NOVEL REVIEW
<2003年09月[前半]>
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09/10 『タクティカル・ジャッジメント3 いやがらせのリベンジ!』 著者:師走トオル/富士見ミステリー文庫
09/10 『タクティカル・ジャッジメント2 きまぐれなサスペクト!』 著者:師走トオル/富士見ミステリー文庫
09/08 『今度はマのつく最終兵器!』 著者:喬林知/角川ビーンズ文庫
09/06 『マルドゥック・スクランブル The Third Exhaust――排気』 著者:冲方丁/ハヤカワ文庫JA
09/04 『マルドゥック・スクランブル The Second Combustion――燃焼』 著者:冲方丁/ハヤカワ文庫JA
09/03 『マルドゥック・スクランブル The First Compression――圧縮』 著者:冲方丁/ハヤカワ文庫JA
09/02 『拝啓、姉上さま1 ―誓いをこえて―』 著者:川口大介/富士見ファンタジア文庫
09/01 『ジェスターズ・ギャラクシー3 愚神どもには安息を』 著者:新城カズマ/富士見ファンタジア文庫


2003/09/10(水)タクティカル・ジャッジメント3 いやがらせのリベンジ!

(刊行年月 H15.08)★★★★ [著者:師走トオル/イラスト:緋呂河とも/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【
bk1】  毎度毎度善行に鼻っ柱を“ぺきっ”とへし折られる羽田修甲刑事視点で、休暇中に殺人 事件に出くわし鮮やか(と思っているのは舞い上がっている本人だけ)なスピード解決を 披露する前半と、その事件で自白した被告人を善行が毎度の如くあの口この口で弁護しな がら毎度の如く堀内検事と法廷で争う後半と、二部構成で話が一つに繋がる仕組み。  えーと……今回はまさに「いやがらせのリベンジ!」というサブタイトル通りな内容で、 そうかこれや帯の台詞「デートの恨みは法廷で」ってのはそういう意味だったのかと激し く納得。いや善行の行動があまりにそのまんまなもんで吹き出してしまいました。  特に今回は切っ掛けから弁護を引き受ける動機から何から私情のみで動いてる善行に対 して、「こんなのが弁護士やってていいのか?」と少なからず思わされたものです(だっ て端から眺めても自分の目的が主で、被告人の弁護は完全についで扱いだもんなぁ)。  しかしそこはうまい運びで、羽田刑事の裏表のあり過ぎな“性格最悪のヤな奴”ぶりが これでもかって程に発揮された準備段階での効果が的確に表れている。なので、おいおい ちょっと待てと言いたくなる私情含みな善行の口撃も、一度羽田刑事に向けられたならば スカッとする爽快感タップリな一撃に早変わりというわけです。羽田刑事は割と扱いが地 味だったので、ここまであからさまな性格とは思ってませんでした。まあ相手が悪かった という事でご愁傷様。今後も彼は善行に苛め抜かれるキャラで定着なのでしょう。  今回の法廷は既に自白してる被告人を情状酌量、あわよくば無罪へと持ち込もうと目論 む善行の独壇場。元々弁護側が不利な立場ながら、大して危機的絶望的な状況にも陥らず あまりに余裕綽々なので、口撃される検察側や証人達の不甲斐なさがちょっと可哀相にな って来たりしました。たまには善行の方が、絶体絶命の崖っぷちまで追い込まれるような 状況であってもいいと思うんですけどね。それには強力なライバル検事の登場が必要か。  法廷での争いは毎回違った切り口で描いてくれるので、今回もじっくり堪能させてもら いました(一部目を疑うような行為もあったりしたけど……)。飽きさせないようにとか 面白く見せるようにとかの意気込みが感じられて良いなと思います。  それにしても1巻ではお荷物キャラだったのに、2巻と今回と重要所で先を照らす打開 案を軽々と示してみせた皐月伊予侮り難し。偶然か才能か……今後もこのポジションに居 座ってしまうんだろうか? 前半での彼女の登場にはちゃんとした意味があって、それが 明らかとなる最後のアレにはしてやられました。やはり侮り難しです。  既刊感想: 2003/09/10(水)タクティカル・ジャッジメント2 きまぐれなサスペクト!
