NOVEL REVIEW
<2004年09月[中盤]>
] [戻る] [
09/17 『めがねノこころ2』 著者:ゆうきりん/電撃文庫
09/15 『めがねノこころ』 著者:ゆうきりん/電撃文庫
09/14 『学校を出よう!5 NOT DEAD OR NOT ALIVE』 著者:谷川流/電撃文庫
09/13 『半分の月がのぼる空3 wishing upon the half-moon』 著者:橋本紡/電撃文庫
09/11 『撲殺天使ドクロちゃん4』 著者:おかゆまさき/電撃文庫
09/10 『キーリVI はじまりの白日の庭(下)』 著者:壁井ユカコ/電撃文庫
09/08 『とある魔術の禁書目録3』 著者:鎌池和馬/電撃文庫
09/08 『BLACK BLOOD BROTHERS1 ―ブラック・ブラッド・ブラザーズ 兄弟上陸―』 著者:あざの耕平/富士見ファンタジア文庫
09/08 『君の居た昨日、僕の見る明日1 ―STARTING BELL―』 著者:榊一郎/富士見ファンタジア文庫


2004/09/17(金)めがねノこころ2

(刊行年月 2004.04)★★★ [著者:ゆうきりん/イラスト:いぬぶろ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  めがねっ娘とコスプレ娘と同居生活。やっぱりジャンルを“学園コメディ”と括るには、 何か違うような気がするのも前巻同様。学園でのイベントがあるだけ多少それっぽさが増 しているものの、メインで描かれているのはロシィ&アリシアとの同棲風景だよなと。  基本的にはシリアスムードで物語を盛り上げるような描き方をしているせいか、いきな り全く性質が逆のコメディみたいな軽いノリをやられてしまうと、思わず一歩身を引いて しまいたくなる滑り具合がちと痛い。眼鏡や衣装の設定でバラエティに富んでいるのはよ く分かるし、そういう特性こそストーリーに絡めて見せようと工夫を凝らしてるのも分か るんだけど。妹キャラ眼鏡はともかく、アイドルコスプレコンサートはやり過ぎ……。  もし瞳との同棲ラブコメをやるんだったら、ロシィが眼鏡で七変化で騒動巻き起こすと いうのは面白いと思うんだけど。実際には《MMPS》に拉致されそうになっている瞳を 護衛する形で、ロシィやアリシアが銃弾ぶっ放して動き回る戦闘アクションの印象が強い からなぁ。まあ日常生活でのロシィの変化も眺めてて楽しいのは確か。でもどちらかと言 えば、戦闘シーンの方でロシィとアリシアの特性をもっと際立たせて欲しかったかも。  そして今回一番の難点は、終盤で盛り上がるべき箇所が尻すぼみに終わってしまってい る点。要は描く分量が少な過ぎるという事なのですが……今回《MMPS》の刺客が二人 も居るのに、アリシア(ドレス)一人だった前巻よりも戦闘シーンの描写が全然少ないの は拙いでしょ(たとえ最初に色々説明が必要であったとしても)。これ、もうちょっと丁 寧にやってくれてたら手応えは格段に良かったと思うんだけど。終盤の《B・P》と《ウ ィッグ》の見せ場があまりにあっさり片付いてしまい、どうにも楽しめませんでした。  まだ瞳を狙う《MMPS》は残っているので、この辺は次巻での盛り返しを期待するし かないか(個人的には付き合いの長い詠美と絡んで欲しいと望んでいるのですが)。  既刊感想: 2004/09/15(水)めがねノこころ
(刊行年月 2003.12)★★★☆ [著者:ゆうきりん/イラスト:いぬぶろ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  めがねっ娘と同居生活。男の主人公にとって非常に都合のいいシチュエーションで仕掛 けているように見えますが、じゃあ主人公の瞳(注:男の子)が美味しい思いをしている かと言えば決してそうではなくて。実は主人公の事情とめがねっ娘のある特殊性が原因で、 幾度も強制的に酷い目に合ってます。この辺の見た目と中身のギャップ、個人的には好み な要素でストーリーの組み立てもなかなか良くて、物語自体も充分に面白かった。  ただ、型通りのシチュエーションではない変化球のような描き方好感度に繋がるか、そ れとも「素直に主人公にいい目を見させてやれよ」と思いちぐはぐさを感じてしまうかは 微妙な所かも。確か前シリーズの『ヴァルキュリアの機甲』もこんな感じだった。  もう一つ思い込んで間違い易い事。