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01/31 『タクティカル・ジャッジメント 逆転のトリック・スター!』 著者:師走トオル/富士見ミステリー文庫
01/29 『業多姫 壱之帖――風待月』 著者:時海結以/富士見ミステリー文庫
01/26 『ぐるぐる渦巻きの名探偵』 著者:上田志岐/富士見ミステリー文庫
01/23 『ウィザーズ・ブレインIII 光使いの詩』 著者:三枝零一/電撃文庫
2003/01/31(金)タクティカル・ジャッジメント 逆転のトリック・スター!
(刊行年月 H15.01)★★★★☆
[著者:師走トオル/イラスト:緋呂河とも/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】
第2回富士見ミステリー大賞『準入選』受賞作。
どうもゲームボーイアドバンスの『逆転裁判』をプレイして以来、とかく法廷モノに加
えて窮地からの逆転劇とかいうシチュエーションにはとことん弱い私ですが、この作品は
もうそういう美味しい要素がてんこもりで、終始弱いとこをこれでもかとばかりにちくち
く突いてくれやがりました。多少贔屓目で見てるのは自覚してるからしょうがないんだけ
ど、好きだからこそ余計に細かい粗も目立つだろうなって気持ちもあったんですよね。で
も読了直後の感想はとにかくもう声を大にして「面白い」です。手放しで面白かった。
もし刑事裁判の知識を有してるなら、現実とのギャップに異議ありな場面があるかも知
れないけれど、普通は私も含めてだけどそんなの分からないし、物語を盛り上げる為のフ
ィクションと思えばその辺は余り気にならないんじゃないかな? それより善行が法廷の
基礎知識を語るシーンは、まるで影野や伊予へ向けるのと同時に読み手へも「やれやれ俺
が教えてやらないと何も分からねぇとは仕方がねーな」という彼の声が向けられてるよう
で、説明的であっても感情のこもってる一人称文体がうまく活きてるなと思いました。
作中で唯一弱い部分があるとするなら、依頼人の無罪証明に必要な証拠を足で稼ぐ、い
わゆる『探偵パート』とも言える所。これは善行が腐れ縁の私立探偵・影野に一任してる
為に見せ場が少ないわけですが、その分比重が置かれている弁護士対検察官の真っ向勝負
から冤罪の依頼人を無罪へ導くまでの法廷バトルは非常に読み応えありでした。
最初優位で途中窮地に陥り最後に大逆転……というのは一種のお約束パターンとも取れ
ますが、善行の語りを始めとして法廷での闘いを盛り上げる全般の描き方がうまいので、
先を知りたい欲求からぐいぐいと惹き込んでくれる吸引力もあるし、推理立てつつ窮地に
耐えて耐えて一気に逆転する時の爽快さもよく出ている。特に終盤――真相を暴いて決着
つけるまでのジェットコースター的な加速度感は堪らなく良かったです。
キャラクターは善行も影野も伊予も雪奈も、堀内検事や裁判長や因幡刑事など皆個性的
で印象的、心情面を含めて誰もがよく立ってたと思います。善行と影野、それから伊予と
の関係は今回では詳しく語られなかったので、シリーズ化希望で是非描いて欲しい所。
2003/01/29(水)業多姫 壱之帖――風待月
(刊行年月 H15.01)★★★
[著者:時海結以/イラスト:増田恵/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】
第2回富士見ミステリー大賞『準入選』受賞作。
読書前の段階で戦国時代ものとミステリの組み合わせってのは、主に新鮮さと奇抜さの
点から面白くなるものかなと興味津々だったけれど……やっぱりそういうトリックだとか
謎解き部分はメインとして扱われず“添え物”に留まってしまうのが、このレーベルらし
いといえばらしいです。誰が真犯人かも”こいつ以外にないだろう”ってくらい呆気なく
分かってしまう所からして惹かれるにはあと数歩至らなかったという印象。
真犯人がお姫さまを姦計に陥れ、領土を乗っ取る為の計略として描かれてるのが密室ト
リック。時代背景に合わせた単語を幾つも使って表現してるから雰囲気はよく伝わって来
ましたが、これは正直文章だけではどうにも頭に描き難くて分かり辛かったような気も。
なので事件が起こった詰城矢倉の見取り図みたいに扉の仕掛けも途中で図解説明が欲しか
ったかな(本当は文章のみで想像出来るような描写をしてくれると一番いいんだけど)。
メインに据えてるのは敵同士の鳴と颯音の恋愛模様。なんだけど、二人の一人称文体を
交互に差し入れる構成のわりに、一人称特有の強みである心情描写の表現力をあまり感じ
られなかったのが今一つ。鳴パートにしても颯音パートにしても自分の想いを一杯に押し
出すというのじゃなくて、どこか客観的に状況説明を語っているような描き方をしてるの
で“想い合い信じ合う”二人の感情が読んでいてもあまり伝わって来なかったのですよね。
由科みたく冷淡な性格でこういう描写だったらまだ納得も出来たんだろうけど、颯音は
ともかく鳴は明朗快活でハッキリした性格だからどうにも違和感を覚えてしまって……。
状況描写の多い一人称で鳴視点と颯音視点を入れ替えつつ場面転換させるなら、別に三人
称文体でも構わなかったんじゃないだろうか? というより三人称の方が合ってたかも。
ただ鳴の心より信頼する人間以外は触れると弾き飛ばしてしまう能力だとか、颯音の他
人の心に振れる千里眼能力だとかは、物語に深く絡まっていて面白い要素だなと感じられ
た部分。どうやら続編も3月刊行予定だそうなので、そういう興味惹かれた能力や、勿論
ミステリな要素も含めて、新天地へ向かった二人や離れ離れになった常磐丸と香椎はどう
なってしまったかなどの今後が気になる所。
2003/01/26(日)ぐるぐる渦巻きの名探偵
(刊行年月 H15.01)★★★
[著者:上田志岐/イラスト:煉瓦/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】
第2回富士見ミステリー大賞『竹河聖賞』受賞作。
ミステリーしてるのはストーリー展開ではなくてキャラクターの存在の方じゃないだろ
か、と思わされた作品。名前もなく性別すら分からない主役の『カタリ屋』とか、同じく
名前を棄てて存在した証だけを明確に残して現世を去って行った『彼女』とか、最も大き
な謎と言えばこの二人そのもの。
あとは螺旋の先にあるカタリ屋の住む空間は何であって、どうして加奈子や榎本は“選
ばれた者”としてその空間に入り込めたのか? 何か選ばれた条件ってのがあったのか?
