NOVEL REVIEW
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03/10 『総理大臣のえる! 彼女がもってる核ボタン』 著者:あすか正太/角川スニーカー文庫
03/09 『ばいおれんす☆まじかる! 〜恋の呪文は修羅の道』 著者:林トモアキ/角川スニーカー文庫
03/08 『ばいおれんす☆まじかる! 〜九重第二の魔法少女』 著者:林トモアキ/角川スニーカー文庫
03/07 『スターダスト イレギュラーズ』 著者:飛田甲/ファミ通文庫
03/06 『フォー マイ ダーリン! 月夜は無邪気に竜退治』 著者:野村美月/ファミ通文庫
03/05 『EME BLACK1 口を開く魔王の迷宮』 著者:瀧川武司/富士見ファンタジア文庫
03/04 『伝説の勇者の伝説1 昼寝王国の野望』 著者:鏡貴也/富士見ファンタジア文庫
03/03 『AVION〜天界高度戦記〜』 著者:富永浩史/富士見ファンタジア文庫
03/02 『キノの旅 V −the Beautiful World−』 著者:時雨沢恵一/電撃文庫
03/01 『キノの旅 IV −the Beautiful World−』 著者:時雨沢恵一/電撃文庫
03/01 『キノの旅 III −the Beautiful World−』 著者:時雨沢恵一/電撃文庫


2002/03/10(日)総理大臣のえる! 彼女がもってる核ボタン

(刊行年月 H13.07)★★★☆ [著者:あすか正太/イラスト:剣康之/角川書店 角川スニーカー文庫]  現役女子中学生折原のえるが、第90代内閣総理大臣となって自分の興味・好奇心・欲 求を満たす為に国家権力を振りかざしまくるというお話。元々のえるが海外の旅先でペル シャ猫姿の悪魔・メフィストと出会い、自分の寿命30年と引き換えの契約で「世界を支 配する王になりたい」と願ったところで実在するポストじゃないとダメと却下されたので 仕方なく総理大臣の椅子を望んだ、というのが事の始まり。  のえるの行使するほぼすべてが架空の世界じゃなけりゃ絶対成立しない事であって(と いうより女子中学生が総理大臣やる事自体不可能)、だからこそ既存の憲法をこれでもか とばかりに無視したやりたい放題はなかなか読み応えあって面白かったです。  まあ「なんつーバカ小説だよ(誉め言葉)」と思わずにはいられませんでしたが、あと がきが妙に説得力あって言葉が出なかったというか、自分でも過去にこんな事考えてたり もしてたのでつい頷きながら納得してしまいましたとさ。女子中学生に総理大臣役を与え て政治の基盤を完膚なきまでにぶっ壊すという発想もいろんな意味で凄いですが、それを 本気で書いてしまう辺りも凄いというか良くやるなぁという感じです(笑)。    見所はまず間違いなくのえるが総理大臣として本能の赴くままに行動する様が描かれて る部分。ただそれを描く事に固執し過ぎていて、ストーリー立てがあまりうまくいってな いようにも感じました。のえるが権力かざす事によって何らかの事件が起こって、そこか ら話が成り立って彼女の破天荒な言動が盛り込まれる展開だったら良かったんだけど、の えるの行為を見せる事がそのままメインになってる感じなので、そこに目を奪われてもス トーリー展開の方にはあまり惹かれる所がなかった。白峰の悪事も何となく「のえるの行 為」の後にとってつけたような感じで、忍もいいキャラクターなんだけど完全に「のえる の行為」に食われてしまってる気がして……。  もっともそれ程折原のえるというキャラクターの印象が強烈だったという事でもあるの ですが。総理としての本能的な行動も健太に対するストレートな感情の表し方も、全部含 めてのえるって凄くいいキャラだと思います。ストレート過ぎて真意が大好きな健太には なかなか気付いてもらえない所がちともどかしかったりするのですが、のえるにしてみれ ば気付いてもらえるまでそのままでいいって気持ちなんでしょうかね。  一応ほのかを含めて三角関係が成立してるけど、それもやはりのえるの行動に飲まれて る感じなので次巻以降はもう少しストーリーに絡めた展開を期待したい所。
