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12/10 『黄昏の刻 しろがねの転校生』 著者:吉村夜/富士見ファンタジア文庫
12/09 『烙印よ、刃に囁け。SCAR/EDGE』 著者:三田誠/富士見ファンタジア文庫
12/07 『ぱんもろっ! 〜だーれ・が《謎の宇宙巫女》よっ!』 著者:日下弘文/富士見ファンタジア文庫
12/06 『乱破GOGOGO! 僕と彼女と彼女の忍法帖』 著者:八街歩/富士見ファンタジア文庫
12/05 『青く澄んでいく、この恋も未来も 1st ソーサレス』 著者:高瀬ユウヤ/富士見ファンタジア文庫
12/04 『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet』 著者:桜庭一樹/富士見ミステリー文庫
12/03 『ハーフダラーを探して』 著者:水城正太郎/富士見ミステリー文庫
12/02 『ハイスクール・ミッション! トキメキのチャンスは一度だけ!?』 著者:岡村流生/富士見ミステリー文庫
12/01 『僕らA.I.』 著者:川上亮/富士見ミステリー文庫
2004/12/10(金)黄昏の刻 しろがねの転校生
(刊行年月 H16.11)★★★☆
[著者:吉村夜/イラスト:すみ兵/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】
『にゅうっとグランプリ!』ENTRY No.09
『綾』という超能力を有した少年少女達が織り成す学園ストーリー。これは単巻完結で
はなく完全にシリーズ作品を意識した構成。設定としては興味を引かれる面白いものが結
構ありました。“名子人”と呼ばれるごく普通の力を持たない一般人に対し、“稀人”と
呼ばれる超能力人種達が、“名子人”達の先進技術に能力的に引け目や危機感を抱いてい
る点。それから“稀人”にも“名子人”と共存の道を歩もうとする『協会』と、自分達の
存在を脅かす“名子人”を一掃しようと目論む『連盟』との対立や、表向きは一般の学園
という形ながら実は超能力者達の訓練養成校で、校風もちょっと変わっている点など。
能力も千差万別でシングル、ダブルなどの個人差も細かく設定されていて、序盤の学園
ストーリーから中盤以降の超能力を駆使したサイキック・アクションまで、非常に安定し
た面白さで好感触だったと思う。能力が圧倒的過ぎる銀嶺が無敵キャラにならないよう、
持病というハンデを背負わせ歯止めを利かせているのもよく考えられているし、学園史上
最強と謳われていようとも実戦経験皆無な夕姫達の精神的な脆さもしっかり描けている。
しかしながら、このあまりに明かされなさ過ぎな謎に関しては如何ともし難くて、何の
為に最後まで物語を追って来たのかよく分からなくなってしまった。強調すると“唖然と
させられた”とでも言えばいいのか、銀嶺の持つ黒い円盤型のペンダントについて一番最
初から引っ張っておきながら「今はまだ明かせない」……ってそりゃないでしょ!
