NOVEL REVIEW
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09/10 『ソード・ワールド短編集 集え!へっぽこ冒険者たち』 著者:清松みゆき・秋田みやび 他/富士見ファンタジア文庫
09/09 『進め!未来の大英雄 新ソード・ワールドRPGリプレイ集1』 著者:秋田みやび/富士見ドラゴンブック
09/08 『アニレオン! ヒーローだって恋したい』 著者:葛西伸哉/ファミ通文庫
09/07 『天空の姉妹と雲の騎士』 著者:ゆうきりん/ファミ通文庫
09/04 『夏休みは命がけ!』 著者:とみなが貴和/角川スニーカー文庫
09/01 『Wind−a breath of heart−』 著者:枯野瑛/富士見ファンタジア文庫


2002/09/10(火)ソード・ワールド短編集 集え!へっぽこ冒険者たち

(刊行年月 H14.07)★★★★ [著者:清松みゆき・秋田みやび・江川晃・北沢慶・西奥隆起          /イラスト:浜田よしかづ/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]  リプレイがパーティーシナリオなら短編集の小説は個別シナリオといった感じで、メン バー1人1人を主役として焦点を当てたエピソード。以下5編簡潔に感想。 ・神官戦士の憂鬱/江川晃  パーティーのお目付け役兼知恵袋兼まとめ役兼暴走へっぽこメンバーの歯止め役、ガル ガドさんのお話。目標の到達感で逆に為すべき目標が自らの手をするっと抜けてしまった ような喪失感が彼を襲う! ……というのは大袈裟ですが、結局小言が多くても特に未熟 者に対して面倒見がいいんだよね。そういうガルガドの性質がよく表れていたなと。 ・幸せにいたる道/秋田みやび  貧乏性ハーフエルフ・マウナのお話。リプレイ1巻よりも以前――まだパーティー結成 前の出来事で、元々貧乏だからって以外にも金にこだわる理由があったり幼少時代の彼女 の苦渋の日々が僅かに垣間見れたりで良かった。しかし金金言ってるばかりじゃなく、も うちょっと色気のあるエピソードはないもんかなこの娘は(笑)。 ・グレートソードは筋肉娘の夢を見るか/北沢慶  突撃重戦車娘・イリーナがグレートソードを深く寵愛するお話(ちと違うか?) 何よ りブラックで少々抜けてる性格のグレートソード視点なのが面白い。イリーナの精神を支 配しようと息巻いてるけど、逆に骨抜きにされてしまってるグレートソードは確実に彼女 に惚れたと見た。珍しくイリーナの女の子らしい所が見れたのも嬉しかったかな。しかし この娘も攻撃突撃ばかりじゃなくもうちょっと色気のある(以下略)。 ・ノリスは踊る/西奥隆起  ヘッポコ―ズ中随一のへっぽこトラブルメーカー・ノリスのお話。命がかかってるって のにカケラも緊張感を抱いてなさそで、なのに危なっかしいながらも飄々とやる事やって しまう辺りが実にノリスらしい。でもこの話を読み終わってからキティの本来の素性の方 が激しく気になってしまったというオチ。 ・ゆく人くる人/清松みゆき  最後に残った名ばかりリーダー・ヒースのお話……ではないです(ああ不憫な(笑))。 これだけはリプレイのようなパーティーシナリオで綴られていて、パズル的要素盛り込み なダンジョン描写は図がないとちと分かり難いかなーというのもあったのですが、主目的 はリプレイ4巻と2002年10月号からのドラゴンマガジン連載との橋渡し。タイトル 通りノイスとガルガドとの別れにしんみりしながらも、新たな出会いと新たなメンバーで 新たな冒険を期待させてくれる……という仕上がりになってます。  ん〜ちょっと失敗だったかな〜というのは、全部のエピソードがリプレイシナリオと直 結リンクしてるようなので、リプレイ既刊分読み切ってから短編集に手を付けた方が良か ったかなと。でも一層キャラの特性を掴めたという意味ではとても楽しめました。
2002/09/09(月)進め!未来の大英雄 新ソード・ワールドRPGリプレイ集1
