか召喚されてないからって、大
悪魔とか言ってるベリアルをあっさり退けちゃっていいのかよ……)。結果としてラピス
の件は片付かずに残ったわけだから、どんな形で和麻と再会を果たすのかが気になる。
既刊感想:1、2、3、4
2004/09/04(土)名犬ミケは左きき
(刊行年月 2004.08)★★★☆
[著者:阪本良太/イラスト:来栖達也/集英社 スーパーダッシュ文庫]→【bk1】
他の誰が見てもただの仔犬にしか見えないのに、主人公の洋輔だけは人間の犬耳少女に
見えてしまうという、野良犬ミケとの出逢いによる「飼ってよ!」「いや飼わん!」の応
酬から始まる騒動劇。何かミケって名前とか洋輔視点での容姿とか仕種とかがことごとく
ネコっぽいので、うっかり『野良猫』『猫耳』とか使ってしまいそうになる。でも作中の
内容を見るに、別に犬である必要性もないような……とか言ったら身も蓋もないか。
短編3本構成で、洋輔がミケを飼うかどうかで渋り迷い決断を下してから、ミケが起こ
すトラブルでコミュニケーションを取り、最後はミケの過去を知る事で二人の絆もちょっ
と深まり一歩前進。と、これだけで何も考えなければ“洋輔が嫌々ながら実はそんなに嫌
がってない犬耳少女と戯れる話”で、それなりに面白く読み進められるんだけど。
……いやいやちょっと待てそれじゃダメでしょ!? 何で“洋輔にだけミケが犬耳少女
の姿で見えるのか”の謎が投げっ放しのまま終わっちゃってるし! この要素こそが最重
要ポイントと思ってたのに、肝心の洋輔も流されるままに納得してちゃいかんですよ。
一体何故なのかと首捻って悩んでみても、作中での手掛かりが皆無な為に全然掴めそう
になくて困った。ホントにこれだけを抜きにすれば余計な事を考えずに楽しめるんだけど、
でも作中みたく自然に順応して「これが当り前」という風に、簡単に流せるものでもなさ
そうなんだよな〜。それだったら、最初から誰が見ても犬耳少女として登場させても何ら
問題は無いわけで。その辺の気になる点は是非とも続編で納得させて欲しい。
あと終盤のミケの過去回想で、それまでの展開とあまり絡んでない唐突さと駆け足気味
な所があったし、洋輔に対する真琴の好意も「友人として」なのか「異性として」なのか
イマイチハッキリしてないし。これら物足りなかった部分も次に期待してます。
2004/09/04(土)殿がくる!
(刊行年月 2004.08)★★★★
[著者:福田政雄/イラスト:相楽ヒロカズ/集英社 スーパーダッシュ文庫]→【bk1】
第3回スーパーダッシュ小説新人賞『佳作』受賞作。
弱っちい現代少年の元に、“あの”織田信長が過去からタイムトリップしてきてしまっ
たからさあ大変……な物語。実際大変なのは、現代の常識を何一つ知らない信長に振り回
され続ける現代人の新一郎だけなんだけど(理緒は順応が早くてどこか楽しんでる節があ
るのでね)。こういうタイムトリップにつきもののドタバタなコメディ――常識知らずの
キャラクターが引き起こす大騒動は、お約束ながらしっかり盛り込まれていて良い感じ。
でも作品の面白さを引き出すのに決してその部分だけに頼っていない辺りは、どこか一
風変わった事をやってくれるのを期待していた受賞作なだけに嬉しい限り。信長自身に関
して、聡明なのは分かるんだけどちと呑み込み早過ぎるんじゃないかい? ってのもあっ
たけど、そこは逆に慌てず騒がず急速に現代に馴染んで行く信長の描写で楽しめる。
んで、何がタイムトリップコメディに付加されてたかと言えば、思ってたより物語に色
濃く影響を与え丁寧に描かれていた現実社会の政治経済問題。何で冒頭に『この物語はフ
ィクションで……』と注意書きしてるのかと思ってたらこういう事だったのかと。
ここに信長が“現代の世直し”と称して大胆不敵に切り込んでゆくわけですが、現実的
な事が絡んでるので、つい頭の中で「本当にこうなったらどうだろう?」なんて現実と照
らし合わせてみたりも。そりゃもう物語以上に大騒動になるに決まってますが、やってく
れたらさぞ楽しいだろうな〜という事を、信長が物語の中で見事に演じてくれているのが
また面白い。特に終盤の信長の立ち振る舞いの全てが読んでいて実に痛快でした。
そして最後に男気を見せてくれたへなちょこ新太郎君。ラブコメ部分は信長の圧倒的な
存在感の前に霞んでしまったけど、男っぽい理緒を度々羞恥心で満たしてくれる行為はな
かなかのもの。もし続きがあったら今度はもうちょいこの二人にも焦点当てて欲しい。
2004/09/04(土)Bad! Daddy4 やっぱり! とっても! パパが好き!
