NOVEL REVIEW
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09/30 『吸血鬼のおしごと7 The Style of Mortals』 著者:鈴木鈴/電撃文庫
09/30 『吸血鬼のおしごと6 The Style of Association』 著者:鈴木鈴/電撃文庫
09/30 『バッカーノ! 1933<上> THE SLASH 〜クモリノチアメ〜』 著者:成田良悟/電撃文庫
09/30 『スカイワード2』 著者:マサト真希/電撃文庫
09/28 『オーバー・ザ・ホライズン 僕は猫と空を行く』 著者:橘早月/電撃文庫
09/28 『ストレンジ・ロジック 鬼の見る夢』 著者:佐伯庸介/電撃文庫
09/28 『ゆらゆらと揺れる海の彼方3』 著者:近藤信義/電撃文庫
09/28 『ゆらゆらと揺れる海の彼方2』 著者:近藤信義/電撃文庫
09/26 『めがねノこころ3』 著者:ゆうきりん/電撃文庫


2004/09/30(木)吸血鬼のおしごと7 The Style of Mortals

(刊行年月 2004.09)★★★★☆ [著者:鈴木鈴/イラスト:片瀬優/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  シリーズ最終巻。失意によって真田を殺すことだけにしか生きる目的を見出せなくなっ てしまった亮史と、彼の血によって“主人”となった(真実はそうではないのだけれど) 真田との対決。その中に亮史から離れては生きて行けないと縋り続ける上弦との共闘や、 散々恐怖と絶望の繰り返しながら、ここへ来て精神的に強く強く成長を遂げるレレナの姿 などがあり……そして辿り着いた結末は、私が思い描いていたものとは違っていた。  以下ネタバレ反転。もう色々ぐちゃぐちゃの混乱極まりない状況で、取り返しのつかな い所へ行き着く予感があったから、ハッピーエンドも救いのあるエピローグも期待してま せんでした。ただ、感情的な面で正直に言うとこんなのは嫌だった。「どうして……」と いう思いで亮史の取った最後の行為が嫌だった。みっともなくても足掻いて生きてレレナ の元に帰って欲しかった。消失してしまった舞にもひょっこり復活して欲しかった。それ が如何にお約束で都合が良い事だと理解していたとしても。初期の頃のアットホームな風 景を遠い目で眺め、最後にはまた戻ってくれたらいい、なんて期待もありました。  ただ、嫌だったけど納得はしています。逆にこれで何もかも全部がうまく行っていたら、 嬉しかっただろうけど到底納得なんか出来なかったと思う。レレナと別れた時の亮史の覚 悟の想いしっかり伝わって来たので、もう戻らないというのは掴めていたし。生きると信 じていたレレナには、信じた通り最後まで救いを持たせていたし。この結末が収まるべき 場所に収まったんだと納得出来たのは、それが満足出来た事の証だったのかなと。  上弦はもうこの上なく悲惨できっつい結末。亮史の上弦への冷めた反応で危機感は抱い てたけど、これはある意味死ぬよりも辛い。己のしてきた行為に対する報いなんだろうけ ど、これもまた徹底的に容赦が無く、最後は強烈な後味の悪さだけが残ってしまった。  感想で書きたい事は書いたつもり。最後に忘れられない結末を残してくれた事に感謝し つつ、全7巻お疲れ様でした&楽しませて頂きありがとうございました。この物語で、私 はレレナの姿を最後の最後まで見届けられた事が何よりも嬉しかったみたいです。  既刊感想: 2004/09/30(木)吸血鬼のおしごと6 The Style of Association
(刊行年月 2003.11)★★★★ [著者:鈴木鈴/イラスト:片瀬優/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  前巻辺りから方向性がガラリと変わり、クライマックス直前の今回は輪をかけて容赦な い展開。どうも途中からの付け足しではなく、最初からこういう流れを想定して描いてい たらしい節があるので、方向性が本来進むべき道に定まったと言った方がいいのかな。  分量は多いけれどストーリー展開はいたってシンプル。人質として囚われたレレナを救 う為、亮史、舞、ツキが敵の本拠に乗り込み吸血鬼達と戦ってゆくというもので流れは実 に掴み易い。シンプルじゃないのは登場キャラクター個々の心理面。多少の差はあるけれ ど、主要キャラに関しては漏れなくこれでもかってくらい深く丁寧に描いてくれている。  