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08/20 『ポストガール2』 著者:増子二郎/電撃文庫
08/18 『学校を出よう!2 I-My-Me』 著者:谷川流/電撃文庫
08/16 『銀河観光旅館 宙の湯へいらっしゃ〜い!5』 著者:あらいりゅうじ/電撃文庫
08/15 『灼眼のシャナIV』 著者:高橋弥七郎/電撃文庫
08/14 『灼眼のシャナIII』 著者:高橋弥七郎/電撃文庫
08/13 『リバーズ・エンド5 change the world』 著者:橋本紡/電撃文庫
08/12 『DADDYFACEメドゥーサ』 著者:伊達将範/電撃文庫
08/11 『ブラックナイトと薔薇の棘』 著者:田村登正/電撃文庫
2003/08/20(水)ポストガール2
(刊行年月 H15.08)★★★★
[著者:増子二郎/イラスト:GASHIN/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
手紙というアイテムの仲介で様々な人達との触れ合いの積み重ねを経て『人間の心』を
理解してゆく、人型自律機械<メリクリウス>シルキーの郵便配達ストーリー。
今回は配達する手紙の中身以上に、配達先に居る受取人との触れ合いに一層の比重が置
かれているような描き方だなと感じました。短編の内容によっては“手紙<受取人との交
流”ではなく“手紙=受取人との交流”と、同等に手紙の意味の重さが大きく掛かってい
るエピソードもありますが(第七話:プリズナーなどは特に手紙の中身にこそ重要性が含
まれていたかなと)。自ら運ぶ手紙が新たな出会いの切っ掛けとなり、人と人との繋がり
一つ一つがシルキーの心の成長の糧となっている。この辺りは前巻でも実に良い感じで描
いてみせてくれていたのですが、今回その良い部分――シルキーが自分自身の心と向き合
い様々な想いを馳せるシーンは更に多くなっていたように思えました。
機械の身体にバグを抱き人間の心で行動する事を求めていながら、人間の感情がどうい
ったものか知り得ないので、じゃあ一体自分はどの感情で何をしたいのか……という思考
の深みにはまってしまう。元々が人型自律機械の感情故に比較的淡白な印象はあるけれど、
やはりシルキーの一人称が非常に効いていて、彼女の好感度上昇へと繋がってます。
シルキーは人間になりたい、あるいは人間の心を得たいと願っている訳ではないけれど、
こうしたい・こうでありたいと求める意思はことごとく人間のそれと重なってしまう。で
も、人間の行為とはこういうものだと理解出来ていても機械の身体に感情は伴わない。
人間のキスがどういう時にするものかは知っていても、人型自律機械同士では能力回復
の行為にしかならないし、人前で裸になる事で人間はどんな気持ちを抱くのか分かってい
ても機械の身にその感情は浮かんでこない。なのに理解はしてるから時折人間よりも凄く
人間臭い仕草を見せてしまう所もある。このシルキーの中での機械と人間と二つの感情の
同居生活みたいにせめぎ合う描写が本当にうまいと思う。
人と出会い経験を積み重ねてゆくシルキーの心は確実に人間のそれに近付いてますが、
もしも大きな変化が訪れるとしたら、それは彼女が誰かに恋をした時? まあ現時点では
予兆の欠片も感じられないですけど、今後も続くのであればいつか目覚めの時も来るだろ
ういう気もするんですよね。ゆっくりじっくりでいいから今後も続いて欲しいです。
既刊感想:1
2003/08/18(月)学校を出よう!2 I-My-Me
(刊行年月 H15.08)★★★★
[著者:谷川流/イラスト:蒼魚真青/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
見た目で『2』と続編扱いになってますが、主要キャラクターも舞台もストーリーも殆
ど一新されてるので、前作とは別モノで独立していると捉えてしまってもよさそうな内容。
繋がっているのは前作で重視されていたEMP能力と、宮野秀策&光明寺芽衣子の変人
コンビが再登場している点のみ。そのどちらの要素も今回の主人公・神田健一郎とは縁遠
