NOVEL REVIEW
<2005年10月[前半]>
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10/09 『ガトリング・メロディ nerim's noteII』 著者:長谷川昌史/電撃文庫
10/08 『ひかりのまち nerim's note』 著者:長谷川昌史/電撃文庫
10/06 『二階の妖怪王女2』 著者:あらいりゅうじ/電撃文庫
10/04 『二階の妖怪王女』 著者:あらいりゅうじ/電撃文庫
10/03 『三辺は祝祭的色彩 Thinkers in Three Tips』 著者:佐竹彬/電撃文庫
10/02 『飾られた記号 The Last Object』 著者:佐竹彬/電撃文庫
10/01 『隣人 SAKURA in Pale Rose Bump IV』 著者:在原竹広/電撃文庫


2005/10/09(日)ガトリング・メロディ nerim's noteII

(刊行年月 2005.09)★★★★★★☆☆☆☆(6/10) [著者:長谷川昌史/イラスト:Nino/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  『nerim's note』が主題とは予想外。ネリムの日記帳という形を取っている今回の方 が、内容的に前回よりもタイトルの意味に沿っている。しかしながら、本当に全く起伏 の感じられない他人が書いた日記を読まされているようなこの味気無さは何だろう。  自分が成し遂げなければならない目的の為に他人を殺せるか否か? ネリムとユジン との価値観の違いを見せてゆく辺りが多分メインテーマだと思うのだけど、何時まで経 ってもネリムの主張性を見出せなくて。結局周囲(今回で言うならミルやユジン)の強 さに流され易い傾向にあるせいか、一人称の割にネリム自身の魅力がなかなか伝わって 来ないのですよね。逆に引っくり返してその弱さを“ネリムらしさ”と感じ取りたくて も、今度は脆弱な部分でも踏み込みに物足りなさを抱いてしまい微妙となってしまう。  あとはネリムにとってのこの旅路がどういうものであるのか。彼自身の目的意識がぼ やけて見えるのが問題なのかなぁ? 旅立つ時に掲げていた旅する理由とか意味とか、 そういうのがあんまり盛り込まれないままだったような気がする。《伝授者》探しもネ リムの目的と意思で、と言うよりはミル達の側の目的として描かれていたから。  まあ最も気になったのは、別に続編でなくてもいいんじゃ……ってこれ言っちゃお終 いだけど。冒頭のアシュタミや父との別離があるからこそ続き物として見れますが、そ こを切り離せば、価値観の違いを重点的に描く事で別の新作として切り離すことも出来 たのでは? 一冊で纏まったストーリーを掘り返さない方が良かったのかなと。  既刊感想:nerim's note 2005/10/08(土)ひかりのまち nerim's note
(刊行年月 2005.02)★★★★★★☆☆☆☆(6/10) [著者:長谷川昌史/イラスト:Nino/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  第11回電撃小説大賞『金賞』受賞作。  主人公の少年が色々な『本当の事』を探して見付けてゆくお話。日黒期を巡る部分で 設定が複雑な方へ向かいそうだな、と思ってたけど意外と読み易かった。……と言うの は実は逆に考えると設定の突き詰め方に物足りなさを感じていた、とも取れる事で。  読んでいる最中は大して気にも留めなかったのですが、あとがきを読んで確かに台詞 で形成されているのが目立つ物語だなと納得。読み進め易かったのにも納得。でもなー んか惹き込まれる要素を見出せなかったのは何故だろう? やっぱりこう「この物語で はこれがルールだ」と線引きされただけで、ロクに説明して貰えなかったせいかな。  日黒期と神隠しから六年という期間の中での真相。会話だけで充分に成立させるには 限界に当たってしまうし、限界を取っ払うには地の文での描写補強が必要になってくる のだけれど、上記のような説明不足による弱さがちょっと目立っていた気もする。  かと言って真実を一人でベラベラ語り尽くされてしまうのも困りもの。いや、読み手 に理解させるのにこれ程楽なものはないし、調子良く隅々まで語ってくれるならこっち もあれこれ思考を巡らせずに済むので楽だし。でもそれじゃさすがに拙いだろうと。  初めての性体験は別段差し込む必要性も感じられなかったけど、こういう見せ方もあ りかなとは思った。後になってディネの心理を知れば、成り行き任せでも決して無理な 展開でないのは分かるから。途中凄い修羅場もあったけど、アシュタミがネリムを理解 して引いてくれたので泥沼にはならず。……残念に思ったのは何か間違っている? 2005/10/06(木)二階の妖怪王女2