そのお陰がそのせいか、傷付いた時の凄惨さが際立っているのですが、最たる被害者は やっぱりレレナだろうなぁ。それもこれも彼女が半吸血鬼だから開き直ってやってしまえ てるのだけど、何か狙い撃ちされているように痛め付けられ方が半端じゃなくて。  ただ、レレナの場合は幾度か命を断たれそうになっても、辛うじて寸前で回避出来てい るので、容赦無いとは言っても気が付けば何処かで「彼女はきっと生き延びる」みたいな 希望が得られている。怯えても絶望に打ちひしがれても、まだ諦めてはいないから。  読んでいて打ちひしがれたのは終幕。これこそ容赦無い仕打ちで呆然……。こんな血み どろの死闘の中では、何時誰がどうなるか全く予測が付かないので、こういう展開も頭の 片隅で考えなかったわけじゃないけれど、これはさすがにショックがでかい。最終巻目前 でこんな事やられてしまったら、結末にハッピーエンドを期待するのは絶望的だなぁ。  ラスボスは真田で確定かな。異常性と揺るがない自信と落ち着きに溢れた、ムカツク程 の徹底した敵役っぷりはなかなか。能力的には亮史の方が圧倒的に上だけど、状況的には 地の利を活かした作戦で相手を翻弄させている真田の方が有利。気になるのは出番の少な かった上弦の立場が微妙になって来た事。そして心を一部を喪失してしまった亮史の感情 は、果たしてどんな方向へ傾いてしまうのか? 沈んだ気持ちのまま最終巻に臨みます。  既刊感想: 2004/09/30(木)バッカーノ! 1933<上> THE SLASH 〜クモリノチアメ〜
(刊行年月 2004.09)★★★★ [著者:成田良悟/イラスト:エナミカツミ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  サブタイトルの通り、時代は1932からの続き。前巻は2001だったので、バカップルなど を除いて馴染みの筈のメンバーの登場にえらく懐かしさを感じてしまいました。しかし主 要キャラは大体把握してるんだけど、ちょっと脇に入ると「誰だっけ?」と首捻る自分の 記憶力の無さに困ったもんだと唸ったりも。なので希望してた冒頭の登場人物紹介の追加 は嬉しい限り。出来れば相関関係とかも追加して欲しかったりするのですが……。  御馴染みマフィアとかチンピラとかバカップルとか不死者とかの馬鹿騒ぎ。メインで描 かれているのは、刃物を扱うモノ達の刃物を扱う時の想いだとか信念だとか。ただ、刃物 を扱う気持ちなんて言っても、実際には一々慎重に考えるよりも大雑把な本能で振るう事 の方が多いんですけど。何せ性格的には多種多様なれど、共通してどいつもこいつも細か い事をあまり気にしない奴等ばかりだからなぁ。もっとも、それぞれの偶発的で突発的な 戦いなどは、深い考えが見えないからこそ緊張感と爽快感に繋がってたりするのかも。  今度のエピソードは上下巻構成な為、この上巻では割と広がりっ放しで終わってますが、 それ程目立って複雑で凝った仕掛けや伏線は張られていなさそうな模様。なので下巻を待 たずともあまり謎含みでストレスが溜まるって事もないと思う。このごちゃごちゃ入り乱 れた状況、そして刃物使いの行く先をどんな形で結末まで導いてくれるのか見物です。  あ、そうだ。相関関係ってよりは誰がどの巻でどういう形で関わっていたのかを知りた いんだな私は……そんなもん再読しろよって感じですけど(名前見た事あるけどイマイチ 詳しく思い出せないな〜ってのが歯痒くてね)。登場して来た刃物使いの中で、個人的に 好きなのはマリア。特にアデルに退けられて自信喪失に陥ってしまい、どうしようもない 弱さを見せてから。下巻で再び陽気な性格と自身を取り戻した姿が見れるといいな。  既刊感想:The Rolling Bootlegs       1931 鈍行編 The Grand Punk Railroad       1931 特急編 The Grand Punk Railroad       1932 Drug & The Dominos       2001 The Children Of Bottle 2004/09/30(木)スカイワード2
