NOVEL REVIEW
<2005年01月[後半]>
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01/31 『ムーンスペル!!』 著者:尼野ゆたか/富士見ファンタジア文庫
01/29 『トウヤのホムラ』 著者:小泉八束/富士見ファンタジア文庫
01/24 『フォルマント・ブルー カラっぽの僕に、君はうたう。』 著者:木ノ歌詠/富士見ミステリー文庫
01/21 『バクト!』 著者:海冬レイジ/富士見ミステリー文庫


2005/01/31(月)ムーンスペル!!

(刊行年月 H17.01)★★★★ [著者:尼野ゆたか/イラスト:ひじりるか/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  第16回ファンタジア長編小説大賞『佳作』受賞作。  メインはクラウスとエルリーとイルミラの三角関係を描いた辺り? 全体的にキャラク ターも物語のノリもそこが最も活き活きしてたようなので。まああくまでお約束に忠実な 流れではあるし、クラウスが鈍感体質なせいで、彼とヒロインとの恋愛よりは火花を散ら すエルリーとイルミラの衝突の方が読んでいて楽しかったりするのだけど。それでもおお よそ少女らしくない言動のエルリーがクラウスへ好意を寄せる時の仕種や、普段明朗快活 なイルミラがクラウスへ好きだと伝えようとする時の姿は可愛らしく描けているなと。  王国詠唱士試験とエルリーの力を狙う敵については、三角関係のキャラクターの描き方 と比べると印象度がどうしても数段落ちてしまうというのか、二次的な感触程度しか得ら れなくて。敵の方は特に首領のサビーネとヨハンは力ある詠唱士なのに、わざと滑稽にへ っぽこに描いている所があるのでどうも緊張感に欠ける。それは仕方ないとしても、エル リーの過去については重要な要素なのでもっと深く触れて書き込んで欲しかったかも。  詠唱関連は、そもそも『詠唱』とは『詠唱士』とか何か? それがこの世界にどれだけ 普及し、また一般の生活環境に影響を与えているものなのか? という疑問が浮かぶくら い描き方が甘いので、必死に試験を受けて落選して気持ちが沈み込んでもあまりピンと来 ない。あと結構能力ありそうなのに、どんな基準で合否が決められているのかも分からな いので素直に五回連続落選の事実に頷けなくて。せめて兄の後を追って詠唱士になるとい う信念が強く感じられていたならば……(でもクラウスって詠唱教室の教師という職は持 っているし、何気に女の子達にもてまくっているので今のままでもいんじゃないか?)  と、色々ごちゃごちゃ書き連ねてきましたが、個人的に好きなタイプの話であるのと読 み易さと一冊でしっかり纏め上げつつ次へ繋げているのとキャラクターの好感度などの絡 みで評点は少々甘め。ま、直ぐ続編へ持って行けそうなので今後の成長に期待を込めて。 2005/01/29(土)トウヤのホムラ
(刊行年月 H17.01)★★★☆ [著者:小泉八束/イラスト:海苔/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  第16回ファンタジア長編小説大賞『準入選』受賞作。  巻末解説によると熱いバトル+東哉と麻里の恋愛模様ですが、想像してたよりずっとバ トル多目のアクション要素が濃い内容。合間合間で東哉と主に麻里を中心とした<船津>と の色々駆け引きはあるものの、全体的な流れは戦って戦ってまた戦って……な具合。  最終的には最初に麻里が東哉の封印を解く条件として提示した、『草那藝山の異変を収 める』方向へ進んでゆくわけですが、とりあえずエピローグで【蛇神】が何でああいう風 な形になったのかの説明を求めちゃダメでしょうか? と素朴な疑問。一応結末まで追う と序章の件に関してはなるほどな〜と頷けるのだけど、明確な理由もないまま何となくで そうなってしまったもんだから、もうちょっと理由付けがあっても良かったかなと。  同時に、現在の東哉と過去(前世?)の記憶との繋がりの描写が曖昧な点や、戦いの中 でこれだけ互いの存在を意識していながら、かつての死闘は簡潔に断片的にしか描かれて いない点などが気になった。これが今の東哉にとって“過去の自分とは一切関係しない事” だったならば何の問題もないんだけど、これだけ因縁浅からぬ関係なのだから、やっぱり 前述の気になる要素をもっと掘り下げて欲しかった。特に終盤で解き放たれた東哉と【蛇 神】との戦いにおいて、その盛り上がりも手応えも違うものになっていたと思う。  恋愛模様の方は一見してかなり薄味のようでいて、実はそうでもないんだけど東哉も麻 里も誤魔化すか或いは悟らせない性質だから見極め難いだけ。元々は打算で成り立ってい る関係の方が強く表れているので、あからさまに好意的な感情を出すよりは、こんな風に さり気なく垣間見せてくれる方が自然でいい。合わせて様々な思惑が見え隠れする、腹の 探り合いのような駆け引きにも似た二人の会話シーンも読んでいて面白かったです。  ただ、東哉と麻里に絡む莉柘・芳樹・誠慈など、脇役が結構しょぼい扱いだったのでそ の辺は次に期待。まだ描かれていない様々な事情が個々に色々とありそうなので。 2005/01/24(月)フォルマント・ブルー カラっぽの僕に、君はうたう。