く関連性の薄い存在な為、自然と続編感覚も薄く感じられるので、この2巻目から手を出
してもそれ程違和感は持参せずに済むのではないでしょうか。
もっとも、宮野&芽衣子の奇人変人ぶりや、宮野の口から前巻に登場した主人公や春奈、
若菜の双子姉妹に真琴の事などがちょっとだけ語られている辺りは、1巻目を読んでいた
らニヤリとさせられる事請け合いで一層楽しく読めるんじゃないかと思います。
今回は時間転移の多重奏とでも言うべきか、それぞれ3日後の主人公・神田A(Aft
er)と3日前の主人公・神田B(Before)が現在世界に転移して鉢合わせしてし
まう理解不能で不可思議な事件が発端となり、極めて不確かな状況を正確に把握する為に
悪戦苦闘しながら解決への道を模索してゆくという展開。
神田Aと神田Bと現在世界の神田N(Now)、時を越えてこの3人が同時間軸上に存
在してしまっているのは何故か? これが今回の話を引っ張る役目を担っていたわけです
が、イメージとしてはぐちゃぐちゃに絡み合う3本の糸が徐々に徐々に解きほぐされてゆ
くようなもの。結構パズル的要素を含んでいるように見えて、実はそれ程複雑ではないの
かも……と思えてしまうのは、導き手である星名サナエの誘導の仕方が巧妙だったからの
ような気もしましたが(神田A・Bも終始サナエにおんぶに抱っこ状態だったし)。
時間転移が発端で引き起こされた事件の発端から、こんがらがった糸を解いてゆくまで
の過程、そして最後に真相を語る種明かしまで、興味を持たせ引き込ませるような描写や
組み立て方が前巻よりもずっと上手く感じられて面白かった。時間転移の謎も明かされて
なるほどなと納得のゆくものであり、何よりエピローグのサナエの描き方が綺麗で良かっ
たと思わされたのが最も大きかったです。サナエに関しては何かあるのは明白だったけれ
ど、読了して凄く好きになれたキャラでした(“くふふ”笑いが何かいいなーとか)。
大きく2つ絡んでた事。片方は核心までくい込んでいたので最後まで目が離せずの盛り
上がりに対して、もう片方は「別に入れなくても良かったのでは?」と特別に必要性を感
じられなかったのは、なかなか美味しいシチュエーションだっただけに惜しい所。
既刊感想:1
2003/08/16(土)銀河観光旅館 宙の湯へいらっしゃ〜い!5
(刊行年月 H15.08)★★★☆
[著者:あらいりゅうじ/イラスト:みさくらなんこつ/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
また形式が連作短編に戻るのかと思いきや今回も長編ストーリーでした。最近はずっと
舞台が宙の湯関連に偏り気味で、“ルカと三助と宙の湯の愉快な仲間達”テイストなスト
ーリーが続いてたせいか、ルカや宙の湯が宇宙人関連である秘密を知らされてない三角関
係の一角を担う鬼姫夕子の扱いが随分蔑ろにされてたわけですが、今回はそんな彼女を救
済すべく綴られたもの。ちょっと忘れ掛けていた、元々このシリーズは学園モノのラブコ
メだったと言う事を思い起こさせてくれるような学園祭でのエピソード。
郷土史研究発表のネタとして浜木綿崎に伝わる夕子の先祖の鬼姫伝説を追っ掛けてるも
のなので、完全に本来主役の三助とルカの出番を食うように、夕子がこれでもかとばかり
に目立って活躍しまくってます。まあ最近めっきり活躍の場が狭められていたので、それ
を考えれば色々と遅れを取り戻す意味で納得の扱いではないかと思います。普段から男勝
りで気風が良いのに、いざ三助を好きという自分の恋に関しては非常に奥手な性格からは
なかなかの可愛さも垣間見れていいなと好感持てるキャラなのに、余り報われない上に出
番少ないのが不満だったりもしてたので、夕子が活躍してた辺りは満足な内容でした。
ただ、やっぱりと言うか何と言うか……三助、ルカ、夕子の三角関係の見せ方がぬるま
湯のような物足らなさで、ラブコメでジャンル張ってるのにそれの盛り上がりが極端に弱
くてイマイチ加減な所は相変わらず。ルカと三助の仲の良さを間近で見せ付けられても、
夕子の感情が全然昂ぶらないってのはどうかと思うのですが、もうルカと夕子の間には恋
敵と言うより仲間友達意識の方が強く定着してしまってるから仕方ないのかなぁ?
