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12/20 『がらくたのフロンティア』 著者:師走トオル/富士見ミステリー文庫
12/19 『GOSICK―ゴシック―』 著者:桜庭一樹/富士見ミステリー文庫
12/19 『パズルアウト』 著者:深見真/富士見ミステリー文庫
12/17 『イレギュラーズ・パラダイス 赤い童話のワールドエンド』 著者:上田志岐/富士見ミステリー文庫
12/16 『かりん 増血記1』 著者:甲斐透/原作:影崎由那/富士見ミステリー文庫
12/15 『マルタ・サギーは探偵ですか?』 著者:野梨原花南/富士見ミステリー文庫
12/14 『バイトでウィザード 魔法使いで一攫千金!』 著者:椎野美由貴/角川スニーカー文庫
12/13 『つっぱれ有栖川』 著者:ヤマグチノボル/角川スニーカー文庫
12/11 『純情FBA!』 著者:野島けんじ/角川スニーカー文庫
2003/12/20(土)がらくたのフロンティア
(刊行年月 H15.12)★★★
[著者:師走トオル/イラスト:藤原々々/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】
月刊ドラゴンマガジン誌上企画『第6回龍皇杯』エントリー作品。
……もう言及しないつもりだったけど、この作品には是非とも言いたい。これ一切ミス
テリーしてないよ! 無理矢理挙げるならクーナの存在がミステリー……何だか言い訳し
てるみたいで苦し過ぎる。どこをどう見てもファンタジーな内容を富士見ミステリー文庫
で刊行する意味がサッパリ分からない。むしろこれは富士見ファンタジアで出した方が余
程合っていると思うんだけど。一々喚き立てるのは大袈裟なのかも知れないですが、仮に
も“ミステリー”文庫で中身にそれらしい要素が皆無ってのはさすがに拙いでしょうよ。
まあ百歩譲ってその辺に目を瞑るとして、話自体が面白ければそれなりに補って持ち直
してる所だけど、その内容にもあんまり目を引くような点を見出せなくて。キャラクター
もストーリーも世界観も行儀良く既存に沿ったものが描かれているので、印象としてはど
うしても「類型的でありがちでどこかで見た事があるようで」という風になってしまう。
決してダメな訳ではないんだけれど、欠けているのは多分既存を突き破るだけのこの作
品ならではの“何か”。そういった要素は、59年前の一切の記憶が存在しない謎《深遠
なる忘却》や《異形の敵》がクーナに引き寄せられる謎などに含まれていそうな気もする
のですが、何せ1巻目だけではほぼ全てが「不明」「分からない」だけで済ませられてい
るのでどうにもならない。面白くなりそうな予感を抱いたままで面白くなる前に終わって
しまっているのは惜しい。ただ、次巻以降でこの何一つ明かされてない様々な謎が徐々に
解かれてゆけば、出遅れた分の巻き返しも充分期待できるかなと思います。
クーナが言葉を話せないハンデを背負っているせいか、アヴィンが彼女と心を通わせ触
れ合う描写は少し弱かったかなぁ。この話の展開だと“最初にアヴィンがクーナの危機を
助けたらしい→お互い惹かれ合っている状態”で過程の部分が結構すっ飛ばされているよ
うな気もするんですよね。アヴィンがクーナの為に奮起する行動力と同等に、アヴィンと
クーナが向き合った時のお互いの気持ちをもっと深く描いて見せて欲しかったなと。
2003/12/19(金)GOSICK―ゴシック―
(刊行年月 H15.12)★★★★
[著者:桜庭一樹/イラスト:武田日向/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】
月刊ドラゴンマガジン誌上企画『第6回龍皇杯』エントリー作品。
最初の事件を切っ掛けに本編のメインとなる大きな事件――十年前の怨念がこびり付い
た豪華客船での復讐劇へと発展する二段構えな仕組み、十年前の惨劇と今この呪われた船
