NOVEL REVIEW
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02/15 『陰陽ノ京』 著者:渡瀬草一郎/電撃文庫
02/14 『リビスの翼』 著者:円山夢久/電撃文庫
02/12 『悪魔のミカタ 魔法カメラ』 著者:うえお久光/電撃文庫
02/11 『インフィニティ・ゼロ 冬〜white snow』 著者:有沢まみず/電撃文庫
02/10 『大唐風雲記 洛陽の少女』 著者:田村登正/電撃文庫
02/08 『パラサイトムーン 風見鶏の巣』 著者:渡瀬草一郎/電撃文庫
02/06 『ベーカー・マティジュの繁盛記 密航者、月へ行く。』 著者:都築由浩/角川スニーカー文庫
02/05 『遊々パラダイス1 おツキさまにお願い』 著者:冴木忍/角川スニーカー文庫
02/04 『風の聖痕』 著者:山門敬弘/富士見ファンタジア文庫
02/02 『三ヶ月の魔法』 著者:上島拓海/ファミ通文庫


2002/02/15(金)陰陽ノ京

(刊行年月 2001.02)★★★☆ [著者:渡瀬草一郎/イラスト:田島昭宇/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】  第7回電撃ゲーム小説大賞『金賞』受賞作……って1年前の作品ですが。  舞台は平安時代、闇夜に蔓延る魑魅魍魎に本編の主人公である文章生・慶滋保胤が挑むと いうのが大雑把な筋でしょうかね。彼と縁の深い大陰陽師・安倍晴明から、陰陽院より追放 された外法師・弓削鷹晃と同時期播磨の村で出たと噂される竜神の関係について調査を依頼 (押し付けられたと言った方が正しいか)を受けた所から、保胤は徐々に呪術と因縁とに絡 み合った事件に巻き込まれて行く事になります。  平安時代の歴史についてはサッパリなので、史実に基づいた時代考証とか人物設定はどう かって事は最初から外して読みました。そもそも知ってたのは晴明と陰陽師の名だけで、主 人公の保胤の事だって全然知らなかったし(^^;)。そういう歴史小説の枠で見ていて正直 食わず嫌いしてたのもあり、読もうとせずに取っ付き難いかなと勝手に思ったりしてたので すが、実際読了してみた所そんな事は全くなくて非常に読み易かったです。  書かれ方が「痒い所に手が届く」ような感じで、言葉や意味が分かり難そうな部分が結構 あったにもかかわらず、随所で詳しい解説があったのでほとんど読み進めて詰まる事がなか った。その解説にしても平安京の背景描写にしても説明的ではなくて、語り口調のように自 然に話に溶け込むような感覚だったのが良かったですね。  そして何よりこの物語の登場人物達に魅力を感じ惹かれました。誰も彼も思い入れが強か ったのですが、一番好きな人物を挙げると個人的には佐伯貴年。正確には安倍吉平と一緒の 二人が気に入ってます。年相応でない言わば「可愛くない」感じの貴年が、吉平に自分の 『本質』をあっさり看破された辺りから、彼に見せる態度が相応の「可愛らしさ」に変化す る所が初々しいというか何かいいな〜って思ってしまいます。  この物語は貴年だけでなく時継にしても紗夜姫にしても、強さや優しさ以上に女性の「可 愛さ」みたいなものが表れていたような気がします。それは保胤に対する時継の想いだった り、鷹晃に対する紗夜姫の気持ちだったり、吉平に抱く貴年の戸惑いだったり。恋する女は 何とやらとは作中に晴明が言ってたんだったかな? こういうの考えると、終章で保憲が保 胤に「陰陽道とは男女の道さ」と説いてた言葉がもの凄く説得力あるように思えます。  ……あ〜今まで読んでなかったのが勿体無いってくらい面白かったです(ホントにに今更 何を言うかって感じですが)。この読了の勢いに身を任せて巻の二に突入するです。  最後に一つ、書評・感想サイトで一様に述べられていた事。  「晴明のイメージが崩れた」  だそうな(笑)。 2002/02/14(木)リビスの翼
