NOVEL REVIEW
<2004年12月[中盤]>
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12/19 『流血女神伝 暗き神の鎖(中編)』 著者:須賀しのぶ/コバルト文庫
12/18 『タクティカル・ジャッジメント6 湯けむりのデスティニー! 大舌戦編』 著者:師走トオル/富士見ミステリー文庫
12/16 『かりん 増血記4』 著者:甲斐透/原作:影崎由那/富士見ミステリー文庫
12/15 『さよならトロイメライ Novellette―ノヴェレッテ―』 著者:壱乗寺かるた/富士見ミステリー文庫
12/14 『イレギュラーズ・パラダイス3 黄色い仮面のリバースホーム』 著者:上田志岐/富士見ミステリー文庫
12/13 『しずるさんと底無し密室たち The Bottomless Closed-Rooms In The Limited World』 著者:上遠野浩平/富士見ミステリー文庫
12/12 『しずるさんと偏屈な死者たち The Eccentric Dead In White Sickroom』 著者:上遠野浩平/富士見ミステリー文庫
12/11 『ROOM NO.1301 #4 お姉さまはヒステリック!』 著者:新井輝/富士見ミステリー文庫


2004/12/19(日)流血女神伝 暗き神の鎖(中編)

(刊行年月 2004.08)★★★★☆ [著者:須賀しのぶ/イラスト:船戸明里/集英社 コバルト文庫]→【
bk1】  これまでカリエは幾度も大きな岐路に立たされては過酷な選択を迫られ、絶望に打ちひ しがれては這いつくばってでも必死で生きる道を探し求め、自らの手で運命を切り開いて 来たのだと思っていたし信じてもいた。でも、それが「全て最初から流血女神によって用 意されていた運命だったんだよ」、とザカールのクナムに非常に説得力のあるお言葉で捻 じ伏せられてしまっては反論の仕様もない。たとえ反論したくても、こうもリウジールの 語る通りにカリエの運命が乗せられてしまうと、項垂れて崩れ落ちる事しか出来ない。  と、まあこんな心境でした。序盤でミュカとの会話があったり、それからようやくエド がカリエの心の支えになってくれるシーンを存分に拝めたりで、初期の頃の懐かく心地良 い雰囲気に浸れてたのに……最後こんな幕引きですか! まだ終わりじゃないので希望は 捨てたくないけど、リウジールの圧倒的で異常な強さを目の当たりにしてはお先真っ暗と しか言い様がなくて、もうこの嫌な空気が堪らない。最後泣きそうになってしまった……。  しかしながらミュカとエドの事で初期の懐かしさに浸れたのは凄く嬉しかった。特にエ ドは、エティカヤ編でどんどんカリエから離れてゆく上に出番すら大して貰えなかったか ら、こういう形でのカリエとの触れ合いをずっと待ってたんだよ〜という感じで。しかも 任務に縛られる事が無くなり自由に動けるようになったので、微かな希望の一つになり得 る可能性もあるんじゃないでしょうか? 少なくともこれまでよりはぐっと活躍の場が増 えそうな予感はある。それにサルベーンや久々に騒がしい姿が見れたトルハーン達を巻き 込みながら、どんな形でカリエを捕えたリウジールに迫ってゆくのかも気になる所。  この重苦しい空気の中で、トルハーンやミュカ&イーダルのとぼけた感じの軽い会話は、 どこか物語の救いとなっているのかも知れない。沈没しそうで沈み込ませない明るさを持 った希望というのかな(もっとも、この一部のあっけらかんとした雰囲気が逆にリウジー ルの絶望的な存在感を一層際立たせていたりもするんだけど)。ともあれカリエにはこの 流血女神が敷いた運命に逆らい、自力で新たな道を切り開いて欲しいと願うばかり。    既刊感想:流血女神伝 帝国の娘 前編後編             砂の覇王              女神の花嫁 前編中編後編             暗き神の鎖 前編       天気晴朗なれど波高し。 2004/12/18(土)タクティカル・ジャッジメント6 湯けむりのデスティニー! 大舌戦編
(刊行年月 H16.12)★★★★ [著者:師走トオル/イラスト:緋呂河とも/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【