いや、ここが少しでも分からないと『連盟』がそれを狙っている理由も分からなければ、
3A1のメンバーが何の為にあれだけの危機に陥ったかも分からなくて、とても納得なん
て出来ません。せめて今回の敵方のボスである不知火が明確な意図で動いているならまだ
良かったんだけど、彼もまた上の命令で何も知らされず動いているに過ぎないもんだから
お話にならない。もうちょっと明かしてくれてたらなぁ……。惹かれる要素は上記の通り
一杯あったし、次に繋がる面白さは充分感じられていただけに何か惜しいな〜とか勿体無
いなという気持ちが一杯でした。謎を明かしつつの盛り上がりは次に期待。
2004/12/09(木)烙印よ、刃に囁け。SCAR/EDGE
(刊行年月 H16.11)★★★☆
[著者:三田誠/イラスト:植田亮/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】
『にゅうっとグランプリ!』ENTRY No.08
この物語における『魂』と『烙印』の概念を把握するまでちょっと梃子摺ったりしてま
したが、それ以外は概ね良好。設定からはこの物語ならではの要素で充分面白さが感じら
れたし、キャラクターの立ち位置も分かり易く感情描写による際立たせ方もうまいし、ス
トーリーの組み立て方や纏め方も書き慣れてるなという印象でなかなかのもの。
……なんだけど、読んでいて微妙に物足りなさを抱いてしまったのは何故だろう? 冒
険せずに手堅く纏まっている為、刺激が弱かったからかも知れないし、或いは主人公の弟
くんと年下のお姉さんの絡みが意外と控え目で残念だったからかも知れないし。まあ物語
の一面はキズナと未冬が再会を果たすまでを描いているので、離れ離れのままの展開では
触れ合いが少なくなってしまうのも仕方ない事か。それでもこの結末には満足の一言。
これは見たかったというもので足らなかったのは、キズナが事故に巻き込まれる前の過
去の未冬との生活、『“傷”持ち』になる前の希望に満ち溢れていた頃のヤクシャアの姿
など。あとは『魂成学』の完成されてない研究の奪い合いが主で、究極の身分証明である
所の『魂』『烙印』の使い方としてはちょっと盛り込み具合が薄い気がしたので、そうい
う観点からの『烙印』との日常の付き合い方みたいなのをもっと見てみたかったです。
実はキズナやヤクシャアの『“傷”持ち』のどうしようもない危うさから、常に救われ
ずにあまり幸せでない結末が頭を過ぎっていました。本当に払拭し難い嫌〜な雰囲気のも
やもやで、せめてちひろとはうまく行って欲しいなぁと頼り無さげに願ってたのですが、
終わってみればキズナは収まるべき所に収まってホッと一息。ちひろではなく未冬寄りだ
ったのが少々予想と違ってましたが、殺伐とした中で唯一垣間見れた姉弟水入らずの安息、
そしてちひろとの再会を予感させるこの爽やかな後味は堪らなく良いものでした。
2004/12/07(火)ぱんもろっ! 〜だーれ・が《謎の宇宙巫女》よっ!
(刊行年月 H16.11)★★★★
[著者:日下弘文/イラスト:水月悠/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】
『にゅうっとグランプリ!』ENTRY No.07
エントリー中タイトルが最も問題作っぽくて気になった作品。あえて指摘しなくても大
丈夫だとは思いますが一応。『ぱん』つが『もろ』だし『っ!』の意では一切無いので、
それらしきシーンが無いかぱらぱら頁を捲らないように。作中から『パン』が『もろ』に
消えてしまったのはなんでよ『っ!』の意だと思ったのだけど、全く見当違いでした。
タイトルの本来の意味はあとがきに触れられているのでそっちを参照の事。本編読む前
に知っていようが知らなかろうが特に支障を来すものではないですが、まあ読んだ後で納
得と言えば納得の意味だったから、知るのを最後の楽しみに取っておくのもいいかも。
しかし……それにしても「本当にこの評点でいいのか? 後悔しないか?」と感想上げ
る前に何度自問した事か。まず帯からして既に『不条理系』と記されているので、筋の通