(刊行年月 2002.02)★★★☆ [著者:円山夢久/イラスト:絵楽ナオキ/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】  電撃hpVol.13〜Vol.15での誌上連載を大端加筆・修正して刊行された作品。  孤児の少年・本編主人公トールが世界的に名の知れた名家・ゴーダ家の正統な嫡子という 身分であることが明かされた所から始まり、現当主であり彼の祖母であるバネッサ=ゴーダ とのザインの斜塔での生活、かつてザインを領土としていたが現在では人間の征服下となり 奴隷同然の扱いを受けているウィールズ達との出会いを経て、トールはゴーダ家の財産やシ ーア鉄の所有権を賭けた陸軍との争い、そして世界規模で広がりを見せる『廃土病』を巡る 陰謀に巻き込まれてゆく……というのが大体のあらすじ。  貧相な生活から一夜にして名家の跡取になる少年、偏屈で冷たく厳しいけど心の中では少 なからず孫を想う祖母、流行病に伏せる祖父、奴隷扱いで差別を受ける種族、資産を巡る争 い、身分違いの恋……などなど、これだけ挙げてみて私の頭の中では昔懐かし世界名作劇場 が浮かんできたのですが(パッと出たのだけでポリアンナ物語とか小公女セーラとかあしな がおじさんとか若草物語とかロミオの青い空とか)、特に都会の街並みなどはそれらの物語 を彷彿とさせるような感じでした。  奥深く広がりを見せるような練られた世界観や人情味溢れるキャラクター達、それらの描 写に物語の構成など、どれを取っても非常にうまく完成度の高い作品だと思います。  あまり目新しい事や驚くような仕掛けなどはないので、ともすれば地味に感じてしまう部 分もあったけれど、丁寧な描写と文章表現力の高さは優しさの溢れる物語へと自然に誘って 浸らせてくれるものがありました。意外と言っちゃ失礼だけど、かなり面白かったです。  ただ文章とイラストの相乗効果で成り立ってる所もある電撃レーベルとしては、この作品 のイラストは多分好き嫌いあって手に取ってもらえない事があるかもしれない。もしそうだ としたら楽しめた身としては残念な気もするのですが……いや、今月刊行の中でこの作品を 購入したというのをほとんど見掛けなかったので。実際のとこはどうなんでしょうね。    構想の中で過去の征服者時代の『鉄のイツァーク』とウィールズの争いもあるそうなので、 最後に書かれなくて知れなくて残念だったトールとシャアンのその後の事なども含めて、今 後この物語の別の部分も書いて欲しいし、また読んでみたいなと。 2002/02/12(火)悪魔のミカタ 魔法カメラ
(刊行年月 2002.02)★★★ [著者:うえお久光/イラスト:藤田香/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】  第8回電撃ゲーム小説大賞『銀賞』受賞作。  ミステリー&推理小説崩れ(またはもどき)で現実世界ファンタジー風味な作品。これは ミステリじゃないと作者さん自らあとがきで言ってたし、まあ確かにその辺を期待して読ま ない方がいいとは思いましたが。前半部分……真相を先に先にと延ばしつつ興味をぐいっと 引っ張ろうとするのはいいんだけど、推理段階での会話がちょっとテンポ悪いというか分か り難かったかなぁ。この部分に限らず、特にみークル(+悪魔の女の子)が集まっての大人 数での会話は、誰が喋ってるのか時々見落とす事もあってどうも書き分けが上手く出来てな かったような気がします(読解力不足と言われればそれまでだけど)。  物語はとある事件を境に丁度前半と後半に分かれてるような感じでしたが、まさかヒロイ ンである日奈にああいう役所を与えるとは、さすがに冒頭では予想出来なかったです。これ は後半部分を読み進める上でページをめくる原動力となったので、反則っぽい気もするけど 上手い展開だなと思いました。話的には…………でしたけどね。  『知恵の実』と呼ばれる木製カメラを推理と混ぜた絡ませ方は面白く、本当の真相が語ら れた時は成る程とも思いました。ただ話と同様本当に単純なのに複雑に絡め過ぎで、作者の 頭で理解してても読み手にはイマイチ伝わり難いような所が少々あったのではないかなと。  コウを始めとした個性的過ぎるみークルのメンバーや、思わずなでなでしたくなるような 悪魔の女の子などのキャラクター達はかなり好みでした(シチュエーションは↓のインフィ ニティ・ゼロよりむしろこっちの方がギャルゲー的な感じはしたけど)。それだけに上記の ように気になる箇所があったのは惜しいけど、それでも充分楽しめた作品ではありました。  