[前] [戻る] [次]
09/30 『腐敗の王 SAKURA in Pale Rose Bump III』 著者:在原竹広/電撃文庫
09/29 『レジンキャストミルク』 著者:藤原祐/電撃文庫
09/28 『わたしたちの田村くん2』 著者:竹宮ゆゆこ/電撃文庫
09/27 『12DEMONS』 著者:御堂彰彦/電撃文庫
09/26 『F エフ』 著者:坂入慎一/電撃文庫
09/25 『撲殺天使ドクロちゃん6』 著者:おかゆまさき/電撃文庫
09/24 『琥珀の心臓』 著者:瀬尾つかさ/富士見ファンタジア文庫
09/24 『七人の武器屋 レジェンド・オブ・ビギナーズ!』 著者:大楽絢太/富士見ファンタジア文庫
09/23 『紅牙のルビーウルフ』 著者:淡路帆希/富士見ファンタジア文庫
09/22 『BAD×BUDDY2 サウス・ギャング・コネクション』 著者:吉田茄矢/富士見ミステリー文庫
09/21 『ハーフダラーを探して3』 著者:水城正太郎/富士見ミステリー文庫
2005/09/30(金)腐敗の王 SAKURA in Pale Rose Bump III
(刊行年月 2003.11)★★★★★★★★☆☆(8/10)
[著者:在原竹広/イラスト:GUNPOM/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
何故かは分からないけど『桜色BUMP』から改題。舞台・キャラクター・設定等は
変わらず。ここからおよそ二年振りに続編(IV)が刊行されたので、ほったらかしてた
IIIを読む機会を得た、という訳で。正直終わったシリーズだと思い込んでました。
久々に読みましたが、意外とすんなり入り込めたかな? やっぱり懐かしいな〜って
呟きはありましたが(本来ならIVを読んだ時に出る言葉なんだけど)、キャラクターも
淡々とした雰囲気もちゃんと覚えてたし、桜子可愛いよ桜子なのも変わってなかった。
しかし桜子ってこんなに悟郎の事意識してたっけ? と、あんまり覚えてないせいか
少々首捻りだったのだけど、普段無愛想な癖に悟郎の女性関係を知ると、妙に過敏にな
ったり意識過剰になったりしてるのが何とも微笑ましい。「可愛いなあもう」とからか
い突付きたくなる程に。まあ肝心の悟郎は今回それどころじゃない状況でしたが。
悟郎の親友の死。腐敗した死体。ただし腐らされたのは身体だけで、外を包んでいた
衣服には全く腐敗の跡が見られない。悟郎は親友の為、桜子は口に出さないけど多分悟
郎の為、真相解明に乗り出す……てな具合。もう不思議屋が出張ってる時点で超常現象
絡みなのは分かり切っていた事なれど、まあその辺りはこのシリーズの特徴的なものだ
から、現実離れなものでも大して気にならない。それより不思議屋の助力を受けつつも、
最後は桜子と悟郎が“自力で解決する”という部分が損なわれていなくて嬉しかった。
十年前の事件と現在の事件が交錯する描き方も、過去に付随する仕掛けもまずまずで
楽しめました。とりえず悟郎の方が桜子を意識するまでは続いて欲しいなぁと思う。
既刊感想:I、II
2005/09/29(木)レジンキャストミルク
(刊行年月 2005.09)★★★★★★★☆☆☆(7/10)
[著者:藤原祐/イラスト:椋本夏夜/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
前シリーズより多少明るくなってる……かなぁ? と、異を唱えたくなったり反論し
たくなったり。主要キャラの誰もが多かれ少なかれ枷をはめて罪を背負って傷を抱えて
いる、こういう部分は今回も一緒みたいだから。文章形式とか設定を深く練って凝り固
めている辺りは良くも悪くも「変わってないな〜」という手応えでしたが、現代の学園
が舞台だからか、全貌が明かされていない割には大分取っ付き易く感じました。
ただ、それでもこの物語の最重要項目である“虚軸”=キャストの概念が私には少々
取っ付き難い印象だったかも。とは言いつつも、よーく噛んで読み解いてゆくのはこの
物語の醍醐味であって面白さではないかなと。ここでダラダラ説明入れるのも面倒臭い
