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11/10 『ダビデの心臓2』 著者:スズキヒサシ/電撃文庫
11/08 『想いはいつも線香花火』 著者:一色銀河/電撃文庫
11/07 『電撃!! イージス5』 著者:谷川流/電撃文庫
11/05 『空の中』 著者:有川浩/メディアワークス
2004/11/10(水)ダビデの心臓2
(刊行年月 2004.11)★★★☆
[著者:スズキヒサシ/イラスト:尾崎弘宜/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
お、予想以上に面白さがぐぐっと上向き加減で良かったかも。前巻でもう一つ乗り切れ
なかったのは分量自体が少なかったせいか、それとも全体的なプロローグの位置付けで盛
り上がる前に終わってしまったせかいどうか。ただ、やっぱりそういう要因が少なからず
影響していたのも確か。二巻目は一巻の不足を補うだけの充分な分量だったし、ようやく
物語の動きが活発になって来たお陰で盛り上がりの手応えも充分な出来でした。
同じ『ダビデの心臓』を持つソロモンの末裔達を避けつつミラと逃げ延び続ける明日馬
は、彼の導き手となるヤッキンとボアズの子供達――ミラとナイトに同じく導かれた三人
目の少女・千尋と出逢う。そして複数の組織勢力に分かれているソロモンの末裔達の現状
を知らされながら、やがて探し続けていた姉・笙子と再会を果たす辺りが今回のメイン。
絶望的な状況に追い込まれても、どこか起伏に欠ける淡々とした感情なのは変わらずの
一人称だけど、それでも現在の笙子の考え方に対してどうしても相容れる事が出来ず、平
行線を辿るしかない明日馬の喪失感や絶望感みたいなものは割とよく出ていたと思う。ち
ょっと明日馬にシスコンの気があるのも、叩き落されてるこの場合は実に効果的で、読ん
でいても何かこうずしっと心に圧し掛かってしまう陰鬱さがまた堪らなくて。結局明日馬
と笙子の関係はこうなっちゃうよなぁ。今後の接触が怖いような楽しみのような……。
これまでの明日馬の主張ってのは、多分誉守也が指摘してるような矛盾だらけという表
現が最も的を射ている気がする。幾ら嫌だ嫌だと叫んでも、生き残る為に結果的には自ら
の手を血で汚しているのだし。もしどの選択肢も嫌だと言うのなら、それこそ逃れる為の
死を選べば全てのしがらみから解放されるわけで。しかし明日馬は死を選択したくないか
ら、それから逃れたいが故に苦悩と葛藤の果てに苦渋の選択肢を飲んでいるのかなと。
大切なのはたとえ相容れない選択をしたとしても、そういう自分の矛盾を明日馬が自覚
した上で前へ進む意志なのだと思う。まだその辺の決意が少々フラフラしているのだけど、
千尋という分かり合える存在を得た事で、強固になって行って欲しい今後に期待です。
既刊感想:1
2004/11/08(月)想いはいつも線香花火
(刊行年月 2004.10)★★★
[著者:一色銀河/イラスト:ゆい/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
頭の軽い思春期なのかどうなのかの主人公の性的欲求&変態的脳内妄想を、一冊丸々延
々と垂れ流し続けられたような印象で読んでて凄く疲れた。何一つ同調出来ない優夜の妄
想染みた性癖もかなりアレだけど、今自分は一体何の物語を読んでるのか見失ってしまう
事が多くて、その都度思い返す為に立ち止まったりしてたのでもうどうしようかと。落ち
こぼれの癖に、度々漏らす『自分の一族は一般人とは格が違うんだよな〜』みたいな思考
は、おのれが恨んでるの父親や兄弟達と一体何処が違うんだよと突っ込みたくなったし。
一人称の馬鹿丸出しで阿呆な性格の主人公でも、どっかで見た事あるような美人&美少
女三姉妹がヒロインでも、料理次第で幾らでも可能性は広がるだろうから、やっぱり読み
ながらキツいと感じるのはのはそれだけの原因があるからだと思うんですよね。
と、考えてみて。個人的にこの物語で面白くなくて問題だったのは、優夜が一人で突っ
込んでボケて暴走して妄想して真面目になった挙句、外側に広がらないまま勝手に自己完
結して済ませてしまっている点。要は一人語りとか一人芝居のような印象で、しかもそれ
が殆ど性欲かマニアックな知識の方向にしか行かないもんだから痛々しくて仕方がない。
この優夜って野郎は自分の中で自分の欲望ばっかりたらたら流してるので、本来ならも
っと見えなければならない筈の美風や美空の感情も全く見えて来ない。これは優夜の自虐
ネタを晒しているだけで、ラブにもコメディにもなり切れてないのでは? 少なくとも美
風か美空とのラブコメディとはとてもじゃないけど思えない。せめて優夜が美風の感情に
もっと触れた上で、優夜が自分の事より美風の事を考えるように仕向けないと。終盤の戦
いも盛り上がらないし締め方も尻切れだし、さっぱり良い所が見つけられなくて残念。
2004/11/07(日)電撃!! イージス5
(刊行年月 2004.11)★★★☆
[著者:谷川流/イラスト:後藤なお/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
元々は同著作『学校を出よう!』の前段階で出来上がっていたもので、現在は『電撃萌
王』にて好評連載中な企画なのだそうで(ちなみに私は連載の方は見た事無かったです)。
要約すると、“五人の美少女達が世界を脅かす未知の物体を殲滅する為に特殊能力を駆
