NOVEL REVIEW
<2007年10月[後半]>
] [戻る] [
10/29 『クジラの彼』 著者:有川浩/角川書店
10/28 『イチゴミルク ビターデイズ』 著者:壁井ユカコ/メディアワークス
10/27 『NO CALL NO LIFE』 著者:壁井ユカコ/メディアワークス
10/27 『シフトII ―世界はクリアを待っている―』 著者:うえお久光/メディアワークス
10/26 『シフト ―世界はクリアを待っている―』 著者:うえお久光/メディアワークス
10/25 『青年のための読書クラブ』 著者:桜庭一樹/新潮社
10/24 『ヤングガン・カルナバル 銃と恋人といま生きている実感』 著者:深見真/トクマ・ノベルズEdge
10/24 『桐原家の人々4 特殊恋愛理論』 著者:茅田砂胡/C★NOVELSファンタジア
10/19 『桐原家の人々3 恋愛統計総論』 著者:茅田砂胡/C★NOVELSファンタジア
10/19 『桐原家の人々2 恋愛心理学入門』 著者:茅田砂胡/C★NOVELSファンタジア
10/19 『レイン 雨の日に生まれた戦士』 著者:吉野匠/アルファポリス
10/19 『空色ヒッチハイカー』 著者:橋本紡/新潮社
10/19 『夜は短し歩けよ乙女』 著者:森見登美彦/角川書店


2007/10/29(月)クジラの彼

(刊行年月 H19.01)★★★ [著者:有川浩/イラスト:徒花スクモ/角川書店]→【bk1】  甘い恋愛話が好きです。ベタ甘で激甘な恋愛話はもーっと好きです。自衛隊員が恋をす る。自衛隊員に恋をする。自衛隊員同士が恋をする。どれもこれも恋愛するには壁が高く 障害も大きく。でも、それらを乗り越え二人して歩んでゆけると確信が持てた時、互いに 相手の事をより一層深く深く愛しく思えるようになる。……というのがね、ええと、全六 編か、全てに濃密に含まれているもんだから堪らない。一体何度身悶えさせられた事か。  私は最近『海の底』に触れたからか、そちらで語られなかった冬原のエピソードと、夏 木と望の恋愛模様が特に興味津々でね。他よりも贔屓目で感情移入してしまったよ。ただ、 私が一番「好きだな〜」と思わされたエピソードは、実はこの二編ではなく『脱柵エレジ ー』。全編中で最も短いんだけど、言葉は少なくても清田も吉川も凄く相手の事を理解し てるというのかな。そういうのをさり気なく表現している辺りが凄くいいなと思えた。 2007/10/28(日)イチゴミルク ビターデイズ
(刊行年月 2007.09)★★ [著者:壁井ユカコ/メディアワークス]→【bk1】  学校を卒業して就職して、数年経った頃にふと気付く。「最近色々と磨り減ってるなぁ」 とか。そして学生時代の頃を思い返して「こんな筈じゃなかったのに……」と。繰り返す のは挫折と後悔。何で10代の頃ってのは根拠もなくあんなにやる気と自信に満ち溢れて いたのかねぇ……なんて、遠い目で溜息吐き出させられてしまった。まあこの物語はそん なに深く沈み込むような内容ではないし、私なんかは既に挫折後悔で悩む時期をとっくに 過ぎ去ってしまってるんだけど(それを潔く諦めたとも言う)。こんな風に過去(学生) と現在(社会人)を交互に描かれると、どうしても過去を振り返りたくなるもので。  作中の主人公・千種いづみは確かに多少磨り減ってきてるな、と思うのだけど、腐れ縁 でどうしようもない彼氏でもそれなりに噛み合ってるみたいだし、鞠子とは何だかんだあ っても無二の親友っぽい所が形成されつつあるからいいんじゃない? そもそもまだ若い んだし。激しく磨り減るには早過ぎる。彼女の今後の人生に幸あれと願っておこう。 2007/10/27(土)NO CALL NO LIFE
