NOVEL REVIEW
<2005年03月[前半]>
] [戻る] [
03/10 『ブラック・ベルベット 神が見棄てた土地と黒き聖女』 著者:須賀しのぶ/コバルト文庫
03/08 『ディバイデッド・フロント III.この空と大地に誓う』 著者:高瀬彼方/角川スニーカー文庫
03/07 『うさ恋。2 おまえ、輝いてるぜ!』 著者:野村美月/ファミ通文庫
03/05 『まおうとゆびきり2 ぱぱとよばないで』 著者:六甲月千春/富士見ファンタジア文庫


2005/03/10(木)ブラック・ベルベット 神が見棄てた土地と黒き聖女

(刊行年月 2005.02)★★★★ [著者:須賀しのぶ/イラスト:梶原にき/集英社 コバルト文庫]→【
bk1】    新シリーズの元々は雑誌掲載だったそうで。そちらは全然触れてなくて、実は文庫で刊 行されるの自体知らずに全くノーマークだった為、予備知識無しの初読。今回はキリ、ロ キシー、ファナの三人娘が出逢って交流を深め、慣れ染まった無法地帯から唐突に離れる 事への戸惑いを覚えつつ、それでもそれぞれの想いを胸に抱え旅立つまでの序章段階。  これが進むに連れて怒涛の如く紐解かれて行ったら、さぞ読んでいて気持ち良さが得ら れるだろうなぁ……と思わせてくれるような伏線の張り方。つまり現段階で気になりつつ も明かされてない事実が非常に多かった訳ですが、それを殆ど全て欲求不満ではなくて次 巻以降への期待と楽しみに向かわせてくれる辺りは、やっぱり描き方のうまさかなと。  物語の世界観、肉体の再構成やキメラの設定などはすんなり頭に入って来たし、キャラ クターの魅力の引き出し方も三人娘を中心に皆印象に残るような描写で良かったし。これ は結構癖のある性格揃いなので、読み手によっては随分好みが違ってくるかも知れないと か思ったり。個人的には何故か三人娘に惹かれる前に、渋さが際立つグラハムさんが最も 好きなキャラになってた。この人の魅力は他の誰よりも裏がありそうで、さりとて胡散臭 さを全然見せないので安心感だとか頼感感だとかを無防備に寄せられる辺りとか。  三人娘の中ではキリかな。断固として他人を寄せ付けない冷たい印象だったのだけど、 それは男全般に対してだけで、ファナの少女趣味に喜々として同調しているのを眺めてる 限りではごく普通に女の子してる。そういうギャップに惹かれるキャラだなと。  ストーリー展開はまだまだこれから。主にキリとディートン教との関係が想像の域を出 ないのですが、徐々に明かしながら加速を掛けてくれればそれでいい。今回やられた〜と 思わされたドラッカー・ノワールを描いてくれたみたいに、続きも楽しませて欲しい。 2005/03/08(火)ディバイデッド・フロント III.この空と大地に誓う
(刊行年月 H17.03)★★★★☆ [著者:高瀬彼方/イラスト:山田秀樹/角川書店 角川スニーカー文庫]→【
bk1】    あとがきも含めて424頁、最後まで頁を捲る手が止まりませんでした。読者側の気持 ちでは、私なんかだと終わってしまった時点で「もっともっと彼等のエピソードに触れて みたかった」なんて寂寥感一杯でした。でも“もっと食べたいと思う所で抑えておくのが 一番いい”というのを自分が一体どこで聞いたのやら、とにかくそんな言葉がふと頭に浮 かんだりとか。で、改めて考えてみて何が一番いいのか……正直よく分からない。美味い 料理も食べ過ぎると胸焼け起こすって事なのかどうか。この素晴らしい物語を全部まるご と忘れず心に留めておくには、これくらいの容量が丁度良い程なのかも知れない。  これまでの感想でも散々褒めちぎって来ましたが、特に危機的状況に陥れば陥る程に描 かれている心理描写が伝わり過ぎて堪らない。ここまでキャラクターの心理描写に深く踏 み込んで眼前に曝け出してくれたりすると、読んでいる側は誰に対しても強く感情移入し てしまうのを受け入れる以外に為す術がないのですよ。それが決して単なる感情吐露の垂 れ流し状態にはならず、ちゃんと各々の心理描写をメインとした物語に仕上がっている。  書こうか書くまいか迷ったけど、終盤のあの件に関しては隠しても読む前に見てしまう と面白さが激減してしまうので、ネタバレは反転表示も避けることにしました。とりあえ ず私と同じく香奈好きの人には多分望んでた結末に満足出来ると思いますよ、とだけ。  唯一心残りだったのは、エピローグで和磨の感情が描かれなかった点。やっぱり起こっ た事が事だけに、エピローグで彼がどんな想いを馳せていたのか知りたかったのでちょっ と残念だったかなと。でも、それでも凄く良かった。凄く面白かった。たとえ英次達と憑 魔との生存を賭けた戦いがこのまま死ぬまで終わらないとしても、隔離戦区の空の下に生 きる彼等の希望が、どうかこの先ずっと潰えませんようにと願わずにはいられません。  既刊感想:II 2005/03/07(月)うさ恋。2 おまえ、輝いてるぜ!