作中で強調されているのは“めがねを掛けた女の子” ではなくて、女の子が“めがねを掛け変える事で様々な能力を発揮する事が出来る”とい う設定の方。だからロシィのめがねっ娘としての旨味は意外とそれ程でもなくて、むしろ 無表情・無感情な性格の方が物語にインパクトを与えるもので印象に残り易い。  しかしジャンルがめがねっ娘『学園コメディ』とあったのだけれど、初っ端の密林銃撃 戦で「全然違うじゃねーか!」と叫んでしまった……。実際それっぽいシーンもありまし たが、学園モノより同棲モノの方が色濃いし、コメディよりはシリアスで重苦しい雰囲気 の方が多量だったと思う。まあロシィのあの性格じゃラブコメにはなり難いだろうな。  あと全体的に眺めてみてちょっと気になったのが、シリーズ作品で展開してゆくには重 要な事をあっさりバラし過ぎなんじゃないだろうかと。これがもし単巻完結だったら凄く いい展開なのだけど、こうも簡単に分かってしまうと今後へ興味が薄れてしまいそうでち ょっと心配だったりも。もっとも逆に隠され伏せられてばかりでも不満は募るので、バラ ンス調整は難しいとこですが。せめて瑠璃の事だけでも伏せておいて欲しかったなと。 2004/09/14(火)学校を出よう!5 NOT DEAD OR NOT ALIVE
(刊行年月 2004.09)★★★★ [著者:谷川流/イラスト:蒼魚真青/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  む、次巻と合わせて上下巻なのか。とりあえず今回だけではパズルの欠片が足りないの で物語の全体図も完成してません。まあたとえ揃ったとしても、本当の意味で全貌=世界 の仕組みが見渡せるかどうかってのはまた別問題なのですが、少なくともこの吸血鬼騒動 に関する謎は次巻で明らかにされる筈。刊行来月なので待たずに済むのは嬉しい限り。  主人公っぽい人は茉衣子で固定かと思いきや、今回で言うとそれは宮野だったのではな かろうか。茉衣子にとっては「あ、悪夢ですわ……」とかってなっちゃうのかな。いやで も今回の宮野の演説というか言葉の垂れ流しみたいなのを追っていて、素直に凄い奴だと 思えたのは初めてかも知れない。何せこの世界の知られざるルールを丸裸にしてしまいそ うなくらい、確実に核心に迫る演説をやってのけていたので。ただし上記のようにそれを 解くのに必要な欠片がまだ不足している為、この巻だけでは曖昧で把握し切れない。  宮野の喋りが滑らかで絶好調だったお陰か、随分急速にこの物語に組み込まれた“仕掛 け”が明るみに出始めて俄然面白くなってきた。これもまた頼みもしないのに宮野が茉衣 子と若菜と類の前で懇切丁寧に解説してくれたので、並行世界に加えて同時間軸上での上 下関係とか、一見面倒臭くて頭痛くなりそうな事象も割とすんなり受け入れられたし。  問題はこのねじくれてこんがらがった状況が、次でうまい具合に纏まってくれるのかど うかって事でしょうかね。ちゃんと納得させてもらえりゃ充分なので、あまり心配はして ないのだけれど、展開によっては下手するとコケる可能性もあるので油断は禁物。  あとは前巻ラストから気になってた春奈の件。やっぱり終わってしまったと思われてい たものを混ぜっ返しに来たか。真琴の兄貴(優弥)が佳由季に語っているのもまた突拍子 も無い可能性ながら、佳由季にとっては無視して通れない可能性だろうなぁ。この件まで 世界の仕組みの絡んでくると更にややこしくなりそうだけど、楽しみであるのも確か。  既刊感想: 2004/09/13(月)半分の月がのぼる空3 wishing upon the half-moon
(刊行年月 2004.09)★★★★ [著者:橋本紡/イラスト:山本ケイジ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  来るべき時――つまり手術の日が訪れる前に、とにかくやりたい事は悔いを残さずやっ ておきたいという里香の気持ち。読み終わったから言える事だけど、どれくらい先に『そ の日』が待っているのかを、里香が明確に把握していたからこそ出来た行為だと思う。  里香が裕一に対して我が強いのはいつも通り。ただ、何となくこれまでより裕一の気遣 いをよく理解した上で素直に接しているように見えたのは、当り前の事ながら誰よりも自 分の体調を理解していたからなんじゃないかな? こうやって病気なんか何でもないよう に接していられる時間も残りあと僅かだと。