が、しかし……  最後にネタバレ反転で言いたい事(未読の人は見ちゃダメよ)。  え〜私はこの物語は感想通りに正当評価出来ないです。何故なら完結が原則である公募作 においてその条件が満たされていないから。一応の終幕は見たけれど『悪魔のミカタ』とい う物語は完結せず、むしろこれから始まったばかりという、端から受賞作にシリーズ化を見 越したような終わり方をされるのは個人的にどうしても好きになれません。もしかしたら加 筆・修正あって元の受賞作はちゃんと完結してたのかもしれないけど、比較的物語が面白か ったただけにこういう事されると余計に悔しいというか……まあこんなのただ人によって受 け入れられるか否かの問題なんですけどね。  ……愚痴かこれは?(笑)   ま、2巻がもう早々と4月刊行決定してるんで大人しく待つ事にします。 2002/02/11(月)インフィニティ・ゼロ 冬〜white snow
(刊行年月 2002.02)★★☆ [著者:有沢まみず/イラスト:にのみやはじめ/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】  第8回電撃ゲーム小説大賞『銀賞』受賞作。  紛れもなくギャルゲー系ストーリー。特に、理由も義務もなく「好きだから」の一言で死 にそうな目に合ってまでゼロを想い守ろうとするリアの姿は、それらに少なからず影響受け てるんじゃないかなと。そういう要素が結構目に付いたって事ですが、変に意識して読むと どうしても偏見の目が入ってしまうので、なるべく考えないようにして読んでみたつもり。  ……なんだけど、まあ偏見入った感想は最後に(笑)。  序盤は主人公リアと不可思議電波少女ゼロの出会いが描かれてましたが、とにかくゼロの 性格が変というか相当イッちゃってるんで思わず引いてしまうかもしれない。この物語はあ とがきで作者さんが述べられてるように、ゼロという女の子を中心に成り立ってる部分があ るので、最初で受け入れられないと読み進めるのが辛いという印象もありました。  そんな感じで一体どこに向かおうとして何がやりたいのか? と思ったりしてたのですが、 ゼロがおかしな言動を取ってしまう意味が語れた辺りから、徐々に盛り上がりを見せて結構 物語に引かれてしまいました。死んだ猫を抱えたゼロの言動にリアのマジック、それからリ アの親父さんが見ていた何気ない新聞記事やテレビのニュースにまで、後にちゃんと意味を 持たせていた描き方も良かったです。もう一度戻って読み返したくなるような感じかな。  ただノグチさんやサカイさんやカワタさんなど、「ヤマ」に関する事も含めて脇役の描写 がちょっと弱いような気もしました。まあ公募作品で規定枚数がある為、あまりそちらに描 写を割けないのを考えると充分書けてる方だと思うのですが。ノグチさんの話だけじゃなく 実際にリアがゼロを取り戻しにヤマへ赴くような、そういう展開も見たかったかなと。    終盤の危機の連続から一転してホノカワヌシの一掃までの盛り上がりは非常に上手く描け てるなと。雪の中でのゼロとリア、それに声を掛けて去って行ったサカイさん(個人的にこ の人大好きです)の姿がこの物語の中で一番印象に残りました。  逆にエピローグがちょっと物足りないというか、もう2〜3頁多く書いて余韻に浸らせて 欲しかったんですが、さり気なく盛り込まれた結末はハッキリ「ゼロはこうなったんだ」と 書くよりもずっと良かったと思います。  で、最後に偏見感想。俺一人称・冬・雪・缶コーヒー・猫・タイヤキ・ベンチ……とりあ えずこれだけ某鍵のゲームと共通点があると、知ってる身としてはどう考えても偶然とは思 えないんですよね。それでも知らない人には私が歴史を知らないのと同じように、言われな きゃ分からない事だろうから変に気にしない方がいいんだろうなぁやっぱり。 2002/02/10(日)大唐風雲記 洛陽の少女