(刊行年月 2004.09)★★★★ [著者:マサト真希/イラスト:橘由宇/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  一応は一巻で収束させた物語を、そこから続編という形で引き伸ばしてゆく展開。一巻 読了時点での気持ちは、引っ掛かる謎も幾つか残されたままでしたが、割とそのまま完結 でも問題なかったり構わなかったりで。それはアケルが大滑空走祭で優勝した所が終着点 として奇麗に纏まっていた為、続けた場合面白くなってくれるかどうか心配だったから。  でも、今回は謎とされていた『中性体』『アケルの母』『アムレードの正体』、これら の要素をうまく物語に乗せて、興味を惹かせる展開に仕上がっていたのでホッと一息。と は言え実際にはどれもまだサッパリ謎が解かれてないのだけれど、更にこの先の続きを楽 しみにさせてくれそうな手応えも確実に増していたので、満足の行く内容でした。  この巻で重点的に描かれていて良い感じに思えたのは、中性体である自らを忌避し、そ れを盾に逃げを正当化してどんどん失意に浸ってしまうアケルの感情。華々しい成績を残 して昇って行ったので、てっきり美々香と同様そのまま空を相手にリュージュを駆るのだ と想像してたのだけど……。アケルが文字通り本当に再び“落ちて”しまうのは予想の枠 外だったので、そういう意外性みたいなのも好感触に繋がっていたのかも知れません。  あと確か隣国との緊張感なんてのは、前巻では全く触れられてなかったような気がする のですが。その辺の状況の変化がやや急ぎ足に感じられたのは、今回いきなりパッと出て 対立の原因も把握出来ないまま一気に広がったせいかな? まあそれは他にアケルの母・ キラス(ラクシュ)が敵国に身を寄せている理由、復活したマゴウと彼女との関係、アム レードの思惑など、全然分かってない事情が結構多いからなのだろうけど。  そう言った謎を含みつつも、前述のように物語の面白さは加速度的に上がっているので 次巻を楽しみに待ちたいです。今回アケルとナナは終盤まで離れ離れだったせいか、一緒 になるシーンが少量だったので、足りなかった分は次でフォローしてくれますように。  既刊感想: 2004/09/28(火)オーバー・ザ・ホライズン 僕は猫と空を行く
(刊行年月 2004.09)★★★☆ [著者:橘早月/イラスト:高科浅妃/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  猫が……猫が……何で猫がトウジに関わったのかその意味が最後までどうしても掴めま せんでした! 何故か悔しいので声を大にして。空を飛んで外の世界に想いを馳せる切っ 掛け? それはでも元々あった想いだし、例えばイワノフ無しでもステラとの出逢いによ って外に飛び立つ事は出来たのだし。とまあこれは今回に限って言える事ですが。  イワノフの元の飼い主が飛行機乗りだったと事は、今回のトウジの心を刺激する効果的 なものでしたが、異国の地からやって来たという設定の方は旅立つまでの今より次巻以降 で効果を発揮するものじゃないかなと。それはつまり最初からシリーズとしての展開を見 越しているのだろうかと……ええと、何が言いたいのか分からなくなって来たので、要は イワノフにインパクトが足りないので、喋る以外に何か意味を持たせて欲しかったと。  これは作品に強烈な個性が欠けていたから望んだものであって、他に目を引かれる突出 した『何か』が盛り込まれていたらこんな風には思わない。その何かを見せるには、思い つく限りはイワノフの中に作るのが良かったんじゃないかなと。ボーミーツガールも、空 に想いを馳せるのも、形見の品が鍵を握っているのも、型通りであんまりうまい具合に動 かしようもなさそうだったので。分かり易い話の流れで世界に入り込み易くもあるのだけ れど、それが『類型的で無難に纏まったストーリー』になってしまうのですよね。  楽しめなかったわけじゃないから決して否定するつもりはないですが、新人作家さんに は一つ尖ったモノを見せてもらいたい気持ちの表れと言う事で。少年が憧れの空に手を伸 ばし、飛行機に乗って羽ばたくまでの紆余曲折はうまく一本のストーリーとして描けてい たと思う。個人的にはもっとトウジとステラの触れ合いが見たかったかな? ステラの性 格がトウジに触れて徐々に軟化してゆく所はいいなと思えたので、二人の進展具合につい ては今後に期待か。あとイワノフの行き先絡みの話にも詳しく触れていって欲しい。 2004/09/28(火)ストレンジ・ロジック 鬼の見る夢
