NOVEL REVIEW
<2003年01月[前半]>
] [戻る] [
01/10 『イリヤの空、UFOの夏 その2』 著者:秋山瑞人/電撃文庫
01/09 『イリヤの空、UFOの夏 その1』 著者:秋山瑞人/電撃文庫
01/08 『リバーズ・エンド3 free the birds』 著者:橋本紡/電撃文庫
01/06 『灰色のアイリスIII』 著者:岩田洋季/電撃文庫
01/05 『灰色のアイリスII』 著者:岩田洋季/電撃文庫
01/03 『頭蓋骨のホーリーグレイルIII』 著者:杉原智則/電撃文庫


2003/01/10(金)イリヤの空、UFOの夏 その2

(刊行年月 H13.11)★★★★☆ [著者:秋山瑞人/イラスト:駒都えーじ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1・正しい原チャリの盗み方・後編  読んでるとどうしようもなく浅羽感情モード。つまり伊里野が語る事は全然理解出来な いくせに、質問はダメと言われたのもかかわらず、何かに突き動かされるように伊里野を 知りたい衝動に駆られてしまう。根幹に流れるものの説明一切無しな突き放し方が、逆に 計算したような狙いで効いてるなという印象。もうこの辺は語られてる中身から手探りで 掴むしかないんだけれど。あとは水前寺と浅羽(妹)の肉弾戦。兄に対する気持ちにやっ と本音が出たな妹よ。案外潜在的にブラコンなんじゃないだろか? それから伊里野は何 気に殺し文句を呟く事が多い。「浅羽の好きにして」なんて言われた日にゃ……ねえ。 ・十八時四十七分三十二秒・前編  学園祭準備編。何かこれでもかとばかりに真っ当な学園ラブコメだな、と思わせといて やはり裏でちらつく影は園原基地と“戦争”の二文字。これだけ軍人さん達が行き交う現 実がごく当り前の平穏な日常の一部なってる。この事実から得体の知れない危うさみたい なものを抱かずにはいられないと。しかしそんなの知ったこっちゃないの学園祭準備段階 の熱気や高揚感も負けず劣らず。伊里野の書いた「せみ」が微笑ましいくらい印象的(作 中そういう雰囲気ではないんだけど)。 ・十八時四十七分三十二秒・後編  学園祭実行編。夜中も早朝も含めて休み無しの2日間ぶっ続け、現実にはまず無理で不 可能だけど、こんな学園祭だったら楽しくて面白いだろうなぁと思わせてくれるシーンは 両指に余る程。晶穂の感情も浅羽に対して理不尽なくらい分かり易く出ていてにんまりで した。ファイアーストームの事は浅羽の取った行動を知る前で終わったので、おそらく遺 恨を残す形で次巻のアレに続く。ただこれらの喧騒を一瞬にして忘れ去らせてくれたラス トダンスにはもう脱帽するしかなくて、あの表現描写にはホントに鳥肌立ちました。 ・番外編・死体を洗え  伊里野の背後・その1(その2は椎名真由美)の榎本っぽい男の語りっぽいのがメイン。 正直この話にどんな意味があるのかとか木村に何が見えたのかとか電話越しの女子隊員に 何か起こったのかとか、あんまりよく分かってないです。あれこれ想像してこうだろうか と考えるのだけは幾らでも出来るんだけど、とりあえず裏の状況がまともな説明無しの状 況だから頭に留めて軽く流しとこうかという感じ。  既刊感想:その1 2003/01/09(木)イリヤの空、UFOの夏 その1
(刊行年月 H13.10)★★★★☆ [著者:秋山瑞人/イラスト:駒都えーじ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  基本的な事柄(例えば浅羽がプールで伊里野と出会う)に、重要だったりどうでも良か ったりの描写を重ね着させて装飾しながら構築している、という印象の三人称文章表現に 凄く惹かれるものがあります。キャラクターも好きだし世界観の雰囲気もストーリーも好 きだけれど、それ以上に三人称による表現描写が一番好きなんですよね。 ・第三種接近遭遇  少年がひと夏の終わりに少女と出逢う話。そして状況理解する前に少女と別れてしまっ た少年が後日頭の中で悶々悶々想像妄想巡らせる話。伊里野の鼻血にちゃんと意味がある ものとはこの時はまだ分からなかった。けど浅羽同様に唖然したのは確か。プールサイド で出逢った美少女→人間じゃない?→宇宙人?→で、鼻血たらり→普通じゃない→何者? →気になる存在→ほれお前はもう伊里野に釘付け……浅羽が転ぶのも無理はないなと。勿 論読んでる方も。二学期で彼女が転校生として再会するのはお約束、と。まあこの時点じ ゃハッキリしてない伊里野よりもハッキリキッパリな晶穂の方が好きなんだけれど。 ・ラブレター  伊里野と関わり水前寺を通じて、これでもかとばかりに押しが弱く状況に流されまくり な性質が明確になってしまう浅羽。