2002/03/09(土)ばいおれんす☆まじかる! 〜恋の呪文は修羅の道
(刊行年月 H14.03)★★★★☆ [著者:林トモアキ/イラスト:愛媛みかん/角川書店 角川スニーカー文庫]  シリーズ第2巻。前回魔族と手を組んでた、世界征服の野望に燃えるマッドサイエンテ ィスト・ミスターBと配下の仮面の騎士達が今回の緋奈のお相手。と言っても魔族との戦 いの時のような緊迫感は激減で、こいつ等の登場で何気に作中の変人密度が推定3割程ア ップしてるような気がしました(笑)。仮面騎士達はハッキリとお笑い要員だし、ミスタ ーBもどっか抜けてて終盤の台詞からも純然たる悪とはちと違う雰囲気だし。  今回の見所は変人さん達との戦いそのものより、新キャラ・羽隆ユキの登場によってゆ らゆら揺れ動いて色々と見せてくれる、緋奈の内面とか気持ちとか心情とか想いとか。前 回魔族との戦いで凶暴な性格ばかりが前面に押し出されてて、あまり女の子らしい恋愛感 情とかは描かれなかったけど、今回そういった部分の描写がしっかりありました。  ただ緋奈は「異性を好きになる」って感情をやっぱりというかなんというか理解してな くて、だからこそユキと視線を交わした時僅かに胸の高鳴りを覚えたってのが凄く可愛く 見えてしまうのですが、それで不憫なのは緋奈に惚れてる圭一って事になるんでしょうか ね。今回彼のあまりな報われなさに思わず同情したくなってしまった(笑)。  でも緋奈はユキに傾くと思いきや最後は結局アレな関係に収まったし、かと言って無意 識に圭一を好なのかと思えば今の所微塵もそんな感じはしないし。これ、今後どんな風に 緋奈の気持ちの動きが描かれるのか楽しみでもあります。  終盤の緋奈とユキの対峙も、戦いよりユキに向けられた緋奈の魂の篭った言葉の方がよ り印象的でした。その時に初めて見せた、普段の天然からは想像つかないミウルスの天使 として譲れない激情を露にするシーンも良かったです。  2巻目って事で、緋奈やミウルスに限らず圭一も由香利も清次も前回よりしっかりキャ ラが立ってたように思えました。中でも特に由香利は……緋奈と深い付き合いで友達やっ てられる理由が良く分かった気がします。ある意味作中最強のキャラかも(^^;)。  既刊感想:
〜九重第二の魔法少女 2002/03/08(金)ばいおれんす☆まじかる! 〜九重第二の魔法少女
(刊行年月 H13.10)★★★★ [著者:林トモアキ/イラスト:愛媛みかん/角川書店 角川スニーカー文庫]  第5回角川学園小説大賞『優秀賞』受賞作。  落第の烙印を押された天使ミウルスは、神族最高位・聖四天にひとりであるマリアクレ セルより、人間界を征服しようとする魔族を阻止する為に地上を救う魔法少女となるべく 人材を選出するという命を受ける。その実情は神が愚かな人間達を滅ぼさんが為に、任務 失敗を望んで落第天使であるミウルスを選んだのだが、見事魔法少女を探し出し魔族の野 望を阻止出来れば彼女の落第が取り消しとなり、今回がそのラストチャンスだともマリア クレセルは告げる。落第の身でその言葉に抗えるはずもなく、ミウルスは人間界へと赴き 右往左往しながら魔法少女に適任な人選を始めるが……。  という具合でミウルスが成り行き上しょうがなく選んでしまったのが、広域暴力団・関 東与謝野組の跡取娘で本編主人公・与謝野緋奈。口より先に手が数十発出てしまう性格で、 口が悪く暴力的、歯向かう奴は先生だろうと魔族に操られた人間だろうと問答無用で鉄板 仕込んだ鞄を炸裂させる。ミウルスも最初人選誤ったかもと嘆いてたように、おおよそ魔 法少女には向いてなさそーな緋奈だけど、魔族にも全く臆しない度胸と即断即決な直情的 な性格は異界の者と戦わなければならない状況において非常に活きていて、緋奈の言動は どのシーンでも読んでいてスカッとする程の気持ち良さを感じました。  