使して戦い続ける戦隊風物語”ってとこでしょうか。とりあえず登場する女の子達は皆が
皆典型的なのもいいとこなので、普通とは違う刺激を求めようと期待しても肩透かし食ら
うだけ。ただ、基本的にドタバタを繰り広げる個々の一挙手一投足を温かい目で見守って
いる分には、割とどの娘も可愛く描けてるんじゃないかなという感じにもなって来る……
と思う。個人的にはツンツンしていながら主人公を充分意識している巴が好きかな。性格
容姿は一通り揃っているので、あとは個性によって読んだ人の好みで転げれば良いかと。
全編とにかくキャラクターの魅力を見せる事に徹底しているようですが、主人公・秀明
の祖父である博士(確か名前は出なかったような……)別次元に飛んでしまった事とか、
こことは違う上位の次元が存在しているだとか、結構設定が『学校を出よう!』を彷彿と
させるようなもので、まだ明かしてない手札は意外と多いような気もしました。少なくと
も底は浅くも甘くもなさそうなので、もし一発芸ではない続き方をしてくれるなら期待し
てみてもいいのかなぁ? まあこの物語の雰囲気がどうも設定を突き詰めて描くような方
向性じゃない印象なもんで、期待していいのかどうか疑問符付きで首捻りつつ。
あと秀明は女の子達ともっと絡め〜。事なかれ主義というのか、そういう性質も『学校
を出よう!』の佳由季と非常に近いものがある。佳由季よりはまだコミュニケーションを
取ろうという意志は感じられるにしても、折角の一人称文章なのに何か感情の起伏が平坦
というのかなぁ(しかしこれも実に谷川氏らしい描写で、秀明の性格といえばそれまでな
んだけど)。エロ人工知能ことガニメーデスの方が、読み手に近い感情を剥き出しにして
いるという意味では正しい反応なのかも知れない。秀明にここまでやれと言ってしまうと
性格自体変わってしまうんで望まないけど、もうちょっと歩み寄りは欲しい所。
2004/11/05(金)空の中
(刊行年月 2004.11)★★★★
[著者:有川浩/メディアワークス]→【bk1】
物語の発端は、純国産輸送機開発プロジェクトの試験航空機『スワローテイル』が高度
二万メートルで原因不明の爆発を起こした事。そして人々の衝撃覚めやらぬ内に、またも
高度二万メートルで今度は自衛隊機が爆発してしまった事。この二度の航空機爆発事故は
単なる偶然か? それとも事故に何らか関連性や繋がりが潜んでいのか? という辺り。
主軸はその原因――高度な知能を持った未確認生物・ディックとの接触、歩み寄りと相
互理解の為の語らい、ディックの扱いを巡っての諍いから信頼の失墜、そして再び信頼回
復を求めての説得など。線は二本あって、一本は最初にはぐれた未確認生物を飼育し始め
た瞬と佳江、もう一本は爆発の原因を突き止めた高巳と光稀。この普通なら交わらない平
行線が、ディックという未確認生物を間に挟む事によって徐々に近付き交わってゆく。
読み手の感情が寄りそうなのは、多分中盤以降ディックとの交渉役に徹している後者の
方かな? 描写としても分量的にはそちらの方が多いので。ただ、個人的には父を失った
後の瞬の危うさや、それに気付いていながら言えなかった佳江の悔恨なども含めて、この
二人の感情描写も凄く好きでした。なので、高巳の交渉によるディックへの歩み寄りもな
かなか面白かったのだけれど、その分瞬と佳江の方がやや脇に寄っていたのは少々残念だ
ったかなと(贔屓してるからそう見えただけ、と言われてしまえばそうなのかも)。
もしこの物語中の視点というものが、高巳の交渉ではなくて別の所に余計に比重が置か
れてたとしたら、物語の雰囲気はがらりと変化していたように思う。例えばそれが被害者
の遺族である瞬と彼を側で常に見ている幼馴染みの佳江であった場合、心の繊細さが更に
浮き彫りになっていただろうし、真帆であった場合は張り詰めた強さの裏にある脆さに加
えて復讐心の暗さとか、そう言ったものが顕著に表れていたような気もします。
正直な所、この長さでもまだ感情的な部分を掘り下げようと思えば出来たんじゃないだ
ろうかと。決して物足りなかったわけじゃないんだけど、やっぱり高巳と光稀の印象が強
かったので。特に麻帆の立場からの心理描写はもっと余計に覗いてみたかったですね。
いやしかし光稀の反応は気丈な性格とは裏腹に(だからこそか?)、ことごとく可愛ら
しくて参った。高巳とのじゃれ合いとかが堪らんのですよ。こういうシーンを挿絵付きで
読みたいってのは、普段挿絵付きの小説に慣れ親しんでいる奴の我侭なのかどうか。
頁数はざっと五百頁近くあるのですが、受賞作だった前作『塩の街』と比較してみたら、
物語の組み立て方が格段に上手くなっていて嬉しいやら驚いたやらで。とにかく次から次
へと畳み掛けるように楽しませてくれる要素を仕掛けているものだから、この分量でも殆
どダレたり飽きたりする事が無くて、最後の最後まで充分な面白さが持続していた。
むしろこれだけの長さを使って物語を描いてくれた方が、存分に文章表現力を発揮出来
るんじゃないだろうか? なんて風にも思わされたのだけど考えてみればこれはまだ二作
目。だからこそ飛躍的な進歩に素直な嬉しさが込み上げてきた訳ですが、ただ私の場合は
『塩の街』がもう一つな印象だったから、今作の好感触な手応えが際立っていたのかも知
れません。もうこれだけいいものを見せられては、次回作を期待せずにはいられない。
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