避難訓練という見せ掛けで伊里野とあんなことこんな ことが本人そっちのけで周囲に”あった事にさせられてしまう”とは哀れ……って雰囲気 でもないんだよなぁ浅羽の様子を見る限りでは。そう思わせるのは伊里野と『二人だけの 秘密』を共有したという事実があるからか。しかし伊里野は普段が無表情無反応なだけに、 猫の悪戯を指摘されてあからさまに慌てふためく仕草なんてのはホント反則的に可愛いで す。で「浅羽がいるから」がトドメの一撃。ただ私はどうも晶穂支持気味なので、嫉妬? 全開の強烈ビンタも同じくらい印象的で、好感度急上昇の伊里野とせめぎ合いな感じ。 ・正しい原チャリの盗み方・前編  浅羽と伊里野のどきどき初デート、がメイン視点にならないのが面白い所。それを覗き 見る連中視点がメイン。それから浅羽(妹)登場。一体誰のどこのケが生えたのか詳しい 説明はないのかと思いつつ、兄貴を嫌悪しながら一方で気になってしまう思春期特有の微 妙な気持ちの揺れ動きがうまく出てるかな。本当に心の底からの嫌悪だったら水前寺なん かと『ほ兄ちゃん』の尾行はしないだろうし。伊里野の立場と背後の存在が未だハッキリ しなくてスッキリしないのが気になる部分で、これから解かれてゆくのが楽しみな所。 ・番外編・そんなことだから  伊里野の背後・その2(その1は榎本)の椎名真由美が園原中学校に着任する直前の話。 のっけから他人事とは思えなかった新聞勧誘の事。椎名さんの立場じゃなくて新聞勧誘の 立場として、仕事柄似たような勧誘営業やってるからなぁ(間違ってもここまで酷い勧誘 はしないけど)。結局よ〜く分かったのは椎名さんの性格くらい? ただハッキリしない までも彼女達が何の目的を伴って行動してるのか、その微かな一端を垣間見れただけでも 良しとしておいて、それはいずれきっと描かれるだろうから次巻以降に期待。 2003/01/08(水)リバーズ・エンド3 free the birds
(刊行年月 H14.09)★★★☆ [著者:橋本紡/イラスト:高野音彦/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  今回は擬似学園生活での少年少女達のコミュニケーションがメインストーリー。前巻か ら続けて追うと“雨降って地固まる”的に、最初は馴染めなかったり衝突して険悪だった りした、拓己と七海、直人、茂、孝弘、弥生、遙の距離がぐぐっと近付いて絆を深めてゆ く過程の描写が実に見事。文章の軽快さやテンポの良さが物語の中で凄く活きていて、ほ ぼ会話と行動と心情のみで成り立ってる為にすんなり感情移入出来てしまう点はこれまで と変わらずだけれど、やっぱり惹き込まれてしまう大きな要素でもあります。   拓己と他の少年少女達との関係が近くなるに連れて、雰囲気や時間の流れが和やかに穏 やかになってゆくような感覚で「あ、何かいいな〜こういうの」と思わせてくれる。と同 時に元々それは自然に生まれたものではなく、実験を行う大人達の手によって用意された 擬似的なものであり、それは拓己達も認識している事だからどうしようもなく不安で脆く 儚くも感じられる。その上で今は失われてる状態の唯との記憶なんかを見せられたらもう 堪らない。それが幻想であるが故に伴う痛みも大きくて……という拓己の気持ちにいつの 間にやら読んでる方が感化させられてしまう。そういう所にうまさが表れてるなと。  しかし核心部分がまだまだ謎に包まれて見えないのは少なからず不満〜。物語の雰囲気 はかなり好みなだけに、いつまでもスッキリしない部分には思わずブーイングでも漏らし たくなってしまいましたが。とは言っても今回は大部見え始めて動き出して来たかなとい う手応えは感じられたので、次こそは一気に加速して欲しい所。  既刊感想: 2003/01/06(月)灰色のアイリスIII
(刊行年月 H14.12)★★★★ [著者:岩田洋季/イラスト:佐藤利幸/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  がつんときつーい一撃を喰らったような気分。しかも当たり所が最悪で凹まされて撃沈 ……と言った具合。イリスによる都庁崩壊で幕を開け、美木響紀率いる異空眼者たちによ る無差別大量虐殺で凄惨さを増し、前巻から悪夢と絶望しか残されていないような未来へ の予感を溜めて溜めて溜め込んで、ラストでその極みを見せつける……挿絵の効果でショ ック倍増ですよ。でも個人的にこういう流れでぞくぞくする感覚を味わうのは嫌いじゃな くて、むしろ強烈に印象に残るって意味で魅入られるように物語に引き込まれてしまう良 さというのか、そういった部分も感じられたりします。  たださらわれた未来が悲惨な目に合って欲しくないのと、姫子は精神破壊されても生き てはいるので何とかして元に戻ってきて欲しいというのは切に願いたい所ですが(あとが きで更に傷付いてゆくってあったからどうだかなぁ……)。  