NOVEL REVIEW
<2003年06月[中盤]>
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06/20 『トワ・ミカミ・テイルズII 月翳り、災厄の始まりの地へ』 著者:日下弘文/富士見ファンタジア文庫
06/15 『ハーモナイザー・エリオン ツキをつかんだ?魔法使い』 著者:吉村夜/富士見ファンタジア文庫
06/14 『ホーリィの手記4 氷結晶のプリズン』 著者:加藤ヒロノリ/富士見ファンタジア文庫
06/13 『カオス レギオン0 招魔六陣篇』 著者:冲方丁/富士見ファンタジア文庫
06/12 『カオス レギオン 聖戦魔軍篇』 著者:冲方丁/富士見ファンタジア文庫


2003/06/20(金)トワ・ミカミ・テイルズII 月翳り、災厄の始まりの地へ

(刊行年月 H15.03)★★★☆ [著者:日下弘文/イラスト:宮城/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  物語の世界『パンゲア』で絶対的支配力を誇る帝国皇帝クシャス・カーンを討ち滅ぼす、 というリュカの壮大なる指標への第一歩。その皇帝へと辿り着くまでの道程があまりに途 方もなく果てしない為、最初から大きく広げ放たれた物語が途中で止まらず結末までしっ かり描き切る事が出来るのか? まだ2巻目なので、そんなの考えるのは早過ぎる気もす るのですが、この辺が前巻から既に付きまとってる不安要素でもあります。  しかし今の所は、自分の気持ちに迷い悩み抜きガズラウェルの皇として決起の旗を掲げ、 僅かずつ皇帝を滅ぼすべく歩み始めたリュカの姿が、良い感じで描かれているのではない でしょうか。全体的な流れとしては盛り上がりの前兆でまだまだこれから、制御球探索も これから前進する為の準備段階的お使いイベントのような感じで、そこに引き込まれたか どうかと言えば微妙な内容ではありましたが。  ただ、メインであるリュカ達の行動を描く合間合間にちょこちょこと挿入される別方面 のシーンは割と好きだったりします。大抵は帝国皇帝クシャス・カーン近辺の内部事情が それに当たり、明確でない部分の方が多いのは気になりつつ相関関係やそれぞれの心情に 奥深さが覗けて面白いなと興味を惹かれる事多し。なのでもっと敵方を描いて欲しい気持 ちが強いのですが、まあこれはリュカが近付くに連れて色々見れるようになるでしょう。  今回非常に気になったのはラストの部分。かなり後味の悪い終り方してたので、早く続 きを読ませてくれと誰かに噛み付きたくなる程でした。しかし(ネタバレ反転)展開に沿 って起こった事とは言え、フェーネの死はハッキリ見せてるから事実は覆らないだろうけ ど何とかならんかったのかなぁという思いで結構堪えました。  既刊感想: 2003/06/15(日)ハーモナイザー・エリオン ツキをつかんだ?魔法使い
(刊行年月 H15.03)★★★★ [著者:吉村夜/イラスト:ことぶきつかさ/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  シリーズ第2巻。しばらく貧民街でひぃひぃ言いながら、火の車ぼーぼーから脱出する 為資金繰りに奔走する状況が続くのかと思いきや、いきなり前巻あっさり蹴られた宮廷魔 法使いの一員へと大出世を果たしたエリオン君。これには予想外で驚いた、というより余 りにあっさりトントン拍子に出世への階段を駆け上がってしまったので唖然としてしまい ました。が、急な展開は意表を突いたものでなかなか面白いなと感じられたりも。  うまい話にゃ裏があり相応のリスクがあり、それはゼロニアとイヴルの不可解な行動か らエリオンでさえ容易に想像出来るものとしても、そこから危険な臭いを嗅ぎ取れたとし ても、やはり金の魅力の前には抗えない所が如何にもエリオンらしい。  しかしどうしてエリオンはここまで浅ましくせこく金に執着するのか……今回この理由 が語られた事で大分彼に対する印象が違うものになりました。