NOVEL REVIEW
<2003年01月[中盤]>
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01/20 『ウィザーズ・ブレインII 楽園の子供たち』 著者:三枝零一/電撃文庫
01/18 『ウィザーズ・ブレイン』 著者:三枝零一/電撃文庫
01/15 『悪魔のミカタ7 番外編・ストレイキャット リターン』 著者:うえお久光/電撃文庫
01/14 『悪魔のミカタ6 番外編・ストレイキャット ミーツガール』 著者:うえお久光/電撃文庫
01/13 『悪魔のミカタ5 グレイテストオリオン』 著者:うえお久光/電撃文庫
01/12 『イリヤの空、UFOの夏 その3』 著者:秋山瑞人/電撃文庫


2003/01/20(月)ウィザーズ・ブレインII 楽園の子供たち

(刊行年月 H14.01)★★★★☆ [著者:三枝零一/イラスト:純珪一/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  物語の世界観とI−ブレイン設定は前巻と同じ、世界情勢は前巻の続き、キャラクター 総入れ替えで舞台は荒廃した極寒の地上から天空の楽園へ。  あとがきから察するに、舞台を転々としながら過去の惨劇を交えつつ現在の時代を少し ずつ描き進めてゆく……てな感じになるのかな? どうやら主要キャラクターの登場は固 定ではないようですが、不安と混乱を抱える時代で希望を求めて懸命に生きている点では 前巻の錬や祐一も今回の子供たちも同じで、それぞれの気持ちがこの世界の中で繋がり合 ってるんじゃないだろうか。と、読んでいてそんな感覚を抱かせてくれる世界観と、それ を有した物語の構築がもう素直に素晴らしくて上手いなと唸らされました。  今回は虚構の楽園に生きる4人の少年少女達の物語。前巻の物足りないという声に見事 応えてくれたかのように、キャラクターの掘り下げや心情描写、お互いの気持ちの触れ合 いとか伏線含みの過去エピソードとの絡みなどが格段に良かったです。  まずとにかくファンメイが天真爛漫で可愛い、シャオロンの彼女に向ける言動が不器用 で可愛い、中盤のとある事件以降から距離を縮めて寄り添う二人が微笑ましい、だからこ そ終盤の描写が痛々しいくらいの際立ちを感じさせてくれる。個人的にはファンメイとシ ャオロンの醸し出す擽ったい雰囲気を感じられただけでも満足だったんですが、ヘイズの 過去話にも惹かれてしまい挿入も絶妙、子供たちの嘘の記憶と過去の真実と現在とを結ん だ全体的な構成もうまく、大きな伏線となる冒頭部分がもの凄く活きてるなと。    カイとルーティがあまりに辛過ぎたので救いの形で二人が触れ合う日常をもっと見たか ったというのと、今回は刃を交える強烈な個性(前巻の錬に対する祐一みたいなもの)が 存在しなかった為、I−ブレインを駆使した壮絶な戦闘描写が控え目だったという点が欲 しかったもの。でも感じられた良さに比べたらそんなのは些細な事。最も印象深かったの はシャオロンがファンメイに残したメッセージ。これはかなりきましたが、同時に命を託 された救いにホッとしたというのもあります。いずれこの結末にて残された者達が辿る未 来の続きというのも是非読んでみたい。  既刊感想: 2003/01/18(土)ウィザーズ・ブレイン
(刊行年月 H13.02)★★★☆ [著者:三枝零一/イラスト:純珪一/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  第7回電撃ゲーム小説大賞『銀賞』受賞作。  ちなみに同時期受賞は「陰陽の京」と「天国に涙はいらない」で、何故かこれだけ後回 しにしてたのはあらすじから設定とか小難しそうだなというイメージ先行があったからか も。実際読んでみてやっぱり小難しいというのは少なからずあったのですが、そう思わせ てくれた最たる原因『I−ブレイン』での戦闘システムや設定は、この作品ならではと言 える一番の見せ所でアイディアと深い練り込みが感じられて良かった。  どうしてもじっくり噛み砕いて頭に覚えさせないとうまく飲み込めなかったりしたけれ ど、これは読み進めてゆく内にちゃんと理解出来るようになっていて、そうして理解する 程に物語の世界観やI−ブレインの戦闘に浸れてしまう。こういう風に読み手の気持ちを 向けさせる描写がうまいなと思いました。  ただ世界観やI−ブレインの設定が奥深い反面、キャラクター同士の相関関係と心情描 写はあっさり過ぎとも感じられるくらい分かり易くストレート。これが良い方向に出てい るかと言えば少々微妙で、個人的に錬とフィアや月夜・真昼と祐一の関係は結構好みなん だけれど、その描き方が弱く他の設定の深さに負けているかなと。  断片的な過去描写はあってもそれだけでぐいっと惹き込むには物足りずで、個々のエピ ソードでもってキャラクターの性質をもっと掘り下げて見せて欲しかったし、重く絶望的 な世界のなかで人と人の関わりから生まれる複雑多岐な心情描写ってのも見たかった。つ まり練り込まれた設定と深みのある世界観に対して、主要登場人物がもうちょい多くても 良かったのではと思ってしまったわけですが。もっとも1作完結が条件の受賞作品という のを考慮すれば、人数増やして心理描写を丁寧にとかやってたら一冊じゃ収まらなかった ろうから仕方ない部分もあるし、随所にうまさや良さを感じられたのも確か。 2003/01/15(水)悪魔のミカタ7 番外編・ストレイキャット リターン