それならせめて良い感じで関係が出来上がりつつ三助とルカだけはもっと見せ場作って
くれよ〜! と言いたくもなるけれど、こっちもお互い相手をどう思ってるのかの感情の
動きに手応えがないのであんまり面白味が感じられないような気もするんですよね。次巻
は修学旅行って事で、転がってるネタは満載だろうから何とか不満感を飛ばして欲しい。
既刊感想:1、2、3、4
2003/08/15(金)灼眼のシャナIV
(刊行年月 H15.08)★★★★
[著者:高橋弥七郎/イラスト:いとうのいぢ/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
前巻ラストの臨戦態勢から、いきなりスタートダッシュが掛かって一気に加速してゆく
ような展開。あとはもう予想通りの『燃えパート』で、予想以上に戦って戦って戦いまく
って終始戦いを繰り広げてます。毎回の“フレイムヘイズ”対“紅世の徒”の激突(シャ
ナ対マージョリーというフレイムヘイズ同士の変則的な戦いなどもあったけど)だとして
も、巻が進む度にシャナの戦いに臨む心構えの変化や敵側の事情や思惑の違いによって多
種多様な戦い方を描いて見せてくれるので、そこからじわりと面白さが伝わってくる。
いつも戦闘描写が挿入されて敵対関係の構図は大体一緒。シャナの戦い方も基本的なス
タイルは余り変わらずなので、ある程度のパターンは型通りに決まってきそうなものです
が、そうはならずに状況や相手に応じての戦闘バリエーションを豊富に揃えている辺りは
本当にうまい。単調になりがちな所を面白く見せようとする意気込みが感じられて、やっ
ぱり戦闘描写はこの物語の要で良いなと言える要素だと思います。
見せ場は「どれも全部」と言ってしまいたくなるくらいに目の離せないシーンが多かっ
たです。シャナとソラト&ティリエルの戦いは、“紅世の徒”兄妹の姦計によってシャナ
が本気の危機に陥るのも珍しいなと思いつつ、それでもどこか揺るぎない絶対的な自信を
感じさせてくれる所は実にシャナらしく、決着つきそうで最後まで状況が二転三転する流
れに惹き込まれました。シャナが千草に尋ねた『キスとはどんなものか?』は、彼女が求
めていた答えとは全く違うものだったとしても、ソラトとティリエルの偏愛という1つの
形の中で何かしらを得られたかも知れない。“紅世の徒”の兄妹はその為だけに当てられ
たキャラというわけでもないのだろうけど、歪んだ愛の形を臆面もなくシャナへ見せつけ
る行為が、彼女の精神面に多大な影響を与えていたのは確か。吉田さんへも無事?宣戦布
告は済ませられたし、果たして悠二との接し方に更にどんな変化が見られるか?
もう一人のフレイムヘイズ――抜け殻のようだったマージョリーは最後に初登場時の豪
胆さを取り戻してくれたので完全復活……かな? ただ、自身を取り戻せるならこの展開
が最も有力だろうとある程度は想像出来てました(とりあえず田中と佐藤には良かったな
と言いたい)。前とは別の意味での強さを得た事で、前より確実に成長を遂げて強さを取
り戻した彼女が今後の戦いの場でどう活躍してくれるのかも興味深い所。
既刊感想:I、II、III
2003/08/14(木)灼眼のシャナIII
(刊行年月 H15.07)★★★★
[著者:高橋弥七郎/イラスト:いとうのいぢ/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
今回と次回と合わせての前後編構成。このシリーズは大抵見せ場となる大きな要素が2
つあって、1つはシャナの悠二に対する心情の変化から描かれる気持ちの揺れ動き――所
謂『萌えパート』。もう1つはフレイムヘイズであるシャナと、彼女が狩るべき使命を背
負う宿敵“紅世の徒”との、特殊性を含ませたやや変則的な戦闘描写――所謂『燃えパー
ト』となります(好き勝手に命名してますが、そんなに的外れな表現ではないかと思う)。
今回次回の前後編作の中ではかなりハッキリ役割分担が決まっていて、今回は“紅世の
徒”愛染他・ティリエル、愛染自・ソラトと“紅世の王”千変のシュドナイの暗躍による
激闘への準備段階。シャナも彼らと直接は衝突していないので戦闘の激化は次巻へ持ち越
し。というわけでこの巻に何があるのかと言えば当然残ってる方の『萌えパート』。完全
にこれでもかとばかりにシャナの“女の子としての”感情の揺らぎを描いてくれてます。
簡潔に説明するなら『シャナ対吉田さんの悠二争奪戦が本格的に勃発』な内容。当然注
目すべき点はそればかりじゃないですが、主軸になってるのは間違いなくこれ。しかも性
格的に見て、どう考えても一歩どころか十歩くらい身を引きそうな吉田さんがかなり強気
で圧倒的に押していて、逆に押しの強そうなシャナがこと悠二を巡っての戦いに関しては
怯みっ放しで引いてしまっている構図が実に面白い。
