NOVEL REVIEW
<2003年05月[前半]>
] [戻る] [
05/09 『天気晴朗なれど波高し。2』 著者:須賀しのぶ/コバルト文庫
05/08 『天気晴朗なれど波高し。』 著者:須賀しのぶ/コバルト文庫
05/06 『マリア様がみてる 真夏の一ページ』 著者:今野緒雪/コバルト文庫
05/04 『マリア様がみてる 子羊たちの休暇』 著者:今野緒雪/コバルト文庫
05/03 『悪魔のミカタ8 It/ドッグデイズの過ごしかた』 著者:うえお久光/電撃文庫
05/01 『灼眼のシャナII』 著者:高橋弥七郎/電撃文庫


2003/05/09(金)天気晴朗なれど波高し。2

(刊行年月 H15.02)★★★★☆ [著者:須賀しのぶ/イラスト:船戸明里/集英社 コバルト文庫]→【
bk1】  後の天才提督ランゾット・ギアスと海賊王トルハーンことトルヴァン・コーア、二人の 若き海軍士官時代の姿を描いた海軍コメディの続き。あとがきで流血女神伝本編に直接関 わる『外伝』ではなく、サービス要素の高い『番外編』と言われているのになるほど納得。  序盤からの他愛無い、しかしランゾットにとっては大きな悩みの種になってしまう事柄 から、確信のように「今回もきっと何かやってくれる!」と感じてたのですが……あのシ ーンであの挿絵は反則としか言いようが無いですホントに。これまでのちょっとしんみり するような恋の話や陸でオレンディアに起こった事などが、一瞬吹き飛んでしまう程に爆 笑してしまいました。こういったランゾットとコーアの漫才なんかも、番外編だから見ら れる番外編ならではの読者サービスという事なのでしょうね。  今回で起こった奇跡のような偶然の連鎖は海での出来事のどれかひとつ欠けても成立し なかったものだったけれど、その前にランゾットがオレンディアに掴まらなければ起こり 得ず、それは前巻での事がなければそもそも実現しなかった出会いで、既に前巻でのエピ ソードから繋がっている連鎖が実に見事に描かれてるなという印象でした。  しかしコーアは分かるにしても、ランゾットみたいな笑いを提供する変人にまでいい女 ばかり立て続けに惹かれてしまうのか。いや、普通の人間には到底得られないような個性 が魅力と取れる部分なのだろうとは思うのですが。ランゾットとオレンディアの選択は納 得のゆくものであって、結局想いは通じ合えても添い遂げられないのはランゾットが海に 恋してしまったからなのかと思ったり(やはり本人にはあまり自覚なさそうですが)。本 編の未来を示唆するような幾つかの表現は気になる所で興味深い所。  この時は本気で言ったのではなかったにしても、コーアが海に落ちて海賊にでもなった ら海軍のランゾットと敵同士になってしまう……なんて二人の会話シーンにはハッとさせ られました。決して単純な敵味方という構図ではないけれども、それは紛れもなく未来の ギアスとトルハーンの姿を指しているのだから。  既刊感想:流血女神伝 帝国の娘 前編後編             砂の覇王        天気晴朗なれど波高し。 2003/05/08(木)天気晴朗なれど波高し。
(刊行年月 H14.12)★★★★☆ [著者:須賀しのぶ/イラスト:船戸明里/集英社 コバルト文庫]→【
bk1】  流血女神伝シリーズの姉妹編。本編から過去を遡り、海軍士官候補生時代からの腐れ縁 であるランゾット・ギアスとトルヴァン・コーア(本編でのトルハーン)の生き様を描い た青春海軍コメディ。雑誌掲載時は読めなかったので楽しみにしてたのですが、本編のシ リアスでハードな重苦しい雰囲気と比べて、これでもかというくらい正反対な内容に唖然 とさえしてしまったりも(いや大袈裟ではなく)。本編の合間に一休み挟むような位置付 けとして、シリアスな空気を一旦まぜこぜにして鬱憤を晴らすかのような感覚で、気が付 けば面白過ぎるランゾットの存在にすっかり魅了されて物語に惹き込まれてました。  実は船上での展開でそれ程吹き出してしまいそうな可笑しさが盛り込まれている訳では なくて、青春海軍コメディの頭に『爆笑』をつけても違和感無いくらい笑えてしまえたの は、ひとえにランゾットの性格や言動と常にマイペースを崩さないコーアとの珍妙なやり 取りの数々があったから。上下関係の厳しさが露骨に表れている現場で、下士官苛めに憎 悪や欲望などのドロドロした黒い感情が渦巻いていても、ランゾットの多彩な妙技?のお 陰であまり深くは沈み込まない。  普段すっ呆けた事をやっていても(ランゾットには自覚ないだろうけど)、何故かいざ と言う時に「こいつに任せておけば大丈夫」と安心感を抱けてしまえる。