(刊行年月 H15.01)★★★★ [著者:うえお久光/イラスト:藤田香/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  あたかも友達のように振舞って油断させといて奈落のどん底に突き落とす……恕宇の日 奈に対する報復作戦は目に見えて「策士、策に溺れる」ってやつで、結局本当の友達とし て取り込まれたのは恕宇の方でした。が、結果的にそれは彼女の“心の成長”を促すとい う非常に良い方向へ作用してるわけで、亜緒や由真の影響も少なからずあるだろうけど、 やはり特に日奈の存在感が恕宇に与えたものってのはもの凄く大きい。  推理勝負じみた事をして、世界を滅ぼす神さまに対して持てる能力を最大限に引き出し てたった独り立ち向かう日奈の姿を目の当たりにして、恕宇の心が一歩一歩階段を上るよ うに変化を遂げてゆく。この過程の描写が実にうまいと思いました。  ま、どうしてもミステリーっぽい要素を入れたがるのは、ホントにそういうの好きな作 者さんだなーと感じてしまうのですが、この過去番外編に関しては恕宇と日奈がもう小学 生の頃から探偵能力を有して張り合ってる(のは専ら恕宇の方だけど)様子を垣間見れた 事で、そういう部分がしっかり物語と噛み合ってたんじゃないかなと。  ただ、恕宇の中に日奈の存在がじわじわ介入してゆく描写に重きを置いている部分は良 かったんだけれど、もうちょい細切れな短編連作形式で四人と一匹のエピソードを色々見 たかったなって気持ちもありましたが。その辺は未定ながら幼少時代の続きみたいな構想 もあるようなので、いずれ再登場するのを期待していたいです。  そして余韻に浸る間もなくコウが主役の現在へ。エピローグとあとがきの一部が未来へ の繋ぎという事なのかな? 断片的な描写なので予想と想像するだけしかできないけれど、 気になるキーワードがちらほら見え隠れしてたので先の展開がとっても気になる所。  既刊感想: 2003/01/14(火)悪魔のミカタ6 番外編・ストレイキャット ミーツガール
(刊行年月 H14.12)★★★★ [著者:うえお久光/イラスト:藤田香/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  小鳥遊恕宇9歳、人生を一変させる存在・冬月日奈との出会い。邪魔されたから報復し てやると憎しみの炎がいくらメラメラ立ち上った所で、こりゃどう見ても小鳥遊の一目惚 れだろうなぁ。と、現時点では想いもしないか思う事を避けているかだろうけれど。  小鳥遊の幼少ってイメージとしては達観したクールさを持ち合わせた少女かと思ってた んですが、ここまで捻くれたお子様だったとは。しかし教師に対しても日奈に対しても、 報復ひとつでここまで頭を高速回転させながら深読み思考を巡らす辺りで「あ、これは紛 れもなく小鳥遊恕宇の性質だな」と現在に通ずるものを感じましたが。  他人を見下して寄せ付けずってのは、一見孤高を気取っていて実は常に「わたしは見鬼 だから」を盾にして寄り掛かっている。本質は自意識過剰で非常に周りを気にしてしまう 所を、自身を特別視する言葉で常に隠し通してる……ってのは違うか考え過ぎかな? そ れでも寄り掛かる術を失った場合の、脆さというか弱さというかを感じたりもしたんです よね。例えば冬月日奈、彼女には不意を打たれてある事無い事深く思い込み過ぎてしまい 完全に弱みを見せていたりね。  言わば小鳥遊と日奈の裏話でキャラクターの掘り下げが狙いと思えるエピソード。何と なく作者さんの思い入れと趣味が色濃く出てるような気もしないでもないですが、そこら 辺はうまい具合に狙い通り描かれているなと。小鳥遊の性質や日奈の“人生の探偵”なん てのはこんな頃から滲み出てたんだなぁ、と改めて感じられるのが良かった。日奈に関し ては本編じゃもう多分完結前まで回想シーンでしか拝めないだろうから、ちっちゃな時代 でもこうやって焦点が当たるのは妙に嬉しかったりします。  一番小学生っぽくまた意識して背伸びしてる亜緒や割と訳知り顔で達観してる風な由真 の二人も良い持ち味を見せてくれて面白い(ヘンナ生物については何も言うまい。なんか 最後まで意味不明のままで通されそうな気がする)。友達として溶け込んで日奈への報復 の機会を窺う小鳥遊……さてこの顛末、どうなるやら。  既刊感想: 2003/01/13(月)悪魔のミカタ5 グレイテストオリオン
