NOVEL REVIEW
<2007年09月[後半]>
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09/30 『連射王(下)』 著者:川上稔/メディアワークス
09/25 『連射王(上)』 著者:川上稔/メディアワークス
09/23 『ひかりをすくう』 著者:橋本紡/光文社
09/21 『海の底』 著者:有川浩/メディアワークス
09/18 『沈黙のフライバイ』 著者:野尻抱介/ハヤカワ文庫JA
09/17 『少年検閲官』 著者:北山猛邦/ミステリ・フロンティア


2007/09/30(日)連射王(下)

(刊行年月 2007.01)★★ [著者:川上稔/メディアワークス]→【bk1】  冷静になって考えてみると、高村が本気になってやろうとしている事ってのは、“それ” に馴染みの無い人にとってはなかなか理解され難いものなのかも知れない。高村自身よー く分かっているからこそ、とりわけ普段から距離の近い岩田には本心を曝け出せなかった んだろうなと。彼女に「嫌われたくない」から。そんな高村と岩田の擦れ違いと微妙な距 離と、その辺の描写が身悶えする程に良かった。なんというぎこちなく初々しい触れ合い か。この全身むず痒くなるような関係が堪らない(特にラーメン屋での和解シーンね)。  終盤は「これぞまさにシューティングゲーム小説!」な熱い内容。竹さんの跡を継ぎ、 戦うべき相手と真正面から対峙する高村の姿。やるかやられるかの緊張感溢れる駆け引き。 そして気がつけば圧倒的な戦闘描写の勢いに飲み込まれてしまっていた。結局高村は制覇 したのかどうか……この答えは読後の余韻に浸りつつ、あれこれ想像してみる事にする。 2007/09/25(火)連射王(上)
(刊行年月 2007.01)★★ [著者:川上稔/メディアワークス]→【bk1】  おおおー、これはなんと素晴らしきシューティングゲーム基礎解説書。『これを読めば あなたも上級シューティングゲーマーになれる……かも?』なんて台詞を帯にでも添えて 欲しかったよ〜。んで、これは“上級の腕前”を自負する人よりも、私みたくヘタの横好 きというのか所謂“へっぽこシューティングゲーマー”みたいな人の方が、共感を得られ る箇所が多いかも知れない(高村の台詞を聞いたりプレイ状況を眺めてみたり、竹さんの 講義を聞いたりしては思わず“うんうん”と頷いてしまう事が多いんだこれがまた)。  巻末付録(縦スクロールSTG概史)も含め、こりゃシューティングゲーム好きには堪 らん内容だなぁ。ひとつの区切りまで到達した高村の今後の選択は如何に? このまま奥 深くへ嵌って行くか? それとも、自分がシューティングゲームに魅せられたのが原因で こじれてしまった岩田との関係を取り戻そうとするのか? それに加えて、竹さんの“フ ァーストプレイ・ワンコインクリア”を見る事は出来るのか? 下巻への興味は色々と。 2007/09/23(日)ひかりをすくう
(刊行年月 2006.07)★ [著者:橋本紡/光文社]→【bk1】  現実世界のどこかに転がっていそうな日常。アンテナを伸ばせば、「あのボロ家に誰か 引っ越してきたみたいだぞ」「若夫婦らしいぞ」なんて情報が容易く手に入りそうな、都 会と田舎の中間点。この物語は主人公・智子の再生の物語……と、私は解釈した。  フィクションでありながらこれだけ現実味を帯びていると、ついつい自分の現時点での 日常生活と比較してみたくなったりする。多分、智子のような事になる可能性は限りなく 低い。じゃあもし智子と同じような状況に置かれたとしたら……、きっと私には彼女と同 じ行動は起こせない。踏ん切りをつけられないってのかなぁ? だらだら仕事にしがみつ きながら、何とかしようと足掻くんだと思う。だから充分に考えた末での決別は勇気ある 行為で素直に凄いよな〜と。それか、もしかしたら智子にとっての哲ちゃんみたく、支え てくれて安心して寄りかかれる人が傍に居れば、強くなれるものなのかも知れない。 2007/09/21(金)海の底