(刊行年月 H15.05)★★★★ [著者:師走トオル/イラスト:緋呂河とも/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【
bk1】  2巻目という事で、さすがに前巻程の強烈なインパクトを受けるまでには至らなかった し、展開からして“圧倒的不利な立場から逆転無罪を勝ち取る”爽快感を得られる性質の 裁判内容とは少し離れていたかなと。それでも、先へ先へとぐいぐい進めさせようとする 牽引力の強さに、テンポの良さや読み易さなどは健在。口には出さずの余計な心の呟きに 度々ツッコミ入れたい気持ちにはなりますが、山鹿善行の人を食ったようにおちょくりま くる舌好調な一人称文章が、先に挙げた良い部分を引き出しているのは確か。  弁護士の仕事を趣味で楽しんでいるなんて言ってる辺り、山鹿の人間性が知れようとい うもので、この辺の彼の性癖はどうだろうってのも多少はあります。ハッタリや詐欺紛い の極悪で際どい尋問の数々も、検察側をけちょんけちょんに苛め抜いて勝利の快感を得る 為に全力を傾けている事の表れで、その過程の結果“おまけ”として被告人無罪の証明が くっ付いてくるような感覚も無きにしも非ずな感じだし。  ただ、趣味を楽しむ一環として検察側(と言っても大抵堀内検事しかいないが)をター ゲットにサディストな性癖を如何なく発揮していても、それが主な目的となってしまい被 告人で依頼人の気持ちを尊重したり力になろうと親身に接する配慮が多少……いやかなり 欠けているにしても、必ず最後には無罪を証明している。それを真面目に型にはまろうと しない型破りな弁護士がまんまとやってのけるからこその面白さもあるのかなと。  ちょっと引っ掛かった部分としては、殺人事件パートでいつのまにか真犯人が「こいつ しかいない」と絞り込まれていた事。確かに普通に考えてこれが最も妥当で、端から他の 可能性を排除していた善行の言にもそうと思い込まされていたけれど、思い返してみると 何かその辺りが憶測のみで曖昧だったような気がする。最後は善行らしい決着のつけ方が 良かっただけに、進行過程でももうちょっと明確な証拠を握った上で「真犯人はこいつ以 外あり得ない」と断定するように描いて欲しかったかも。  あとは前巻で同様に感じた事で、現場捜索で手掛かりを得るような、いわゆる『探偵パ ート』がほとんど影野任せな為に少々弱いのも変わらず。正直言うとこっちの法廷外の様 子も読みたい。けれどもこの物語の面白さは真犯人を暴く推理捜査ではなく、あくまで法 廷裁判での戦いに最も掛かっていると思うので、個人的にはその部分に関して充分楽しま せてもらえる限り不満も少ないかな? まあ適材適所でしょうかね。善行がメインの法廷 を背負っているから、手が回らない『探偵役』という影野の役割に存在意義があるわけで。  既刊感想: 2003/09/08(月)今度はマのつく最終兵器!
