NOVEL REVIEW
<2007年10月[前半]>
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10/14 『遠まわりする雛』 著者:米澤穂信/角川書店
10/11 『クドリャフカの順番 「十文字」事件』 著者:米澤穂信/角川書店
10/09 『神様の悪魔か少年』 著者:中村九郎/富士見書房
10/05 『夜魔』 著者:甲田学人/メディアワークス
10/03 『赤朽葉家の伝説』 著者:桜庭一樹/東京創元社


2007/10/14(日)遠まわりする雛

(刊行年月 H19.10)★★ [著者:米澤穂信/角川書店]→【bk1】  <古典部>シリーズ第4巻。奉太郎を中心に、古典部メンバーが関わった幾つかの小事 件で一年間の流れを綴った短編集。謎解きのネタは『大罪を犯す』が一番好みで、ストー リー展開は『手作りチョコレート事件』と『遠まわりする雛』が甲乙付け難く好み。  こうして一年の時間経過を追ってみると、奉太郎の“省エネ気質”に僅かずつ変化が表 れてるかなぁと思う(奉太郎らしくあまり目立たず地味な変わり方だけど)。彼に影響を 与えているのは“古典部に居る千反田”であり、“千反田の居る古典部”である。間違い ない。『遠まわりする雛』の中で、奉太郎が千反田の十二単姿を目の当たりにしてからの 彼女を追う視線は、これまでとは明らかに違っていた。ただ、奉太郎自身がそういう気持 ちを持て余している感じで、表に出して表現する術が分からないって言うのかな? まあ あまりそっち方面には深く踏み込まない気もするんだけど、続く二年目を楽しみに待つ。  既刊感想:氷菓       愚者のエンドロール       クドリャフカの順番 「十文字」事件 2007/10/11(木)クドリャフカの順番 「十文字」事件
(刊行年月 H17.06)★★ [著者:米澤穂信/角川書店]→【bk1】  <古典部>シリーズ第3巻。文化祭。手違いで刷り過ぎた大量の文集を売り捌け! 目 指せ完売! を目的に掲げ、古典部メンバー四者四様。あの手この手で駆け巡る。目的は ひとつなれど、それを遂行する為の行動パターンがまるで違っていて、もろに性格出てる のが凄く面白い。一人称を四人に分けて描いている良さが随所に表れているなと。  んで、文集完売作戦と同時に描かれているのがタイトルにもある「十文字」事件。終盤 の鮮やかな謎解き、真相への導き。文集売り方面に関しては結構役立たずに見えていた奉 太郎だったけど、さすがに「十文字」事件の方面では見事な閃きで面目躍如ってとこか。  あとホロ苦いのはどの辺だ? と眺めつつ読んでたのだけど……あ〜これは確かにホロ 苦い結末だな。『期待』という言葉の使い方について考えさせられた辺りが印象深い。  既刊感想:氷菓       愚者のエンドロール 2007/10/09(火)神様の悪魔か少年
(刊行年月 H19.09)★★ [著者:中村九郎/富士見書房 Style−F]→【bk1】  様々な“悪意”を撒き散らしつつ、時効を目指し逃亡を重ね続ける少年のお話。とりあ えず読んだ感触として、前半部分が結構やばかった。いや、今ここで何が語られていて読 んでいる自分がどんな感情を抱いているとか、そういうのが全然把握出来なかったんだよ なぁ……。「こりゃ一種の麻痺状態なのか? 恐るべし中村九郎ワールド」とか何とか。  でも、何の意味があるのが理解不能な前半部の描写が、中盤以降になって次から次へと 見事なまでに意味が通るようになって思わず「すげー」と唸らされてしまった。トドメは 終盤での物語全体に満ちていた謎の種明かし。これには吃驚仰天。もう一度「すげー」が 口から漏れた。とりわけ悪事を謀る彰人に重く圧し掛かってくる、恵と友人達の歪んだ関 係を描く様は素晴らしく良かった。読後の後味は意外と……想像してたのとは違ってた。 2007/10/05(金)夜魔
(刊行年月 2005.11)★ [著者:甲田学人/メディアワークス]→【bk1】  『Missing』シリーズは、確か人間の側から異界に接触してゆく視点が主だと記 憶してるんだけど、対してこちらは異界に近い側から人間達に影響を及ぼす物語、という 印象。『Missing』と関連性があるのは中身読むまで知らなくて、神野陰之と中学 時代の十叶詠子が密接に関わるエピソードはどれもなかなか興味深くて面白くて。  しかし……「相変わらず」というのが褒め言葉になっていればいいのだけど、ぶあーっ と全身鳥肌総立ちな描写が多いよなぁ。更に救いようの無い結末ばかりだし。もっとも、 その“どうしようもない救いようの無さ”に身を打ちのめされるのが、この物語の醍醐味 であり旨味でもあるんだと思う(ぞくぞくするような快感を覚えるとこまで行ってしまう とちとやばいか?)。どのエピソードも良かったが、最も印象に残ったのは最後のエピソ ード。こういう経緯で神野と繋がり『Missing』の物語へと続いてゆくんだね。  2007/10/03(水)赤朽葉家の伝説
(刊行年月 2006.12)★★★ [著者:桜庭一樹/東京創元社]→【bk1】  祖母。母。わたし。旧家三代。壮絶な女の生き様。毎度毎度桜庭さんの作品を読んで強 烈に印象に残る事で、今回もその例に漏れずなんだけど……この人の描く『女性像』って やつは本当に凄ぇなと思う。どの主要女性登場人物にも“畏怖”の念を抱きつつ、気がつ けばいつの間にやら濃密なおんなの匂いに絡め取られぱくりと飲み込まれてしまう。  いや、まあ決して畏怖ばかりではないんだけど、大抵の男どもは多かれ少なかれ影響受 けて色々と人生の歩みを狂わされているよな〜と。それだけ女性達の存在感が圧倒的だっ たという事(瞳子に対してだけ共感を持てたのは、私の世代が近いせいなのかどうか)。  特に強烈だったのは母・毛毬の生き様。ただ、全体を通して最も心に沁み込んで来たの は、やっぱり祖母・万葉の生き様だなぁ。最後の謎解きがね、もう堪らなく良かったよ。


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