ので省略します(実際面倒臭い設定ではあります)が、極端に言えば虚軸概念を理解半
分ですっ飛ばしても、キャラクターの性格と特徴と“背負っているもの”を優先的に感
じて触れてゆけば充分楽しめるものだと思う。あとは要は慣れです慣れ。これでイマイ
チでも次があるし、それでダメでもそのまた次があるさ……ってなるのも割と拙いんだ
けど。実際『ルナティック・ムーン』でも慣れるのに結構時間掛かってたから、完璧に
把握出来なくてもあまり不安は無い(それより刊行期間が開いてしまう方が心配)。
もう初っ端から重い運命振り撒きまくりで、バッド&デッドエンドを一直線に突き進
んでいる風にしか見えないのですが、今後軌道修正とかあるだろうか? ともあれ現状
では見えてない所も多そうだから正直何とも言えないか。黙って続きを待つ事に。
2005/09/28(水)わたしたちの田村くん2
(刊行年月 2005.09)★★★★★★★★☆☆(8/10)
[著者:竹宮ゆゆこ/イラスト:ヤス/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
犯人はキサマか! 危うく松澤超能力者説を鵜呑みにしてしまう所だった。電波な言
動にもちゃんとした理由があり、ましてや月が故郷な訳が無い……なんて事は前巻で実
証済みだってのに、田村の大馬鹿野郎がみっともなくうろたえまくるもんだから。
しかしその大馬鹿野郎の見てらんない足掻きが私は大好きです。結果的に遠距離恋愛
が途絶えたのも二股になったのもその気は無くても不誠実であったのも、全部田村くん
に原因があるのだから格好悪いのは当たり前。だって一目瞭然で弱い奴なんだもの。
まあ小巻からの連絡途絶てた時に広香へ踏み込む切っ掛けを掴んでしまったもんだか
ら、タイミングの問題もあるだろうけど。田村くんが小巻との繋がりに揺るぎないもの
を持っていて、途中で広香を吹っ切れるような性格だったら最初からこんな事態には陥
っていない。逆に陥っているからこそ余計に興味を抱いて追えたと言えるのかなと。
女の子二人は本当に強い。軽々しく言っちゃ拙いのかも知れないけれど、脆さを脆い
ままにしないで確実に強さに変えてゆく。野郎の方があまりに女々しいもんだから途中
ウンザリさせられたりもしたけれど、小巻と広香の脆さの支えになっているのも、また
強さへ繋げる助力となっているのも、結局は弱くて格好悪い田村くんなんですよね。
この物語、個人的に最も目が向いていたのはヒロイン二人よりも主人公の田村くんだ
ったような気がする。だから松澤派? 相馬派? と考えると……むしろ田村派? っ
てなんだそりゃ、となってしまうのですが仕方ない。話の纏め方は想像してたよりずっ
と後味良かったので(悪くならなかったのは広香の功績なんだけど)、これで充分満足
出来ました。無理に続かなくても良いかな? 未来の様子は想像で楽しんでみます。
あと高浦一家の番外編読んで一言……確実に伊欧たん派が増えた。間違いない。
既刊感想:1
2005/09/27(火)12DEMONS
(刊行年月 2005.09)★★★★★★★★☆☆(8/10)
[著者:御堂彰彦/イラスト:タケシマサトシ/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
メインキャストが十二人? 最初これでいきなり引いた。かなり引いた。物語が好み
か否かを知る以前に、「ちゃんと書き分け出来ているんだろうか?」と言う台詞がまず
出てしまう訳ですよ。この設定だと十二人全てがほぼ同格のメインキャラクターだから、
扱いに大きな差が出てしまってはあまり宜しくない。余計書き分けのバランス取りが難
しそうで読む前から妙に不安感ばかり盛り上がりっ放し。大丈夫だろうか……と。
結果から言ってしまえば、触れてもいない内に引いちゃってゴメンナサイです。序盤
は確かに危惧通り紹介を兼ねて一気に登場させているせいか結構把握し辛い。折込の口
絵眺めながら読まないとしっかり頭に入らないってのもどうかと思いますが、読み進め
て終わる頃にはうまくキャラとイメージが噛み合ってました(印象度の違いは多少出る
でしょうけど)。中盤以降はキャラの多さに戸惑う事もないんじゃないかな?