(刊行年月 H13.10)★★★★ [著者:喬林知/イラスト:松本テマリ/角川書店 角川ビーンズ文庫]→【
bk1】  シリーズ第2巻。便器の中から異世界転移、そして見事第27代魔王の座に就任した能 力平凡高校生・渋谷有利、年齢15歳、種族人間。今回は魔族と対立する人間領の武力侵 攻計画を何とか剣を交えず穏便に解決する為に、最強の魔剣を手に入れ魔王としての箔を 付け、その力を存分に知らしめる事で相手を躊躇わせ戦いを回避させようとする流れ。  魔族と人間の諍いを無くし共に手を取り合えるような平和な世界を築きたい、と理想を 掲げる新米魔王のユーリらしい実に回避的な案も、特にグウェンダルやヴォルフラムから 見たら“甘っちょろい考え”となるわけで、当然計画通り穏便に事が運ぶわけはない。  とは言うものの、余程身の危険に晒される(命と貞操と両方)ような事態に陥らない限 り、わめいても叫んでも基本的にはユーリの性格がポジティブ志向なので、多少のトラブ ル程度なら簡単に「これなら全然大丈夫だろ?」と思えてしまう。そこら辺がユーリ自身 の魅力であって、今の所はかなり魔王の名に負けてるような印象であっても、必ずどこか で弱っちいくせにいっちょまえな正義感の強さを見せながら、それを武器に道を切り開い ている。別段戦闘能力が優れているわけでもなく、覚醒しなけりゃ特殊能力だってからっ きし、なのに結果的にはどうにかこうにかうまい具合に事が運んでしまう。それをいかに も“普通っぽい”ユーリがやってのけて見せる所が持ち味であり良さだと思う。  帰り方が分らないまま異世界に滞在してしまうような常套手段を覆して、一つ大仕事終 える度にあっさり現世に戻れてしまうのも特徴的。前巻では無事現実世界へ帰れたけど、 今度はそう簡単にはいかず魔王として異世界に居続けるだろうとか思っていたので、意表 を突かれながらも単純に枠にはまらない所で面白さを見出せたかなと。  しかし改めて冷静に周りを見渡してみると、ほとんど男しか居ないのかこの物語(しか も色男優男ばっかりだし)。ただボーイズラブの方向へ行ってしまうような作りはしてな いので、その点は読んでいても比較的安全&安心? 多少ヴォルフラムとかは暴走気味な とこもあるけど、笑いを織り交ぜつつお世話したりされたりの友愛物語という感じでしょ うか。爆笑度合は断然今回の方が上。特にギュンターの過保護っぷりには腹を抱えました が、グウェンダルにあんな性質と趣味があったとは……いやそれ精神統一とかじゃないし と思わずツッコミ入れたくなってしまった。  既刊感想:今日からマのつく自由業! 2003/09/06(土)マルドゥック・スクランブル The Third Exhaust――排気
(刊行年月 H15.07)★★★★☆ [著者:冲方丁/イラスト:寺田克也/早川書房 ハヤカワ文庫JA]→【
bk1】  シリーズ最終巻。これはもうページのどこを開いても「面白い」としか言えず、読了後 に溜息吐きの余韻浸りでも「面白かった」以外の言葉はとうとう思い浮かばず。  前巻からのカジノの続きで、実に全ページのおおよそ3分の2を惜しげもなく使って描 かれたVIPルームのブラックジャック3本勝負と、バロットとウフコック対ボイルドの 因縁の闘い。ごく簡潔に書き出してみると、実は表向きでバロットがやっている事の種類 というのは驚くほど数少なく分り易い。  しかしこれに“驚くほど”を付けずにいられなかったのは、見た目のシンプルさからは 到底考えられない想像を絶する密度の濃い内容が存在していた為。前巻以上は有り得ない と思っていた読書中の熱中度は今回の方が更に上回っていたような感じ。決着をつけるゲ ームとして扱われたブラックジャックの至ってシンプルなルールから、ここまで複雑で緻 密で大胆な知略戦・心理戦が描かれるとはさすがに想像も追い付けやしない。  前巻でのポーカーやベル・ウィングとのルーレットに触れた手応えから、今度も『奥深 い面白さ』に遭遇した時に備えての身構えは充分だった筈なのに、あまりに予想の枠外な 威力であっさり吹っ飛ばされてしまいました。