bk1】  雪奈と伊予が帰ってしまったので色気が無くなり、更に立て続けの殺人事件の裁判で疲 れを取る事も出来ず、「全くクソッタレな温泉旅行だ」と善行がぶちぶち文句を垂れてい そうな温泉旅行の後編。これまでは一巻解決が基本だったので、登場人物の顔見せを兼ね た善行との関わりを見せる→殺人事件発生→依頼を受けて事前捜査→法廷バトルであくど い手段を展開→真相を暴き解決へと導く――これらを全て一冊に収めていた。  しかし今回は前後編で二段構えの事件をじっくり描いてくれていたので、より一層法廷 での駆け引きを堪能出来て非常に満足度が高かったです。この後編は、既に前巻から引き 続き登場している関係者を再度紹介する手間が要らず、また事件の解説も簡潔に済ませら れる。その為、ほぼ一巻丸々使って再登場で雪辱に燃える東ヶ崎検事と善行との壮絶な法 廷舌戦を楽しめるという仕組みで、前半控え目だったのを見事盛り返してくれました。  特に最終弁論から真相に辿り着くまでの終盤は本当に面白かった。ただ、こういう場合 は真犯人が誰かを考えるのが一番先頭に立つような気がするんだけど、この作品って善行 がどんな姑息な手を使うんだろか? という部分が一番楽しみになってるんだよな〜。  東ヶ崎検事は多分後半戦で出てくるだろうと思ってたし出て来て欲しいとも思ってた。 なのでその辺りも望み通りだった訳ですが……何かが彼には足りない。これは初登場で善 行と当たった時も感じた事で「じゃあ一体それは何だ?」と自問してみた所、どうも私は もっともっと善行が崖っぷちまで陥れられ追い込まれる様を拝みたいらしい。そういう追 い込み方が東ヶ崎検事はまだまだ甘い! これじゃ足りない! って事なのかも。  それでも今回は前よりずっと接戦を演じて善戦してたと思うんだけど、ねちねち嫌らし く攻めてはいながらどことなく“清潔”なイメージなもんで、善行の“汚れ切った”イメ ージに負けているような印象なのですよね。被告人が冤罪ならば最終的に善行が勝つのは 決定事項なのだから、検事側も善行みたく「どんな手を使ってでも有罪にしてやる!」く らいの気概で、反則スレスレの手段を試みてでも善行を窮地に追い込んでくれたら面白そ うなんだけど。でも東ヶ崎検事にはこのまま沈んで欲しくないので、今後も善行のライバ ルキャラとして、脅威を感じさせるくらいの存在感で立ちはだかってくれたらなと。  既刊感想:SS 2004/12/16(木)かりん 増血記4
(刊行年月 H16.12)★★★☆ [著者:甲斐透/原作・イラスト:影崎由那/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【
bk1】  原作コミックの小説版四巻目。毎回コミックの合間に起こった出来事という設定+小説 版オリジナルキャラクターを登場させて描いているのは今回も一緒。夏休み中に、果林と 健太とオリキャラの木島秀実とで三角関係が発展するかどうか、というエピソード。  しかしなぁ……いくら対抗馬をぶつけて三角関係に持って行こうとした所で、当人同士 が否定していても果林と健太の結び付きはどうやっても解け様がないもんだから、せめぎ 合いでの正三角形は絶対出来ないなと確信。つまり対抗馬が涙を呑むのは必然であって、 要は「お前ら(果林と健太)もういい加減どっちでも良いからさっさと相手に告ってくっ 付け!」と言いたい訳ですな……毎度の事だけど。何となく読み手のじれったさを掻き立 てて、そんな風に言わせる事こそ著者の意図なんだろか? という気がしてならない。  三角関係云々はさておき。今回の秀実の過去の記憶に関する伏線は、種明かしの終盤ま でこちらの興味を引っ張ってくれていたし、最後にきちっと回収出来ていたので、無難な 纏まりながらなかなか楽しませてもらえました。引き際も潔くてキャラクターとしての好 感度も高めだったし、これで果林の気持ちがもうちょっと秀実の方に揺れてくれたら言う 事無しだったんだけど。それでも健太への気持ちは不動のものなので文句も萎む。  ただ、いつまでも「単なる友達」と自分の心を誤魔化し続けていると、段々読んでいて ウンザリして来ないかな〜なんて心配も微妙に抱えていたり。進展しないじれったさを感 じさせてくれるのがこの物語の持ち味と思いつつ、そろそろ距離が縮まるようなイベント を与えてくれてもいいんじゃない? と期待を寄せて望んでる部分もあるのですよね。  でもまあしばらくは静観で見守ってみたいです。もし果林と健太が本当にくっ付いてし まったら、そこでこの作品の持ち味が消えてしまいそうでそれもなんだか面白くないなぁ とか。「さっさとくっ付け!」とか言っときながら矛盾してるんだろうけど、結局そうな って欲しいような欲しくないようなバランス感覚で楽しめているのかも知れない。  既刊感想: 2004/12/15(水)さよならトロイメライ Novellette―ノヴェレッテ―
