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09/20 『バッカーノ! 1931 特急編 The Grand Punk Railroad』 著者:成田良悟/電撃文庫
09/19 『いぬかみっ!3』 著者:有沢まみず/電撃文庫
09/19 『ルナティック・ムーン』 著者:藤原祐/電撃文庫
09/17 『9S<ナインエス>』 著者:葉山透/電撃文庫
09/16 『DADDYFACEメドゥーサII』 著者:伊達将範/電撃文庫
09/15 『護くんに女神の祝福を!』 著者:岩田洋季/電撃文庫
09/14 『ワーズ・ワースの放課後』 著者:杉原智則/電撃文庫
09/13 『シンフォニア グリーン 千年樹の町』 著者:砦葉月/電撃文庫
2003/09/20(土)バッカーノ! 1931 特急編 The Grand Punk Railroad
(刊行年月 H15.09)★★★★☆
[著者:成田良悟/イラスト:エナミカツミ/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
正確には鈍行編と特急編を合わせての評価。どちらが欠けても成り立たないし、片方だ
けを追っていても全てが見えない為に面白さは半分程度しか得られない。ある程度までの
手応えは確かにあったけれど、鈍行編だけでは言わば半身のみなので、2巻で1組なのは
充分理解していても気になる部分が多過ぎてスッキリしませんでした。ただ、それがスト
レートに特急編への期待感に繋がってしまうので、何だかんだ言っても半分だけでしっか
り楽しめてるんじゃないかよ、という具合で満足顔だったわけですが。
とにかく2ヶ月連続刊行なのに非常に待ち遠しかった。で、最後まで堪能してみた結果、
この作品を最も楽しむ為には2巻続けて一気に読むべきだなと。両方合わさった時に初め
て生まれる相乗効果ってのが想像を遥かに上回っていて、きっと1+1が10くらいには
跳ね上がってしまうと思います。特急編を読んだ後に鈍行編再読、更に特急編を再読して
……なんてやりながらどっぷりと浸らせてもらいました。
この特急編は、前巻鈍行編でサッパリ行動を追えなかった人達――主に子供と作業着女
と白服リーダーと黒服女と後半部分のバカップルと、何より気になる“レイルトレーサー”
側の視点で真相を描く解決編。あれだけ思わせ振りな幕引きだったので、種明かしは最後
だろうかと考えてたレイルトレーサーの正体は序盤であっさり明かされてます。つまり物
語での重要所はその正体ではなくて何をやっていたか? に掛かっていると言う事。
レイルトレーサーの正体に関しては全く眼中になくて、知らされてようやく「ああ、な
るほどね」と納得。クレアも同様に気付けずでした(この意味は読んだ人なら分かるかと)。
しかし振り返ってみると、人は死にまくるは血は流れまくるはで相当凄惨さが際立って
いる筈なのに、そういうの全然感じさせない。まあ“不死人”ってクッションもあるには
あるんですけど、えげつない描写でさえ面白味に変えてしまう程キャラクターの持ち味が
光っていると言えるのかな。行動や言葉の一つ一つが誰も彼も格好良すぎですよね。ラッ
ドなんかは『嫌い』が際立つ奴だったのに特急編で印象が一変してしまったし、レイルト
レーサーの立ち回りの数々には惚れそうなくらい魅了されっ放しでした。
まるで最後のイラストが完成形であるかのように、パズルの最後のピースがパチリパチ
リとはまってゆく感覚のエピローグは本当に見事。ゲームでよく使われている手法とは言
っても、これを文章媒体で破綻無く描くのは並大抵の事ではないでしょう。しかもまだ今
年デビューの新人さんなのを考慮すると、やっぱり凄いと言わずにはいられない。
既刊感想:The Rolling Bootlegs
1931 鈍行編 The Grand Punk Railroad
2003/09/19(金)いぬかみっ!3
(刊行年月 H15.09)★★★★
[著者:有沢まみず/イラスト:若月神無/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
あとがきでも触れられてますが、男色・○○○・同人オタコスプレ・バレンタインのネ
タ4発(○○○は読めば分かる)。今までの内容からしてこのシリーズにお上品さなんぞ
欠片も求めていませんが、巻を重ねる毎に下降の一途を辿る品性と反比例して増してゆく
下ネタっぷりは単なる開き直りかそれとも狙ってやってる潔さの表れか?