(刊行年月 H17.01)★★★☆ [著者:木ノ歌詠/イラスト:ミヤスリサ/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【
bk1】  第4回富士見ヤングミステリー大賞『佳作』受賞作。  厳選な審査で一流音楽家のみ居住権が与えられ、音楽芸術振興の為だけに建設された海 上都市。その刻印を身体に有した者は、月日が正確に定められた未来で死を迎える事が決 定付けられた“死の六連符”原因不明の現象。そして電子音楽という技術と、それに深く 関わる少年と少女――序盤のこれだけの魅力的な要素で物語に惹き込まれてしまった。  個人手的には非常に好みな匂いの内容。淡々とした文章表現は、既に理不尽な死を受け 入れて空虚に染まってしまった春希の心によく合っていたし、透き通った雰囲気の海上都 市風景と荒廃した空気漂う廃棄物処理場とのアンバランスさもなかなか好感触でした。  それからこの物語の重要なポイントである電子音楽の存在。まず他ではあまり見聞きし ないこの要素をメインテーマとして取り入れていたのが新鮮に映った。元々著者の方は実 際そちらの方面に造詣が深いようで、そういう知識をうまく物語に絡めて描けていたんじ ゃないかなと。全く知らない人へのフォローもそれなりに効いていたと思うし、少なくと も専門分野の難解さが物語のテンポの妨げにはなっていないので読み易かったです。  と、ここまでは良くて。問題なのは終盤の展開と結末。この流れは好みやら何やらで色 々意見が違ってくるかと思います。普通だったら多分私はこっちの方がいい。でもこの物 語の場合はダメでした。特に正反対の結末を望んでたというのもあるけれど、どうしても こちら側に傾くのならば、それなりの根拠を持って示さなければ到底納得が出来ない。  以下ネタバレ反転で、終盤まで安らかな春希の死を予感させておいて、掌返したような ハッピーエンドの理由が「原因不明」では「はあ?」と呆け顔で返すしか。ここに明確な 理由(おそらく伽音の歌声が鍵だったのだろうけど)を付随させてくれれば、幸せな結末 も充分受け入れられた筈。その辺りの書き込みが徹底的に不足しているのでは、不幸にさ せない為のご都合主義に見えてしまうのも仕方がない。あとは死の六連符についての掘り 下げ不足も、説得力の無さを露呈する結果に繋がってしまったような気がする。  最後に気になった事。死に間際で身体の機能を殆ど失ってしまった状態なのに、春希の 一人称で周囲の状況が事細かく見渡せているような描写は不自然じゃないだろか? それ が終盤でどうしても引っ掛かった。好きな雰囲気ながら躓く点も多くて惜しい作品。 2005/01/21(金)バクト!
(刊行年月 H17.01)★★★ [著者:海冬レイジ/イラスト:vanilla/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【
bk1】  第4回富士見ヤングミステリー大賞『大賞』受賞作。  ギャンブル勝負による駆け引きがこの作品最大のウリ……と前面に押し出されているよ うなイメージですが実は大きな見所はそっちではなくて、本編とインターミッションとの 間の繋がりの中に隠され仕掛けられている謎の方。もしくは、頭の弱い美人教師がギャン ブルにハマリ中毒症状を起こし借金塗れになってゆく様を冷やかな目で眺める楽しみか。  この物語でギャンブルでの心理戦の描写を期待していると、かなり物足らないので結構 痛い目見る事請け合い。ただ、本編とインターミッションの繰り返しで描かれている物語 の中に潜んでいる謎は何か? と考えながら進めてゆくと、不思議な事に意外とまともに ミステリ要素が盛り込まれてるなという手応えが得られた。本編と比較して妙に浮いてた インターミッションでの錦織が素子に向けてるセクハラ視線も、真相を悟られない為の意 図的な描写だっだんだろうなと何とか納得(錦織は“男らしい人”だったのね)。まあさ すがにここまで執拗に“嫌らしい男”を描かれたら騙されるのも仕方ないかなと。  しかし前述の通り、ギャンブルをメインとした心理描写はイマイチ盛り上がらない。こ こが物語のメインと押されても「ええ〜?」と首を捻るしかない。素子がヒロトやありす にどれだけ注意されても誘惑に抗えず際限なく堕ちてゆく姿に、ギャンブルの怖さをなぞ らえているのだとしたら、その点に関しては割と上手く行ってたような気もするけれど。  何にしてもヒロトのギャンブルの強さの理由――せめてどうやって現在の技術を過去で 得たかを明確にしてくれないと、圧倒的な勝負強さに説得力が足らないので「ふーん」と 流す事しか出来ない。本当にギャンブルメインとしての物語を望むとすれば、やっぱり緊 張感溢れる場面で展開される勝つか負けるか全く先の見えない勝負。更にその中での駆け 引きや心理戦など。大賞受賞というのを踏まえて少々辛めに。でも続編は楽しみに。


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