(刊行年月 H16.12)★★★★ [著者:壱乗寺かるた/イラスト:日吉丸晃/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【
bk1】  ドラゴンマガジン掲載分と書下ろしを含めた短編集。中身LOVE十割。ミステリー要 素なんてあったっけ? な内容。微かに謎を含ませたシーンもあったような気はしたけれ ど、この短編集は明らかにミステリーを外しに掛かっているので、そういう部分が限りな く薄かろうとあんまり問題じゃない。むしろ大掛かりな謎仕掛けを含む程に微妙になって しまっている本編よりも、冬麻・泉・都に加え八千代も含めた四角関係なシチュエーショ ンを目一杯押し出しているこちらの方が、キャラクターの旨味を充分に出せていて良い。  今回はとにかく大抵どのエピソードも、冬麻の視点から泉と都のどっちを取るかで翻弄 されまくっている姿を素直に描いているのが好感触の一つ。まあ多分読み手の嗜好によっ て、誰とくっ付くのが好ましいのか様々な意見があるでしょうけど、今はまだ泉と都のど ちらにも転べそうな勢いなので興味はそう簡単に尽きそうにない。更に肝心の冬麻の気持 ちが固まって来るとか、或いはもし自分の想いに整理がついていない八千代が本格参戦す るようになると、またこれまでとは別の感覚で楽しめそう。個人的にはどうやら泉は妹的 感覚でしか見れてなくて、八千代はまだ意思表示が明確でない上に都の為に気持ちを押し 殺すタイプのようだから、都と惹かれ合うのが自然な流れだと信じてるのだけど。  もし次の短編集があるなら是非またこの雰囲気でやって欲しい。長編はおそらく過去と 現在の《トップ3》関連をメインに据えて、それが複雑に入り乱れてこじれて描かれて行 くような予感があるので(謎解き仕掛けも含まれそうだし)、短編はその辺を抜きにして 単純に冬麻とヒロイン達のスキンシップを見せてくれたらいいと思う。でも、最後の長峰 と阿久沢の関係みたく、過去の《トップ3》について色々語ってくれるのもそれはそれで 嬉しい。何せ名前だけは幾度出ていても詳しい素性の手掛かりが少ないものだから。  既刊感想: 2004/12/14(火)イレギュラーズ・パラダイス3 黄色い仮面のリバースホーム
(刊行年月 H16.12)★★★☆ [著者:上田志岐/イラスト:榎宮祐/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【
bk1】  もうミステリーである事は殆ど意識してなさそうで、これじゃどう読んでもファンタジ ー寄りだぞと突っ込み入れるのも既に飽きてしまった潔さ。もっともこのシリーズに関し ては別段ミステリー重視であることに拘ってないし、まだ物語に張られた伏線が全部回収 されたわけではないので、追ってみたいと思わせてくれる謎も尽きてはいないけど。  ただ、今回読んでみた感じではストーリーの主軸をどこに据えたらいいのか迷走してい るような印象で、ちょっと手応えが微妙だった。描くべき点は大きく二つあって、一つは ケリポット図書館会員を一年以内に千人集める事について、もう一つは世界を消滅させる 程の威力を秘めた赤い童話DDDの謎と争奪戦の行方について。この二つの要素を融合さ せて行くのが最も面白くなりそうな描き方だと思うんだけど、今の所はどうもどっち付か ずの中途半端感が、盛り上がり切れない要因になっているような気がしてならない。  そうは言ってもどちらも関連性が薄く独立して成り立っている要素なので(例えばDD Dの奪い合いが起こっても、それが会員増量には結び付き難かったりとか)、どっちかを メインに立てた方がいいのかな〜とも思う。