上で起こっている惨劇とを密接に結びながら交互に描かれてゆく展開、中途で比較的楽に
解けはしたもののちょっと一捻り加味されている真犯人。これらの内容に触れてみた所、
ストーリーの組み立てがなかなかに秀逸で面白く仕上がってるなと感じさせられました。
序盤から中盤にかけては、十年前を描いているモノローグ部分が「一体誰がどんな状況
でこれは現在のどの部分と繋がっているのか?」と手探りな感触で、先への興味を惹かせ
るものかそれとも単に分り難いだけなのか半々と言った印象。でも徐々に過去と現在の関
係が光に照らされてゆくにつれて分り難さってのは自然に消し飛んで、あとはうまい具合
にぐいっと惹き込まれる興味だけが残って最後まで後押しをしてくれました。
扱われてる謎やトリックなどはあまり頭を捻らすようなものではないので、そっちのジ
ャンルで眺めてみても色はそれ程濃くないです。むしろかなり薄味。特に惜しいなと思っ
たのは、随分あっさり犯人候補者数が少数に絞られてしまった点。もっと疑心暗鬼に駆ら
れながら一人ずつ犠牲者が増えて……な展開だったら更に好きになれたかなぁと。もっと
も、過去と現在の交錯を主軸に置いて深く書き込んでいる様子なので、現在部分の殺人事
件を盛り上げようとする意図は最初からあまり抱いてなかったような気もします。
強いのはミステリーの印象よりキャラクターの印象。曰くありげな探偵役の金髪ゴスロ
リ美少女ヴィクトリカ、纏う雰囲気はどこか稀薄さを漂わせているのに圧倒的なこの存在
感はどうだと言わんばかり。外見と内面のアンバランスさがまた堪らないとなるんでしょ
うかこれは。逆に一弥の助手的立ち位置の地味っぽさも気苦労の数々と一緒に悲しいくら
い滲み出てますが、それなりに役得もあるのでいいんじゃないのかな。稀に普段の変人染
みたヴィクトリカにすがるような弱々しい一面を見せられたりすると、疑問視しながらも
ぐっと彼女の魅力に惹かれずにはいられない一弥の気持ちも凄く良く分かる。
ちなみに、本編で少しだけ触れられているヴィクトリカと一弥の出逢いに関係するエピ
ソードも↓の「パズルアウト」と同様に龍皇杯エントリー作品としてドラゴンマガジンに
掲載されてます。だからまたもやそっちを先に文庫で読ませてくれよーでしたが、やはり
時間的には龍皇杯エントリーの方を先に読んだ方が繋がり易いかなと。
2003/12/19(金)パズルアウト
(刊行年月 H15.12)★★★
[著者:深見真/イラスト:武田みか/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】
月刊ドラゴンマガジン誌上企画『第6回龍皇杯』エントリー作品。
心理学の理論を用いて心に重傷を抱える人に“目に見える形で”治療を施す能力を持つ
少年と、腹話術人形を介してでなければまともに他人とコミュニケーションを取れない少
女の物語。特に心理学関連に対しては、描きたい事を思うように描きたいだけ描きまくっ
ているような印象。もうこれだけ他の誰も真似しないような独自の“色”を出しつつ作中
で大暴れしてくれると清々しい気分。心理学の観点から描かれている事は結構興味深さを
覚えたのですが、城址郎の薀蓄の数々とか治療の際の術式言語とかをまともに読解しよう
と頑張ると頭からぷすんと煙が出ます。こういうのがやりたいんだ! というのは本当に
ひしひしと伝わってくるのに、理解させる気があんまりなさそうな所で引っ掛かる。
事件的には割とシンプル。面倒臭いのは「連続自殺の謎を追う」という背景から、これ
に関わる人達の心を超能力的なもので治療し解決に導いてゆく辺り。小難しい要素をごて
ごてとくっ付けてるもんで、煙は出るわ妙に疲労も溜まるわでどうしようかと思いました
が、部分的には思わずぐいっと惹き込まれ掛けた箇所もあったのでダメだとか嫌いとかっ
てのとは少々違う。もうちょっとこう面倒なのを何とか噛み砕いて導いてくれてたらなぁ
という感じで。まああえてそうしないから持ち味が発揮されてるとも言えるのかな?