ここら辺は結局最後まで明確に語られてなかったような気も。特に加奈子は事件そのもの
には深く関わってるんだけど、カタリ屋との最初の繋がりが『偶然』だけでは少々印象弱
いかなと思ったので、せめて迷い込んでしまった事に対してはもうちょいハッキリとした
理由付けが欲しかったかも。
逆にカタリ屋なんかは、このまま謎の存在でいてくれた方が奇妙・変人という雰囲気や
印象深さが際立つのでいいかなと感じられる部分もあったのですが。カタリ屋と榎本の馴
れ初めもどんな風だったのか気になる所なので、今後どこかで描いてくれないかなとも思
いました。加奈子と榎本のコミュニケーションの数々は楽しくて良い感じ。
学園もので連続殺人で推理ありの謎解きありの名探偵あり。そこはやはり富士見ミステ
リーらしく軽めの要素ではありましたが。しかし連続殺人起こした真犯人の殺害動機がこ
んなんでいいのか? いや、これでもかってくらい内容に沿った説得力はあれど、納得が
行かなかったと言えばいいのかな。まあ『もっと被害者との関わりで怨恨ドロドロなのが
いい!』という私の嗜好にそぐわなかっただけの話でこれもまた一つの持ち味。
キャラクターの感情起伏や盛り上がりが弱く感じられたのは、要文章表現力向上ってと
こです。まだこれがデビュー作だし、伸びる可能性だって充分にあるから今後に期待。
2003/01/23(木)ウィザーズ・ブレインIII 光使いの詩
(刊行年月 H14.10)★★★★☆
[著者:三枝零一/イラスト:純珪一/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
かりそめの幸せが抗う間もなく崩壊してしまい、交錯する想いの果てに避けられない悲
劇が生まれてしまう。前巻と似たようなパターンを辿っているというのは確かにあったけ
れど、これだけ読んでいて圧倒されてしまうキャラクターの心情描写の数々を見せつけら
れてしまったら何の文句も言えません。未来に希望を抱けない世界でやるせない気持ちば
かりが胸に込み上げてきても、どうしようもなく惹き込まれ魅了されてしまいました。
クレアとディー、ディーとセラ、セラとマリア……ただ一人のかけがえのない存在の為
に自らの全てを賭けて全力で想いを注ぐ事が、他の誰かの悲劇や辛い痛みを引き起こして
しまう。今回は本当に“あと一歩だけずれていれば何とかなったかもしれない”事柄ばか
りで、全てにおいて最悪のタイミングとしか言い様のない状況がもう切なくて切なくて。
ディーやセラやクレア(だけでなくシリーズ中の他のキャラクターにも)に幸せを望も
うとしても、作品に漂う雰囲気がなかなかそうさせてくれないというのかな。ただ、手招
きしてくれる辛さ切なさ悲しみさえも面白さに変換されてしまう所が一番の魅力なのかも。
シリーズ通して『騎士と姫』の関係を貫いているのも、ひとつのテーマなのだろうかと
感じたりしたのですが……どうでしょうね。守るべき大切な人の存在が未熟な騎士を強く
逞しく成長させてゆく、というもの。錬やシャオロン、ディーとおそらく祐一もそうだっ
たんじゃないかな。それと守られてばかりじゃない芯の強さを兼ね備えるヒロイン達との
関係は、たとえ同じ見せ方であっても続けて盛り込んで欲しい要素。
今回はあとがきで作者さんが鳥肌立ったと言われてたのに思わず納得の表紙。思えばこ
のディーとセラの姿で既にぞくぞくとくるものがあって惹き込まれてたような気も。
頭をなでなでしたくなるようなセラの健気さと、ディーに惹かれてゆく過程と、僅かな
がらの母との触れ合いと。悲劇によって引き立ってしまう幸せは、彼女の気持ちを通して
最も感じられていたものだろうなと。クレアの事もあるし、当分二人にとって安らぎを抱
ける日々は訪れないだろうけど、どんな道を辿るのか描かれるのを楽しみに待ちたいです。
既刊感想:I、II
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