それはコーアに も言える事で、だから二人がおそらく初めて組んで画策を練る辺りは「一体どんな事をや ってくれるんだろうか?」と高揚感一杯で本当に読み応えあって良かったです。  誰が黒幕なのかとか、どういう作戦を繰り広げるかとか、読み手が登場人物達の心情か ら先を想像して楽しめるよう展開させている描写はうまいなと思いました。  そしてこの姉妹編は、つくづくランゾットというキャラクターが(笑いも含めて)全て だと思い知らされました。ネイのプロポーズの受け答えからしてあれだから最初「変な奴」 としか印象になかったけど、読了後もその印象が覆る事は無かったけど。どんな波に襲わ れても耐えられるのではなく“どんな波でも逆らわず流れて行ってしまう”。それがラン ゾットの本質であり、他人を惹き付ける要素だろうという気がします。  ……結局あまりコーアの事書いてないけど個人的にはこいつの方が好きなんですよ(な んだか言い訳のようだ)。でもランゾットの印象があまりに強烈過ぎて飲み込まれてしま ったのでした。何だかんだで意識し合ってる二人を見ているのが一番印象に残ったかも。  既刊感想:流血女神伝 帝国の娘 前編後編             砂の覇王  2003/05/06(火)マリア様がみてる 真夏の一ページ
(刊行年月 H15.04)★★★★ [著者:今野緒雪/イラスト:ひびき玲音/集英社 コバルト文庫]→【
bk1】  シリーズ第13巻。舞台はリリアンに戻って夏期休暇後半のエピソードで学園祭前の小話 という感じ。まだ準備段階というのか本番までの溜めというのか、山百合会&薔薇姉妹主 体とするには盛り上がりが少々大人しいかなとも思ったけれど、画策ありの欲望ありの尾 行ありので、当人に内緒でかさこそ行動する様が読んでいて楽しかったです。ちなみにこ の巻から、ようやく主要登場人物紹介に役職が表記されました乃梨子ちゃん。 ・略してOK大作戦(仮)  男度大幅アップの話。そういえばシリーズ読み始めた頃は、作中に「男人禁制」「男人 排除」みたいな空気が色濃く流れてたうような気も。それを考えると最近は規制が緩くな ったのかな? とか。もっとも花寺との交流は今回に限った事ではないので、今年は紅薔 薇さまという責務を負う祥子の逃げるに逃げられない状況に伴い、花寺側の詳しい描写も 必要になったのだろうなと。まあムサい野郎が増えるよりは薔薇姉妹でじゃれ合ってくれ た方が嬉しいのは本音だけど、彼等あってこそ祐巳達の楽しげな作戦が見れて祥子の男嫌 いが克服したと思えば……克服してないですね祥子は。お姉さまの為にと健気に頭を巡ら せてた祐巳としっかりじゃれあってくれくれた辺りはご馳走様で満足。  花寺の他の男達はどうか分からないけど、祐麒の友達の小林君はちゃっかり脇役が定着 しそう。いい奴そうだけどお調子もんだから好感持ってもらえるかはどうだろう? 祐麒 は本当にシッカリ者の弟君で、読者に「出すな」と言われない=好感を抱いてもらえてる のが凄く良く分かる。学園祭で彼はどんな位置付けになるでしょうね。 ・おじいさんと一緒  白薔薇姉妹エピソードのようだけど、何となく志摩子と乃梨子は脇役な感じ。さりげに 志摩子と父親とのやり取りが良かった。彼女の「うわあっ」なんて声滅多に聞けないし。  話の仕掛けは途中で大体読めていたけれど、楽しみ方としてはそれを予想するよりも真 美と小父さまとの奇妙な関係に苦笑しつつ進めるのが合っているのかも。一度読んでから もう一度読み返してみると、タクヤ君と甲之進さんの姿がハッキリと見えて面白い。  三奈子さまは相変わらずネタの為に魂を注いでるなぁと妙な感心を抱きつつ、普段冷や かに面倒見るお姉さまから離れれば大胆に行動してしまう真美を見て、やっぱりあなた達 は似た者姉妹だよと言いたくなってしまいました。 ・黄薔薇☆絵日記  このいちゃつきバカップルには「もういつもの事だから気の済むまで好きなだけ勝手に やって思う存分見せてつけてくれても何の文句もないですむしろ嬉しくて楽しくて思わず にやけてしまいましたありがとう」としか言えない(笑)。  既刊感想:マリア様がみてる           黄薔薇革命       いばらの森              ロサ・カニーナ       ウァレンティーヌスの贈り物(前編)  ウァレンティーヌスの贈り物(後編)       いとしき歳月(前編)         いとしき歳月(後編)       チェリーブロッサム          レイニーブルー       パラソルをさして           子羊たちの休暇                   2003/05/04(日)マリア様がみてる 子羊たちの休暇