(刊行年月 2004.09)★★★☆ [著者:佐伯庸介/イラスト:nini/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  異能力者の家系に生まれて、その能力を色濃く受け継いだ少年が主人公のお話。同じ異 能力者の味方がいたり敵がいたり、自分にも周囲にも能力がらみで複雑な事情があったり、 倒すべき人外が配置されていたり。幾度も見掛けるよくあるパターンを踏襲していますが、 そんな中でも工夫して描くべきこの作品ならではというウリがどうにも弱い。終盤で盛り 上がるかと思ってたのだけれど、本当によくあるパターンのまま終わってしまった……。  一応二段構えの構成で仕掛けてはいますが、“一段目を足掛かりに二段目を大きく盛り 上げる”ような見せ方には上手く繋がっていない。食人鬼か《異種狩り》か、凝った細工 なんぞせずに素直にどっちかを重点的に描いてくれた方が、余程その存在感に厚みが増し て良かったような気がする。隠すと言う程の伏線が敷かれてた訳でもないのだし、食人鬼 の歴史とか《異種狩り》の背景とか、もっと肉付けして描ける部分は幾つもあった筈。  しかし最も厄介なのは、主人公の灼が何の為に誰の為に戦っているのか? この部分か ら響いて来そうな感情が読んでいて全く伝わってこない点。もっとも、戦う理由が姉であ る遠見を護る為なのはよく分かっていて、灼が感情を昂ぶらせるシーンなんかも割とよく 描けていると思う。じゃあ何が足りないかと言えば発端とか切っ掛けみたいなもの。  そもそも最初に灼が遠見を護ろうと決意した遠い過去の事実が、あまりにも不明瞭かつ 曖昧な描かれ方をしているのは拙い。そのせいで今どれだけ灼の遠見を護ろうとする感情 が昂ぶりを見せようとも、結果的には空回りしているようで全然響かないのですよね。  この『姉との過去』の他、『術』『食人鬼』『異能狩り』などが同等に競うように主張 し合っているせいで主軸が定まらない。結局散漫さばかりが目立ってしまうわけで、これ らをどうにかして一つか二つに絞ってくれたら、一本筋が通っていたような気がする。  ただ、灼と遠見・音海の姉妹、それからクラスメート達との掛け合いは結構楽しく読め ていたし、エピローグの締め方も概ね満足でした。《学院》の存在がもうちょい明るみに 出れば面白くなるかな? 次があればストーリーの組み立ても上手く行きますように。 2004/09/28(火)ゆらゆらと揺れる海の彼方3
(刊行年月 2004.09)★★★☆ [著者:近藤信義/イラスト:えびね/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  圧倒的な戦力差で誰がどう見てもアールガウの圧勝だろうという戦争に、ローデウェイ ク辺境州が隣国バストーニュ王国に助力を仰いでそれに挑もうとする背景。蓋を開けてみ ればローデウェイクにはことごとく都合がよく、アールガウにはことごとく都合の悪い展 開。ただ、問題なのはそれが良いとか悪いとかという事ではなくて。ん〜とにかくこれだ けの分量でやっても、全然描写が足りてないように思えたのが凄く気になった所か。感覚 としては、要所要所を適度に描いて見せるに留まっているダイジェスト版のようで。  それは戦闘描写――戦略の立て方や戦術の見せ方についてもそうだし、キャラクター個 々の感情描写についてもそう。この戦争の勝敗によって全世界に及ぼす影響力などを思っ たりすると、こんなもんで済ませてしまってもいいの? なんて気持ちがどうしても浮か び上がってしまう。まあこの辺の不満感ってのは、直接激突すると思っていたジュラもシ グルドも、後方での軍師的な位置付けだったのが原因の一つなのかも知れないけれど。  描こうとしている世界の規模は既に最初からかなり広げていた筈なので、情勢を一変さ せてしまいかねないこの戦争は、前半のシュニッツラー戦、そして後半のロンベルク戦と で分冊するくらい丁寧に描き込んでも良かったかなと(そこには諸般事情というものがあ るのでしょうが)。キャラクターの描写を重ねていけば決して無駄な分量にはならないだ ろうし、話の展開の遅れを犠牲にしてでも増量は価値あるものと思えたのだけれど……。  鮮やかな形勢逆転を劇的に効果的に見せるには、これくらいの都合の良さは許容出来る 範囲だろうか。そうなると今度はシグルドに冠された『天才』という文字が霞んでしまう ほど、アールガウの致命的な戦略ミスが目立ってしまう。圧倒的な戦力図を返す側、返さ れる側共に説得力のある描き方だったかと考えると疑問が残る。結局はそういう事。  それでも、これまでずっと謎だったノウラの本質は明らかにされたので、少しだけスッ キリした(正体までは分かってないので“少しだけ”)。これ以上世界を広げようとして いるのは不安だけど、バストーニュの内乱に興味を惹かれたので続けて追ってみる。  既刊感想: 2004/09/28(火)ゆらゆらと揺れる海の彼方2
