NOVEL REVIEW
<2006年12月[前半]>
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12/15 『デビル17[5] 鮮血の学園祭(上)』 著者:豪屋大介/富士見ファンタジア文庫
12/14 『デビル17[4] 要塞学園(下)』 著者:豪屋大介/富士見ファンタジア文庫
12/12 『デビル17[3] 要塞学園(上)』 著者:豪屋大介/富士見ファンタジア文庫
12/11 『デビル17[2] 復讐のサマータイム』 著者:豪屋大介/富士見ファンタジア文庫
12/10 『デビル17[1] みなごろしの学園』 著者:豪屋大介/富士見ファンタジア文庫
12/08 『カオス レギオン 聖戦魔軍篇(再読版)』 著者:冲方丁/富士見ファンタジア文庫
12/04 『カオス レギオン05 聖魔飛翔篇』 著者:冲方丁/富士見ファンタジア文庫
12/04 『カオス レギオン04 天路哀憧篇』 著者:冲方丁/富士見ファンタジア文庫
12/01 『カオス レギオン03 夢幻彷徨篇』 著者:冲方丁/富士見ファンタジア文庫


2006/12/15(金)デビル17[5] 鮮血の学園祭(上)

(刊行年月 H17.05)★★★★★★★☆☆☆(7/10) [著者:豪屋大介/イラスト:藤渡/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  今度は巨大勢力を誇る宗教結社の支配下にある街での高校生活か。<エンジェル>へ の依頼に“普通”だとか“一般的”だとかは有り得ない事だろうけど、また確実に難事 に発展しそうな臭いが序盤から充満してるな。今回の場合は徹の牝奴隷達が依頼を受け てから取捨選択した……という流れではなく、事件が起こってから動いて欲しいと希望 する依頼者の『予約』を受けた形で、しかも徹の方から主張して「やる」と言った辺り で曰くあり気な雰囲気が……。まあこの上巻だけではまるで話が進んでない為、残念な がら何が危険で誰が真の敵でやばいのか……などの詳細は掴ませてもらえなかった。  ただ、敵の勢力関係と目的、それに徹への接し方がもっとハッキリ描かれるようにな ればぐっと盛り上がってくるだろうと思うので、見通し利かなくても先への不安は殆ど ない(今回の自己満足評点がこれなのも、要は本題に入る前に終ってしまったからで)。  まだサブタイトル『鮮血の学園祭(カーニバル)』にも全然踏み込んでないし、この 不吉な言葉が何を意味するのかも分からない。学園祭の準備らしきものは進んでいるみ たいだけど、描写は控え目だったから学園祭イベントそのものを目立たせようとするつ もりは無いのかも知れない。で、徹が主に励んでたのは新たな奴隷を作る事だった。  既刊感想:[1][2][3][4] 2006/12/14(木)デビル17[4] 要塞学園(下)
(刊行年月 H16.12)★★★★★★★★★☆(9/10) [著者:豪屋大介/イラスト:藤渡/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  極厚500頁で中身も濃密にして圧巻のデキ。前巻感想で書いた“生徒が洗脳されて いるが如く”ってのは結構正答に近いものだったような気もするけれど、うまく出来過 ぎているという雰囲気が掴めていれば割と辿り易いものだったのかも。新聖高校の『異 常さ』を徹が語り明かしている所で「俺もそれが言いたかったんだ!」とかね。  もっとも、フェンリルが囚われている為に慎重に事を運んだ上で辿り着いた新聖高校 内の異常なんて上辺のものでしかなく、今回は真相に至るまでの道程が本当にもの凄か った。徹の言葉を借りて表現するなら『地獄』の一言。何せ普通なら致命傷になる程の 銃弾をブチ込んでブチ込んでブチ込みまくっているのに、それでも息の根が止められな いゾンビ達(遺伝子改変技術を受けた生徒やら、彼らに傷を負わされウイルス感染させ られた中国特殊戦闘集団やら自衛隊やら米国軍特殊部隊やら)が、稲窪市全てを覆い殺 戮の限りを尽くすもんだからもうめちゃくちゃ。めちゃくちゃに面白かった。  元を辿ればやっぱり徹=D−17の能力が全てにおいて多大な影響を与えている訳で、 その力を狙う存在を根絶しない限り、結局今後も同じ事が幾度となく繰り返されてゆく のだろうか? 平穏なんて徹はきっと望めないだろうけど、せめて殺戮の果てに終着点 が見出せれば、と。このままじゃ終わりなき道が続くばかりだからなぁ……。  既刊感想:[1][2][3] 2006/12/12(火)デビル17[3] 要塞学園(上)