らない辻褄の合わない説明の足りないその他色々な所に、いくら難癖つけても文句言って
も突っ込み入れても無駄です。とりわけさも自然に受け入れられている宇宙人とか未確認
生物との混在には、言いたい事をぶちまけたい気持ちも大いにあるんですけど、それでも
“最初からこの世界に盛り込まれているもの”として決定付けられているからなぁ。
じゃあ一体何が良かったのかと言うならば、主人公・神威靜姫の魅力をキャラクター描
写で最大限に引き出しているという唯一点に尽きる。他のキャラ描写がどうであれ、多々
強引であっても靜姫のキャラクター性で物語を引っ張っていけるようなこの際立たせ方は、
なかなか一人称文章が効果的に作用していて素晴らしいものだなと。何か誉め過ぎかも知
れないけれど、読了した時点で「楽しかった」と思わされてしまったから仕方がない。
頭カラッポにして何も考えないで手軽に読んで欲しい、という著者の意図だとか思惑み
たいなのが本当に気持ち良く乗っている。『トワ・ミカミ・テイルズ』とは作風が180
度違っているのですが、こっちの方が突っ込み所は数多くあれど、著者の方が妙に吹っ切
れた感じで活き活きと楽しみながら書いているな〜というのがよく伝わって来た一品。
2004/12/06(月)乱破GOGOGO! 僕と彼女と彼女の忍法帖
(刊行年月 H16.11)★★★☆
[著者:八街歩/イラスト:てくてく/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】
『にゅうっとグランプリ!』ENTRY No.06
ラブ2:コメディ8くらいの割合のラブコメディ。読む前から予想してた通りのバカノ
リで突っ走ってます。ストーリーにどっぷり浸らせようと意図して仕掛けを張ってる部分
は殆ど何もなくて、とにかくキャラクターのテンションと勢いだけで駆け抜けている。
でも最初からこういうおバカな展開で引っ張ろうとしているから、これだけ単純明快に
少々イッちゃってるドタバタな騒動を描いてくれた方が素直に楽しめる。余計な伏線はこ
の場合却ってバカノリの妨げになりそうなので、面倒臭くないのは良いと思う。
まあ裏を返せば印象に残る特徴はそれだけ、ともなってしまうのですが。キャラクター
の性質、忍者モノな要素、押し掛けヒロインや幼馴染みとの同居生活、その他様々なシチ
ュエーション……などなど、どれも他で見た事あるような気がするせいか新鮮味は薄く、
この作品ならではと言うにはインパクトが弱かったかな? 個人的にはキャラクター性を
重視して押す馬鹿騒ぎな内容って結構好きなので、楽しさは充分だと思うんだけど。
主人公の総太郎はハッキリとお馬鹿丸出しなキャラ。幼馴染みの夢姫が常時ツッコミ役
の比較的苦労人。そして押し掛け従者の静刃は常識知らずの忍者娘。この構図だと割と三
角関係の展開を期待してしまう事が多いのですが、とりあえずこの三人で真っ当な三角形
を描くのは無理……というより無謀と悟った。歪な三角形になってしまう元凶は、多分総
太郎に従う振りして実は自己中心的で行動に歯止めが効かない静刃だろうなぁ。
靜刃の「総太郎様の命令なら何でもこなす」ってのは従者の思考で、好きとは言っても
恋愛感情に全く発展しなさそうなのが何とも。夢姫の方は稀に総太郎に恋愛的好意を向け
るんだけど、やっぱりツッコミ役なギャグキャラの方が色濃いし。総太郎はただのエロ阿
呆だし。せめて総太郎と静刃の過去に別れた経験があるらしい部分を、もっと盛り上げて
くれたら良かったのに。かする程度の曖昧な描かれ方だったのはちと勿体無かったかも。
踊って叫んでツボに託した総太郎と夢姫の願い事は予想が外れた。照れで素直になれな
くて捻くれた感情表現でも明らかに両思いなので、てっきり「相手も自分の事を好きであ
りますように」だと思った。無難な願いで物語を締めてはいたけれど、夢姫はともかく総
太郎がこんな大人しくて行儀のいい願い事で済ませられたのかな、と疑念の眼差しで。
2004/12/05(日)青く澄んでいく、この恋も未来も 1st ソーサレス
(刊行年月 H16.11)★★★☆