難しい事考えず素直に下品な馬鹿笑いを著者自身が非常に楽しんで書いていると感じら
れるので、個人的にはアレなネタがあったとしても結構楽しめてます。が、さすがに今回
の○○○ばかりは突っ走り過ぎなんじゃないのかと開いた口が塞がらなかったり(いや、
平然と笑って済ませられたらいいけど、バレンタイン以外はどれもこれも嫌悪して引きま
くる可能性の方が高い気がする)。まあ啓太が切実な苦悩の挙句に切羽詰った悲鳴を叫び
たくなるのも物凄くよく分かるけど、その辺のネタは平気だし所詮は物語の中の他人事な
ので存分に笑わさせてもらいました。
これまで何か犬神についてか犬神使いと犬神についてか、それともようこ自身か啓太自
身についてか、ハッキリ分からないけど漠然と曖昧に隠された謎みたいな表現が僅かなが
らにあったのですが、そんな雰囲気もほとんどなくてバカ騒ぎに終始してたのはむしろ素
直に楽しめて良かったかな。どうもシリアス展開になると歯にものが挟まったように曖昧
に描く癖でもあるのか、書き手は分かってていも読み手には伝わらない事が往々にしてあ
るので(しかもそれをなかなか明かしてくれない)。今回あえて挙げるなら、仮名と通話
してた時に感じた“啓太に向けられている薫の真意”でしょうか。そもそも薫自身がかな
り得体の知れない存在なので、もうちょい表に出て来てくれたらいいのになと。
今回はともはねが表紙だから前回みたくともはねメインの話を期待してたのにともはね
はちょこっとしか出てなかったので、「見た目で期待させといてそりゃないだろ」と少々
しょんぼり気分。ただ、元々そういう予定はあって立ち消えたわけはなく持ち越しという
事だそうなので、外された分の話は次回を楽しみにしてます。
既刊感想:1、2
2003/09/19(金)ルナティック・ムーン
(刊行年月 H15.09)★★★★
[著者:藤原祐/イラスト:椋本夏夜/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
第9回電撃ゲーム小説大賞最終選考で入賞逃した所からの復活作。崩壊した世界の復興
もままならず終始退廃的な空気が漂う中、巨塔に住まう純度100%の人間<純血種>に管
理された塔の最下層で、這うように住まう身体の一部に異生物の能力を有する<変異種>の
少年と、塔の上層で異形の生物を殲滅する任務を背負う少女の物語。
世界観も設定も雰囲気も、いつかどこかで見た事あるような感じは確かに少なからずあ
ったので、選考から洩れてしまったのはその辺の類似性が足枷となってしまったのか……
とは勝手な憶測ですが。ただ、たとえ似通っているものがあったとしても、じっくり時間
掛けての加筆修正の効果は作品の面白さに充分繋がっていると思う。
これはもうヤバげだなって匂いが最初に世界に触れてイルの雰囲気に触れた時点で既に
強烈にあって、読み進めてみて「ああやっぱりこんな展開なのか……」と打ちひしがれて
しまいました。嫌いなんじゃなくて、むしろ大好きです。それでも、掴み掛けていた平穏
な居所が呆気なく無残に散ってゆく様は本当にやるせない。どれだけ歯噛みして唇を噛み
締めても足りない程の憤りを、イルは事ある毎に痛めつけるようにそれを自分自身へと向
けている。物語の雰囲気に流されながら惹き込まれてしまう部分も多々ありましたが、痛
々しく突く刺さるような表現には総じてうまさが感じられたかなと。
イルを中心に「あの時こうしておけば良かった」とか、逆に「あの時こうしなければ良
かった」とか、他にも「何故あんな事をしてしまったのだろう」「出会わなければこんな
事にならなかったのに」など、感情の大小あれど主要キャラの誰もが思い返しては後悔ば
かりを繰り返す。読んでいても「何とかならなかっただろうか」「何とかして欲しかった」
とかそんなのばかりです。ただ、希望より絶望、喜びより悲しみがより多くを占めていて
鬱状態に陥りそうでも、物語の面白さ楽しさを確実に得られたのは、キャラクターの感情
描写が素晴らしかったから。誰もが非常に良くて甲乙つけ難いですが、個人的には結局一
人で抱え込んでしまったシュシュの感情が一番印象に残りました。
ひとつ惜しいのは、物語の展開上どうしようもなかったけれど、イルとシオンの絡みが
終盤の死闘以外であまり見られなかった事(その数少ない共闘シーンは凄く良かった)。
もっと正確には彼女を始めフィオナ達『ウェポン』との関わりが少なかった事。特にシ
オンに関しては掴みきれてない部分もあるので見たいですよね、もっと色々。
2003/09/17(水)9S<ナインエス>
(刊行年月 H15.09)★★★☆
[著者:葉山透/イラスト:山本ヤマト/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
狂人天才科学者の残した超科学遺産を狙う武装集団に乗っ取られた海上密閉型環境施設
