[前] [戻る] [次]
02/29 『THE DOLL HUNTER 人形はひとりぼっち』 著者:中島望/富士見ミステリー文庫
02/28 『呪の血脈』 著者:加門七海/富士見ミステリー文庫
02/26 『緑のアルダ 虹の白夜』 著者:榎木洋子/コバルト文庫
02/25 『フラクタル・チャイルド 女神の歯車』 著者:竹岡葉月/コバルト文庫
02/24 『ご機嫌ななめのファイトガール』 著者:久藤冬貴/コバルト文庫
02/23 『悪魔のミカタ12 It/ストラグル』 著者:うえお久光/電撃文庫
02/22 『悪魔のミカタ11 It/ザ・ワン』 著者:うえお久光/電撃文庫
2004/02/29(日)THE DOLL HUNTER 人形はひとりぼっち
(刊行年月 H16.02)★★★
[著者:中島望/イラスト:藤谷/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】
違法行為として生み出され人間の中に身を潜めて存在するクローン人間<人形>と、そん
な違法クローンの排除を生業とする人間の<ドールハンター>、そしてどちらとも違う立場
で巻き添えを食ってしまう人間との物語。もしかしたら遠い将来の現実で可能性として有
り得るかも知れない、それを必ずしも否定する事は出来ない、なんて考えている内に思わ
ずフィクションながら現実世界と照らし合わせずにはいられない所が面白い。
余計な妄想ですけど、物語の舞台や登場人物達に自分が生きている現実の風景を重ねて
みて、例えばそうとは知らされず周囲の誰かとかごく近しい人などが実はクローン人間だ
ったら? あるいは自分自身がそうだという最悪の事実を告げられてしまったら? その
時自分の視界はどんな状況で感情はどんな風なのか? と読みながら変に想像力を掻き立
てられてしまうこのクローン人間の盛り込みに関してはなかなかに良かったです。
ただし、非常に魅力的で心惹かれる題材ながら料理の仕方がちと拙い。何が拙いかって
これはちょっと描写の不足っぷりもいいとこなんではないでしょうか。ストーリーの上辺
だけをなぞって追うような感触がどうにも急ぎ足な展開に見えてしまい、その辺が非常に
勿体無いなと思ってしまいました。『クローン人間』の設定だけ用いても実に色々な物語
の組み立て方が出来そうなのですが、本作の場合はコテコテにクローン人間の理論で固め
て描かれているでもなくて、キャラクターの心理面を主軸に置くにはハッキリと描写が弱
過ぎるし、結局は人間とクローンのアクションをメインに描きたかったのかなと。
でも個人的には心理面こそを丁寧に描いて欲しかったですよ。人間としてあるいはクロ
ーン人間として、自分に対して隣り合う人に対して周囲に対して、もっともっと複雑で多
様な感情の流れがあって然るべきだったのでは。せめて唯と久美子の部分だけでも駆け抜
けずに立ち止まってくれていたら、読了後に残る手応えも違うものとなっていたかも。
不足は続きで補えそうですが、あまり続編見込めないレーベルなので期待しないでおく。
2004/02/28(土)呪の血脈
(刊行年月 H16.02)★★★☆
[著者:加門七海/イラスト:CLAMP/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】
なんかいつもの富士見ミステリー文庫とは違う匂いがする! とか感じてたらそれもそ
の筈、既に元々違うとこからハードカバーで出版されてた物語の文庫化なのだそうで。こ
んな風に他の場所から引っ張って来るのもリニューアル展開の一環なのかも。
新装版になってから後、どうもミステリー以上に力を入れているらしい“LOVE”が
どの作品にどの様に盛り込まれているのか妙に気になったりしてるんですけど、こういう
文庫化ってのはどうなんでしょう、と思ったり。無理矢理探して当て嵌めてみると、これ
男×男LOVEに成り得そう……ってボーイズラブか!? いやいや、でも一部受けが攻
めに抱き締められてるシーンとかあったし。まあそんな雰囲気じゃないので極端な見様に
よっては、と注釈付きですが。無難な所で『民俗学LOVE』となりそうかな。
民俗学専攻の大学生・宮地はちょっとした好奇心から足場を失い道を踏み外す。彼はと
ある閉鎖的な村民の祭に参加させられる羽目になってしまい、更に“裏”の祭が持つ秘密
の異常さや、村の神主の血脈である高藤が放つ得体の知れない恐怖に晒される事に。
これは狩る側と狩られる側と立場が正反対の男同士の友情劇を描いたもの、に見えなく