話の背景としては神族と魔族との争いとはちょっと違っていて、神族の根底は人間を滅 ぼしたがっていて、対する魔族も人間界を支配する為に人類を滅亡させようとしてる。人 間界がとばっちりを受けてるのは変わらないんだけど、普通敵対するもの同士として描か れる神族と魔族のどっちの目的も似たり寄ったりってのが面白い。  緋奈が魔法少女になって仕方なく魔族に操られてる人間を駆逐して行き、罠で捕われた 友達を救う為に上位魔族達やボス的存在の魔族と死力を尽くす……という単純明快で分か り易い展開は面白いと感じるか物足りないと感じるかどうか。私は好きでしたけど。  それよりもやっぱりこの物語はキャラクターの個性と使い方の上手さが光ってます。暴 力娘の緋奈に天然超インドア派落第天使ミウルス、緋奈に惚れてる関西弁鉄砲玉野郎の圭 一に普通に可愛い女の子してるけど実は……な由香利に気が弱いけどいざって時は意志の 強さを発揮する清次、と皆が皆各所で印象付けてくれて凄く気に入ってしまいました。  結局個人的には、この話のようにストーリー以上にキャラクターで話を引っ張ってゆく って感じの物語に惹かれ易いというかハッキリと弱いのかもしれないです(^^;)。
2002/03/07(木)スターダスト イレギュラーズ
(刊行年月 H14.02)★★☆ [著者:飛田甲/イラスト:山本京/エンターブレイン ファミ通文庫]  SFボーイミーツガールストーリー。恋する少年の行動力は、テロリストと相対したり 悪友達と奇策を展開して戦艦一隻まるまる盗んだり、果ては国連宇宙軍や木星宇宙軍の艦 隊まで知恵を振り絞って退けてしまう。たった5人の少年少女がネットワークを住処とす る自我を持つ人工知性体「アダム」と共に、軍の艦隊に追い掛けられながらもまともに戦 わずして次々と手玉に取ってゆく様が実に痛快で面白かったです。その過程で主人公・真 吾と、彼が一目惚れしてしまった少女シンシアとの初々しい恋愛模様や、悪友である亮元、 アル、ミリアムの性格や行動もしっかり描かれていて(個人的には知識はあれど我が道を 行く亮元がかなり気に入ってしまいましたが)こちらも良い感じ。  しかし真吾達に敵対する軍の人間達の印象度が薄いというか、全然魅力を感じられなか ったのはイマイチだったかも。悪役は悪役で、しかも1度してやられて追い掛ける側なら ば、余計にもっとネチネチと執拗に追い詰めるとかの描写があっても良かったんじゃない かなぁと。なんか誰も彼も真吾達のやる事に翻弄され戸惑ってばかりいたので、もう少し 敵側にも見せ場が欲しかったです(まあ相手が戸惑ってたからこそ、真吾達の奇策が際立 っていたという見方も出来るんですが)。一番適役そうだったのがアルゴスIIのウェーバ ー大佐だと思ってたのに、最後は真吾達の作戦成功に焦点が当たってばかりで、結局復讐 を宿してたウェーバー大佐の事は木星連合艦隊もろともほったらかしにされて終わってし まったって感じだったしなぁ……という所が少々不満でした。  世界観や設定については、相変わらずSF音痴で苦手意識は拭えてないので詳しくあれ これ言えませんが、あんまり目新しさは感じられなかったけど背景描写が丁寧だったので 最初からわりと取っ付き易く読み易かったです。
2002/03/06(水)フォー マイ ダーリン! 月夜は無邪気に竜退治
(刊行年月 H14.02)★★★★ [著者:野村美月/イラスト:戸部淑/エンターブレイン ファミ通文庫]  超絶美形で騎士の幼なじみ・ユリウスが大好きな本編主人公・リリカは、彼に会うべく 田舎のハニーベル村から遥々王都までやってきたが、ユリウス様ファンクラブのお嬢様た ちに「つぶれたまんじゅうのような粗末なお顔」「ぺちゃんこなお鼻」「ご立派なウエス ト」「質素なご衣裳」などなど容姿に散々な指摘を受けてへこまされてしまう。  そこでリリカはユリウスに見合うように「キレイ」になりたいと、偶然出会った魔法美 容師ティファニーに泣きついて弟子入り志願し、彼女のもとで雑用同然の扱いを受けなが ら魔法美容師見習として「キレイ」な自分を夢見て頑張るというお話。  著者の野村さんのデビュー作『