どうしてこうなってしまうのか? 吉田さんは自分の「坂井君が好き」な気持ちが自分
自身でよく分かっているのに対して、シャナはそれが一体どんな類の感情なのか持て余す
ように把握出来ていないから。揺るぎない想いを抱いている少女と揺らぎまくりで掴めな
いままの少女との違いを、そのまま力関係に反映させながら感情表現を描いてる辺りはも
う何とも言えない堪らなさで見事としか言いようが無いです。
ただ、たとえ吉田さんがシャナとの間で優位に立っていても、当の本人・悠二の気持ち
の傾き具合を見ていると、やっぱり幸せな結末を想像するのが難しくて辛いですね……。
他の注目。特に気になるのは背徳感漂う“紅世の徒”ソラト&ティリエル兄妹が目的の
為にどんな策を張り巡らせているのかと、ただの二人に従う護衛役ではなさそうなシュド
ナイの存在。願うのは気抜けで腑抜けた状態なままのマージョリーの完全復帰。印象に残
ったのはアラストールの親バカぶりと千草母さんとの意義ある“子育て論と恋愛論”会談。
戦いの準備過程で既にこれだけのものを見せつけらてしまったら、次巻は更に期待せず
にはいられない。本領発揮になるであろう『燃えパート』の戦いが非常に楽しみ。
既刊感想:I、II
2003/08/13(水)リバーズ・エンド5 change the world
(刊行年月 H15.07)★★★☆
[著者:橋本紡/イラスト:高野音彦/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
結局最終巻であっても、ずっと通して良いなと思えてた所は最後まで素晴らしく良かっ
たし、逆にイマイチだなぁと感じられてた所は最後までそれが払拭出来なかったです。
良い点は以前の感想でも散々書いて来たけれど、閉鎖的な空間に押し込められた多感な
時期の少年少女達の感情表現全て。『好意』という言葉を一つ取ってみても、仲間意識か
らであったり或いは恋愛感情からであったり、じゃあ仲間としてはどの程度で抱いている
のか、恋愛だったら片思いかそれとも両思いか、それは誰が誰に対してどれだけの気持ち
で向けられているのか……拓己、唯、七海、弥生、遙、直人、茂、孝弘の8人の中で、関
わり具合の深浅によって程度の差はあるにせよ、複雑多岐に渡る感情の触れ合い・交差・
衝突などの描写が非常に良くって本当に大好きです。
今回もまた唯が普通でない目覚めだった事に対して拓己が彼女に接する時の気持ちとか、
それを知っていてもどうしようもなく拓己の事を好きにならずにはいられない七海の想い
とか、意外な所で直人と遙の絡みなんかも含めて堪らなかったです。そんな関係がいつま
でも続いて欲しいという願望も、結末がやって来れば呆気なく散ってしまうもので、本当
に終わってしまったんだなと思うと同時に言い様のない脱力感に沈みました。
常にイマイチな点として引っ掛かり続けて来たのは大体『実験』に関係していたもの。
そもそもこの明らかに物語の核心であると分かってる事を、ひたすら見せずに秘匿し続け
ていたのが一番の原因。拓己達に繰り返し実験を強制させて来た目的と意味は前巻と今回
とでほぼ明かされていましたが、それに納得出来はしたものの受け入れられなかったのは
決着のつけ方の事。いや、納得はしてるんだけど……してるんだけど散々引っ張っておい
た挙句にこの締め方はどうなんだ? と首を捻り捻り考えてしまったわけです。
ただ、ちゃんとそれなりの答えを提示してくれた事に対しては満足してます。
後に外伝が出るかもとの事らしいですが、気になるのはいつ誰のどこの何を題材に持っ
て来るのか、という事。本編の結末なら、拓己と唯の未来は描き易いと思うし読んでみた
い気もする。予想として最も有力そうなのは終わってみても素性がよく分からなかった伊
地知、それから彼女と遙の関係についてでしょうかね。この辺は全て語られていたとは言
い難いので、深い部分を知る為にも詳しく見せて欲しい所。
既刊感想:1、2、3、4
2003/08/12(火)DADDYFACEメドゥーサ
(刊行年月 H15.07)★★★☆
[著者:伊達将範/イラスト:西E田/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
シリーズ第4巻。と言うにはあまりに前巻から間が開き過ぎていたので、3巻までを再
読しなければならない必要性を感じてしまうくらいに、内容をど忘れしてるんじゃないだ
うろか? などと随分おっかなびっくりしながら久し振りに触れてみた所、曖昧ながらも
キャラクターと相関関係に組織の名称などは案外覚えていられたみたいです。
まあ一番重要な要素として、鷲士と美沙が年の差9歳の実の父娘という無茶苦茶な設定
だけは忘れようにも忘れられないものだし、これに加えて鷲士にとって気になる存在であ
