NOVEL REVIEW
<2002年05月[前半]>
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05/10 『ホーリィの手記1 炎のラビリンス』 著者:加藤ヒロノリ/富士見ファンタジア文庫
05/09 『クロスカディア2 影メグル地ノ邂逅者タチ』 著者:神坂一/富士見ファンタジア文庫
05/08 『悪魔のミカタ2 インヴィジブルエア』 著者:うえお久光/電撃文庫
05/07 『第61魔法分隊2』 著者:伊都工平/電撃文庫
05/06 『ヴァルキュリアの機甲 〜首輪の戦乙女〜』 著者:ゆうきりん/電撃文庫
05/05 『吸血鬼のおしごと The Style of Vampires』 著者:鈴木鈴/電撃文庫
05/04 『A/Bエクストリーム CASE314−[エンペラー]』 著者:高橋弥七郎/電撃文庫
05/03 『なずな姫様SOS 目に入らないよ紋どころ』 著者:阿智太郎/電撃文庫
05/02 『なずな姫様SOS CD付きだョ! 豪華版!!』 著者:阿智太郎/電撃文庫
05/01 『Dear My Ghost II 幽霊は身元不明』 著者:矢崎存美/角川スニーカー文庫


2002/05/10(金)ホーリィの手記1 炎のラビリンス

(刊行年月 H14.04)★★★ [著者:加藤ヒロノリ(原案:安田均)/イラスト:桜瀬琥姫/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]  本作はトレーディングカードゲーム「モンスターコレクション」の生みの親であるデザ イナーご本人が執筆された物語で、フレーバー・テキストと呼ばれるカードの余白の穴埋 めのような5、6行の程度の文章が小説の大元だそうな。  その文章はホーリィという少女の視点から『ホーリィの手記』という設定で統一して書 かれていて、1枚のカードに書かれた5、6行の『手記』がたくさん集まって繋がって広 がりを見せたものがこの小説なのかなと解釈してます。まあなんせ私はモンコレ自体やっ た事もなければカードの現物さえ見た事ないので、実際読んで手応えを感じるしかなかっ たわけなんですが、ホーリィの「あたし一人称」文章は約400頁の厚さでも比較的馴染 み易く読み易く、モンコレ知らずでもすんなり物語の世界観に入って行けたので、少なく ともあとがきにあったモンコレを知らない人にも読んでもらいたいって試みはうまくいっ てたんじゃないかと思います。  内容的にはホーリィの視点からリアルタイムで行動や心情を描く……というのとはちょ っと違う感じで、彼女がボルカノと旅をした中での出来事を後になって思い出しながら執 筆したような、そんな彼女の自伝を読んでるという感覚に近かったかも。まさにタイトル 通り『ホーリィの手記』であって、こう考えると感情移入が起こり易い一人称文章にして は感情の起伏が弱かったり少々盛り上がりに欠ける展開でも納得出来るかなと。  ホーリィが自身の出来事を後から思い出しつつ客観的に書いているようなもので、感情 を追うよりも行動を追った書き方になっているから、どうしても山場でも描写が淡々とし たものに感じてしまう。この辺りはもっとホーリィの心の動きを見せて欲しかったのです が……結局謎を含みつつ次回へ持ち越しとなってしまいました(笑)。色々あれこれ思う 事あっても結構面白かったので続きが楽しみです。
2002/05/09(木)クロスカディア2 影メグル地ノ邂逅者タチ