(刊行年月 2002.02)★★★☆ [著者:田村登正/イラスト:洞祇ミノル/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】  第8回電撃ゲーム小説大賞『大賞』受賞作。  舞台は西暦775年の中国、唐の時代。史実を元にしながらプラス著者のオリジナルを盛 り込んだ物語。時代小説とタイムトリップが合わさったような感じなので、知らない人には 取っ付き難いが物語自体は素直に楽しめ、詳しい人には読み易いが時代考証の粗探しなどで 知識が邪魔をして物語を素直に楽しめないかもしれないと言ったトコでしょうかね。  私は思いっきり前者寄りなので、史実との照らし合わせとかに捉われる事なく読めたわけ なんですが、時代小説苦手苦手と言ってたわりには意外となかなか楽しめました。  文体は「〜です」「〜ます」調の三人称が珍しく、人によっては読み難さを感じてしまう かも知れないけど、何となく御伽噺を語られてるような感覚でこの物語には非常によく合っ てると思いました。背景描写はちょっと説明的な所もあれど、目を瞑ると長安の様子がハッ キリと見えてくるような丁寧な描写に文章表現力のレベルの高さを感じました。  主人公の履児が女性陣に見せ場を取られっ放しで全然目立ってないのは、真の主役が則天 大聖皇帝(則天武后)て事で納得する事にして。実際則天武后の唐の民を戦から救いたとい う想いから端を発した物語なので間違いではないかなと。普段は偉そう(皇帝だったんだか ら当り前なんだけど)に振舞ってても、そういう彼女の感情が随所に存在してよく伝わって きました。戦の犠牲となった借り物の少女の身体の傷痕を行く先々で見せているのも、則天 武后の訴えなんですよね(露出狂と言ってはいけない(笑))。  それからこの物語は女性達が実に魅力的に描かれてるなと感じました。則天武后を始め楊 貴妃や上官婉児や麗華など、男どもを凌駕する程の行動力と豪快さを持ち合わせていて、だ から欧陽老師を除いては余計に男達の(特に則天武后に)圧倒される様が目立ってしまって 面白い。その辺の強さを見せつけられような気分でした。  終盤はちょっと急ぎ過ぎかなと感じたのですが、それはおそらく合戦そのものに直接関わ ってるわけじゃないので、そういう描写が薄いせいじゃないかなと。結局過去と未来のタイ ムトリップがメインで戦自体も政府軍の敗戦な上に描写も殆どなかったけど、則天武后の 「民や国を戦で傷付けたくない」という願いにちゃんと沿った形で進められたので、個人的 にはこれで良かったかなと思ってます。ただ、未来を知り得た上で現代に戻ってのあの終わ り方は少々スッキリしなかったのですが……続きあるのかな? 外伝的でもいいから、欧陽 老師と龍導盤の関係とか書いて欲しい所。 2002/02/08(金)パラサイトムーン 風見鶏の巣
(刊行年月 2001.05)★★★ [著者:渡瀬草一郎/イラスト:はぎやまさかげ/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】  心弥に『心の色を見る』という影響を与えたグランレイスの事や老齢らしいが外見は若い 夢路の事、それから迷宮神群と相対する組織「キャラバン」に終盤でちょっとだけ登場した セスナ機に搭乗してた面々……など知りたいのに明かされてない事が多くて、もし刊行当時 に読んでたらかなーり消化不良起こしてたんじゃないかなぁ。とは言っても、それは続きが 待ち遠しいの意にもなってただろうと思えたくらい面白かったです。  まあ消化不良に関しては作中でシリーズ作品だと言ってるようなもんだったし、現時点で 既に3巻まで刊行されてて直ぐに続きが読めるのであまり感じませんでした。  まず「色で感情の変化を読み取る」という発想が面白く、例えば朱羽の笑顔とは裏腹の冷 淡な「色」などはちょっと背筋が寒くなるような、そういう顔で笑って心で泣いてという外 見と内面の感情の違いがよく表現されているなと思いました。  今回は心弥の能力、迷宮神群の存在と与える影響の数々、それを受けた者達と消滅させよ うとする者達との戦い、そして弓の覚醒などが中心として語られてます。  印象に残った所は夢路が心弥の弓に対する接し方から『心の色を見る』能力の落とし穴を 看破したシーンと、心弥が怒鳴りながら弓の手を引いて本音を見せたシーン。一方通行な心 を突かれた時、それにより相互理解を求めた時の心弥の感情の描き方が上手かったです。  最後の仕掛けで結末どうなるんだろうと読んでたんですが、張られっぱなしの伏線や残っ てしまった謎に少々不満あれど、心弥と弓のあのラストは素直に良かったと言いたいですね。  ところで私は知らなかったのですが、この物語はクトゥルー神話がベースとなっていると いうのを他の書評サイトで見掛けたので、興味があればそちらから触れてみるのも面白いん じゃないかなと(私は逆に読了してからクトゥルー神話関連の方を見て回ってました)。  あともう一つ。これもあちこちの書評サイトで述べられてた事ですが、物語の内容とイラ ストが全然合っていないというもの。……ん〜言われてみれば確かにそうかなぁ? ただ、 個人的にはそんなに挿絵に拘ってる方でもないんでダメって程じゃなかったです。   2002/02/06(水)ベーカー・マティジュの繁盛記 密航者、月へ行く。