(刊行年月 2004.07)★★★☆
[著者:野村美月/イラスト:煉瓦/エンターブレイン ファミ通文庫]→【bk1】
本音を言うと個人的にこの最終巻は二冊分の長さでやって欲しかったのです。理由は大
小様々ですが、とにかくここまで溜め続けてきた謎を、殆ど終盤の天音の言葉による解説
のみであっさり明かして済ませてしまっているのが惜しい思う。まあその場のノリと勢い
で一気に突っ走って終わらせるってのも、それはそれでテンポの良い読書感覚なので気持
ちいいんだけれど。それでも本来盛り上がるべき核心部分――愛理亜の正体や歌姫の伝説
などが、割と簡単な描写で解かれているから物足りなさを感じてしまうわけで。
あとは美夢と優介の敵役であるカノンの扱いがなんか中途半端に感じられた点。彼は残
り一冊で全て終わらせようとする展開の前で、割を食ってしまったキャラクターではない
だろうかと。美夢の行動を目の当たりにして自分の在り方に葛藤するシーンもあるんだけ
ど、美夢との直接的に深く関わるのは今回が初めてなので、結局は準備段階を踏んでいな
い所に少々の唐突さを感じたりも。だから、もっとカノンの感情描写を! もっと美夢が
ドキドキするくらいの心の接近を! と言いたくなってしまったのですよね。悪くはない
んだけど充分とも言えない。この辺からもあと一冊余分にあったらな〜という気分。
この物語の謎と言える謎ををたんまり残したまま、果たしてきちっと纏め上げる事が出
来るのかどうか、読む前からとっても心配で不安だったシリーズ最終巻。結果としてはや
はり予想通り謎解きが駆け足気味な印象でしたが、でも最後は頑張ってうまく纏めてくれ
たんじゃないかな? 絵に描いたような幸せな結末も物語の雰囲気にはよく似合うもの。
既刊感想:1、2、3
2004/09/02(木)吉永さん家のガーゴイル4
(刊行年月 2004.08)★★★★
[著者:田口仙年堂/イラスト:日向悠二/エンターブレイン ファミ通文庫]→【bk1】
なんちゃってタイムトラベル。本当は夢の中の仮想現実。でもイヨが寝ながら描いてい
る過去の世界は現実的な存在感が大きかったので、どちらかと言えばタイムトラベル寄り
な印象の方が強いかなぁと。双葉と和己とガーゴイルが「これは夢世界だ」と認識してい
ても、実体験は現実味のあるものとして描かれているので。こういうのは、より現実に近
いイメージを形成してくれるイヨのアイテム性能の高さの賜物なんでしょうかね。
そんな感じで今回は夢から覚めないイヨを連れ戻す為、双葉と和己とガーゴイルが彼女
の夢に潜り込むというもの。夢の舞台は昭和二年、当時“人を幸せにする為”に錬金術に
魅せられていた青年達が、その青春を掛けて挑んだ夢と希望と浪漫に溢れるガーゴイル誕
生秘話。双葉と和己、そしてガーゴイル自身がその研究過程に立ち会うという流れ。
これまでと大きく異なるのはガーゴイルや吉永兄妹の立ち位置。同じ主要キャラクター
の役割であっても、今回の場合は『来客者』としての立場なんですよね。つまり物語が巡
る中心に居るのが吉永家ではなくて、雅臣・潤・イヨの三人だという事。ガーゴイルの研
究を手助けする意味で言うと『協力者』、見届ける意味なら『傍観者』となるのかな。
このちょっとした立場の変化を見せてくれた事、物語に新しい魅力を呼び込むもので非
常に良かったと思う。笑いを誘って弾けるシーンは今回も少ないんだけど、工夫を凝らし
て違う形で楽しませてやろうじゃないか! という意欲が毎回感じられていいですね。
しかしイヨには完全にしてやられたな〜。だって微塵も素振り見せないんだもん。最初
の時点で否定されたから、「じゃあイヨは一体何処に居るんだ?」とずーっと首を捻って
たもんで。その大胆不敵な振る舞いに完敗です。実際それが本来の姿だったのか、それと
も夢の中での演技だったのか、想像を巡らせてみるのもまた面白いかも知れない。
既刊感想:1、2、3
2004/09/01(水)吉永さん家のガーゴイル3
(刊行年月 2004.05)★★★★
[著者:田口仙年堂/イラスト:日向悠二/エンターブレイン ファミ通文庫]→【bk1】
花壇に水やりしたり植物の身を案じたりする双葉に対して、「に、似合わね〜」と蹴っ
飛ばされそうな一言が思わず漏れてしまいそうな今回のエピソード。それは双葉がイヨの
実験台として、“植物とコミュニケーションが取れる”ヘルメットを被らされてしまった
からなのですが、似合わないながらも普段とちょっと違う双葉を見れるのがポイント。
爆笑シーンはヘルメットが脱げずに唸ってる前半部分のみで、あとは双葉が植物の女の
子と仲良くなってゆく微笑ましさと、装置を使い深入りする事が実は危険だというのを知
らされてゆくシリアス感とが入り混じり。最後に泣かして落とす部分は大体一緒だけど、
割と騒々しいコメディ色で物語を引っ張って来たこれまでとはちょっと違う内容。
こういう変化球を放る事によって、シリーズとして飽きさせない面白さが出ているのは
良いですね。例えば前巻の百色みたく馬鹿さ加減で物語全体の雰囲気を盛り上げてくれる
のも好きですが、今回のように爆発的なテンションではないけれどじんわりと染み入るよ
うな展開もなかなかのもの。直情的な双葉がハナ子と仲良くなりつつ、深入りの危険を指
摘するガーゴイルやイヨに反発しながらも、植物との接し方について想いを巡らせてゆく
心理描写は凄く良かった。そして分かっていてもホロリとさせられるラストシーンも。
あえて不満を指摘するなら敵さんのインパクトがやや弱かった点。変人っぽいノリなヒ
ッシャムのキャラクターとしてのインパクトは申し分ないんだけど、ガーゴイルに対して
は絶対悪ではなく基本的に「いいひと」だからね〜。その辺がバトルで盛り上がり切れな
い要因なのかも。でも結局はオシリスと共に居座るみたいなので再登場もあるかな?
あと今回印象的だったのは和己の行動力。そこに普段より妹思いな部分が一杯見れたよ
うな気がする。特に最後のハナ子との会話シーンでは、なよなよで頼りなさげな姿は微塵
も感じさせずに、妹思いの“強いお兄ちゃん”の心情が充分に見れて満足でした。
既刊感想:1、2
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