NOVEL REVIEW
<2006年10月[後半]>
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10/31 『黄昏の刻5 黄金の旅路』 著者:吉村夜/富士見ファンタジア文庫
10/31 『マテリアルゴースト3』 著者:葵せきな/富士見ファンタジア文庫
10/22 『戒書封殺記 その本、禁忌の扉に通ず』 著者:十月ユウ/富士見ファンタジア文庫
10/22 『<骨牌使い>の鏡III』 著者:五代ゆう/富士見ファンタジア文庫
10/20 『クジラのソラ01』 著者:瀬尾つかさ/富士見ファンタジア文庫
10/19 『ROOM NO.1301 #8 妹さんはオプティミスティック!』 著者:新井輝/富士見ミステリー文庫
10/18 『セカイのスキマ2』 著者:田代裕彦/富士見ミステリー文庫
10/18 『星屑エンプレス2 きりきりなぼくの日常』 著者:小林めぐみ/富士見ミステリー文庫
10/17 『SHI−NO ―シノ― 天使と悪魔』 著者:上月雨音/富士見ミステリー文庫


2006/10/31(火)黄昏の刻5 黄金の旅路

(刊行年月 H18.09)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:吉村夜/イラスト:すみ兵/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  シリーズ完結。ん、これだけの大多数があっさり殺される状況が延々と続けば、大量 虐殺の凄惨さもすっかり麻痺してしまうというのか、ともかく赤目との決着が付くまで は常にそんな状況。名も無き人達が殺されて殺されて殺されまくって、更に自ら犠牲と なって殺される為の選択を強いられる事になる。これだけの“死”が充満していると、 もう一々立ち止まりながら悲惨だと思いたい気持ちが全然追い付かない。赤目を討つべ く能力の高い主要キャラも次々散ってゆくのだけど、死に際の見せ場はあってもどこか “軽く”感じてしまう。ただ、あえてそんな風に描いているように見えたので、物足り なかったとかではなくて。死に対する感覚が麻痺してしまった、と言えるのかも。  最終巻で銀嶺のこういった扱いは予想外だったかなぁ? まあ前巻で明らかな死亡を 宣告されてからずっと復活を疑ってなかったもんで(だって主人公だし)。結局最後は 夕姫が魔名の力を継ぐ事となり、結末は自分で考えていたのとは結構違ってた。この結 末、感情的には納得と不満が半々といった所。これもまた幸せな結末のひとつなので、 読後感は心地良かったのだけど、一方でこれとは違う別の未来――皆が命を賭して逃が した潜水艦内に残された一千八百人の生存者達の未来というものも、何処かで見てみた かった気がする。待ち受ける未来がたとえ幸せなものではなかったとしても……。  既刊感想: 2006/10/31(火)マテリアルゴースト3
(刊行年月 H18.09)★★★★★★★★★☆(9/10) [著者:葵せきな/イラスト:てぃんくる/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  上昇気流が一気に来た! いやー、今回のストーリー辿った後にまずやっておかなき ゃならない事は、これまでの“死にたい体質”に散々文句付けてた蛍に対して心の底か ら「済まなかった」と頭を下げる事だと思ったよ(特に自分の感想を振り返ってみると ……)。こんな真相を今まで伏せてたなんてずるいや、と思わず零れたのも良い意味の 方向に出たもので。本当にね、この蛍の死にたがりの体質について明かされた事実につ いては「うまいなぁ〜してやられたなぁ〜」って感じの嬉しい気持ちが大きかった。  実は蛍の死にたがりって単に過去のトラウマか何かだと思ってたから、「どうせ口先 だけで自殺なんか出来るわけないって」とか割と軽い気持ちで考えてたのだけど、彼が 抱えていた真実の悲壮さと深刻さは予想してたよりもっとずーっと遥か上を行ってた。  しかし、これはきっついな。今回は傘の事も全然気付けずショックでかかったのに、 追い討ちをかけるが如く奈落の底へ真っ逆さま(まあ元々深螺がそうなるように仕組ん でた部分はあったのだけど)。希望なんか全く無い今、求めて掴める未来を願う。  既刊感想: 2006/10/22(日)戒書封殺記 その本、禁忌の扉に通ず