赤城山卓球場に歌声は響く』では、個人的にかなりやら れた気分だったので覚悟で読書に臨んだのですが……卓球の方は何かの間違いだったとい う事にしてと(笑)。いや、そっちの不満が帳消しになるくらい今回は面白かったです。  作者自身が生み出したキャラクターの魅力を100%引き出す事が出来たら、きっとこ んな風になるんだろうなと思いました。不満たらたらだった卓球の方でも、またこの物語 でも感じたのは、ストーリーに絡めたキャラクターの立て方が非常に上手く皆が活き活き と描かれているという事。リリカもユリウスもティファニーも、何処かで見たような類型 的キャラではあるけれど誰もがとても魅力的に描かれていて、それが物語の面白さへと繋 がってるような気がしました。とりわけ主人公のリリカは感情豊かで明るく前向き、たと え挫けて躓いても大好きなユリウスの事を考えれば直ぐさま立ち直って積極的かつ果敢に 彼にアタックを繰り返す……と、魅力の引き出しが120%の良さでした。  ストーリーは連作で中編が3本、作中の時間で1ヶ月に1話という形で描かれてます。 印象に残ったのは第1話、リリカが一躍有名になった所で意を決してユリウスに好きと告 白したシーン。結果は読んでみてのお楽しみって事で伏せときますが(笑)、告白そのも のではなくて、その先でリリカがユリウスとある約束をした事によってキレイになりたい という意識に変化が生じた部分が特に良かったです。  どうやらリリカはまだまだ見習修行続行中だし、師匠のティファニーにもまだ明かされ てない秘密がありそうだし、ユリウスとの関係もまだまだ色々ありそうだし……てな具合 で続編あるよな終わり方だったので続きが楽しみです。 2002/03/05(火)EME BLACK1 口を開く魔王の迷宮
(刊行年月 H14.02)★★☆ [著者:瀧川武司/イラスト:尾崎弘宜/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]  ドラゴンマガジン誌上の企画として毎年行われている、6人の作家同士が読み切り作品 を発表して読者投票にて優勝者が選出されるという『龍皇杯(ドラゴンカップ)』。本作 は第4回優勝作として、現在もドラゴンマガジン誌上にて連載されています……って↓の コピペですが嘘偽りはなく。面白い事に伝説の勇者の伝説と得票同数で優勝を分けたもう 一つの作品がこのEMEというわけです。  エイト・ミリオン・エンジン(八百万機関)の頭を取ってEME。警察機関では手に負 えない現世の怪奇現象を表沙汰にさせず闇へ処理する独立機関で、警察同様に様々な部署 があり、その中のPC課(フェノメン・クリーチャーの略。妖怪、怪物、化物などの総称) に属するエージェントとして事件に関わる本編主人公・乾紅太郎の物語。  ドラマガ誌上連載の方は1話読み切りで毎回PC絡みの事件に関わってますが、対して 長編の方はそれより大規模な事件で、連載の時間から遡って3年前のEMEの話。なので 紅太郎以外はキャラクターが連載とはがらりと変わってます。  今回の内容の方は、簡単に言えば新宿・池袋間の地下階層で繰広げられるシミュレーシ ョンRPG風味。それに巻き込まれて地下に取り残された人達を救うべく潜入した紅太郎 とパートナーの黒部も、怪物たちを持ち駒にして『ゲーム』を続ける何者かによって危機 に晒されてゆく……てな感じなんですが、どうも終始盛り上がりに欠ける展開で物足らな かったなぁという印象。色々考えられる原因はあるんですが、やっぱり紅太郎の性格とA A(エージェント・アビリティの略。特殊能力の事)の地味さも相まって全然目立った見 せ場が存在しないのが問題かなと。黒部やスミレ、白木や光本の方がよほど目立っていて それに紅太郎が食われてしまってる気がするんだよなぁ……。  