マーロウを徐々に確実に追い詰めて切り崩 してゆく第1戦の過程も、逆に崖っぷちに追い込まれてバロット自身の真価が問われた最 強のディーラー・アシュレイとの第2戦も、終始思うがままに計算し尽くされた総仕上げ 的な第3戦も、どれも甲乙付け難い程に良かった。それぞれの勝負に全く違った面白さが あり、キャラクターも個々に輝きや魅力が様々ありながら、自分自身の“有用性”を賭け て勝負しているような所は誰もが共通していたように感じられました。最も明確にゲーム を形作っていたのは、間違いなくバロットとウフコックの強固な繋がりでしょう。  終盤はエピローグへと突っ走るアクション全開な一本道で、これまでの『静』を丸ごと 引っくり返した『動』の展開。こちらも最初の時を遥かに上回るもので、ラストバトルに 相応しいバロット&ウフコックとボイルドの銃撃戦、その最中で巡る感情などの描写は本 当に見事。前巻でボイルドに結構肩入れしてた分だけ、彼にとっては救いになったとして もやっぱり辛さや切なさが込み上げてしまう結果に……。  前巻より僅かだけ下がっているのは、結末のその先までをも知りたかったという単なる 自分勝手な我侭にも似た欲求が理由です。確かに続きが読めるならそりゃ読みたい。叶う 事の無かった“再生したバロットの肉声を物語の中でもう一度聴いてみたい”なんて気持 ちもある。でも、物語としてはこのまま終えた方が奇麗なのかなとも思うのです。  既刊感想:The First Compression――圧縮       The Second Combustion――燃焼 2003/09/04(木)マルドゥック・スクランブル The Second Combustion――燃焼
(刊行年月 H15.06)★★★★★ [著者:冲方丁/イラスト:寺田克也/早川書房 ハヤカワ文庫JA]→【
bk1】  シリーズ第2巻。読み終わってから、これはどうやって表現して書いたらいいのかなぁ と、こうやって書きながら考え込んでしまうくらいで、本当の所は余計な事ずらずらと重 ねずに一言「面白かった!」と済ませた方が余程伝わり易いのかも知れない。  まだもう1巻残ってるので今回の話の位置としては中盤から後半に入る辺りとなります が、既に惹き込まれ具合が半端じゃなくて、見事に物語の深みにはまってしまったこの拘 束感は到底抜け出せそうも無い。もしかしたらこれ以上なんてのがあるのかどうか、そう いう可能性を残して待っているこの後から完結を辿るのがちょっと恐いかも。  序盤からクライマックス張りの派手なアクション感覚。そういうのがメインとなるかと 思いきや、バロット対ボイルドの銃撃戦以降は全く逆で外面の派手なアクションは皆無。 徐々に会話での見せ場が多くなり、カジノでは完全に思考と精神力の静かなる知略ゲーム が展開されてます。これらも逆の性質で見せ方に違いがありながら、あらゆる場面でどう やったら面白くなるかという工夫がしっかり考えて為されているなぁと感じられました。  最も印象に残ったのはカジノイベント。いや、序盤の流れからしてアクション満載と思 ってたので良い意味で意表を突かれ裏切られたと言うのか、こんな楽しませ方もあるんだ なぁと魅了されたように酔わせられっ放し。中でもバロットとベル・ウィングの駆け引き ――特に脇役ながらベル・ウィングというキャラクターは、バロットがそんな風に印象抱 いてしまったのも何度も頷けて凄くよく分かる程に「格好いい人」でした。  あと個人的に思いのほか感情移入してしまったのが敵役であるボイルド。フェイスマン との会話から徐々に過去が剥がれてゆくに連れて印象に変化が生じて、極めつけはカジノ へ向かう途中の車内で過去を思い返した時。こういう回想巡らす事をするような奴じゃな いと思ってたので、ウフコックに執着する理由が解けたのと同時にボイルドという人間性 に一層の厚みを感じられるようになったと言えるのかな?   他にも『楽園』でバロットといい出会いを演出してくれたトゥイードルディ&トゥイー ドルディムの事や、バロットがウフコックと“再会”したシーンで貰い泣きしそうになっ た事、カジノでのドクターの振舞いであまり掴めなかった彼の性質が詳しく知れた事や戸 惑うバロットに示したウフコックの見事な戦略性に感嘆とした事など、あれもこれもと触 れたい箇所が多過ぎてそれを挙げようとしたらきりがないです。  バロット、ウフコック、ドクターとボイルドは今の所追いつ追われつのレースを展開し てますが、果たして再び顔を合わせた時に彼女と彼らどんな心境でどんな行動にでるのか (おそらく双方戦う以外の選択はないだろうけど)、そして因縁はどういう結末を辿るの か……また絶妙なタイミングで終わっているので最終巻が激しく気になりまくりです。  既刊感想:The First Compression――圧縮 2003/09/03(水)マルドゥック・スクランブル The First Compression――圧縮