(刊行年月 H18.09)★★★★★★★☆☆☆(7/10) [著者:十月ユウ/イラスト:藤丘ようこ/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  シリーズ第3巻。謎の存在として引っ張ってきた『彼』の正体判明、って事で物語は ターニングポイントを迎えた……のか? 『彼』に関しては前からちょろちょろ読破に ちょっかい掛けに出張ってたので、別に正体知れたからって劇的なものではなく。むし ろ「読破への接し方がそんな雰囲気だったな」と、想像通りな部分が多かったかも。  語尾にクエスチョンマーク付きなのは、結局『彼』の目的がよく把握出来なくて、ハ ッキリ転換点と言い切れない感触だったから。著者の方は1巻目から正体言いたくてう ずうずされてたそうなので、ようやく溜まった鬱憤が晴らせたらしいのだけど、こっち はまだ少し残ってるぞと。こうして『彼』の行動眺めてると、「読破をからかって困ら せて、その様子を見て楽しみたいだけなんじゃないの?」なんて思わなくもない。  やっぱり恋愛面は望む方向に進みそうもないので(読破は糞鈍感、綴は先輩としか見 てない、睦美は異界司書から遠い……など)、綴の異界司書としての成長物語要素を期 待してみるかなぁ。今の所何でか不明だけど『彼』の紡ぐ物語の中でイレギュラーな存 在っぽいし、読破が『彼』と相対する上で切り札的扱いになるかも知れないから、そう いう意味でも綴の成長を描いて欲しいな(でもあとがきに打ち切りっぽい発言が……)。  既刊感想:その本、持ち出しを禁ず       その本、触れることなかれ 2006/10/22(日)<骨牌使い>の鏡III
(刊行年月 H18.09)★★★★★★★★★☆(9/10) [著者:五代ゆう/イラスト:宮城/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  シリーズ作品には“次巻を想像しながら待つ楽しみ”なんてものがあって。しかしな がら何時まで経っても音沙汰無いと、期待に胸膨らませていた分だけガックリ来てしま うものだけれど、最初から刊行月が決定済みだと思いのほか安心して待っていられるも のだなぁと。もっともこの作品の場合は元々が一冊の単行本で、それを分冊した形だと いうのを考慮して改めて内容を思い返してみると、やっぱりこの物語は途切れ途切れで なく、最初から最後まで通して一気に読み切るのが最良の読み方なんだと思う。  まあ半年も経つと細かな所で記憶から零れ落ちてしまったものなどがあったりで(本 来は再読すべきなんだけどね)、最初の頃にあった事をどうにか手繰り寄せながら辿り 着いた最終巻の結末。これ、本当にロクにプロットも立てず書き切ったの? とか疑わ しくなる程奥深く練り込まれたストーリー。ロナーが王として立った時の高揚感と周囲 の歓喜。アトリが追い続けた『骨牌』と『十三』の関係の真実。二人にとってのこの場 面が最も印象に残るもので。そして全てを終えて心に響いたのは『物語には常に最善の 結末を』という言葉。最後の最後まで物語にどっぷり浸かる事が出来て満足感で一杯。  既刊感想:II 2006/10/20(金)クジラのソラ01
(刊行年月 H18.09)★★★★★★★☆☆☆(7/10) [著者:瀬尾つかさ/イラスト:菊池政治/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  ゲームで誰に知られる事もなく命を落としてしまうかも知れないという……改めて考 えてみると恐ろしき世界。仮想現実とは言え、ここまで「極めて現実的なものなんだよ」 と言われてしまうと、たかがゲームと軽くも見れない。もっとも、ゲームプレイ中の雫 達のノリは体育会系のそれに近い感じで、命を賭けるだとかの重さはあまり意識する事 もなかったけれど。命を落とす危険があってもあくまでスポ根風味のゲームという部分 は変わらない。ゲームシーンよりも、個々の感情をこれよりもっともっと濃密に描いて 欲しかったのが本音。でもまあSF食わず嫌いにとってはこれで丁度良いくらい。  主人公は雫と思っていて間違いない? と、中盤まで半信半疑だったのは、タイトル の『クジラのソラ』がなかなか雫に絡んで来なかったから。ただ、アウターシンガーと いう要素が出て雫に覚醒の可能性があると分かってからは、逆に「あっさり覚醒したら 面白くない」なんて思うようになったり(結果的にはそれに近い展開だったのだけど)。 今回は片鱗だけ見せといて、完全覚醒はもう少し後まで引っ張ってくれても良かったか なぁとか。とは言え、覚醒した後の次なるステップ(ゲーム)が楽しみではある。 2006/10/19(木)ROOM NO.1301 #8 妹さんはオプティミスティック!