(刊行年月 H14.04)★★★★ [著者:神坂一/イラスト:谷口ヨシタカ/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]  良く言えば安定感があり、そうでなければ冒険しない無難な作り。でも話の進め方は手 馴れてるしキャラクターのボケた会話(主にメイとラフラ・リフラ)も著者の持ち味がし っかり出てるしでなかなか面白かったです。新キャラのラフラ・リフラはケモノ系で人間 とは感覚が違う為か真顔ですっとぼけな所が良い感じ。でもまだまだボケも実力も本領発 揮はしてない気がするので今後のシンやメイとの関わりが楽しみ。  今回は旅立ちへの繋ぎと、理由もないのに魔妖族(ディーヴァ)との戦いに巻き込まれ てしまうシンの心の動きと、あと後半のほとんどを占めた戦闘シーンをメインに描きたか ったんではないかなと。戦闘は描写が上手いどうかはさておき、見せ方は少々冗長に感じ たけれどめまぐるしい場面転換が上手く効いていて良かったと思います。  ただこの手法は前巻でもやってる上に、その時のケルミゾの心理描写はしっかり描けて たんですが今回は敵側の3人にあまり感じる所が無かったので(メイとの会話で大いなる 勘違いによる自滅というのは違う意味で印象に残ったけど(笑))、次巻以降も同様に続 けて敵の心理描写が浅いワンパターンな出来にならないかちと不安ではありますが。  シンの気持ちは読み手の代弁ってとこでしょうかね。とにかくメイの喪失した記憶とデ ィーヴァとの繋がりがまだ全然見えてこないので、メイに対して募る苛立ちとか「なんで 俺やクラスメイトまでが巻き込まれなけりゃならないんだ」という理不尽さとか、そうい うのがよく理解出来たというか。まあこれだけがちがちに伏線張られてると、もっと謎明 かせとか言いたくもなってくるわけで。この刊行ペースにしてこの展開のゆったりさが現 在最も気になる所。次からは今んとこ役立たず君のレゼルトのドラグノ領が舞台となるよ うで、新たな動きと合わせて特にメイの事を書いて欲しいなと期待したいです。  ……あとがきは今後も是非この路線でお願いします(笑)。  既刊感想:
2002/05/08(水)悪魔のミカタ2 インヴィジブルエア
(刊行年月 H14.04)★★★ [著者:うえお久光/イラスト:藤田香/メディアワークス 電撃文庫]  夢を叶える可能性以外の全て――即ち所有者の魂と引き換えに夢を実現させる事の出来 る《知恵の実》。その百八量の《知恵の実》所有者の魂を回収する事で自らの夢に手が届 くと知り、前巻ラストで悪魔のミカタとなった堂島コウの初仕事が今回の物語。  超常現象的なものも含め広い範囲で見るなら、所有者が望む形で全ての姿を消す事の出 来るガス『インヴィジブルエア』を使った伏線やトリック&謎解きもミステリと言えるの かなぁとは思ったけれど、如何せん書き手の頭の中では当然分かってる事でも文章描写が 追い付いてないような気がして、感覚的には構成が少々ごちゃごちゃしてるなぁという印 象でした。もっと整理がつけば謎の提示からしっかり読み手に興味を持たせ引っ張って行 けるのでは? と感じましたが今回はもう一歩及ばなかったかなと。  一部前回と明らかに人物が入れ替わってるとしか思えない性格の激変してるキャラがい たり(笑)お払い箱となったキャラもいましたが、新キャラの朝比奈奈々那も含めてキャ ラクターの個性は今回も良い感じで引き出せてたんではないでしょうか。正直あまり上手 いと感じられないミステリを無理にメインとして突っ込むより、キャラクターの持ち味を 十二分に生かして引っ張るように物語を立てた方が面白くなる気がするんですが(笑)。  ま、魂の駆け引きとしてコウと《知恵の実》所有者との知恵比べからトリックとか謎解 きとかの描写が来てるんだろうし、その辺の展開も充分面白く感じられます。  やはり上記の構成の事と、前回同様時々誰が喋ってるのか分からなくて見失ってしまう 会話部分があったので、しっかりした書き分けを次巻以降に期待したい。  ……と色々あれこれ並べ立ててみた所で、他がイマイチに感じたとしても、個人的にこ の物語はコウが『自らの夢』を他の女の子達に惑わされず(笑)見失わないでいてさえく れたらそれでいいと思ってます。前巻の零れそうな涙を「夢を叶えるまで」(ネタバレの 為あえてこう表現してますが)と必死になって流さず堪えてるシーンが鮮烈に印象に残っ ていて“その時”になって流す涙を見てみたい気持ちがあるので。  果たして「叶える為には誰を犠牲にしても」というコウの中の黒い部分から浮かぶ言葉 がやがて現実のものとなるのかどうか……この辺りからも続きが気になる所です。  既刊感想:
2002/05/07(火)第61魔法分隊2
(刊行年月 H14.04)★★★☆ [著者:伊都工平/イラスト:水上カオリ/メディアワークス 電撃文庫]  1巻刊行から7ヶ月後の続編で、ロギューネ始め一時解散状態の61分隊メンバーを殆ど出 さずにデリエルを主人公に立てる外伝的ストーリーを展開させるとは、最初随分思い切った事 したなぁって感じました。一応ロギューネが主人公と認識してたし、共に旅立ったシェナーナ やキキノとの関わりや旅の行程を読めるのを楽しみにしていたのがあったので。  しかし前巻でイマイチだと感じた2点、『61分隊全員が主役』として分け隔てなく書かれ てた為に少々個人個人の掘り下げが不十分で中途半端さがあった事、それから魔法杖同士の戦 闘シーンを展開させる描写が分かり難かった事……これらが今回主人公をデリエル1人に絞り、 魔法杖の詠唱シーンを比較的抑えて戦略描写の方に重きを置く事で、かなり不満点はクリアさ れてたんじゃないかなと。なんか望んでた話と違ってたのに、内容的に随分良くなってたって のは皮肉な感じだけれども(笑)。  今回の物語の良さは何と言ってもデリエルの全ての描写でしょうかね。個人的にも我が強い 所が好きなキャラで前巻からどうも優遇されてるなーって気もしてたんですが(^^;)、自ら が為すべき事を迷い模索して突っ走り、焦燥を背負いながら挫折しかけてもそれを払拭し大き な力に抗おうとする、彼女の信念を貫く活力みたいのものが凄く伝わってきました。  これが他の61分隊メンバーまでわらわら出て来たらこうはいかないだろうなと思うと、や っぱりデリエル1人を掘り下げて描写した事が効を奏してるのかな。代わりに新キャラのセレ ン、ラシスタが前巻のとあるキャラと深く接点があったのは興味深く、また彼女達とのやり取 りでデリエルが性格の地の部分を曝け出してるのもなかなか楽しかった。  それと少し驚いたのが表紙イラストで初めて見れた魔法杖……こんなにごついシロモノだと は思いませんでした(笑)。もっともこれが銃の形状で杖の形状はもっとスリムなのかもしれ ないけど。今回はラストでデリエルが唱えたシーンぐらいしか無かったけど、作中の法力展開 時の描写は相変わらずまだ分かり難い所があったので、そこら辺次巻以降で改善されてると良 いのですが……(もっと魔法杖のイラストがあれば掴み易くなるんだろうけどなぁ)。  気になるのはこの外伝と続きの部分がどう結び付き繋がって行くのか? という事。注目し てるのは今回敵対してたカリス教団大導師ザイゼス。終章の描写から今後深く関わって来そう な予感がしてるのですが、他の主要メンバーも次回復帰するとの事で合わせて楽しみです。  既刊感想:
2002/05/06(月)ヴァルキュリアの機甲 〜首輪の戦乙女〜
(刊行年月 H14.04)★★★☆ [著者:ゆうきりん/イラスト:宮村和生/メディアワークス 電撃文庫]  未知の巨大生物ジャイアントオーガニック(G・O)から世界を守る為に戦う5人の美 少女と、彼女達を束ねる《ヴァルキュリア国連騎兵隊》の隊長として新しく着任する事と なった天宮竜一郎――この設定からまず「何かどっかで見たような……」と感じ、さらに 今まで虐待行為で強制的に戦闘を強いられて来た少女達は当然の如く新隊長の竜一郎に対 して怯えや戸惑いや嫌悪を見せるのですが、“彼の真摯な態度や優しさに触れる内に徐々 に心を開いて行く”って展開から「あれの類似か」と。  他にG・Oの生態とかトリニティタイプ(三位一体思考型)と呼ばれるコンピューター からはあの作品が頭に浮かび、コンピューター名称の言動からの性格付けはあの3姉妹が ちらつき、司令官ヘルガの幼い姿と髪型・髪の色はあのキャラクターと被ってしまう…… てな具合で設定の数々がどっかで見たようなというより明らかに意識してるとしか思えな い所から「ダメだなこれは」と投げ掛けたんですが。