(刊行年月 H15.05)★★★★ [著者:冲方丁/イラスト:寺田克也/早川書房 ハヤカワ文庫JA]→【
bk1】  港湾型重工業都市・マルドゥックシティの裏社会で生きて来た少女娼婦・バロット。  始まりは彼女の肉体焼失から奇跡的な出会いと肉体再生を果たし、やがて自身に芽生え る存在意義や生への欲求を考え、やがてルーン=バロットという一固体がこの世界に存在 し生きている事の証明を勝ち得る為、過酷な死闘の中へ身を投じてゆく事になる。  全体的に息が詰まりそうな重苦しい雰囲気で、特に前半の後ろ暗い所が一杯ありそうな 舞台背景やバロットの生い立ちが実に生々しく描かれている辺りは、退廃・陰鬱さを吐き 出すかのごとく負の暗穴へ一直線に落ち続けているような印象がかなり強烈。  ともすれば、バロットと家族の関係は目を背けたくなりそうな嫌悪感を抱く事になるか も知れませんが、それらを含めて構築された独特の世界観には、どこか目を背けられずに 惹き込まれてしまう魅力も確かに感じられました。個人的にはキャラクターやストーリー と同等かそれ以上に、マルドゥックシティが醸し出す雰囲気に魅せられるような所が大き かったかも。なのでシティの顔はもうちょい細部に至るまで描いて欲しかったけれど、そ の分バロットの感情を中心とした人間関係の複雑さや、終盤の派手な銃撃戦などで満足の ゆく手応えを感じられたので、読んでいて物足りないって事は全く無かったです。  あとはもうあらゆるシーンでウフコック変幻自在な身体を駆使する、という発想の面白 さを得られただけでお腹一杯になれました。バロットとの会話では人間とそうでないもの の考えのズレみたいなものに苦笑を誘われたり、僅かずつ心を開いてゆく彼女との触れ合 いはちょっといいなと思えたり、この辺りは作中で数少ない和みの場でしょうね。  終盤の襲撃者達とその後に続くボイルドとの銃撃戦も、圧倒的な力の魅惑に取り付かれ 陶酔してしまったバロットの戦いぶりも、濫用を許した上で血みどろになってさえ決して 彼女を見放さずに戦い続けるウフコックの姿も、全てが圧巻で壮絶で見事な描写。それだ けにこんな終わり方されたんじゃたまりません。まだウフコックとボイルドの過去の関係 についての詳細や、かつてボイルドがウフコックを使って一体何をやらかしたのかもハッ キリしてないので、それらも込みで続きが非常に気になる所。 2003/09/02(火)拝啓、姉上さま1 ―誓いをこえて―
(刊行年月 H15.08)★★★☆ [著者:川口大介/イラスト:神谷順/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  ドラゴンマガジン誌上企画『龍皇杯』にて第5回龍皇を勝ち取った――つまりは読者投 票で最優秀作品として選ばれた作品。同タイトルでも、ドラゴンマガジンにて連載されて いる(15年9月号で一応話の区切りで最終回となりましたが)ものとは別エピソードと なる、長編書き下ろしヴァージョンが今回の内容。  まあ過去の龍皇杯優勝作品中ではお馴染みでお決まりでお定まりとも言える、“連載分 収録”と“書き下ろし長編”の2パターンが存在する形式は、この作品でも例に漏れずと 言った所。ただ、どうやら書き下ろしの方は魔術学院時代のメティアの過去を描いて行く らしく、現在の連載版に対する位置付けやストーリーの方向性がしっかり明確に定まって いるのは良い傾向ではないかと思います(どれとは言わないけど、龍皇杯作品の中には長 編版と連載版の関係がイマイチ訳分らないと感じられてるのもあるから)。  