(刊行年月 2006.08)★★★ [著者:壁井ユカコ/イラスト:鈴木次郎/メディアワークス]→【bk1】  有海と春川。17歳と19歳。二人だけの世界の中では、自分にとってかけがえのない 相手さえ傍に居れば「何だって出来る」「きっと何処へだって行ける」と、どこまでも強 気に大胆に可能性を無限に押し広げる事が出来る。ただ、それはあくまで極めて狭く閉じ られた空間の中だからこそ為せる、ほんの一時の陶酔にも似たようなもので……。  この二人を少し離れた位置から眺めてみては、その度に物凄く危うい印象を受けていた ので、漠然と「こうなるかな?」って予感はあった。初めて出逢った頃の二人は、そりゃ もう擽ったい青春してた。本当はこんな擽ったい気持ちをずっと抱いたままでいたかった んだけど、擽ったいのが徐々にちくちくした軽い痛みになり、やがてぐさぐさ突き刺さる 激痛に変化してしまう。でも、こういう切ない痛みを伴うものはすげー好みだよ。 2007/10/27(土)シフトII ―世界はクリアを待っている―
(刊行年月 2006.06)★ [著者:うえお久光/メディアワークス]→【bk1】  今回は現実世界寄りな展開。そのせいか、現実で起こる出来事と夢で起こる出来事の距 離が徐々に近付いているような印象。互いにもう片方の世界に影響を与え、境界線が曖昧 になりつつある、という感触か。今の所は現実世界での祐樹の危険度が増している程度だ けど、今後セラの役割を担う“彼女”にも本格的な被害が及ぶ可能性もあるよなぁ。   しかしこの物語、2巻目を終えても確定事項がそれ程揃わず、まだまだ曖昧な部分が多 くて困った困った。“選ばれる基準”がここまでで明確に語られないという事は、まるっ きりランダムなのかねぇ。重要なものではないのかも知れない。重要なのは、多分提示さ れたような気がするクリア条件について(この物言いも曖昧だなぁ)。『勇者』と『魔王』 と『姫』が確定された時、クリア条件が満たされる……らしい。現時点ではまだ確定され てない。もう一年以上音沙汰無いけど、続きは何時出るんだろう。再開された『悪魔のミ カタ』がひと段落してからかねぇ。ともあれいち読者は黙って完結を待っています、と。  既刊感想: 2007/10/26(金)シフト ―世界はクリアを待っている―
(刊行年月 2005.07)★ [著者:うえお久光/メディアワークス]→【bk1】  最初は右も左も設定もルールも何も分からぬまま、いきなり夢で見る“第二の現実世界” へ放り出されたような感覚。ラケルの行動に合わせて手探りで状況を把握するまでが結構 大変だったかも。ただ、「もしかして初めてシフトした時に置かれる状況がこんな具合?」 と考えると、読み手に“初シフトする”のを追体験させる為に予備知識無しで放り込ませ たのかな? もしそうならは、この序盤はなかなか巧い突き放し方だったなと思う。  物語は主に精神面を重視して描かれている模様。得体の知れない世界を生きてゆく為に、 現実と夢の繋がりや人間関係(とりわけ男女関係)の繋がりを考え、そして翻弄されなが ら“クリアする”という意味を探し続ける。ん〜まだこう手探りな部分が結構あってね、 今回だけでは明確な形で真実を掴めず。果たして続きでどんな新事実が掴めるか。 2007/10/25(木)青年のための読書クラブ