(刊行年月 H13.06)★★★★ [監修:清松みゆき/著者:秋田みやび・グループSNE          /イラスト:浜田よしかづ/富士見書房 富士見ドラゴンブック]  新ソード・ワールドのパーティー『ヘッポコ―ズ』の原点。内容はテーブルトークRP G(TRPG)のシナリオリプレイなので小説と趣は異なりますが、とりあえず今年7月 に刊行されたソード・ワールド短編集「集え!へっぽこ冒険者たち」を読むに先駆けてキ ャラの特性を掴んでみようかと久々にリプレイ集を手に取ってみた次第です。  最初は1巻目だけを立ち読みで済ませようと思ってたのですが……1話読んでへっぽこ なキャラ達――ヒース、マウナ、ノリス、ガルガド、イリーナが大好きになって買ってし まいました。GM(著者の秋田さん)自身がへっぽこだからキャラも雰囲気もへっぽこで 行こうってノリが素晴らしい(笑)。  初心者パーティーだから請け負う依頼もお遣いに毛の生えた程度のものばかりだけれど、 それでも四苦八苦しながら基本的には騒がしくワイワイと行動する様子が読んでいて楽し い。リプレイだからキャラクターそのものよりもむしろプレイヤー達の演じる姿の方がハ ッキリ見えたり、組み立てたシナリオがなかなか思うように進まず歯噛みしたり溜息吐い たりするGMの心情などが窺えたりして面白かったです。  個人的には2話目「どっちの依頼ショー」が一番良かったかな。まあヒースのある意味 奇跡とも言える出目の悪さは必見でしょうか(笑)。短編集読んだらリプレイ2巻以降も 追って読んでみようかと。
2002/09/08(日)アニレオン! ヒーローだって恋したい
(刊行年月 H14.05)★★★★☆ [著者:葛西伸哉/イラスト:オダワラハコネ/エンターブレイン ファミ通文庫]  女同士あるいは男同士の同性愛とか妹が兄を溺愛する近親愛とかのいわゆるノーマルで ない愛の形を、これでもかーってくらいの軽さと『超』が頭に100個くらいくっ付きそ うな程のバカなノリ(誇張一切無し)で見せてくれた物語。話の中身の無さはあまりにも あんまりなので、この評点はどうだろうと付けた自分でも思わず首を傾げずにはいられな いですが、あまりに異常過ぎるバカキャラ達(誉め言葉)が読んでて楽しくて面白くてし ょうがなかったのでどうしようもないです。  一応、マッドサイエンティストな妹に改造手術を施されヒーローにさせられてしまった 主人公が女同士の愛しか認めずそれを世界に広めようと目論む地底百合帝国の野望を阻止 しようと戦う……とかいう話の表向きな筋道は存在していても、そんなもんは途中からス ッキリサッパリどーでもよくなってしまうし。  主人公が作中唯一(比較的)常識人であって人権なくて意見が全く通らないのはお約束 として、まともな男女恋愛要素がここまで徹底的に無視され排除されてるのもなかなか凄 くて見所ではないかなと。まあノーマル恋愛を望んでるのが主人公の圭一だけという状況 からしてそういう展開には絶対行かない気もしますが。惚れてるヒロインの祐衣からして 性格がまともじゃない時点で既に普通じゃなくなってる圭一の恋にああ合掌。  結局はキャラの言動に対して何も考えずに腹を抱えて笑えてしまえるかどうか。極端に 言えば面白さはこの1点のみに尽きるかなと。おそらくそこで引かれてしまうとやってる 内容に果てしない寒さを感じてしまうだろうから。逆にハマれば絶対……だと思う(笑)。
2002/09/07(土)天空の姉妹と雲の騎士
(刊行年月 H14.07)★★★★ [著者:ゆうきりん/イラスト:広川犬介/エンターブレイン ファミ通文庫]  一介の飛行機乗りの少年が同じ空を通じて少女と出会ったり、知らず知らずに大きな存 在(この物語の場合は共和国)の陰謀・謀略に巻き込まれていたり。これらが絡むと内容 としては似通ったものになってしまうかな。というのも過去に読んだもので頭に浮かぶ作 品が幾つかあったからなのですが、それでも面白かったです。  一番はやっぱり何と言ってもキャラクターの魅力。『四姉妹』という枠括りの中でそれ ぞれの性格付けなんかは話の内容よりもっとベタベタなんだけれど(冷静&しっかりもの な長女、ボーイッシュな次女、健気で心優しいヒロインな三女、大人しい妹な四女)、主 にコウに対しての接し方でもろに個性的な部分が描かれていて、書き分けは勿論そういう 引き出し方がうまいなぁと。逆にコウが姉妹達に抱く気持ちもそれぞれバラバラで、お互 いの想いの絡まりを通して一遍に引き込まれてしまったという感じ。  敵方も負けず劣らず良くて、こちらはまだ深い関係の上辺だけしか見られなかったキャ ラもいたけれど(ヴューデとルスト、それからニオ王子との過去など)、ロートンみたい な奴はハッキリと好きです。今後も敵は敵として、彼とコウとは馴れ合いみたいな関係に なって欲しくないってのは個人的希望だけど。敵側では卑屈に泥に塗れながらも誰よりも しぶとく図太く生き残りそうな気がするので再びコウたちとまみえる時が楽しみ。
2002/09/04(水)夏休みは命がけ!
