NOVEL REVIEW
<2005年06月[前半]>
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06/10 『リュシアンの血脈 夜よりほかに知るものはなく』 著者:冴木忍/角川スニーカー文庫
06/09 『流血女神伝 喪の女王1』 著者:須賀しのぶ/コバルト文庫
06/05 『最後の夏に見上げた空は2』 著者:住本優/電撃文庫
06/01 『最後の夏に見上げた空は』 著者:住本優/電撃文庫


2005/06/10(金)リュシアンの血脈 夜よりほかに知るものはなく

(刊行年月 H17.06)★★★★★★☆☆☆☆(6/10) [著者:冴木忍/イラスト:甘塩コメコ/角川書店 角川スニーカー文庫]→【
bk1】  冴木さんお得意の、或いは冴木さんと言えばお馴染みの、不遇で不運で不幸なキャラ が主人公の新シリーズ。最初の駆け出しの印象とかはちょっと以前の『聖竜伝』とほぼ 一緒で、一番頭の中に残ったのは「まだ詳しい事が全然見えないな〜」という事。長編 の場合は昔からこんな感じだったかな、と幾つか作品を思い返しつつ。レイスファンの 生い立ちやこれまでの育ち方などの過去、それから契約を交わしたヴァルとの関係の大 雑把な部分は今回の二話分で掴めたから、次以降でしっかり掘り下げてくれたらなと。  あとは不幸なレイスファンがどれだけ不幸に塗れてくれるか? とりあえず楽しみを 手っ取り早く探すにはここに注目していれば間違いないと思う。まあ不幸不運とは言っ ても、このレイスファンの行動を眺めている限りでは、偶発的ではなくて自らが招いて 必然的に起こしている要素の方が大きいような気がするけれど。何かと首突っ込みたが るレイスファンより、それを見て呆れているヴァルに同調してる事が多かったかも。  ともあれ上記の通り現状では分からん事だらけなので、面白くなるかどうかは次巻以 降の展開次第。あとがきの「続刊出なかったら」発言は洒落になってないので大笑い出 来ませんよ。前の遊々パラダイスみたく打ち切られないで欲しいもんですホントに。 2005/06/09(木)流血女神伝 喪の女王1
(刊行年月 2005.06)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:須賀しのぶ/イラスト:船戸明里/集英社 コバルト文庫]→【
bk1】  いよいよシリーズ最終章スタート。平穏な一時からどん底まで叩き落すパターンは最 早定着してしまっているので、これから何が起ころうと大抵の場合は耐えられそうです が……しかし何か既に随所で張られている伏線から嫌〜な空気漂いまくり。これまでみ たく直接的な絶望感に染められているわけではないのだけれど、背後から確実に迫り来 る危機感が何ともモヤモヤ〜っとした気分にさせてくれる。前半のカリエの平穏な姿が 印象的であればある程、過酷な試練に直面した時が辛いものになるんだろうな……。  でもとりあえず今はまだ絶好調なイーダル王子の女装で笑えたり、カリエとエドの会 話や和やかな気分になれたり、エドとサルベーンの入浴シーンが意外と微笑ましく眺め ていられたりと余裕はある(まあそれも束の間だったけど)。個人的にはずっと贔屓に してたカリエとエドの二人きりの関係を、これでもかとばかりに見せ付けてくれただけ で満足〜。確か砂の覇王編の駆け出しもこんな感じの二人だけの逃亡劇だったっけな、 と被っている部分に触れて懐かしさが込み上げて来ました。カリエの「長い寄り道をし たってことかな」という台詞が物凄く感慨深くて思わず泣きそうになってしまった。  ……で、こんな凶悪な幕引きしてくれますか!? ああ〜続きが待ち遠しいよ〜。  既刊感想:流血女神伝 帝国の娘 前編後編             砂の覇王              女神の花嫁 前編中編後編             暗き神の鎖 前編中編後編       天気晴朗なれど波高し。 2005/06/05(日)最後の夏に見上げた空は2
(刊行年月 2005.04)★★★★★★★★★☆(9/10) [著者:住本優/イラスト:おおきぼん太/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  読んでいて妙にむずむずするような擽ったい気分だった。不良少年吉原が臆病な小谷 の反撃を受けてそのままお約束のように好きになってしまう所とか、小谷が名門と離れ て生活する事で、初めて家族愛ではなく異性への恋心を自覚し深く深く自身の中へ浸透 させてゆく辺りとか。あ〜やばいよ〜、今回もろにずぎゅーんと胸打たれた。特に小谷 が可愛くて可愛くて堪らない。名門が好きな気持ちから妄想にふけってみたりとか、隙 だらけな所へ声を掛けられては「ひゃあああ!」と焦りまくってみたりとか。  やはり『遺伝子強化兵』の設定について詳細に突き詰めてゆく事はしないみたいです が、キャラクターの感情描写が綺麗に物語に乗っかっているので、むしろそういう設定 固めは余計な足枷になりそうだからこのままの手を加えないままで良いのかも。  それから既に終わったものと思っていた前巻での莉乃のエピソードがこんな風に絡ん で来るとは。気になっていた事だったのですが、ここで薄れがちな啓介と梓の存在感を 引き上げるような印象に残る内容で、更に入れるタイミングも絶妙で良かったな〜。  これで主要キャラへの感情移入度も上がりまくり、どうやら完結巻らしい3巻目の展 開と結末次第では堤防決壊してしまうかも知れない。知ってしまうのが怖いなぁ……。  既刊感想: 2005/06/01(水)最後の夏に見上げた空は
(刊行年月 2004.12)★★★★★★★☆☆☆(7/10) [著者:住本優/イラスト:おおきぼん太/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  どういう基準で『遺伝子強化兵』への適応選別が為されたのか? それとも生まれた 時(あるいは生まれる前)に最初から持っていたものなのか? 後付けされたものだと したら何時何処でどんな風に処置を受けたのか? など、『遺伝子強化兵』の設定にあ まり深く踏み込もうとしていないので読んでいて余計あれこれと気になった。  もっとも現時点で多くを語らないのだとすれば、後々の隠し玉として今はまだ控えて いるだけなのか、それとも“遺伝子強化兵は十七歳の夏までしか生きられない”を絶対 的なルールとしてこれ以上設定を付加する事はないのか。どうやら細かい事は気にせず 小谷と名門の関係を主軸に描いてゆくようなので、どちらかと言えば後者寄りかなと。  その関係は現時点じゃハッキリしないので分からん! と言うのが正直な所。小谷の 記憶喪失に名門が深く関わってるのは間違いないと思うのだけど……あれこれ予想は立 てているのですが、やっぱり散らばった欠片がまだ揃ってないので何とも言えない。  あとは小谷以外の短命な少年少女達の感情の描き方に注目して行きたい。多分第一話 で登場した菜摘のように、自らの理不尽な運命に追い詰められてしまう子の方が多いよ うな気がするんですよね。そうならないには記憶喪失で未来より過去を気にしてしまう 小谷みたいな理由が存在していないと、平気でいるのが不自然に見えてしまうので。


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