(刊行年月 H16.10)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:豪屋大介/イラスト:藤渡/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  徹、新しい学校へ転入。<エンジェル>への依頼任務遂行の為、また彼がちょっとだ け高校生活気分を味わいたいと希望した為。もっとも、後者については前巻ラストで確 かそんな風に漏らしてたんじゃなかったかなぁ? という憶測が大きいのだけれど。  ともあれ表向き“だけ”は普通の高校生活っぽく。なんかまるで全体が誰かに洗脳さ れているが如く“よく出来た優等生過ぎる生徒達”に見えて仕方ないんだけど……自然 ではない作為的な臭いを感じたりするのは気のせいか。上巻だけでは判断つかない。  学校内部が事件に絡むのは1巻での出来事以来。しかし依頼内容に学校関係者の異常 死が関わっている分だけ、今回の方がより学校の内部事情に密接している印象。こんな 女の子達とただじゃれ合うような平穏な日常が作り物でなければいいのに、やっぱり裏 では不穏な空気がどろどろ流れていて。ただ、今回は銃器類での殺戮シーンはやや控え め(あくまでこれまでと比べての事で分量自体は充分にあったけど)、その代わりセッ クスにより女を奴隷化してしまう『ヒト起動物質』の放出と抑制に対する徹の気持ちが きちんと描かれていたんじゃないかな(まあ結局ヤることはヤっちゃってるけど)。  そして今回は上下巻って事で、まだ謎が多く殆ど何も掴めてない状況。誰が徹にとっ て本当の敵で本当に味方か? 敵が女子生徒を惨殺した理由や学校内部に介入する目的 は? 拉致されたらしいフェンリルの行方も知れず、スリル溢れる雰囲気は続く。  既刊感想:[1][2] 2006/12/11(月)デビル17[2] 復讐のサマータイム
(刊行年月 H16.07)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:豪屋大介/イラスト:藤渡/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  うあーそういう真相かー。これは里沙が真実を語ってくれなかったら到底想像が及び そうもなかったな。徹が里沙を抱いて「ママ」と呟き続けたのは、単に人造強化生命体 として生を受けた彼自身がこれまで“母性”を知る事が無かったからだと思ってたのだ けど、もっとずっと深い部分で二人に大きな繋がりがあり、そして重い意味があった。  今回は徹が自分の特異能力を振るう際、果たして『D−17』として振るっているの か、それとも『黒江徹』として振るっているのか、圧倒的な暴力とセックス塗れの中で 迷い苦悩する姿が印象深く描かれている。思い返してみると、徹が自分の方から殺戮衝 動に駆られて暴虐の限りを尽くしたり、ただ性欲を満たす為だけに女を無理矢理犯した りする事って無いんだよね。部分的に見るとそんな風に映ってしまうのかも知れないけ れど、これまでは必ず“先に相手にやられたからやり返す”という流れがある。  つまり徹にはいつも『復讐』が絡んでる訳で(例えば前巻の場合だと徹自身の為の復 讐、今回は自分のモノにした大事な女性の為の復讐)。これって徹が能力を持ち続けて いる限りずっと繰り返されてしまうんじゃないだろうか? 死ねない身体だから一生纏 わり付いてしまう未来だって否定出来ない。この物語で一番の犠牲者って他の誰でもな い黒江徹なのかも。今後『復讐』の呪縛から解放される日が来るのかどうか……。  既刊感想:[1] 2006/12/10(日)デビル17[1] みなごろしの学園