しかし結果的に1巻で美木響二がやろうとしてた事とか悠理が守ろうとしてたものとか、 そういうのが随分ほったらかしにされてる気がするのは全然変わってないです。このまま 物語に絡まなくなってくると「じゃあ1巻であった事は結局何だったんだ?」で終わって しまうので。まあさすがにそろそろ未来の異空眼に触れ始めているようなので、そういう 事はないと思いますが。今後どう今の展開と絡んでくるのか? それとは別に絶望どん底 状態の奏は痛みを抱えたままで行けるのか? 美木響紀や他の異空眼者達の動向は? そ して最も謎に包まれた存在であるイリスは何者で何故これほどまでに奏を求めるのか?  などなど、気になる事柄の数が多い分だけ期待の表れでもあります。とりあえずは次巻で 終盤へ向けて一気に展開してくれますようにと。  既刊感想:II 2003/01/05(日)灰色のアイリスII
(刊行年月 H14.09)★★★☆ [著者:岩田洋季/イラスト:東都せいろ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  前巻が派手だった分だけ今回はややトーンダウン。内容が、ではなくて中身の雰囲気が。 おとなしいもしくは嵐の前の静けさという印象。美木響二亡き後に君臨した美木響紀と奏 の対立をハッキリ示す事、美木優夜の存在の事、それから双方の態勢の立て直しと後の悪 夢を際立たせるかのような束の間の平穏を描く事を重視した、前巻と3巻の中継ぎ的役割 を担っていたような感じ。  もっとも肝心要の核心部分についてちっとも触れられてなかったのは、不満と言っちゃ 不満で物足りなかったのもありましたが。例えば時空狂いと呼ばれるもの、時空の歪とそ の結界。この辺1巻でかなり重要視されてたにもかかわらず、あまりに無関心とさえ思え る程今回の中で語られなさ過ぎなのが気になった点。それから未来の特殊な灰色の異空眼 の秘密。思わせ振りに引っ張っていながら結局こちらもほとんど明かされぬまま。  これらは徐々にじっくり見せてゆく展開、と納得させてくれるだけの説得力は物語の中 で充分感じられます。その為の準備段階であり中継ぎという見せ方なのだろうなと。ただ あんまり隠されてばかりだと、単に進みが遅いだけで知りたいのに何時まで経っても知り 得ない消化不良に陥ってしまいかねない……ってのもあるわけで微妙な所。まだ2巻目な ので、そこまで詰めるのは早過ぎかなとも思うんですけど。  次に進もうかって段階で、既に拭いようのない不安感と嫌〜な空気をまとわりつかせて くれる描写はうまいなと。まあ読んでる方にしては希望ある未来を到底感じられないのが ちょっとあれでしたが。次巻へ持ち越された事柄と、いよいよ本格的に動き出すであろう 美木響紀と奏との激突がどのような波紋となって周囲へ広がるか、楽しみです。  既刊感想: 2003/01/03(金)頭蓋骨のホーリーグレイルIII
(刊行年月 H14.12)★★★☆ [著者:杉原智則/イラスト:瑚澄遊智/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  要するに咲夜の描写をもうちょい増やして物語に絡めて欲しいのだけれど、表紙でだけ 目立ってるんじゃなくて(ま、見た目でむさ苦しいのより華があった方が良いですが)。  それでも今回は海魔を取り込むっていう咲夜独自の見せ場があって、それが後の展開に 活かされてたので多少持ち直し。男どもの生き様と比較して、ヒロインとしての彼女はま だまだ弱いかなーと思う部分もありますが。やっぱし弘人かパパとの見せ場を希望かな?  逆に遼馬パパと弘人の見せ方はなかなか面白かったです。遼馬はずっと過去に何かある なと思わせる描写でようやくそこが剥がれ始めて来て、何かに向き合って動く姿が見られ そう。で、弘人の方はより強さを渇望する事で魔杯に引き込まれる危うさを持ちながら、 陽馬に思わぬかすり傷を与えた事で未知なる無限の可能性を示す事にもなったので。彼の 選択する進むべき道と強さの成長とが俄然楽しみになってきました。  あとは遼馬達の相対する存在と目的が明確に絞り込まれた事で、何となくストーリーの 筋が一本通って見えたような感じ。今まで遼馬達が行動したり闘ったりの意味は何であっ て誰に向けられてるのか、その敵が誰であってどんな野望を抱いているのか……てのがど うもバラバラになっててスッキリ見えてなかった気がするんですよね。  しかし羅魂陽馬が敵として印象的な存在となってきた為にそういう不満もわりと解消。 遼馬と陽馬と、そして強さを求める弘人と彼が強さが足らなくて救えなかったと思ってる 瑞枝と、どう話に絡んでくるのかの咲夜と。これからクライマックス目差しどんな展開で 楽しませてくれるのか……盛り上がりは徐々に確かに掴めています。  既刊感想:II


戻る