「スフィアラボ」を奪還すべく、誰もが恐怖する犯罪対策部隊の天才的少女と隠れた狂気
を内包する少年の奇妙な出会いから協力して戦いを挑もうとするもの。
あちこちから色々と要素を引っ張り込んでじっくりかき回して成熟させている風な印象
で、結構欲張っているように見えて、キャラクターもストーリーもSF設定もアクション
もどれも一つ一つが丁寧に描かれていて好感触。大抵あれもこれもと欲張ると何かが物足
りなくなってしまうものなんですが、そんなのもほとんど無くて楽しめました。
何と言っても目に見えて強烈なのは由宇の異質さがダントツ。異彩を放っている最たる
ものは血筋と圧倒的な特殊能力、置かれている状況や扱われ方なんかも普通じゃなく、そ
れら全てを自覚しているから警戒、嫌悪、蔑み、見下し、無反応と言った感情でしか他人
との接し方を知らない。そんな由宇の中での一番の見所は、闘真と関わる事で感情に変化
を生じさせてゆく過程。8〜9割は驚異的な頭脳と戦闘能力を誇る畏怖の対象故にあんま
り嬉しくない性格してますが、元々美貌の持ち主なので稀に闘真と接して年相応の女の子
らしい表情をする時は破壊力抜群で凄く可愛く見えてしまいます。本人自覚に乏しいけど
麻耶と火花を散らしてる時なんかも。普段感情乏しくぶっきらぼうなのがたまに無防備に
なると違って映るってのはお約束事とも言えますが。
ただ、敵方がやけに弱っちくないですか? と抱いたので少々躓いたりも。これは裏を
返せば由宇の強さが他を寄せ付けないくらい際立っているわけですが、それにしたってこ
とごとくあっさりやられてる様は見せ場無さ過ぎなんじゃないだろうかと。アクションシ
ーンも一つの大きな見せ場だったと思うので、突き抜けた個性を持つ敵キャラに由宇を苦
しめて追い詰めるだけの機会が無かったのは少々惜しい気がしました。
終わり方はこれと違う想像をしてたのですが、上手くまとめられた締めで良かったと思
います。しかしこれは続くのかな。確かに峰島と真目の確執や闘真が過去に起こした惨劇
などは断片的だったので、まだまだ描いて見せて欲しい所ですが、一応この巻だけでも奇
麗に終わっているし……どうだろう? 気持ちとしては続き読みたいけれど。
2003/09/16(火)DADDYFACEメドゥーサII
(刊行年月 H15.09)★★★☆
[著者:伊達将範/イラスト:西E田/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
メドゥーサ編2巻目。長いブランク明けで、最初から主役脇役合わせてかなりの人数が
登場していて、バラバラの行動を順次追い続けてる為に場面転換が目まぐるしく、おまけ
に400頁費やして描かれたのはほんの導入部分までで、しかも本来このシリーズで最も
ウリにしている筈の年の差9歳の父娘・鷲士と美沙と、二人に深く関わる美貴や樫緒の絡
み具合もまだまだ本領発揮しているとは言えない。
これらは意外と苦戦が見られた前巻での感想。全ての要素で「これは面白い」と言える
までの確かな感触を掴み切れなかったのが正直な所で、それは本編が盛り上がる以前の助
走段階だから不確定事項が多かったり、全ての動きを追おうとした場面転換の多用が逆に
足枷となり振り回され過ぎて把握し切れなかったり、序盤から大量投入しているキャラク
ターの特徴や誰が何の目的で動いているかも捉え切なかったり……と影響は様々。
しかし今回、頁数を多く使って描写してくれているお陰かようやく個々のキャラクター
の特徴や思惑などが悩まず理解出来るようになったし(特に鷲士達と行動してる軍隊関係
の方々、最初の内は名前と特徴が全然一致しなかったです)、現在世界と異世界アトラン
ティスとにまたがるストーリーの全容も徐々に明るみに出始めて来たので、イマイチだっ
た前巻の不足分は取り戻して不満も随分解消されたかなと。
次に繋がる何かはあったかも知れないけど、基本的に『冬海の人魚』までは1冊完結形
式だったので、メドゥーサ編のスケールの大きさはちょっと予想の範疇を越えてました。
今回もどどーんと400頁強なのに、全体の半分程度しか進んでないんじゃないかと言い
たくなるような内容だったし(この分だと3巻目では終わらないような気がする)。もっ
とも、これだけのキャラクター達を薄っぺらくならないよう丁寧に描いていると思えるの
で、多少のゆったりな進み具合ならば許容範囲かな。
何よりの収穫はタイトル『メドゥーサ』の意味が分った事でしょうか。その名が付いた
由来までは語られてなかったですが、異界面で行動する本当の意味と現実面で起こってい
る惨事とを結ぶ接点になるほど納得。問題は片方の世界で起こった事がもう片方の世界に
どう影響を及ぼしてゆくのか。特に脳裏に焼き付いたのは、終盤の鷲士の姿と僅かに触れ
られた樫緒の兆候。面白さは確実に上り調子なので次も期待してます。
既刊感想:メドゥーサI
2003/09/15(月)護くんに女神の祝福を!