個人的にはレクトやヒャッカを筆頭にしたマ ガイモノ達などのキャラクターの個性が結構好きなので、喜怒哀楽を思いっきり表面化さ せてドタバタ騒動起こしながら会員千人集めてゆく過程の方が見てみたいかなぁ。  DDD関連に触れておくと、今回の黒幕はあんなに含みのある語りを連発しておきなが ら、最後こんなにあっさり片付いてしまっていいんですか〜? と。新たな敵出現な彼女 はもっと後々まで尾を引くと思ってたんだけど……アテが外れた。テレウスも何か敵役っ ぽくなくなってきちゃったみたいだし、こういう展開だと今後のDDD争奪の敵役はベト ノワール図書館館長って事になるのかどうか。レクトと直接的な対面シーンはないけれど、 図書館同士の因縁とかあれやこれやと隠れていそうで、こちらも少々興味を引かれる。  既刊感想: 2004/12/13(月)しずるさんと底無し密室たち The Bottomless Closed-Rooms In The Limited World
(刊行年月 H16.12)★★★☆ [著者:上遠野浩平/イラスト:椋本夏夜/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【
bk1】  構成は前巻と一緒で、雑誌連載の短編の合間に書き下ろしの『はりねずみチクタの冒険』 を挟み込んだ内容。そういや前巻感想ではチクタに関して全く触れなかったけれど、これ はミステリーとは関係なくして、よーちゃんとしずるさんの戯れシーン強調の為だけに存 在している要素なのでしょうかね。相変わらずミステリー的な部分よりも、この二人がい ちゃいちゃする部分に最も力を入れた描き方をしている様にしか見えないので、そこを更 に強調して読み手に伝える意味で『チクタ』はうまい挿入の仕方なのかも知れない。  やっぱりどう読んでも二人の触れ合い意外にミステリー要素が存在する短編エピソード より、純粋に二人の触れ合いだけで描かれている『チクタ』エピソードの方が二人のいち ゃつき度合が高いのでね。ミステリー作品としてこの組み立てはどうよ? という首捻り もあるにはあるんだけど、二人の親密さが余計に拝めるならそれでいい……のかな?  今回もタイトル通り“密室”事件がメインテーマ。ただし“密室”と聞いて私がパッと 頭に思い浮んだイメージとは、随分異なる視点で描かれていた密室ばかりでした(そうい うイメージと違わずのエピソードだったのは『七倍の呪い』くらいで)。いや、でもそれ がダメって事はなく、むしろ面白い試みだなと興味深さで惹かれてた方が大きかった。  ただ、どのエピソードも謎解きで真相を明かす辺りが妙に把握し難かったというか…… それとも単に理解不足なだけだったんだろか。腑に落ちて「スッキリした!」ではなく、 「あ、ああ、そういう事、なの、かな?」というやや曖昧な感触で。要は“マイペースで どんどん解いてゆくしずるさんに置いてけぼり喰らって唖然となってるよーちゃんの気持 ち”なのかなこれは。その辺りが気持ち良く通過してくれなかったので少々下降気味。  『しずるさんの病状』『よーちゃんの素性』『しずるさんとよーちゃんの馴れ初め』と かはサッパリ明かす気が無いらしく。ヒントらしいヒントが出されたのは、どうやらよー ちゃんの名字が凄い力を持っているという事だけ。これらも気長に待つしかないか。  既刊感想:しずるさんと偏屈な死者たち 2004/12/12(日)しずるさんと偏屈な死者たち The Eccentric Dead In White Sickroom
(刊行年月 H15.06)★★★★ [著者:上遠野浩平/イラスト:椋本夏夜/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【