(刊行年月 2007.07)★★ [著者:桜庭一樹/新潮社]→【bk1】  名門お嬢様学校『聖マリアナ学園』にひっそりと、だがこびりつく様に継承を重ね漂い 続ける異端者達。そんな彼女等が秘密裏に残し積み重ねて来た、決して表沙汰に出来ない お嬢様学校の“裏側”について綴った物語。……まあ、確かに、語られているこれらエピ ソードのどれ一つでも表に晒しちゃ拙いだろう。もし暴露されてたら、大転換期を迎える と予言にあった100年後に到達する前に、色んなものが崩壊していたに違いない。  さて、異端者たる読書クラブの面々。多数のお嬢様方から弾かれたか? それとも自分 から弾けてみせたのか? どちらにしても定型枠に収まり切れないだけの事はある、と唸 らされる程の大した個性をお持ちのようで。目立たずこっそりと活動しているのだけど、 個々の本質は図太く計算高いって感じだよなぁ。時代背景に合わせての移り変わりにも楽 しませて貰えたかなと。エピソードは第五章『ハビトゥス&プラティーク』が特に好み。 2007/10/24(水)ヤングガン・カルナバル 銃と恋人といま生きている実感
(刊行年月 2006.02)★ [著者:深見真/イラスト:蕗野冬/徳間書店 トクマ・ノベルズEdge]→【bk1】  シリーズ第3巻。おや? 香埜子があっさり弓華の恋人に納まってしまったな。これま で弓華の方が香埜子を相当鬱陶しそうにしてたから、てっきり避けまくるもんだと思って たが。今巻の最後には弓華が恋焦がれる伶との衝撃的な対面を果たしたり、意外と女同士 の奇妙な恋愛模様が面白く興味深く感じるこの頃(ガンアクションとかそっちのけで)。  塵八と弓華が所属する犯罪組織ハイブリッド。これまでの二人は上の命令で与えられた 危険が伴う任務を淡々とこなすだけだったのだけど、今回より敵対組織=豊平重工の存在 が明確になった事で、物語に厚みと深みが加味されたような、そんな印象が残った。敵は 勿論、馴染み深い味方でさえも殺す時はあっさり殺してしまう、女子供でさえも容赦なく 痛めつける。そういう凶暴性が時に目を逸らせず堪らない魅力として映ったりする。  既刊感想:ヤングガン・カルナバル       バウンド・トゥ・バイオレンス 2007/10/24(水)桐原家の人々4 特殊恋愛理論
(刊行年月 2001.07)★★ [著者:茅田砂胡/イラスト:成瀬かおり/中央公論新社 C★NOVELSファンタジア]→【bk1】  零が主役の番外編でシリーズ最終巻。眞己と猛と都の出生の秘密が暴露された一巻目の あの時、過去回想として軽く語られるだけに留まった一大騒動。その顛末の詳細がこの巻 で明らかに。……これ、改めてじっくり描かれると唖然呆然で言葉も出ないな。それでも 割とあっさり桐原家に馴染んでしまったように見える辺り、零って結構環境適応力が高い んだと思う。或いは、元々が桐原家の色に馴染み易い性質だったのかも知れないね。  後半部は前巻ラストで登場した、零の無二の親友・城段輪とのエピソード。似通った心 境で似たような境遇、似たもの同士で馬が合うのも自然の流れ。何故零が麻亜子を好きに なったのか? ここを描き伝える事がこのエピソードの真意だったのかなと。そんな風に 解釈。数多の不幸に見舞われても、最後には誰もが幸せに収まり輝きに満ち溢れていた。  既刊感想: 2007/10/19(金)桐原家の人々3 恋愛統計総論
(刊行年月 2000.09)★★ [著者:茅田砂胡/イラスト:成瀬かおり/中央公論新社 C★NOVELSファンタジア]→【bk1】  今回は零のエピソードがメイン。私は三つ子(これは正確には違うのだけど一々直すの も面倒臭いし)の方をメインに、と希望してたので残念な部分は少々ありで。猛が眞己に 兄妹以上の感情を抱いてた(或いは現在進行形抱いてる?)らしいので、その辺から都も 含めてちょいと絡めて、とかね。更にややこしく悩みの種を蒔いて欲しかったかなと。  もっとも、とっくの昔に絶縁した零の血筋関連の騒動も目一杯楽しめたので満足感は充 分に。しかし、桐原家はどんだけ修羅場を作り出せば気が済むんだよ。まあ“巻き込まれ る”じゃなくて“率先して火種を作っている”所が桐原家らしいのか〜(しかも母・豊と 姉・麻亜子は喜んで騒動起こしている節があるしな)。次の最終巻は零の過去エピソード らしいので、怒涛の如く過ぎ去っていった現状の物語もとりあえずはこれでひと段落。  既刊感想: 2007/10/19(金)桐原家の人々2 恋愛心理学入門