しかしまあそれらを覆すような設定 が見事と言うかうまいと言うか。唖然となりながらも感心してしまいました。  それが人間サイズのおおよそ10倍を誇る『戦う巨人の少女達』というもの。彼女達を 指揮する隊長の竜一郎が小人のような感覚で巨人サイズの料理をこしらえたり、普通の少 女と変わらぬ扱いで彼女達に歩み寄り接しようとする姿は何だか妙に微笑ましくて、でも 相手が巨人の女の子と頭にイメージしてみると奇妙な感覚でそれが余計に面白く興味を先 の方へと引っ張ってくれる。上記のちと気になる類似設定も良い方向へ活かせてるなと思 えた作品。頭の中で想像を巡らすのがこれほど楽しい物語は久々だったかも。  1巻完結と思いきや、どうやら終盤の老人とライアーとのやり取りが巨人の少女達の秘 密を示してるようで次巻へ続く展開だったのは嬉しい。きっと人間サイズの竜一郎隊長と 巨人の彼女らの仲もお約束の如く進展して行くものと思いますが、この『人間と巨人』の 溝がなかなか普通の人間同士の様にはいかないだろうし、もしあるとしたらその辺どんな 風に見せてくれるのかなと楽しみでもあります(個人的にはヘルガが気に入ってるので、 彼女の稀に見せる年相応の姿をもっと見せて欲しい所ですが(笑))。
2002/05/05(日)吸血鬼のおしごと The Style of Vampires
(刊行年月 H14.04)★★ [著者:鈴木鈴/イラスト:片瀬優/メディアワークス 電撃文庫]  第8回電撃ゲーム小説大賞『選考委員奨励賞』受賞作。  特徴も名所も特に見当たらないごくごく普通の町である湯ヶ崎町に住まう月島亮史は、 実は吸血鬼だから太陽の光が苦手で夜型で夜間バイトで、吸血鬼だから特殊な力が使えて、 吸血鬼だから寿命が長くて、吸血鬼だから使い魔を使役していて、吸血鬼だから処女の血 を吸うと圧倒的な力を得る事が出来て……などなど、なんでもかんでも頭に吸血鬼つけり ゃいいってもんじゃないだろうと思いましたが。実際作中で亮史の特徴を述べる時「吸血 鬼だから〜」と頭に付くのがやけに目に付いんですが、そういうのは本来ストーリーに沿 った彼の行動心理に合わせて描写してゆくものなんではないかなぁ。  もっとも、そのストーリーにさえ軸が無くて一体登場人物達は何処に向かって何をやろ うとしているのかというのが全然見えて来ないので、そもそも吸血鬼という設定自体この 物語の展開で果たして必要だったんだろうか? とまで思ってしまいました。取って付け たような説明だけじゃなくて、亮史が吸血鬼という存在である必要性を感じさせるような エピソードが物語の中にもっと欲しかったかなと。  他にも受賞作で完結してない上に謎残し過ぎだとか、レレナは亮史に血を吸われるだけ の小道具に過ぎなかったんじゃないかとか、関わりの度合いからヒロインは舞だけに絞っ た方が良かったんじゃないだろうかとか、あまりにも場面転換が頻繁過ぎて構成がめちゃ くちゃだとか、確かに作中いいなと感じる部分もあったんだけど、今一つな部分が圧倒的 に多くて良い所がダメな所に押し潰されてしまったという印象でした。  その良い所を挙げるとすれば、キャラクターの何気ない仕草と動作が文章の中でうまく 表現されていた事。これによってキャラクターに愛着が湧いたり猫達の場合だった愛くる しさを感じられたりとか出来たので良かったかな。あとはツキを中心にした、モザイクや ユキなど猫達の社会関係の描写でしょうかね。主人公は亮史でもいいとして、物語の視点 はいっその事ツキの視点で統一させた方が面白いんじゃないかなーとも思いましたが。  とりあえず読んでしまったからには一応続きを待ってみる事に。せめて上弦の事と今回 全く見出せなかったレレナの存在意義くらいはしっかり書いて欲しいです。
2002/05/04(土)A/Bエクストリーム CASE314−[エンペラー]
