NOVEL REVIEW
<2002年01月>
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01/23 『赤城山卓球場に歌声は響く』 著者:野村美月/ファミ通文庫
01/15 『明日の夜明け』 著者:時無ゆたか/角川スニーカー文庫
01/06 『戦略拠点32098 楽園』 著者:長谷敏司/角川スニーカー文庫


2002/01/23(水)赤城山卓球場に歌声は響く

(刊行年月 2002.01)★★★ [著者:野村美月/イラスト:依澄れい/エンターブレイン ファミ通文庫]→【bk1】  第3回「エンターブレインえんため大賞」小説部門最優秀賞受賞作。  依澄さんの表紙イラストで思わず買ってしまったタイトル。新人作家さんらしくノリと勢 いに凄まじいものはあれど、かなり内容がぶっ壊れてます(誉め言葉ではない)。  テーマは女の子同士の友情とか、そういう面は割とうまく書けてるかな? 文体が一人称 なので読む人によっては好みが分かれるかもしれないけど、朝香に同調移入出来るような書 き方という点で一人称文としては及第点レベルではないかなと。  しかし大問題なのが物語の中身で、とりあえず卓球魔人ってなんやねんと関西弁でツッコ ミ入れたくなるような展開。タイトル通り卓球(もどきだけど)やってるしコーラスでドナ ドナとか歌ってるけど、混ざり合ってぐちゃぐちゃで無茶苦茶で無理矢理な内容はどうにも ゴメンナサイって感じですかね。もっと書き込んだ方がいいんじゃないかと思う部分がこと ごとく端折られているし、特に終盤の急ぎ過ぎな展開はあんまりだ……。  ただ内容で地雷臭さは漂っても、それを補え切れてるとまでは言えないけど9人もの女の 子達の描写と書き分けはうまいと思います。最初はごっちゃになって誰が誰だかでも、読ん でく内に気が付くとちゃんとそれぞれ特徴掴めていたし。  う〜む、無理に良く言うなら無茶な展開を吹っ飛ばすくらいに勢いがあるってトコかな。  それでも良かれ悪かれ、この物語とキャラクター達は一度読んだら忘れられない程強く印 象に残る。そこら辺が一番評価出来る点かも。人数多過ぎな為に一人称の朝香本人と華代子 以外の見せ場がイマイチ少なかったので、同じ登場人物達で別な物語ってのもちと読んでみ たい気はします。そん時はもっとまともな展開でお願いします、と。   ところで文庫に付いてた帯の裏を見て驚いたのですが、この作者さん1月〜3月まで3ヶ 月連続で新刊を刊行する模様。ファミ通文庫も無謀……もといチャレンジャーだなぁ。  2002/01/15(火)明日の夜明け
(刊行年月 H13.12)★★★★ [著者:時無ゆたか/イラスト:石田あきら/角川書店 角川スニーカー文庫]→【bk1】  第6回スニーカー大賞『優秀賞』受賞作。  個人的にはめちゃくちゃハマりました。面白かったです。  ミステリーであり推理もあり学園モノのホラーでもあり。そのどれかが突出してたわけじ ゃないし、校舎内に閉じ込められた仲間達が1人ずつ何者かに殺されて行くというどっかで 見たような舞台設定ではあるけれど、この作品はとにかく読み手を先へ先へとぐいぐい引っ 張る力がもの凄く強かったように思えました。もう真相が知りたくてしょうがなくて、気が 付いたら一気読みで読了してたというのは私にとっては久々だった。  ただこれは好みのジャンルや展開ってのも要因になってたりするんですが、ミステリーに ある推理・事件の組み立てやホラーの恐怖感なんかは過度に期待しない方がいいかも。  でもその辺りの粗はあれど新人作家さんらしい勢いが感じられる作品ではないかなと。  読んでいてかなり引き込まれてしまったというのは前述の通りですが、このテのジャンル は散りばめられた伏線や謎が真相としてどのように明かされるか? これに評価が掛かって くるだろうから、幾ら本編が面白くともおざなりな結末だと一気に興醒めしてしまう事もあ り得るわけで、その辺がこの作品の不安材料でもあったんです。  事件にも殺人にも非現実的な事が絡んでるので、普通の殺人事件(と言うのも変だけど) じゃないってのは読んでいて直ぐに分かるけど、それなら現実では起こり得ない出来事にど う説明つけて結末を導き出すのかと。まあ結果は最初に面白いと述べた通り杞憂だったわけ で、なるほどなと頷けるくらいの結末が用意されてました。私が本作で一番良かったと思え た点はまさにここであって、面白いと言えるのも真相の紐解きが納得出来るものだったから。 やっぱりああいう終わり方っていいなと思いました。 2002/01/06(日)戦略拠点32098 楽園
(刊行年月 H13.12)★★★★ [著者:長谷敏司/イラスト:CHOCO/角川書店 角川スニーカー文庫]→【bk1】  第6回スニーカー大賞『金賞』受賞作。  最近分厚いのが多いライトノベル作品に対して、200頁にも満たない小説っていう妙な トコで引きつけられた本作。中身は私が食わず嫌いしてるSFでしたが、舞台の中心は宇宙 空間でもなければ艦隊戦の真っ只中でもなく、それをただ見上げるだけの『楽園』と呼ばれ る小惑星。だから実際に読んでて宇宙でドンパチやってるのを遠くから眺めてる感覚でした。    マリアに関して謎とかその種明かしなどが語られているけれど、それ以外は下手な伏線も 仕掛けも小細工も盛り込まれてはおらず、少女を巡ってヴァロアとガダルバの気持ちの揺れ 動きが素直に書かれているのでその辺がストレートに伝わってきます。  少女が核であって、それを軸にしながら2人の兵士が円の描くようにぐるぐる回ってるよ うな感覚。でも物語の中心にあるのはヴァロアとガダルバの心とか想いとかで、マリアの無 邪気な姿は止まりそうな2人の回転を再生させる潤滑油のような存在でしょうかね。  不満あるとすればもうちょっとマリアの気持ちや動向の方も見たかったとかの些細な事な んですが、新しい思い出を得る代わりに古い記憶が消去されてしまう彼女のそういう部分は、 むしろあまり書かない方がしっくり合ってるんだろうなと。  本作を読了して一番印象に残ったのは、たった3人の登場人物達でよくここまで物語の構 築が為されてるなという事。他の小説と比べても少数だと思うんですが、余計なものを入れ てないからこそ、物語の雰囲気――楽園の温かで優しくて儚いようなものが強く感じられた んではないだろうかと思います。  最後の一文のみでヴァロアの行った先の全ての事実を物語っている所は見事。そこから続 いてるプロローグシーンが本当のエピローグでしょうかね。読後感も非常に良かったし、そ の辺の書き方もうまいなと感じる事の出来た作品でした。


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