十二の悪魔の部位を十二人が一箇所ずつ受け継ぎ、その部位に相応する能力を得て、
他の継承者と能力の奪い合いを行う。元の世界に戻る為の戦いみたいなもの。このゲー
ムシステムが面白いものに仕上がっている。自己欲の為に奪う道を選ぶか、それとも共
闘で誰か一人に託す道を選ぶか、どちらに転んでも簡単には起き上がれなさそう。
……で、話終わりませんでした。なんて凶悪な切り方しやがるんだ! 次巻まで誰が
全てを仕組んだ首謀者“悪魔の魂”を持つ者か明かされないまま、悶々とし続けなけれ
ばならないのか〜。正攻法で考えると私にはたった一人しか思い当たらないのですが、
ミスリードの可能性も有り得るし、まだ全員分の素性が剥がされていないから何とも言
えない。隠れた人と隠れた事実が描かれてゆくであろう続きを楽しみにしてます。
2005/09/26(月)F エフ
(刊行年月 2005.09)★★★★★★☆☆☆☆(6/10)
[著者:坂入慎一/イラスト:凪良(nagi)/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
Freakの「F」。=気まぐれ、奇形物、異例の事件、変人、とか。人の『死』に
影響を及ぼす存在、逆に『死』に影響を受ける存在、『死』から果てしなく遠ざかる存
在に、『死』を限りなく間近に引き寄せる存在。そんな死の色を纏う者達の物語。
うむむ、最後までどうしても気持ちが乗り切れなかった。これは原因で幾つか思い当
たる節があって、最も気に掛かったのはストーリーの中心に柱が存在しない点。或いは
柱候補が多過ぎて持て余している、とも言い換えられそう。要するに「一体何をメイン
に据えて描きたかったのだろう?」という疑問視。私は掴み損ねたなと思わされた。
プロローグから描かれていた静夜と蛇との関係と、『死』に最も遠い存在と近い存在
の対比で色濃く描かれていたサヤとユルリの親友関係と、生者に『死』の影響を及ぼす
死者の思念との関係……どれかをメインに立てて広げてくれたら一本筋が通ってくれた
かと思う。どれもほぼ均等なせいか中途半端の共倒れという印象だったのですよね。
個人的に最も良いなと感じられたのは、一見無愛想ながら誰よりも死を尊さを知って
いるから誰よりも死を慈しむサヤと、一見友好的ながらあらゆる事に対して無関心であ
る為にあらゆる死の存在に近付けるユルリの関係。正直続きを期待しているかと問われ
ると躊躇ってしまうのだけど、もしこの二人を中心に描いてくれるのならば……。
2005/09/25(日)撲殺天使ドクロちゃん6
(刊行年月 2005.09)★★★★★★★★☆☆(8/10)
[著者:おかゆまさき/イラスト:とりしも/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
アニメ化されたお陰か、キャラクターがアニメのペースでスムーズに動く。この物語
でいちいち頭働かせなけりゃならない要素は皆無ですが、頭の中で抵抗無く動いてくれ
るのは良い事。観てるのと観てないのとでは、また感触も違って来るでしょうけど。
前半二話はいつもの如く桜くんが何か抗えない流れに巻き込まれて、いつもの如くド
クロちゃんに撲殺されるいつもの如くなエピソード。ザクロちゃんのサービスカットが
一番の見所だろうか? そういえば最近脇役の一部クラスメートが徐々に存在感を主張
し出している気がする。何気に桜くんを弄り倒すクラスメート絡みの話は結構好きなの
で、その辺は望んでいる傾向かな。今回で言えば恋愛相談を持ち掛けつつ思わせ振りな
発言を残して桜くんを惑わす田辺さんとか(多分彼女が言ってるのは南さんの事……だ
と思うのだけど)。一方で静希ちゃんの影が薄まっているような……が、頑張れ。
後半三話分は「なに? このド○クエ」な某有名ゲーム風ドクロちゃんRPG。まあ
お馬鹿さ全開でやってる事は現実世界となんら変わっちゃいませんが、ひとつのエピソ
ードがこれだけ長いのは珍しい。……そういやサバトちゃんはどうなったんだ?
で、元々好みなのもあって面白いは面白いのだけど、正直もうそろそろいいや的な飽
きも生じ始めているので新しい刺激を求め気味。刺激と言えばほら、あれ、びんかんな
あれ。最初は冗談とお遊びなだけだったけど、新シリーズとしてやらないかな。
既刊感想:1、2、3、4、5
2005/09/24(土)琥珀の心臓
(刊行年月 H17.09)★★★★★★★☆☆☆(7/10)
[著者:瀬尾つかさ/イラスト:唯々月たすく/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】
第17回ファンタジア長編小説大賞『審査委員賞』受賞作。
受賞三作の中で世界観や設定面に最も心惹かれたのはこの物語。まあ単に異世界転移
ものが好きなだけかも知れませんが。クラスメートを救う為に望んで命を捧げる遙と、
遙の決意を唯一人受け入れて内に秘め続ける優子と、遙を最も理解しつつなかなか受け
入れられずに葛藤する敦也、この遙を中心とした三人の関係と感情の描き方が絶妙。
しかし解説で述べている観念的な部分については殆ど躓かなかったのですが、話の組
み立て方を妙に把握し難くしている印象で途中戸惑ってしまった。そんなに言う程複雑
に入り組んでいる訳ではないし、あえてストレートに行かず捻って仕掛ける手法も好き
なんだけど、把握し易さを求めるならば時系列通りに進めてくれた方が良かったかな。
他のクラスメートを中途半端に個性出さずひとまとめで括ったのは、終盤こういう想
定であったなら多分正解。もっとも、せめて日誌書いている眉村冬華だけは関わらせて
あげても……と思いましたが。表に出ないなら、日記部分をクエルト族や巨人や竜、そ
してそれらの上を行くもっと大きな存在の掘り下げに費やして欲しかった気もする。
目的は皆で元の世界に帰る事。これを目的に掲げていて、こういう結末を用意してい
るとは……ちょっと想像及びませんでした。でも何か全ての事実が解かれていない所で
スッキリさせて貰えなかったんだよなぁ。最初と最後の状況があらゆる意味で違ってい
る為、続編に繋げるのは意外と難しそうですが、それでも掴み切れなかった部分は明確
に見せてくれたら、と思う。ついでに三角関係の継続も……ってこれは余計厳しいか。
2005/09/24(土)七人の武器屋 レジェンド・オブ・ビギナーズ!