(刊行年月 H15.01)★★★★ [著者:今野緒雪/イラスト:ひびき玲音/集英社 コバルト文庫]→【
bk1】  シリーズ第12巻で夏休み休暇編。これまではわりと山百合会主体のリリアン女学園内活 動エピソードが多かったり、あるいは各薔薇姉妹で二人っきりで時間を過ごすショートエ ピソードなどは結構あったりしたけれど、一組の姉妹がほぼ1冊丸々占拠してしまうパタ ーンとは珍しい。雨降って地固まった後で、今までに輪をかけてより一層強い『好き』な 気持ちを、祐巳と祥子の両方にこれでもかってくらい見せ付けられてしまってもうお腹一 杯です。他のメンバーが呆れるくらい“痴話喧嘩は犬も食わない”ような関係を見て、祐 巳も遠慮の壁を低くして祥子と言い合えてるんだなと嬉しくなってしまいました。  もっとも、祐巳の性格からか別荘ではまだあれこれ色々自分の内で、お姉さまの事を考 え迷ってそわそわ気持ちが落ち着かない部分も見受けられたけれど。まあこの紅薔薇姉妹 が令と由乃のバカップルみたくべったり甘々な雰囲気になるのはちょっと違う気もするし。  一見表向きは性格的につっけんどんな祥子の行動を、祐巳が“アウェー”って事もあっ て遠慮がちに合わせてる構図であっても、深い部分では祥子の方がずっと祐巳に影響受け てベタ惚れしてるような所が、無性にいいなあと感じさせられました。祥子の場合は滅多 に表に出さない(最近はそうでもないかな?)から、祐巳への感情をストレートに見せる のは切り札のようなもので、だから強烈に印象に残ってしまうのだと思います。  他にも別荘で偶然か必然か全員集合になったり、似た者同士の七三&眼鏡だったり、柏 木が案外いい人振りをアピールしてるのは祐麒が狙いかどうかはいざ知らず、その祐麒は 柏木がちょっかい出したがるのも分かる程の出来た弟君だったり……とちょこちょこ小粒 で美味しいシーンがあったのも嬉しい演出。個人的には、相変わらず祐巳の周辺をちょろ ちょろしてる縦ロール小娘の行動と心情が気になったりしてるのですが。  お嬢様方の精神的嫌がらせは鼻につく以外のなにものでもなかったけれど、ネタになり そうな『コシヒカリ娘』も何のそのでちっぽけなプライドさえ引き立て役にしてしまう土 壇場での行動力と、それによって人の心を動かし掴んでみせる祐巳には、改めて「あんた は凄い娘だよ」と言いたくなりました。普段は庶民派でぽけぽけしていても、肝心な局面 ではハッと息を呑むほど見違えるような姿を見せてくれるのが、祥子の大好きな祐巳の魅 力であって凄い所なのだろうなと。  既刊感想:マリア様がみてる           黄薔薇革命       いばらの森              ロサ・カニーナ       ウァレンティーヌスの贈り物(前編)  ウァレンティーヌスの贈り物(後編)       いとしき歳月(前編)         いとしき歳月(後編)       チェリーブロッサム          レイニーブルー       パラソルをさして 2003/05/03(土)悪魔のミカタ8 It/ドッグデイズの過ごしかた
(刊行年月 H15.04)★★★★ [著者:うえお久光/イラスト:藤田香/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  久々に5巻以来の主人公・堂島コウ復帰。というわけでコウが犬に愚痴ってバカップル の逃避行に巻き込まれ、ボロ車VSリムジン&トレーラーの三すくみのカーチェイスな強引 かつ無茶苦茶で滅茶苦茶な展開と言ってるのは誉め言葉。このまま日陰役で終わるのかと 思ってた部長がいきなり目立ってたのに驚いた。いや過去の演説シーンも含めて、何があ っても大丈夫と思えてしまって逃避行の末に結婚宣言かましたりと格好良過ぎ。  心情的な見せ場は《グレイテストオリオン》の事件で事実上日奈より綾を選択してしま ったコウが、今の自分の立場に疑問を抱き悩み迷走混迷を見せている所。コウは自身の性 格をよく理解してるから、疑問視してる感情にさえ疑問を持ってしまって「こんなのおれ じゃないのにじゃあおれは何でおれじゃないおれになりつつあるのか?」とか言う訳の分 からない思考迷路の深みにハマってしまってる。つまり日奈を生き返らせる事のみがコウ の全てであったにもかかわらず、綾を犠牲にする事で叶えられた望みを放棄してしまった 自分は一体何がどうなってしまったのか? という疑問。