(刊行年月 H14.04)★★★★ [著者:高橋弥七郎/イラスト:金田榮路/メディアワークス 電撃文庫]  第8回電撃ゲーム小説大賞『選考委員奨励賞』受賞作。  難があると感じたのは巻末の設定集を読まないとなかなか頭に浮かばず分かり辛い世界 観と、同じく作中の描写だけではイメージし難かった多種多様の武器用語くらいで、登場 人物・背景描写・心理描写・構成演出……など、総合的に見たら今年の電撃ゲーム小説大 賞受賞作品の中では1番のデキだったんではないかなーというのが個人的な感触。  近未来と呼ぶには遠い世界の物語。外宇宙航行の為の推進機関の実験中、実験装置の上 に突然現れた、後に正式名称で『天使の輪』と呼ばれるもの。その輪は内側に<ゾーン>と 呼ばれる異空間への抜け道『境界面』を持っており、その発見が飽和状態で宇宙の高みへ と生活を求めていた地球人類の目先が<ゾーン>へと向けられるようになった。  <ゾーン>という世界観イメージがある程度読み進めるまでかなり浮かび難かったんです が、許容制限無しの人類にとっての新生活圏みたいなもんでしょうかね。  そして<ゾーン>も絶対安全ではなく、許容量の見返りと言うべきか<ゾーン>内の大エネ ルギー地帯のみに出現する<グレムリン>と呼ばれる怪物を内包していて、そのグレムリン 退治を生業としているのが本編主人公、ディビジョン駆除商会のアンディ(A)とボギー (B)というわけです。  メインは彼らの爽快なアクションシーンですが、敵との駆け引きとかアンディとボギー の過去のエピソードの絡ませ方などはうまく描けていて面白い。そして何よりアンディ、 ボギーの行動思考や影で彼らをサポートするディビジョン駆除商会の面々がもうめちゃく ちゃ格好良かったです。特にアンディとボギーの行動信念は過去の設定が非常に効いてい て、一介の駆除屋を越えた依頼を遂行する姿に思わず惹かれてしまいました。  この辺のキャラクターの魅力が設定の難しさを補って余りある良さではないかなと。ま、 私がこの作品に最も好感抱いた部分は、昨今あからさまに続編出したがりな展開の作品が 多い電撃レーベルの受賞作の中で、謎を残さず書き切ってしっかり完結させていた点に尽 きるのですが(笑)。その上で続編として新たなエピソードを立ち上げるのが求むべき事 なのかなぁ……。そんな訳で好感触だった本作、続きを期待してみたいです。
2002/05/03(金)なずな姫様SOS 目に入らないよ紋どころ
(刊行年月 H14.04)★★★ [著者:阿智太郎/イラスト:椎名優/メディアワークス 電撃文庫]  今回はなずな姫の水戸黄門ごっこ。水戸黄門の本を読んで見事に影響されまくった姫が 水戸黄門役をやりた〜いと駄々こねで、相変わらず胃の痛いじいやの箱兵衛は丁度城下町 で公演してる演劇一座に役者と舞台とシナリオをセッティングしてもらい“擬似”水戸黄 門を姫に演じてもらおうと画策。しかし単なる演技かと思いきや実は……というこの序盤 からバレバレな展開とオチが逆に潔くて私は好きです(笑)。  ただぺんぺん丸が記憶喪失になって最後に颯爽と登場ってのは、パターンが前回とまる で一緒なので同じこと繰り返して評価維持出来るのもこの巻までかなと。仮に次巻もやる としたらパターンに捻りを加えて欲しい所ですが。まあその分笑いで充分補えてる感じも するし、考えてみれば水戸黄門だって大岡越前だって三匹が斬るだって遠山の金さんだっ て桃太郎侍だって必殺仕事人だって江戸を斬るだって毎度のクライマックスシーンはパタ ーン化されているわけだから、それらに則ったある意味正しい展開なのかも(^^;)。  メインは水戸黄門ごっこでしたが他2本中編作が入っていて、どちらかといえば個人的 にはそっちの方がより面白かったような気も。菜種忍者は誰も彼も人間も獣も、本人は至 って大真面目にやってるのに側から見ると変な奴にしか見えない2話目と、忍ぐるみの秘 密と着用の苦労がなずな姫の身に染みた3話目と。何となく菜種忍者関係が中心でしたが、 期待通り笑いと話の広がりを感じたので、今度は前巻出てきたどくだみ藩の面々とか今回 ラストにちょっと出た向日葵藩となずな姫との絡みなどを見てみたい。  既刊感想:
2002/05/02(木)なずな姫様SOS CD付きだョ! 豪華版!!