もないけれどやっぱりちょっと厳しいか。でも、互いに反発的な感情を放ち全く良い印象
を抱けずにいながら、いつしか裏の祭の惨劇を阻止しようと奇妙な共存共闘関係となるま
での過程は、割と気持ちの歪んだ触れ合いながら面白く描かれていると思います。
さすがにあとがきのような現地取材をこなしているだけあって、宮地と高藤が足を運ん
でいるその土地その土地の風景は細やかな描写が印象的でした。神木の祭にまつわる様々
な設定に関しても、物語の中で非常に奥深い味が感じられて良かったです。
ただ、表に対する裏の祭そのものが一体何だったのか? これが読了した後に終盤だけ
もう一度読み返してみてもモヤモヤが抜けなくてスッキリしなくて微妙。大分掴めてはい
るんだけれど明確にならなくて。多分読解力不足だろうなぁと取ってますが……うむむ。
2004/02/26(木)緑のアルダ 虹の白夜
(刊行年月 H16.02)★★★★
[著者:榎木洋子/イラスト:唯月一/集英社 コバルト文庫]→【bk1】
シリーズ第5巻。王都ジャイバーラル後編、かと思ってたらあとがきによると次巻と合
わせてコーサ王宮編は3部作だそうな。でも一応最後にきちっと区切りがついているので、
前巻と比べたら読後感はスッキリ。あまり内容と関連性がなかったサブタイトルもどうや
ら次巻に掛かってるらしく、おそらくジャイバーラル編の最後は旅立つ前のそれぞれの状
況から、キャラクター達の心の整理に費やされるのではないだろうか、と。
今回は罠に嵌められたウルファの行方を追いながら彼の出生の秘密に迫る辺りが中心で
したが、これに関しては結構すんなり解決してしまってやや物足らなかった印象。アンシ
ャル侯爵夫人のウルファに対する執拗な憎悪と怨念は、もうちょい後々まで尾を引くもの
と思っていたので。白髪の魔法使いラダはこのまま終わらなさそうな気もするけれど。
それにしてもコーサとミズベのかつての争いなんて話が出て来ると、やっぱり過去のシ
リーズが気になって気になってしょうがない。そうは思いつつも、このシリーズから読ん
でも極力入り込み易い配慮が随所で見られるので(でなければそんな風な辿り方してる私
はまともに読めてない筈)、前シリーズを読んでないから読み難いってわけでもないんで
すよね。ただ、本来十二分に楽しむ為の要素を私は持ち得てないだけで。
アルダ・ココは割と脇役回りな印象が強かったような気もしましたが、ウルファ救出の
際は祭の首都を右往左往しながら占いで大いに貢献してくれたし、最後は石占いで確固た
る未来を指し示したり、とちゃんと主人公としての存在感もアピールしてくれている。
しかしこうして読み続けながら改めて思わされたのは、本当の意味での“アルダ・ココ
の守龍探しの旅”はまだスタートラインにすら立っていないのかなという事。刊行ペース
も早くストーリー展開もそれなりにテンポ良く進んでいるのだけれど、まだまだ見通し利
かない位道程は相当に長そうな予感。それでも、コーサ国に守龍は招けないと挫折を突き
付けられた状況から、自らの占いで活路を切り開き“彼女のカード”を導き手として引い
たラストには高揚感で震えが来ました。ここからが本当の出発点でしょうかね。
既刊感想:石占の娘
荒れ野の星
千年の隠者
謀略の都
2004/02/25(水)フラクタル・チャイルド 女神の歯車
(刊行年月 H16.02)★★★★
[著者:竹岡葉月/イラスト:オノデラ佐知/集英社 コバルト文庫]→【bk1】
シリーズ第3巻。『ジュラ解体新書』とありますが、どちらかと言えば解体されてたの
はサキやカイの方だったり。感情の描き方としては確かに今回は3人の中でジュラがメイ
ン。これまでと比較してもずっと深くジュラの内面を覗えましたが、どうせなら彼女に特
化して更にとことんまで突き詰めてくれても良かったかな? という気もしました。
そして物語的に盛り上がりを見せてくれているのはジュラではなくて、サキとカイ。こ
の終盤での怒涛の種明かしにはぶったまげでしたよ。カイの方はもう最初の頃から曰くあ
りげだった為に身構えてはいたけれど、サキに関しては完全に意表を突かれました。
しかし今回それらが徐々に明るみに出た事は転換点を強く意識させるもので、物語の展
開がダラダラ行かないように、きゅっと引き締めるような効果が表れているのは良い傾向
ではないかなと。とりあえず暫くはリヒト・オルベの遺産巡りの騒動に巻き込まれる形の
1巻解決ペースで流れるものと思っていたから、この急激なシリーズの行く末を予感させ