気持ちを仔犬のBOSSに吐露 して激しく葛藤し揺れているのがよく描けてたと思います。  結局その後怒涛のカーチェイスで悩んでる場合じゃなくなってしまうけれど、行動的な 見せ場で今回のメインとも言えるのが、そのアトリ大活躍なカーチェイスシーン。車から 車へ乗り移ったり、車から転げ落ちそうになったり、車に引き摺られたり……など色々も の凄い事やってます。ボクシングの時と同様に、激しく目まぐるしいアクションシーンが すっと頭の中で想像出来てしまうような描写はなかなかうまいなぁという感じでした。  序盤で『ザ・ビートル』のドアがもげてしまうのに「なんじゃそら」と失笑してたので すが、後でこういう使い方をする為に用意されていたものだと分かって「あ、なるほど」 と思わず感嘆してしまいました。実際アトリの“それ”のシーンが一番面白かったです。  このシリーズ前後編分冊の場合の前編は、後編あるいは今後の伏線として気になったり 引っ掛かったりするシーンやキーワードが多い為、続きを読んでみないと何とも言えない 所があるのですが今回も大体そんな感じ。コウとランドールの対峙は確実だとしても、他 に絡まってくる要素が多いのは目に見えていて非常に気になる所で楽しみでもあります。  既刊感想: 2003/05/01(木)灼眼のシャナII
(刊行年月 H15.04)★★★★☆ [著者:高橋弥七郎/イラスト:いとうのいぢ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  キャラクターに惹かれる(主にシャナに)よりも、シャナがフレイムヘイズとして世界 のバランスを乱し害をなす『紅世の徒』を討滅する為の戦いにこそ、練り込まれた独特の 設定を活かした手応えを得られる物語だと思う部分が大きかったけれども……2巻目を読 んでみたらやっぱりシャナが全てでした。  シャナ萌えで吉田さん萌えで三角関係万歳! と言った具合。何しろ悠二とのわだかま りが原因で痛手を負って、弱々しくすがるように「もっと、強くなってよ……!」と悲痛 に訴えるシャナのちっちゃな身体を、強く強くぎゅーーっとぎゅーーっと抱き締めたりな んかしたら、そりゃ萌えない方がおかしいってもんですよと断言。そのシーンだけ行った り来たり何度も読み返しては悶えまくってたりと抜群の破壊力にやられっ放し。抱き締め られた後に風呂の中で嬉しさを噛み締めたり、同じ部屋で寝る時に悠二と話しながら照れ て顔を赤らめたりするシャナの仕草がもう堪らないです。お互いを理解し合える瞬間が際 立っているのは、悠二とシャナのそれまでの感情の変化や昂ぶりの描写のうまさがあって こそで、挿入するタイミングも絶妙だなと思いました。  前巻のシャナはまず神々しいまでの圧倒的な強さがあり、それから徐々に内面が見え始 め悠二に抱く微妙な感情から可愛さが目立ってくるというもの。それに対して今回は、ま ずシャナの弱さや脆さから悠二に支えられての可愛さが先に立ち、それから絆を深めて絶 対的な信頼と自身を得て力強さを見せつけている……と、全く逆の描かれ方だったのが興 味深く面白かったです。    必ずしも害なす紅世の徒ばかりではなく、フレイムヘイズと言えど単に討滅を繰り返し て殺して殺して殺しまくればいいという訳でもなく。ラミーとの関わりやマージョリーと のフレイムヘイズ同士の戦いで、より“隣りの世界”に複雑さや奥深さが加味されたよう で良い感じ。戦闘シーンの見せ方は直球ではなく変化球のような少々癖のある描写で、時 々想像し辛いシーンもあるけれど、それ以上に惹き込まれてしまう部分が多い。  不満と言えばマージョリーの過去や佐藤と田中の家庭環境などが、何となく分かるんだ けどハッキリ描かれてないので気になった程度。敵も味方もどのキャラクターもなかなか 自己主張が強く、一人一人が実によく立っていて魅力的に描かれてるなという印象。アラ ストールの過保護っぷりとかラミーの老年者特有のシブい雰囲気なんかも大好きです。  今後気になる三角関係……というには悠二とシャナの絆が深まり過ぎて、健気な吉田さ んが圧倒的不利な状況なのですが。悠二の事を想ってるからこそ、誰より悠二とシャナの 気持ちが敏感に分かってしまえるというのは、何とも皮肉な話だなと思わずにはいられな い。それでも吉田さんには『頑張る負けない諦めない』感情が持続してるから、余計健気 で可愛く見えてしまう。それが成就して報われるのは正直厳しい戦いなので、もうしばら く悠二がハッキリしないで曖昧な関係で引っ張ってくれた方が読んでる方は嬉しいかも。  既刊感想:


戻る