bk1】  重い(らしい)病状で病床から離れられない少女・しずるさんが探偵役となり、お見舞 いにやって来るもう一人の少女・よーちゃんから聞かされる様々な殺人事件の謎を解き明 かしてゆく、という安楽椅子探偵モノ。内容は雑誌連載分収録の連作短編、推理や謎解き も長さに見合ったもので割とお手軽。タイトル通りちょっと素直に解決出来ない捻くれた 死を遂げている『偏屈な死者たち』と、大概“事実を知りたいよーちゃんの為”を理由に 気だるそうに死者の残した謎に触れてゆくしずるさんとの知恵比べ。もっとも、しずるさ んにとっては取るに足らない謎ばかりのようなので最初から勝負になっていない模様。  歯応えのある謎解きを求めていると少々物足りないと感じるかも知れませんが、どのエ ピソードも軽く脳を刺激させられる程度の面白さはあると思う。個人的にこの作品で最も 楽しむべき点は、間違いなく事件の推理を通してよーちゃんがしずるさんといちゃいちゃ する部分だろうと勝手に決め付けたので、余程酷い出来でなければ推理謎解きの描き方に はあまり拘ってません。短編程度の分量でも読みながら楽しめていたので問題無し。  謎と言えば事件の謎より、しずるさんとよーちゃん自身についての方が比較にならない くらい謎。主に知りたいと望んでいる『しずるさんの病状』『よーちゃんの素性』『しず るさんとよーちゃんの関係』辺りは本当にノーヒントに近い謎っぷり。僅かに描かれてい たのはよーちゃんが只者じゃないって事くらいか。でもこれらのついては最初からまとも に明かす気が無さそうな感じだったので、多分今後も分からないままなんだろうなと。  よーちゃんが絶えず事件を探してしずるさんに提供しているのは、それを止めるとしず るさんの命も止まってしまうかも知れない……と危機感を募らせているように見えて仕方 がない。どうもしずるさんは不治の病レベルの重い病状らしい感じなのだけど、殆ど触れ てないのから何とも言えない。よーちゃんも普通の病気じゃないのを感じ取っているから こそ過敏なまでに気に掛けている気もする。でもまあ情報を集めて見舞っているのは、案 外しずるさんとコミュニケーションを密にしたい口実だったりするのかも知れない。 2004/12/11(土)ROOM NO.1301 #4 お姉さまはヒステリック!
(刊行年月 H16.12)★★★★ [著者:新井輝/イラスト:さっち/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【
bk1】  幕引きが衝撃的だったホタルとの続き。でも、実姉の関係は唐突に終わります。その場 でのバレ方は深い感情込みの描写ではなくて、意外と淡々と語られていました。驚愕し嘆 き嗚咽する状況ではあっても、そういう動作が目だけで確認出来て肝心の音が全く聞こえ て来ないようなそんな印象。両親の反応からしたらごく当たり前のものと思いつつ、どう してよりにもよって求め合おうと決めた今日この時に……と心から感情がするりと抜け落 ちてしまった健一の乾いた気持ちも、これまでとはちょっと違った感触で何とも言えない 苦味が尾を引いてしまった。これは健一とホタルの関係がバレた衝撃よりも、その後に健 一の心がずるずると音を立てて引き摺り続ける方を重点的に描く意図があったのかなと。  これで完全に二人が切れたとは思わないけれど、しばらくは修復不能だろうなぁ。まず ホタルとの肉体関係を片隅で抱え込んでいる健一が吹っ切れないと。ある程度確定した未 来は毎度見え隠れしてるんだけど、その時点で健一とホタルの関係がどうなっているかは 描かれていないので、またいずれ何処かで引き合う事を期待しながら待つしかないか。  そして今回と次巻に跨ってのメインであるシーナ=窪塚日奈&佳奈姉妹編に突入。姉妹 編と言っても健一と深く関わってるのはシーナの方。佳奈は今の所日奈を通じて間接的に 関わっているような感じで。彼女に関してはずっと何らかの引き金でスイッチが切り替わ る二重人格かと思ってたんだけど、実はそうじゃなくて完璧に演技してたわけですな。  エピローグで事情が分かると、一気にぐっと込み上げてくるものが抑え切れなくなりそ うで参った。シーナって今の健一と非常に似た者同士で、まだシーナ&バケッツのストリ ートミュージシャンとしての仲間同士な意識が強い。けれども日奈の佳奈への想いが転が る方向次第では、健一と傷の舐め合いになりそうな可能性もありそうで恐いです。  千夜子とは相変わらず他人行儀な付き合いで、こっちも別の意味で眺めていて切ないし、 冴子とはセックスフレンドな位置でだらだら〜な付き合いが続いてるし、これでどうやっ たら時折垣間見える未来の状況に落ち着くのかな? と経緯が気になりっ放しのこの頃。  既刊感想:#1#2#3


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