(刊行年月 2005.02)★★★☆ [著者:野村美月/イラスト:森永こるね/エンターブレイン ファミ通文庫]→【
bk1】    恋の計らいで真雪と初デートをする事になった航平。しかし白薔薇仮面=フォルテリー ナのせいで黒うさぎにされてしまってさあ大変。というわけで、前巻より更に一層おバカ なテンション。割と良い方向の意味で。毎度の如くの軽いノリな作風も変わってないから、 好きならば多分楽しめると思うので引き続きどうぞと言った具合。何か今回は油断してる と不意打ちのようについ吹き出させてくれるシーンが妙に多かったような気がする。  サブタイトルとか口絵の『さすらいサッカーマン』とかで「なんだそりゃ」と脱力させ、 中身を読んで意味を知った所で的確に笑いのツボを突いて来る。いや、「揃いも揃ってア ホだこいつら」と思わされてる時点でこちらの負けなんだろうなと。何だかんだでキャラ の魅力はきっちり押さえて描いているし、その辺りを楽しく面白く読めているし。  問題なのはシリーズ作品としてのストーリーの進展が殆ど見られない点なのだけど、ま あこれも毎度の事なので躓きの影響はごく僅か。真雪にちょっかい出し続けるジークフリ ートとオディールの真意は気になるけど(実は本当に何も考えてなかったりして)。  あと一度は消したキャラとあとがきにあった恋の再起用は大正解。と言うより私が幼馴 染み好きなので、単純に航平と真雪の間に絡めてくれて良かったと安堵したという気持ち が強いだけ。幼馴染みキャラとして思いっきりお約束展開ながらこういうのは大好き。  前巻では、恋が友達感覚での幼馴染みの間柄以上に航平に好意を抱いているとは微塵も 感じなかったので、ああそれなら真雪とのラブコメ話で楽しめればいいか程度にしか思っ てませんでした。が、こうなれば恋も含めた三角関係で盛り上げて欲しいものです。  既刊感想: 2005/03/05(土)まおうとゆびきり2 ぱぱとよばないで
(刊行年月 H17.02)★★★☆ [著者:六甲月千春/イラスト:椎名麻子/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】    先生、やっぱり小ネタが半分くらい意味不明でした。でもこれは主に小ネタで楽しむも のだと開き直って読んだ割に、意外と突然現れたパパとの拗れまくりな親子関係やら常時 付き纏うまおとの信頼関係やらが丁寧に描かれていて良かったなーという収穫。  とりわけ身の回りのトラブルと無関係でありたい気持ちから回避行為を取ってしまいが ちなんだけど、別の部分では気に懸けずにいられなくてサッパリ思い通りに動かせない硝 子自身の心。父親である古荘庄輔への反発、改めて圧倒的な力を見せ付けられたまおを物 のように使う事への違和感など、この辺りで硝子の感情の見せ方が上手かったと思う。  一方で、まおと敵対勢力との戦いとかについては前巻同様あんまり楽しめず惹かれなか ったような印象で。何だろ? 基本的に小ネタと軽いノリでやっているからか、そこだけ 真面目にやればやる程この物語では浮いてしまうって感覚なのかなぁ。ただ、魔族側もシ リアスモード一辺倒ではないし、緩衝材的役割のキャラもいるので(涼香、美貴、かね子 の親友グループとかにせ金とか)、酷く重苦しくなるような事もないのだけれど。  結構まおを挑発しながら仕掛けて来た割に、結局最後はのほほんな雰囲気で片付いてし まったり。でもこんな風に、まおとの軋轢を残さない感じの方がこの物語には合っている 気がする。昨日の敵は今日の友みたいな具合で。そう言った意味で、今回のグエルウェル (かね子がご執心の蛇さん)はなかなか美味しい活躍ぶりだったんじゃないだろか。  今回は、普段おちゃらけですっとぼけでもいざとなったら凄いんだぞ! ってな見せ場 を作れた庄輔パパの勝ちか。極めて噛み合わない関係ながらも、一応父娘としての絆は築 けたであろうラストの病室シーンが特に印象的でした(硝子に面と向かって指摘したら照 れてソッポ向かれそうだけど)。あとは女の子同士のスキンシップを思う存分描いてみせ てくれたら、もうそれと小ネタだけで今後も満足出来るかも知れない。硝子と涼香と美貴、 あとかね子と女子校内でのいちゃつきシーンで「良いな〜和むな〜」となれるので。  既刊感想:


戻る