心が病んでるのは治療対象者よりも城址郎と奈々の方がより深そう。2人の関係は微妙
なバランスを保ちつつ空気はそれ程悪くない。最も似合いそうな気がするのは『同志』。
異能力の発現条件はハッキリ描かれてないので不明だけど、憶測で何か心に大きな病を持
つ者の方がそうなり易いのだろうかと。常識的な精神では他人の病んだ心に踏み込んで治
療するなんて到底及ばなくて、だから城址郎や奈々にはその資質があるのかも知れない。
ちなみに、本編で幾度か触れられている城址郎と奈々が関係を持つ切っ掛けとなった、
奈々の幼馴染み・風間恵子を城址郎が治療したエピソードは、龍皇杯のエントリー作品と
してドラゴンマガジンに掲載されてます。話を持って来るならそっちの出会いの方が先だ
ろーとか思いましたが、流れとしては龍皇杯の短編を先に読んだ方がいいのかも。
2003/12/17(水)イレギュラーズ・パラダイス 赤い童話のワールドエンド
(刊行年月 H15.12)★★★☆
[著者:上田志岐/イラスト:榎宮祐/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】
月刊ドラゴンマガジン誌上企画『第6回龍皇杯』エントリー作品。
廃館の危機に瀕する貧乏図書館ケリポットを舞台に、人間のダメ館長と“マガイモノ”
と称されるしっかり者の人工精霊達が、図書館の会員獲得と赤い童話に秘められた謎を巡
って騒動を繰り広げるお話。まずはレクト館長やマガイモノの少女ヒャッカにリーフ、古
参のコンラッド等が住むケリポット図書館。会員少数のわりに随分底の知れなさそうな地
下書庫からは圧倒的で濃密な本の“匂い”がむわ〜っと漂って来るという雰囲気があり、
この閑散としながら奥深い館内の描写は凄くいいなと感じました。
読みながらふと「これってもしかして本好きにはもの凄く堪らないシチュエーションじ
ゃないですか!?」と考えたりもして。とぼけたものぐさ館長とか、そんな彼に殴る蹴る
の突っ込みを入れつつ心底では揺るぎない信頼を寄せているマガイモノの少女とか、他に
も明るくで能天気なマガイモノの少女や博識で穏和なマガイモノのおじさんなど、キャラ
クターの見せる表情がとにかく実に楽しい。本を読むにはヒャッカの日常茶飯事な罵声が
ちょいと響くようだけど、勧められなくても会員になっちゃいますよ私だったら。更に館
内で暮せたら絶対退屈しないだろうなぁ……何か妄想ばっかり突っ走ってしまう。
図書館内での主にレクトとヒャッカのドタバタ劇は随分楽しませてもらいましたが、赤
い童話の謎と解答についてはもうひとつ足らなかったかな? 童話を欲するお子様が単に
駄々をこねたガキとしか映らなかったので(実際そうなんだけど)、秘められたものは非
常に強大なものであっても何となく尻すぼみに終わってしまったような印象。でかい思想
を語ってるくせにやたらと呆気なく、もう少し貧弱な存在感を立てた上でレクトの障害に
なって欲しかった。このお子様よりかは従者のレティの方が余程際立っていたし。
特に印象に残ったのはレクトとヒャッカの関係についての描写。お互い相手に向けてい
る本心が純粋に分かり易くて良いです。しっかり『LOVE』が盛り込まれてますよ。
今回だけではヒャッカを始めとする人工精霊の詳細、それから隠れた裏がありそうなレ
クトの素性などはあまり描かれなかったので、興味は次巻以降へと向けておく事に。
2003/12/16(火)かりん 増血記1
(刊行年月 H15.12)★★★★
[著者:甲斐透/原作・イラスト:影崎由那/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】
影崎由那さん原作コミックのノベライズ版。原作5話と6話の合間に入る小説オリジナ
ルエピソードだそうなので、先にコミックの方を読んでからこっちに手を出した方がより
楽しめるのかも知れない……と気付いたのは本編終わって最後にあとがき読んだ時で、私