[著者:高瀬ユウヤ/イラスト:放電映像/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】
『にゅうっとグランプリ!』ENTRY No.05
んん〜微妙だ。というより惜しいのですよね色々と。ともかく途中で投げたくなったと
してもぐぐっと堪えて、一度最後まで読了してから再度辿った道を振り返ってみれば、お
そらく一度目に触れた序盤の頃の印象とは大分異なって来ると思う。それで個人的には最
初激しく躓いてしまったにもかかわらず、随分とこの作品への好感度が上がりました。
が、全く乗れなかった序盤でいきなりブレーキが掛かってしまったのも事実。いや、事
情は凄く良く分かる。多分ストーリーの核心に触れるであろう仕掛けを、読み手に悟らせ
ない為の処置だったのではないかなと。でも、まるで状況説明のないまま話の中に放り込
まれてしまうので、友が置かれている現状や渉の日常離れしたおかしな行為に、読んでい
る側が全然付いて行けない(一度読み終わった後だとこの辺も納得出来るんだけど)。
更に把握するのにあたふたしている所で、追い討ちを掛けるようにいきなり超能力バト
ルが始まってしまい「これダメかも……」と唖然とさせられたりも。渉や日和の超能力を
駆使した戦いってのは、「この世界にはこういう設定がありますよ」と示す為に描かれて
いるに過ぎない。なのであまり戦闘描写を入れる必要性が感じられなくて。せめて渉が戦
う明確な理由を持たせていてくれてたら、また意味合いは違っていたような気がする。
しかし“友の恋人を探す”という渉の突拍子もない行動に隠された、この物語の仕掛け
が見え始めてからは、じわりじわりと染み入るように俄然面白さが増してゆく。まああま
り意味を見出せなかったスネちゃま絡みの戦いよりかは、渉と友が初めて出逢ったシーン
や友を巡っての日和と涼戸との関係の方を濃い密度で盛り込んで欲しかったですけど。
それでもこれまでの鬱憤を晴らすかのような終盤の種明かしは鮮やかで、胸に余韻を残
す結末の描き方もなかなかバッチリ決まっていてお見事。序盤の乗り遅れが帳消しになる
とまでは行かないにしても、このラストシーンは本当に良かった。最後に残された謎――
渉のおばあさんの素性を、読み手の想像に委ねて幕を引くというのも心憎い演出。
2004/12/04(土)砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet
(刊行年月 H16.11)★★★★☆
[著者:桜庭一樹/イラスト:むー/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】
『にゅうっとグランプリ!』ENTRY No.04
例えば、未来予測を阻む壁を撃ちぬけるだけの弾丸をなぎさが有していたとしたら、あ
の時絶望が待つ場所へ足を踏み入れる藻屑を止める事が出来ただろうか? 危険を予測し
察知して藻屑と共に逃げる未来を選択する事が出来ただろうか? なんて希望を抱いた思
考を巡らせてみたけれど、結局なぎさは弾丸を持っていないから無理だったろうなと。
自分にとって本当に『凄い!』と思った小説はうまく言葉に出来ない事が多くて、でも
「それって考えたくないだけの単なる逃げなんじゃないの?」と自問しては、どうやって
述べたらいいのやらと途方に暮れてしまう。少なくとも私にはそんな類の物語でした。
テーマがこういうものだから、読み手によっては受け入れられなくて嫌悪するか、もし
かしたらそれ以上に憎悪さえ抱くって事があるかも知れない。でも、最初に結末が明確に
提示されていたその通りに、未来への夢も希望も全て打ち砕き、胸の痛みを深く抉り抜く
ような現実だったからこそどうしようもなく惹かれたとも言える。多分心の何処かで回避
してくれる事を期待しつつ、本当は絶望に満ちた結末へと収束しそうな危うさにずっと引
っ張られ続けていたんだと思う。内容的に面白かったとは間違っても言えないけれど、常
軌を逸した要素がある種の魅力と感じていたのは確か。ただし救いは何も無いので、この