それに終盤の山場は「おおっ!?」と思わせてくれたにもかかわらず、その後の展開で あっさりと片付いてしまったから、もう少しそこから引っ張って紅太郎を絡めてくれたら 良かったのにと思いましたが。なまじ中盤で少なからず関わりを持っていたから、その辺 の描かれ方の浅さが何だか勿体無かったかも。  ただ、学校での紅の心境、そしてスミレや将子に対する紅の気持ちから良くも悪くも彼 の擦れてない部分がしっかり表現されてて良かったです。今回の話はEMEの任務と3年 前のメンバー紹介だったんだと思う事にして(^^;)、設定は引かれる所もあるので過去 編の『BLACK』もしくは連載の現在編『BLUE』の続刊に内容の方を期待したい。
2002/03/04(月)伝説の勇者の伝説1 昼寝王国の野望
(刊行年月 H14.02)★★★ [著者:鏡貴也/イラスト:とよた瑣織/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]  ドラゴンマガジン誌上の企画として毎年行われている、6人の作家同士が読み切り作品 を発表して読者投票にて優勝者が選出されるという『龍皇杯(ドラゴンカップ)』。本作 は第4回優勝作として、現在もドラゴンマガジン誌上にて連載されています。  その連載中の時間軸から遡った過去の、ライナとフェリスが共に旅立つ事となるまでの 出来事を描いたのがこの第1巻の内容になります。つまり序章みたいなもんですね。  私はドラゴンマガジンの連載も読んでいるので、今回雑誌連載で伏せられていた事が色 々分かってなるほど〜な感じだったのですが、逆に連載読んでない人には今後文庫で収録 される連載分を読んだ時になるほど〜と思えるはずです。今回描かれなかった冒頭でライ ナと結婚の約束してた少女は連載の方で登場してますし。  序章にあたる今回のストーリー構成は正直言ってイマイチ。余りに急ぎ過ぎな展開は、 明らかに無理矢理にでもこの1冊だけで序章をまとめようとしてるのが見えてしまってち ょっとなぁと思いました。連載に追い付かせる為ってのも分かるんだけど、いきなり2年 も飛ぶにはその間で描かれるべき重要な部分が多い気がして、それが見事に端折られてる のはちと勿体無いので、この辺はまた書き下ろしや今後外伝って形で補完して欲しい。  しかしこの作品の最大の魅力は個性的過ぎるキャラ達にあるんではないかなと。ストー リーにキャラを絡ませるんじゃなくて、キャラでストーリーを引っ張ってるような感じ。  ライナの無気力・怠惰の徹底ぶりにはある意味賞賛を送りたいとこですが、なんか読む 人によっては激しく好みが分かれそうだなという印象。『だけど実は……』のお約束のよ うに隠してる実力も特殊能力も持ち合わせてるわけですが、彼の持ち味はそんなとこより も抱いている思想、でしょうかね。ラストのライナレポートは構成の不満を補って余りあ るほど良かったです。昼寝王国の野望とは確かによく言ったもので、シオンが見据えてる 未来よりライナのそんな野望の方が更にずーっと先を見ている。ライナのそんな所に学院 時代よりこれまでシオンは惹かれ続けていて、これからも地位を得た自分にないものを彼 に見出してゆくのかもしれない。……と思うと、引っくり返してみてこの序章はライナよ りむしろシオンの方が主役らしい話だったかなって気もします。  これに対して何となくライナとフェリスのお気楽極楽道中的風味で描かれてる誌上連載 ですが、更に加速するフェリスの予測不能な行動に二人の迷コンビぶり、そして連載のみ の登場キャラなど、今後の展開に連載収録分なども楽しみにしたい所。
2002/03/03(日)AVION〜天界高度戦記〜