(刊行年月 H16.01)★★★★★★★☆☆☆(7/10) [著者:豪屋大介/イラスト:藤渡/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  ちょっと誇張し過ぎだろうか? と思った帯の『警告!』のでかい文字は誇張でも何 でもなくて、本当に注意書きそのまんまな内容だった(そういや初版以降の分にはこう いう帯付いてんのかな、なんて割とどうでもいい事をふと思う)。過激なまでのエロス &バイオレンス。セックスと暴力に満ち満ちた物語ってのは、富士見ファンタジア文庫 としては画期的なのかどうか。ともかく同レーベル中では類を見ない異色中の異色作。  いや、でもやっている事は結構単純明快だったりする(頁数が400頁越えな上に内 容が内容なもんで、読書前の先入観から戦々恐々としてたのだけど)。描かれているの は、他者の圧倒的な暴虐と死の淵の極限状態まで追い込まれ、隠されていた潜在能力に 目覚めてしまった一人の少年の事。元々は自分に暴力を振るった相手に復讐を遂げるの を目的として掲げており、その過程で少年=黒江徹の『力』によって性交乱交が繰り広 げられている。ただ、全て自分の意思で行動を起こし続けているものと思っていたのが 実は……というのが発覚する終盤は、徹の特異能力に深く踏み込む形で描かれていて、 暴力やセックスとはまた違う部分で充分な面白さや興味深さが得られたかなと。  しかし、一体どんな派手な幕切れが用意されてるのかと逃げ腰気味だったのが、終わ ってみれば意外としんみりさせられる結末で。“彼女”にとっては徹に依存して生きた 事も、こうして全てを忘れて生きる事も、どちらも満ち足りたもの(意味合いは異なれ ど)とは思うのだけど、本当の救いは後者の方に存在していたような気がする。 2006/12/08(金)カオス レギオン 聖戦魔軍篇(再読版)
(刊行年月 H15.02)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:冲方丁/イラスト:結賀さとる/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  シリーズ第1巻にして、最終巻『05』から続く本当の意味での完結編。基本的にス トーリー展開に対する感想は最初に書いたのとあまり変わらない手応えだったのだけど、 過去からの物語を追い続けて来た分だけジーク、ノヴィア、アリスハート、ドラクロワ の印象度は当然の事ながら最初とは全然違ってた。自分の中でキャラクター達の存在感 が十倍増しくらいな感じで(いや、誇張ではなく本当に)。それだけ厚味が得られた中 での再読は、忘れてる部分があったのも含めて結構新鮮な気持ちで読めたかなと。  ただ、これ程の密度の物語をたった一冊のみで収めてしまうのは、やっぱりどうして も「勿体無いなぁ」とか「惜しいなぁ」なんて思ってしまったり。ジーク、ドラクロワ、 クレアの三人の過去エピソード、<刻の竜頭>の秘儀、そしてジークとドラクロワの最 終決戦などは、もっともっと膨大な量で複数巻に渡っての物語で読んでみたかった。無 いもの強請りなのは分かっちゃいるんだけど、これだけは言わずにいられなかった。  既刊感想:聖戦魔軍篇       0102030405 2006/12/04(月)カオス レギオン05 聖魔飛翔篇
(刊行年月 H16.12)★★★★★★★★★☆(9/10) [著者:冲方丁/イラスト:結賀さとる/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  シリーズ最終巻。この終幕から第一作『聖戦魔軍篇』へと繋がる訳で、ようやく過去 の空白が全て埋まったなぁという満足感で胸一杯な結末。元々やるべき事がそう多くは 残されていない状況だったので、この巻のストーリー展開は至ってシンプル。全ての要 素が聖地シャイオンへと集い、壮絶な攻防戦を繰り広げるというもの。但し個々の思惑 は決して単純なものではなく、深く複雑に濃密に絡み合いながら結末が紡がれてゆく。  実は主役でありながらジークの出番はそれ程多くはなく、またドラクロワとの直接的 な激突も殆ど描かれず、互いに相手を強く意識するのみで、その感情は先に用意されて いる新たなステージ=『聖戦魔軍篇』へと持ち越されている。そして第一作をどうして も再読したくなる。この辺、最初から狙ってたのかどうかは分からないけど、あえて因 縁の両者を控え目に抑えているように感じられる所はなかなか巧い見せ方だなと。  最も存在が輝いていたのは紛れもなくレオニス。そこにノヴィアという存在が加味さ れ、他者の追随を許さない更なる輝きに満ち溢れていた。彼の生き様を描く事が、この 過去編の中で一つのテーマだったような気がする。自らの全てと引き換えに、聖地シャ イオンに豊かな緑を取り戻してくれた彼に「お疲れ様」と心から労ってあげたい。  ……さて、これから本当の結末を探しに『聖戦魔軍篇』を再読する事にしようか。  既刊感想:聖戦魔軍篇       01020304 2006/12/04(月)カオス レギオン04 天路哀憧篇