(刊行年月 2005.09)★★★★★★★☆☆☆(7/10) [著者:あらいりゅうじ/イラスト:かんたか/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  百鬼一族VS魔龍一族の妖怪バトルが繰り広げられる事は無かった。前巻で滅ぼされた 種族と滅ぼした種族との確執が描かれていたので、もしかしてそういう展開になるかも ……とは考えていたけれど、さすがに物語が走り始めたばかりでシリアスな方向へは行 かないか。かと言って本当に『妖怪探偵所』メインで行くとも思ってなかったけど。  そんな具合でユキトと妖姫達による妖怪事件専門相談所の発足。最終目的は百鬼一族 の再興だろうけど、当面は資金集めと名声を轟かせる事だろうか? 前半ぐずぐずして たせいでイマイチ話が進まなかった前巻と比べたら、今回は中編2話とも“妖怪事件の 相談と解決”という統一された目的で話が纏められていたので手応えはまずまず。  物語の雰囲気からシリアスよりはコメディ、もしくはラブコメに発展するだろうかと 想像巡らせてたのが、これってどうもミステリっぽい流れのような気がする。人間を恐 怖に陥れる正体不明の妖怪を捜査追跡して、真相を暴き謎を解き明かして解決……とい う感じで。今後もこんな風に有害無害様々な妖怪が登場して、それにユキト達が関わっ てゆく展開なら、最初に求めていた面白さとは別の面白さが得られるかも知れない。  かつてとある陰陽師に恩を受けた妖怪王女と、陰陽師の子孫との巡り合いと触れ合い によって結ばれてゆく絆。この過程の描写が元々期待していた部分。一方で妖怪ミステ リ路線に転がりそうな部分が想定外の“違う面白さ”というやつ。まあ延々同じパター ンでやってると飽きも早そうだから、適度な所で魔龍一族と再度絡めて欲しいかも。  既刊感想: 2005/10/04(火)二階の妖怪王女
(刊行年月 2005.05)★★★★★★☆☆☆☆(6/10) [著者:あらいりゅうじ/イラスト:かんたか/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  陰陽師の末裔である妖怪否定派少年と、遠い昔に助けられた恩義を抱き続ける百鬼一 族との息の全く合わない共存生活物語。何か前シリーズ『宙の湯』で度々喰らわされて いたグダグダ感が、初っ端からいきなり全開に近いやばさで盛り込まれていてどうしよ うかと思ってしまった。そりゃ最初から八十頁程使って主人公の呟き・ぼやき・独り言 “のみ”を延々と読まされた所で、面白くなる筈もなければ盛り上がる訳も無い。  ユキトに対して「お前の一人芝居はもういい加減飽きたから、さっさと準備完了して いる王女様一行を登場させてくれ!」と、五十頁読んで言いたくなった。ユキトが主人 公らしく自身を主張したいのは分からないでもないし、彼の性格はかなり頭に叩き込ま れるのだけど、冒頭の四百数十年前の事柄が絡まないと一向に話も進まないのです。  読み進めてみると、ユキト一人を躍らせていたのは実は妖姫達の見極め試験だったと いうのが分かる。だから彼女の出番を引き延ばして溜めてみせているのは意図的なもの だった? と考えさせられたりもする。ただ、出遅れた分だけ後半が押し気味で、ユキ トと妖姫達との触れ合いが充分描き切れないまま終わっちゃった気がする。個人的には 人間と妖怪の恋物語みたく発展してくれたら嬉しいかな? でも『宙の湯』の時はコメ ディ色の方が強くて、その辺あんまり上手く料理出来てなかったから不安も少々。 2005/10/03(月)三辺は祝祭的色彩 Thinkers in Three Tips
(刊行年月 2005.09)★★★★★★☆☆☆☆(6/10) [著者:佐竹彬/イラスト:千野えなが/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  《ファイ》シリーズ二巻目。語り部の冷めた視点と、導き手の無機質な表情とが一体 となり、冷たい金属のような手触りを残してくれる理数系ミステリ。相変わらず理解し たつもりの強引な読み進め方で、相変わらず少しでも深く踏み込むと理解困難に陥る。  またミステリ部分だけを取り上げて考えてみると、やっぱりそれ程凝った仕掛けは施 されていないように思える。道理に容疑が掛かる様に仕向け、表紙折り返しのあらすじ のように『3』=“境界の数”を用いたトリック。今回の場合はまんまとその仕掛けに 引っ掛かってしまった。