はコミックには全く触れずに小説先行でこの物語に入りました。
そういう状況で感じた事、これは原作に触れてなくても全然いけます。おそらく原作未
読か既読かでキャラへの思い入れの強弱は結構出るかと思いますが、小説版からでも一風
変わった設定の吸血鬼ラブコメストーリーとして、ほとんど足枷もなくすんなり浸り込め
る。むしろ先に小説読んで「コミックでは果林や健太ってどんな風なんだろう?」と、強
烈に原作へと興味を惹かせるような要素を存分に詰め込んで見せてくれた内容。
果たして原作の魅力を損なう事なく描けていたかどうか? そう言った意味では残念な
がら片方が欠けているので今の所比較出来ませんが、得られた手応えは好感触。きっと原
作の持つ雰囲気を大事にしながら小説で更にプラス効果が働いている事でしょう。
体内に血を製造して他人に分け与えなければとんでもない事態に陥ってしまう、吸血鬼
なのに増血鬼な少女かりん。この吸血鬼の基本設定に真っ向から喧嘩売ってるような設定
は実に面白い発想で大好きです。しかしそれより何より声を大にして、真紅果林という増
血鬼少女がとにかく可愛い凄く可愛いめちゃくちゃ可愛い! これだけでもう充分。
あとがきでの熱い語りも果林への力の入れ様を物語っていて、これだけ思い入れが強い
なら可愛く描けるのも納得。意識すると果林の血が騒いでしまう相手の健太は、目付き悪
いけど果林を大事に想ってる辺りがうまく表現されてるなと。お互い明らかに好き合って
るのに、果林の増血症状のせいでなかなか円滑ならない関係も微笑ましくて良い感じ。
小説は続刊も予定されているようなので次も楽しみです。その前に原作も読まないと。
2003/12/15(月)マルタ・サギーは探偵ですか?
(刊行年月 H15.12)★★★
[著者:野梨原花南/イラスト:すみ兵/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】
“強制的に事件を終結させる能力”ってのは、即ちこの物語は推理と謎解きの醍醐味を
最初から放棄しますよと言ってるようなものですか? タイトルで問われてるので逆に問
い掛けてみたい。鷺井丸太=マルタ・サギーの姿から映された性格仕草言動その他色々を
眺めてみると、ああ成る程この特殊能力は彼にピッタリだと妙に納得させられる。
しかし、いくら切り札と言えども探偵役を背負わせるのにこの特殊能力はどうか。もう
形作られた設定にケチつけても仕方ないんだけれど、たとえどんな事件が起こって様々な
推理の状況から真相までの過程を辿ったとしても、これでは結局最後はマルタ・サギーの
思うがままに強引に解決へと導かれてしまう。それがどれだけ理不尽な内容であっても。
だからマルタ・サギーが探偵役として文字通りの『切り札』を発動させた時、積み上げ
た物語を根底から破壊しかねないリスクも同時に背負う事になりそう。そうはさせずに、
どうにかこの厄介な能力を工夫して面白くなるよう描く役割こそ書き手の担うもので腕の
見せ所だと思うのですが、今回限りでは事件に対して特殊能力の干渉が、力押しで進める
ような危惧ばかりを抱いてしまったので、かなりイマイチ感が付きまといました。
更に世界構築とマルタ・サギーの思考がサッパリ訳分からんなので、上のと合わせてダ
メージ増大。割と簡単に現実世界に戻れそうなので異世界転移とはまた少し違うような、
でもオスタスに探偵業として腰を据えるようなので異世界紀行というのも何か違うし。そ
もそも序盤に出て来た『カード戦争』って項目は一体どうなったのか? どうも全体的に
ドタバタしてて落ち着きが無さ過ぎな印象で。今回は物語の世界と主な設定とキャラ紹介
のみなので次からは噛み合って来るのかな。凄い不安ばかりが先に立ってるけれど。
数少ないプラスポイントはアクや癖が強く好みの分かれそうな文章。随分ノリノリで楽
しそうに書いてるなぁと思いましたが、個人的には何となく嗜好に合ったようなので。
2003/12/14(日)バイトでウィザード 魔法使いで一攫千金!