(刊行年月 H18.10)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:新井輝/イラスト:さっち/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】  何が起こっても割と淡々とした空気で進んでいるのは変わらずだけど、それとなく匂 い始める終局の予感。それぞれの未来の一端は毎巻大抵何処かで語られているから、誰 がどうなるか? という手掛かりらしきものは既に色々掴めているのだけど、現在進行 で別離の予感を強く意識させられたのは多分シリーズ通して初めての事だと思う。  今回の場合はまだ全体的にというよりも、シーナ&バケッツや日奈佳奈姉妹関連に寄 ってたけれど、登場人物の多くが『今』から『先』を見据えて変わろうとしている。そ ういう姿から「終わりが近い?」に繋がったりしたのかな。直ぐじゃないけどそろそろ みたいな感触で。健一達が何の疑問も持たずに住み続けている13階に対して、遅かれ 早かれいずれは出て行かなければならない、なんて考えも出始めているようだし。  しかしながら当面の問題はシーナ&バケッツ。どうも未来の日奈は“窪塚日奈の名前 で単独で”デビューしているみたいなのに、何故今シーナ&バケッツデビューの話が盛 り上がっているのか? 凄く気になった点。何処かでシーナ&バケッツは立ち消えてし まう事になるんだろうか。あと、一体日奈が佳奈に『何時』『どのタイミングで』『何 をやって』拒絶されたか、という事。過去の事実として未来の日奈の中にあるものだか ら、起こり得るのは間違いない。これが案外別れの切っ掛けになる……かも知れない。  既刊感想:#1#2#3#4#5#6#7       しょーとすとーりーず・わんつー 2006/10/18(水)セカイのスキマ2
(刊行年月 H18.10)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:田代裕彦/イラスト:綾瀬はづき/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】  虚構でも事実でも、無理矢理にでも納得させなければならないのが哲の役割。だとし たら、綺麗でありスマートであるよりも、強引でありごり押しであった方が説得力もあ って良いんではないかな? 哲の真相語りなんてもうすげー回りくどくて、「さっさと 解き明かせよ」と詰め寄りたくなったりもしたんだけど、遠回しで入っても空いていた 穴を徐々に埋めて行ってくれるから、気が付けば頷きながら納得させられている。  と、今回の謎解きの話。現実的な事件なら“事実を語り”、非現実的な事件なら“事 実を騙る”(P205)とはなかなかの名言じゃないだろか? かなり感じ入ってしま ったのだけど、同時に哲の役割も相当難儀なものだなぁとしみじみ思う。今回の場合、 最初からカシャという怪異が存在しているものと思い込んで読んでいたのだけど、実は 毎回必ずしも怪異の関係している事件が『四つ辻の会』へ持ち込まれる訳じゃない。そ ういうのも踏まえて、依頼者に“語る”か“騙る”か哲自身がしっかり見極めなければ ならない辺りが厄介な所。下手すれば取り返しのつかない事態に陥る可能性もある。  まあ今の所は周囲のフォローがしっかり効いてるから大丈夫そうだけど(悠美先生と かホント頼もしい存在だよ)。今後はりことの関わりがメインとなるのかな? ただ、 この事件の後で『四つ辻の会』に平然と居座っているのを見る限り敵対関係とは微妙に 違うようで。みこを加えての奇妙な関係が縺れてくれるとまた面白くなりそう。  既刊感想: 2006/10/18(水)星屑エンプレス2 きりきりなぼくの日常