られるような手応えは予想外だったけれど非常に面白味のあるもので良かったです。
これまでの代行屋の仕事が前哨戦に過ぎなかったんだなぁというのは納得のゆくもので
したが、それにしてもリヒト・オルベの存在がこういう形で絡んでくるとは。まあ明かさ
れたと言ってもごくごく表層の事実だけで詳細は分からない事だらけですが。サキの素性
はどうなのか? カイの正体は何なのか?(……もしかしてオフィス・サイズのメンバー
の中で一番火種が少ないのは、一見最も多そうなジュラではないだろか、とふと思う)。
今回を終えた時点でこの物語の方向性がしっかり定まったと感じたので、あんまり長期
的なシリーズ展開とはならなさそうな雰囲気だし、あとはサキ、カイ、ジュラの3人を中
心に据えてどんな風に結末まで導いてくれるのか次巻以降も素直に期待を寄せられそう。
既刊感想:ここは天秤の国
ストロボの赤
2004/02/24(火)ご機嫌ななめのファイトガール
(刊行年月 H16.02)★★★☆
[著者:久藤冬貴/イラスト:有吉望/集英社 コバルト文庫]→【bk1】
制服着てなきゃ確実に性別間違えてしまいそうな、容姿も性格も男の子っぽい高校女子
柔道界で無敗を誇っていた柔道少女・片倉光が主人公。初敗北+怪我を喫し挫折を味わい、
周囲の人たちを巻き込み柔道を辞める辞めないのすったもんだの末に、復帰決意するまで
の過程を描いた物語。このストーリーの感触はですね、酒のおつまみかもしくは10時か
3時のおやつみたいなものかな? やりたい事が分かり易くすんなりと把握し易い展開で、
光の感情が喜怒哀楽どんな状況であっても大概テンポ良く軽快に読める。けれども、おつ
まみとかおやつでは適度に軽く腹は膨れるけれど満腹感は得られない、という事。
基本的に終始心地良い楽さで読ませてもらえるストーリーなのですが、全体を通して眺
めてみると頁数のせいかどうしてもボリューム不足が引っ掛かってしまう。もうちょい肉
付けしてくれたらなぁと思う所が結構あって、特に光が「私は結局どんな事が起こっても
縁を切れないくらいに柔道が好きだ」と気付いて復帰しようと“切っ掛けを掴む”部分、
ここをもっと掘り下げて描いて欲しかった。イベント的に充分な構図だとは思うけれど、
やっぱりこの辺の盛り上がりが弱いですよね。あからさまに犯人が分かり過ぎる途中のミ
ステリ風味仕立てなのはいいとして、これなら彼らに悪役然とした嫌らしさをまだまだ盛
り込んでも良かったんじゃないかな? 光が絶体絶命の危機に陥るとかなんとかして。
しかし注文付けまくりな物語の内容に対して、キャラクター描写は申し分ない良さと思
いました。男の子っぽい光は勿論、普段ちゃらんぽらん野郎ながら肝心な時には強さを発
揮する早乙女主将、ゴスロリと可愛い女の子が大好きな“女の子”の果穂、それから光の
いとこで軟弱君の充。皆どっかしら変な性質を持ち合わせてるけれど、その要素を最大限
に発揮して互いに触れ合い面白可笑しく活き活きと描いている点は実にいいなと。これで
手応えを充分に得られるストーリー展開があれば……と続刊希望で期待してみたい作品。
2004/02/23(月)悪魔のミカタ12 It/ストラグル
(刊行年月 H16.02)★★★★☆
[著者:うえお久光/イラスト:藤田香/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
《It》編終わりませんでした。が、それでもいいじゃないですか! と。かなり中継点
な感触は強かったけれど、感情描写の盛り込み方は決して引けを取らない仕上がりで、む
しろ今回の方が惹き込まれ具合は上を行っていると思いました(私は特に水彩と昇君が気
に入ってるので、前巻との比較はキャラの好みとかも関わってくるのかも知れませんが)。
前巻と合わせてこの長さでも結末まで収まり切らなかったというのは、ひとえに全ての
主要キャラクターを深く丁寧に描いている結果であり証明であり、それこそ堂島コウ不在
な中で、彼と同等の主人公だと自負出来るだけの印象深さを誰もに刻み込んでくれたキャ
ラクター描写は見事という他ないです。もっとも、ストーリー的には進展具合に劇的な変
化は無く中継ぎ以外の何ものでもないので、今回の“溜め”がどれだけの効果を発揮する
かは次巻の結末(となるに違いないと信じてる)に大きく掛かっているわけですが。
単純な強弱で言ったら決して敵わない、吸血鬼『ザ・ワン』との格差を思い知らされ挫