充分過ぎるくらい分かっている上で、裕一に は決してそうと気付かせないように振舞ってみせる。そんな里香の奥底の事情を裕一が見 通せていないのもあるけれど、こういう里香の心穏やかな強さに圧倒されました。  里香の心の強さの対比で、今度は裕一の弱っちい姿がやけに重く圧し掛かってしまった のですが、どうにか助けたい想いだけ先走ってその実何一つ力になれない無力感ってのは 想像以上に辛いな……。本当に本当に抱き締めたいくらい大好きな娘の為に、何でもいい から喜ぶ事をしてあげたい裕一の気持ち。それがたとえ彼女に笑顔を浮かばせたい自分の 為にやっている事だとしても、裕一の切羽詰った一生懸命さが凄く印象に残る。    そして里香の体調が崩れるのを待っていたかのように、遂に訪れた手術の日。いや、何 て言ったらいいのやら……後になって気付かされてしまう真相にこれだけ狂おしく胸を掻 き乱されてしまったらもう堪らない。こっそり抜き取られた写真とか、本の中の台詞や修 正の跡とか。これを里香が平静を装って伏せていたんだと思うと余計に切ないです。  堤防が完全決壊したのはラストシーンの夏目の一言。最近読んだ中では最も強烈で凶悪 な幕引きしてます。もしまだ読んでなければ「絶対次巻が出るを待って一緒に読め!」と 止めたくなるくらいに。止めを刺すようなこんな切り方勘弁して……あ〜も〜このまま何 ヶ月も悶々としなきゃいかんのか〜! 早く続きを読ませて下さいお願いします。  既刊感想: 2004/09/11(土)撲殺天使ドクロちゃん4
(刊行年月 2004.09)★★★★ [著者:おかゆまさき/イラスト:とりしも/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  おいこらー前巻の『完』の文字はやっぱりネタだったのかよ! と、刊行決定した時に 唾吐いて突っ込み入れずにはいられなくて。しかしまあその後も雑誌掲載はあったので、 続編出たのは予想通りか。というわけで“何事も無かったように続いた”が正解でした。  トラブルメーカーのドクロちゃんに、毎度の如く振り回された挙句に撲殺されまくる桜 くん。この基本的な部分は相変わらずでこれまでと大差なし。ただ、思わず吹き出してし まいそうなポイントは、電車内で読んだらやばいレベルで結構あったような気がする。  今回はバレンタイン&花見の季節モノに、学校恒例行事の修学旅行+前に冗談でやって た『びんかんサラリーマン』ネタ含み。別に潔く前巻で終わってくれていても全く問題は 無かったんだけど……いや、意外にも手応えがこれまでより上昇傾向でなかなか良かった のですよね。個人的には一体どこをどう間違えて何が要因で楽しめたかと考えてみると、 一応学園モノらしく桜くんの超個性的過ぎるクラスメイトの存在が大きかったのかな?   主にクラスメイトの楽しさがよく表れていたのは、サブタイトルだけ『バッカーノ』か ら拝借したらしい修学旅行編の中。溢れ出る静希ちゃんへの想いを持て余し気味な桜くん の空回り振りは眺めていて笑えましたが、これまであんまり表で目立てなかった南さんと か田辺さんの影響力も好感触に繋がっていて良い感じ。あの南さんが桜くんをねぇ……好 きな男の子にちょっかい出したくなるタイプなのか。静希ちゃんもただの幼馴染み以上に は想っている筈だし、案外もてるじゃないか桜くん。この物語でまともなラブコメとかは 期待しちゃいませんが、今後もこんな風にクラスで馬鹿騒ぎやってくれたら面白そう。  今回のびっくりネタはあとがきです。この作品(というより著者のおかゆ氏)は、よく 他の電撃作家や作品を巻き込んでくれるよな〜と変なとこで感心させられる。修学旅行の 途中でもあの作家さんの寄稿作が紛れ込んでたり。その辺も見所と言えば見所なのか。  既刊感想: 2004/09/10(金)キーリVI はじまりの白日の庭(下)