(刊行年月 H15.11)★★★☆
[著者:椎野美由貴/イラスト:原田たけひと/角川書店 角川スニーカー文庫]→【bk1】
さて京介はこの中で何回溜息を吐いたでしょう……ふと思った事。
でシリーズ第4巻。今回はザ・スニーカーで連載されている京介と豊花の矯正術師研修
生時代の短編集。2人ともまだ中学生の半人前見習い真っ只中で、時間的には本編から数
年過去に遡った所からの騒動の数々が描かれてます。興味としては何年か前のこの双子に
ついて、性格的あるいは精神的に本編と違っている点があるのか。正確に言えば京介には
人間らしい反応が、豊花には自己中で金に溺れていない初々しさが、研修生時代にはまだ
残されていたのかどうか? 読んでみたらどっちも驚くほど何も変わってませんでした。
毎回近所に発生した“澱み”の矯正を課題として提示され、双子コンビが解決に赴いて
は失敗を繰り返してしまうのが大抵の流れ。失敗と言うよりは、矯正事態は成功しかけて
いながら他に余計な騒動を起こして不可を喰らう(主に豊花の言動が原因で)のが詰めの
甘い2人らしく。この辺のスマートに解決出来ない部分なんかも現行の本編と何ら違いは
見られず、要するに過去から今に至るまであんまり成長してないのかおまいらは。
もし京介にもう少し人間らしい感情的な面がれば、豊花にもう少し自分勝手気ままを控
えた可愛らしさがあれば……こんな事を京介じゃないけれど溜息吐きつつ時々思ったりも
するわけですよ。過去を覗けばもしかしたらそう言った仕草が窺えるかも? なんて読む
前に抱いていた淡い希望もあっさりさっぱり綺麗に流されてしまって。
もっとも、4巻まで来たらいい加減この人間的にどうかと問いたい性格も行動も発言も
すっかり慣れた為、逆に無気力京介に自己中豊花じゃないと違和感を覚えてそうな気もし
ますが。それでも違った面を見れる可能性が高い過去編を楽しみにせずにはいられない。
話の内容としては正直どれも微妙。印象的で面白かったのを挙げるなら第2話。短編新
キャラの瑠々を前面に押し出して使って欲しかったのが大きくて残念な所。瑠々の言動に
は豊花も度々翻弄されているので、もっともっと色々と物語を引っ掻き回す存在になって
くれたら良かったのになと。研修生時代はまだ続くようなので、その辺は次に期待。
既刊感想:流れよ光、と彼女は言った
滅びよ魂、と獅子はほえた
蘇れ骸、と巫女は叫んだ
2003/12/13(土)つっぱれ有栖川
(刊行年月 H15.07)★★★☆
[著者:ヤマグチノボル/イラスト:有馬啓太郎/角川書店 角川スニーカー文庫]→【bk1】
学園熱血スポ根ストーリー。とある道の天才少女が廃部の危機に追い込まれたへっぽこ
弱小体育会系部の立て直しに一役買い、彼女の導きで弱小部員が徐々に強く逞しく成長し
てゆく姿を描いたもの。ここだけを取り上げた場合だと非常に王道で分かり易い内容とな
るのですが、全く普通じゃない大きな要素がひとつあって、これはタイトルにも含まれて
いる通り“女子相撲部”の物語。しかしまあよくこんな楽しい発想を捻り出して、しかも
小説のネタに使ってくれたこと。思わず拍手しながら有難うと言いたくなりました。
話の組み立てで別にそんなに奇抜な事をやってるわけではなくて、メインはありすと彼
女自身の都合先行なしごきに不満たらたらな3人のへっぽこ部員達との四人五脚。感情的
な衝突によって積み上げて来た信頼に亀裂を生じさせ、挫折と迷走と葛藤と苦悩をぐるぐ
る巡らせながら、それでもどうにかこうにかでこぼこな友情を作り上げてゆく。そんな所