(刊行年月 2004.04)★★★☆ [著者:近藤信義/イラスト:えびね/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  今回はアールガウ神聖帝国サイド。1巻目のローデウェイク辺境州サイドから見たら敵 対関係に当たるわけですが、アールガウの人達も自国の為に、或いは心からの忠誠を誓う 誰かの為に戦っているのはローデウェイクの人達と一緒。アールガウ帝国が絶対悪として 描かれているのではないから、こうして相手側の様々な事情を知ってしまうと、果たして どちらに勝って欲しい気持ちを向けたらいいのやら。端から見れば「そんなもん一々悩ん でるんじゃないよ」と軽くあしらわれそうな気もしないでもないですが、ジュラやラシー ドと同等にアールガウにも心惹かれるキャラクターが結構居そうだなという具合で。個人 的には苦労人で意外と頑張りやさんなエミリア。特に妹のローラとのやり取りが凄く好き で、シグルドを交えた後でポロリと想いを零した時の表情とかも堪らなく良いですね。  初登場のシグルド皇帝。エミリアを始め部下達には割とすっとぼけな振る舞いで接して いるようですが、“得体の知れない存在”という表現が最も適しているかな? 自らの口 から語られた『為すべき事』への信念は強く感じられた。ただしストレートに感情を示さ ないせいか、心中を全く読ませない底の深さがそのまま怖さに繋がってる部分もある。  シグルドの手腕は存分に見せ付けてくれたので、あとは次に激突するであろう対ローデ ウェイク戦での本領発揮を期待してみたい。また、逆にそんな彼の率いる帝国に対し、ラ シードやジュラがどんな作戦で圧倒的な劣勢を覆そうと動くのかも見物です。  戦記ものとしての戦術・戦略の見せ場は敗残兵との篭城戦。気になったのは、本作の魅 力である《冥海》や《海獣》を用いた特殊性の高い戦闘シーンが、あまり活かされていな かった点。地上戦なので当り前と言えばそうなんだけど、前巻で描写不足と感じていたの を巻き返して欲しいと思っていただけに少々残念。あと表紙の構図からしてノウラが主人 公っぽく見えて仕方ないのですが、本編では未だ正体知れず(おまけに出番も前巻より更 に少なくなってるぞ〜)。この辺は直接対決で大きく動くのだろうと思う事にする。  既刊感想: 2004/09/26(日)めがねノこころ3
(刊行年月 2004.09)★★★☆ [著者:ゆうきりん/イラスト:いぬぶろ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  あ、帯の表記が『めがねっ娘ラブアクション』になってる。やっぱり『学園ラブコメ』 よりかはこっちの方がしっくり来るな〜と。で、シリーズ作品としてはもう2、3巻くら い続くかと思ってたのですが今回が最終巻だそうな。結末まで読んでみてまず浮かんだの は、勿体無いなとか惜しいなとかそういう気持ち。それは魅力的な設定を色々盛り込んで いながら、どうも何とか終わらせようと駆け足気味な展開になっているせい。もっと見た い知りたい触れてみたい要素がことごとく描き足りないので、結局物足りないとなる。  特にそれぞれ違った特殊能力を有する6人の《MMPS》の存在が、物語の中であまり に活かされて無さ過ぎでしょんぼり。まともに設定が効いていたのは最初のロシィとアリ シアだけで、後発の四人は何の為に登場して来たのかよく把握出来ないまま萎んでしまっ たのは凄く勿体無い。これがせめてあと1冊分でも続いてくれていたならば、有効活用範 囲はもう少し広がっていたような気がするんですよね。能力的な部分での魅力は充分に持 っていた筈なので、見せ場が与えられなかったのは残念としか言い様が無いです。  ただ、今回はこれまでみたく余計な軽いノリで滑ってる箇所というのが殆ど見当たらず、 望んでたシリアス描写に終始していた点に関しては満足でした。元々最初から瞳とロシィ 自身が重いものを抱えていた辺りで、個人的にはコメディよりもシリアスムードの方が合 うのになと思っていたから。まあロシィのめがねを変える事で性格が変化する特性を活か して、それこそ徹底的にドタバタな“学園ラブコメ”なジャンルを描いてくれていたとし ても、それはそれできっと別の面白さに繋がっていたんじゃないかなと思うのだけど。  既刊感想:


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