NOVEL REVIEW
<2003年04月[後半]>
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04/30 『月と貴女に花束を remainsII』 著者:志村一矢/電撃文庫
04/28 『いつもどこでも忍ニンジャ1 出会ったあの娘はくの一少女』 著者:阿智太郎/電撃文庫
04/26 『放課後のストレンジ2 サムシング・ビューティフル』 著者:大崎皇一/電撃文庫
04/25 『ダーク・バイオレッツ3 常世虫』 著者:三上延/電撃文庫
04/23 『ダブルブリッドVIII』 著者:中村恵里加/電撃文庫
04/21 『シャープ・エッジ stand on the edge』 著者:坂入慎一/電撃文庫


2003/04/30(水)月と貴女に花束を remainsII

(刊行年月 H15.04)★★★ [著者:志村一矢/イラスト:椎名優/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  シリーズ通しての最終巻。静華の話と前巻からの続きで『桜の妖魔』との戦いに終止符 を打つ話でしたが、どちらもメインに持ってきてる戦闘描写と展開がどうにもイマイチな 感じでした。そもそも危機に陥って傷付いて仲間に支えられて一撃逆転とか、ザコ→中ボ ス→ラスボスと先が見え過ぎるくらい分かり易い段階を経て戦いを展開してゆくってのは 本編で冬馬が飽きる程やってるわけで、同じ事を何の工夫もなく読まされても「ああ、ま たこういのか」という印象にしかならない。こういうのをやられて「やっぱり本編だけで やめときゃよかったのに……」と思わざるを得なかったのがなんだか残念です。  静華の方は、敵である九条正宗の登場が唐突で彼の描写があまりに薄っぺらく掘り下げ が全然足らない。静華に復讐するならそれだけの内面の心情を見たかったし、静華の方も 少なからず因縁があるのだから取って付けたように覗かせるのではなく、過去に起こった 事を回想シーンとして挿入するくらいにしっかり描いてくれてたらなと。  こういう背景があってこそ戦闘シーンも映えるものだと思うのですが、戦いでの静華の 扱いも上記のようなパターンだったので、結局短編でこじんまりまとめようとしたのが拙 かったのかも。戦闘描写ばかりだらだらやるのでなければ、もっとページを割いて長くじ っくり展開して欲しかったです。  桜の妖魔の最後の敵『混沌』との戦いは、もう本当に戦闘描写メインで戦って戦い抜く 話なのに肝心の戦いに面白さをあまり感じられない微妙な内容。こっちは危機状況+ザコ →中ボス→ラスボスの段階的展開でしたが、真矢や安曇があっさり死にかけの重傷を負っ てしまうのに、鷹秋や燐や直純や由花は主要キャラと言えあと一歩で死に繋がる状況で幾 度も回避しているのは、それこそ幾度もあまりに都合が良すぎやしないかと思ったりも。  こっちも戦いばかりに描写を割いてそれぞれの心情描写に物足りなさが感じられたので、 エピローグの鷹秋と燐・直純と由花のシーンにも感慨が湧いてこなくて、これで終わった んだというホッとするような安堵感も弱かったかなぁという気持ちでした。  前巻の外伝が比較的良かっただけに、最終巻なのに欲求不満が募ったりな内容には勿体 無さを感じてしまいました。真矢は最後までヤラレキャラだったし、あれから縁の行方は 一体どうなったんだ? ってのもあったし。別に無理して『桜の妖魔』との決着はつけな くても良かったので、やっぱり外伝では本編で活躍し難かったキャラの“戦い以外の内容” のエピソードがもっともっと読みたかったです。思えば今回は巻末の椎名さんの『未来予 想図』のイラストだけが唯一の救いだったかも。この二人は多分今後も描かれないような 気はするけど、結局は外伝の中で一番望んでたエピソードだと思い知りました。  既刊感想:、remains 2003/04/28(月)いつもどこでも忍ニンジャ1 出会ったあの娘はくの一少女