作品に対する私の評点は全くアテになりません。ピタリと合えば得られるものはきっと大
きい筈だし、最初の一頁を捲って目を通してみてダメだと感じたら進まない方がいい。
本作もお得意の少女×少女な物語。二人の絡み方が心地良く爽やかでさらっとしている
のではなくて、背伸びしても大人になり切れてはいない少女特有の甘ったるい匂いが全編
に渡って濃密に漂っている感じ。表現としてはネバっとだったりドロっとだったり。
なぎさが藻屑と親密になればなる程、言い様のない危機感が湧き上がってくる感覚はも
う堪らないですね。最初に未来の結末があったとしても、真相が描かれるまで希望と絶望
がせめぎ合い続けてしまうから、胸がぎりぎり締め付けられるような感覚で。二人の親密
な時が結末に多大な影響を与えてくれているので、最後は崩れ落ちてしまいました。
2004/12/03(金)ハーフダラーを探して
(刊行年月 H16.11)★★★☆
[著者:水城正太郎/イラスト:ユキヲ/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】
『にゅうっとグランプリ!』ENTRY No.03
嘘で自らの為の利益を得る『詐術師』と呼ばれる少年と、足を洗いたい犯罪者から依頼
を受けて同じ犯罪者共を駆逐する『罪喰師』と呼ばれる少年――知略に長けた者同士の騙
し合いの物語。まず全編通してずっと引っ掛かり続けていた事は、煉四郎によるどの策略
も、読んでいて妙に状況が把握し辛い描写だなと思わされた点。自分の読解力不足なのか
という自信の無さもあるにはあるのですが、しかしそれを抜きにしても、何だか複雑に描
こうとしいているのが却ってややこしさを招いていると言うのかなぁ。頭でしっかり順序
立てた上で噛み砕かないとうまく把握出来なかったもので(特に煉四郎と多希の目論みが
絡む終盤の騙し合いとか)、もうちょい状況を掴み易くしてくれても良かった気がする。
それでもお互い相手の素顔を知らないままで、最後の最後まで顔を合わせずに騙し合い
の勝負を続けてゆくという展開には、なかなか楽しませて貰えた部分が多かった。最後に
露湖子の描写が抜けていたのが不満でしたが、煉四郎と多希の間を繋ぐ仲介役のような魔
夜美の存在感も、充分面白い方向で際立っていたし。まあ個人的にはちょっとキャラクタ
ーの表現が美形美麗を強調し過ぎてて、どうだろな〜と鼻に付いたりもしたのですが。
しかしこういう展開で幕が下りてしまうと、さすがにこれ一冊でお終いでは済ませて欲
しくない。話の流れから言っても今回のラストが煉四郎と多希にとっての本当のスタート
ラインで、盛り上がってゆくのはこれからなのだから。この二人を繋げる過去の接点につ
いては、大体途中で読めてましたが(状況説明はややこしいのだけど、こういう伏線は分
かり易い)、まだ過去について結構ぼかされている部分があるので気になる点は多い。
2004/12/02(木)ハイスクール・ミッション! トキメキのチャンスは一度だけ!?
(刊行年月 H16.11)★★★
[著者:岡村流生/イラスト:ゆい/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】
『にゅうっとグランプリ!』ENTRY No.02
詐欺をテーマにした主人公と敵役との騙し合い。この物語が目指していた『コンゲーム』
という題材とはそんな感じのものだそうで。私は言葉は聞いた事あるけど意味までは分か
らなかった程度の知識で臨んだのですが……あれ、そんなテーマをメインに掲げた内容た
っだっけ? 確かに騙し騙されはあったけど、それより“典型的なドジッ娘が墓穴を掘り
まくる話”な印象の方がどうも強くて。いや、もっと色々落ち着きなさいよと思わず気遣
いたくなるような、蘭の滑稽なドタバタっぷりには結構笑わせてもらいましたが。
でもコンゲームを描いた物語として見るならば、ちょっと変な方向に行ってしまってる
ような気がしてならない。コンゲームってものをよく把握出来てないままで触れたので、
もしかしたら本当に気のせいかも知れないけれど。もしこういう作品をコンゲームと言う