(刊行年月 2004.09)★★★★ [著者:壁井ユカコ/イラスト:田上俊介/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  現実と曖昧な虚像とが入り乱れる中で、ハーヴェイのルーツに触れてゆくエピソードの 後編。現実世界から境界線を越えて過去の幻影に迷い込んでしまったキーリと、人間だっ た頃のハーヴェイ=エイフラムとの出逢いで終わったのが前巻。このキーリの体験はどう いうものであって何を意味するのか? これに対して今回期待していた答え、実は今回を 読了しても拳を握り締める程に自信を持って「分かった!」とは言えませんでした。  キーリが体験した事は何だったのだろう……と考えてみた場合、頭の中がもやもやした まま明確な答えが出せなかったという感じで。少なくとも現実で起こり得るものじゃなく て、けれども夢のように目が覚めたら“無かった事”になっていた訳でもない。この曖昧 さがそのままキーリの実体験による感情に直結していると解釈すれば、ああ成る程彼女の 気持ちをよく把握しながらの描き方だなと納得する事も出来るんですけど。  これは霊感の強いキーリがハーヴェイの事情をもっと知りたいと強く願った結果、と間 違ってるかも知れないけど勝手に解釈しました。彼女が触れた過去の情景ってのは……何 だったんでしょうね? どうも結局の所、私はここで答えを導き出せないまま引っ掛かっ て堂々巡りしてるような気がする。誰かに気付いてもらえるまでは、決して解放される事 の無かった残留思念なのかなぁ。その明確な形が当時のエイフラムとヨアヒムで、キーリ が触れた事によって解放されたとか(合ってなさそうに思うのは自身が無いから)。  まあでもラストシーンのキーリとハーヴェイの行為は、気になる部分を帳消しにしてし まうものだったので問題なし……かな? 思わず「チッ」と舌打ちしたくなる微妙さでし たが(結局未遂だしね)、これもまた素直じゃなくて回りくどい二人らしいか。  既刊感想:IIIIIIV 2004/09/08(水)とある魔術の禁書目録3
(刊行年月 2004.09)★★★★ [著者:鎌池和馬/イラスト:灰村キヨタカ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  これだよこれ! これを待ってたんだよ! うおおーずっと待ち望んでた! 凄く満足 でした。何の事かと言えば御坂美琴。一巻前半で即にお気に入りキャラになってしまった というのにその後は存在意義が弱く、更に二巻では全く出番なしという悲しい扱い。  今回は前もっての情報で美琴メインのエピソードなのは分かってたから、それだけで期 待感膨らみ続けてたのですが……読んでみて驚いた。これは他者の介入を許さないほぼ完 全に当麻と美琴の為のエピソード。想像以上に報われていて思わず嬉し泣きですよ。  ただ裏を返せば今度はインデックスの存在がほったらかしになってるわけで、タイトル なのにヒロインなのにそんな扱いでいいのか? と思ったりもしましたが、まあこれまで の美琴の扱いを考えたら一巻くらい譲ってくれても構わんでしょう(今回のインデックス は本当に完璧に当麻に構ってもらえてないので、ちょっと可哀相な面もありましたが)。  でも単純に美琴がメインを張ってたから狂喜乱舞で手応えが上昇したのではなくて、そ れはストーリー自体に面白さがあったから。一方通行(アクセラレータ)のLevel6 への異常な執着心、美琴に似過ぎている御坂妹の謎、そして御坂美琴が誰にも言えず心の 内に抱える苦悩、これらの絡ませ方が非常にうまく物語の面白さに繋がっている点。  もし計算して狙ってこれまで美琴を出さず、この事態を追っているのを理由にあえて当 麻に絡ませなかったのであれば、素直に拍手喝采と行きたい気持ちです。たとえそれが偶 然の流れだとしても、或いは後付けのように見えたとしても、もしくは著者側はそんな事 全然意図してなかったとしても、これだけ美琴が大きな存在感で際立ってくれたのは彼女 を温存して来た賜物だと思う。後半で当麻が自分を説得してくれる事に嬉しさを感じつつ、 それでも反発してしまう美琴の感情描写とかはもう堪らなく良かったですね。特に我慢し て溜め込んでいたものが涙となってとめどなく溢れ出るシーンは印象的でした。  あと膝枕。挿絵挿入がナイスタイミング。え〜と、今回はどうしてもインデックス分不 足を感じるのは仕方ない所でしたが、これは次で補って欲しいです。そして願わくば美琴 のレギュラー定着を。これだけ魅力的なキャラを埋れさせとくのは勿体無いって事で。  既刊感想: 2004/09/08(水)BLACK BLOOD BROTHERS1 ―ブラック・ブラッド・ブラザーズ 兄弟上陸―