(刊行年月 H14.02)★★★ [著者:富永浩史/イラスト:鷲鷹ゆりひさ/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]  主人公の男1人に女の子多数ってのは飽きるほど見掛けるけど、富士見で主人公のお嬢 様1人に野郎が群がってる関係ってのは珍しいんじゃなかろうかと思ったのですが。粗野 で荒っぽいアディンと、気は優しくて力持ちなボリスと、沈着冷静なアレックス。揃って 美形であり少なからずリョーチャの事を気に掛けてたり。  でもリョーチャ本人は鈍いのか恋愛感覚そのものが違うのか、男3人の気持ちを弄んで 楽しんでるように見えなくもないですが。フォルカーとの最初の戦闘後からエスティク向 かうまでの休息は、4人の関係とそれぞれの心情がよく見えて、特に初めて自分の気持を 語ったアヴィンが良かった。リョーチャのあの性格では3人とも色々苦労しそうですが、 この関係がどう変化してくのかって所も次巻以降の楽しみの一つになりそう。  本編で一番の見所はやっぱり最初のフォルカーとの空中戦。機体の性能も操縦者として の技術も差は歴然でフォルカーには遠く及ばないリョーチャが、作戦を巡らせ劣勢に立ち 向かいながら愛機チャイカで空を駆ける所が面白かった。対して終盤の戦闘の方は展開は 悪くないんだけど、どうしても最終的にはボリスの魔法に頼る戦い方だったので(多分一 番頑張ってるのにあまり報われてる気がしない不憫なボリス君(笑))、そこはリョーチ ャの操縦者としての未知の実力を垣間見れるようなシーンとかあったらと思ったのですが。  ただ終盤の方はリョーチャを捕われの父・スラージェンの所へ向かわせなければならな い展開だったので、再度彼女がフォルカーと戦うシーンを見れなかったのは仕方なかった のかも。アレックスとボリスとの戦いで墜落したフォルカーがどうなったかは今回最後ま で詳しく書かれなかったけど、おそらく生きてはいるだろうから、こちらもおそらく次巻 までには操縦者としての実力を上げているであろうリョーチャとの再戦が描かれるのを期 待したい。  結局スラージェンを奪還する事も彼から託された手紙を皇帝に渡す事も出来ず、事件は 外の世界へ広がり隣国を巻き込んで更に大きな事態へと……って最初シリーズ作品とは思 ってませんでしたが(^^;)。今後はタイトルにもなってる天界高度での空中戦とかも描 かれるんでしょうかね〜。と、考えたりで続きが楽しみです。
2002/03/02(土)キノの旅 V −the Beautiful World−
(刊行年月 H14.01)★★★ [著者:時雨沢恵一/イラスト:黒星紅白/メディアワークス 電撃文庫]  旅人キノと、話せる相棒モトラド(二輪車、空を飛ばないものを指す。どうやら第三話 より、バイクは空を飛べるとかで種類が違うらしい)エルメスの諸国放浪短編集。  今回一番面白かったのは……あとがきとか言ったらダメだろうか? というより「おと がそ」ってなんだそりゃと突っ込みたくなってしまった。あと背表紙折り返しの著者紹介 も毎度毎度なんだそりゃって感じでしょうかね。これはこれで次も楽しみだと思ってしま う辺り、まんまと著者の思惑通りに踊らされてる気がしないでもないですが(笑)。  本編の方はいいなと思ったのが第三話「店の話」と第十話「病気の国」。前者は大草原 の小さな店って感じでしたが、傍から見たら「変だ」とか「おかしい」とか抱くような気 持ちとは対極の清々しい気持ちで営業を続ける店長さんが良いです。売ってるモノはとも かくとして(^^;)。後者は大体オチは見えてましたが最後の二行……キノが送ったであ ろう手紙の言葉とそれを見たイナーシャの心情と手紙を胸に抱く行動。これに尽きます。  珍しく終始銃撃戦で描かれていて新鮮に感じたのは、第四話「英雄の国」。ずっと何で こうなったのだろうか? と解かれるのを楽しみにしながら読んでました。ただこれ単体 では戦闘オンリーなのでイマイチだったかな。第五話の方の「英雄の国」と合わせる事で 経緯が分かって納得な面白さといった所。  あといつも戻って読み返してしまうエピローグとプロローグ。何故か今回は読了して読 み返して特に良かったと感じさせられました。これも毎回の事なんだけど、最後から最初 へ繋ぐ構成はさり気なくうまいなぁと思わせてくれます。  既刊感想:
IIIIIIV 2002/03/01(金)キノの旅 IV −the Beautiful World−
(刊行年月 H13.07)★★★ [著者:時雨沢恵一/イラスト:黒星紅白/メディアワークス 電撃文庫]  旅人キノと、相棒で喋ってボケる事も出来るモトラド(二輪車の事。空を飛ばないもの を指す)エルメスの諸国放浪短編集。そういえばキノの旅する世界は一体どれだけ国があ るのだろうか? そして旅人はどれくらいの頻度で存在しているのだろうか? 前者は多 分著者の時雨沢さんのネタが尽きるまでいくらでも(苦笑)。後者はあまり想像出来ない ですが、キノが行く国の先々でよく「旅人が訪れるのは久し振り」と言われまくってる気 がするのでそれ程多くはないのかなと。でもそれはキノとエルメスがわざと旅人すらも敬 遠したがる国ばかり選んで足を運んでるから……という風にも考えられそう(^^;)。  今回は前巻までより更に話数が多目で、より短編集らしい印象でしたが、小粒ながら面 白いネタ満載でどれもこれも良かったです。その中で特に気に入ったのは第十話「橋の国」 で、僅か数ページなのに橋を架けるという作業から気の遠くなるような壮絶な歳月を感じ させてくれる描写は見事。最後の一行はなんかもう凄く良かったです。  仕掛けとして面白かったのは第九話「たかられた話」から第一話「像のある国」への流 れで、読み返してみてなるほどなと。ネタとして面白かったのが第四話「伝統」と第五話 「仕事をしなくていい国」、それから……あとが。最初誤植かと思ってしまいましたが、 しかしここまでまともでない内容でよくボツ喰らわないなぁと不思議なんですけど、キノ のあとがきに限っては今後も変な路線で突き進むのだろうか? まあ稀に見掛けるイタタ なあとがきよりはずっと面白いのでどうぞこのまま行って下さいという感じ(笑)。  既刊感想:
IIIII 2002/03/01(金)キノの旅 III −the Beautiful World−
(刊行年月 H13.01)★★★ [著者:時雨沢恵一/イラスト:黒星紅白/メディアワークス 電撃文庫]  旅人キノと、相棒で喋るモトラド(空を飛ばない二輪車を指す。バイクのようなもの) エルメスの諸国放浪短編集。どの国(もしくは話)にも人と人とが関わる事によって様々 な事態がキノとエルメスの前に提示され、そして結末が用意されてますが、どんなオチが 付いてるのかを楽しみにしながら読み進めるのもキノの旅の醍醐味なのかなぁと。それに よって個人的に当たりか外れかハッキリ差が出る所も面白い。と言っても大外れな話って のは今の所ほとんど存在してないのですが。  今回特に印象に残ったのは第三話「同じ顔の国」と第四話「機械人形の話」。  前者はちょっと気味悪いのもあるかもしれないけど、読んでると国のシステムがなかな か面白くていいな〜と思いました。それにキノが国の見物を楽しめている話ってのはわり と好きで、何よりバッドエンドにはならなかったのが珍しかったので。後者は直ぐにオチ が見えてしまったんですが、話としては一番良かったですね。最後のキノは無情なれど、 だからこそキノらしさを最も感じられたシーンでもあったかなと。ただ今回はシズの話も キノと師匠(かな?)とかの話もあって甲乙つけ難かった。  別の意味で強烈にインパクトを受けたのが第五話「差別を許さない国」で、これまでこ の物語を読んできて絶対足を踏み入れたくないと思った国は多分初めて(笑)。結局伏せ 字だった「×××××」って何だったんだろ? むぅ、気になるなぁ……。  気になると言えばあとがき……こんなんでいいのか〜?(笑) 「あとがきについて語 り合うあとがき」ってなんか訳分からんですが面白いので良しとすべきなのかな。  既刊感想:
II


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