る麻当美貴が美沙の本当の母親なのだけれど彼はその事実を知らなかったり、さらに親子
関係は美沙だけに留まらず双子の弟・樫緒の存在があったり……この妙な家族関係が軸と
して根底に流れているのを把握していれば、多少記憶に欠落があっても物語に付いて行け
るでしょうか(それでも主要キャラ紹介やあらすじくらいは欲しかったですが)。
これまでは宝捜しやフェイスと対峙を繰り返すミュージアムの刺客との激しい戦闘の中
で、鷲士と美沙と美貴と樫緒の複雑な関係と微妙な心情を主に描いていたような気がする
のですが、今回は最初から各人が離れ離れで展開していたせいかそれとも事態が大き過ぎ
てそれどころじゃなかったせいか、そういった絡みが鷲士と美沙の間以外で余り見られな
かったのは少々残念だったかも。ただ、1巻完結ではなく続き物となっているので、まだ
まだ前哨戦と考えれば盛り上がりは次巻以降で大いに期待出来るというもの。
序盤はどうも一つの重要な事柄へ向けて、関連性のある色々なものがバラバラにぶちま
けられたような感触。次々にシーンが移動している上で特徴を把握する前にキャラクター
が続々と登場するもんだから、ちょっと入り込み難いなという印象がありました。
しかし各所で散りばめられた出来事が一本の線に繋がるまでの過程と、繋がってからの
引き込み方はさすがと唸らされるうまさと面白さで、具体的に手応えを掴んだのはアトラ
ンティスについての詳細な説明が入った辺り。如何にもそれっぽいので、フィクションか
ノンフィクションかはちょっと判別つかなかったですが、このやけに力のこもった設定の
深さこそDADDYFACEの真骨頂ではないかと思います。
今回はもろに以下次巻へ続くな締め方。鷲士達が飛ばされたアトランティスに関しても、
それを巡って交錯するキャラクター達の様々な思惑に関しても、正直何一つハッキリした
事が分かってない手探り状態なので、早いとこ続きが読みたいです。
2003/08/11(月)ブラックナイトと薔薇の棘
(刊行年月 H15.07)★★★★
[著者:田村登正/イラスト:雪乃葵/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
インターネット上でハンドルネーム使っていて、同じ趣味を持つ知人とはイベントやオ
フなどでよく会ってお互いハンドルネームで呼び合ったりしていると、結構ストーリーや
キャラクター達に親近感を持てるような、ネット上でのコミュニケーションによって築き
上げられた人間関係を題材にした一風変わった青春群像物語。とは言え今ネットとかメー
ルなどのネタを使っても余り雰囲気に違和感は抱かないだろうから、“一風変わった”と
言うよりも“馴染みがある”と言った方がしっくりくるのかも知れない。
『ブラックナイト』をハンドルネームとしている主人公と『薔薇の棘』をハンドルネー
ムとしているヒロインが、ネット仲間で意味深な別れのメッセージを残して去ってしまっ
た『天空のアイ』の消息を追い掛けるのが主な展開。本名は最初に名乗っただけで、あと
は終始ハンドルネームで呼び合っている所は、まさに“ネットで繋がっている仲間”とい
う関係なのがよく表れていて良いなと感じられました。
現実では初めて会った者同士、それまでお互い相手の事は文字のやり取りでしか理解出
来ていないわけだから、「そういえばブラックナイトと薔薇の棘の本名って何て言ったっ
け?」と読み手にまで思い出ないよう曖昧にさせてくれてる辺りはうまいですね。
創作の物語とは言え、ネット上の関係だけでここまで突き動かされるように一生懸命な
行動を取っているのは凄いなと思いつつ、現実のネット関係でここまではなかなか有り得
ないだろうと言いたくなりそうな部分は物語らしい。でも実際何処かの誰かがもしかして
……と完全には否定出来ない妙に現実味のある所がこの物語の面白さではないかなと。
学校に侵入して手掛かりを掴もうとする辺りは随分強引な進め方だなぁとか、学校側の
すんなり納得してしまう対応にしてもちょっと無理があるだろ〜とか思ったり、所々で引
っ掛かりを覚えたりもしました。しかし『天空のアイ』の正体に興味を引かせながら終盤
で真相を見せて一気に最後まで持ってゆく展開は、イマイチな部分を補って余りある良さ
で惹き込まれてしまったのと中途半端でなくしっかりまとまっていたのとで満足です。
ブラックナイトの行動力と『薔薇の棘』の竹を割ったようなスカッとする性格その他色
々が非常に好感触だったし、IT研究部の面々も個性が出ていて良かったので、読了後に
今回だけで終わらせるには勿体無いとか惜しいとか思ってしまいました(大唐風雲記より
もこっちを…………いやなんでもないです)。続刊刊行の希望は持たずに待ってみます。
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