んだなと信じた場合、どうも間違った知識を植え付けられた気分にさせられてしまい不安
感一杯なのです。コンゲームを目指していて途中で崩れたと見るべきなのかなぁ……。
騙し合いの構図は昼行灯クラブ(生徒会)VS吹雪摩耶となるわけですが、これだとま
ず摩耶側の描写が全く足りてない。更に昼行灯クラブの成り立ちや過去の実績などの詳細
も全然語られてないので、これで物語を盛り上げて行くには色々不足していて厳しい。
せめて両サイドの目的の為の騙し騙されの展開みたいなのが主軸だったら良かったんだ
けど、そっちは脇寄りで主に描かれていたのは蘭の空回りまくりな行動ばかり。そこが楽
しい部分もあったのでダメと全否定はしないけど、詐欺の騙し合いで描くなら蘭って最も
要らない存在なのでは? とか酷い事言ってると自覚しつつも実はそれが本音。
それからあの変装はさすがに無理あり過ぎ。ただ、騙されてるのが単純お馬鹿さ加減が
滲み出てる面子(蘭と藤波先生と誘拐犯の古島さん)のみなので、気付けないのには激し
く納得。これを意図的に狙ってやってるのならちょっと拍手したい所。スタンガンを奪わ
ないで逃げているのも、どこか抜けてる蘭らしさが出ていて案外良い感じなのかも。
今回だけで完全決着とはならなかったので、続くなら今度は双方の策略をハッキリ見せ
つつ騙し合いを展開して欲しい。キャラクターは面白くて好きな奴が結構居るのでね。
2004/12/01(水)僕らA.I.
(刊行年月 H16.11)★★★★
[著者:川上亮/イラスト:BUNBUN/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】
『にゅうっとグランプリ!』ENTRY No.01
一冊の中にネタバレ抵触してしまう箇所が意外と多いので、あんまり深入りした物言い
は躊躇われてしまうのですが、何はともあれ帯にある『恋物語』ってのはかなり間違って
いるから要注意。この作品のテーマは『恋』じゃなくて『愛』ですね。口絵のエイジの独
白を読めば把握出来るでしょうけど、主に描かれているのは僕と姉と妹との『家族愛』。
一応“ミステリー”が頭に付いているレーベルらしく、最初に謎を提示してから徐々に
解き明かしつつ先へと進めてゆく展開。突然エイジ、姉のリリコ、妹のイクミの三人の中
を、『チカ』と名乗る四番目の人格が交互に入れ替わり始めてしまうというのが謎。
核心に触れるも何も既にタイトルがズバリそのものを指しているので、何とも言い様が
ないんですけど、含まれている意味の程は読み進めれば分かります。頑張って物語を引き
続けている要素は、元々三人分しかない肉体の中に四人分の精神が存在している為、安定
させるには誰か一人の精神を消滅させなければならくて、では“一体四人の中で誰の心が
消えてしまうのか?”という点。ここはうまく読み手の興味を擽りつつ、本当に最後の最
後まで誰が消えるかを明かさず引っ張り抜いてくれているのでなかなかの好感触。
ただ、メインで描かれているのは最後まで間違いなく家族愛なのだけど、一番最初から
謎を抱えた状態でエイジを始め皆の目がそちらに向きっ放しだったので、三人の絆を充分
に得られるだけの日常描写がもう少し欲しかったかも。他にイクミが色々知り過ぎている
のに対して、納得させられるだけの説明がちょっと弱かったような気もしました。
しかしながら多少の不満点を差し引いても、最後に用意されていた仕掛けで見事にやら
れてしまったので概ね満足しています。結末は望んでたものとは違っていたけれど、だか
らこそ強く印象に残ったとも言える。これで異変が起こる前の家族の団欒をもうちょい盛
り込んでくれていたら、更に個人的評価は上昇していたと思う。心残りはそれだけ。
あとがきのあれは反則的と言えばいいのかずるいと言うべきなのか……そうは聞こえな
くても誉め言葉です。これはなるべく我慢してでも本編の後に読んで欲しい。きっと重み
が全然違って来る筈。全てを物語る最後の一行を見て泣きそうになってしまいました。
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