けそうになりつつ、それでも人間である事を誇りに思う事で己を必死に鼓舞し立ち向かお
うとする小さき弱き者達――唯の言葉を借りるなら“たかが吸血鬼ごときの二千年なんか
目じゃない一千万年の歴史を築き上げてきた”彼等が凄く格好良く映りました。
唯の意外に勇敢な立ち振る舞いにも魅せられましたが、何と言っても今回最も印象的だ
ったのは昇の演説と水彩の危険を冒しての行動力。この2人のシーンはどちらか片方を落
とせないくらいに甲乙付け難い。迷いや焦燥や戸惑いや恐れを抱きながら、それらを払拭
して自分が今出来る全ての事を精一杯やろうとしている姿は堪らなく良いものです。
人間の少年少女達の側だけじゃなくて敵対する『ザ・ワン』の側に対しても、少なくと
も前巻とは読んでる時の見方が確実に違っていました。何となく素直に敵味方と割り切れ
なくなりつつありそうな遼子の心境だとか、『ザ・ワン』の核心に触れている『コア』の
台詞などから、あっさり“敵”とは断じれなさそうな奥深さが感じられて来たかなと。
気にしてた“ダンピール”については遼子とサキの会話でちょっとだけしか触れられて
なかったけど、やっぱり切り札となる雰囲気はあるような気も。個人的には遼子か唯と予
想してますが……さて?(予想外を期待してる身としては実は外れて欲しかったりも)
最後に『言い訳』なんて添えられてる解説ですけど、これだけ自身の作品に対して的確
に向き合えてるのには感心しました。どの作家さんもあんまり内容を深く語るなんて事し
ないけれど、こんな風に読ませてくれたのに対して嬉しかったという気持ち。まあ予告が
守られないのはよくある事?ですし、あまり気にせず次巻を楽しみにしてます。
既刊感想:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11
2004/02/22(日)悪魔のミカタ11 It/ザ・ワン
(刊行年月 H15.11)★★★★
[著者:うえお久光/イラスト:藤田香/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
元々先の展開が読み難い意表をついた事を結構やってくれるシリーズと心に留めてはい
ましたが、《It》編に入ってから更にその拍車が掛かっているようで。本来の主人公・堂
島コウが不在なまま進み続けるのもそうだけど、今回の場合サクラ以外の主要キャラが全
て新キャラなんてのは予想外もいいとこでした。それでもコウとも《It》ともしっかり繋
がりを持たせた見せ方で、ぐいぐいと惹き込ませる牽引力の強さは流石の一言。
導入部分で水彩に触れる辺りでは、「あなた方は一体誰ですか?」とか「今現在の状況
はどうなってるの?」と本当に真剣に問い掛けたくなってしまいましたが、徐々に「ああ
そっかそういう事でそういう展開なのか」とじわりと納得しつつの吸血鬼『ザ・ワン』対
人間の少年少女達の互いの存亡を賭けた戦い(どちらかが勝利すればどちらかが消滅する
運命にあるので大袈裟な表現でも無い筈)。敵に立ち向かう意気込みよりも、その前にそ
れぞれが自分自身の気持ちと向き合う描写の方が印象的だったかなと。とりわけ親友と吸
血衝動とを秤に掛けるエレナの激しい葛藤と、教会で『ザ・ワン』の本質を目の当たりに
してからの昇君の心の鼓動はなかなか良い感触で伝わって来ました。
大きく分けてサクラ達女の子グループ、昇のグループ、三輪方遼子視点の『ザ・ワン』
サイド、それから少し出番少な目の水彩。各方面を丁寧に万遍なく絡み合わせ、閉鎖地域
での急速な広がりを見せる『ザ・ワン』とそれに対抗する少数の人間の子供達を描き切っ
た約450頁の極厚、存分に堪能しました。実際には全然終わってなくて、むしろこれだ
け描いてやっと本来のスタートラインに立ったような感じでしたが、劣勢からの逆転劇で
見事決着付けたと思ったら……というそこに辿り着くまでの過程がとにかく面白かった。
次への関心所としては事態収束へ導く切り札――言い換えるとそう成り得る要素を含ん
でいる人間と吸血鬼のハーフ“ダンピール”は誰か? まずここが凄く気になる。同様に
遼子の思惑とか舞原家の動向なんかも。ただ、サクラが残ってしまったのでまたコウの出
番がしょんぼりになりそうな気がするんだけど。まあ昇に絶大な影響を与えてるし、知恵
の実《It》の所有者としての存在感も健在なわけだからあんまり問題は無いのかな。
既刊感想:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10
[
戻る]