(刊行年月 H13.09)★★★ [著者:阿智太郎/イラスト:椎名優/メディアワークス 電撃文庫]  なんかすげータイトルだよと思いつつ、本当にCD付属で割高だけどそれ自体はCDブ ックとかもあるし別に珍しい訳じゃなくても面白い試みではあるけれど……シングルCD 2枚を文庫サイズの本に入れっぱなしの状態だと読み辛くてしゃーない(^^;)。  それはともかく、元々は著者の阿智さん自らパーソナリティを務めるラジオ番組で立ち 上がったラジオドラマの企画がこの物語の始まりだそうな。  七草藩の元気爆発お姫様・なずな姫のお転婆騒動を中心に、城の家老や女中やお付きの 忍者など個性的な面々を巻き込んだドタバタ時代劇コメディ。姫が城抜けして城下町へ遊 びに行ったり、お目付け役の家老がそんな姫に苦労させられっぱなしだったり、悪代官と 越後屋の「お主も悪よのぉ」「いえいえ、お代官様にはかないませぬ」『わっはっはっは っ』的会話があったり、不憫な村娘が帯回されて「あ〜れぇ〜」となったり……そんなお 約束のオンパレードです(笑)。どのシリーズでもほぼ同じ文体なもんで新鮮さはあまり 感じられなかったけど、お得意の笑いのツボを押さえた軽快で分かり易くテンポの良い描 写は手馴れた安定感があり、今回も至る所で笑いを提供してくれてます。  キャラの中では菜種忍者のぺんぺん丸が私は一番好きかな〜。くそ真面目になずな姫を 影から護衛してるわりに忍ぐるみ姿のお間抜けさが笑える所とか(笑)。主人がピンチに なって颯爽と登場ってのもお約束ですが、なずな姫は何だかんだ言ってぺんぺん丸を凄く 信頼してるし、ぺんぺん丸もなずな姫のお転婆に翻弄されながらもちゃんと守りながら最 後まで付き合っているし。この二人の関係ってなんだかいいなって思います。今後またぺ んぺん丸の記憶喪失バージョンは登場するのか? それに一瞬胸ときめかせたなずな姫と の関係の進展はあるのか?(いや多分無い) 後半は隣接藩のちょっかいなども描かれて て面白かったので、次回以降もお約束はいいとして似たような話にならないようバリエー ションの広がりを見せて欲しい所。
2002/05/01(水)Dear My Ghost II 幽霊は身元不明
(刊行年月 H14.04)★★★★ [著者:矢崎存美/イラスト:白亜右月/角川書店 角川スニーカー文庫・スニーカーミステリ倶楽部]  今回は山奥の大邸宅が舞台。前巻の活躍により音見町内にはその名が轟く事となった黒 部咲子(と言っても本当に貢献したのは彼女の弟で主人公の真人だけど)のもとに届いた 一通の手紙。それは20年の失踪を遂げた後に記憶喪失で発見された小沼家の跡取息子・ 喜代志の霊視をして欲しいという依頼だった。  ……と、それを意気込んで受けたはいいが本来占い師としての能力などこれぽっちもな い咲子は、相変わらずハッタリと外面の良さと卓越した演技力でカバーするのでした。い や〜このお姉さん、時々うざったい事もあるけど能力ないのにその自信は一体何処から湧 いて来るんだって感じの空回りまくってる勢いがかなり好きです(笑)。  DNA鑑定まで行って本人と確定してるにもかかわらず、自分を頑なに小沼喜代志と認 めない彼の失われた記憶と失踪時の足取りを解く事が表向きで追っているもの。  そして前巻同様、幽霊を見る事の出来る真人と彼の守護霊少女・美海だけが裏で真に追 いかけている事が物語のメインとして描かれています。それは喜代志に寄り添うようにと り憑いている女性の幽霊と、小沼家に滞在するようになってから何かと真人にちょっかい を出して来る男の子の幽霊の身元調査。  二人の幽霊とも身元の真相が終盤までハッキリ明かされてなくて(まあそうじゃなきゃ ミステリとして面白くないんだけど)、特に喜代志に憑いてる女性は真人達も中盤までは 手掛かりすら掴めなくて、「一体誰なんだろう?」と読み手に思わせながら真相へ導いて ゆく展開が非常にうまいと感じました。真人や美海が推理しながら謎を解くってのとはち ょっと違うんですが、基本は聞き込みと幽霊への語り掛けで徐々に手掛かりを掴みつつ真 実へぐいぐい引っ張ってゆく描き方が面白くて良かった。  欲を言えば、今回も幽霊に掛かりっきりで真人と美海の過去とか知りたい部分が語られ てなかったのは残念。そういうエピソードは是非読んでみたいなーと思ってしまうんです が、今後何らかの形で物語に絡ませて欲しいなと。その時は毎度影の功労者である真人君 もいい思いが出来るでしょうか。今回の淡い恋心もご愁傷様だったしね(笑)。  既刊感想:


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