要するに真相とは別の『3』に足を掬われたという事です。  そして前巻同様どうしても躓いてしまうのが、数学知識に装飾された文章描写。前巻 のタイトルになぞらえて、『飾られた言葉』『飾られた文章』『飾られた表現』なんて 風に言えるでしょうか。この物語の世界観を構築する上で、更にはこの物語でトリック を組み立てる為にも必要不可欠な要素。情報収集、情報交換、情報伝達、情報操作等、 進化し尽くした世界だからこそ用いる事の出来るトリックだと思う。しかし自分が読み 進め難く感じるのは変えられないもので、今後続けて読んでも多分それは変わらない。  まあ渚に可愛げが無くても、道理を理解し周囲に茶化されると焦る程に意識している のが窺えただけでも良しとしよう。あと《彼女》の正体が謎のままの所でまだ引っ張っ てもらえているし、出来る範囲で予想を立てながら道理との関係等を考えてみる。  既刊感想:飾られた記号 2005/10/02(日)飾られた記号 The Last Object
(刊行年月 2005.06)★★★★★★☆☆☆☆(6/10) [著者:佐竹彬/イラスト:千野えなが/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  《ファイ》シリーズ。デビュー作の一巻目から既にシリーズと掲げられていて、数学 ・物理・哲学等の要素を多量に用いた理数系ミステリ、ってとこでしょうか。私は森博 嗣作品読んだ事無いのでどこら辺で影響受けているのかは分かりませんでしたが、とり あえず詳細置いて一言で感想示すなら「読み進め難い」というものが先に立つ。  ただ、それでバッサリ切って落としてハイお終い……とはならない存在感を植え付け られたのも確かな事で。単純に作風と合わない、とか言って済ませてしまうのは多分一 番楽なのだろうけど、ミステリ要素だけに絞ると実は割とすんなり行けてたかなと。  つまり問題なのは自分の苦手意識なんじゃなかろうか、と。まあ理数系に強そうで人 で好きそうな人でも、似たような手応えを抱いた感想も結構目にしていたので、苦手だ ろうが敬遠したかろうが根本的に読み難かった事実は変わらないのかも知れませんが。  ハッキリ言って各章頭の一文と次頁の見出し文の意味はサッパリ拾えなかったし、本 編とどんな関連性があるのかも理解し切れなかったし、あまり理解したいとも思わなか ったしする気も湧き上がりませんでした。自分の理解力の許容量を越えていたので、最 後の手段で“理解したつもりになって読み進める!”……これしかなかったのです。  渚が過去に体験した事件、彼女の姉の事、道理との関係、今回の真犯人を操っていた 闇に潜む存在、知りたいもの気になるものはこれだけあるので続きは追ってみたい。 2005/10/01(土)隣人 SAKURA in Pale Rose Bump IV
(刊行年月 2005.09)★★★★★★★☆☆☆(7/10) [著者:在原竹広/イラスト:GUNPOM/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  そしておよそ二年振りの続編。こことは違う隣の世界から人間を捕獲してその魂を糧 とする『隣人』。またもや巻き込まれてしまう桜子と、彼女が捕らわれた事実を知って 助けに奔走する悟郎。ぎこちなくも確実に縮まってゆく距離感がやっぱり良いです。  今回は初っ端からいきなり捕らえられた直後の桜子が描かれていて、ちょっと面食ら ったと言うのか……これまでは予感があって事件発生して首突っ込むパターンだったけ れど、巻き込まれるまでの過程が存在しなかったからだろうか? 意表を突かれたのが 良い方向には行かなかったので、巻き込まれるまでの“溜め”は欲しかったかも。  一人一人消えてゆく展開も、こうあっさり生死が判明しては抱えていた緊張感も瞬く 間に萎んでしまう(巻き込まれた内の一人が悟郎のお姉さんって事からどっちかは大体 想像付いてましたが)。この辺ももっと読み手に危機感や焦燥感を煽る使い方してくれ たら良かったのになと思う。ただ、黒幕のヒントが『隣人』そのものに隠されていたの に全く気付けず。「そういやそうだよ!」と気付かされた時は何となく悔しかった。  しかしまあこの物語、桜子が可愛けりゃそれで何となく許容出来てしまえるのは、一 種の魅力と言い切っていいのか。足怪我して悟郎にお姫様抱っこされておまけにその状 態から首に腕を回して抱き付いたりなんかして……いいモン見させて貰いました。  既刊感想:IIIII


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