(刊行年月 H15.04)★★★☆ [著者:阿智太郎/イラスト:宮須弥/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  忍者+タイムスリップ+ギャグ+ラブコメな新シリーズ。過去の戦国時代から来たくノ 一少女に好かれたお人好しな主人公が、現世の一般常識を教え込む名目でちゃっかりうま い事同居生活を始めてしまうというお話。ネタや展開が、ありきたりやら使い古しやらワ ンパターンやらマンネリ化やら……ってのは僕月で分かり過ぎるくらい分かり切ってるの で、正直それを払拭するような内容は読む前からあんまり期待してなかったです。  個人的にはこれまでのスタイルと変わらないものを求めていたので、そう考えると相変 わらずだなあと言いたくなる様な望み通りの内容だったかも。話がストレートに分かり易 い構図で、気を抜きっ放しでも流すように手軽に読めて、三人称文とキャラクターの言動 が軽々しいくらいに軽快でテンポが良い、と言った辺りが相変わらずな点。逆にツボを外 した書き方だと「らしくないな」と感じてしまうような気がするし、これで結構毎度楽し ませてもらってるのでツボが押さえられてればいいかなと。  ただ、前から思ってたし今回もそうだったけど短編連作ばっかりやってないで、たまに はシリーズ中で1冊分使った長編作を書いて欲しいです。どうも著者の好きなスタイルら しいですが、こういうのがパターン化マンネリへ繋がってるようにも思えるんですよね。  今回はキャラの顔見せと世間ズレした涼葉と面倒見るマコトの悪戦苦闘ぶりを見せるの がメインだったので、物語自体は次巻以降から盛り上がってくる……と期待したいですが。  しかしこのノリだと涼葉が過去に戻る方法を探すとか、逆にマコトが過去へタイムスリ ップするとか、過去の戦国時代が絡んだ展開にはならないだろうなぁ。今後は確実にキャ ラが膨れ上がると見て、現世で修羅菊の生まれ変わりの少女などが登場しそうな予感。 2003/04/26(土)放課後のストレンジ2 サムシング・ビューティフル
(刊行年月 H15.04)★★★ [著者:大崎皇一/イラスト:山本京/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  《異質な誘導体》と呼ばれる様々な異能力を有した少年少女達が、主に学院を舞台とし て異常な事件に巻き込まれてゆく物語。今回戦闘シーンは多かったけど、持てる異能力を 駆使してぶつかり合う展開にちょっと物足りなさを感じてしまったのは、前回とあまり変 わり映えしない見せ方だったからか。何となく1巻で覚えた《異質な誘導体》の面白味が 途端に崩れて、単調さだけが目立っていたような気も。  個々の能力は固定されてる為、どのシーンにどのタイミングで誰の能力をどんな風にし て描いてみせるか……なんて部分がパターン化してしまうと、読んでいて戦闘描写に飽き がくるのも早くなってしまうので、メインに異能者同士の戦いを持ってくるなら余計にも うちょい捻って欲しいという感じ。  今回の描き方は桃百雛子の歪んだ想いから構築された世界を見せる事に終始していて、 息の詰まるような沈み込んだ虚脱感や絶望感という色がうまく出てたのではないかなと思 いました。ただ、それを組み立てるのに遠回しな表現がやたらと多くて、章の最初に時々 挿入されてる意味深な引用文とかもそうだけど、じゃあ結局何が言いたいのか何を伝えた いのかというのがハッキリ掴み取れなかったです。  遠回しに遠回しな言葉を重ねて装飾して皇莉達が巻き込まれた世界を描いているのは、 なかなか凝った手法で個性があっていいなと思える部分ではあったのですが、どうしても これは物語を読む側ではなくて物語を作る側の視点ばかりで書いているのかなという印象 が抜け切れませんでした。だから読んでる方には理解し難かったのだろうかと。  キャラクターは行動や感情の立て方が前巻よりも良い感じ。徐々に面白く動き出して来 た所で、未だ陣内朋希の掌の上で踊らされている事に皇莉達が何時気付くのか? もし気 付いた時どういう展開になるのか? 色々作中で抱いた不安要素はあれど、おそらくこの 今後の焦点として描かれるであろう部分が楽しみでもあります。  既刊感想: 2003/04/25(金)ダーク・バイオレッツ3 常世虫