(刊行年月 H14.09)★★★★☆ [著者:うえお久光/イラスト:藤田香/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  熱い話で厚くなっただけの事はあってかなりの手応えで面白かった。どこが? と言う のは……もうここまで作中で語られてるなら隠さなくてもいいかなって事で、1巻と直結 した流れでようやく日奈の名前と存在が表層に上がってきた部分。前巻まではコウの“何 を犠牲にしても成し遂げるべき目的”ってのがあんまり明確に見れてなかったので、よう やくきたなという感じ。  それに加えて、これまであまり目立つ場が与えられなくて損をしてたような気がする真 嶋綾の大躍進。事の起こりは彼女の夢から終始色んな要素に振り回されっ放しでしたが、 コウへの想いとか日奈の事を考えての葛藤とか夢に向き合う気持ちとか、そういう心情全 てが実にうまく物語に絡んでるなという印象。特に《グレイテストオリオン》を使う切っ 掛けをコウの意識朦朧の呟きによって与えられた辺りから、名前を探し当てて自らの手で 決着をつけるまでの綾の心情描写はもう堪らなく良かったです。個人的には1巻と密接に 繋がっている所も好でその辺もポイント高しで満足。  一番印象に残って感嘆したのはボクシングの試合。全体の流れの中での挿入も絶妙だけ ど、これ単体でボクシング小説と言っても通用するんじゃないか、ってくらい試合運びの 見せ方や心理描写が見事だなと唸らされました。  で、最後に辿り着いたのは己の信念か綾の無事かの二者択一でこういう選択をしてしま った堂島コウの明日はどっちだ? という話。番外編が続くので本編戻るのは8巻以降に なるのかな。案外何事も無かったかのようにへらへら〜っとしてそうだけれど、他人に見 せない心の奥底では少なからず影響出ると思うんだよなぁ(良いか悪いかは……多分悪い 方に、と予想しているがどうだろう)。一時ほったらかし気味だった似非カウンセラーの 二人組も素性が何となく見え始めて物語に食い込んで来た事で、周囲を取り巻く状況が微 妙に変わりつつある模様。物語がコウの心情と共にどう動いてゆくのか期待したいです。  既刊感想: 2003/01/12(日)イリヤの空、UFOの夏 その3
(刊行年月 H14.09)★★★★★ [著者:秋山瑞人/イラスト:駒都えーじ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1・無銭飲食列伝  浅羽という対象そっちのけで繰り広げられる伊里野と晶穂の直接対決。ぶっちゃけ大食 い勝負なんだけど、もうこの話大好きですよ。文庫でも先進まず思わずこれだけ読み返し てしまったし雑誌掲載の時も何度読み返した事か。女子中学生二人が、周囲の視線も歓声 も無視して脇目も振らずに顔や髪を食べかすまみれにしてまでとにかく食って食って食っ て(×100)食いまくる……そういう伊里野と晶穂のありのままの姿をちゃんと想像出 来てしまえる描写が凄いです。読んでるだけでお腹一杯になったような気分に浸れるので、 「イリヤ読書ダイエット」として減量時や食費が苦しい時などに読んでみては如何でしょ う?(勿論効果の方は保証しないけど) あとはさり気なく水前寺の名前が出てた所でに やりとさせられました。 ・水前寺応答せよ・前編  日常の崩壊。伊里野が(多分)幸福絶頂を実感してる真っ只中で、まるでこれまでのさ さやかな平穏やバカ騒ぎが夢物語のように溶けて、現実という名の奈落に突き落とされて しまったような感覚。これまで危うさを抱きながらもどこか田舎特有の「のほほ〜ん」と した空気が当り前のように流れていただけに、今回との落差や出来事自体が際立っていて かなりへこまされました。行方知れずの水前寺からの応答はまだ有らず……。 ・水前寺応答せよ・後編  少なくとも浅羽にとって今園原で何が起こってるかというのは大した事でなく、一番重 要なのは伊里野加奈という存在そのものであって彼女がどう関わってるのかの一点ではな いか。だからあえて状況説明を挟まない、というよりそれを必要としないのではないかな と思ったりも。それから正直今まで浅羽直之の性質を軽視してたり誤認してた部分があっ たかも知れない。どうしようもなく弱さや無力をさらけ出しているのに、現実逃避と伊里 野を天秤にかけた場合一瞬にして伊里野に傾いてしまう。伊里野が絡むとここまでやって しまえるのか、と本気であの描写には鳥肌総立ちで肝が冷えました。決死の逃避行の行方 は? 電話越しに消えた水前寺は? 園原で起こっている出来事の実態は? 気になる事 が山積みでどうなるんだろう?の連続。非常に続きが待ち遠しく楽しみ。 ・番外編・ESPの冬  浅羽が1年の時の話。当然伊里野と出逢う前で、まだ新聞部には晶穂も入部しておらず、 水前寺の興味が超能力に注がれていた頃。何か現在の状況を思うと、この遠い幻のような 日常の中での非常識的な大バカ騒ぎがもの凄く痛いです。胸に突き刺さるような感覚。意 図的にこのタイミングで過去話を持ってきてるのだろうか? 水前寺の薀蓄には不覚にも 引き込まれてしまったけれど、コタツでのんびり顔をつき合わせて語らえるだけの平穏が、 まだこの頃はあったんだよなと否応無しに思い知らされた気分。  既刊感想:その1その2


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