NOVEL REVIEW
<2002年04月[後半]>
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04/30 『Dear My Ghost 幽霊は行方不明』 著者:矢崎存美/角川スニーカー文庫
04/24 『遊々パラダイス2 おツキさまと踊ろう』 著者:冴木忍/角川スニーカー文庫
04/23 『突撃 お宝発掘部2 レイズ the 宝船』 著者:麻生俊平/角川スニーカー文庫
04/22 『ファイナル・セーラー・クエスト 完全版』 著者:火浦功/角川スニーカー文庫


2002/04/30(火)Dear My Ghost 幽霊は行方不明

(刊行年月 H13.11)★★★☆ [著者:矢崎存美/イラスト:白亜右月/角川書店 角川スニーカー文庫・スニーカーミステリ倶楽部]  表向き、自称占い師の黒部咲子が偶然占いで探し当ててしまった白骨死体から死体遺棄 及び殺人事件の真相を追ってますが、実は本編主人公にして幽霊を見る事の出来る咲子の 弟・黒部真人と彼の守護霊少女・美海の行方不明となった幽霊捜索がメインとして描かれ てる所が面白い。ファンタジック・ミステリと銘打たれており、本格的な推理や巧妙なト リックなどは存在しないですが、殺人事件はあってもその犯人を追う事より、殺された被 害者の行方不明となった幽霊を追う事の方に重点を置いているという展開がなかなかユニ ークでいいなと感じました。  うまいのはキャラクターの役割分担や、行方不明の幽霊を追うのと一緒に色々な謎や不 確定要素を含ませ徐々に明かす事で先へ先へと引き込む展開など。  本当は殆ど役に立ってないのにハッタリと演技力を駆使してまんまと表舞台で名を轟か せてゆく咲子と、対照的に本来幽霊を見たり美海を通じて幽霊に聞き込みしたり出来る能 力を有しながら、いつの間にか縁の下の力持ち的存在で姉にいいようにコキ使われてしま う真人との妙な役割の構図が面白い。それに二人の幼馴染みで和服を仕事着として着用し てる和服刑事こと金山四六とのやりとりなども読んでいて非常に楽しかった。  一番事件解明に貢献してるのに報われない真人はクラスメイトへ抱く恋心も結局報われ なくて不憫だな〜とか、でもたとえ幽霊だって自分を好いてくれる女の子がいつも側にい るんだからいいじゃないかと思ったりしましたが(^^;)。  しかし咲子の占い師としての能力の有無が曖昧なわりに(多分無いんだと思うけど)、 彼女の占いで見付ける最初の死体発見から途中途中に拾う手掛かりまで、あまりに都合良 過ぎる偶然の連発はどうかなぁとか、幼い頃から幽霊として真人と接してきたってぐらい しか美海の過去や存在理由などがほとんど語られなかったよなぁとか、不満や物足りなさ を感じた部分もありました。特に美海の詳細と彼女と真人の関係については一番知りたい 所で描かれなかったのは残念だったんですが、まあそれはさらっと流して語れるほど軽い 設定ではないんだなと勝手に思う事にして(笑)、次回以降に期待したいです。
2002/04/24(水)遊々パラダイス2 おツキさまと踊ろう
(刊行年月 H14.04)★★☆ [著者:冴木忍/イラスト:戸部淑/角川書店 角川スニーカー文庫]  う〜む……どうも好きな作家さんの作品て事で過剰に期待してる部分があるのかなぁと いう感じの首捻りなんですが。しかしそれを差し引いたとしても、急ぎ過ぎで前回同様全 然盛り上がりの感じられない展開から妖精界編クライマックスだと言われても強く印象に 残る部分ってのがあまりにも少なくてがっくし。  それでも黒妖精の王・ライネックが白妖精と黒妖精との本当の関係や月を奪った真意を 語る辺りは結構面白かったのに、どうしてそんなに展開を急ぐのかと思ってしまう所がや はり一番の問題だったのか……。なんだか物語の上辺だけをなぞるような書き方で、掘り 下げが足らないから深みを感じられないという印象でした。途中までカグヤやアルフレー ド王子が妖精界の出来事を目の当たりにする傍観者的立場だったってのも、彼女らを中心 に描かれてない事から物足りなさを感じてしまったのかもしれない。  ただ、短編の『海と君のあいだ』は妖精界編よりも遥かに良い出来だったんではないか なと感じたので僅かに評価持ち直し。で、読了して思ったのは、もしかしたらこの作品は 長編よりリィジオみたく連作短編形式の方が面白くてあってるんじゃないかなぁと。まあ 好みは人それぞれなのであくまで私の感じ方ですが。  今回唯一希望が持てたのは、シリーズ自体はまだ続くらしいという事。これで打ち切り の如く終わってしまってたらどうしてくれようかと思いましたよホント(笑)。  既刊感想:
2002/04/23(火)突撃 お宝発掘部2 レイズ the 宝船
(刊行年月 H14.04)★★★★ [著者:麻生俊平/イラスト:別天荒人/角川書店 角川スニーカー文庫]  続編で普通の校内部活では出来そうにもない事やってもらいたい……なんてな事前巻の 感想で書いたら、うわ〜本当にやっちゃってくれましたよ(笑)。それを言うなら普通じ ゃありえない広大な敷地があってこそなんですが、学校の敷地内にある半月湖の湖底に沈 んだクルーザーに眠る『お宝』を引き揚げるというのが今回史郎達が引き受けた依頼。    湖底に残されたお宝は有名推理作家の故人・屋形建太郎氏の人気作「繭浦猟月」シリー ズの完結部分の構想メモ。作中のこの架空推理小説の設定に結構引かれるものがあって、 これを実際に誰かが書いたら面白いんじゃないかなーとも思ってしまいました。  推理小説の構想が絡んでたり、引き揚げ作業を妨害する何者かを逆に暴こうとする史郎 &陽介の動きがあったりで何となくミステリっぽさも漂ってたけれど、やはり一番の見所 でありしっかり描かれているのは依頼を遂行する過程ではないかなと。前回が地面に隠さ れていたタイムカプセルを探す事であったのに対して、今回は早々と場所が特定出来た沈 没船の中からどうやって構想メモを見付け出し更に引き揚げるかという事。この依頼の部 分が前回は物足りなくて少々不満に感じてたんですが、今回は最初から最後まで一つの依 頼を下準備から船上探索、潜水探索、難問検討、大詰め探索と段階を踏んで徐々に盛り上 げてゆく丁寧な描写が非常に良かったです。  今回懐の出番少な目だったのが残念ではありましたが、何となく史郎に抱いてる気持ち なんかが見えた気がしたので良かったかな。どうも史郎の方も懐を特別視してるようで、 この二人の関係が微妙に気になったりしてます。陽介と美春もなんだかんだでうまくいっ てるようで。さて、美春はいつ頃完璧に染まってる自分に気付くでしょうかね(たとえ気 付いてても決して認めないのが彼女の性分なんだろうけど)。  既刊感想:
2002/04/22(月)ファイナル・セーラー・クエスト 完全版
(刊行年月 H14.04)★★★★ [著者:火浦功/イラスト:スギサキユキル/角川書店 角川スニーカー文庫]  その遅筆&寡作っぷりは他の追随を許さないと有名な火浦さんの新刊、というかこれも 完全新作じゃないし。1995年にログアウト冒険文庫(確か現ファミ通文庫の前身だっ たかな?)で刊行された同名作品に文庫未収録分と未発表書き下ろしを加えたタイトル通 りの完全版。元々シリーズ化を見越して書かれてたらしいですが、あとがきで遅筆さを自 ら開き直ってるのが伺えるので「そりゃ無理だろ」と思わずにはいられなかったです(笑)。  設定というかノリはまんま往年の地下ダンジョンRPG風味。レベルがあって職業やク ラスチェンジもあって、モンスターがうろついていて階が進むごとに強くなって数も増え てゆく。しかも初出が7〜8年くらい前だけあってネタも雰囲気も至る所で結構な古臭さ を発揮してるんですが、私なんかだとそれが妙に懐かしく感じてしまいました。  くだらなくてしょーもない事を、これでもかってくらい大袈裟に書き立てるドタバタ感 が実に爽快で楽しい。これは地下10階の神宮寺高校に通う、レベル1へっぽこ女子高生 ・永井のりこのキャラクター性が相当に効いてるなと。  実際やってる事は突っ込みたくなる真琴の気持ちが嫌って程分かるくらいホントにしょ ーもないものばっかしなんですが、読んでいて気が付くといつの間にかドタバタ騒動に引 き込まれてしまっていて色んなシーンで笑いを漏らしている自分がいたと。他のキャラも 超個性的でなかなかに面白かったし、他のエピソードも続刊として是非読んでみたい…… と期待したいけど、筆の遅さがそうはさせてくれないのが惜しい。というより作品自体は 確実に面白いだけに、そこが一番の問題なんだよなぁこの人の場合(^^;)。


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