(刊行年月 H15.04)★★★☆ [著者:三上延/イラスト:GASHIN/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  新キャラ投入によるテコ入れで、そろそろ流れてきそうなマンネリ感を打開しようとい う狙いがあったのかどうかは分かりませんが。元々主要キャラは少数なので、新たな『紫 の者』を登場させるには盛り上がりを見せる為にも丁度良い頃合かなと思いました。  とは言っても実際盛り上がってたかどうかは微妙な所。確かに千紗の存在が作中に新鮮 な空気をもたらしてはいるんだけれど、全体的にイマイチ起伏が弱くて感情的になるシー ンも常世の闇との死闘で危機的状況に陥るシーンも、何となく平坦であっさりしてるかな という印象でした。もっとも、恐怖感もおぞましさも淡々とした描写で見せるというのは シリーズの味とも取れるので一概にダメとか詰まらないとは思えないけれど。  今回は特に明良が過去を引き摺ってたり柊美が身体的にも精神的にも相当弱味を見せて いたり……と心理面で激しく揺れる箇所が多い気がしたので、その辺はもう感情を曝け出 すくらいの勢いで手応えを得られるような描写だったらなぁという感じでした。  前巻から引き続いて要子や尾沼&オヌマ書店が物語に関わってるのは、シリーズ通して 読んでる身としては嬉しい所。明良と柊美の事情をしる数少ない脇役達なので、今後も二 人の協力者・理解者という立場で登場させて欲しいです。  ただ、岬だけはカラー口絵でもちゃんと自己主張してるのに、本編でどうにも扱いがぞ んざいに感じられるのが不満で不満でしょうがないのですが……って前巻感想でも言って るけど。能力の無いキャラは絡めないのかなぁ、とか明良とはかなり近い関係でオイシイ 役所なのにそれが活かされてないよ、とか愚痴ばかり零れてしまうのは贔屓意識があるか らか。次こそはもうちょいと明良や柊美との絡みを多目にしてくれたらなと。  一方、明良と柊美の関係は確実に進展してるようで良い感じ。やっぱりこの二人は恋人 同士と言うより一蓮托生・運命共同体な雰囲気がよく似合っています。必死に隠そうとし ながらもとうとう命を削り続ける柊美の姿が表層化し始めて、もし未だ知る事のない明良 がそれを知った時にどう思うのか? そんなシーンを想像しながら次巻に期待。  既刊感想: 2003/04/23(水)ダブルブリッドVIII
(刊行年月 H15.04)★★★★ [著者:中村恵里加/イラスト:たけひと/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  あまりに久々なもんで、度々話題に上がる京都の事(5巻だったかな?)なんてかなり 記憶が曖昧でしたが、思い返すように一字一句噛み締めながら読んでみました。  唐突に挿入された序章の優樹の悲惨な姿は、おそらく今回の展開ではまだ追い着けなか った、もう少し先にある未来の現実なんだろうなと。そう考えると既に最初からある程度 の末路が決定されたようなもので、本当に生温い救いなんて希望は有り得ないと見せ付け られたような気分でした。もっとも、ここまで陰鬱にまみれたドロドロな展開へ落ち続け てる状況だと、ハッピーエンドに向かう方が違和感あるような気がして、むしろバッド& デッドエンドの方が相応しいのかもしれない……と思ったりしたのですが。もう下手に明 るい未来は望まないから、とことん落ちるとこまで落ちてくれという感じで。  今回は『鬼斬り』との死闘突入前の繋ぎ的な展開。