(刊行年月 H14.02)★★ [著者:都築由浩/イラスト:竜騎らみゅー/角川書店 角川スニーカー文庫]→【bk1】  密航者コンビとハイジャック犯達との旅客宇宙船内追いかけっこ。端的にはそんな所。  ガイ&マティジュ側ばかりに偏らず、敵であるハーマン側、途中介入のレイチェル側もし っかり書かれていてそれらの事態を上から見下ろしてるような感覚。物語のバランスはいい けど、それ故あまり強く引かれるようなシーンも無かったり、ガイ&マティジュとフィオの 描写がもう少し多めに欲しかったりとか。敵に隠れての行動やバレた後の追って追われての ヒロイン救出劇は、多少の緊張感と動きがあって結構面白かったです。  しかし大きな見せ場であった筈のガイとアイスハートの戦いはあまりに呆気無さ過ぎ。実 力者同士の一瞬の決着とするならこれでいいのかも知れないけど、始末人という職種の中で も最強と呼ばれる程のアイスハートに運の良さであっさり勝ててしまうのはどうかと思うが。  それでも馬鹿の一つ覚えみたいに続編想定して「アイスハートを生かして再戦を予感させ る」終わり方じゃなくて、ガイの手で殺してきっちりケリをつけた辺りは良かったかな。ま あキャラ的には非常に続編出そうな気がするんですけど。  私はSF苦手な部分があるんで、そういう描写が上手いのかどうかはハッキリ言えないけ れど、電撃のレディ・スクウォッターやそれ以前の作品でも同ジャンルで書いてるように、 SFを書き慣れてる作家さんだなという印象。どうしても情景描写に説明臭さを感じてしま ったり描写を頭に浮かべるのに時間掛かってしまったりするんですが、設定作りが丁寧なの であまり取っ付き難いというのは無く比較的読み易かったかなと。 2002/02/05(火)遊々パラダイス1 おツキさまにお願い
(刊行年月 H14.02)★★☆ [著者:冴木忍/イラスト:戸部淑/角川書店 角川スニーカー文庫]→【bk1】  異世界から異世界転移、呪術系に女の子、王子に呪いとそれに従う従者、白・黒妖精に異 界の魔物&謎に包まれた敵の親玉……と、過去に幾つもの作品で幾度も似たようなもの使わ れてきたであろう設定やネタの数々は、お約束や王道を通り越して新鮮味ってもんがほとん ど感じられなかった。逆に言うなら無難な展開で安心して読める作品でもありますが、冴木 さん好きな人なら当たりじゃなくても外す事はない……と思います。  唯一新鮮と感じたのは文体がヒロイン・カグヤの女の子一人称だという点。冴木作品じゃ 初めてなのではないかと思うのですが、しかしこれで感想評価が好き嫌いハッキリ分かれそ うな気もします。私は最初違和感あったものの読んでる内に慣れたからそんなに嫌いではな かったんですが、人によってはダメだったり取っ付き難かったりがあるかもしれない。  死んでしまった飼い兎に憑かれてしまった王子アルフレードの呪いを解こうとしたカグヤ の失敗により、王子の従者クラヴァールもろとも妖精界に飛ばされてしまった……というの が冒頭のあらすじ。異世界から異世界への転移と、白妖精の頼みが「黒妖精の王に奪われた 月を取り戻して欲しい」という辺りに面白さと興味を引かれたのですが、如何せん話が平坦 で淡白に感じてしまってちょっと物足りないなぁと。  ただこれは最初からシリーズものとしての描き方だと思うので、1巻が盛り上りに欠ける のもまあ仕方ないかなと。キャラ印象もよくありそうながら、一人称のカグヤを始め変人王 子アルフレードに苦労人クラヴァールなどまあまあだったので、今回足らなかった部分は2 巻以降に期待したい所。個人的にはトカゲとなって消えてしまった毒殺女ベラの再登場を望 む(名前ありであれだけで出番消えてしまったら勿体無いし詰まんないし)。  ところで、冴木作品名物『不幸な人』。今回は王子と小娘の騒ぎに巻き込まれてしまい、 嫁さんを残して飛ばされてしまった新婚のクラヴァールだと思うのですがどうだろう(笑)。 2002/02/04(月)風の聖痕