(刊行年月 H18.10)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:小林めぐみ/イラスト:ぽぽるちゃ/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】  きりきりって胃が? サイボーグなのに? いや、サイボーグでも胃がきりきり言っ てると錯覚させられる程に凄い出来事だという意味か? まあタイトルの意味が“胃が きりきり”とは限らないけど、確かに常識的な範疇を凄まじく逸脱した事件だった。  そもそも主人公からして一度死んで全身サイボーグとして蘇った奴だし、登場してる 多種多様な種族に容姿も特徴も描写制限無しと来たら、おおよそ何でもありでまかり通 るだろうさ。この物語なら誰かが死んだ後に数秒で生き返ったとしても驚かないぞ。  融合ありの分裂ありの、もう六曜博士が居れば何だって出来る! とは言え地位の高 い者にまで恐れられ忌避されているのを見る限り、厄介者ってイメージが定着しちゃっ てるみたいだけど。半ば取り付かれてる状態の高知に平穏は期待出来そうもないか。  前巻から一年以上経ってるので、正直続きは望めないと思ってた。だから前巻気に入 ってた分だけ嬉しさや楽しみが大きくて。実際期待に違わぬデキに満足。やっぱり種族 の多様さが実に印象的で、その描き分けがしっかり出来ている点は流石の巧さだなぁ。  このオチは高知にとってはしょんぼり気分。でもケイマリリが高知を好きという可能 性は否定された訳じゃないので頑張れよ。あとはナオさまがもっと絡んで欲しいな。  既刊感想: 2006/10/17(火)SHI−NO ―シノ― 天使と悪魔
(刊行年月 H18.09)★★★★★★★☆☆☆(7/10) [著者:上月雨音/イラスト:東条さかな/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】  シリーズ第3巻。面倒臭い。ややこしくて嫌だ。……とは、志乃の感情面ついて。 感覚的に掴めている気がするし、あえて遠回しに複雑に組み立てているのも分かってい るんだけれど、結局「どういう事なん?」と聞き返してしまう受け入れ難さが頭の痛い 所だなぁ。一応「それは単なる読解力不足なんだよ馬鹿タレ!」と自分のせいにしてお く事を忘れないようにして……。この物語が『純愛系』ミステリとまだ認識出来ないの は、その辺の引っ掛かりが原因なのかも知れない。とは言え、志乃の『僕』に対する想 い――奥底に沈んでる本心も徐々に見え始めて来てるとは思うのだけど。  ミステリ読みじゃないから感覚の相違みたいなのがあるのかどうか、LOVEよりミ ステリ重視だと感じてた今回、実はそうでもないらしい。「ミステリ」っていう意味の 汲み取り方が違ったりするのかな? まあ私は読書中にそれ程ミステリ要素を気に留め てる訳でもないから、「これは充分ミステリしてる」と思っておく事にする。  あとちょっと志乃の内面が透けて見えれば、特に『僕』に対する己の感情を無視出来 なくなって来れば、一気に純愛系の階段を駆け上がるに違いない(無視出来なくなるか どうかは分からないけど)。真白の介入が良い(或いは悪い)刺激になればなと。  既刊感想:黒き魂の少女       アリスの子守唄


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