(刊行年月 H17.09)★★★★★★★★☆☆(8/10)
[著者:大楽絢太/イラスト:今野隼史/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】
第17回ファンタジア長編小説大賞『佳作』受賞作。
これ、他作品を引き合いに出すのはどうだろう? と躊躇いつつも言わずにはいられ
ない。私はもう読んで速攻で『フォーチュン・クエスト』を思い出してしまった。但し、
決して否定的な意見で出したのではなく、読了して凄く楽しかった感触が非常に近いも
のであったと言う事。初心者、知り合い同士、個性的なキャラクターのパーティ、これ
らのキーワードが割と両作品に共通しているものだと思うのですが、「富士見ファンタ
ジアらしいな〜」と感じさせてくれる雰囲気で、妙に懐かしい匂いもしました。
と、上記のはかなり個人的な印象が表に出まくっているので横に置いといて。この物
語はやはりキャラクター達の魅力に尽きます。たとえ世界観や舞台設定の練り込みが甘
かろうと、とにかく強烈なキャラクターの存在感で押し切ってしまうタイプの作品。
特に武器屋の初心者オーナー七人の書き分けは、完璧と言っても言い過ぎじゃない程
に良く描けている。人数を増やせば増やしただけ目立つキャラと目立たないキャラの落
差が激しくなりがちですが、この物語はそんな事が一切無い。誰もが脚光を浴びていて、
誰もが埋没しない。主人公マーガスの一人称なのに彼が最も控えめな辺りも、一人突出
せずにバランスが取れている要因。そして七人の掛け合いが実に楽しいのです。
寂れた武器屋を立て直して繁盛させる事は、“目的”ではなくてそれぞれが進むべき
道を探し当てる為の“手段”なんですよね。だから、武器屋繁盛記よりも個々の成長過
程に重きが置かれています。まあ何か庶民臭さが漂う勇者に結構都合良く危機を救われ
たりしてますが、多少のビギナーズラックでもなけりゃあっという間に……ねえ? そ
の辺はご愛嬌かな。締めも綺麗に纏まっていたけれど、続きを読んでみたいなぁ。
2005/09/23(金)紅牙のルビーウルフ
(刊行年月 H17.09)★★★★★★★★★☆(9/10)
[著者:淡路帆希/イラスト:椎名優/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】
第17回ファンタジア長編小説大賞『準入選』受賞作。
剣と魔法、姫を守護する騎士、自国の荒廃と隣国への侵攻、これだけでも実にファン
タジア文庫らしいファンタジー小説。確かに王道とは言えるけれども、実際この“王道”
を用いた小説を、所謂ライトノベルと呼称される最近の作品群ではあまり御目に掛かっ
た事が無い。これは過去に踏襲され尽している為、生半可な物語では返り討ちにあう恐
れがあり踏み込み難いんじゃないかな? と個人的には考えたりもしているのですが、
この作品は本当に真っ向勝負で挑んでいる。そして「面白い!」と言える物語でした。
特にキャラクターの魅力が大きな武器。とりわけルビーウルフの魅力は絶大。狼の乳
で育てられた盗賊娘は、世間知らずで頭が弱いかと思いきやそんな事は無く、頭は切れ
るし度胸も強かさもほぼ満点。じゃあ恋愛には疎いかと眺めてたら、ジェイドをからか
って遊んでいる辺り、ちゃんと『家族への愛情』と『異性への恋情』の違いは理解して
いるらしい(本人が恋愛感情に目覚めていないだけで)。これらルビーのキャラクター
性まとめて凄く好きです。立ち振る舞いの格好良さに惹かれたってのは、女の子に対し
てどうだろう? と思わなくもないけれど、“可愛い”とは明らかに違うもんなぁ。
新人さんでこの文章表現力、物語の構成力の高さは見事ではないでしょうか。大抵ど
の受賞作品にも期待を寄せている『尖り』はちょっと弱いけれど、その分非常に安定し
た話運びでぐいぐい引っ張ってくれる。敵方であるアージェスへの踏み込みが若干物足