(刊行年月 2005.06)★★★ [著者:有川浩/メディアワークス]→【bk1】  巨大甲殻類の大群襲来で危機的状況に瀕す陸上。ぎすぎすした人間関係と閉塞空間の相 乗効果で澱んだ空気が充満してゆく潜水艦内。物語中では双方共にもう片側の様子が全く 見えないのだけれど、こちら(読み手)側には全部が手に取るように分かる。「うはは読 者の特権だ特権〜」などと勝手に浮かれつつ、もしも相手側の様子が幾らか見えていた場 合、果たして状況はどうなっていただろう? なんて事を頭に巡らせつつ読んでました。  どっちの方がより印象に残ったかと言えば、圧倒的に潜水艦内の方か。その中でも特に 圭介。良いキャラだよね。立ち位置的にはハッキリと“嫌われ役”で中途半端に困ったち ゃんだけど、手が掛かるヤツ程覚えが良く印象に残る、と言った具合で。望との間にあっ た最後の棘が抜けた時、ほんっとに「圭介良かったよ〜」って思った程の贔屓っぷり。  夏木と望のは確かにベタ。だがそれがいい。夏木は大きな魚を逃がした。でも“逃がさ れた魚”の方は黙っちゃいなかった(夏木は将来望の尻に敷かれるに違いない)。この辺 の進展具合、『クジラの彼』で少しは描かれてるのかな? こちらも読むのが楽しみ。 2007/09/18(火)沈黙のフライバイ
(刊行年月 2007.02)★★ [著者:野尻抱介/早川書房 ハヤカワ文庫JA]→【bk1】  どうしようもない宇宙への焦がれ。珠玉の短編5編、宇宙へと想いを馳せる強烈なオー ラみたいなものが、どのエピソードにもくっきりと立ち上って見えて終始圧倒されっ放し だった。ホント陳腐な感想表現しか出来なくて申し訳ないんだけど、もう「凄い!」とし か言いようがなくて。これは近未来で実現して欲しい“願望”だとか“夢”だとか、そう いう手応えとは違っていて、「確実に成し遂げられるであろう」であり「絶対実現するに 決まってる」という確信に満ち溢れたリアリティ。目を閉じて想像すれば容易く眼前に宇 宙が広がり、ちょっと手を伸ばせば名もなき恒星に手が届きそうな、そんな素敵な感触。  どれも甲乙付け難いのだけど、私は特に『ゆりかごから墓場まで』がお気に入り。いや ……あの……「すげー! 見て着て体感してみたい!」と思ったから。C2Gスーツ。 2007/09/17(月)少年検閲官
(刊行年月 2007.01)★★ [著者:北山猛邦/カバーイラスト:片山若子/東京創元社 ミステリ・フロンティア]→【bk1】  はぁ〜なるほど〜。謎を解く鍵は最初から存在してたって訳か〜。それに気付けなかっ たのは、“書物が失われた世界にどんな意味が込められているか?”に想像力が到底及ば なかったからか、それとも元より深く踏み込んで考え抜く気を有してなかったからか…… 多分後者だな。でも、書物に溢れ返っている現実をごくごく自然に受け入れていると、書 物が表舞台から抹消された世界ってのは、結構想像し難いものがあるよなぁ……と。  もっとも、それはそれで実に興味深くなかなか面白味に溢れた舞台設定。日本でありな がらどこか異国の匂いが漂い、殺人事件の噂が妄言虚言の幻想染みたものに思えてしまう 奇妙な感触。しかしながら真相は妄言虚言の幻想などではなく、紛れもなく人間が犯した “実現可能なの殺人事件”として描かれている。“失われた書物”に込められた意味を追 えないと、ここには辿り着けないよなぁ。もう終盤は納得頻りで頷いてるばかりでした。


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