(刊行年月 2000.01)★★★ [著者:茅田砂胡/イラスト:成瀬かおり/中央公論新社 C★NOVELSファンタジア]→【bk1】  やっぱり出て来たか! ってな具合で、かつて麻亜子さんを手酷く裏切った元彼にして 眞己と猛の実父登場。きっと修羅場はあるだろうけど、さすがに前巻みたいな非常にやや こしくこじれた話にはならないだろう、と思ってたが甘かった。甘過ぎだった。実父こと 森崎崇史、とんでもねぇやつだったよ。キサマに同情の余地は無い! ……とは言え、彼 は基本“いいひと”だからねぇ。赦し難い過ちを犯したのは確かなんだけど、深い悔恨の 念もよく伝わって来たりで。完全に割り切ってる麻亜子はともかく眞己と猛は複雑な心境 だよな。でもまあ突如鳴り響いた流血警報もどうにかこうにか解除されてホッとした。  既刊感想: 2007/10/19(金)レイン 雨の日に生まれた戦士
(刊行年月 2005.10) [著者:吉野匠/イラスト:MID/株式会社アルファポリス]→【bk1】  ウェブサイト上で毎日連載更新されていた小説が書籍化されたものだそうで。そういや その所に興味を持って手に取ってみたんだったなぁ(それからどれだけほったらかしにし てたんだか……)。物語はヒロイックファンタジーの王道。脳ある鷹は爪を隠して表面上 をものぐさで覆うタイプの主人公。本気を出せば完全無欠。理解し易く容易く入り込める ストーリーラインは、長所であると同時に予定調和であっさり先読み出来てしまう短所で もある、ってとこかな(私なんかは何となく懐かしい匂いが先に立っていたのだけど)。  ストーリー展開、キャラクター描写共にまだまだ食い足りない印象で。ただ、巻数は結 構出ているらしいので、今回の不満点は続きを追って行けば解消されるんではないかと。 2007/10/19(金)空色ヒッチハイカー
(刊行年月 2006.12)★ [著者:橋本紡/新潮社]→【bk1】  個性的なヒッチハイカー達の存在を気にしつつも、専らの興味対象は彰二と杏子の奇妙 な距離関係で。行きずりの女の子相手に性欲吐き出した後で、本命に非難されて「だった ら、やらせろよ!」とか言うのはは流石にダメだろ(気持ちはよーく分かるが)。でも杏 子もそれだけ気に掛けてる証だからいいんじゃないか、とか。ここ、妙に印象に残るワン シーンでした。最後のは、一応ケジメをつけた彰二に対する杏子のご褒美、と捉えておこ うか(でも、決して一度きりじゃないという気持ちはしっかり込められていた筈)。この 長距離走行、彰二にとって杏子というパートナーを得た事が最大の収穫だったのかなと。 2007/10/19(金)夜は短し歩けよ乙女
(刊行年月 H18.11)★★ [著者:森見登美彦/角川書店]→【bk1】  一目惚れした彼女の背中を負い続けて七転八倒。空回りに遠回りな恋愛追走劇。彼女と 私と実にユカイな脇役達から成る物語ってとこか。そういやこの主人公、彼女の性格内面 その他諸々を大して知らぬ内から、“一目惚れ”の一点のみでその背中に熱視線を送って いるように見えたのだけど、どうやら人を見る目はしっかり備わっていたようで。  つまり……「一目惚れするのも分かる! 良く分かるぞ!」と握り拳で同調したくなる 程に、彼女が凄く可愛らしいんだよな。もろに“天然”ではないんだけど……天然っぽい 感じか? 彼女にしてみれば普通である行為の数々が、周囲の人間を幸福色に染め上げて ゆく。そんな可愛らしさ。七転八倒も最後には七転び八起きになれて良かった良かった。


戻る