卑屈に値切りケチ臭く倹約 する様が周囲からどんな目で見られているかちゃんと理解していながら、恥とも浅ましい とも思わず、むしろ胸を張って自信と誇りに満ちている風に思える。それは金に対する揺 るぎない信念を抱いているからで、単なるお人好しのお間抜けなんかじゃない確固たる強 さを感じさせてくれたエリオンの存在が、時々でも大きく格好良く見えてしまいました。  借金はあれどいきなり裕福になったせいか、前のようにエリオンとランドラの間にあっ た金が絡んで換気が必要なくらいギスギスした嫌な空気は減少していたようで何より(ノ ッチの暴言吐きは全く改善されてないけど)。理由が分かればエリオンの金への卑しさも それ程鼻にはつかないし、彼を半ば見下していたような感じのランドラも随分見る目が変 わって来たようで読んでいて気持ちが良かったです。しかもお互い意識し合う感情まで芽 生えて、アロマに嫉妬するランドラなんかは普段と違う可愛らしさが出ていて良い感じ。  誰が味方で誰が敵か明確でない宮廷魔法使いの中での確執、ゼロニアとイヴルの思惑に ランドラが感じたパドラックへの違和感、などなど問題山積みの上に借金も山積みのエリ オンが何処へ向かって転がって行くのか? 今後の展開が楽しみです。  既刊感想:借金だらけの魔法使い 2003/06/14(土)ホーリィの手記4 氷結晶のプリズン
(刊行年月 H15.03)★★★☆ [著者:加藤ヒロノリ(原案:安田均)/イラスト:桜瀬琥姫/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  これまでと比較して、ボルカノに向けられ続けているホーリィの感情表現が微妙に変化 しているようにて見えた今回。相変わらず「あ〜ん、ボルカノ大好き〜」とか臆面もなく 好きな気持ち丸出しにべたべたくっ付いてるシーンも多分にあるけれど、時折落ち着いた 静かな心で自分の感情を確認するよう真剣にボルカノと向き合う所などは、場面の雰囲気 にも関係してくるでしょうがこれまでのホーリィには余り見られなかったもの。  とうとうホーリィがボルカノに返答を懇願するようにあそこまで言ってのけてしまった 事は、近い未来で二人にとって大きな転換期の訪れを予感させられるもの。そしてそれは 今回の終盤で起こってしまったのですが……よもやこれ程までの急転直下な展開がホーリ ィを襲うとは思ってませんでした。敵方――シャリートが六皇子を復活させようとする意 図はまだ不明瞭で、前触れのない襲撃はやや唐突さを感じたりもしましたが、割とのほほ んとした空気を一掃するように一気に核心へと突き進む加速感は良かったです。  もう一人変化が見られたのは変態エロ牧師ことカオス。彼の存在感は終始胡散臭いもの で、裏がありそうなのにのらりくらりと身をかわす様に本質を表に出そうとしない。  しかし最近では皆から結局単なる女好きのエロオヤジと認識されていた所で、ようやく 今回ラストに本性らしきものを垣間見せてます。らしきものというのはカオスが敵に回る 姿をホーリィが一瞬見ただけなので。カオスが実は魔の側の者だったのか、それとも何ら かの理由でわざと敵対しているように見せ掛けているのか……まだまだ正体を掴ませない 所は如何にも曲者らしいというのか。ホーリィの中に眠る何らかの存在の事や、ボルカノ の事なども含め色々謎を広げっ放しにしたままなので続きが非常に気になる。  既刊感想: 2003/06/13(金)カオス レギオン0 招魔六陣篇