(刊行年月 H14.08)★★★☆ [著者:とみなが貴和/イラスト:浅田弘幸/角川書店 角川スニーカー文庫・スニーカーミステリ倶楽部]  まさに命がけ、タイトル通りの命がけで想像以上の命がけ。瓜生のたった1日の体験の 数々から彼が『命を懸ける』事を描くただ一点それだけを全編に渡って感じられただけで 充分満足出来ました。正直言って最初の方――札ばら撒き事件からやくざに絡まれて密談 立ち聞きの辺りまで、瓜生のどんどん横道逸れてく行動を追うのが結構たるかったのです が、五郎丸と出会ってから俄然良くなってきて瓜生が絶体絶命状態の連続に陥ってしまう 展開に目が離せなくて面白かったです。やくざの取り引きも謎のおかまの事も、ちゃんと 後の伏線となって敷かれてるものなんだなと分かったし。ただ瓜生がずっと持ってた取り 引きの“はぐれブツ”については……結局あのおかまちゃんがラストで説明してくれて初 めて分かったという無知っぷり(ホントに麻薬か何かだと思ってたよ……)。  出掛けの瓜生はほとんど雲を掴むような手掛かりしか持ってなかった癖に、そんな都合 良く五郎丸絡みの事件にぶつかるもんかな? ってのもあったけど後々の瓜生の危機的状 況が凄まじくて、結局そういうのは些細な事と思うようになってたり。  まあ主人公だから死ぬこたないだろ、とか楽観したくても「それはどうだろーな?」と 瓜生が読み手に言い捨てながら窮地に飛び込んでるような気がして仕方なかったです。そ れだけ予断を許さない見せ方が秀逸と感じたわけですが、成り行きで頼まれただけでそこ まで命張るのかよと思わず言いたくなってしまった(笑)。  その後も成り行き任せで死に直面するシーンが幾度もあって、やくざには勘違いで追っ 掛けられるわキレた五郎丸には命狙われるわで散々だったけど、それでも瓜生が引かなか ったのはやっぱり良くも悪くも五郎丸に対する言いようのない想い全てが本能的に彼の身 体を衝き動かしていたんだろうなと。一番印象に残ってるのは、それまで見せられていた 強弱の立場が逆転して瓜生が五郎丸に死ぬ事の恐怖を銃で叩き込んだ瞬間。五郎丸の瓜生 に対する態度の変化はここからだったのかもしれない。事が済んでお互い分かり合っても 馴れ合いにはならない所が実に瓜生らしく、また五郎丸らしかったです。    続きあるかは……微妙? 来年の夏頃にまたこいつらの騒動を起こして欲しいかも。 
2002/09/01(日)Wind−a breath of heart−
(刊行年月 H14.08)★★★ [著者:枯野瑛/イラスト:結城辰也/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]  同名PC18禁ADVゲームのノベライズ。Hシーンカットなのでお子様にも安心で優 しいです……? ゲームの方はさわり程度(OPムービーまで)しかプレイしてないので、 キャラは浅くシナリオさっぱりという前知識で臨んでます。  おそらくゲームでの感想を持ち合わせてない分プレイした人とは感じ方も違うものにな るだろうかと考えてましたが、とりあえず文章だけ見ればいまひとつ、いやふたつ……ど ころか目一杯物足らなかったです。全体的に肉付けが不足してるように思えたので、その 淡々とした語りが物語の儚い雰囲気を演出するには成功してるんだけど、描写が足りない せいで言いたい事が分かり難く伝わってこない所で失敗してるかなと。シーンとシーンの 繋ぎもどこか不自然でちぐはぐな印象だったし……。  内容から大まかに前半がみなも編で後半が彩編という2部構成のように感じたけれど、 その区切りは非常に明確(3章までがみなも、4章からが彩)であると同時にあまりにも 唐突な切り替えだったので「そりゃいくらなんでも端折りすぎだろ〜?」と、しばし呆気 に取られてしまいました。  が、そう言ってしまいたくなるのはゲームをやってないからなのかなとも思うんですよ ね。プレイしてれば少なくともそこに至るまでの流れとか理由は理解出来てるわけだし。 ここら辺、良くも悪くもゲームノベライズの性質がよく表れてるなと感じさせられた所。 纏め上げる為にどうしてもカットしなければならないシーンが多々発生してしまうせいで、 説明・描写不足な箇所が露わになってしまう。けれども原作(ゲーム)のイメージ――世 界観やキャラクターを容易に掴む手段としては適している。もっとも原作の方から先に手 をつけていて、後で比較しながら読めるのがゲームノベライズの本領って気もしますが。  風音市の様子とか街並みとか、多くの市民が違和感なく《ちから》を使えてしまう風音 の特性とか、そういうのはイメージが湧き易くてうまく描けていたなと思います。真とみ なもの約束と恋愛距離を描いた前半部分に関しても、幼馴染み万歳!って事で個人的には とっても満足でした。


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