(刊行年月 H15.09)★★★☆
[著者:岩田洋季/イラスト:佐藤利幸/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
容姿端麗でビアトリス制御という専門分野において世界的なエキスパートでやや難あり
の破壊的性格を持つお嬢様が、普段の素行からは絶対考えられない程の純情さを露わにし
ながら、とりたてて笑顔くらいしか特徴のない男の子に恋してしまうお話で、何にも考え
なくても自然にすぅ〜っと頭の中に入ってくるような実に分り易いストーリー展開。
もっとも、単純明快であるからこそ何を書きたかったのかがストレートに伝わってくる
わけで、護と絢子の恋模様を描く唯一点だけはたとえ他の要素を犠牲にしてでも納得ゆく
まで追求しようという姿勢の表れが強く感じられて凄く良かった。それまでの二人の歩み
全てがエピローグの為に費やされているんだなというのがよく分かります。
誰に対しても冷淡で破壊的な凶暴性を示して恐れ遠ざけさせているのに、護を前にする
と心の制御が利かずにあたふたと焦って赤面するだけになってしまう絢子が可愛くてしょ
うがない。それと同等に最初はまるで果たし状のように一方的に想いを突きつけられなが
ら、周囲に弄ばれつつ自分の気持ちに真剣に向き合おうとする護も可愛くてしょうがない。
そして「これこそが親愛の証」と言わんばかりにからかい続ける摩耶、汐音を始めとする
生徒会の面々が楽しくてしょうがない。とにかく行動の一つ一つを追ってるだけでも面白
く、キャラクターの魅力が非常にうまく引き出せてるとな感じさせられました。
護と絢子の初々しい触れ合いの数々について。周囲のちょっかいを出しまくりに少々流
されているような印象があってか、得たものとしては読んでる方が悶えるような恥かしさ
よりも生徒会のバカ騒ぎに便乗した楽しさの方が大きかったです。なので、まだ正式な恋
人同士の手前だったし取り巻く状況もこんななので無理そうだと分っていても、もっと二
人きりになれるの時間を設けて護と絢子のいちゃつきっぷりを見せて欲しかったなと。
あとは絢子が護を好きになった事。理屈の通用しない一目惚れに対して特に理由を求め
ようとは思わなかったですが、好きになる上で決定的な切っ掛けかイベントか何かがあれ
ば説得力は増してたような気もします。逆に護の方は、彼の成長過程から絢子を想う気持
ちの変化をしっかりと描いてくれていたので文句なしの良さでした。
これで終われば奇麗なゴールとなりますが、まだ続きそうな感じなのでスタート地点に
立ったと見た方がいいのかも。まだ詳しく触れられてない部分も、幼少時代の護を救った
人物と連れの少女の事、絢子の家族の事、絢子と死闘を演じたと言われてる《プロセイン
の魔王》の事など色々あるので、護と絢子の恋愛を軸にどう描いてくれるのか楽しみ。
2003/09/14(日)ワーズ・ワースの放課後
(刊行年月 H15.09)★★★☆
[著者:杉原智則/イラスト:瑚澄遊智/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
日常生活で当り前のように繰り返される目覚めと眠りの中で、舞台が違えば役割も違い
周囲を取り巻く環境も何もかもが全く違う、現実世界と夢の中のファンタジー世界を行っ
たり来たりする物語。来月刊行のIIと合わせての前後編構成で、今回は現実と夢の繋がり
に関して謎を提示するだけしてみせて、種明かしは次巻へ持ち越しと言った具合。
どうも現実世界と夢世界の絡まり方が単純明快にとはいかないようで、次への伏線とし
て紐解くヒントなどが物語のあちこちに転がってます。ただ、核心に触れるよりはかする
程度の小さなヒントの方が多いので、読んでる間に欲求不満が募る事募る事。
まあこれは展開上仕方のない事かも知れないけれど、本当に面白いかどうか判断すべき
は次巻を読んでからとなりそうです。とりあえず今回だけで興味を引かせてくれる要素は
色々残してくれたと感じられたので、前半戦での掴みはこれくらいでも充分。
