NOVEL REVIEW
<2005年02月[前半]>
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02/10 『ご愁傷さま二ノ宮くん』 著者:鈴木大輔/富士見ファンタジア文庫
02/08 『約束の柱、落日の女王』 著者:いわなぎ一葉/富士見ファンタジア文庫
02/01 『SAKURA−ment 〜真夏の桜に約束を〜』 著者:和井契/富士見ファンタジア文庫


2005/02/10(木)ご愁傷さま二ノ宮くん

(刊行年月 H16.09)★★★ [著者:鈴木大輔/イラスト:高苗京鈴/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  第16回ファンタジア長編小説大賞『佳作』受賞作。  もしかして……どっかで見た事ある読んだ事あるだとかありきたりのギャルゲー的エロ ゲー的シチュエーションだとか、あえてそういうありがちな物語に仕上げてありがちな意 見を引き出させようとしてるんだろうか? そして見事誘導に成功した書き手側は読み手 の感想を見て「してやったり」とほくそえむ? いやまさかそんな事が……あったら素直 に参りましたと頭下げるしかないけれど、そこまで計算して意図的にやってるとは思えな いというのが正直な所。要はベタもベタベタなお約束だらけのラブコメストーリー。  ドタバタな騒動で話を盛り立てるラブコメってのは、私はどちらかと言えばあまり中身 が無くても楽しければそれでいいと済ませられる位に好きな方なのですけど、この物語は あんまり楽しめなかった。とにかく大問題なのは、ヒロインである真由の存在感があまり に稀薄過ぎて全く目立ってない点。多少大人しい性格の面は影響してるだろうけど、折角 「サキュバス」って設定が付いてるんだから、そこを活かしてもっと目立たせてあげても 良かったのでは? 何か周囲の濃いキャラに圧倒されてるのが不遇に思えてならない。  逆に思春期少年峻護の性的欲求に対する理性と本能のせめぎ合いとかが、これでもかと ばかり前面に押し出されまくりで目眩は起こすわ溜息は出るわでちとげんなり気分。感情 が峻護から真由の一方向だけしか流れていなくて、真由から峻護へは全然伝わってないか ら面白くならない。他のキャラ――正体が謎な黒幕コンビの涼子&美樹彦やヒネクレお嬢 様の麗華&付き人の保坂先輩、それに奇人変人揃いな峻護のクラスメイトなんかは凄く良 い味出してるのになぁ。その全てに真由の存在感が押し潰されているのが勿体無い。まあ 評点は佳作受賞なのを考慮して。今後真由のキャラが立ってくれれば或いはどうかなと。 2005/02/08(火)約束の柱、落日の女王
(刊行年月 H16.09)★★★★☆ [著者:いわなぎ一葉/イラスト:AKIRA/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  第16回ファンタジア長編小説大賞『準入選』受賞作。  突然過去へ飛ばされてしまった若き戦士と、現在の史実で既に滅亡が定められている過 去の若き女王とのラブストーリー。特にこのタイムトリップという設定の使い方の上手さ、 それから横道に逸れて余計なものを詰め込まず、終始一貫してカルロとクリムの惹かれ合 う姿や細やかな感情の変化を最重視した描写などが非常に素晴らしい物語と思いました。  カルロは戦士として前線に立って戦うよりも、知略に優れた軍師としての姿の方が主に 過去の世界では印象深い。女王クリムが治めるシュラトス王国は隣国の脅威に晒されてい る真っ只中なので、描く気ならばそういうカルロの性質を活かした戦略を表に立てての隣 国との戦争を濃く描けていた筈。しかしながら実際には隣国に対する政策の実施以外でも、 物語の中では経過を飛ばして直ぐに結果だけが描かれている場合が多い。この物語の面白 い所は、物事の経過が描かれていないせいで物足りない……とはならなかった点。  何故ならば、この物語はそういう様々な結果の過程ではなくて、結果を受けた先にある カルロとクリムの感情の変化や触れ合う心こそを最も大事に描いているから。ここを一番 描きたいと著者が思うまま素直に描いたからこそ、純粋に響いて伝わってきたのかなと。  しかも最後の最後でこの“時空を越えた恋愛”の辺りが、読んでいて物凄く堪えてしま うのですよ。或いはこの結末は最初から生きる時代が違う時点で予想出来てしまうのかも 知れないですが、そうであっても不安と焦燥が入り乱れる終盤のカルロとクリムが寄り添 い語らうシーンにぐぐっと惹き込まれ、気が付けば幸せな二人の結末を願わずにはいられ ませんでした。ただ、どんな形であれクリムが納得して運命を受け入れて、最後にカルロ に寄り添えた事実は少なくとも私にとっては救いたったように思います。どうやらこの物 語には続きがあるようなので、どんな展開で読ませてくれるのか楽しみにしたいです。 2005/02/01(火)SAKURA−ment 〜真夏の桜に約束を〜
(刊行年月 H17.01)★★★☆ [著者:和井契/イラスト:さがのあおい/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  第16回ファンタジア長編小説大賞最終選考作。  ホムンクルス育成ゲームを文章媒体に変換すると大体こんな感じになるかな? シナリ オルートとしては育てた娘と恋愛感情含みの関係にもつれ込む……のではなくて。主人公 の雅人や、彼の叔母でホムンクルス=サクラの生みの親でもある迪子の過去からも分かる ように、これは母子関係が強調されて描かれている物語。単純に性別で当てはめるなら雅 人とサクラは父娘となりますが、母親を強く意識した作りになっているので、やはり雅人 のサクラに対する役割は母親と括った方がしっくりくる。まあこの辺は些細な事ですが。  ちなみに恋愛感情は殆ど生まれません。そっち方面にうっかり期待を寄せると確実に肩 透かし喰らいます。サクラは多少意識してないでもないんだけど、雅人の方が全くそうい う意識じゃないから。と言って鈍感とも違うもので、これは最初からずっと雅人のサクラ を見る目が“親が子を見守る視線”で固定されている為。自分が育てているホムンクルス とは言え、同年代の娘がすぐ側にいて年頃の青少年が悶々としないのはそういう意識があ るからかなと。もしかしたら本当に雅人が鈍感なだけかも知れないけれど。  下手に登場キャラの人数を増やさずストーリー上必要最小限に絞って、主に雅人とサク ラの触れ合いを重点的に見せる展開は好感触。スッキリした内容で特に描きたい事がスト レートに響いて来る辺りは凄くいいなと思えた。ただ、惜しいのは過去の雅人が鍵となっ ている割には過去への触れ方が物足りなかった点。迪子さん自身の過去や美咲・美幸と暮 らした時の過去など、雅人にとって重要だからこそもっと重点的に描いて欲しかった。  んで、読了時点で一番言いたかったのはオリジナリティーが足りないって事なのですよ ね実は。これもまた個人的には好きな部類の物語なのだけど、受賞作家のデビュー作には、 常に“どこかで見たような気がする”事のない独自性に期待しているので。それでも楽し めたのは間違いないので、この続編でも別作でも次の作品を楽しみにしています。


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