がキャラクターの個性を活かしつつ実に活き活きと良い感じに描かれている。
ポイントは女子相撲部活動を通じてやらかしている点。何の変哲もない普通の部活動だ
ったらここまで響かないし印象にも残らなかっただろうなと。ホントにこの材料を使用し
てるだけで「どうだまいったか」と容易く勝ちを得ているように思えてしまう。
惜しいなと感じたのは相撲の取組みの描写が割とあっさりしていた事。あんまり専門的
に深入りした濃さになっても付いていけなさそうな気はしたけれど、せめて親善試合のシ
ーンだけでもありす以外のキャラの見せ場をもう少し入れて欲しかったかも。まあ元々相
手との実力差が開き過ぎなので、僅かな見せ場を作る事さえ厳しいだろうなとは充分承知
してますが。ただ、目指すべき親善試合に至るまでの練習風景は見所が多く楽しませても
らいました。せいらが倒れた際のありすと三枝の衝突とか、ありすがシャネルの5番と対
峙して感情に揺らぎを見せたりとか。特に強く惹き込まれたのはその辺り。
2003/12/11(木)純情FBA!
(刊行年月 H15.07)★★★☆
[著者:野島けんじ/イラスト:よしづきくみち/角川書店 角川スニーカー文庫]→【bk1】
裏表紙のあらすじや帯の作品紹介や登場人物紹介の位置付けなど、主に外側から得られ
る雰囲気と物語の内容に、これだけ差違が生じているものも珍しいのではないだろうかと。
多分誰が外側を眺めても“必死こいて好きな娘への想いを綴ったラブレターを渡して告
白してやるぜ!”と一大決心抱いた思春期少年の恋愛ストーリー、って単純に思い込んで
しまうでしょこれじゃ。でも中身を読んだらああ勘違い、実は過去と現在を絡めて描かれ
ている脇役っぽい女性2人の友情劇が主軸。予備知識込みで挑んだら絶対引っ掛かる、と
言うよりもわざと読み手を引っ掛けようと狙ってやってるようにしか思えない。そんな意
図なんかなくて大真面目にやってるんだとしてら、ちょっとおかしい色々と。
ストーリー以外の所では慎が主人公で青葉がヒロイン、そして2人の恋愛模様を見せて
ゆくんだと全面的にアピールしているのに、肝心のストーリーは姫と皇乎の触れ合いを濃
密に描いている。だからどれだけ控え目に見ても、このキャラクターの位置付けは明らか
に姫&皇乎が主役で慎&青葉は脇役になってしまうんですよね。折角終盤でのラブレター
の使い方がうまいなと感じても、慎と青葉がメインに居ないのではやっぱり充分に活きて
来ない。こんな風に姫と皇乎のストーリーを重点的に描写するなら、もしかして慎と青葉
は別に居なくても良かった? と思わされるのはちょっと寂しいですよ。ベタになりそう
ながらそのテの恋愛ストーリーを想像してた身としては。結局は外側と内側のあまりのギ
ャップに呆然としながらその部分が大いに引っ掛かってしまったという事。
ただ上で何だかんだと愚痴ばっか零してますが、過去と現在を交互に絡めている構成や、
姫と皇乎の間に流れる関係を織り交ぜたストーリー展開自体は充分面白かったんです。特
に過去の部分で惹き込まれるシーンが多く、現在の皇乎と過去の貴湖と皇乎の間に敷かれ
た仕掛けなどは、現在過去の交互な構成も活かしつつなかなかうまく効いている。
あらすじも帯も少しはこっち(姫と皇乎)に触れてくれよ〜、そうすれば思い込みも勘
違いも少なかっただろうに〜。面白いけど微妙だったのは全てこれのせい。ああもう。
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