八牧を失ったという事実が優樹、虎 司、夏純、大田の中へと、それぞれに違った形でじわりじわりと流れ染み込んでゆく様子 が実に際立ってうまく描けていたなと。特に“これを一番見せたかったんだ”という気概 がひしひしと伝わって来た、虎司の『安藤希を食いたい』葛藤は凄く良かったです。  その前の虎司の捕食衝動と食事風景は「そこまで詳細に実況中継しなくても……」って な具合で思わず目を背けたくなるようなえげつない描写でしたが、もしかして希もそうな るん? なんて危機感を抱いてしまいました。いや、普通だったら幾ら何でもそこまでは 無いだろうで済ませられるのに、この物語は嫌でも起こってしまう可能性の方が高いと思 わずにはいられないんですよね。  しかも希の隣りで虎司が何度も何度も「食いたい」「でもこいつを食うのは嫌だな」 「でも食ったらどんな味がするのかな」「でもこいつに痛い思いをさせるのは嫌だな」と 葛藤を繰り返してるもんだから、最後まで気が気じゃなかったです。もう終盤で虎司の決 意は固まってたから、気になってたのは“食うのか食わないのか”じゃなくて“どのタイ ミングで食うのか”の辺り。ラストの虎司と希との一問一答は震えがくるほどでした。  で、結局最後はまた前巻のような引っ張り方な上に、八牧を殺された事による復讐心や 迷いの心が溜まるばかりで爆発するまでには至らず。1年以上待った欲求がようやく解放 されるどころか更に積もってしまうという困った内容でしたが、物語への惹き込まれ方は 半端じゃなかったので、やっぱり面白いし好きなんだよなと改めて実感させられました。  本当に待ち遠しいので今度はもう少し早いペースでの刊行を願いたいです。  既刊感想:VII 2003/04/21(月)シャープ・エッジ stand on the edge
(刊行年月 H15.04)★★★☆ [著者:坂入慎一/イラスト:凪良/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  第9回電撃ゲーム小説大賞『選考委員奨励賞』受賞作。  まず最初にキャラクターの個性、それから魔女や異端審問官などの設定は噛み締めれば きっと美味しいだろうと想像してた所、実際味見したら淡白で薄味過ぎて味がよく分から なかったという印象。淡々とした語りは、確かに作風やカナメの淡白な性格・人付合いの 稀薄さにもよく似合っているんだけれど、どうしても感情描写に底の浅さが感じられて仕 方なかったです。これはどのキャラクターについても大体そんな感じだったかも。  主人公であるカナメの場合、表情に喜怒哀楽が乏しかったり他人との馴れ合いを好まな かったり戦闘能力が人並み外れて高かったり……こういうのが行動で示せてはいても、今 何を考えどう思ってるかの“心の動向”があまりに描かれてなさ過ぎな為、かなり感情移 入し難いという不満に当たってしまったんですよね。せめて過去のハインツとの関わりと か現在のステラとの会話の中とか、ちょっとしたシーンを積み重ねた中で、カナメという 少女の心をもっと窺い知れていたら……という思いでした。  他のキャラクターも見せ方に説得力あったのはシモンズくらいで、サブリナという存在 は結局意味がよく掴めずじまいだったし、カナメが相対する側のシルビアやカルロなんか は魅力を感じられただけに印象的なエピソードが少なかったのは惜しいなぁと。  ただ、この物語の世界観と背景に流れる終始殺伐した空気というのは非常に好きです。 最大限に雰囲気を引き立てるよう描かれている文章表現に惚れました。これを活かす為に あえて感情描写の物足りなさが犠牲になったのだろうか、と考えて納得出来る良さであり 間違いなくこの作品ならではの持ち味だと思います。不満点が帳消しとはならないけれど、 補えるだけの突き抜けた個性を作中に感じられたのには満足でした。無理に続きとは言わ ないけれど、もしあるならば次もまた読んでみたいです。


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