(刊行年月 H16.07)★★★★★★★★★★(10/10) [著者:冲方丁/イラスト:結賀さとる/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  やべぇ……シリーズラスト前で感極まってしまった。いや〜この巻は全部のシーンが 余す事無く見所であり、それ故まずどのシーンから感想で触れるべきか非常に迷ってし まう。またそういう“何処から手をつけたらいいか?”なんて迷い悩んでる時が一々身 悶えする程嬉しくて楽しくてねぇ。ま、これでも読了して暫し間を置いてようやく落ち 着いて吟味出来るようになったのだけど、読了直後は主にキリ関連のエピソードに対し て、どうしようもなく胸を締め付けられる気持ちからなかなか抜け出せなかった。  半ば強制的に聖性の力を捻じ込まれたと知った時や、遠い眼差しで「海をこの目で見 たい」と望んだ時に、キリの結末がこうなるだろうという予感を何となく抱き、そして 罵り合いながらもノヴィアとの絆が深まるに連れて、「ああ、これは多分先で待ち受け る悲しみの前兆なんだろうな……」なんて事を思ったりも。実際この旅の終着点は予想 からそう遠くない所に着地したのだけれど、しかしながら最も心に強く残ったのは別れ の悲しみよりも、それと同等以上の達成感だった。もしかしたら最良の結末ではないの かも知れない。それでも、キリの中では達成感に満ち溢れていたんじゃないかなと。  他にも遂に表立って行動を見せ始めたドラクロワ、氷人形の中で魂を得た“彼女”に 似た何か、主に逆らってまで己の道を貫き通したトール、迷走の果てにようやく真に進 むべき道を定めたレオニス、最期まで狂気に身を委ねたアキレス、把握し難かった心境 にちょっとした変化が出て来たレティーシャ……まだまだ見所はある。極厚頁に盛り上 がりが凝縮された一品。これで最終巻がどんな事になるかはもう想像がつかない。  既刊感想:聖戦魔軍篇       010203 2006/12/01(金)カオス レギオン03 夢幻彷徨篇
(刊行年月 H16.05)★★★★★★★★★☆(9/10) [著者:冲方丁/イラスト:結賀さとる/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  今回も極厚頁数に見合うだけの密度の濃い内容で非常に満足。かつてジークの従士で ありながら彼が直接的な原因で命を落とした三人……この者達と近しい存在の三人が表 向きでレオニスの配下となり、個々に様々な怨念を抱きジークを葬ろうと牙を剥く。  序盤でノヴィアがジークに信頼されてないような言を零していた事に対して、「んな 事ないって。単にジークが朴念仁なだけで、ちゃんとノヴィアを正面から受け留める様 に見てるから大丈夫だって」とかアリスハート張りに励ましたくなったり。結局そんな 心の僅かな不協和音は、香を使い記憶を消し去る能力を持つ強敵に押し広げられ、かつ てない危機に陥る事に。いや、ノヴィアはここまで無造作に心の奥底に手を突っ込まれ たら、弱さや脆さを露呈してしまうのも仕方ないと思うんだけど、今回はジークの方も 過去の従士との傷痕を甘い匂いの夢中で抉られ続け苦戦しまくってたからなぁ。  本当にここまで追い詰めるか? ってくらいジークを精神的に攻めに攻めに攻め立て て、死の深遠の淵まで追い込んでくれたんだけど、だからこそ“過去に起こった本来の 真実”を再び思い起こす事によって掴んだ逆転の一手が光り輝きまばゆく映る。そして ふと思う。多分今回の最大の功労者はアリスハートだったんじゃないかなぁと。  レオニスは、何か我が強く自分勝手な配下達の所業を持て余しているような、ちょっ と情けなさすら漂う感じだったけど、最後の最後でノヴィアとの真の関係を知って化け てしまったねぇ。こうなると傍に付いているトールの心境は如何程のものか……。  既刊感想:聖戦魔軍篇       0102


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