(刊行年月 H16.07)★★★★ [著者:あざの耕平/イラスト:草河遊也/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  吸血鬼兄弟モノ。吸血鬼が血を吸って人間を吸血鬼化させるのではなくて、吸血鬼の血 を人間に吸わせる事で吸血鬼化させるのがこの物語の基本設定。これ、別段吸血鬼関連の 物語に詳しい訳でもないので、設定としてはずっと前者が当り前と思ってた身にはちょっ と新鮮に映りました。どうも噛まれた(血を吸われた)ら即吸血鬼化、なんてイメージが 強いせいか、やっぱり吸血鬼がそういう行為に及んでも人間が転化しないのは興味深い要 素だなと。逆に作中での『九龍の血統』みたいな“血を吸う事で人間を転化させる”吸血 鬼の特殊性が、他の血統と一線を画して際立つ結果に繋がっているのも面白い。  前半はストーリーの特徴とか設定とかを把握するのでちょっと乗り心地が微妙でしたが、 大まかな仕組みを理解してからは最後まで一気に駆け抜けました。ただ、さすがに始まっ たばかりって事で気になる謎仕掛けも随分多かった。主にジローとコタロウの背景ですけ ど、ラストシーンでジローがミミコにある事実を語ってくれたのがせめてもの救い。これ が無かったら、色々分からない部分で不満を抱いたままで終わっていたかも知れない。  そのジローとコタロウが抱えているモノが物語の鍵となって行くのだろうけど、最終的 にどんな形で結末を迎えるのかは予想がつかない。まあ始まったばかりで終わりを気にす るのは早過ぎでしょうけど、もしジローの言葉通りならば幸せな結末というわけにはいか ないだろうなと。ジローは己の運命を受け入れてしまってるからふっ切れているように見 えるけど、コタロウが真実を知った時果たしてどんな風に思うかを考えるとね(でも時々 妙に大人びた表情を見せたりするので、案外素直に受け入れたりするのかなぁ……)。  分からないと言えば、これからジローとコタロウが何するのかもよく分かってない。特 区に入るという目的は果たしたその後に、何か別の目的もありそうだけど……さて。とも あれ結末に到るまでの道でどんなエピソードが描かれてゆくのか今から楽しみです。 2004/09/08(水)君の居た昨日、僕の見る明日1 ―STARTING BELL―
(刊行年月 H16.08)★★★★ [著者:榊一郎/イラスト:狐印/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  胸に秘めた想い伝えられぬまま失恋の道を辿ってしまった少年は、その現実から逃避す るように“此処ではない何処か”へ行きたいと願う。そして見事に願いは成就されたが、 自ら望むでもなく強制的に引っ張られた其処は“何処にも行けない世界”であった。  現実ではない行き止まり世界に紛れ込んでしまった失恋少年の物語で、そこに学園があ るのならば、やはり極めて変則的な学園ストーリーという区切りになるのか。出口の無い 閉じた異世界にあるのは、外見老朽化で中身は新品同然の学園、その学園と同化している と言う一人の幽霊少女、騒がしい幽霊4姉妹に保健医っぽい幽霊お姉さんに狐娘など。  そんな人間の存在しない世界の少女達と絡んでゆく優樹ですが、置かれた状況が訳分か らんと言ってる彼のぼやきは読んでいる側にも通ずるもの。ただ、シリーズの出発点なの だから当然伏せられてる謎も当然多い訳で、その辺に異を唱えるという事でもなくて。  手応えとしては「まあこんなもんかな?」程度で、分からない或いは気になる所は続き を待つしかないですが、先の展開を期待させてくれるには充分な出来。核心は学園を形成 している『詩月の世界』というやつで、この真相はおそらく優樹が鈴乃宮学園を去る時= 現実世界に戻る最後の最後まで解き明かされないような気がする。でも、そういう詩月が 抱える何かについて分からないまでも想像を巡らすのは楽しめる要素の一つだろうし、結 末を辿る過程で紅葉や小竹乃の事情なんかも今後忘れずに語ってくれればそれでいい。  今は話が動いてゆくのをこちら側が待つばかりの状況ながら、ひとつ明確なのは『序章 で既に優樹の旅の結末が描かれている』点。優樹の本心を何事も無く見抜いてる彼女は一 体何者? という疑問は詩月に関連性を見出そうとしてしまうのですが、これも最後まで 分からないだろうな〜。果たして帰結までの優樹の道程はどんなもにのなるのやら。


戻る