(刊行年月 H14.01)★★★ [著者:山門敬弘/イラスト:納都花丸/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  第十三回ファンタジア長編小説大賞『準入選』受賞作。  よくあるキャラクター達よくある設定よくある展開。なんて書くと貶してるように取られ るかもしれないけどそんな事はなくて、ありがちなものを自分の内に取り込んで面白く見せ るよう料理するのって結構難しいんじゃないかなと。そういう所はさすが受賞作と唸るだけ のモノを見出せて読み応えありました。  炎術師ってとこで烈火の炎とか思い出す私はダメなのか、と考えてしまったけどビジュア ル的にはあんな感じかも。物語の中心となる炎術・風術の『動き』――和麻や綾乃や煉から 放たれる風や炎の文章表現は見事。躍動感が良く伝わってくるので、風術・炎術を使役する シーンがすっと頭で想像出来てしまう。その辺りは上手さを感じました。    この作品がまずキャラクターありきってのは後書きで作者さんも述べられてる通りで、主 役級キャラは1度読了したら記憶に残る。綾乃が和麻に抱いてる感情の変化とか、何となく 弟の煉に弱そな感じの和麻とか、3人の関係はいい感じで描かれてます。  特に和麻が終盤の戦いで綾乃や煉をわざとけしかけて能力を引き出そうとするシーンは普 段ひねくれてても本当は……って和麻の意図的に隠してるような内面が垣間見れて「あ、和 麻ってこういうヤツなんだな」ってのが良く分かる。  キャラクター達が魅力的だから続編を是非読んでみたい、そう思わせてくれた作品。  と言うより和麻の断片的な過去回想が、いかにも「まだ続きありますよ」的描写だったの で(名前だけ出た翠鈴に関わる事など)、おそらく改稿時に続編想定して手直しされたんじ ゃないかな〜と邪推してみたりも。 2002/02/02(土)三ヶ月の魔法
(刊行年月 2002.01)★★★ [著者:上島拓海/イラスト:アザミユウコ/エンターブレイン ファミ通文庫]→【bk1】  第3回「エンターブレインえんため大賞」小説部門佳作受賞作。  幼い頃に「もし魔法が使えたら」と自分が思ってたかどうか忘れてしまったけど、ほうき に乗って空が飛べたり、遠くにあるものを一歩たりとも動かず心に念じるだけで引き寄せら れたり……そういう願望が叶えられた現実世界のお話。物語の舞台が具体的に長野県松本市 と設定されてるので、魔法という現実には存在しないものが混じっていても妙にリアルに感 じられ、もしかしたら実際にこんな事があるかもしれないと思わせてくれる所が面白い。  松本市民全員が容易く魔法を使えてしまう環境の中で、主人公の大五だけが全く魔法を使 えないという所に興味を引かれました。ただ突然周りが魔法が使えるようになった冒頭から 前半にかけて――主に大五とつかさのやり取りなどは良かったのですが、そうなった原因と 終盤の盛り上がりが少々不満でもう一つ足りないかなぁという感じもしました。空腹感が僅 かに満たされなかったというか。  元々魔法が存在する現実世界を描いた物語だから、《グラン》がイングランドの魔法使い で彼の悪戯心が松本市に魔法の発生した原因としても納得出来たんですが、多分物足りない と感じたのは個々のエピソードが少なかったからなんじゃないかなと。特に大五と共闘を組 んだ武石や敵役の《グラン》は、素性や心理面などもっと深い部分も見せて欲しかった。  つかさも展開上仕方ないんだけど後半出番がほとんど無しだったのは残念でしたが、彼女 と大五の雰囲気が読んでて凄くいいなぁと思いました。恋人同士なわけじゃないけれど、何 となく少しの会話でもお互いの内面をよく理解出来るような関係がうまく描かれてます。  この辺も2人のエピソードがもっと見たかったってのがあるんで、完結してる物語に続編 望むのもなんだけど、この作品も同じ登場人物達で別の話を読んでみたいなと。


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