りなかった(もっと吐き気がする程黒い部分を存分に撒き散らして欲しかった)ですが、
その外は充分満足で楽しませてもらえました。評点が甘めなのは今後の成長の期待込み
という事で。これなら続編行けそうだけど、別の新作でも次作を楽しみに待ってます。
2005/09/22(木)BAD×BUDDY2 サウス・ギャング・コネクション
(刊行年月 H17.09)★★★★★★★★☆☆(8/10)
[著者:吉田茄矢/イラスト:深山和香/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】
女難塗れのホンダに今回も合掌。もし次の登場人物紹介で「元エリート」の肩書きが
外されてたら笑えますが、既に左遷されたアトランタの空気に染まりつつあるので、返
り咲きなんて叶わぬ夢は捨てて、この地に骨を埋めたらいいじゃないか。万が一オサラ
バ出来ても、きっと後で「あの頃は……」と哀愁に耽ると思うよホンダって男は。
ホンダの一人称による印象に残り易いキャラクター性とテンポの良い流れは健在、加
えて前回やや薄味と感じたウォルター、ヴィスコ、そして愉快な同僚&上司達も、よく
動き回ってくれていた。とりわけウォルター君、何だかんだでホンダの事を本気で心配
しているのがハッキリ見えたせいか、何故か妙に“可愛い”と思ってしまった(多分2
61頁の挿絵が引き金)。こうして見ると、ホンダに降り掛かる災難の数々って極端に
運が悪いとかでなくて、もしかして単なる自業自得? 明らかに突っ込まなくていい場
面でことごとく首突っ込んでるもんなぁ。逆にウォルターの気持ちに気付いてあげて応
えてあげろよこの鈍感男が! と蹴り入れたくなったり。ホンダの介入で撒き散らされ
ている騒動で苦労しているのは、案外本人より周囲の人達の方なのかも知れない。
惜しいのはヒルゼの絡みが中途半端で弱いと感じた事くらい。シルビアのホンダに向
けた意味深な言葉が尾を引く結末は次に何をもたらすか……単に遊ばれているだけな気
もしないでもないけど、どう転んでも災難に見舞われるのだけは決定事項でしょう。
既刊感想:1
2005/09/21(水)ハーフダラーを探して3
(刊行年月 H17.09)★★★★★★☆☆☆☆(6/10)
[著者:水城正太郎/イラスト:ユキヲ/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】
うん、まあ、打ち切り以外のなにものでもない内容でした。作中の何処で「読めなか
った!」(あとがき参照)と読み手側を唸らせたかったのか、憶測ですが見当は付いて
ます。ただ、本当はもっと別の結末を想定していたんじゃないかなぁ? と、この結末
に触れた限りではそう思わずにいられない。特に多希の扱いに関しては、ポカーンとす
る以外にリアクションの取り様がなかった。これは余りにあんまりじゃないか……。
煉四郎と多希を結ぶ因縁の根は複雑で深く、故に紐解くのは容易なものではなく、そ
の事実は前の2冊で分かり過ぎる程に分かっていた筈。なのに「え、これで完結? こ
の薄さで?」……まだまだ続くと信じてたらそりゃ嫌な予感も高まるってもんです。
煉四郎と多希の間に潜んでいた真実は一応全て解き明かされている為、案外すんなり
納得して受け入れる事は出来ます。でも、じっくり時間を掛けて描いて欲しかった部分
を、こんなに駆け足の流れ作業でやられてしまったんじゃ凄く悔しいですよ。お互いの
復讐で繋がるストーリー展開が面白いと感じ続けて来ただけに余計悔しさが募る。
惨殺された煉四郎の一家と多希の恋人、どちらも相手が殺人犯と信じ憎しみをぶつけ
ていたけれど、微妙に食い違う両者の齟齬を埋める真実こそが今後を盛り上げてゆく要
となりそうだったのだけど。二人の共通の敵であった光輝や、詐欺師を追い詰める凄腕
の刑事コンビも急ぎ過ぎなせいでイマイチ映えず。残念な気持ちが残るばかりだった。
既刊感想:1、2
[
戻る]