NOVEL REVIEW
<2006年09月[後半]>
] [戻る] [
09/28 『初恋セクスアリス』 著者:矢野有花/富士見ミステリー文庫
09/28 『うれしの荘片恋ものがたり ひとつ、桜の下』 著者:岩久勝昭/富士見ミステリー文庫
09/20 『セカイのスキマ』 著者:田代裕彦/富士見ミステリー文庫
09/18 『さよなら、いもうと。』 著者:新井輝/富士見ミステリー文庫


2006/09/28(木)初恋セクスアリス

(刊行年月 H18.07)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:矢野有花/イラスト:桐野霞/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】  2ヵ月連続オール新作『初体験(はぁと)project』その5。  よし! 予想通りだ。新作のどれかでこういう事やると思ってた。プロジェクト名に 違わずの初体験。文字通り“やっちゃいました”というやつで。その辺は同レーベルの 他作品で前例が存在するからありだろうなと思うけど(一応ミステリー文庫なのに……)、 女の子の一人称で丸裸にされるが如く恋心を曝け出すような描き方ってのは、これまで 富士ミスではあまり触れた事が無かったかも。まあ富士ミス以外でも滅多に読んでない だろうから「こういうもんなのかな?」という想像の域でしか物言えないけれど、所謂 『少女小説』と括られているものに近い雰囲気? 読んでみて分かったのは「こういう のかなり好きだ」って事。有紗の感情がストレートに伝わって来て凄く良いなと。  謎とされているのは“有紗にとって十年前のお兄ちゃんは誰か?”の部分くらい。も っとも、最初から候補は絞られている上にバレバレだから、謎と言えるのかどうかは微 妙な所だけど。行彦が怪物に洗脳でもされて有紗に迫れば面白かったのに……ってさす がに酷いかそれは。でもそんな行彦の割り込みなどによる刺激を欲していたのも確か。 2006/09/28(木)うれしの荘片恋ものがたり ひとつ、桜の下
(刊行年月 H18.06)★★★★★★★☆☆☆(7/10) [著者:岩久勝昭/イラスト:ごとP/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】  2ヵ月連続オール新作『初体験(はぁと)project』その4。  「ちょっと読んでみればあなたもL・O・V・Eの虜」と目一杯LOVE押ししてる 癖に(帯折り返しの紹介文参照の事)、蓋を開けてみればミステリ寄りの内容だなんて 酷いや……と、思わず文句たれたくなるこのレーベルの方向性がどうかしてる(一応褒 め言葉寄りで)。暗号文の謎掛けの解答を探したり、うれしの荘の伝説と瀬名の両親に 関わる過去の謎を追ったり、ミステリ側へ向けて随分頑張ってるなぁという印象。  ただ、今僕等が富士見ミステリー文庫に求めているのはそっちじゃないんだ! なん て、珍しくミステリ重視で描かれている内容に真っ向から喧嘩売るようなこの意見はさ すがにどうかと思うのだけど。まあそれでもやっぱり、カバー折り返しにあるあらすじ のような恋愛模様が描かれるのを期待していたので。正直直志の中でそういう“初恋の 片想い”みたいな雰囲気はあまり感じられなかったよ。どうも謎を追う方に一生懸命で、 瀬名の気持ちなんかも全然描かれてなかったからなぁ。もっとどきどきしたかった。 2006/09/20(水)セカイのスキマ
(刊行年月 H18.06)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:田代裕彦/イラスト:綾瀬はづき/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】  2ヵ月連続オール新作『初体験(はぁと)project』その3。  原型は龍皇杯エントリー作品だそうで。読んだ覚えが無いって事はその頃既にドラゴ ンマガジン買うの止めてたかな? 基本設定以外はキャラクター一新、ストーリーも大 幅変更されたとの事。この原点を知らなくても本作読むのに支障は無くて一安心。  このレーベルでミステリ要素絡めて巧く料理する事の出来る数少ない作家さん……な んて印象で勝手に期待を寄せてみて、その実きちっと望んでた部分で期待に応えてくれ るのが何とも嬉しかったり。今作は最初からオカルト色が濃かったので、解決策も超常 現象的なものなのかなぁと想像してたら、オカルトを妄想や思い込みに仕立て上げて現 実的観点から解決してみせるとは。で、一旦ケリつけたと見せてそのあと本当は……と 繋げてゆく展開も良かったし、“彼岸(アチラ)に棲むモノが此岸(コチラ)に認識さ れて初めて存在が明確になる”という設定も今後使い所が色々ありそうで面白い。  みこの兄と同じような条件で怪異を切り抜けた哲は『狭間の住人』予備軍か? 彼が 右目の視力を殆ど失ったのはきっとこの時の為、みたいな含みを感じるのは果たして気 のせいかどうか。みこの能力や彼女の兄についてまだ明確じゃない部分もあるし、結構 意外で実は当然の場所に落ち着いてしまった“彼女”の動向も大いに気になる所。 2006/09/18(月)さよなら、いもうと。
(刊行年月 H18.06)★★★★★★★☆☆☆(7/10) [著者:新井輝/イラスト:きゆづきさとこ/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】  2ヵ月連続オール新作『初体験(はぁと)project』その2。  三日前に死んだ妹が突然生き返った。さて、この非現実的な現実を受け入れるか拒絶 するか見なかったことにするか最初から無かった事にするか……捉え方によって様々に 分岐するのだろうけど、私は一応「在り得ない!」と捨て台詞吐いて逃げてみたい。  とりあえずこの母子はあっさり受け入れ過ぎだろ、と思わなくもないんだけど、死者 が蘇るなんて事態を平然と日常に溶け込ませる芸当が出来なければ、とてもこんな風な 生前と殆ど変わらない関係にはなれないのかも。逆に割とあっさり抱き込めてしまえる 兄と母だからこそ、大した違和感も与えることなく妹が生き返って来れたのかなと。  何故妹が生き返ったかについては……結局の所曖昧にされてしまった? まあそこら 辺はあえて深く追求してないようだし、もっと大切な何かが色々前面に出ているので、 “日記による魔法の力”と捉えておくのが妥当か。あれだ、『ROOM NO.1301』の “何故無い筈の13階があるのか?”に明確な答えが出てないのと一緒なんだろう。  「お兄ちゃんと結婚したかった」と言われて、ドキッとしたけど多分やましい気持ち にもならなければ背徳感も抱かない。たとえトコが本気であっても、トコ自身が純正の 妹として描かれているから、一線を超えるだとかの危うい部分が全くと言い切っていい 程見当たらない。まあ最初は痛みや切なさ絡めて泣かせる方向に持ってゆく展開を期待 してたのだけど、トコの役割は明らかに別のものだから。「お兄ちゃんと添い遂げたい」 じゃなくて「お兄ちゃんの背中を押してあげたい」。何となくそんな風に感じられた。


戻る