(刊行年月 H15.03)★★★★ [著者:冲方丁/イラスト:結賀さとる/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  『聖戦魔軍篇』の刊行より前にドラゴンマガジン誌上で連載されていたもので、ノヴィ アがジークと出会い従士として運命を共にする切っ掛けから、盲目の闇を振り払い万里眼 の力に目覚めるまでを描いたエピソード。時間的にも『聖戦魔軍篇』の前になります。  短編を繋ぎ合わせ一つの長編に仕上げたような感じで、ノヴィアがジークに僅かずつ歩 み寄り心を委ねながら、守られてるばかりではなく従士として<見守る者>として自分に何 が出来るのか模索し成長を遂げてゆく過程が丁寧に描かれていて良かったです。前巻では ノヴィア自身の事や万里眼・幻視の力などの能力に関して、深い部分までは触れられてな かったので、能力を使いこなすに至るまで意外な程に苦行を経ている様子にもなるほどな ぁと納得さられる思いでした。  そして何よりノヴィアがジークと触れ合い心情の揺れ動きを見せる描写の多さに好感触 だった事。こういう旅の途中での何気ない心の交流など、ジークとドラクロワの因縁と壮 絶な戦いをメインに描いていた前巻にもあるにはあったけれど、ノヴィアとアリスハート とジークの3人を軸に展開している今回の方が一層いい形で表れていたのではないかなと。  1話ずつの短編で、長さとして満足なのもあればそうでないのもあったり。第五話、第 六話と続いてる本編クライマックスとも言える部分は、出来れば中編から長編くらいの規 模で読んでみたかったのが正直な所。ノヴィアが能力に開眼し、アリスハートの真実に迫 るというエピソードが実に印象に残る良さだったので。もっとノヴィアとアリスハートと 二人に関わるジークの姿に触れたい、もっと読んでみたい気持ちが強かったのかも。  ジークに出会う直前までを描いた事実上第1話となる書き下ろしのエピソードも、ノヴ ィアが母へ抱いていた想いの深さや彼女を気遣うアリスハートの優しさなどがじんわり溢 れていて凄く良かったです。  既刊感想:聖戦魔軍篇 2003/06/12(木)カオス レギオン 聖戦魔軍篇
(刊行年月 H15.02)★★★☆ [著者:冲方丁/イラスト:結賀さとる/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  PS2ゲームと小説とでメディアミックス展開された作品。世界観も背景描写もキャラ クターも、最近では珍しいかも知れない純然たるファンタジー小説。とにかく設定の深さ や練り込み方が半端でなく、細かな所まで丁寧に丁寧に積み重ねて築き上げられ醸し出さ れている重厚な雰囲気が堪らないです。設定の奥深さに酔ってしまったと言うのか。    二人の男と一人の女性が共に大いなる夢を分かち合い絆を抱いて理想を実現する為に歩 み続けるも、その途中で徐々に狂い歪みを見せ始める運命の歯車が、二人の男の進む道を 分断し彼らにとってかけがえのない女性を失わせてしまう……。物語は過去と現在の出来 事を織り交ぜつつ、ジークがかつての友であり従える主であり夢と理想を共有したドラク ロワを討つべく追い続けるという目的が軸となって描かれてます。  遠い過去から歩み続けて現在へ、また現在から過去を振り返りながら展開してゆくスト ーリーも広さと奥行きが感じられ、気が付いたら深い所まで惹き込まれてました。その上 でジーク、ドラクロワ、シーラが共に抱いた過去からの理想と、現在ジークが共にするノ ヴィア、アリスハート、アーシアの仲間達が各々で抱いている想いとが、複雑に絡み合い 物語を盛り上げながら形作ってゆく描写は見事だと思いました。  それから戦闘描写にも比重が置かれていますが、ジークの“スコップ片手に墓掘り”と いう突飛なスタイルに唖然としつつ、単に剣技で敵を討つのではなく怨念の魂の力から魔 獣を召喚して戦うという発想が実に墓掘り(葬士)らしくて面白いなと。  ただ、もしかしたらゲームとの兼ね合いで1冊で収め切らなければならなかったのかも 知れないけれど、物語のスケールの大きさに対してジークとドラクロワの因縁を1巻完結 にするには少々窮屈だったかなという感じもしました。ジークがアーシアに語って聞かせ た過去の出来事などは、やや説明的だったり駆け足気味だったかなと思ったりも。私は読 んでいて特にこの辺の過去回想は急がずじっくり丁寧に描いて欲しかったので、分冊して 書いてくれてたらなぁと残念で惜しい気持ちが残ってしまいました。


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