何の前知識も抱かせないままで序盤からいきなり夢世界に放り込ませてしまう辺りは、
その突き放し方がちょっと入り込み難さを招いてるとも捉えられます。が、これは自分の
身に何故こんな事が起こっているのか全く理解出来ずにいる誠の心境そのもので、特に夢
世界で分からない事だらけな誠の心境と同調出来てしまえる描き方はうまいなと。
今の所、読んでいて肩入れしたくなるのは断然現実世界の方。神谷がああなって誠と智
子の関係はどうなるってのも気になりますが、最大の関心は誠以外で現実世界の誰が夢世
界に関わり影響を及ぼしているのか? 最初はキャラクターがリンクしてるのだろうと思
ってたのですが(例えば智子=サキとか)何だか全然見当違いらしく、それどころか正直
今回だけでは関わりがあるかどうかすら曖昧でよく分からなかったです。
誠にとって現実と思っている世界は本当に現実なのか? 逆に夢と思っている世界は本
当に夢なのか? 彼の中で二つの世界の境界線が徐々に薄れている辺りが妙に気になる。
誠と智子と神谷の3人で遊んだ幼少時代の映像も、誠の母親が精神病に冒されながらう
わ言のように「誠を返して」と追い求めているのも、きっと何らかの意味を持つ“謎解く
鍵”ではないかと思う。しかしここがハッキリ掴めないから、読んでいてかなりもどかし
く感じでしまったのも確かなので、どうまとめてくれるのか続きが待ち遠しいです。
2003/09/13(土)シンフォニア グリーン 千年樹の町
(刊行年月 H15.09)★★★☆
[著者:砦葉月/イラスト:秋津たいら/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
実に1年8ヶ月ぶりの続編となる、あらゆるものが植物によって形作られている世界を
描いたハートフルファンタジー。前回の主人公、植物に関する様々な仕事をこなす『プラ
ントハンター』リィンは今回準レギュラーで、千年樹の町を作る為に元となるその種を植
える場所を探して旅を続ける守族の少年エンが主役の物語。
しかしさすがにこれだけ間が開いてしまうと、前巻で得た手応えもあんまり残ってませ
んでした。徐々に「そういやこんな風に表向き相手を突き放すような性格だったな」と読
み進めて思い出すまでは、リィンの性格さえ「こんなだったっけ?」と首を傾げる始末。
当然リィンと弟子のクウ以外に誰が再登場してるのか大して覚えてるわけもなく。ただ、
『千年樹の町』ってのは触れたような気もするので、もしそうだとすると今回は千年樹の
町が作られる前だから時間的には前巻より過去の話になるのかな?
リィンが旅先で植物を介して様々な人々と触れ合う様子を描いた連作短編形式の前巻と
は違い、今回は千年樹の種を植えるまでの旅を描く長編ストーリー。どこに種を植えれば
最も良い結果が生まれるのか? そしてエンが千年樹の町を統治してゆく立場に置かれた
時、一体何をどう導いてゆけば良いのか? 決めかねてはその先の事で葛藤を巡らせてし
まうけれど、出会いと別れを繰り返し多くの人から色々な経験を貰って心の成長を遂げて
ゆくエンの姿が実にいいなと感じられる描写でした。
ちょっと惜しいと思ったのは、エンを狙う敵の正体が何なのかよく分からなかった事。
途中で姿を消してから、結局意味深な発言だけ残して曖昧な扱いのまま終わってしまった
という印象だったので、せめてもう少し絡ませて終盤まで引っ張ってくれてたらなと。
雰囲気は終始穏やか。戦闘描写もそんな感じなので捉え方によっては起伏が弱くて手応
えが伴わないとなるかも知れないけれど、それも物語によく合った暖かさと柔らかさと言
い替えてしまえる。派手さはなくてもじんわり染みてくるいい話。何より“植物で形成さ
れた世界”という発想がこの作品ならではの大きな武器だと思います。
あとがきで一旦お休みとあったのが残念。いずれまた別のエピソードを描いて欲しい。
既刊感想:シンフォニア グリーン
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