この長編は特にメティアの性格を比較するという意味で、誌上連載を読んでる人の方が 楽しめる要素を多く得られるような作りになってるかなぁと思いました。こういう部分で、 長編と連載を線引きしながら書き分けてる利点がうまい具合に作用してます。  先に連載を読み続けていた身としては、過去のメティアがこんなに押しの弱い頼りなさ げな苛められっ娘なのが意外な程新鮮に感じられたりしました。ああそうか、きっとこの 魔術学院の中で荒波に揉まれるように鍛えられて逞しく成長したんだろうなぁ……としみ じみ感慨に耽りながら、じゃあ卒業して最愛の弟・セリオスの元へ無事帰還を果たすまで、 一体メティアはどんな過程を歩んで来たのかというのも大いに気になる所。  今回は、理由ありつつもメティアに対する陰険な苛め、それに付加してちょっと「うげ げ」となりそうな描写、強大な敵の出現で傷だらけの絶体絶命など。最初想像してたよう な“ほのぼの気分”なんかじゃ全然なくて、心が荒んで陰鬱で重苦しい感覚が思いの外印 象に残ってしまうような展開。どちらかと言えば裏切られ方は良い方向だったかな? 魔 術を学んでいても内容的にそれ程重要でも深く魔術が関わっているわけでもなく、それよ りかはメティアの心身の成長を軸に描いて行くのだろうなと。  話がストレートに分り易かったせいか、盛り上がりとしては大したものじゃなかったか も知れないけれど、メティアの素性を知ってる風なヨーマやシュレインと魔界人との確執 に関わり続けれていれば、多分徐々に手応えも増す事でしょう……と期待値込みで。 2003/09/01(月)ジェスターズ・ギャラクシー3 愚神どもには安息を
(刊行年月 H15.08)★★★☆ [著者:新城カズマ/イラスト:おもて空良/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  共和国歴の現在から過去を遡る形で、既に歴史上滅亡する事が決定付けられている銀河 帝国歴末期を駆け抜けた<鮮血の天使>こと銀河騎兵隊の生き様を、基本的には面白おかし く時には辛かったり重苦しかったりを描いた物語。  フェルリ女帝暗殺未遂の濡れ衣着せられ謹慎処分になりながらも、当然黙って大人しく 従っている奴らなんかじゃなく、実行出来たのは内部の人間しかないという事実にぶち当 たって毎度の如くややこしい展開へと流れてゆくのが今回。真犯人探しが一応の目的であ ってもそれ程重点的に触れられてるわけでもなくて(こっちは真面目に追おうとしている 意気込みがあんまり感じられなかったから)、どちらかと言えば過去のとある事件に重な る事で爆発物を仕掛けた手段を解く方へ思考が傾いている様子。  これと酷似した半年前の事件も今回の事件と真犯人についても、事情が複雑に入り組ん でるわけでもなく、むしろきちんと整理つけていけば案外分り易く把握し易いものだと思 う。真相告げられて普通に素直に「ああそういう事か」と納得出来るような感じで。  結局の所この事件が担っていた役割としては、最後までお飾りなままだろうと思ってた シアンナの思わぬ目立ちっぷりと過剰な暴走っぷりを際立たせた事と、それからもはや滅 多に繋がりようのないアルロンとアルトワインを再びごく間近にまで引き合わせてくれた 事と。他にも色々細々とありそうですが、主にこの二つではないかなという気がします。  特に咄嗟の機転で事態をまるく収める為に道化に徹したアルロンの振る舞いの一部始終 は、ぐぐっと胸を締め付けられるような感覚でもう堪らなく良かったです。    このまま帝国末期を進めて、銀河帝国滅亡まで描き切った所が終着点で結末となるのか なと想像はありますが……今回ラストに触れた感じだと革命戦争勃発で帝国が終焉を迎え るのは意外と近い? あと1、2巻程度で完結しそうな雰囲気もあったかなぁ。  んー本当に完結が近いのかどうかは憶測のみなので定かではないけれど、別に急がなく てもいいから主要キャラクターの存在感を引き出す意味で、他愛も無い馬鹿話を幾つでも 間に挟んで欲しいかも。毎度のアルロンとべレズのボケツッコミばかりではなくてね。  既刊感想:


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